『アンダーグラウンド』と言えばまず、村上春樹であり、エミール・クストリッツァであろう。中村賢司さんはこのタイトルのもと、3・11を演劇で見せる。始めは幼児虐待の話である。自分は正しい行為だと信じて、子供を傷つける母親。彼女は自分も同じように母親から体罰を与えられて成長した。だが、それは愛情表現だと信じる。果たしてそうなのか。これは明らかに負の連鎖だ。彼女と医者とのやりとりが緊張感のある会話劇として . . . 本文を読む
かなりドキドキする。見知らぬ男から電話があり、昔、借りたお金を返したい、と言われる。だが、彼女には心当たりはない。それどころか、相手のことも記憶にはない。話ぶりから、高校のクラスメートだったようだが、まるで憶えていない。まだ高校を卒業して1年くらいしか経っていないのだ。普通忘れるか?
それにしても、この男は何のために自分に近づいてきたのか。これは新手のナンパなのか、というと、そうでもなさそう . . . 本文を読む
とてもよく出来た芝居だ。周防夏目さんの芝居を見るのは本当に久しぶりだが、彼ってこんなにも上手かったか、と驚かされた。(失礼!)かなりのストーリーテラーだ。
芝居は一応4話からなるオムニバスというスタイルを踏んではいるが、ちゃんとした長編である。各エピソードが実に上手く絡み合っていきラストに至る。細部までよく計算されてある。とはいえ、すこし、徹底し過ぎていて最後の部分は作りすぎという印象を与え . . . 本文を読む
早いテンポで短いシーンを積み重ねていく。サスペンスタッチで、主人公を心理的に追いつめていく。自分には才能がないのではないか、という不安。オリジナルブランドを任されたことへのプレッシャー。彼女は一瞬であらゆるものを見定めて、完全にコピー出来るという能力を持つ。その才能はコピーする能力であってオリジナリティーではない。アレンジならできるけど独創的なアイデアはない。何をやってもどこかで見たものになる。 . . . 本文を読む
50年前の韓国映画の傑作らしい『下女』という映画をを今の時代にリメイクする。しかも、現代風にアレンジし直して、である。そこには、それなりの意図があるはずだが、見終えたが、これではちょっと謎だ。なぜ、この話を今の時代に再生させなければならなかったのか、作者の意図は映画からは伝わらない。もちろん、面白ければ、それだけで、十分で、それならそこからこの映画を褒めることが出来るし、そこから製作意図も見えて . . . 本文を読む
なんだか懐かしい映画だ。昭和の香りがする。昔はこういう「探偵もの」が、けっこうたくさんあった。2本立の添え物タイプである。東映が盛んに作っていた。今ではめっきり影を潜めてしまったジャンル映画だ。今回の作品が2時間以上の上映時間になったのはディテールを重視したため、仕方なくそうなったのだろう。昔なら許されないことだが、今の時代なら反対にそうしなければ成立しない。これは元来、普通なら9〇分に収めさせ . . . 本文を読む
デビュー間もない頃(20年前だ)に書かれたジュニア小説をリニューアルして再出版。今なぜ、この小説を改めて取り上げるのか、読み終えてもよくはわからないのだが、久々に「集英社コバルト文庫」を読めて、楽しかった。山本文緒がこういう小説を書いていたことは知っていたが、読むのは初めてだ。(たぶん)そんなにたいしたものではない。だが、悪くはない。
電車の一往復で軽く読めてしまうのもいい。どうってことない . . . 本文を読む
『SAW』のスティーブン・ワン監督の新作。今回は本格的にホラーに挑んだ。今時ホラー映画なんかちょっと名の売れた監督ならやらない。なのに、彼は果敢にも正統派ホラー映画に挑戦した。その心意気を買って、劇場に行く。
そのへんの中途半端なB級映画とは一線を画すようなあっと驚く仕掛けを施した画期的な映画を期待した。卓越したアイデアとそれをいかに大切にしながらドラマの中に生かすことが可能なのか、そこがホ . . . 本文を読む
このあきれるまでもの嘘臭さと胡散臭さは他の追随を許さない。劇団乾杯、2年振りとなる待望の最新作は期待を一切裏切らない。相変わらずの惚け振りで、そのバカバカしさに笑うしかない。しかも今回も入場料は無料である。タダほど高いものはない、というけど、乾杯の芝居に関しては掛け値なしで、タダより安いものはない、と断言できる。世の中にはうまい話にはきっとなんか落とし穴があると疑いがちだが、乾杯にはそんなものは . . . 本文を読む
10年前の作品の再演である。なんと来年20周年を迎えるオリゴ党の20周年プレ企画。なんか15周年くらいから毎年ずっとこんな企画ばかりを延々と続けている気がする。もしかしたら10周年くらいからやってるような気も。岩橋さんはお祭りが好きなようで、オリゴ党祭りとかいうような企画も何度となく見た、気がする。
それはともかく、彼らはなんと今回初めて本格的に再演に挑む。(短編中編ではチャレンジしているが . . . 本文を読む
トレードマークの赤いツナギと必須アイテム、パイプ椅子。これぞテノヒラサイズ・スタンダード。今回が3度目の上演となるらしい本作は彼らの十八番。僕は初体験だったが、さすがだ、と思う。とてもよく出来ている。
目が覚めたらいきなりよくわからない状況に追い込まれていた7人の男女。縛られていて、猿ぐつわをされ、身動きがとれない。密室に監禁、である。なんでそうなるのか、心当たりはない。なぜ、自分たちがこ . . . 本文を読む
高橋恵さんの新作だ。このところ彼女は「時代もの」を連発している。「今」を描くために敢えて「昔」を描くのだ。女性問題を扱うなんていう単純な括り方は心外だろう。女性とか男性だとか、関係ない。ただ、今、自分が感じることをちゃんと芝居として表現する。そんな一貫した姿勢は崩さない。それが以前はあまりに自分に近すぎて、距離を取れないまま提示するパターンが多く、痛ましい作品ばかりだった。(ここで言う痛ましさと . . . 本文を読む
もうすぐ羽田澄子監督の『遙かなるふるさと 旅順・大連』という映画が公開される。時を同じくしてこの『ツリーハウス』という小説を読んだのはなんかの運命的な出会いかもしれない。だから映画も見ようと思う。それより何よりこの冬には一度「旅順・大連」に行って見たい。前から一度は行きたいと思っていた。きっと死ぬほど寒くて、すぐに帰りたくなるのかもしれないけど。真冬の北京でも大変だったことを思い出す。やっぱり冬 . . . 本文を読む
実話の映画化である。自分のためにではなく、人のために誠心誠意生きる男の話だ。残された命を何のために捧げるかは本人の意志による。彼の選択は周囲からは理解されないことだろう。「バカか!」と言われてもしょうがないようなことだ。だが、どうしても彼は子供たちのために音楽スタジオを作ってあげたかった。彼らの夢を支援したかった。彼らを支えてあげたかったのだ。ガンに蝕まれた弁当屋のオヤジが、自宅に音楽スタジオを . . . 本文を読む
今年の直木賞受賞作品である。あまり期待せずに読み始めた。町工場のオヤジの話なんて興味ないからだ。しかし、しばらく読み始めたところから、この熱いドラマの虜になる。エンタメとしてとてもおもしろいのだ。勧善懲悪のワンパターンなのだが、その気持ちのいいくらいの色分けが心地よい。正義の中小企業社長対悪の大企業という図式の中で、弱いものが金と力を持つ強いものの陰謀に立ち向かい、自分たちの力でうち勝ち正義を貫 . . . 本文を読む