大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・14・試食会

2019-03-13 06:30:18 | 小説3

メタモルフォーゼ・14・試食会

「中央大会のビデオ、You tubeに流してもいいかな……」

 これが始まりだった。
 特に断る理由もないし、実際よく撮れていて、単なる上演記録というのではなく、撮影作品になっていた。
 でも、それだけが理由じゃない。今や、あたしの心の核になってしまった美優には、よく分かっていた。

 思った通り、こう出てきた。

「今度、店のメニューの一新をするんで、試食に来ないか。自分で言うのもなんだけど、けっこういけるよ」

 そう、倉持健介の家は洋食屋さんで、食べ物屋が少ない街では、割に名前の通った店だ。試食会なら、相手に負担させるお金も気持ちも軽い。うまいアプローチの仕方だと思った。

 さすがに、大正時代から続く洋食屋さんで、何を食べてもおいしかった。進二だったころは、食べ物に執着心はなかった。お母さんやルミネエの水準以下の料理でも満足していた。
 でも、女子になってしまうと、俄然食べ物にうるさくなってきて、下のレミネエとプータレるようになった。
「お家で、こんなの食べてたら、学校の食堂なんて食べられないでしょ?」
「食堂なんて、デカイ物はたべられないよ」
「アハハ、座布団一枚!」
 進二だったころは、この程度のギャグでは笑わなかった。美優になってから、よく笑う。この反応の良さがクラスのベッピン組のミキたちが友だちにしてくれている理由だと思った。
 でも、相手が男子の場合は、注意しないと間違ったメッセージを送ることになる。かといって、ツンツンもしていられない。どうも美優というのは人あしらいがうまいようだ。

 そうこうしているうちに、スライドショーが始まった。

 お店の90年に近い歴史を、要領よくまとめられ、ナレーターも倉持先輩自身がやって、二十人ほどの身内とお得意さん達を感動させた。
「こうして、この店は、兄、健太が四代目の店主になることになりました」
 暖かい拍手が起こる。同時に『ボクは気軽な次男坊』とアピールしているように取るのは、気の回しすぎだろうか……と、思っていたら、それは唐突に始まった。

『ダウンロード』受売(うずめ)高校演劇部 主演:渡辺美優

 中央大会の作品が5分ほどにまとめられ、画質がいいので部分的には、かなりのアップもあり、コマワリもよく、実際よりも数段上手く見えた。
「この芝居の主演をやったのが、ボクの横にいる渡辺美優さんです」
 前に増した拍手が起こった。

「あんなサプライズがあるなんて、思いもよらなかった」
 健介は、駅まで送ってくれた。
「ああいう演出も、勉強のうち。それに美優は咲き始めた花だ。見てもらうことで、もっと伸びるし、きれいにもなる」
「きれい、あたしが?」
「うん、ミテクレだけじゃない。内面……ほら、今みたいに、驚いたことや嬉しいことに素直に、敏感に反応する。居るようで居ないよ。そういうのって、ボクは好きだ。今日はありがとう。良い勉強になった」
「勉強だけ?」

 なんてこと言うんだ!?

「美優に喜んでもらって、とっても嬉しい。美優は、そのままでもステキだけど、驚いたり喜んだりしたとき……その……」
「ありがとう。そんな風に言ってもらえたのは初めて(なんせ進二だったころは影が薄かった)」
 だめだ、雰囲気作っちゃ……と思っても、自然に反応してしまう。
「じゃ、これからもよろしくな」
 駅の改札前で手を出され、自然な握手になった。
「あ、うん。ほんとう、今日はありがとう」

 かろうじて、無難な挨拶をして改札を潜った。背中の視線に耐えられずに振り返ると、健介が笑顔で手を振った。反射的に、健介と同じくらいの笑顔で小さく手を振る。
 ホームの鏡で顔を見ると、ポッと上気して頬が赤らんでいる。

 なんだ、この反応は。絶対健介は誤解する。美優がとても性悪に思えてきた。あたしは、いったいどこへ行ってしまうんだろう……。

 そして、家へ帰ってお風呂に入る。

「美優、なにかいいことあったでしょう?」
 ミレネエが、入れ違いに言った。姉ながら、女の感覚は怖ろしいと思った。

 寝る前に、メールのチェック。
――明日、大事な相談したいの。放課後よろしく。他の人には言わないでね――

 デコメも何にもない、ぶっきらぼうにさえ見えるそれは、ミキからだった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・36『女子高生怪盗ミナコ・2』

2019-03-13 06:19:56 | 時かける少女

時かける少女・36 
『女子高生怪盗ミナコ・2』 
     



 半年は我慢した、半年は。しかしミナコの我慢にも限界があった。

「せっかく半年もかけて準備したのに、邪魔するかなあ!」
 ミナコは、スマホ片手にブチ切れながら、トイレから出てきた謙三爺ちゃんに叫んだ。
「おいらが、なんかやったかい?」
「……爺ちゃん。大したあとは消臭スプレーしてよね。臭い残さないってのは、この稼業の基本だと思うよ」
「そりゃ、仕事の上よ。我が家にいるときゃ、普通が一番」
「常日頃の心得が一番って言ったのは爺ちゃんだよ!」
 瞬間、爺ちゃんの回し蹴りが飛んできた。ミナコはポップティーンの最新号で、それを受け止めた。
「体術じゃ、もう爺ちゃんのレベル超えてるから」
 ミナコは、鼻で笑った。
「バッキャロー、今のは寸止めよ。それに、痩せても枯れても盗人の玄人、ただの寸止めじゃねえ。見開きのグラビア見てみな」

 グラビアの秋物のチュニックを着ていたモデルは、衣類一式を盗まれて、両手で胸と前を隠していた。
「もう、買ってきたばっかなんだよ!」
「はいはい……」
 爺ちゃんが、グラビアのオネエサンをスリスリしたかと思うと、次の瞬間オネエサンは、元の秋物の衣類を身にまとっていた。びっくりしていると、ポニーテールの首筋に微かに違和感を感じた。
「ウ……」
 胸の圧迫感がゼロになった。目の前で、爺ちゃんがストラップレスのブラをヒラヒラさせている。
「孫娘のブラ取って、どういう了見してんのよ!」
 ミナコは、爺ちゃんからブラをふんだくると、タンクトップの裾から手を入れて0・2秒で身につけた。
「まあ、そこに座んない」
 ミナコは、大人しくテーブルを挟んで爺ちゃんの前に座った。
「今までは、家の中でも気配を消せって言ってきたな、おいら」
「うん、泥棒道のイロハだって」
「そりゃ、あくまで仕事のためだ。試しに、もっぺんトイレの臭いかいできな」
 トイレには、臭いはおろか、人がいた気配もなかった。
「爺ちゃんの手見てみろい」
 ミナコは、爺ちゃんのグーをした手に顔を寄せた。とたんに爺ちゃんは手を開き、悶絶するような臭気があたりに満ちた。不覚にもミナコは、隣の六畳まで逃げて、一瞬気を失った。
「爺ちゃんね……あ!?」

 今度はミナコのパンツをヒラヒラさせていた。

「もう、スケベエジジイ!」
 ミナコは、ふんだくると、襖の陰に入り0・5秒で身につけた。
「その尻はまだオボコだな」
「もう、なんで、そこまで覗くかなあ!」
「覗いちゃいねえ、見えるんだよ。この家の鏡はダテにぶら下げてあるんじゃねえ」

 家の中には、何気ない鏡や光りものがあるが、それが器用に反射して、家のどこからでも家の中の様子が分かるようにできている。防犯カメラなどという野暮なモノは、この家にはない。

「じゃあ、本題に入えろうかい……」

 気を抜かれたミナコは、大人しく座り、爺ちゃんの目が刹那、鋭く光った……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・66『さらなる変化』

2019-03-13 06:14:31 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

66『さらなる変化』


「なんで小さくなってしまったんだ?」

 1/4に縮んでしまった桃に聞いた。
「お兄ちゃん、顔デカすぎ」
 桃は目を左右に泳がせながら文句を言う。
「キョロキョロすんな」
「だって、どっちの目みていいか分からないんだもん」
「どっちって、なんだよ?」
「ふつう人間て、相手の顔見て話すじゃない。それって相手の目を見てるってことなんだよね。この距離で顔つき合わせてると、左右どっちの目を見ていいのか……で、キョロキョロしちゃう。アハハ、小さいって、なんだか新鮮な発見があるね」
「発見しなくていいから」
「お布団、まるで雲の上みたいだ!」
 桃はゴロゴロと布団の上を転がって、オレのお腹にぶち当たる。まるで小型犬か猫のようだ。
「おー、フニフニで気持ちいいよ~!」
「ちょ、やめ、くすぐったい! 人のお腹で遊ぶな!」
「キャハハハ、肉のカタマリ~!」
「アハ、アハハハ、や、やめろ、やめろって、ウハハハ」

 じゃれつかれているうちに、小さくなった謎を聞くのを忘れてしまった。

 登校の途中で出会う顔ぶれが変わってきた。
「設楽さんて、こんな時間だったっけ?」
 生徒会会長の設楽さんといっしょに校門をくぐったので驚いた。彼女はもっと早いイメージだった。
「桃斗が早くなったんだよ」
 八瀬がさらりと言う。
「え? だって、いつものようにお前といっしょじゃん?」
「桃斗が早くなったんだろ、オレは釣られて早くなってるんだと思う」
「そうなのか?」

 早くなったのは登校時だけではなかった。

「フフ、早く来ても時給は増えないわよ」
 妹背店長に言われてしまった。いつものように歩いているようで、どうやら速度が上がっているようだ。
「百戸くん、やっぱスリムになってきてるわよ」
 片桐さんが言いだし、休憩中のメンバーが盛り上がって、荷物用の重量計に載せられてしまった。
「オ、102キロよ!」
 先週からさらに5キロ減っていた。

 しかし102キロは立派にデブの範疇だ。

「梁の上は、わたしがやります」
 緊急なガス工事のため、午後の2時間臨時休業になった。
 働き者のバイト仲間の発案でエントランスの模様替えをすることになった。で、ホールとの境目にある梁の上のディスプレーを飾り変えることになった。
 アルミの脚立が立てられて、片桐さんが手を上げる。オレはただ一人の男手なんだけど、さすがに100キロを超えるオレに登れと言う者はいなかった。スマートな片桐さんが名乗りを上げるのは自然な流れであった。
「……こんなもんでいいですか?」
 ディスプレーの位置を的確に直して、片桐さんはフロアーの人間に聞いた。
「いいんじゃないかな。ドンピシャで決められるなんて、片桐さん才能だよ」
 脚立から少し離れたところで、オレは正直に感心した。彼女の空間把握というかバランス感覚は秀逸だ。
「じゃ、下りま~す」
 片桐さんはニンマリしながら脚立を下りはじめた。
「ア……うわー!」
 ディスプレーを見ながら下り始めた片桐さんはバランスを崩してしまった。
「「「「「危ない!!」」」」
 フロアーのみんなが声を上げた。オレは、滑り込むようにして片桐さんを受け止める。
「ナイスキャッチ!」と「キャー!」が同時に起こった。

「あ、あーーーーー!」

 片桐さんを受け止めて、オレの左手の指が片桐さんのブラウスを引っかけてしまっていたのだった……。

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