大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・5・転校初日

2019-03-04 07:18:31 | 小説3

メタモルフォーゼ・5・転校初日        


 美優って名前は、あんたが女の子だったら付けようと思っていたんだよ。

 昨日、帰りの電車の中で、お母さんがしみじみと言った。
 半分は同様にしみじみとし、半分はいい加減だと感じた。 
 ウチの女姉妹は、上から留美、美麗、麗美。これに美優ときたらまるで尻取りだ。
「一字ずつで、みんなが繋がってるだろ。いつまでも仲の良い姉妹でいてほしくてさ」
「あのう……」
「うん?」
「なんでもない……」
 あたしは(受売神社にお参りしてから、一人称が『あたし』になった)単に呼びやすいからだろうと思った。でも車内にいる受売高校の男子が、こっちを意識しながらヒソヒソ言っているので、視線を除けて俯いてしまった。

 帰りに、当面の衣料と、ノートを買った。教科書は転校した優香が未使用のまま学校に置いていった奴を、指定されたロッカーに入れてある。体操服はネームが入っているので、業者に発注した。明日は体育が無いので、ノープロブレム。

 家に帰ると、あたしの女性化にいっそうの磨きがかかったので、三人の姉にオモチャにされた。

 四回ヘアースタイルを変えられ、けっきょくは元のポニーテールがいいということになり、ルミネエとミレネエがメイクしようと言って迫ってきたが、高三のレミネエが、取りあえずリップの塗り方だけでいいということで収まった。
「お母さん、ミユのブラ、サイズ合ってないよ」
 どうやら、あたしはレミネエより発育が良さそうだ。
「ね、今度の休みにさ、四姉妹で買い物にいこうよ」
 お母さんが買ってくれたのは、取りあえずだったので、キチンとしたのを買おうということで、話がついた。
 さっそくネットで検索したりでおおさわぎ。
 トドメは、お風呂に入るときのむだ毛処理。いくら姉妹でも屈辱的!

 朝は、自分でブラッシング、キッチンで新品の弁当箱を渡された。食器棚の進二時代の弁当箱が、なんだか抜け殻のように思えた。
 制服は、優香の保科の苗字が、渡辺に変えられていた。

「ええ、ご家庭のご都合で、今日からうちのクラスの仲間になる渡辺美優さんです。みんなよろしくな」
 ウッスンが、紹介してくれて教壇に。みんなの視線を感じる。みんな知った顔なのに発しているオーラがまるで違うので、とまどった。女子の大半は頭の中で点数を付け、男子は、女子のランキングを考えている顔だった。
「渡辺美優です。二学期の途中からですけど、よろしくお願いします」
 短い挨拶だったけど、反響は凄かった。この学校に入って、こんなに拍手してもらったことは初めてだ。
 席は、昨日までの進二のそれ。窓側の前から三番目に移された。

 進二の転校がウッスンから簡単に説明されたが、これには誰も反応しない。ちょっと寂しいってか、進二が可愛そうになった……で、進二を客体化している自分にも驚いた。

 進二は、成績は中の上ってとこで、授業はノートをきっちりとる程度。で、試験前にちょこっとやってホドホドの成績。ノートを書いて驚いた。字が完全に女の筆跡で、たいていの女子がそうであるように、字がきれい。教科書の図版を見ていろいろ想像している自分にも驚いた。
 例えば、日本史で元寇を見ていると、鎌倉武士の鎧甲の美しさに目を奪われ、資料集の鎧の威し方の違いをメモったりする。紫裾濃(むらさきすそご)なんてオシャレだなあと思う。ワンピでこの配色なら、相当日本的な女子力が無いと着こなせないと感じる。
 現代国語の宮沢賢治では挿絵の『畑にいます』という賢治のメモを見て、淡々と春の東北の景色を感じてしまう。あたしって空想家なんだなあと感心したりする。

 授業に来る先生のほとんどが、呼名点呼で、あたしの姿に驚くのはサゲサゲだった。職員朝礼で、あたしの「転校」の話は出ているはずなのに、みんなろくに聞いていないんだ。
 トイレは気を付けていたので男子トイレに行くような失敗は無かった。しかし、休み時間の女子トイレが、こんなに騒がしいとは思わなかった。
 でも、クラスで一番美人の仲間美紀にトイレで声を掛けられたのには驚いた。今まで、口をきいたことがない。噂では中学のときAKBの試験を受け「美人過ぎる」ことで落ちたらしい。

「お昼、いっしょに食べよう」

 ということで、昼は仲間美紀を筆頭に町井由美、勝呂帆真の美人三人組といっしょにお弁当を開いた。これで、あたしの女子の序列がハイソになったことを周りの視線と共に意識した。

――二年A組、渡辺美優さん、保健室まで来て下さい――

「失礼します」
 保健室に入ると、三島先生がにこやかに出迎えてくれた。
「保健の記録書書かなきゃならないから、ちょっと計らせて」
 で、上着を脱いだだけで、身長、座高、体重、視力、聴力の測定をした。
「これ、既往症とか、子どものころの疾患、アレルギーとかあったら家で書いてきて。うん、それだけ……あ、困ったことがあったらいつでも来てね」
 三島先生がウィンクした。三島先生は分かってくれている。先生の味方ができたのは嬉しかった。

 放課後は、自然に部室に足が向いた。で、部室は閉まっていた。
「あたしって、何してんだろう……」
 そう思いながら、職員室の秋元康先生のところに足が向いた。
「秋元先生、二年A組の渡辺です。演劇部に入りたいんです」
 自分ではない自分が喋った。
「演劇部、昨日で解散したよ」
「え……?」
 と、言ったわりには驚いていない。
「浅間って男子が転校。君と入れ違いの男子、目立たないやつだったけど、クラブの要だったんだな。みんな……一年の杉村って男子は残ってるけど、辞めちまった。一人じゃなあ……」
「あたしが入ったら二人になります。やりたい本があるんです」
 え、なに言ってんだろ!?
「『ダウンロード』って一人芝居があります。これならやれます、もう台詞も入ってますし」

 あたしは、こうして急遽演劇部に入ることになった。

 で、気がついた。『ダウンロード』は優香がやりたがっていた芝居だった……。


 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・27『プリンセス ミナコ・9』

2019-03-04 07:07:22 | 時かける少女

時かける少女・27 
『プリンセス ミナコ・9』 
        



 空港が見えてきて、ぶったまげた。滑走路が三本もあって、どう見ても関空よりも大きい!

 ミナコ公国は、リヒテンシュタインよりは大きいが、ベルギーよりは小さいと聞いていた。ミナコでも分かるジャンボジェットの他に、それよりでっかい飛行機が一杯いて、離発着する様は、壮観だった。

「さあ、ここからは営業用の立ち居振る舞いでね。真奈美ちゃん、いい?」
「はい、承知しました!」
 真奈美は、ローファーの踵を鳴らして敬礼した。
「それは、ナチスの敬礼。間違っても人前ではやらないでね……奈美子さん、よろしく」
「はい、陛下」
「イテ!」
 真奈美は、お母さんに、頭をポコンとされて、思わず地が出た。
「じゃ、いくわよ」

 ミナコはびっくりした。タラップに出たとたんフラッシュの稲光。同時に軍楽隊の演奏。お祖母ちゃんの手を取るようにして、タラップを降りる。レッドカーペットが彼方のリムジンまで続いていて、飛行機の中で覚えた人たちが、ずらりと並んでいる。で、テンパッテしまった。男女と、多少の老若が分かるだけで、誰がだれか、ぜんぜん分からなくなった。欧米人の顔は、やっぱり同じに見えてしまう……ミナコ自身も似たような顔をしているのだが、子どものころから見た顔は、日本人ばかりである。

「大丈夫、わたしがプロンプターをやります」
 ダニエルが、ささやいてくれた。
「ボンジュール、プライムミニスター・アクリル・ド・エポキシ」から始まった。
 一言二言返ってきたが、たいがいサンキューで間に合った。
「こんにちは、レディー・ミナコ」
 と、最後の女の子が日本語でかましてきた。
「こ。こんにちは」
 口が勝手に慣れ親しんだ言葉を発した。
「大阪でいらっしゃいますのね?」
「あ、あなたは?」
「ローテ・ド・クレルモンと申します。いずれ、また……」
 
 ほんの二言だったが、気圧されてしまった。だれだろう、あのすみれ色のワンピースは?

「ミナコが、王女にならなかったら、この国の王位第一継承者になるフランスのお嬢ちゃんよ」

 お祖母ちゃんの女王が、リムジンの中で不敵な笑みを浮かべながら言った……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・57『ヒッツキ虫』

2019-03-04 07:01:25 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

57『ヒッツキ虫』


 桃は変な幽霊だ。

 幽霊のくせに実体がある。吐息も感じるし、傍に居れば温もりも感じる。触れば温もりとともに柔らかな実体がある。
 いつも、夜のベッドの中に現れる。そして「抱っこ」と言っては抱き付いてくる。ときには「だっちょ」と、まだ保育所に行っていたころの甘えた言い方でしがみついてくることもある。

 桃は中三の春に死んだ。15歳だから、もう立派に女だ。それがベッチョリしがみついてくるんだから、情けないことに、オレの男が反応してしまう。

「いいよ、お兄ちゃんとだったら、そういうことしてもいいんだよ」
「あのなあ……」
「桃は幽霊だから、妊娠とかしないしさ」
「そう言う問題じゃないだろ!」
「つまらん兄貴だ」
 じつにけしからん幽霊だ。

 その桃が、夕べは来なかった。安心したような、少し寂しいような一晩だった。

 昼前にキッチンの気配で目が覚めた――お袋帰っていたんだ――夕べ遅くにお袋が帰ってきていたことを思い出した。
 パジャマのままキッチンへ。
「夕方には、また出るから」
 あいさつ代わりのお袋の言葉に感慨はない。
 オレの泊りがけのバイトはあっけなく中断してしまったが、お袋のそれは続いているようだ。
 冷凍庫からカチンコチンのナポリタンを出してレンジに安置する。チンと鳴るまでお袋との会話は無い。お互い含むところがあるわけじゃないけど、これが自然な感じ。自然がいいとも思わないいんだけども……。

 朝飯を食って外に出る。

 とくに当ては無い。日差しと気温が外出モードだったからだ。
 公園に行ってみた。人が少ないようなら、とりあえず日向ぼっこでもしてみようと思いついたから。
 ベンチに座ると弾けるように記憶がよみがえる。
――このベンチだったんだ――
 幼稚園のころ、桜子と、このベンチで居眠ってしまった。おしゃまな桜子は膝枕をさせてくれた。あのときの柔らかな膝枕の感触と日向臭い桜子の匂いを思い出す。
 あの頃は、赤ん坊の桃に手がかかったので構ってもらえなくて寂しく一人遊びをしていた。むろん、親父やお袋に文句を言ったりはしない。桃が生まれたことで家の中がしっくりいっていることを子ども心にも感じていたんだ。
 桜子との思い出を持て余してしまうので、公園を後にした。

「なんで、ここに出てきてしまうんだ」

 思わず口に出てしまった。
 ここに出ないために、わざわざ遠回りをした。それがどうしたことか、避けていたところに出てきてしまった。
 目の前に桜子の家がある……正しくは昨日まで桜子が住んでいた家が。
 表札が外されている以外、何も変わってはいないが、人が住んでいないということで家というのはこんなにも生命感がない。
 でも、家がネガになった分だけ思い出がポジになる。角を曲がっただけで聞こえてきた桜子と幼い弟妹の明るい喧騒。ガバっとドアを開けて出てきた初めての制服姿。あのときの桜子はとても大人びて見えた。

 たまらなくなって駅前の商店街に足を向ける。

 ラーメン屋でハンチャンラーメンを食べる。カウンターの端で一個下の国富高のアベックが仲良くラーメンをすすっている。
 去年の文化祭で遅くなって、この店で食べたのを思い出す。むろん横には桜子が居た。
 なんでこうも未練なんだと閉口したが、狭い街だ、十年以上も幼馴染をやっていれば、街のどこにでも思い出があるんだ。

 家に帰ると、もうお袋はいなかった。

 夕方までは居るんじゃないのかよ――瞬間苦いものが湧いてきた。
 冷蔵庫のコーラを一気飲み、直後盛大なゲップが出る。苦いものはゲップといっしょに飛んでいってしまった。
 ベッドに身を投げ出すと、メキっと嫌な音がする。デブはこういう音には敏感だ。あまり身の回りのものを壊したくない。

 寝返りを打つと、そこに居た。

「なんで真昼間に出てくるんだよ!?」
「夕べは遠慮したんだよ」
 そう言うと、桃はオレの背中でヒッツキ虫になった……。


 

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