大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・006『安倍晴美の疑問に答えて』

2019-03-21 15:00:15 | 小説

魔法少女マヂカ・006

『安倍晴美の疑問に答えて』 

  語り手:安倍晴美

 

 1+1=2

 

 世界で一番単純な数式、これを疑う奴はいない。世界の常識……なんだけど。

 高校生の時にこんなことがあった。

 授業中居眠りばっかりしてる男子が居た。特に成績が悪いわけでもないので先生たちも注意をしない。

 ある日、数学の先生が、寝てるそいつを当てた。

「おい、〇〇」

「先生、こいつ起こしても起きませんよ」

 委員長が控え目に言う。

「起こしてるんじゃない、質問してるんだ」

 男子は『質問』という言葉に反応した。馬鹿でも不良でもないので、起こされると起きないが『質問』と言われると、それなりに反応するのだ。

「〇〇、1+1はいくらだ?」

 世界の常識、小学一年でも分かる問題なので「えーと、2です」と答えた。

「え、なんつった!?」

 先生は真面目な顔で驚いて、繰り返した。

「もう一度聞くぞ、1+1はいくらだ? いくらなんだ?」

「え……2……です」

「2、2だとお!?」

 周囲の者がクスクス笑う。わたしも笑ったんだけどね。

「1+1だぞ、1+1!」

「えーと……」

「1+1の答えは1だろーがあ! もっかい聞くぞ、1+1の答えは!」

「あ、と……1です」

 教室は大爆笑になり、男子は「え? え?」とうろたえるばかりだった。

 

 なんで、こんなことを思い出したかというと、二年B組の渡辺真智香のことだ。

 

 周囲から聞こえてくるのは――渡辺真智香は入学時からずっと居る――というもので、中には中学時代の真智香のことを知っている者もいる。

 だけど、わたしには違和感がある。

 先日B組に授業をしに行って――こいつは誰だ?――と思ってしまったんだ。瞬間見た自作の座席表にも渡辺真智香どころか、真智香が座っている席すら無かったのだ。授業進度が気になったので、そのままにした。

 職員室に戻って、あれこれ調べると、真智香は入学以来存在していたという情報ばかり。さっき確認した自作の座席表にも、座席と共に真智香の名前があった!?

 勘違いか。

 一度は納得しかけたが、今月いっぱいで終わる非常勤講師がもう三か月延びることになり、再び疑問が深くなる。

 そこで、高校時代の1+1問題を思い出したのだ。

 ほんとうは、わたしが正しいのではないだろうか……?

 

 そんな疑問をいだきながらの仕事帰り、日暮里駅の太田道灌像の横、横断歩道を渡って駅に入ろうとして気配を感じた。

 道灌像の台座に隠れるようにして黒い犬がいたのだ。

 世間の犬は首輪が付いて、首輪にはリードが付いていて、リードを持った飼い主がいるものだ。

 ところが、そいつは飼い主がいないどころか、リードも首輪も付いていない。こいつは、今や文学作品の中にしか存在しない野良犬というやつか?

「いいえ、野良犬ではありません」

 なんと、犬が喋った。

「驚かせてすみません、そのままで、ちょっと話してもいいですか?」

 日暮里駅を目の前にして、目玉だけ道灌像の下の犬を見続ける。

「犬が、なんの用?」

「先生がお気になさっている渡辺真智香のことでございます」

「真智香のこと!?」

「お静かに、お顔は駅の方を……」

「真智香が、どうよ?」

「あれの正体は魔法少女でございます。先日復活いたしまして二年B組の渡辺真智香になりました。周囲の方々には疑似記憶を刷り込んでありますが、いかんせん、安倍先生には記憶の刷り込みが通用いたしません。小細工を弄しては、かえって先生や周囲の方々を混乱させるだけと存じまして、こうやってお願いに上がっておる次第でございます」

「魔法少女って……昔アニメとかでしか見たことないんだけど」

「はい、実際に存在するのでございます。詳しいことを申し上げる暇はございませんが、真智香、ホーリーネームはマヂカでございますが、マヂカのことは先生の胸に収めて接してはいただけないでしょうか。先々の事は分かりませんが、必要なことが起こりましたら、先生にもお知らせするということで……いえ、けしてご迷惑をおかけするようなことはいたしません。先生のお気を煩わせぬよう気を付けますので、よろしくご了解ください」

 黒犬はペコリと頭を下げた。

「で、あなたは何なのよ? 白戸家のお父さんなら白犬だし」

「申し遅れました、魔王の秘書を務めておりますケロべロスと申します。それでは失礼いたします……」

 視界の右端から黒犬の気配が消えた。

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・06『北に向かう』

2019-03-21 06:17:05 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・06
『北に向かう』
        


 我が家は外環に面している。

 外環、正式には国道170号線。四車線の道路にひっきりなしに車が通っている。大阪の幹線道路なんだろうけど、地理に詳しくないので、どんな道路なのかよく分からない。わたしにとっては、ただやかましい道路。窓を閉めきっていても、地の底から響いてくるような自動車の音が聞こえる。大型のダンプなどが通ると、音だけじゃなくて地響きが伝わる。
「ま、そのうち慣れるで」
 お隣りの『畑中園芸』のおじさんはにこやかに言う。
 その畑中のおじさんも、うちからM4戦車を出した時にはタマゲテいた。
 うちは戦車とかの特殊車両のレンタルとかをやっているので、ご近所の迷惑やら輸送の便利さのために、この秋に越してきたのだ。
 子どものころから聞きなれているので、戦車の地響きには驚かない。でも、ダンプの地響きには慣れない。ひょっとしたら大型車両が高速で走る時の低周波とかが影響しているのかもしれないけど、番頭のシゲさんは「ちがう」と言う。シゲさんは、この道のプロなので、そうなんだろう。いつか畑中のおじさんみたく慣れるのかもしれない。

「みっちゃん、この自転車に乗ってみるかい?」

 シゲさんが、M8グレイハウンドの横に立てかけてある自転車を、ニヤニヤしながら顎でしゃくった。
「あー、そんなのムリ」
 見るからにミリタリー丸出しの自転車。オリーブドラブに塗装されたイカツイ自転車。
 一見小さく見えるけど、装甲車や戦車だらけのうちのヤードで見ると、とてもとても小さく見える。ほんとは28インチもあって、サドルを最低まで下げても地に足が着かないだろう

 で、お母さんから譲り受けたオレンジチャリで休日の我が町にくり出す。

 目の前の外環を渡って、その向こうに行ってみたい気持ちはあるけど、高安山に向かってずっと上り坂になっているので「ま、そのうちに」ということでシカトする。

 えーと……

 家の前で悩むのは初めてだ。
 家を出るのは、いつも朝。学校に行くためだから、なんの迷いもなく南に向かって、すぐの角を曲がる。

 そうだ、北に行ってみよう!

 ハンドルをぶん回して北に向かう。
 北に向かっただけで景色が違う。なんというのか、南に向かうと太陽が前にあって、景色には影がある。影があると遠近感が強調され、豊かに見える。
 北に向かうと、景色はベタに日差しを受けてノッペリして見える……う~ん、初めて踏み込む北方向なんで、そう感じるのかもしれない。ま、引っ越して三カ月余りの新鮮さ……かな?

 新発見はすぐにやってきた。

 スーパー出股のデッカイ看板が目に留まる。
 うちは忙しいので日々の買い物は生協に頼っている。生協はトラックのデリバリーなので、多分お母さんも知らないだろう。
 さっそく自転車を停めて探検。
 お財布には千円ちょっと入っているので、お菓子とかあったら買っていこう。

 黄色いレジかご持って店内へ。

 入って直ぐが野菜なんだけど、それはスルー。
 商品を全部見ていたら、途中でくたびれる。それに探検の途中なので、ここで全精力を使うわけにはいかない。
「あ、これだ!」
 叫んでしまうところだった。
 一袋19円の生麺が冷蔵陳列棚に山積みだ。京ちゃんが言ってたのはこれなんだ。
 おうどんだけじゃなくて、中華麺やら焼きそば麺、鍋用の細うどんまである。
 思わず買おう! と思ったけど、お母さんにも段取りがあるだろうと自制する。
 お握り各種が49円! うん、お八つ用だ! 二個をカゴに。
 ポテチも89円! ちょっと袋が小さいかなと思って二個ゲット。
 すると、シゲさんの好物の干しイモも89円。二個と思ったけど、踏みとどまって一個。

 思わぬ買い物で、自転車の前かごがいっぱい。ま、今日は帰るか!

 北への旅は、わずか三百メートルほどで打ち止め。
 シゲさんに干しイモをあげたら恐縮された。
「そんな高いもんじゃないから」
 と、値段を言うと、シゲさんはスーパーに突撃しに行った。
「お母さん、北の方にスーパーがあってさ!」
 戦況を報告すると、ぶら下げたレジ袋を見とがめられ「ブタになるよ」と一言。
 でも、干しイモの大人買いしてきたシゲさんとスーパーのチラシを熱心に見ていたところを見ると、十分有意義ではあったようだ。

 さ~ポテチポテチ( ´艸`)

 レジ袋を逆さにして出てきたポテチの袋は大きかった。
 うちの軍用自転車と同じで、スーパーの陳列棚では小さく見えるようだった。

 二袋は多かったと学習しました。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・6(The witch training・2)

2019-03-21 06:06:09 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・6
(The witch training・2)



「さて、なにからやろうか……」

 沙耶がハチ公前で呟いた。
「あの、頭にリングのかかった人は何?」
 群衆の中に三人ほど天使のようなリングが付いた人を見つけて真由が聞いた。
「ああ、三日以内に死ぬ人。ちゃんと見えるんだ」
「沙耶も、ああだったわけ?」
「そうよ。で、知らないあなたが見つけて助けたもんだから、あたしが沙耶の体に入って代理をしてるわけ。魂は、もう向こうの世界に行ってるから、助けちゃだめ。助けると、あたしみたいなのが代わりに体に入るか、意識が戻らずに眠ったままになる」
「あ、バツ印が付いている人がいる!」
 それは、歩きスマホの女の子だった。沙耶は急いで呪文「エロイムエッサイム」を唱えた。すると、スマホが手から滑り落ち、女の子は立ち止まって、拾おうとした。その瞬間目の前を猛然とダッシュしたスーツ姿の男が駆け抜けて行った。
「待て!」
 そう叫びながら、人相の悪い革ジャンの男が追いかける。通りの向こうからも一人。そして街路樹の横からも二人のオッサンが駆け出し、スーツ姿は、スクランブルの真ん中で乱闘の末に捕まった。
 真由は混乱した。まるでヤクザが、善良な市民を拉致したように見えたからである。
「な、なにあれ!?」
「鈍いなあ、人相の悪いオッサンたちが警察。で、スーツ姿が振込詐欺の主犯。アジトから一人逃げてきたのを、張り込んでいた警察が捕まえたとこ。ほら、人だかりになるから交番からお巡りさんが出てきて、交通整理し始めた」
「さっきのバツ印の子は?」
「ほら、ピンクのセーター、野次馬の中に居るでしょ」
「あ、ああ。でもバツ印が無い」
「バツ印は、突発の事情で本人の自覚も了解もなく死が迫っている人。あの子、逃げてくる犯人にぶつかられて転倒。打ち所が悪くて死ぬとこだった。ああいう人は救けていいの。リングが付いた人でも赤い人は、まだ魂が抜け切れていない。時と場合によっては助ける。ピンク色やら白はダメ」
「沙耶も、ああだったの?」
「そう。酷なこと言うけど……リングの人を助けると、代わりに死ぬ人が出る。死に方は様々だけど、確実にね」
「じゃ、あたしが助けたのは……」
「魔法って、そういうものなの。落ちてくる爆弾は避けられても、それは別のところに落ちるだけ。場合によっては、犠牲者の数が増えることもある」

 真由は落ち込んでしまった。

「デリケートなんだ真由。この程度で傷つかれたんじゃ……そうだ、灯台下暗し。ハチ公に頼もう」
 沙耶が指を鳴らすと、人ごみの中から秋田犬が現れた。
「じゃ、散歩しながら話そうか?」
「犬が喋った!」
「びっくりするほどの事じゃないわ。テレビのCMでも、普通に喋ってるじゃない」
「あれは北大路欣也さんでしょ」
「まあ、魔法の世界って、そういうものなの。じゃ、ハチのおじさんよろしく」
「調子がいいんだから沙耶は。じゃ、真由ちゃん、一回りしようか」

 ハチの姿は見えているようで、道行く人たちも避けてくれる。心配した言葉は、実際に声に出さなくても通じるようで、ハチと真由が会話していてもいぶかる人は居なかった。

「さあ、渋谷も広い、ゆっくり話そうかい……」

 真由とハチ公は、とりあえず道玄坂に向かった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・44 『女子高生怪盗ミナコ・10』

2019-03-21 05:58:45 | 時かける少女

時かける少女・44
『女子高生怪盗ミナコ・10』
  



 新潟空港から拾った車で某海岸に着いた時には、とっぷりと日が暮れていた。

「こんな所まで連れてきて、何をしようと言うのよ?」
 沈黙服従の催眠術が解かれて辻貴子議員が、意外に小さな声で聞いてきた。
 一つには庶民党党首としてのメンツ。もう一つは、女子高生の姿に戻り、すっかり少女らしい姿になったミナミとミナコへの油断からであった。

「お母さん、何を言ってるのよ、海を見たいと言ったのはお母さんじゃないの」
「そう、わたしはいつも庶民というみなさんの海の真ん中に居ります。わたしは、この海の景色が一番好きなんです! そう、前の選挙でも言ってたじゃない。だから、今日は、こうして海を見にきたんでしょ?」
「あなた達は、いったい何者なのよ?」
「それは、これからここに来るオジサンたちに聞いた方がいいわ」
「オジサン?」

 まるで、辻貴子の言葉が合図であったかのように、一人の気のよさそうなオッサンが、短くなったタバコを吹かしながら近寄ってきた。

「このあたりに、タバコ屋はないかい。これ喫ったら、タバコがきれちまうもんでね」
「オジサン、この土地の人じゃないのね、言葉に訛りがないわ」
「ああ、仕事で来てるだけなんでね」
「タバコ屋は、近くにはないわ」
「そうか、それは残念だったなあ」

 そう言うと、オッサンは、ちびたタバコを砂浜に落として踏み消した。すると、岩場の陰から五人の男が駆けてきて、あっと言う間に三人に猿ぐつわをし、二人で一人を担ぎながら、岩場に隠してあったゴムボートに乗せると、沖を目指して走り出した。
 その間、ミナミとミナコは怯えたフリ、辻貴子は分けが分からず、満足に声も出せないまま沖の母船に連れて行かれた。船にはさらに八人の男達がいるのが分かったが、ことごとく外国語だった。
 三人は、猿ぐつわだけを解かれて、手足を縛られたまま狭い船倉に放り込まれた。

「なんですか、あなた達は、こんな事をして、ただじゃ済まないわよ。わたしは……」
「その先は言わない方がよろしゅうございますよ、辻さんの身分が分かったら、あのオジサマたち、きっと辻さんを海に捨ててしまいますわよ」
 ミナミが、辻をたしなめた。ミナコは手足の縛めを自分で解いて、小さく伸びをした。
「辻のオバサン、否定したい気持ちはよく分かるんだけど、これは、辻さんが一番否定したい現実なの。それ分かっていただくために、新潟まで来て頂いたの。猿ぐつわを解いたのは分かる?」
「女性に、度を超した乱暴はしないからでしょ!」
 ミナミとミナコは品の違いはあるが、笑い出した。
「猿ぐつわしたままだと、船酔いしてゲロ吐いちゃったら窒息しかねないでしょ。生きて連れて帰らなきゃ意味無いから。もちろん庶民党の辻さんなんて、大物連れて行く気はないから、ばれたら命はありません。ミナミさん、用意はいい?」
「よろしくてよ、この向こうがキャビン。男が一人眠ってるから、その人は、そのまま眠らせて。わたくしは、先に船内を歩き回って、残りのオジサマたちに正しいシバリ方を教えてあげます」
「OK、あたしは右舷の方から、落ち合うのはブリッジということで」
「じゃ……」
 一瞬閃光が走り、薄い鉄の壁に人がやっと通れる穴が開いた。ライオンさんの火の輪くぐりのようにキャビンに躍り出ると、ミナコは一瞬のうちにオッサンを縛り上げ、猿ぐつわをした。
「ゲロ吐くんじゃないわよ、窒息するから……ムリムリ、甲賀流の緊縛術、あんたには解けないわよ」
 そして、右舷側に回り、出くわしたオッサン五人を、同様に縛り上げた。六人目はデッキにいた。海岸で声をかけてきたオッサンだ。
「タバコ喫うなら、日本製にしなよね。煙の臭いでバレてたよ」

「乗員全員確保、異常なし」

 そう、ブリッジで声をかけあって終了。そのあと新潟の海保に無線連絡をして、引き取りにきてもらうことにした。

「ち、あれだけのことをやったのに完全に無かったことにされちゃったね」
「でも、痛手は相当のものよ。庶民党は、立ち上がれないでしょうし、来年あたりには内閣が直接うごくわ。事の顛末は、ぼかし抜きで、またJRのCMの間に挟んでおくわ」
「じゃ、また機会があったら、いっしょに仕事しよう」
 これだけの内容を読心術を使って交わしたあと、渋谷の駅のホームの上りと下りに別れていった二人の泥棒娘であった。
 

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