ひょいと自転車に乗って・13
おー戦車!
植木職人さんたちは、そう叫んで喜んでくれた。
二十八日は職人さんたちの仕事が混んでいたので、年の明けた一月二日に来てもらったのだ。 石田さんたちは、散髪なんかも済ませて、革ジャンやらイタリア製のジャケットやらまちまちだったけど、仕事中とは違って垢ぬけて粋な姿であるという点では、うちのシゲさんたちと共通。職人魂というのは業種が違っても同じなようで、シゲさんたちとも意気投合している。 石田さんたちは戦車の周りを一回りして、トドメの歓声を上げる。
「ガルパン!」 「「「「「コンバット!」」」」」
トドメの歓声は二種類になった。
「パンとちゃうで、戦車やで!」
石田さんが言う。
「パンじゃないですよ、ガールズパンツァー!」
「「「「「ガールズパンツ!?」」」」」
「いや……」
「これのどこを指したらパンツになるねん?」
「じゃなくて、ガールズ……」
「葛西君、リビドー高過ぎやで」
石田さんたちが、ジト目で葛西さんを見る。
「ハハハ、これですよ」
シゲさんが、等身大のポップを持ってくる。わたしでも知っている西住美穂のポップだ。
「ああ、アニメのキャラですか?」
と言いながら、まだ分かっていない様子に、葛西さんの熱い説明ト-クがさく裂した。
「な~るほど、こんなアニメがあったんですなあ!」
石田さんたちが納得したのは、葛西さんのトークではなく、うちの事務所のプロジェクターで『ガルパン』のプロモを観てからだった。
「これはよろしいなあ」
「あれは、サンダース学園のシャーマン戦車なんですなあ」
百聞は一見に如かず。プロモを観て納得した石田さんたちは、すんなり納得して外に出て、再びシャーマン戦車を取り囲んだ。
「ミッチャン、ちょっと……」
シゲさんが耳打ちしてきた。
「え、あ、うん分かった」
あたしは事務所の奥で着替えることになった。
プレハブみたいな事務所なんで、着替えていても外の声が聞こえる。
「これはレプリカですか?」
「いえ、本物ですよ。うちの社長がアメリカで見つけましてね、やっと年末に届いたんです」
「戦車なんて、何億円もするんとちゃいますか?」
「ピンキリですね、これはエンジンがオリジナルじゃないんで、特価で三百万ほどです」
「えー、ちょっと小マシな自動車程度でんなー!」
「ただ、輸送費が本体価格の二倍もかかりましたがね」
「あー、そうですやろね! 植木でも大きいのを輸入したりすると、輸送費はバカになりませんからね」
「植木もですか!?」
「いや、お互い見えない苦労がありますなあ」
「「「「「「そーですなあ!」」」」」」
戦車屋と植木屋さんが輸送費で共感しあった。
「「「「「「オーーー!」」」」」」
オジサンたちが輸送費以上の感嘆の声を上げた。
「あ、あははは、ども……」
恥ずかしいという言葉が続くんだけど、我が家の業務の一環なんだろうと我慢した。
「ほんまもんのガルパンや!」
わたしが着替えた衣装は、ガルパンあんこうチームの戦車服。
アニメじゃ可愛いんだけど、コスプレ衣装は、どうにもスカートの短さが気になる。 戦車に載ったり、オジサンたちと記念写真したり盛り上がる。
砲塔に上がって決めポーズをした時に気配を感じた。
ゲートの柱の陰に隠れて、あの男の子が見えた。
ほら、高安中学の体育館の角で佇んでいた……。