大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・003『渡辺真智香の復活』

2019-03-18 13:51:45 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・003

『渡辺真智香の復活』 

 

 

 おさおさ怠りは無いはずだった。

 

 七十三年ぶりの復活。

 復活するにあたっては条件を出してある。

 普通の女学生をやらせて欲しい。

 魔王は「そうさせてやりたいんだが……」と奥歯にものの挟まった言い方をした。魔王というのは渾身ハッタリで生きているようなところがあって、こういう時にも視線を逸らしたり、顔を背けたりはしない。自分の不手際であっても――それは魔法少女たる、お前次第だ――という責任転嫁をする。

 咎め立てていてはチャンスが逃げて行ってしまいそうなので大人しくケルベロスの車に乗った。

 あ、ケルベロスってのは魔王の秘書というか世話係。伝説では双頭の犬ということになっているが、年齢不詳の男。オッサンの時もあるしニイチャンの時もある、どうかすると少年のナリをしていることもある。ま、魔界の事はボチボチと。

 復活が許されたのは日暮里にある都立日暮里高校。

 通称ポリコウ。偏差値55という平凡な学校。平穏な女学生の生活を送るにはちょうどいいステージなんだろうけど。

 日暮里というのが気になる。東京の山の手がストンと落ちて関東平野が広がる境目に当たる。なんだか境目とか結界をイメージさせる。じっさい日暮里駅の構内には荒川区と台東区の境界がある。ほかに、駅前の太田道灌の銅像などにイワクを感じるのだが、普通の生活を目指すので詮索はしない。

 

 クラスは二年B組だ。

 ガラス窓から降り注ぐ早春の陽光にくるまれて、左手にブェルレーヌの文庫本、右手に箸を持ってお弁当を頂く。

 昭和十七年、学習院の春、級友の女生徒たちと机を囲んで以来の事。

 つい気が緩んだのだろう、陽光とヴェェルレーヌの明るさに、つい無意識に魔法とも言えぬ技を使ってしまった。

  仕方がない、ヴェルレーヌの言葉は春の木漏れ日のように調子がいいのだ。教室に残っている弁当組は、みな二三人で机を囲み、自分たちの取り留めもない談笑に余念がない。

 うかつだった。

 食堂利用者と分類されていた要海友里が息せき切って戻ってきて、自分の弁当を取り出したところで、浮遊する弁当のおかずを目撃してしまったのだ。普通に箸を使って食べていたのだが、ついヴェルレーヌに熱中し魔界の食べ方をしてしまっていた。

 え? ええ!?

 一瞬遅れておかずを弁当箱に戻したのだが、友里は息をのんで驚いている。わたしのことを気に留めない級友たちも友里に注目する。

「あ、要海さんもお弁当なんだ」

「は、はいいい!」

 友里は頭のてっぺんから声を出した。

「よかったら、いっしょに食べない?」

 友人として取り込まざるを得なくなった。

 

  講師の安倍晴美もそうだ。

 まんべんなく刷り込んでおいた疑似記憶が、こいつには効いていなかった。

 五時間目の授業に来た彼女は――窓際の席が一つ多い上に見たことのない生徒が座っている――と見抜いてしまった。

 放置しておくと「あんた誰?」と聞きそうになっているので正直焦った。

 運よく授業が遅れそうだったので、彼女は深入りしてこなかった。

 すぐに彼女のノートを書き換えて事なきを得た。まあ、今週末には期限の切れる非常勤講師、放っておいてもいいだろう。

 

 わたし、元魔法少女渡辺真智香が復活した。普通の女学生として、いや、今は女子高生というのか。

 とにかく、二度と戦わないと心に決めた。

 

 

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・03『乗れた!!』

2019-03-18 06:37:55 | 小説6

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・03
『乗れた!!』
        


 100回以上コケて自転車に乗れるようになった。

 100回以上というのは、100回目で、それ以上数えることを止めてしまったからだ。
 105回かもしれず、170回ほどかもしれない。
 数えることを止めたとといのは、不貞腐れたというんじゃなくて、ヘゲヘゲになって数える気力が無くなったから。
 尾道にいたころ、比叡山のお坊さんが『千日回峰行』という命がけの修行を成し遂げたというニュースをテレビで観た。
 お終いのころには意識ももうろうとするようで、テレビの画面を通しても、幽霊のようにやつれた姿が痛々しかった。
 わたしは、あの時のお坊さんのようになってしまっているんだ……乗れるようになったら、あのお坊さんみたいにテレビで紹介されるのかなあ……これだけやつれたら、体重の5キロくらいは痩せて、ぐっとスリムな美智子になれるんだ。そんなことを思っていた。

 ほれ、あと一周!

 京ちゃんに叱咤され、言い返す気力もなくてペダルをこいだ。
 一周と言っても、うちの駐車場だ。装甲車とか戦車とかジープとかがゴロゴロしている。その合間を縫っての一周だから、障害物競走のようなものだ。
「ゴール!」
 京ちゃんが叫んだ時には、ドウっと、自転車ごとひっくり返ってしまった。もう限界なんだ。
 やっぱ、十四歳で自転車の稽古だなんて無理なんだ……もう自転車になんか乗れなくてもいい。
 ひっくり返った目には戦車と装甲車に縁どられた空が茜色になって「もうお終い」を暗示している。

「おめでとう! 乗れたやんか!」

「乗れた? なんで?」
 いぶかしがるわたしに、京ちゃんが続ける。
「最後の一周は、あたし、後ろに着いてただけやねんで。ミッチは一人で一周したんや!」

 実感が湧くのに数秒かかった。

 自分が感動しているのは、茜色の空が滲んできたことで理解した。

「ミッチ、おめでとう!」

 番頭格のシゲさんが乾杯の音頭をとってくれた。
 お母さんは「今日あたり乗れるようになる」と踏んで、記念の宴会の準備をしてくれていた。
 駐車場にバーベキューの用意がされ、恐縮する京ちゃんも混ぜて、宴会になった。
「大阪に来て、一番目出度い宴会だなあ!」
 遅れて戻って来たお父さんやらバイトさんたちも含めて文字通りの大宴会に発展した。
 いつも仕事ばっかりのお父さんやお母さんが気にかけてくれていたのが、とても嬉しかった。

 口にこそ出さなかったけど、住み慣れた尾道を離れて大阪に来るのは辛かったんだ。大阪に来るのには、ここでは言い切れない事情と気持ちがあるんだ。

 人に気を遣われるのは苦手、苦手だから気を遣われる前に気を遣う。
 そんなのくたびれるだろう。シゲさんは言う。
「そんな、気なんか使ってないよ」と、気を遣ってしまう。

 でも、今夜の大宴会は、自分にも達成感があったせいか、気を遣っているという重しがとれた。

 それもこれも、もう生まれた時からの友だちみたくなっている京ちゃんのお蔭だと思った!
 

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高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・19・ちょっとちょっと!

2019-03-18 06:27:53 | 小説3

 


メタモルフォーゼ・19・ちょっとちょっと!    

 




 年が明けた成人式の日、メンバー最年長の堀部八重さんが卒業した。

 突然の卒業宣言に驚いたけど、八重さんの卒業の言葉で、あたしの人生が変わった。

「KGR46も、もう八年目になります。わたしは二十歳で第一期生になり、もう、今年の春には二十八になります。古いといわれるかもしれませんが、KGRとして、みなさんに夢をお届けするには、少し歳をとってしまったかな……メンバーもそれなりに歳を重ねて、少し大人びた表現をすることも多くなってきました。あ、みんながババアになったって意味じゃありませんので、怒るなよナミミ(KGRのリーダー)ナミミは永遠の少女だよ……て言ったら、今度は泣くだろ。勘弁してよ。わたしは、次のステップにすすみます。一人のアーティストとしてがんばります……で、わたしの後釜のポジションを指名していきます。あとは、チームRの渡辺美優に任せたいと思います」

 一瞬の静寂の後、会場いっぱいの拍手。あたしは実感のないまま、メンバーに背中を押されて八重さんと並んだ。
「美優は、わたしが見込んだんだから、しっかり頼むわよ!」
 そういってハグされてやっと八重さんと、そのポジションの重さ。そして、あたしに託された思いが伝わって、涙が溢れてきた。

 あたしは、この数ヶ月で、進二(だったかな?)から、美優という演劇部の女子高生になり、県の中央大会で、最優秀をとり、KGRのオーディションに受かってしまい、とうとう八重さんの後釜に指名された。まるでおとぎ話。

 高校演劇の関東大会は、急遽武道館に会場が変更された。予定していたS県のホールでは観客が収まらないからだ。
 予選のときは、ただの女子部員だったけど、今は、KGRの選抜メンバーだ。で、実行委員長の先生から、こう言われた。
「悪いけど、渡辺さんはプロなので、審査対象から外します」
「は……それは、仕方ないことですね」
「で、君の受売高校の作品は『ダウンロ-ド』……一人芝居だ。で、上演作品そのものを外さなければならない、分かってくれるね。受売の替わりには県で優秀賞をとったM高校に出てもらう」
 承知せざるを得なかった。

 最初と終わりにKGRの選抜メンバーによるパフォーマンスをやった。そうしないと、観客の九割が受売高校だけを見て帰ってしまうからだ。
 会場費は放送局が負担した。そのかわり放映権を獲得し、半分以上あたしの『ダウンロード』に尺を費やした。事実上の渡辺美優の『ダウンロード』と、KGRのコンサートみたいなものになった。 
 なんだか申し訳ない気がしたが、運営の先生方も気を遣ってくださり、貢献賞という例年にない賞を臨時に作ってくださった。

 そして、それが事実上の高校生活の終わりだった。

 県立の受売高校では、とても必要な出席日数をこなせず。三年からは芸能人が多く通うH高校に転校して、芸能活動との両立をはかった。
「オレのことなんか、直ぐに忘れてしまうかもしれないけど……これ、受け取ってくれ」
 健介が、制服の第二ボタンを外して、あたしにくれた。あたしはカバンで隠してそれを受け取った。どこでスクープされるか分からないからだ。

 健介は、いろいろ芸能記者や、週刊誌の記者に聞かれたようだけど、第二ボタンの件も含め、ネタになりそうなことは、いっさい喋らなかった。

 あたしのKGRの活動は、八重さんと同じ二十八才まで続け、卒業した。

 卒業し、ピンでの仕事も順調だった。二十九で大河ドラマの主役もやり、主演映画を含め四本の映画に出て、どうやら、女優として生きていくんだ。そう自覚したときガンになった、脳腫瘍と言った方がいいかもしれない。

 二年間治療しながら、仕事もこなした。

 そして……あの声が聞こえた。

「あなたは、二人分の人生と、その運命を背負っているの。進二と美優。だから、人生を半分ずつにした。どちらか一人にしても、あなたの寿命はここまで。よくがんばったわね」
――そうだったんだ……――
 そのあと、もう一言、そう思った。

 そうして美優と進二は永遠になった……。

 

 メタモルフォーゼ……完

 

 ちょっとちょっと!

 きれいごとで終わらせないでくれる!?

 進二、あんた、けっきょくわたしに任せっぱなしだったでしょーがあ!

 メタモルフォーゼとか言って、双子のわたしにあずけっぱなしで、高二からずっと引きこもりっぱなしじゃない!

 こんなことで幕下ろせないから、もっかい十七歳に戻ってやん直しなさい!

 ちょ、どこいくの!? 

 そっちは天国の門……させるかああああ!

 逃げんなあ、そっちは阿弥陀様の極楽!

 待てええええええええ!

 ドスン!

 あ、ごめん。

 ぶつかるつもりなかったんだよ。進二、体力無さすぎ……だめだって、ここでふらついちゃ!

 あ、そっちは地獄の入り口!

 もーー! 世話焼けんなあ!

 あやうく地獄に足を突っ込むところで、美優は進二の襟首を掴まえた……。

 

 おしまい……♡

 

 

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・3(助けた命 助けられなかった命・2)

2019-03-18 05:58:37 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・3
(助けた命 助けられなかった命・2)



 朝倉真由が通うA女学院は、最寄りの駅から歩いて八分ぐらいの高台にある。

 今朝は、この坂道に10分以上かかってしまった。
 ついさっきのことが頭から離れないのである。
 目の前でG高の女生徒が、特急に跳ね飛ばされ大惨事に……なったはずである。
――だめ!――と、反射的に思って目をつぶった。
 そして、目を開けると、G高の女生徒は、何事もなく特急が通過したあとのホームを歩いて、真由と同じ車両の隣のシートに座った。そして、A高の一つ手前の駅で降りて行った。

 坂を上って学校が近くなり、同じA高の生徒たちの群れに混ざってしまうと、あれは夢だったんだという思いが強くなった。今朝は朝寝坊して少し寝ぼけていた。だから、駅に着いた時も、頭のどこかが眠ったままで幻を見たんだ。真由は、今朝の出来事を、そう結論付けた。そう思わせるに十分な青空が真由の上には広がっている。

 学校では箕作図書館が焼けたことが少し話題になっていたが、ほとんどいつもの学校だった。真由も一時間目の英語の長ったらしい板書を写しているうちに忘れてしまった。

「朝倉さん、いらっしゃいますか?」

 昼休みお弁当を食べ終わると、見知らぬ一年生が、教室の入り口でクラスの生徒に聞いていた。
「真由だったら、窓際」
 そう言われて、その子は、ニコニコ笑顔で、真由たちのブロックに近づいてきた。ブロックの仲間が、一斉に、その子と真由を見比べた――知り合い?――仲間たちは、そういう顔をしていた。
「突然すみません。小野田沙耶っていいます。朝倉さんが一年のとき一緒だった小野田麻耶の妹です」
 そう言えば、どことなく麻耶に似ていた。でも性格は真逆のようで、上級生の教室に入ってきても、ぜんぜん緊張していなかった。真由の知っている姉の麻耶は、教室でも目立たない子で、席が近くだったので、少しは喋るという程度の仲でしかなかった。

 その妹が何の用だろう。

 南側の階段の踊り場で話をすることにした。日当たりが良くて、人目を気にせずに話ができるからである。

「今朝、G高の生徒が死にかけましたね」

 ギョッとした。

 自分自身やっと白昼夢だと整理したばかりのことであり、誰にも喋っていない。それをこの子はなぜ知っているんだろう。真由は口をパクパクさせ、額に脂汗が吹き出してパニック寸前になった。
「落ち着いてください。あのG高の子は死んだんですけど。朝倉さんが助けたんです」
「あ、あたしが? え? え? どうやって? どういうこと?」
「一瞬『ダメ!』って思ったでしょ。あれで助けてしまったんです」
「そんな、あたしに魔法が使えるとでも言うの……」
「ええ、今朝から。朝起きた時におでこに血文字が浮き上がっていたでしょ?」
「……あれも、本当にあったことなの?」
「夕べ、箕作図書館が焼けました。あれで魔道書の封印が解かれて、朝倉さんの頭に焼き付いたんです。朝倉さんの四代前のお婆さんはイギリスから来た人です。四代が限界なんです……魔道を受け継ぐの。正式な魔法の使い方をお教えしておきます。心の中で『エロイムエッサイム、エロイムエッサイム』と唱えてください。意味は『神よ、悪魔よ』という呼びかけ。コールサインですね。あとは念ずれば、たいていのことは叶います。叶わないのは『この世よなくなれ』と『わたしを殺せ』という内容のことだけです。別に使命を与えられたなんて、安できのラノベみたいに考えなくていいですから。あなたは、魔道継承の適任者だった。それだけですから」
「小野田さん、あなた……」
「落ち着いてください。真由さん、あなたは死ぬはずだった人間を助けてしまったんです、ただの恐怖心から。帳尻が合いません。代わりにいま喋っている、この子が死にます。でも、気に掛けないでください。この子は明日事故で死ぬはずなんです。それが一日早くなるだけですから。それじゃ」
 それだけ言うと、沙耶は皮肉とも励ましともとれる笑顔を残して、階段を下りて行った。

 そして、五時間目の教室移動の途中で、小野田沙耶は階段を踏み外し、首の骨を折って死んでしまった。

 真由は、死ぬべき人間を助け。たった一日とは言え、生きているはずの人間を殺してしまった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・41『女子高生怪盗ミナコ・7』

2019-03-18 05:47:32 | 時かける少女

時かける少女・41 
『女子高生怪盗ミナコ・7』 
    

  

 美少女怪盗現る! 

 三面のトップに見出しが踊った!

 と、言ってもミナコのことではない。
 ミナコは、この秋に発表された『千と千尋の神隠し』を、なんと身銭をきって観にいき、感動状態のままである。

「爺ちゃん、あたしがやってることって、やっぱ泥棒なんだよね……千尋みたいなのが、やっぱ、人間のあるべき姿なのかも……だから、ハクも助けてくれるんだよね」
「あのな、ミナコ……」
 ミナコは、縁側から吹き込んでくる夕立あとのそよ風に髪をなぶらせ、ぼんやりと空を見上げている。
「ち、イッチョマエにタソガレやがって。五十年早えぜ……」
 爺ちゃんは、新聞の切り抜きを石川五右衛門の神棚に供えると、片手拝みして、映画館に行った。

「ミナコ、おめえのは、浅いんだよ……」
「そんなことないよ。KYKで盗んできた揚げ方の通りだから、立派にきつね色だよ」
 ドロボーは、あらゆるモノに化けなければならないので、世の中の職人や技術者がやることは、その修行段階で、確実にものになっている。
「メンチカツのことを言ってるんじゃねえ。むろん、関係はあるけどよ。『千と千尋』は、道を究めた上での人間性や救済を言ってるんだ。単にドロボーを否定したもんじゃねえ。千尋は、名前と親を取られたことで覚醒していくんだよ」
 爺ちゃんは、メンチカツの二口目を囓りながら、DVDの再生ボタンを押した。

「分かったか?」
「……なんとなく」

 二人で観たのは『ルパン三世・カリオストルの城』と『ラピュタ』だった。共に『千尋』同様ジブリの作品で、ドロボーの美学について触れている。
「これを見なよ」
 爺ちゃんは、新聞の切り抜きを神棚から降ろして、ミナコに見せた。
「な、なによ、これ!?」
「一歩先を越されたな」

 新聞には、『紅のミナミ参上』の張り紙と、サーチライトで照らされたミナミの黒ずくめの全身像と、高解像したミナミの口元だけを隠した顔のアップが出ていた。
 高階屋で行われていた大英帝国秘宝展、そこに出されていたヴィクトリアという国宝級のダイアモンドをまんまと盗み、わざわざ、高階屋の屋上で決めポーズをして撮らせた写真である。このあとミナミは、高階屋の屋上裏から飛び降り、着地したときには、抜け殻のような黒装束しか残していなかった。

「ダイアモンドは換金し、元来の持ち主であるインドの1000の福祉団体に振り込む」
 達筆な茜色の文字で、添え書きが、いっしょに送られていた。
「キザな女郎だぜ」
 そういう爺ちゃんの目には、久々に闘志が湧いてきた。

「怪盗ミナミ……上等じゃない、アイウエオ順じゃ、ミナコの方が上だわよ……」
 祖父と背中合わせで、ライバル登場に燃えるミナコであった……。

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