大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・15『心合寺山古墳のソンナワケ』

2019-03-30 08:05:44 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・15

『心合寺山古墳のソンナワケ』          
 

 

 いやー 知らんかったわ!!
 

 京ちゃんがドラマのオープニングのように感嘆の声を上げた。 通り過ぎる中河内中学の生徒たちが変な目で見ている。 京ちゃんの声が大きすぎるのが直接の原因なんだけど、ここは中河内中学のテリトリー、制服が全然違う中学生がドラマの主人公みたいにキャピキャピしていては、あまり好意的な関心を持たれない。ちょっとアセアセ。
 

 ね 中に入ってみよ!
 

 小気味よく自転車のスタンドを立てると、兎を思わせる足どりで古墳の頂上目指す京ちゃん。

「あ、ちょ、鍵、待ってぇーー!」

 わたしは、京ちゃんの自転車の分まで鍵をかけて追いかける。

 ドジなので、途中で躓き、早くも堀を跨ぐ土橋に差し掛かった京ちゃんがケラケラ笑う。

 背後で中河内中学の男子たちが注目しているのを感じる。やっぱ京ちゃんはヒロイン、わたしはモブ子だ。
 

             
 

「ミッチーが誘ってくれへんかったら、知らんままに卒業してたやろなー」

「ほんとうに知らないの?」

「うん、心合寺山古墳 (しおんじやまこふん)は授業では習たけど、じっさい来るのは初めてや」

「うん、初めてなんだよね」

 あたしには軽い失望があった。京ちゃんなら八尾のネイティブなんで古墳と古墳にまつわる話を知っているんじゃないかと、始業式が終わるのを待ってやってきたのだ。

「ここてビフォーアフターやねんねえー」

「なんか古墳の美容整形の見本だね」

 心合寺山古墳は、西半分が作られた時そのままに石なんかが葺いてあり、そこだけ見ればロケットの発射基地みたい。 東半分は草や木が生えたままで、ボンヤリ見ていると丘にしか見えない。古墳の今と昔が同時に分かる仕掛なんだと、わたしにでも分かる。

「八尾市は貧乏やから、復元するお金ケチったんやろなあ」

 腕組みしてしみじみ言う京ちゃんは、雰囲気の割に身もふたもない。

「そんな理由なの?」

「うん、ゴミ袋は小さなるし保育所は少ななるし、台所事情は苦しいと思うでー」

 そうい言われると、なんだかケチっているようにも見える。

 「ね、ここって、どんな人が葬むられてるんだろ?」

 なるべく自然に聞こえるように声にした。

「そら決まってるやん、昔の偉い人!」

「えと、どんな偉い人なんだろ?」

「そういうのは、ただの偉い人でええねん。それがロマンというやっちゃ!」

 そう言うと、京ちゃんは古墳の頂上に走り出した。

「あ、コケるよ!」 「ダレかさんとはちゃいます~」
 

 そう言いながら、京ちゃんは頂上に上がる階段の途中で見ごとにつまづいた。

「オワーー!」

 女の子らしくない悲鳴を上げた京ちゃん。スカートが翻ってシマシマパンツが見え……っぱなし?

 京ちゃんは、つまづいた直後の姿勢のままストップしてしまった!

「え、え、えー!?」

 京ちゃんの向こう、頂上の上を飛んでいた鳥も停まって……古墳の東側の道を歩いたり走ったりしていた中河内中学の生徒たちもストップモーション。西の眼下を走っていた近鉄電車も上りと下りが交差したまま停まっている。
 

「やあ、よく来たね」
 

 松坂桃李さんの声がした!

 振り返ると、頂上脇の二本の木の前に大魔神みたいな昔の鎧を着た髭面が立っている。わたしは金縛りになって身動きができない。

「驚かしたなら申し訳ない、わたしは、この陵の主でソンナワケという者だ」

 喋りながら髭面は近づいてくる。

「めったなことで昼間に現れることはことはできないんだけどね、君の能力と条件設定がピッタリ合って、君の前に現れることが出来た……」

 そう言いつつ、髭面はむき出しになっている京ちゃんのシマシマパンツをしげしげと見ている。いやらしいオッサンだ。

「あ、あの、京ちゃんのスカート下ろしてやりたいんですけど」

「それはダメだ。この階段のちょうど真ん中で乙女のお尻がむき出しにならなければ、わたしは姿を現せないんだよ」

 声は松坂桃李さんにソックリなのに、言うことがイヤラシイのでムカついてきた。

「他にも条件がある。近鉄電車が高安と山本の間で交差していることも重要な条件なんだ、そして触媒になれるほどの能力を持った君の存在がね」

 なにをこのエロ大魔神が!

「えと、髭面でもエロでも大魔神でもないで、さっきも言ったけどソンナワケと呼んでくれないかなあ」

 「ソンナワケかドンナワケか知らないけど、いったいなんなのよ!?」

「あ、すまない、君のいましめは取らなきゃね……」

 エロ……ソンナワケが手首を振ると、つんのめるようにして金縛りが解けた。
 

 ソンナワケの髭面が迫ってきて、思わず目をつぶってしまった……。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・15(メリークリスマスフェアリーズ)

2019-03-30 07:52:19 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・15

 (メリークリスマスフェアリーズ)
 

  Dashing through the snow  

  In a one-horse open sleigh,  

  Over the fields we go,  

  Laughing all the way;  

  Bells on bob-tail ring,  

  making spirits bright,  

  What fun it is to ride and sing  

  A sleighing song tonight, O!

 真由の歌声が、上野の山に響いた……☆
 真由は、フィーメルサンタコスで、一人で歌った。条例で決められたマイクのボリュームを守っているのだが、なぜだか上野のほとんどの人の耳に懐かしさとともに響き、心に沁みわたった。

 Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!  O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!  O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh!

「なんかポピュラー過ぎて、ジングルベルなんて聞かないよな……」

 「懐かしい……子供のころに聞いて以来だわ」

「初めて聞くけど。新鮮じゃん……」

 クリスマスに上野の山に来るものは、どちらかというと21世紀のキラキラしたクリスマスには縁が無い、あるいは背を向けた人たちが多かった。そういう人たちの心に沁みる、懐かしくも新鮮なジングルベルだった。
 

「ねえ、オネエチャンの後ろに何人もサンタさん。いっしょに踊ってるよ」

 小さな女の子が、手を引いてくれる母親に言った。

「うわー、いっぱいのサンタさんになった!」

 女の子に手をつながれた幼い弟が言った。

 真由の後ろには、数えきれないほどのサンタがバックダンサーとバックコーラスになって滲みだしてきた。
 どうやら、アカハナの魔法のようだ。

 真由は、ジングルベルに続き、『雪の降る街を』『ペチカ』『たき火』『冬の星座』など、有名で、みんながどこかで聞いたことのある曲を歌った。

「なんだか、忘れ物が、ひょっこり出てきたみたいですねえ……」

 美術館帰りの老婦人が、真由を取り巻く人の輪の中で、長年連れ添った夫に言った。
 

「では、みなさん。これから他のところを周って、夕方には戻ってきます。よかったら聞いてください。クリスマスフェアリーズでした」
 

 あっという間に、真由たちは撤収した。観衆の人たちには妖精がフェードダウンするように見えた……。

 真由たちは、あらかわ遊園、代々木公園、駒沢オリンピック公園、葛西臨海公園、井の頭恩賜公園など、ヘブンリーアーティストのメッカとも言える場所を40分程度で周り、夕方には約束通り上野に戻って来た。
 

 朝のパフォーマンスを観た人たち、よそのスポットで観た人たち、YouTubeなどで情報を得た人たちで、二万人ほどの人たちが集まった。
 

「ヘブンリーアーティストなんで、長時間広い場所を占拠できませんので、お巡りさんに注意されるまでの間、出来る限り歌わせてもらいます」  

 アカハナの魔法で、真由の特設ステージがだきた。人々は最新のデジタル技術だと思った。

 真由は、クリスマスソングを中心に、みんなが忘れかけた、古い歌を十数曲歌った。映像は、ほとんどライブで動画サイトに流され、一部は夜のニュース番組でも流された。

「あたしたちは、ヘブンリーアーティストです。ご要望があれば、どこへでもでかけます。今からメアドを送信します。ご用命の節は、ご遠慮なく」

 と、アカハナが大宣伝。
 

「じゃ、あたしとサンタさんは本業に戻る。クリスマスイブだからね。あとは運命で転がっていく。真由は21世紀の魔法使いになってね。いいことばっかじゃないけど、真由ならきっとできるわ」

 そう言い残し、サンタの赤い車は飛び立った。消えて見えなくなるころに、それはトナカイの橇になったような気がした。
 振り返ると家の玄関だった。
 パソコンを立ち上げると、メールがいっぱいきていた。感謝と感動のメールが多かった。中には芸能プロからのお誘いもあった。

「たった一日で、世界は変わるんだ」

 最後に見た幾つかのメールが胸を打った。
 自殺を思いとどまったり、家出していた若者が家に帰る気持ちになった、わたしも人に幸せをあげられる人間になりたい……。
 真由自身、こんなに胸の温まるクリスマスは初めてだった……。
 

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高校ライトノベル・時かける少女・53『正念寺の光奈子・3』

2019-03-30 07:14:46 | 時かける少女

 時かける少女・53 

『正念寺の光奈子・3・地獄に墜ちろ!』        


  よく誤解されるが、浄土真宗には、極楽の概念だけがあって、地獄は存在しない。
 

 子どもの頃から聞かされた教義であるが、光奈子は、たまに「地獄に墜ちろ!」と思う奴がいる。 今回は、三年生の林田先輩だ。演劇部で、たった一人の男子部員。 温厚を旨とする光奈子が「地獄に墜ちろ!」と思うのは、よっぽどである。あの生指の梅沢先生にもそこまでは思わなかった。
 

「おれ、今度の役降りるから」
 

 この一言で、光奈子は、そう思ったのである。 林田は、顧問の篠田先生と春休みにぶつかった。先生に一言もなく地区の合同公演に出たからである。

「なぜ、あたしに言わないのさ。知らないところで事故やケガされても、責任はうちの学校なんだよ、あたしが責任とるんだよ。それに、その間、クラブどうすんの? あんた、もう三年生になるんだよ!?」
 その時は、大げさだなあぐらいに思っていたが、今度のひなのの事では先生は、始末書を書いて訓告処分になった。梅沢先生の「教師公務員論」には、賛成できないけど、扱いは並の公務員のそれである。
 

 もう一つ許せない理由がある。
 

 ひなのは、この芝居の道具に使う布地の見積もりを取りに行って事故に巻き込まれたんだ。林田が降りたら、この芝居は成り立たない。つまり、ひなのは犬死にしたのと同じになる。

「なんで犬死になんだよ。もし、オレが降りないでコンクールに落ちたら、そっちこそ犬死にじゃんか。ひなのだけじゃない、みんな無駄な努力に終わっちまうんだよ」

「それは、違います。やるだけやって、だめだったら、ひなのだって納得します。やらずにやめちゃうなんて、ひなのが浮かばれません」

 「それじゃ、まるで、オレが悪者みたいじゃないか」

「悪者です!」

「なんだと!」

 クラブのみんなは、シンとしてしまった。

「冷静に言うぞ。今の本じゃコンクールで最優秀はとれない。八月のアプレ公演の時に、そう思ったんだ。今なら間に合う。本を変えよう……て、言ったら、みんな、そういう顔するだろ。オレに腹案があるんだ。イヨネスコの『授業』 仲代達也さんが演って大当たり。おれ、もう台詞覚えにかかってるんだ。これなら……」

「分かった、林田は、もうやる気ないんだ!」

 部長の福井さんが、沈黙を破った。

「そんなこと言ってねえよ。ひなのが見積もり取ってきた布地だって、別の芝居で使えるじゃんか」

「それは詭弁です。ひなのは、今の芝居で使いたかったんです。それに林田先輩は、仲代さんにかぶれて主役の教授演りたいだけじゃないですか!」

「藤井!」
「もういい! もう分かった!」

 篠田先生が立ち上がった。
 

「林田君、降りていいわ。あんた無しでも出来るように本書き換えるから。あとどうするか、みんなで話し合って。あたし、本の書き換えしてくる」

 篠田先生は、静かに部室を出て行った。すっかり早くなった西日が部室の中をタソガレ色に染め上げた。
 

「林田。あんたとはいっしょにやれない。退部して」

 福井部長が西日を背中にして言った。
 

「そりゃあ、残念だな。スタッフで残ってやってもよかったんだけどな」

 林田は、そう言うとカバンを持ってドアに手を掛けた。
 

「地獄に墜ちろ……」  福井部長が呟いた。

「地獄、上等じゃね。役者は、何事も経験だしな」
 

 残った部員は四人だったけど、結束を誓って、その日は解散した。
 

 ジャンケンで勝ったので、あたしが篠田先生に報告に行った。四人で行ったら泣き出しそうだったから。

「がんばろうね!」

 先生は、そう言って、手が痛くなるほど握手。シノッチもむかついている。
 

 駅までの帰り道、信号に全部引っかかって、準急に乗り損ねた。

「アチャー……!」

 オッサンみたいに言って、光奈子はベンチに腰掛けた。

「ハハ、乗り遅れか」

 なんと、隣に林田がいた。

「オレも、各停乗り遅れ……おれは地獄行きだからな」

「地獄なんて、ありません。人間死んだらみんな極楽に行くんです」

「ほんとかよ?」

「うちの宗旨じゃ、そうなってます。善人なおもて往生す、言わんや悪人をや……です」

「悪人正機説だな」

 明らかに、バカにした言い方だった。

「極楽、チラ見してみます?」

「チュートリアルか?」

「あの西日の下のあたりを、よーく見て下さい」

 林田は、目を細め、手を庇にして太陽の下を見た……にやついた顔が、恍惚とした表情になった。光奈子も以外だった。極楽なんて、親鸞さんでさえ見たことがない。
 

「ウワ!」
 

 林田は声にならない叫びを上げた。西日の中でもハッキリ分かるほど顔色が悪い。

「どうでした、極楽?」

「と、とんでもねえ……!」

 そう言って林田は、ちょうど入ってきた各停に乗っていってしまった。
 光奈子は、自分の力に、まだ気が付いてはいなかった……。

 

 

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