■ 「繋がった!!」と思わず叫ぶ、日本版エピソード3 ■
「繋がった!!」皆がそう叫んだとか・・・。
いきなり何の話を始めたかというと
今期のアニメ「Fate/Zero」のお話。
「Fate/stay night」は過去から償還された7人の勇者を戦わせ
最後に勝ち残った者が「聖杯」を得るというビジュアルノベル形式のゲーム。
私はゲームを全くプレイしないので、
このゲームがいかなる物か想像も付きませんが、
このゲームからアニメ作品が二作品生まれています。
一作目は2006年に放映された「Fate/stay night]。
これは、ゲームのオリジナルに準じたキャラクターによる作品です。
もう1作品は今期放映の「Fate/Zero」。
こちらは、「Fate/stay night」の前回の「聖杯争奪戦争」を描いた作品。
今期放映の「Fate/Zero」の最終回において、
「Fate/stay naight」に、見事に話が繋がっており、
「Fate/stay night」を見ていた人達が、
スターウォーズのエピソード3を見た人達が感じたであろう
「繋がった!!」という感激を味わったとか、味わわなかったとか・・・。
■ 作中の「聖杯戦争のルール」が「ゲームのルール」 ■
今期のアニメで「Fate/Zero」は全くノーマークだったのですが、
知り合いの事務所の女の子が、必見と薦めるので見たら・・・ハマリました。
(仕事先でアニメトークとか、どういう社会人生活かは想像にお任せします)
ゲーム版「Fate/stay naight」を下敷きに、
「魔法少女まどか☆マギカ」の脚本で
素晴らしい世界観を提示した虚淵玄が
オリジナルに書き起こした小説が「Fate/Zero」なのだとか。
冬木市に数十年に一度出現すいる「聖杯」。
「聖杯」はそれを手にした者の願望をかなえると言う。
7人の魔術師(マスター)がサーバントと呼ばれる英霊を召還し、
聖杯を賭けて、死闘を繰り広げます。
聖杯を手にして願望を叶えられるのは、
最後に生き残ったサーバントのマスターだけ。
勝負は主にサーバントの戦いで決し、
サーバントを失ったマスターは戦列を離れ
教会に保護されます。
サーバントでは無く、マスターである魔術師を殺す事も可能で、
勝負では常に、マスター自身も危険に身を曝します。
マスターが死んだ後も、サーバントはしばらく存在し続け、
その間に、別のマスターと再契約する事が許されています。
そして、マスターだけが生き残った場合も、
マスターを失ったサーバントと再契約する場合があります。
ですから、マスターとサーバントを同時に殺す事が、
このゲームで勝利を確実にする最善の策略です。
この作品世界の「聖杯戦争のルール」が、
ゲームそのもののルールであるとも言えます。
■ Fateシリーズの魅力は英雄達 ■
世界には数多くの英雄が語り継がれています。
ギリシャの神々に始まり、ケルトの神や、エジプトの神々。
さらには歴史的な英雄達まで、枚挙に厭いません。
その神々が時代や民族の背景を超えて戦ったら誰が強の?
こんな想像は楽しいものです。
Fateで召還される神々は、伝説の英雄達です。
その英雄達が、割り当てられたクラスの属性を発揮して
様々な戦いを繰り広げます。
Fate/Zero
セイバー(剣)・・・アーサー王(ブリテン王。これがなんとまあ、うら若き乙女)
アーチャー(弓)・・ギルがメッシュ(バビロニア王)
ライダー(騎馬)・・イスカンダル(アレキサンダー大王)(マケドニア王)
ランサー(槍)・・・ディルムッド・オディナ(フィオナ騎士団の随一の戦士)
アサシン(暗殺)・・ハサン・サッバーハ(暗殺教団の指導者)
バーサーアカー(狂気)・・・?(意外な人物です)
キャスター(魔術)・・ジル・ド・レェ(英仏百年戦争のフランス軍の元帥)
有名な英雄と、誰それ?みたいな英雄が混じっているのも
うそ臭さを消すには、程よいバランスかと思います。
セイバー、アーチャー、ライダーの能力は突出していますが、
をれは、サーバントの格に最初から優劣があるから。
チェスの駒だと思えば良いでしょう。
■ 意外とクロイ英雄達と、さらに腹黒いマスター達 ■
さて、これらの英雄達がガチバトルするのだから、
面白く無いハズが無い.
ところが何と、彼らはガチバトルを避け、
何とか相手を出し抜こうとして裏で手を組んだり、
強敵に対しては共闘したりと、
結構、英雄の皆さん、クロイです。
英雄の皆さんが卑怯なのでは無く、
彼らを使役するサーバントの魔術師の皆さんが「真っ黒」なのです。
彼らの聖杯を目指す目的は様々です。
魔術の根源に至る道を究めんとする者。
ただ好きな女性の子供を助けたいと願う者。
優れた魔術師であるという存在証明として聖杯を欲する者。
殺戮に取り付かれた者。
魔術学校の教授に認められたいが一心に聖杯を求める者。
自身の狂気の根源を見極めんが為に聖杯を求める者。
「世界を我が物に」などという分かり易い目的で、
聖杯戦争に参加する者は無く、
彼らの望みが叶ったとしても世界の受ける影響は軽微に見えます。
■ 最も純粋な目的を持つ者が、最も非情な殺人者 ■
ところが、セイバーのマスター、
衛宮 切嗣(えみや きりつぐ)の願いだけが異質です。
彼の願いは「世界から、あらゆる戦いや殺し合いを消し去る事」。
中年の域に差し掛かろうかという男の願いは、
どこまでも純粋です。
魔術師の子と生まれ、
父の魔術の漏洩で大切な者を奪われた少年は、
魔術の師匠の女性に育てられます。
彼女の仕事は、誤った道に足を踏み入れた魔術師の暗殺。
切嗣の父も彼女に暗殺されるはずだった・・・。
彼女と共に、汚れ役とも言える「暗殺」を繰り返すうちに
切嗣は誰よりも、平和を求める様になります。
一方で、その為の手段としての「殺し」に彼は非情です。
しかし、「殺しても殺しても」悪は生まれ、
多くの人達が犠牲になります。
そこで彼は聖杯を手にして、「世界の平和」を実現しようとするのです。
彼は最も非情な殺戮者として、聖杯を得る為の手段を選びません。
彼は常に汚い手口でマスターを狙い、
その被害は社会的にも甚大です。
■ 切嗣の葛藤を主軸に描くFate/Zeroは大人のアニメ ■
Fate/Zeroは大人のアニメです。
というよりも、虚淵玄の原作自体が、
大人の鑑賞に堪える小説なのでしょう。
興味深いのは「空の境界」の作者として名高い「奈須きのこ」が
Fateのゲーム版のシナリオを書いている事。
新奇伝小説の旗手とも言える「奈須きのこ」の作品世界を
これまた時代の名手とも言える「虚淵玄」が補完しているのだから、
これが子供騙しの作品である訳がありません。
実際に「Fate/Zero]は聖杯戦争を通じて、
マスター達の本人すら気付く事の無い心の闇を
次々に暴いていきます。
そして、平和の為に殺しを選択する切嗣を主人公に据える事で、
人間が作りうる平和が、暴力の上にしか成り立たない事を明らかにしてゆきます。
聖杯戦争に最後に生き残る相手は、
切嗣と対極の魂の持ち主です。
言峰 綺礼(ことみね きえい)は聖職にありながら、
自身の中に暴力と破壊を求める心がある事に葛藤します。
本人すら理解しないその葛藤を、
古代バビロニアの英雄王ギルメッシュは見逃しません。
彼は人が愉悦を求める事は罪では無いと説きます。
そして、綺礼は徐々に彼の心の暗黒に取り込まれて行きます。
純粋に平和を求める切嗣と
純粋な悪による救済を欲する綺礼の対決の末に、
聖杯がもたらした結末とは・・・。
ここからは見てのお楽しみですが、
視聴者の予想を裏切る結末が、
あまりに見事に、前作である「Fate/satay night」に繋がる為、
視聴者は作品の内容云々では無く
「繋がった!!」という快感に胸を熱くします。
■ Fate/Zeroの主人公はライダーと魔術学校の生徒ウェーヴァー ■
正義の為には容赦の無い暴力を振るう切嗣に
ヒロインであるはずのセーバーは戸惑います。
セイバーは戦いの中で絶えず自分を責めます。
ブリテン王として祖国を救えなかった自分のふがいなさを悔い、
聖杯にブリテンの再興を望みます。
そんなウジウジと悩む王を
破格の王であるギルがメッシュとイスカンダルはいさめます。
「王たる者、大望を抱き、その大望に家臣は従うのだ」
「王は国家の奴隷では無い」と。
ところが、セイバーは最後まで答えを得られぬまま、
この戦いに幕を下ろします。
最後までウジウジするセーバーは、
ヒロインでありながら、ヒロインとしての魅力が決定的に欠けています。
では、この作品で真のヒロインは誰かと言えば、
魔術学校の生徒である、最弱のマスターであるウエィバー(男子)です。
ウェイバーは学校の師に自説をバカにされ、
師を見返す為に聖杯戦争に割り込みます。
師の下に届いた「聖遺物」を盗んでしまうのです。
彼が「聖遺物」を寄り代に召還した英雄はイスカンダル。
マケドニアの王として名高い、アレキサンダー大王でした。
ところが「呼ばれて出てきた」大王は、
先ず、現代の地図を見たいと言う。
そして、彼がかつて制覇した地域のあまりの小ささを知り、
彼は世界を欲するという大望を抱きます。
最先端の兵器をTVで見ては、あれを手に入れなければならぬと言い、
オバマを見ては、いずれは余の最大のライバルとなろうと嘯く。
そして通販で「世界制覇」と書かれたTシャツを手に入れ、
世界制覇を競うゲームに嬉々として興じる。
おいおい、これの何処が偉大な大王だよという振る舞いですが、
彼は大きい。
ちっぽけな学生、ウェーバーとの対比によって、
彼の人物の大きさは際立ちます。
そして、ウェーバーは自分が使役するサーバントによって、
人間としての成長を遂げて行きます。
彼らの関係において主従は逆転しています。
ウェーバーはいつしか、イスカンダルの虜になり、
彼の背中を追う家臣に一人となって行きます。
そして、そのイスカンダルにも引けを取らないのいが
バビロニアの王、ギルガメッシュです。
当時の世界の、唯一の王国の王を自称する彼にとって、
全ての世界の富は自分のもの。
全ての女は自分のもの。
まさに「究極のオレ様」なのですが、
彼もイスカンダル以上に人間が大きい。
ギルがメッシュに至っては、既に神の境地で、
正義も悪も彼の前においては意味すら為しません。
正義も悪も、彼を退屈させなければ、それで良いのです。
だから聖杯戦争も彼にとっては余興に過ぎません。
ただイスカンダルもギルがメッシュも望みが無い訳では無い。
それは、再び肉体を得る事。
英霊という虚ろな存在では無く、
確実な肉体を持って現代に顕現する事が
彼らの唯一の望みとも言えます。
一人の人間として、現代と対峙する事が
かつての覇王達の望みなのです。
この純粋でありながら、今を渇望する王達のスケールの前に、
過去に囚われてたセイバーの望みはいかにも小さく見えます。
王達は歴史が覆らない事を知っているのです。
そして、その上で、現代に新たな歴史を刻む事を欲しています。
Fate/Zeroのハイライトは、
ギルがメッシュとイスカンダルの戦いです。
あまりにも強大な力を持つ二人は、
全力を賭けた戦いを楽しみ、そして雌雄を決します。
それを見守るウェーバーが健気です。
救いの無い聖杯戦争にいおて、
ウェーバーの存在が唯一の救いとも言えます。
■ セーバーのヒロインとしての魅力一杯のfate/stau night ■
ダークでシリアスなFate/Zeroに対して、
オリジナルでありながらFate/Zeroの後日譚にあたるFate/stay nightは
学園ラブコメ物です。
この物語の主人公は衛宮 切嗣の息子衛宮 士郎です。
そして、聖杯戦争に巻き込まれた士郎が
セイバーとして召還したのが、
又もやアーサー王だったのです。
今回もアーサーは過去に囚われでウジウジしています。
ところが、思春期まっさかりの士郎は、
セイバーに首っ丈。
その熱意がついにセイバーに通じ、
二人は数ある敵を愛の力で倒し、
ついに聖杯に至ります。
そして二人の下した決断とは?
物語が見事に円環して、
セイバーは前回の聖杯戦争で得られなかった
大切な何かを得ます。
そして士郎は、一つ大人になって、
そして、未来において・・・・おっと、いけない。
■ シリアスな作品が魅力的とは限らない ■
私はFateなるものを全く知らなかったので
Fate/Zeroの最終回を見て、
もしや、これは後日譚を描いた作品が既にに存在しているのではと
ネットを探して、Fate/stay nightを知りました。
ですからFateシリーズの時代設定通りに
聖杯戦争を順番正しく見る結果となりました。
これは幸運と言えます。
もし、Fate/stay night を先に見ていれば、
数話も見ずに、いえ、5分と見ずに
下らないオタクアニメと切り捨てていたに違いないからです。
しかし、今がはっきりと
Fate/Zero よりは Fate/stay nightが優れた作品であると断言できます。
Fate/Zeroは大人のリアルを描こうとして、
キャラクターの魅力を大きく損ねています。
悩める乙女の王という設定は、
シリアスに描くと陳腐感が漂います。
あんた、それは王じゃないよと、
もしこんな王だったら、やはりオレも認めないと思えてしまいます。
ところが、ラブコメのフィールドに召還されたセイバーは
いきなり神々しく光輝きだします。
ブリテン王として健気に振舞うセイバーが、
お箸で和食を食べるというだけで、
そこには、アニメ的な情緒が漂います。
「在りえない事だからこそ面白い」という感情は
アニメを見る時の一つのお約束になっています。
「そんな事ある訳無いじゃん」と言った瞬間に
多くのアニメはこの世から消え去る運命にあります。
ですからアニメや漫画やライトノベルは
ひたすらに「在りえないけど、本当に在ったら素敵じゃん」を探し続けます。
古代のヒーロが召還される事は素敵ですが、
血なまぐさく殺し合うよりは、
日常の中に、英雄達を置いて、
時代ギャップを楽しんでみたい。
これがアニメファンの心情というものでしょう。
だから、居間に正座してお茶をすするセーバーにドッキとしますし、
世界制覇のTシャツに浮かれるイスカンダル王に好感を感じたりします。
Fate/Zero と Fate/stay nightは
同じ題材を、全く異なる方法で表現する事で、
はからずも、アニメの魅力とは何かという本質を露にしています。
どちらも優れた作品ですが、
やはり両方見るからこそ感動できるとも言えます。
お子さんはFate/stay nightから見て、「繋がった!!」の感動を味わうべきですが、
大人はFate/zeroから見て、作品の世界観を確立してから、
その余韻を持ってFate/stay nightをご覧になる事をお勧めします。
両作品あわせて46話になりますので、
くれぐれも嵌りすぎて、寝不足にならないようにお気をつけ下さい。
最後にやはり、嬉しすぎる画像を置いておきます。