■ 異次元緩和の結果どうなっっているのか? ■
日本国債保有比率 2011年末
日本国債保有比率 2014年末
異次元緩和で日銀は年額50兆円にペースで長期国債を中心に買い入れています。この結果2011年末に9.7%だった日銀の日本国債保有割合は、2014年末には25%まで拡大しています。
異次元緩和で国債を日銀に売却していうるのは「銀行」「公的年金」「中小金融機関」などが中心で、「保険」は若干保有割合を増やしています。
■ 長期国債を中心に買い入れて金利変動リスクを軽減する ■
日銀は異次元緩和で残存年数の長い長期国債を中心に買い入れをしています。これは不測の事態で国債金利が上昇し始めた場合、金利上昇の影響でより損失が拡大する残存年数の長い国債を銀行などから買い入れら事で、「長期国債保有リスク」を民間から日銀に移しているのです。
IMFの指導もあり、メガバンクは国債の平均残存年数を3年以下に絞っています。一方、運用能力に乏しい地銀や信金は中長期債への依存度も高く、金融庁はこれらの金融機関の国債依存度を下げる様に指導しています。
生命保険各社や年金は長期運用が目的なので、中長期債の保有割合が高くなります。ただ、生保の場合、満期保有を前提にしているか、運用を目的にしているかで、保有国債の評価が変わってきます。満期保有を目的としていれば「簿価評価」、運用目的であれば「時価評価」となるようです。前者は日本生命など、後者は第一生命などです。
異次元緩和の目的は、国債需給の安定化と同時に、長期国債保有リスクを低減する事で、国債金利が上昇するケースでのパニック売りを防ごうという目的のあるのでしょう。
■ 生保が大丈夫か? ■
日本国債の金利が上昇する過程で、過度に国債に依存した運用をしている地銀や信用金庫などの経営は悪化が予想されます。預金金利が上昇する中で手持ち国債の金利が低いままでは「逆ザヤ」が発生するからです。ゆうちょ銀行も同じリスクを抱えています。
では、生命保険は大丈夫でしょうか?
生命保険各社は満期保有を目的に国債を保有していますが、問題は将来的に支払われる保険料が掛け金に見合うかどうかです。
インフレ率が上昇した場合、現在加入している保険の将来的な支払額は実質的に目減りしてゆきます。20年後、30年後に得られる保険料が、現在の保険料に見合わないと判断したならば、保険の加入者は保険を解約する事になり、新たに加入する保険は利率の高いものとなります。
生保各社が金利の低い長期債を大量に保有していた場合、ここでも金利の逆ザヤが発生します。そこで、生保各社は金利の低い長期国債を売却する動きに出ると思われます。
■ 国債が枯渇する? ■
現状の年間80兆円ペースで日銀が日本国債を買い入れた場合、2020年には国債全体の70%程度を日銀が保有する事になります。10年以下の国債では80%以上が日銀の保有となります。
金融機関は担保として日本国債をある程度保有する必要があるので、この時点で日銀が買い入れる国債は市場から枯渇します。(国債の発行額が現状を維持した場合)
異次元緩和は最初2年程度で2%の物価上昇を達成して出口戦略に移るとされてきました。2013年4月にスタートした異次元緩和の継続期間は当初の予定では2015年4月であったのです。
ただ、直近のインフレ率は0.9%にまで低下しており、とても日銀の目標の2%には到達出来ません。日銀は最近、「2015年を中心とした時期に2%のインフレ目標を達成」すると表現を曖昧にしています。ただ、現状を鑑みるに、2016年中の目的達成も微妙な雰囲気です。
浜田内閣参与は「物価目標にこだわる必要は無い」と発言し、リフレ政策の継続こそが目的というにニアンスの発言に変化しています。アメリカの利上げ前に日銀がテーパリングを開始しては困るからでしょう。
■ 狭まる出口 ■
日銀の異次元緩和が長期化した場合、日銀のバランスシートは日本国債で一杯になります。日銀の保有する国債を時価評価する必要は無いと思われるので、「金利上昇局面で日銀が債務超過に陥る」という見方は少々ナンセンスかと思われます。
ただ、為替市場で円の価値は確実に減少するはずです。日本国債の信用が失われれば、日本国債でお腹一杯の日銀の信用も同時に失われるのは当然と言えます。
この様な事態を避ける為、日銀はどこかで出口戦略に転じ、保有国債を減らす必要があります。ただ、「池の中のクジラ」として日本国債市場で存在感が巨大化し過ぎた日銀が国債売却に転じたとなれば、日本国債市場はパニックに陥ります。
日銀は事実上、市場で国債を売却出来ないので、償還期限を迎えた国債をロールオーバーしない(相当額を市中から買い入れない)事で、次第に国債保有量を減らして行くものと思われます。FRBも同様の方法で国債保有を減らし、正常な市場環境を回復すると思われます。
ただ、この様な出口戦略は次期が遅くなれば成るほど困難になって来ます。FRBがテーパリングを急いだ理由はここにあります。海外の米国債保有が多いアメリカでは米国債の信用は金利に影響を即座に与えます。一方、日本国債は日銀が国債金利を抑え込んでいるので、金利は鈍感です。
これは一見良い事の様に思われますが、金利が正常に機能しない市場は危険です。金利がリスクを反映しないので、リスクが表面化した場合の金利上昇ペースは相当早いはずです。要はパニックに成り易い。
■ 日本国債は今は安全だが、将来的には破綻する ■
経済予測や市場予測を語る時、タイムレンジは重要です。「日本国債は破綻する」と主張すると、「ずいぶん前からそう言われているが、日本国債の金利はこんなにも低いでは無いか」との反論が返って来ます。
これは「東京で大地震が発生する」と言う発言に対して「直下型地震は一向に起きないでは無いか」と反論される事に似ています。
日本国債は日本の人口動態が改善しない以上、必ずいつか破綻します。それはあまり遠く無い未来の出来事かも知れません。ただ、現在の需給環境では5年、10年は継続可能です。
日本国債の破綻を避ける為には、税率を大幅に上げたり、或いは生産性を大幅に向上させて高い経済成長を達成する必要が有りますが、残念ながら両方とも不可能でしょう。
「日銀が引き受ければ問題無い」と主張するネトウヨも大勢居ますが・・・そうなれば政府通貨も実現し、無税国家が達成されます。そんな事は起こりえない事は歴史が証明しています。これはリフレ派の主張に対する反論で「バーナンキの背理法」と呼ばれます。