大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・11・道具がみんな壊されていた……!

2019-03-10 06:48:40 | 小説3

メタモルフォーゼ・11・道具がみんな壊されていた……!


 ショックだった、道具がみんな壊されていた……!

 コンクール本番の早朝、道具を搬出しようとしてクラブハウスの前に来てみると、ゆうべキチンとブルーシートを被せておいた道具は、メチャクチャに壊されていた。秋元先生も、杉村も呆然だった。
「警察に届けた方がいいですよ」
 運送屋の運ちゃんが親切に言ってくれた。
「ちょっと、待ってください……」
 秋元先生は、植え込みの中から何かを取りだした。

 ビデオカメラだ。

「昨日『凶』引いちゃったから、用心に仕掛けといたんだ」
 先生は、みんなの真ん中で再生した。暗視カメラになっていて、薄暗い常夜灯の明かりだけでも、明るく写っていた。
 塀を乗り越えて、三人の若い男が入ってきて、道具といっしょに置いていたガチ袋の中から、ナグリ(トンカチ)やバールを出して、道具を壊しているのが鮮明に写っていた。

「先生、こいつ、ミユのこと隠し撮りしていたB組の中本ですよ!」
 手伝いに来ていたミキが指摘した。
「そうだ、間違いないですよ!」
 みんなも同意見だった。
「いや、帽子が陰になって、鼻から上が分からん。軽率に断定はできない」
「そんな、先生……」
「断定できないから、警察に届けられるんだ」

 あ、と、あたしたちは思った。ウチの生徒と分かっていれば、軽々とは動けない。初めて先生をソンケイした。

 先生は、校長に連絡を入れると警察に電話した。
「でも、先生、道具は……」
「どうしようもないな……」

 みんなが肩を落とした。

「ボクに、いい考えがあります」
「検証が終わるまで、この道具には手がつけられないぞ」
「違います。これは、もう直せないぐらいに壊されています。他のモノを使います」
 杉村が目を付けたのは、掃除用具入れのロッカーと、部室に昔からあるちゃぶ台だった。
「ミユ先輩。これでいきましょう」

 現場の学校には先生が残った。警察の対応をやるためだ。

 あたし達が必要なモノをトラックに積み、出発の準備が終わった頃、警察と新聞社がいっしょに来た。あたしはトラックに乗るつもりだったけど、状況説明のために残された。
「うちは、昼の一番だ。現場検証が終わったら、タクシーで行け」
 先生は、そう言ってくれたが、お巡りさんも気を遣ってくれ、ザッと説明したあとは、連絡先のメアドを聞いておしまいにしてくれた。

 会場校に着いて荷下ろしをすると、杉村はガチ袋から、金属ばさみを出してロッカーを加工した。裏側に出入り出来る穴を開け、正面の通風口を広げてミッションの書類が出てくるように工夫してくれた(どんな風に使うかは、You tubehttps://youtu.be/jkAoSz6Ckks で見てね)

 リハでは、壊された道具を使っていたので勝手が違う。道具をつかうところだけ、二度確認した。

 あたしは舞台上で五回も着替えがあるので、楽屋に入って、杉村と衣装の受け渡し、着替えのダンドリをシミュレーションした……よし、大丈夫!

 本番は、どうなるかと思ったけど、直前に秋元先生も間に合ってホッとした。なんといっても照明と効果のオペは、先生がやるのだ。イザとなったら、照明はツケッパで、効果音は自分の口でやろうと思っていた。

 幕開き前に、あたしの中に何かが降りてきた。優香なのか受売の神さまなのか、ノラという役の魂なのか、分からなかったが、確実に、あたしの中に、それは降りてきていた。

 気がつけば、満場の拍手の中に幕が下りてきた。

 演劇部に入って、いや、人生の中で一番不思議で充実した五十五分だった。『ダウンロ-ド』は一人芝居だけど、見えない相手役が何人もいる。舞台にいる間、その相手役は、あたしにはおぼろに見えていた。そして観てくださっているお客さんとも呼吸が合った。両方とも初めての体験だった。

――ああ、あたしは、このためにメタモルフォーゼしたのか――

 そう感じたが、あたしのメタモルフォーゼの意味は、さらに深いところにあった……。

 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・33『プリンセス ミナコ・15』

2019-03-10 06:36:39 | 時かける少女

時かける少女・33 
『プリンセス ミナコ・15』 


 


 

 

 岩の隙間から覗くその顔は、死亡宣告が出されたばかりの父、ジョルジュ皇太子そのものだった。

「ひょっとして、お父さん……!?」
 その後は、言う間もなく、ミナコは、ローテと共に岩場の死角になっているところに引っ張り込まれた。

「攻撃中止! 王女とローテ嬢が人質になった!」
 ダニエルが、無線でダンカン大佐やNATO軍に伝え、戦場は膠着した。

 今までの銃砲撃の音がピタリと止み、波音だけが静かにリフレインしている。

「あたし、写真やビデオだけでしか見たこと無いけど……お父さんなのね?」
「わたしは、ミナコ民族解放戦線のゲオルグだ……」
 無機質に呟いた父には、左腕が無く、右のこめかみに大きな傷跡があった。
「あんたたち、お父さんに、何かしたのね!?」
 ミナコは、とりまきのゲリラたちを睨んだ。
「三年前の戦闘で大けがをしたんでね、おれ達が治療して、お勉強していただいたら、こんな風に心を入れ替えっちまったのさ」
 ゲリラたちの仲間が忍び笑いをした。父の皇太子は、あきらかにロボトミー手術され、洗脳されていた。
「じゃ、ゲオルグ。その岩に立って演説してくれるかい」
「分かった」
 父ジョージは、ミナコを岩の上に立たせ、その横に立ってマイクを握った。まず、ミナコが喋った。
「みんな、間違っても撃たないで。この人は、あたしのお父さん、ジョージ皇太子よ!」

 味方の陣地に動揺が走った。

「……本物か?」
 ダニエルは、パソコンの情報と取り込んだダンカンの映像を照合した。
「どうだ、ダニエル!」
 ダンカン大佐がせっついた。
「外見的な特徴はピッタリだ……」
「そう、あとは、声紋分析だなダニエル。わたしは元ミナコ公国皇太子のダニエルだ。今は、悪しき因習を乗り越えて、ミナコ民族解放戦線の司令官ゲオルグになった。古き王制を倒し、新しい人民の国家を打ち立てるために、わたしはたちあがった」

 かつての皇太子の姿に、兵士達は銃口を向けることができなかった。

「ダニエル?」
「本物だ……しかし、マインドコントロールをされている。目に昔の光がない」

「要求する。ただちに王制を廃止せよ。そしてミナコの国を人民に引き渡せ。さもなくば、ここにいるローテとミナコ王女の命を奪う」
 ジョ-ジは、銃口をローテに向けた。
「……これ以上身を晒しては、スナイパーの的になる。岩陰でじっくり返事を待とう」
 ジョージは、ミナコとローテを岩陰に引きずり降ろし、自分も身を隠した。

「お父さん、考え直して、お父さん!」
 ミナコは必死に父に訴えかけたが、父は蛇のような目で見返すだけだった。
「ミナコは、どうも事態の理解が出来ていないようだな」
 そういうと、父はホルスターから拳銃を取りだし、なんのためらいもなくローテの左腕を撃った。
「ウッ!」
 ローテの苦悶の表情。
「どうも、拳銃の音では、みんなに聞こえないようだな……マイクを貸せ」
 銃声は、特殊部隊の集音声の高いマイクで拾われて、ダンカン、ダニエル、NATOの各部隊が、水中から岩場を目指した。
「今から、ローテの処刑を行う。しっかり、この小娘の断末魔の叫びを聞いてやれ!」
 ジョージは自動小銃の安全装置を外した。
「た、助けて……王位継承権なら放棄するから」
「もう遅い。おまえはただの生け贄だ……」

 ジョージが銃を腰だめにした。

 

 三つの部隊は静かに岩場に近づきつつあった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・63『桃と胡桃と』

2019-03-10 06:31:17 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

63『桃と胡桃と』

 夕べは、かなり遅くなってから桃が現れた。

「……今夜は、もう来ないかと思った」
「ちょっとね……」
 そう言葉を交わすと、二人とも黙ってしまった。
 いつもなら、下らないことを言っては猫のようにじゃれついてくる。適当にあしらうと、背中でヒッツキ虫になって眠ってしまう。
 それが、ギュッとしがみついたまま、なんだか息もひそめている。擬態語で言えば、ムギュー……なのだ。
「痛い、爪たてんなよ」
「あ、ごめん……」
「……桃、変だぞ」
 すると、桃はオレの背中を離れておとなしくなった。で、それだけで夕べは終わってしまった。

 バイトは2週目に入り、それなりに慣れてきた。

「Bダイ4番5番テーブルセッティングお願い」
 シフトリーダーの東雲さんの声がかかる。
「「ただいま」」
 声は重なるけど、ダッシュは片桐さんの方が早く、先を越されてしまう。最初は慌てるだけだったけど、落ち着いてフロアーを見渡せるようになり、お冷のお代わりやテーブルの片づけを出来るようになった。
 もっとも片桐さんは、その上をいっていて「このあと5名様と3名様よ」と教えてくれたりする。彼女はフロアーだけではなく、ドアの外にまで目が届いていて、案内の段取りをつけていたりする。

「はい、従食。今夜はフライ定食、ご飯特盛、お味噌汁の具増量、サラダも増量ね」

 ほぼ一人暮らしと言っていいオレの為に、従食も工夫してくれる。
 他愛ない世間話や与太話には付き合ってくれるが、学校や自分のプライベートに関わる話はしてくれない。打ち解けてきてはいるんだろうけど、垣根は高いような気がする。
「お先に失礼します」
 そう挨拶して、店の前の横断歩道で気が付いた。タイムカードの打刻を忘れていたのだ。
「ハハ、やっぱりね」
 片桐さんがオレのタイムカードをヒラヒラさせて笑った。
「どうも、最後の詰めが甘かった」
 打刻を終えて通用口へ。帰りがいっしょになるのは初めてだ。
「じゃ、わたしこっちだから」
 横断歩道を渡ると左右に分かれる。
 心なし彼女が緊張しているのが分かる……あ、そっちの道は工場街の裏手を通るんだ。
「送っていくよ、片桐さん」
「あ、でも方向が」
「いいから、大して変わらないと思う」
 オレは先に立って歩き出した。
「ありがとう、正直ちょっとおっかなかったの」
 角を曲がると、正直な返事が返って来た。
「片桐さんの弱った顔、初めて見た」
「え、あ、そうかも、明るいうちはなんともないんだけど、暗くなるとね……こんなもの持ってるの」
 片桐さんがバッグから取り出したのは催涙スプレーだった。
「おー、準備万端!」
「イザって言う時には……気休めにしかならないでしょうけど」
「片桐さんなら使いこなせると思うよ」
「そうかなあ」
「しっかりしてるし」
「あー、そう見られちゃってるか……ソレイユのバイトは慣れてるから、そんな感じに見えるんだ。ほんとは歳の割には……かな」
「歳って……まだ高校一年生でしょ?」
「学年はね。病気で2年遅れてるから、年齢は百戸くんといっしょだし」
「え、そうだったの!?」
「え、言ってなかったっけ?」
「初耳、片桐さんの雰囲気って謎だったから」
「催涙スプレーの中身みたいね。これ、まだ一度も使ってないから、わたしも謎なの。百戸くんは嗅いだことある?」
「ないない」
「どんなだろう?」
「危ないよ」
 片桐さんはキャップを外した。
「ちょっと試しに……」
 片桐さんは風の流れを確認してからスプレーを一吹きした。
「「う、うわー!!」」
 風上に居たのにもかかわらず強烈な刺激臭。夜の工場街をダッシュしてしまった……。

 その夜は、横になると直ぐに桃が実体化した。

「hold me tight」
「英語で言うな」
「ん……じゃ、抱いて」
「なんかやらしい」
「だから英語で言った」
 いつもなら投げ飛ばすところだが、ここのところの寂し気な様子を知っているので、正面を向いて抱っこしてやった。
「今夜は特別。これでいいな」
「あ……じゃなくって……」
 オレの胸の中で、桃はゴソゴソし始めた。
「お、おい……」
 桃はパジャマも下着も脱いでしまった。
「ずっとして欲しかったの」

 投げ飛ばそう……思ったところで意識が無くなった。 

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