大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・09『役小角の末裔』

2019-03-24 06:20:55 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・09
『役小角の末裔』
        

 

 慣れてきたころがあぶない!

 シゲさんにも京ちゃんにも言われていた。

 キャー!!

 悲鳴だけは、直ぐに出たけど、避ける余裕はなかった。
 これは衝突! したと思ったら、うまくかわして背の高さほどの茂みがクッションになって助かった。ぶつかりかけた自転車は、何事も無かったようにスイスイ行ってしまった。学校を出て二つ目の角を曲がったところでの出来事。
「フー……事故になるとこやったなあ」
 気づくと藤田先生がオデコの汗を拭っていた。
 藤田先生は、こないだ生駒山大崩壊の幻を見た時に「すまん、なんか暗示がかかってしもたみたいで」と言った先生だ。
 なんだか先生が暗示をかけたみたいな言い方だったけど、その真偽は確かめないまま三日がたった。
「いまの……ひょっとして先生ですか?」
 企んだわけじゃないけど、そう聞いてしまった。
「え、なにを……」
「だって……」
 茂みに目をやった。
 その茂は、よく見ると庭木で、生活道路とは言え道の真ん中にあるようなものじゃない。よく見ると、道路わきの家の庭の植え込みが不自然に一叢無くなっている。それに藤田先生の狼狽えた反応。

 きっと何かある……。       

「いやあ……如月のせいでもあるねんで」
「あ、あたしのせい?」

 先生と玉櫛川沿いの遊歩道を歩く。しみじみと語り合うにはもってこいの遊歩道だ。わたしは自転車を押している。
「ぼくのご先祖は役小角(えんのおづね)やねん」
「えんのおづね?」
「七世紀におった修験道の開祖でな、空を飛んだり妖怪と戦ったり、忍者の元祖とも言われてる」
「えと、その役小角さんが藤田……なんですか?」
「藤田は旧姓や。二十五で養子に行って、本名は要海いうねん」
「よ、妖怪!?」
「字ぃは重要の要に海て書いて『要海』や。もっとも藤田の家には要海の家から養子に出されてたから、元に戻ったとも言えるけどな」
「それで、いろいろ術とかが使えるんですか?」
「暗示に掛ける程度のことやったんやけどな。さっきみたいに庭木をクッション代わりにテレポさせるなんて初めてやった」
「先生、すごいですね! てか、それがわたしのせいってのは?」
「えと……あそこ見てみい」

 先生が指差したのは、工事中の玉櫛川。

 四メートルほどの川幅が、工事のため半分がせき止められて狭くなった区間が激しい流れになっている。
「あれが?」
「緩い流れでも、ああやると、ビックリするくらい速くなる。如月はあれや。ぼくの中でゆるゆる流れてた役小角の血の流れを増幅させて、さっきみたいな力を発揮させたんや」
「あ、でも、なんでわたしが?」
「その自転車やろなあ」
「自転車が?」
 言われて、しげしげと見る。オレンジ色というだけで、なんの変哲もない自転車だ。
「いや、自転車に乗れる如月自身や。中学生になって初めて自転車に乗れて、なんか、自分の中で開放されたもんがあったんやろなあ」
「開放……」

 自転車に乗れたら世界が変わるよ……京ちゃんの言葉を思い出した。

「あ、ここで車道渡って東に行くと、如月の家には近道やで」
「あ、そうなんですか」
「ほんなら、僕は山本から電車に乗るさかい」
「はい、失礼します」
 ペコリと頭を下げる。
「えと、ひょっとしたら、僕の影響で妙な目に遭うかもしれへんけど、深入りはせんようにね」
 そう言うと、先生はヒラヒラと手を振った。つられて手を振りそうになったけど、慌ててお辞儀に切り替えた。

 教えられたように車道を渡って生活道路へ、改めて見ると、周りは最低でも五十坪以上ありそうなお屋敷ばかり。なんだか知っている高安のイメージではない。
 そして道なりに行くと緩い下り道、そのどん詰まりに踏切があって、ひょいと首を巡らせると右に高安駅が見える。

 やった! 前から発見したかった学校への最短コースだ。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・9(促成魔女初級講座・座学編・1)

2019-03-24 06:12:28 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・9
(促成魔女初級講座・座学編・1)



「うかつだったなあ……」

 安倍青年の小さな呟きが、突然のクラクションのように聞こえるくらいに静かな山荘であった。
 三条河原で安倍が覆いかぶさって、真由がしがみついて、閃光が走ったかと思うと、ここにいた。
 八畳ほどの和室で、縁側に続いた庭にはハチが何事もなかったように日向ぼっこをしている。その周りは深山幽谷と言っていいほどの山の中である。
「あれは、なんだったんですか?」
「多分、中国の妖怪たち……」
「中国の?」
「うん、単に探りを入れに来ているだけかと思っていたけど。あいつらは実戦部隊だった」
「……あれも、あたしのせいなんですか?」
「真由くんが、南シナ海で中国の巡視船……無意識だけど沈めちゃっただろ。そこから手繰ったんだろうね。渋谷で網を張って、京都に来た時には、人知れず三条あたりに集結していた。ボクも気が付かなかった。油断だね」
「あ、助けていただいてありがとうございました」
 真由はペコリと頭を下げた。渋谷からこっちのことが、少しずつ整理されて、落ち着いてきた。
「あの……安倍さんていったい?」
「総理大臣の親類」
「え?」
「じゃなくて、第八十八代陰陽師頭(おんみょうじのかみ)安倍清明。ま、日本の魔法使いの元締めみたいなもん」
「ああ、むかし映画でやった」
「そんな感じかな。陰ながら日本と都を守るのが、うちの家系の仕事。うちのことはおいおい知ればいい。それより君だ。いきなり第一級の敵とみられたみたいだね」
「なんで、あたしが敵なんですか?」
「きみは、ヨーロッパの魔法の正式な継承者だ。まだチュートリアルの段階だけど、磨けば、すごい魔法使いになる。そうならないうちに、君を潰しにかかったんだ。ボクといっしょだったことも災いしたね。日本の陰陽道とヨーロッパの魔法が協定を結んだように思われた」

 庭の鹿威し(ししおどし)が、まるで時間にアクセントをつけるように、コーンと鳴った。

「七十年前の戦争で、京都と奈良にはほとんど爆撃の被害がなかったこと、知ってるね?」
「はい、学校で習いました。日本の敗北が決定的になったんで、文化財の多い奈良と京都は爆撃の対象から外したって」
「あれは、ボクのひい爺さんの仕事だったんだ。ああ、言わなくても分かるよ。日本の首都は東京だ。なぜ東京を守らなかったか……東京は正式には首都じゃない。ケチくさいけど法律のどこにも書いていない。天皇陛下が即位されるのも、東京じゃなくて京都の御所だ。京都の年寄りは、天皇陛下が京都に来られることを『お戻りになった』と、今でもいう」
「でも、東京は大空襲で、原爆以上の犠牲者を出しています。守れなかったんですか?」
「沙耶くんにも聞いたと思うけど、魔法と言うのは、ここに落ちる爆弾をそっちに持っていくだけのものだ。京都と奈良の分が、東京に落ちてしまった」
「そうなんですか……」
「皇居を守るのが精一杯だった」

 いきなり庭に面した縁側に人の気配を感じた。生成り木綿の着流しに渋柿色の袖なしを着た老人が、ハチを相手に遊んでいた。

「あ、武蔵さん。お久しぶりです」
 清明が頭を下げた。
「近くを通ったもんでな……山里におると、人恋しくなるものでな。ごめんくだされ」
「あ、どうぞお上がりください。松虫さん、お茶の用意をしてくれませんか」
 いつのまにか、座敷の傍らに和服の女性が座っていて、小さく頷くと、本格的な茶の湯の用意を始めた。
「おぬしの式神は、付かず離れず、まことに様子が良いのう。こちらの娘子が真由どのじゃな」

 鳶色の三白眼が、かすかに和んだ。この顔……日本史の資料集に出ていた宮本武蔵だ! 真由は正直に驚いた。

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高校ライトノベル・時かける少女・47『女子高生怪盗ミナコ・13』

2019-03-24 05:59:11 | 時かける少女

時かける少女・47 
『女子高生怪盗ミナコ・13』 
 



 浦安の海岸沿いを走り、町はずれの倒産した小さな造船所に三人を乗せた車は入っていった。

「池之宮家は、戦前は、ずっと海軍の宮家で通っていたね」
 倒産したとは思えない造船所の応接室で、トワイニングの紅茶を入れながらお爺ちゃんが言った。この応接室は、元々の応接室の地下にある。そこの床のモザイク模様を、一定の順番で踏むことによって、地下への道が開けるようになっている。もっとも、この程度の仕掛けで驚くような、ミナコとミナミではない。

「はい、他の宮家軍人とは違って、大佐以上には昇進できずに、いつも前線の指揮官をやっていたそうですが」
「先々々代には、ガキの頃一度だけお目に掛かったが、ガラッパチで、誰も本物の宮様だとは思っていなかったな。在郷軍人のタバコ屋のオッサンの方がえらそうに見えた」
「どんな、人だったの?」
 好奇心旺盛なミナコが身を乗り出した。
「戦後、人から聞いたんだが、終戦前は潜水艦の艦長をやっておられた。人間魚雷回天の搭載潜水艦のな」
「回天て、人間が乗る特攻魚雷だよね」
「辛い仕事だったと、父からは聞いております」
「ところが、宮様の潜水艦は、艦長の宮様が手を加えて、だいぶ違うものにした。水中速力35ノット。ワルター機関からヒントを得ているらしいが、今の潜水艦と比べてもひけをとらない」
 爺ちゃんは、そう言って、机の引き出しから二枚の白と黒の鉄板を取りだした。
「この白い方をカナヅチで叩いてごらん」

 ミナコが叩いてみたが、座布団を叩いたほどの音もしない。

「塗料が特殊でね、音がほとんどしない。これで潜水艦の中を塗っていたから、クシャミはおろか、モーターの音も外には漏れない。黒い方は外版だ、その塗料はアクティブソナーを吸収する。で、スクリューは、荒川の職人のオッサン達に削らせて、キャビテーションノイズを限界まで小さくした。で、それに載っけていた回天だ」
 爺ちゃんは、もう一枚の写真を出した。その写真の回天には、人間が出入りするハッチも、潜望鏡も無かった。
「こいつはリモコンで操縦するんだ。これが、そのモニターとコントローラーだ」

「これって、テレビとゲ-ム機のコントローラーだ!?」
「そう、遠隔操作で、敵艦にぶち当てるんだ」
「噂では聞いていましたが、写真を見るのは初めてです」

「二人とも、こちらへおいで」

 写真を食い入るように見ていた二人に、爺ちゃんは声をかけた。
 爺ちゃんがいくつかのパネルを踏んで応接の壁が動き、地下への階段が口を開けた。

「これは……」

「そう、先々々代が乗っていた、イ号007だ」
 黒い艦体の上には、四機の回天が載っていた。
「アメリカの公式記録じゃ、被害は4隻になっているがね、実数は10倍にはなる。こいつがいなきゃ、戦争は、もう、二か月は延びただろう。なんせ、原爆を積んだ巡洋艦を二隻も沈めとる。今でも、この記録とUFOの記録は、けして公開されることはない」

「お爺様、まさか、わたくしたちに、これに乗れと?」

「ハハ、こいつは、今は裏稼業のごく一部しか知らんが、記念艦。モニュメントだよ。二人……いや、三人で乗るのは別の船だ」

 爺ちゃんが、また壁のモザイクを操作すると、イ号007の、さらに下にいく階段が静かに開いた。

 その階段を、つづら折れに降りると、目の前にとんでもないものが目に飛び込んできた……!

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