2019年に刊行された作品が文庫化されたので読み始めた。いつも通りの柴崎友香。何も事件はなく、日常のスケッチ。だけど400ページに及ぶ長編。たまたまだが、これがコロナ禍前に上梓されたのは幸運だ。ここには当然コロナの影は一切ない。変わることない、はずの時間の中に彼女たちはいる。それをたまたまコロナ以後(になりつつある今)に読む。
住み心地のいい一軒家の離れで暮らすひとり暮らしの女性が主人公。39歳 . . . 本文を読む
先日読んだ『できたてごはんを君に。』の前作にあたる作品。短編連作だが、お互いのエピソードが微妙なところで繋がっている。同じ町のお店(その町に住む人たち)が舞台(主人公)になるからだ。5つのお話からなる。
『できたてごはんを君に。』と比較するとレベルは低い。それくらいに『できたてごはんを君に。』がよく出来ていたということなのだ。だが、これはこれでなかなかいい。でも、もしこれを先に読んでいたなら『で . . . 本文を読む
『イン・ザ・ベッドルーム』でデビューし、傑作『リトル・チルドレン』をものにしたトッド・フィールド監督の久しぶりの新作。なんと16年ぶりとなるこの第3作は2時間40分に及ぶ長尺映画だ。ケイト・ブランシェットが主人公の天才指揮者を演じる。映画はひたすら彼女を追い続ける。そして、僕らは彼女の一挙手一投足から目が離せない。ケイトがアカデミー賞主演女優賞を獲らなかったのは不思議だ。ここまで凄い生きざまを描く . . . 本文を読む
最初は原題の『Knights of the Zodiac』そのままの『ナイト・オブ・ザ・ゾディアック』というタイトルで宣伝されていたのに、公開直前になり『聖闘士星矢The Beginning』という邦題に変更された。わかりやすいようにという配慮なのだろうが、すごく安っぽくなった気がする。別に大人気だった原作漫画をリスペクトしないというわけではなく、今の時代にこれを映画化する上で必要なことは何かと考 . . . 本文を読む
ほぼひとり暮らしの89歳の老女ソヨミ。その夜の添い寝をするというバイトをする19歳の女の子、茜。このふたりの話。
ソヨミは孫が同居しているようだから、ひとりではないけど、茜は会ったことはない。二世帯住宅で、定年退職して悠々自適の暮らしをする息子夫婦もいる。だが、一切登場しない。彼らは一年中旅行三昧らしい。ということは家族はちゃんといる。何不自由ない、はず。なのに他人に添い寝を求め . . . 本文を読む
3話からなる短編連作スタイルの長編作品。これはとてもよく出来たスリラーなのだ。だけど、それを殊更強調して見せるのではなく、なんでもない日常のスケッチにして見せてくれる。そのさりげなさが凄い。最初のエピソードではまだ、何が描かれるのかは明確にはならない。そこはある高校の職員室。春休み中の日曜日。ふたりの教師が新学期の準備をしているようだ。生徒の話をしている。その中に「シックス」とか、「サード」とかい . . . 本文を読む
劇場に入ってまず、驚く。「なんなんだ、これは!」と。こんな使い方をしたウイングフィールドは初めてだ。この劇場空間全体(通常の舞台部分も客席部分も含む)がこの芝居の舞台となっている雑貨屋になってしまっている。そこにはところ狭しと雑多な商品が並ぶ。だから劇場にではなく、お店に来た気分にさせられる。そんな中にたくさんのお客さんが埋もれている。というか、密かに座ってる。あれは観客だ。最後に入った僕は入り口 . . . 本文を読む
劇団大阪がこの作品を取り上げたのは42年前に遡る。もちろんその時も熊本さんの演出だ。1981年の初演から始めて今回で6度目になるらしい。当時40歳だった熊本さんも82歳。作者の近石さんはすでに90を超えている。彼女が不惑を迎えた頃に書かれた戯曲を、同じく不惑だった熊本さんが演出した作品をまだ20歳を過ぎたばかりだった僕は残念ながら、見ていない。でも、劇団大阪がシニア演劇を始めて4年目に作られた5度 . . . 本文を読む
こんな強烈な話をよく思いついたな、と感心している。悪意の塊のような周囲の人たち。それがクラスメイトだから、これはかなり怖い虐めだ。彼の高校入学時、尿路結石で入院して出遅れたことから始まる悲惨な体験を綴る。だけど、こんなのアリなのか、という壮絶さ。(ツッコミどころ満載だし)ここまでやると完全にバレる。虐めのエスカレートが半端じゃない。学校のトイレに閉じ込められたまま夜を迎えるなんてあり得ない。さらに . . . 本文を読む
高校の文芸部を舞台にして高校生たちが過ごす時間が描かれていく。背景となるのは東京下町、上野・根津・千駄木の町。町歩きも楽しい。自分が今、何をしたいのか。何ができるのか。まだ、何もわからないけど、毎日一生懸命生きている。そんな彼らの日々を丁寧に愛情込めて描く濱野さんは優しい。ただ、濱野作品としては少しパンチに欠ける。
これは見事に何も起こらない小説だ。主人公は高校2年になったばかりの女の子。幼なじ . . . 本文を読む
事故による記憶障害。記憶の一部がなくなったマキ。目覚めた時の医師や看護師たちの対応がなんだかおかしい。マキは今は軽い怪我以外問題がないから、すぐに退院したいと言うが、医師はあと5日留まって欲しいと言う。検査して欠落している記憶を回復させるから、と。さらには留まってくれたならお金を支払うとまで言う。あり得ない話だ。
今回が第二回公演。まだまだ若い集団である。気持ちだけで突っ走っていて、アイデアを充 . . . 本文を読む
大東市のサーティホールで前田和男監督の講演と合わせた上映会があった。憲法記念日関連企画らしい。こんな大きなホールで最新映画を見ることができたのはうれしい。最近の劇場はキャパが少ないし、そのせいでスクリーンも小さい。だからこういう大スクリーンでの上映は貴重なのだ。当たり前の話だが、映画は大場面で見るほうがいい。さて、前座となる前田監督のお話だが、今回の映画を通して出会った役者たちのことであまり「憲法 . . . 本文を読む
素敵な芝居を見てきた。だから、速報で少しだけ書く。これは劇団大阪シニア演劇大学10周年記念作品だ。そしてシニア演劇のひとつの到達点でもある。演出の熊本一さんは80代。キャストはみんな70代以上(たぶん)。10年前のスタート時60歳だった人も70になる。シニアになって芝居を始めた人たちだってキャリアはもう10年になるはず。劇団としてこれまでもさまざまな試みを繰り返してきた。今回の『楽園終着駅』だって . . . 本文を読む
ようやく見ることができた佐々部清監督の遺作である。コロナ直撃で公開が何度も延期されていた。あげくは大阪地区の公開はなかった(はず)。もしかしたらどこかでひっそりと公開してるかもしれないけど、僕は気づかなかった。
これはたいした映画ではない。これはただの通過点である。この先、まだまだキャリアは続くはずだった。だから悔しい。僕と彼はほぼ同世代だ。たまたま見た『陽はまた昇る』は西田敏行主演で『ガイアの . . . 本文を読む
2022年の東京世田谷、三軒茶屋。福島から進学で出てきた女の子。今大学2年。コロナ禍3年目。だからこれは昨年の話だ。春から次の春にかけての日々。1年間のお話。タイトルは『トワイライト』ではなく、『トワイライライト』。彼女が行き付けにする小さなカフェの名だ。
ようやく始まった対面授業。初めての東京での日常。2021年は辛かった。ほぼ知り合いのいない(従兄のお兄ちゃんがいるが)都会暮らし。コロナ禍の . . . 本文を読む