大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・6・風は吹いている

2019-03-05 07:08:39 | 小説3

メタモルフォーゼ・6

 風は吹いている       


 

 ミキちゃん、AKBの試験受けたって、ほんと?

 タコウィンナーをお箸で挟んだとき、口が勝手に動いてしまった。
 おまけに「ミキちゃん」って呼んで一瞬しまったと思う。

「うん、中学のとき受けたんだけど、おっこちゃった」
「なんで、美紀ちゃんだったら、あの秋元康さんだって一発だと思うのに!?」
 あたしの、つっこんだ質問に由美ちゃんも帆真ちゃんも真剣に耳をそばだてている。ひょっとしたら、タブーな質問だったのかもしれない。
「狙いすぎてるんだって」
「それって?」
「簡単に言うと、カッコヨク見せようとしすぎるんだって。それが平凡で、逆に緊張感につながってるって」
「ふーん……難しいんだね」
 あたしは、正直に感心してタコウィンナーを咀嚼した。俗説の「美人過ぎ」とはニュアンスが違う。
「ミユちゃんの、そういう自然なとこって大事だと思うの」
「あ、仲間さんもミユちゃんて呼んでる」
 ユミちゃんが感想を述べる。
「ほんとだ、あたしたちって、なんてっか、愛称で呼んでも漢字のニュアンスでしょ」
「そ、どうかすると、中間さんとか勝呂さんとか、よそ行きモードだもんね」
「アイドルの条件、知ってる?」
 あたしは急に思いつかなかった。正直に言えば「あなたたちみたいなの」が出てくる。
「歌って、踊れて……」
「いつでも笑顔でいられて……」
「根性とかもあるかも」
「うん、言えてる」
 二人の意見に、ミキちゃんはおかしそうに笑ってる。

「ミキちゃん、なに?」

「根拠のない自信だって!」
 そう言うと、ミキちゃんは、ご飯だけになった弁当箱にお茶をぶっかけてサラサラと食べた。
「ハハ、二人ともオヤジみたいでおもしろ~い!」
 ホマちゃんが言った。それで自分もお茶漬けしてるのに気がついて、ミキちゃんといっしょに笑ってしまった。

 昼からは体育の授業。朝、業者から受け取った体操服を持って更衣室に行く。

 ここもまあ、賑やかなこと。2/3ぐらいの子は、器用に肌を見せないようにして着替える。残りは、わりに潔く着替えている。それでもハーパンなんかは穿いてからスカートを脱いでいる。
 気がつくと、みんなの視線。パンツとブラだけになって着替えているのは自分だけだと気づいて笑っちゃう。
 まだ進二が残っているのか、美優ってのが天然なのか……でも、女子の着替えのど真ん中にいて冷静なんだから、多分美優が天然なんだろう。

 体育は、男子憧れの宇賀ちゃん先生だ。で、課題は……ダンス!?

「渡辺さんは、初めてだから、今日は見てるだけでいいわ。他の人は慣らしにオリジナル一回。いくよ!」
 曲はAKBの『風は吹いている』だった。さすがにミキちゃんはカンコピだった。ユミちゃんもマホちゃんもいけてるけど、全体としてはバラバラだった。あらためてAKBはエライと思った。
「じゃ、班別に別れて、創意工夫!」
 あちこちで、ああでもない、こうでもないと始まった。班は基本的に自由に組んでいるようで、あたしはすんなりミキちゃん組になった。

「あー、どうしてもオリジナルに引っ張られるなあ」
 ミキちゃんがこぼす。

「みんな、表面的なリズムやメロディーに流されないで、この曲のテーマを思い浮かべて。これは震災直後に初めてリリースされたAKBの、なんてのかな……被災した人も、そうでない人も頑張ろうって、際どくてシビアなメッセージがあるの。そこを感じれば、みんな、それぞれの『風は吹いている』ができると思うわ。そこ頭に置いて頑張って!」
「はい!」
 と、返事は良かった。

 練習が再開された。しかし、返事のわりには、あちこちで挫折。メロディーだけが「頑張れ」と流れている。あたしの頭の中にイメージが膨らみ、手足がリズムを取り始めた。
「先生。あたしも入っていいですか?」
「大歓迎、雰囲気に慣れてね!」
「はい!」
 と、言いながら、雰囲気を壊そうと、心の奥で蠢くモノがあった。二小節目で風が吹いてきた。
 哀しみと、前のめりのパッションが一度にやってきた。気づくと自分でも歌っていた。
――これ、あたし!?――
 そう感じながら、気持ちが前に行き、表現が追いつき追い越していく。心と表現のフーガになった。

 気づくと、息切れしながら終わっていて、みんなが盛大な拍手をしている。
 みんな、見てくれていたんだ……。
「えらいこっちゃ、渡辺さんが、突然完成品だわ……」
 宇賀ちゃん先生が、ため息ついた。

 賞賛の裏には嫉妬がある。あたしの本能がそう言っていた……。

「じゃ、今日はここまで。六限遅れないように、さっさと着替えるいいね。起立!」
 そこで悲劇がおこった。
 あたしは、放心状態で体育座りしながら、壁に半分体を預けていた。で、その壁には、マイク用のフタがあり、そのフタの端っこがハーパンに引っかかっていた。それに気づかずに起立したので、見事にハーパンが脱げてしまった。
「渡辺さん!」
「え……ウワー!」
 同情と驚き、そしておかしみの入り交じった声が起こり、顔真っ赤にしてハーパンを上げるあたしは、ケナゲにも照れ笑いをしていた。で、宇賀ちゃん先生も含めて大爆笑になった。

 放課後は、秋元先生(演劇部顧問の)のところへ直行した。

「先生、一度見て下さい!」
「台詞だけ入っていても、芝居にはならないぞ」
 先生は乗り気じゃなかったけど、勢いで稽古場の視聴覚室へ付いてきてくれた。一年の杉村も来ている。
 準備室で三十秒で体操服に着替えると、低い舞台の上に上がった。

「小道具も衣装もありませんので、無対象でやります。モーツアルトが流れている心です」

ノラ:もう、これ買い換えた方がいいよ、ロードするときのショック大きすぎる!
 
 最初の台詞が出てくると、あとは自然に役の中に入っていけた。
 先生と杉本が息を呑むのが分かった。演っている自分自身息を呑んでいる。
 これは、やっぱり優香だ。そんな思いも吹き飛んで最後まで行った。
「もう、完成の域だよ。あとは介添えと音響、照明のオペだな」
「それ、ボクがやります!」
 杉村が手を上げて、演劇部の再生が決まった。

 帰りに、受売(うずめ)神社に寄った。

 ドラマチックなことが続いて、正直まいっていた。
「こんなんで、いいんですか、神さま……」
 もう、声は聞こえなかった。
「いまの、こんなんと困難をかけたんですけど……」
 神さまは、笑いも、気配もせず。完全に、あたしに下駄を預けたようだ。

 明くる日、とんでもない試練が待っていることも、受売命(うずめのみこと)さまは言ってくれなかった。

 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・28『プリンセス ミナコ・10』

2019-03-05 06:57:19 | 時かける少女

時かける少女・28 
『プリンセス ミナコ・10』 
     


 宮殿に向かう道には、たくさんの人たちが出迎えに出ていた。いろんな人たちが……。

「半分以上は、観光客の人ね。ミナコ公国は、観光の国だから」
 お祖母様が、お天気の様子を窺うように気楽に言った。ミナコは、自分が状況によってお祖母様とお祖母ちゃんを使い分けていることに気づいてはいない。自分で思っているより順応性はありそうだ。
「お姉ちゃん、あのプラカード、『ウェルカム プリンセス』になってるよ。あ、あっちも!」
「お母さま、これは!?」
「ダニエル、朝刊あるかしら?」
「はい、どうぞ陛下」
「おやおや、みな早手回しにプリンセスだわ」
「この子は、まだプリンセスじゃありません。お母さま」
「笑顔でね、奈美子さん。この国は表現の自由は完ぺきに保証されているの。多少のフライングは大目にみてあげて」
「お母さまの、陰謀じゃないんですね?」
 奈美子ママは、笑顔でカマした。
「これを見てご覧なさいな。とてもチャーミングなミナコのセーラー服姿。だれが見てもプリンセスだと思いたがるわ」
「あ、あたしも載ってる。まるでAKBのメンバーだって!」
 AKBのメンバーの一人と真奈美の写真が並んで載っていた。
「これがミナコが自由の国である証拠。でも、節操はあってよ。真奈美ちゃんのファニーな写真なら、他にいっぱいあるもの」
「あ……ああ、そうね」
 真奈美は、日本での悪行の数々を思い出し、冷や汗を流した。

 その時、一機の放送局のヘリコプターが、進路を塞ぐように、高度を下げてきた。
「ダニエル、あのヘリコプター……」
 ダニエルは、すぐにパソコンを操作し、部下に指令した。
「あのヘリは、登録されていない。注意しろ! MINAKO放送3番機、高度を上げろ!」

 ヘリは、事故と故意の中間ぐらいの様子で、前方の道路に落ちた。4メートルほどの高さからだったので、大きくは壊れなかったが、スキッド(ヘリの足)が折れ、右に傾きローターが地面を叩いた。

 気づいたときには、ミナコはリムジンを飛び出していた。あらかじめシートベルトを外していたのだ。
 ダニエルは一瞬遅れた。部下に指示をしている最中だったからだ。

 ミナコには見えていた。ヘリのキャノピーにあの子……ローテ・ド・クレルモンがいるのが。

 ミナコは、中学までは、陸上の短距離選手だった。SPが追いつく前に、左側からヘリに近づいた。
「こ、これは……!?」
「危ない、プリンセス!」
 ダニエルが、ミナコにタックルし、地面を転がるようにしてヘリから離れた。

 ヘリは爆発することはなかったが、エンジンが燃えはじめ、ちょうど前が消防署だったので、あっと言う間に火は消された。
 ダニエルは、ミナコをリムジンに戻そうとしたが、テレビ局や群衆に取り巻かれてしまった。

「プリーズ、ドントマインド。アイムファイン。ジャスト、ア、オンリー……オンリー。リトルエクササイズ
……アンド、ソー……アイムホーム!」
 割れんばかりの拍手が起こり、全ミナコ公国のほか、全世界に生中継されてしまった。

「ミナコ、アイムホームの意味は、分かって使ったの?」
 リムジンの中で、母の奈美子から叱られた。お祖母ちゃんはニコニコしていた。
「『ただいま』って、意味でしょ。ジブリの『耳をすませば』の字幕で覚えたの。ダニエルと一緒だったから、かっこよく決めようって思って……」
「この状況で、あの言葉は、『王女になります』って宣言したようなものなのよ」
「ダニエルも追いかけるとき、『プリンセス!』って、叫んでいたものね」
「どうも、とっさのことで……」
「上出来でした。でも、ミナコ。これからはダニエルにことわってから、行動するようにね」
「はい、お祖母様」

「それから、この事件の調査は……」
「もう、始まっております」

 主従の阿吽の呼吸であった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・58『桃の一周忌』

2019-03-05 06:51:10 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

58『桃の一周忌』


 一周忌はしないんじゃないかと思っていた。

 きのう親父が久々に帰って来た。驚いたことにお袋もいっしょだった。
「明日は、桃の一周忌だからな」
 親父が問わず語りにポツリと言うと、それがスイッチであったかのように絶えて久しい百戸家の日常が戻って来た。
 お袋は、お隣りから回って来た回覧板に気づいて反対側のお隣りに持っていく、お隣りのオバサンとお袋の愛想笑いばっかりの世間話が聞こえてくる。
 親父はスポーツ新聞を広げ選抜決勝戦の記事を読んで「ホー」とか「ヨシヨシ」とか言っている。オレは冷えたキリンビールと柿の種を持ってきて親父の前に置いてやる。目だけで「ありがとう」を言って親父はビールを注ぐ。去年の三月までは桃の役目だった。
 お隣りから帰ってきて、お袋は夕飯の用意にかかる。
 いつの間に用意していたのか、野菜を刻み、冷蔵庫から解凍した肉を取り出して錦手の皿に盛りつけて行く。
「あ、そうだ……やっぱしキレてる」
 ほとんど空になった焼肉のたれをつまんで、お袋がため息をつく。
「あ、オレ買ってくるよ」
 腰を浮かすと、一瞬間を置いて「……お願いね」とお袋。去年このシュチエーションで買いに行ったのは桃だった。
 
「我が家の団らんて、ほとんどパターンなんだね」
 ベッドに横になるや否や、そう言って桃が実体化した。
「今夜は早いな」
「ウフフ、いつもよりしっかり思い出してくれているからかもね」
「……じゃあさ」
 オレは、しっかりと寝返って桃と正対した。
「ウ……近!」
「嫌なのか?」
「ううん、いきなりだったから……なんなら、このままだっちょしてくれてもいい」
「それは無し」
「む~」
「桃さ、このまま家族が桃のこと思い続けたら、復活するとかありえね?」
「それは無いよ、ゲームじゃないんだから死者は蘇らない」
「そっか……でもさ、今日は親父もお袋もいい感じだった。やっぱ、桃の存在って大きいんだよ」
「お父さんとお母さんだけ?」
「うん?」
「……お兄ちゃんは?」
「早く成仏してほしい」
「さっきの復活と矛盾してる」
「…………桃としては、どうありたんだ?」
「お兄ちゃんは彼女とかつくらないの?」
「質問に質問で返した」
「む~」
「……さ、背中かしてやるから、ヒッツキ虫になれ」
 背中を向けると、桃はいつものようにヒッツキ虫になった。

 そして今日は桃の命日、施設のお祖母ちゃんを呼んで、家族4人で桃の一周忌をやった。

 で、予想通り夕方には、親父はお祖母ちゃんを送った足で県警本部にもどり、帰るとお袋は家を出ていった……。

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