大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・009『条件』

2019-03-25 15:08:02 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・009

『条件語り手・ユリ   

 

 

 お料理の練習をしたいので調理室を使わせてください。

 

 用件を言うと徳川先生の目は針のように細くなった。

「何のために料理の練習がしたいのかしら?」

 答えようとすると、マチカに先を越された。

「将来のためです」

「将来の、どういうことのためなの?」

「良き家庭人、良き職業婦人になるためです」

「良き家庭人、良き職業婦人とは?」

 畳みかけるような質問に、マチカが先を越してくれてよかったと思う。

「家庭においては良き妻、良き母、良き嫁、良き生活人になるためです。職業婦人としては、家事の柱である調理に長けることによって、職場にいる時は、より仕事に集中できると考えます」

「ふむ、簡潔な答えね。脇坂先生は、どう思います?」

 徳川先生は、安心して部屋を出て行こうとしていた脇坂先生に声を掛けた。

「は、あ……意欲の高さはけっこうなんだけど、えと……良き母とか職業婦人とか言うのはどうなんだろ」

 わたしもヤバいと思った。良き母、良き妻、良き嫁、職業婦人……なんかNGな言葉のように思える。

「そうね、言葉の意味を言ってもらえるかしら」

 ほら、絡んできた。

「良きを着けた言葉に順序はありません。女は『良き』を付けたいずれか、あるいはいくつかになるのだと思います」

「妻、母、嫁、生活人、職業婦人……その通りかなあ、いかがですか脇坂先生?」

「……生活人という範疇以外の言葉には、ちょっと女性蔑視の臭いがするかなあ」

「言葉に罪は無いと思います。あるとすれば、言葉を使う側、聞く側の感性ではないでしょうか」

 よく分からないけど、マチカの押し出しはすごい。

 徳川先生が足を組み替えたよ、なんか本格的に攻められそう……。

「続けて」

「妻がダメなら『女性配偶者』、母は『女性親権者』、あるいはフランス式に『親一号』あるいは『親二号』でしょうか。嫁は『息子の配偶者』、職業婦人は『女性労働者』になるかと思いますが、言葉としてこなれていないですし、会話に用いるには長すぎます」

「『婦人』というのはどうかしら、婦という文字は女偏に箒と書くでしょ、女は箒持って掃除でもしてろって蔑視の意味があると思うんだけど」

 気弱な脇坂先生にしては、よく言うと思う。徳川先生は、ちょっと意地悪そうに腕を組んでいる。

「それは間違いです」

 はっきり言う……でも、大丈夫、マチカ?

「帚と箒は違います。失礼します」

 マチカはホワイトボードに二つの字を書いた。えと……違いは?

「婦人の方は、竹冠が付いてないでしょ。清掃用具の箒には竹冠が付いてるの」

 あ、なるほど……で、意味の違いは?

「竹冠が無い方、つまり婦人の方はね、神さまにお供え物をするときの神聖な器を現わして、転じて、神に仕える神聖な女性を意味する。田んぼで力を発揮するって『男』って地よりも高尚なんです」

「そうなの?」

「よく知ってるわね渡辺さん。そうよね『婦人』を抹殺したから『看護婦』とか『婦人解放運動』とか使えなくなったしね」

「その分『主婦』などはそのままですし……」

 脇坂先生が視線を避けたぞ。

「すみません、言葉が過ぎました」

 マチカは脇坂先生に美しく頭を下げた。

「よし、調理室の使用は許可しましょう」

 ヤリーーー!

「ただし、条件があります」

 緊張する。

「なんでしょうか?」

「まず、後片付けをキチンとすること」

「「「「はい!」」」」

「もう一つ、たった今から『調理研究同好会』ということにしなさい」

「同好会ですか?」

「生徒の集まりというだけでは恒常的な施設利用は認められません、同好会の看板を掲げること。いいわね」

「はい」

「……」

 一瞬目を丸くして脇坂先生は準備室を出て行った。

 

 そして、われわれ四人は『調理研究同好会』になってしまった。

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・10『無駄に真っ直ぐ』

2019-03-25 13:24:07 | 小説6

 ひょいと自転車に乗って・10
『無駄に真っ直ぐ』
        


 


 真っ直ぐな道ってめったにない。

 碁盤の目のような京都の道だって、たいてい微妙に歪んでいる。
 聞きかじりだけど、大阪で真っ直ぐな道というと御堂筋。それも、淀屋橋から心斎橋にかけての二キロほどで、心斎橋から南は微妙に屈折している。

「わ、真っ直ぐ!」

 思わずブレーキレバーを握った。
「え、え、なにが?」
 京ちゃんは惰性で、二メートルほど進んで停まった。
「ほら、この道、チョー真っ直ぐっぽいよ」
「え……ん、そういえばそうかなあ」
 あまり関心のなさそうな返事が返ってくる。もともと返事を期待してのことじゃないので、わたしの感動は続く。
「ね、ちょっと走ってみようよ!」
 京ちゃんの返事も待たないでペダルを踏んだ。「ちょ、ミッチー!」という京ちゃんの声は十メートル以上後ろになっていた。

 歩道の狭く、二車線の道は自動車がビュンビュン走っているけど、歩道と車道の脇を拾いながら突き進んだ。

 ついさっきまでは、久宝寺の寺内町の痕跡を見たくて近鉄の線路沿いを走っていたんだけど、八尾駅を西に十分ほど行った交差点でビビっときた。ひょいと見た二車線が、果てしなく真っ直ぐなのに感動して今に至っている。
「ほんま、ミッチーて面白いなー」
 赤信号で追いついた京ちゃんは面白がっている。
 わたしは、ついこないだ自転車に乗れるようになったばかり。
――自転車に乗れたら世界が変わるよ――
 京ちゃんの言った通り。一時間でも空いていれば、あてもなく自転車で走っている。「八尾の道はラビリンスだから」というシゲさんのアドバイスで遠くには行かない。行きたい時は京ちゃんに付いて来てもらう。
「府道21号線やね」
「京ちゃん詳しい!」
「ハハ、道路に書いたあるでしょ」
 なるほど、道路に長細い字で書いてある。
「あ、この先に木村重成のお墓があるよ」
「え、ほんと?」
 京ちゃんもわたしも『真田丸』のファンだ。主役の幸村も好きなんだけど、大坂方の若武者の木村重成くんも好きだ。最終回で討ち死にした時は思わず「死ぬなー!」って叫んでしまった。

 車の流れが途切れる瞬間があって、思わず車道の真ん中寄りを全速で疾走。
「なんだか、このまま飛んでいけそう!」
「自転車でか!?」
「世界が広がるって言ったじゃない!」
「おーし!」
 
 でも、木村重成のお墓には、たどり着けなかった。

 二台続けてクラクションを鳴らされたところで萎えてしまい、東大阪へ2キロの標識を見て挫折した。

 帰ってからネットで検索した。

 なんと府道21号線の真っ直ぐな部分は『大正飛行場』の滑走路の跡だった。
 ラビリンスの中の滑走路、あのまま飛んで行けそうに思えたのは、飛行機のソウルみたいなのが憑りうつったからなのかもしれない。

 八尾という街が面白くなってきた。

 とりあえず木村重成くんのお墓を探してみよう。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・10(促成魔女初級講座・座学編・2)

2019-03-25 13:14:40 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・10
(促成魔女初級講座・座学編・2)



「なぜ生涯一度も負けなかったかわかるかのう」

 武蔵は独り言のように言って、庭を眺めている。ただ、言葉の直後に鹿威しの音が入って、真由の心に突き刺さる。
「……負ける戦いはしなかった。ハハ、なんだか言葉遊びのように聞こえるかもしれんが、戦いの極意はこれしかない」
「あの……それだと、あたし、だれとも戦えません」

 真由の正直な答えに、武蔵は方頬で、清明は遠慮なく、ハチはなんとなくニンマリと笑ったような気がした。

「あ、変なこと言いました?」
「いや、正直な答えでけっこう。ここからが話よ」
 武蔵は端正に座っているように見えながら、どこにも力が入っていない。かといって打ち込めば、必ず反撃されるようなオーラがあった。真由の気持ちが分かったのだろう。清明があとを続けた。
「巌流島の話はしっているかい?」
「えと……佐々木小次郎さんに勝ったんですよね。たしか武蔵さんの一番大きな勝負……でしたよね?」
 うかつに多く口に含んだ濃茶は、いささか苦かった。
「あれ、まともにやっていたら武蔵さんの負けだったんだ」
「あの試合、武蔵さんは、わざと遅れてやってきた。悠々と小舟の中で櫂を削って、長い木刀をつくりながらね。小次郎はさお竹と言われるぐらいに長い刀を、すごい速さで繰り出してくる。で、わざと遅れて小次郎をいらだたせた。そして普段の二刀流は使わずに、船の中で作った櫂の木刀をぶらさげて、こう言った。『小次郎破れたり!』遅れてやってきて、お前の負けだって言われれば、たいていの者は多少頭にくる。平常心を失っちゃうね。ここまでならハッタリなんだけど、武蔵さんは畳みかけるように、こう言った『おぬしは鞘を捨てた。その刀は二度と鞘にはもどらん。おぬしの負けだ』」
「ハハ、小賢しいハッタリにちがいはない。いつも使っていた二刀流を使わなかったのも、小次郎の早さに着いていけない可能性が高かったから……そして、二刀流の武蔵が、長い木刀……意表をついたまでのこと」
「ジャイアント馬場って、プロレスラー知ってる?」
「えと……アントニオ猪木の師匠のプロレスラーですね」
 真由はスマホで検索して答えた。
「あの人は、元々はプロ野球のピッチャーだったんだ。最初に長嶋さんと勝負した時は三振をとっている」
「え、そうなんですか!?」
「背の高い人でね。とんでもなく高いところから球が飛んでくるんで、バットの軸線が合わせられないんだ」
「よい例えだ。野球は慣れてしまえば、あとは目と腕で勝てる。剣術は、そうはいかん。一度でも負ければ死ぬということだからな。巌流島勝利の主因はそこにはない。わしが勝てたのは、そうやって死地を選ぶ余裕ができたからだ」
「シチ?」
 ハチが、自分の兄弟の事をいわれたのかと耳を立てた。
「死人の死に地球の地とかく。文字通り、相手にとって勝てない死の地点だ」
「武蔵さんは海を背に横に走り、小次郎の刀の軸線を殺した。つまり、小次郎が振り下ろした瞬間には、わずかに自分の位置がずれる場所まで走った。あせった小次郎は、それを補うために大刀を横ざまに振った……その瞬間、小次郎の上半身は無防備になる。そこを、すかさず武蔵さんは跳躍して、小次郎の脳天を木刀で打った。計算とアドリブの見事なコラボだ」
「それは、買い被りというもの。勝負は死地を選べた霊力。これは、そのときの清明殿から伝授されたものだ」

 武蔵は平気で濃茶を飲み干した。

「座学は、ここらへんでよいであろう。清明殿、真由どのを実地訓練に出そう。式神の作り方を教えてやってはいかが?」
「そうですね、それが、とりあえず役に立つ」

 清明は葉書大の和紙と鋏をもってきた。いよいよ実践編にはいるようである……」

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高校ライトノベル・時かける少女・48『女子高生怪盗ミナコ・14』

2019-03-25 12:52:57 | 時かける少女

時かける少女・48 
『女子高生怪盗ミナコ・14』 
 



  


 階段をつづら折れに降りると、目の前にとんでもないものが目に飛び込んできた!

 そこには、なんと戦艦大和が古武士のように鎮座していた。
「これって、どこかの映画のセット、かっぱらってきたの!?」
「それとも、ご趣味でお作りになった実物大のレプリカでございますか!?」
 ミナコとミナミは、それぞれの趣味と感覚で驚いた。こういうところにも育ちが出るものだと爺ちゃんは思った。

「これは、宇宙戦艦大和だ」

「宇宙戦艦……」
「ヤマト……?」
 二人で一人前の質問をした。

「見ればわかるだろう。あんなカタカナのプラモデルのようなものではない。外見は、あくまでも旧日本海軍の誇り、無用の長物とも言われた戦艦大和だ。わしは坊津沖で、無惨に撃沈させるような愚はおかさん。こいつは、パパブッシュのころにアメリカの公文書を手に入れ、脅しあげて、宇宙人の死体を借り受けた」
「死体なんて、どうしたの?」
「なあに、ヤツラは死んだふりをしとるだけだ。アメリカに技術を与えんためにな。わしらは、そのへんの情報はキチンと掴んでいる。ここに来たら、すぐに蘇生した。そして、地球を救うために、彼らに協力してもらって、この大和を作った」
「よく、世間に漏れずに作れましたね?」
「池之宮の先々々代も、宇宙人の手を借りておられた。そうでなければ、あの時代にイ007号のような潜水艦はつくれん」
「宇宙人の協力があれば、もっとすごいものが作れたんじゃございません?」
「日本は、一度敗れる必要がある。池之宮の先々々代は、そう考えておられたようだ。それが正しかったかどうかは、もう少し時間がたたなければわからんだろうがな……」

 それから、ミナコたちは、大和の周りを一周した。青灰色の艦体は圧倒的だった。戦うという機能を極言にまで追い求め、カタチにすれば、これ以上のものはないだろう。

「お爺ちゃん、少し本物のニオイがする……」
「わたくしも、艦首と主砲のあたりに……」
「さすがだな。艦首の最前部と、主砲は本物を流用している」
「つまり盗んできたのね」
「ばか、生き返らせたんだ。さあ、中に入るぞ」

 中は無人かと思ったが、人の気配がする。艦内の通路の向こうに人が居た。

「あ……」
 その姿形は、ミナコそっくりだった。ブリッジに着くまでに、五人出会ったが、服や階級章の別はあったものの、みなミナコにそっくりで、ミナミなんか、吹き出し掛けていた。
「彼女たち、アンドロイドなんですね」
「ああ、船の保守点検には、どうしても人型のロボットが必要なんでね」
「でも、あたしソックリにしなくったって。なんだか気持ち悪い」
「その秘密はな……」

「艦長、お待ち申し上げておりました」

 一人だけ、ミナコとは違うタイプのアンドロイドが敬礼した。
「紹介しておこう。副長のフサコだ」
 爺ちゃんは、きまり悪そうに、頭を掻いた。
「ミナミちゃんとミナコちゃんね。あなたたちには、両舷の火器の管制をやってもらいます」
「はい……声、聞き覚えがある」
「そう、それは嬉しいわ。わたしはね……」
「いや、わしから言おう。このフサコは、ミナコの婆さんの若い頃の姿がモデルなんだ」
「え、お婆ちゃん!?」
「ここでは、副長と呼んでね。艦長も」
「宇宙人が、アンドロイド一号を作るときに、艦長の補佐役で、もっとも適任な人間をモデルにしたら、わたしになったわけ。ちなみに、この人の情報もみんな、わたしのCPUに入ってるから」
「艦の中じゃ、艦長だろうが!」
 珍しく、爺ちゃんがムキになった。
「で、乗り組みのアンドロイドを作るときは、わたしの計算。ミナコのタイプが一番だと分かってね」
「なるほど……」

 他人のミナミは、すぐに理解できたが、ミナコ本人は、やっぱり納得できなかった。

――あたしって、もう少し可愛くって、プロポーションいいと思うんだけど――

「では、大和発進します!」
 副長が、そう言うと、お爺ちゃんは頭の上がらないカミサンに命ぜられたように、でもカッコだけはつけて頷いた。

「大和発進ヨーイ!」爺ちゃんの沖田艦長のような声が響いた……。

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