大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・10・フォーチュンクッキー

2019-03-09 06:57:40 | 小説3

メタモルフォーゼ・10

フォーチュンクッキー   

 

★……フォーチュンクッキー


『ダウンロード』という芝居は、メタモルフォーゼ(変身)するところが面白い!


 そう、思って稽古を重ねてきたが、どうやら違うところに魅力があると感じだした。ノラというアンドロイドは、いろんな人格をダウンロ-ドしては、オーナーによって派遣され、大昔のコギャルになったり、清楚なミッションスクールの女生徒になったり、五歳の幼児三人の早変わりをしたりして、オーナーと持ちつ持たれつの毎日。
 そんな日々の中で「自分の本来のパーソナリティーはなんだろう?」 その自己発見の要求が内面でどんどん膨らんでいくところに本当の面白さがあると思うようになってきた。

 You tubeで他の学校が演っているのを見て思った。

 ダウンロードされたキャラを精密にやっていく間に、時々「本当の自分」を気にする瞬間がある。
「キッチン作ってよ。あたし自分で料理するから!」
 という欲求で現される。そこにこだわってみて、誇張していくと、俄然芝居が面白くなってきた。
 コンクールの三日前ぐらいになると、信じられないけど、稽古場にギャラリーが出来るようになった。いわゆる入部希望の見学ではなく、美優の稽古そのものが面白く、純粋な見学者なのである。
 クラブを辞めたヨッコ達には少し抵抗があったけど、ヨッコ達は、良くも悪くもクラブに戻る気はなく、他のギャラリーと同じように楽しんでいる。他にも、ミキや、その仲間。ヒマのある帰宅部の子なんかが見に来るようになり、最後の二日間はゲネプロ(本番通りの稽古)をやっているようなものだった。

 最終日の稽古には、受売(うずめ)神社の巫女さんと神主さんまで来た。
「神さまのお告げでした」
 巫女さんは、口の重い父親の神主に代わってケロリと言った。
 そして、芸事成就の祝詞まであげてくださった。

「三十分だけ、祝賀会やろう!」

 ミキの提案で、稽古場が宴会場になった。あらかじめいろいろ用意していたようで、ソフトドリンクやらスナック菓子。コンビニのプチケーキまで並んだ。なんだか、もうコンクールで優勝したような気分。一番人気は受売神社の巫女さん手作りのフォーチュンクッキー!
「え、神社がこんなの……いいんですか?」
 意外にヨッコが心配顔。
「これは、元々日本のものなのよ。辻占煎餅(つじうらせんべい)で、神社で売ってたの。それが万博でアメリカに伝わって、チャイナタウンの中華料理屋で出すようになったのよ」

「へー」と、みんな。

「神社でも出せば、ヒットすると思いますよ」
 ユミが、提案した。
「うん、でも保健所がウルサクって。中にお神籤が入るでしょ。それで許可がね」
 世の中ウルサイもんだと思った。
 巫女さんが、頭数を数え人数分だけ紙皿に盛った。
「さあ、みんなとって!」
 あちこちで「大吉だ!」「中吉よ!」などの声が上がった。ちなみに、あたしは末吉『変化は試練なり、確実に前に進むが肝要。末には望み叶うべし』と、あった。

 素朴な疑問が湧いた。あたしの望みってなんだろ?

 コンクールは中央大会も含めて二週間で終わる。そのあと、当たり前なら「進一に戻りたい」なんだろうけど、そう単純にはならない。
 あたしは、死んだ優美の思いを受け継いでいるのかもしれず。下鳥先生の言うように乖離性同一性障害かも知れず、そうなると、統合すべき人格がいるのだけども、いまは美優でいることが自然だ。体だって完全に女子になってしまい、それに順応している。
 そして、頭の片隅にあるのが受売神社の神さまのご託宣。

 ま、末吉なんで、目の前のことをやろう。

 最後は、みんなで『恋するフォーチュンクッキー』を適当なフリでやってお開き。
「すごい、ミユ、カンコピだったわよ!」
 AKBファンのホマが感動した。
「そのままセンターが勤まる!」

 あたしはサッシーか……。

「おれ、凶だった……」
 秋元先生がバツが悪そうに言った。
「凶って、百回に一回ぐらいしかないんですよ」
 巫女さんが感心していた。

 備えあれば憂いなし、道は開ける……と、むすんであった。

 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・32『プリンセス ミナコ・14』

2019-03-09 06:50:52 | 時かける少女

時かける少女・32 
『プリンセス ミナコ・14』 
       


 ローテはモナコとの国境近くのミナコ海岸の岩場に鎖で括りつけられていた。

 ゲリラたちにも思いやりがあるのか、ローテにはビーチパラソルが掛けられていた。
「あのパラソルは、思いやりかしら?」
「いや、きっとなにかの仕掛けがされているのでしょう」
 岩場近くの林に隠れながら、ダンカン大佐が言った。背後には五十人の特殊部隊が控えている。

「お察しの通り、ローテ嬢の日焼けに気を遣うほど親切じゃない。脱水症状を起こされては気の毒なんで、スポーツ飲料のボトルが括りつけてある。ローテ嬢がいつでも飲めるように口元までチューブが伸びている」

 林近くの岩場の亀が喋った。しかし何匹も甲羅干しをしているので、どの亀がマイクを仕込んだダミーか分からない。
「それから、パラソルの上部には爆薬が仕掛けてある。不用意に近寄れば、ローテの首が吹き飛ぶ」
「くそ!」
「ダニエル君も聞こえただろう。林の部隊が陽動であることぐらいは、お見通しだよ」
 向こうの大きな岩陰で、シュノーケルの用意をしていたダニエルの部隊も停止せざるを得なかった。

「おまえたちの要求は何だ!?」
 居場所がばれたダンカン大佐は、開き直って真っ正面から聞いた。
 すると、ローテの横の二つの岩の間に横断幕が引かれた。

――王制の即時廃止、民主選挙による共和制の樹立!――

「騙されてはいけませんよ。やつらの後ろにはC国の情報機関が付いています。やつらの狙いは、ミナコ湾の海底にあるレアアースが目的なんです。王制打破は名目にすぎません。これだけの仕掛けを見てもわかるでしょう」
 ダニエルがヘッドセットを通じて連絡してきた。

「ちょっと、なんだかローテの足許が水に漬かってない?」
「お分かりでしたか、今日は大潮なので、水かさは増していくばかりです」
「満潮と重なると、どのくらいまで水位が上がるの?」
「ローテ嬢が括られている岩は波の下になります……」
「ということは、ローテは溺れ死ぬってことじゃない!?」

 ミナコは、思わず体が動いてしまった。

「いけません。やつらの狙いはミナコ王女の命そのものなのです。王女とローテ嬢の両方を一度に始末して、政権を握るのが目的なのです!」
「でも、ローテが!」
「いけません!」

 そのまま数時間が過ぎ、ローテは胸のあたりまで水に漬かりぐったりし始めた。
「もう、放っておけないわ!」
「姫、我々も手をこまねいてはおりません。衛星で状況は掴んでおります。やつらの岩陰の配置もおおよそ分かりました。間もなく空軍のジェット機がミサイル攻撃を行います」
「ローテは、どうなるの!?」
「スナイパーに、反対側の岩場で練習させました。三人で同時に撃ちます。一発は必ずパラソルの柄に当たります。そのあとは、ダニエルの部隊とNATO軍、それに我々の部隊が同時に攻撃をかけます」
「そう、ごめんなさい。ただじっとしていただけじゃないのね」
「繊細かつ大胆にが、ミナコ軍のモットーであります」

 そして時間になった。

 微かな爆音が聞こえたかと思うと、ミナコ空軍のジェット機からミサイルがぶち込まれ、三人のスナイパーはパラソルを吹き飛ばしただけではなく、ローテを縛めていた鎖も吹き飛ばし、陣地からは歓声があがった。
 三つの部隊は三方向から攻撃をかけた。

 だが、ローテは水に浮いたままピクリともしない。

「しまった、やつらドリンクに緩い睡眠薬をしかけていたんだ!」
 敵の陣地からの応戦も激しかった。やはり衛星の偵察だけでは分からない配置や工夫がしてあるようだった。

「ローテ!」

 気がついたらミナコは海に飛び込んでいた。
「王女を撃たせるな!」
 猛烈な援護射撃の中、ミナコはローテのところまで泳ぎ着き、ローテの顔を張り倒した。
「あ……わたし」
「気がついたら、さっさと逃げて!」

「動くな!」

 岩の隙間から銃口と人の顔が浮かんだ。

 その人の顔を見て、ミナコは動けなくなってしまった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・62『笑顔に見惚れて』

2019-03-09 06:43:03 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

62『笑顔に見惚れて』

 互いに驚いた。

 片桐さんは、オレが国富高校の生徒であったことを。
 オレは、片桐さんが年下でピカピカの一年生であることを。

 でも、入学式が終わったばかりの学校で話すべきではないことでは一致していたようだ。

 それ以上話すことはなく、0・5秒ほど驚いただけで、お互い知らん顔をした……。

 その日は夕方からのシフトだった。
 自転車でソレイユに、従業員用の駐輪場に停めて振り返ると、片桐さんが横断歩道を渡ってソレイユの敷地に入ってくるところだった。
「「お早うございます」」
 同じ言葉が重なった。
「びっくりしちゃった」
「ボクも」
 その言葉だけを交わして通用口から入った。
 店内では余計な話はしない。バイトとは言え、働いているんだから公私の区別はつける。片桐さんもいっしょのようだ。

 ソレイユの制服はプロバンス風だけど、大人びて見えるデザインではない。

 だけど、片桐さんが着ていると大人に見える。
 接客はもちろんのこと、立ち姿一つでもシャキっとしていて、とてもピカピカの高校一年生には見えない。
「いらっしゃいませ、ようこそソレイユへ。3名様でございますか? 禁煙席でよろしゅうございますでしょうか?」
 こんな一言でも、まるでキャビンアテンダント。
「こんなじゃないわ、ホールスタッフの第一声が店の印象を左右するの、百戸くんもがんばってね」
 感心していたら店長にハッパを掛けられる。
「今日はポスの扱いを覚えてもらうわ」
 第一声の練習をしていたらシフトリーダーに捕まる。5回シミレーションをやって自信がつく。もうお客さんを相手にしても大丈夫!
「明日の午後からでいいわ。今日はスタッフがポスを使っているのをよく見ておいて、イメージトレーニングは大事だから」
 シフトリーダーに言われて、先輩たちのポス扱いを観察。むろんホールの仕事をしながら。10回トレースすると1回は間違える。やはりまだまだだ。

 9時になって従食。従食とは従業員食事補助制度のことで、要はまかない飯。

 今日はカツカレーの超大盛り(量は好み)向かいに座っている片桐さんより二回り大きいお皿なので恥ずかしい。
「ほんと、百戸くんが食べていると美味しく感じるわね」
 片桐さんが感心する。誰と食べてもこういう感じにはなるんだけど、どうにも恥ずかしい。
「片桐さん、ポスの扱いも慣れてるね」
 恥ずかしいので話題をそらす。正直彼女の仕事ぶりに感心しているせいでもある。
「すぐに慣れるわよ。百戸くんは男の子だから倉庫整理とか回って来るわよ。あれ肉体労働だからね」
「それなら平気、そういうの慣れてるから」
 持久走でへばった紀香をオンブしたことを思い出す。学校裏から保健室まで運んで……息はきれたけど、なんとかやれた。まあ、ファミレスの荷物くらい軽いもんだ(後日認識不足であったことを思い知る)
「あら、もうお肉もカツも無くなっちゃったのね」
 オレのカツカレーは超大盛りだけど、肉やカツの量はレギュラーといっしょ。それに、オレは美味しいものは先に食べてしまう。
「ああ……」
 後から思うと、オレはとても残念そうな顔をしていたんだろう。
「あたしの半分あげるわ」
 片桐さんは、自分のお皿からカツ3切れをくれた。
「あ、ありがとう」
「ううん、あたしにはカロリーオーバーだから」
「でも……嬉しい!」
 なんともモロで、素直すぎる反応になってしまう。片桐さんがコロコロ笑う。

 で、その笑顔に見惚れて肝心のことを聞くのを忘れてしまった。
 

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