大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・16・オーディションに受かってしまった!

2019-03-15 07:31:45 | 小説3

メタモルフォーゼ・16・ オーディションに受かってしまった!       


 火事場のバカ力だと思った。

 歌もダンスも自己アピールもガンガンできた。
 なんたって、ほんの一分前までは、自分はただミキのオーディションの付き添いだと思っていた。
 それが、だまし討ち。あたしも受けることになっていたとは、指の先ほども思っていなかった。

―― 一人だと、とても受ける勇気がでなくって――

 あとで、ミキがこぼした言い訳。言われなくても試験会場に入る前の、ミキのゴメンナサイで分かってしまった。
 で、受験生五人が並ぶと、やっぱ張り切ってしまう。美優が……って、自分自身のことだけど、こんなに張り切っちゃう子だとは思わなかった。
 コンクールは、学校の看板をしょっていた。直前にS高のAたちに道具を壊された悔しさがバネになっていた。
 でも、この神楽坂46のオーディションは、ミキにハメラレたということはあるけど、しょっている物も、悔しさもない。ただ自然に湧いてくる「負けられるか根性」だけ。
「25番の人。アピールするところは?」
「あ、負けられるかって根性です。競争には勝たなきゃ。根拠ないですけど」
 我ながら、正直な答え。でも、やっぱ火事場のバカ力のガンガンだから、ダメだとは思った。

「ごめんね、美優、言わなくって……!」

 会場を出たとたんに、ミキが抱きついてきた。
「いいよ、いいよ、でもよく決心したね……」
 なんだか前田敦子の卒業宣言のあとの大島優子との感動シーンのようになってしまった。
「美優道連れにしてでも、受かりたかったの。美優すごかったよ! うかったら、いっしょにやろうね!」

「うん!」

 元気に、返事したのが良くなかった……オーディションに受かってしまった!

 で、ネットや、マスコミで流れたので、学校では大騒ぎになった。なんちゅうーか……演劇部のときよりもすごいお祭り騒ぎになってしまった。
 地元の新聞社、ローカルテレビ、受売商店街のミニコミ誌も、受売神社とコラボして、町おこしの種として神社の宮司さんを連れてやってきた。
「日本各地に、受売命(ウズメノミコト)を祀った神社がありますが、うちは年回りもあるんでしょうか、ことのほか霊験あらたかなようであります」
 と、宮司さんは鷹揚にに答えた。ま、確かに、あたしを進二から美優にしたのにも、ここの神さまがいっちょう噛んでるよーな気もするし、コンクールも次々に最優秀を取らせてくれた。

 テレビ局の演出で出演者のタレントさんといっしょに神社にお参りに行った。

――ねえ、神さま。これって、いったいなんなんですか?――
 あたしはダメモトで、柏手打ちながら、神さまに聞いた。
――美優 そなたは人の倍の運……を持って生まれてきた。心して生きよ――
 思わぬ声が頭に響いた。三度目なので、声に出して驚くことは無かったけど、表情に出た。
「あ、美優ちゃん、なにかビビッと来たのかな!?」
 MCのお笑いさんが、すかさず聞いてきた。
「あ、なんだか、その頑張りなさいって……聞こえたような」
 で、ごまかしておいた。
 運のあとに間が空いたのが気になった。でも、言わなかった。だって、思わせぶりすぎるもん!

 その日の帰りは夕方になった。テレビのロケ隊も来てるし、あたしのことを知ってる人も居そうだったので、久方ぶりに家まで歩くことにした。

「あ、美優」

 旧集落のあたりを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。この声の主は剣持健介だ。
「こないだのDVDありがとうございました」
「そんな改まるなよ、ただでも、今日の美優は声掛けづらかったんだから」
「え、そんな……」
「取り巻きいっぱいいるしさ、なんだか、美優のオーラが、すごくなっていくんだもん……声かけようと思って、こんなとこまで……おれも気が小さい」
「え、神社から、ず……」
「あ、聞こえにくいんだけど」
 あたしは、顔隠しのマスクをしているのに気がついた。急いで、マスク取ると、溜まっていた息が口からホンワカ出てきて健介の顔にもろに被ってしまった。
 健介の顔が真剣になった……なによ、このマジさは……。

「美優、好きだ……!」
 のしかかるようにハグされ、唇が重なってしまった。数秒そのままで、健介は離れた。
「ごめん……」
「謝るぐらいなら、こんなことしないで……」
「帰り道危ないから……送っていくよ」
「もう、危ない目に遭っちゃったけど」
「いや、もっと危ない奴もいるかもな」
 あたしは、前回のお尻タッチのオッサンのことを思い出して、おかしくなった。

 あたしは、唇が重なっても、それほどにはときめかなかった。

 心のどこかが、まだ女子に成りきっていないのか、神さまの「運……」が、ひっかかっているのか。

 満月と、宵の明星が、そんなあたしの何かを暗示するように輝いていた……。

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高校ライトノベル・時かける少女・38『女子高生怪盗ミナコ・4』

2019-03-15 07:24:00 | 時かける少女

時かける少女・38 
『女子高生怪盗ミナコ・4』
      



 吹っ切るつもりでパソコンのキーをいくつか押した。それで解決するつもりだった。

 むろん、ミナコのパソコンは、ウィルスを送り込んでダミーにしているパソコンを何台も経由し、仕掛けを施し、自分がハッカーであることは絶対分からない仕組みにしてある。
 保科産業の社長のパソコンには入り込めているが、株取引のためのキーワードが解析できていない。途中まではバカみたいに簡単だった。息子の正隆と同じヅブリファンの社長は、ヅブリ作品のヒロインの名前をキーにしていた。むろんそれは日によって順序が違うのだが、一カ月もフォローしていると、その規則性も分かってきた。アイウエオ順、発表順、年齢順、設定された身長順が乱数表によってかえられる。それも古典的なエニグマだったので、容易に分かった、ミナコは思わず笑ってしまった。
 だが、最後のキーワードが見つからなかった。ヅブリの登場人物の誰を入れてもヒットしない。でも、今夜こそと思ってパソコンが起動するのを待った。

「え……うそ!?」

 なんと、株取引のキーワードが解析されて、株取引の一覧表が出てきた。
 そして、持ち株の半分が盗まれて、三十分後には三億円の利益を付けてもどされていた。

「おめえが、モタモタしてっからよ。おいら先に、すましといたぜ」

 気づくと、爺ちゃんが横に座って、タバコを吹かしていた。


 爺ちゃんは種明かしはしてくれなかった。
「ネタは、自分の目と耳で仕入れ、頭で組み立てるもんだ」
 そう言って、オナラ一発カマしてミナコの日銀金庫室並のロックをしてある部屋を出て行った。
「クソジジイ……!」

 で、ミナコは、保科家のお手伝いさんに化けて、キッチンで、ワンセグテレビを観るふりをして、リビングでの親子の話の様子を観察していた。本物のお手伝いさんは、終業の挨拶をしたように暗示をかけて、先に帰してある。

「今日、琴子ちゃんは、どうだった?」
「うん、楽しそうにしていたよ。うまい具合にミナコが映画をキャンセルしてきたんで、自然に誘えたし」
「シャメを見せてくれるかい」
「どうぞ」
「……まだ、だめだな」
「そんな、この動画だって、こんなに楽しそうに……」
「お前に気を遣っての演技だってことも分からんのか」
「これが、演技……?」
「さすが、名女優・山城豊子の娘だけのことはある。笑顔の作り方、可憐な身のこなし。母親にそっくりだ」
「そりゃあ、親子なんだから」
「山城豊子は、プライベートでは、こんな表情は見せん……分からんか。お前の気持ちが本気じゃないからだ」
「そ……それは」
「オレには、贖罪の気持ちがある。琴子ちゃんの家を破滅させたのはオレだからな。豊子を奪われた腹いせだったが、あのころは単なるビジネスと思っていた。でも結局は山城の家をメチャクチャにしただけだった」
「でも、ボクは……」
「自分の自由意思だと言うんだろ……正隆、おまえはいい奴だ。オレの気持ちも十分分かってくれている。だが、人を愛するのは別だ。オレに義理をたてる必要はない」
「オヤジ……」
「今日、うちの持ち株が操作された。何者かがハッキングして、持ち株の半分を盗まれた」
「ほんと!?」
「そして、三十分後には三億円の利益を付けてもどされていた……意味が分かるか?」

 ミナコは、キッチンで、正隆とオヤジさんの顔を交互にアップにし、聞き耳ずきんになった。

「三億円というのは、オレが山城を破滅させた金額と同じだ。それを、得にもならないハッキングまでして、金の出し入れをしてみせたのは、だれだと思う?」
「さあ……そんなの見当もつかないよ」
「お前を、うまくあしらっているミナコという子だよ」
「え……!?」

「え!?」ミナコも驚いた。

「最初は、おまえにタカっているだけの子だと思った。次ぎにわたしの会社を狙っている意外な大物……例えば峰不二子のような大泥棒かと思い、オレの生き甲斐になりかけた。そして……今日だ。ミナコという子は、全てを知っている。そして、正隆、お前を本気で愛している。それが、今日のハッキングだ。この技術と情熱、オレは惚れた。と、言っても横取りなんかしやせん。琴子ちゃんもミナコも一流の女だ。オレの気持ちなんか斟酌せんでいい。どっちかを嫁にしろ!」

 ミナコは、うろたえて、縁の下から蜘蛛の巣だらけになって退散した……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・68『ニュートラル』

2019-03-15 07:09:52 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

68『ニュートラル』


 春一番が吹いた朝に親父が倒れた。

 三好紀香の事件が完全に暗礁に乗り上げてしまったのだ。
 ミヨシクリーニング店を襲ったやくざ者が国富湾に浮かんだところまでが限界だった。そのあとが皆目進展が無く、関係者の足どりを追っても、新しいことはなにも分からなかった。
 国富港に不審な船が停泊していたことも分かったが、関係者は国外に出てしまっていて、ここから手繰れるものもなかった。

 なにより県警本部か、そのまた上からなにかがあったみたいだ。
「風が吹いてきた……風が……風……」
 ICUから出てきた親父は、酸素マスクの下で、力なく呟いた。

 おりからの季節風を指しているのか風に事寄せたことなのか。

 お袋が帰って来た。

 なんだか、キャリアの雰囲気で、息子のオレが見ても生き甲斐を感じて生きている風だった。
 でも、親父の看病に専念してくれた。
「これが、もう最後のチャンスだろうから……」
 親父が回復し始めたころに、一言言おうとすると、言う前に先を越された。
 最後のチャンスとは、お袋の仕事のことか、我が家のことか判断がつきかねた。
 でも問いただすことはしなかった。

 そんなことをすれば、瞬間に百戸家の終わりがきてしまいそうな気がしたから。

 結果、親父は警察を辞めた。
 もう捜査1課長の激務に耐えられるところまでは回復しなかったから。
「……なんだかすっきりした顔してるね」
 病院から帰ってきた日、思わず言ってしまった。痩せてはいたけど、すっきりした顔に驚いた。
「桃斗もすっきりしたじゃないか」
「あ、うん……」

 オレは、元の62キロに戻っていた。

 学校もバイトも順調だ。
 片桐さんとは、いい友だちで、バイト仲間だ。
「夏休みに、アメリカで手術するの」
 夏休み中のシフトを確認しようとしたら、ちょっと気負った顔で、そう言った。
「完全に治るといいね」
「治ったら、もう脚立から落ちることも無いわ」
 この一言で、彼女の病気が脳に関わることだということが知れた。無理をしていたんだ。
「残念、たすけるふりして触れなくなってしまうな」
「フフフ……ハハハ」

 笑って、片桐さんはアメリカに行った。

 三カ月後の盆休みに、オレは桜子に会いに行く。片桐さん同様にニュートラルでいるために。

 そして、桃は現れなくなってしまった。
 もう梅雨の終わりごりには、1/4の大きさになっても触れ合うことが出来なくなっていた。

 亡くなった時の桃の体重は48キロだった。オレが、この8カ月で落とした体重と同じだった。


 MOMOTO 完

 

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