大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・13『ガルパン戦車!』

2019-03-28 07:15:14 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・13

『ガルパン戦車!』        
 

 

 おー戦車!
 

 植木職人さんたちは、そう叫んで喜んでくれた。
 

 二十八日は職人さんたちの仕事が混んでいたので、年の明けた一月二日に来てもらったのだ。 石田さんたちは、散髪なんかも済ませて、革ジャンやらイタリア製のジャケットやらまちまちだったけど、仕事中とは違って垢ぬけて粋な姿であるという点では、うちのシゲさんたちと共通。職人魂というのは業種が違っても同じなようで、シゲさんたちとも意気投合している。 石田さんたちは戦車の周りを一回りして、トドメの歓声を上げる。

「ガルパン!」 「「「「「コンバット!」」」」」
 

 トドメの歓声は二種類になった。

「パンとちゃうで、戦車やで!」

 石田さんが言う。

「パンじゃないですよ、ガールズパンツァー!」

「「「「「ガールズパンツ!?」」」」」

 「いや……」

「これのどこを指したらパンツになるねん?」

「じゃなくて、ガールズ……」

「葛西君、リビドー高過ぎやで」

 石田さんたちが、ジト目で葛西さんを見る。
 

「ハハハ、これですよ」
 

 シゲさんが、等身大のポップを持ってくる。わたしでも知っている西住美穂のポップだ。

 「ああ、アニメのキャラですか?」

 と言いながら、まだ分かっていない様子に、葛西さんの熱い説明ト-クがさく裂した。
 

「な~るほど、こんなアニメがあったんですなあ!」
 

 石田さんたちが納得したのは、葛西さんのトークではなく、うちの事務所のプロジェクターで『ガルパン』のプロモを観てからだった。

「これはよろしいなあ」

「あれは、サンダース学園のシャーマン戦車なんですなあ」

 百聞は一見に如かず。プロモを観て納得した石田さんたちは、すんなり納得して外に出て、再びシャーマン戦車を取り囲んだ。

「ミッチャン、ちょっと……」

 シゲさんが耳打ちしてきた。

「え、あ、うん分かった」

 あたしは事務所の奥で着替えることになった。
 プレハブみたいな事務所なんで、着替えていても外の声が聞こえる。
 

「これはレプリカですか?」

「いえ、本物ですよ。うちの社長がアメリカで見つけましてね、やっと年末に届いたんです」

「戦車なんて、何億円もするんとちゃいますか?」

「ピンキリですね、これはエンジンがオリジナルじゃないんで、特価で三百万ほどです」

「えー、ちょっと小マシな自動車程度でんなー!」

「ただ、輸送費が本体価格の二倍もかかりましたがね」

 「あー、そうですやろね! 植木でも大きいのを輸入したりすると、輸送費はバカになりませんからね」

「植木もですか!?」

 「いや、お互い見えない苦労がありますなあ」

「「「「「「そーですなあ!」」」」」」

 戦車屋と植木屋さんが輸送費で共感しあった。

「「「「「「オーーー!」」」」」」
 

 オジサンたちが輸送費以上の感嘆の声を上げた。

 「あ、あははは、ども……」

 恥ずかしいという言葉が続くんだけど、我が家の業務の一環なんだろうと我慢した。

 「ほんまもんのガルパンや!」
 

 わたしが着替えた衣装は、ガルパンあんこうチームの戦車服。  

 アニメじゃ可愛いんだけど、コスプレ衣装は、どうにもスカートの短さが気になる。 戦車に載ったり、オジサンたちと記念写真したり盛り上がる。
 

 砲塔に上がって決めポーズをした時に気配を感じた。
 

 ゲートの柱の陰に隠れて、あの男の子が見えた。

 ほら、高安中学の体育館の角で佇んでいた……。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・13(楽観的リフレイン・1)

2019-03-28 07:03:44 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・13 (楽観的リフレイン・1)
 

 

 この角曲がったら……武蔵がいるような気がした。
 

 那覇の国際通りでのバトルが終わって、清明とハチと何か話したような気がしたが、真由はロクに覚えていなかった。 ただ、敵の名前が孫悟嬢で、負けて消滅したのではなく、まだHPに余裕を残しながらの戦略的撤退であることが「ああ、またやるのか……」という気持ちとともに残っているだけだった。 そのあと、清明の山荘にテレポした。今度は、いきなり山荘の中ではなく、山荘に通じる山道だった。
 

 で、柴垣の角を曲がって、山荘の庭に入ると宮本武蔵がいるような気がしたのである。
 

 ちがった。
 

 回遊式日本庭園には似つかわしくない、アイドル姿の女の子が、まるで握手会のようにニコニコして立っていた。

「あ、ウズメさんじゃないですか」

 清明も驚いていたが、真由ほどに意外そうではない。

「どうも、今日は、アマテラス様のお使いでまいりました」

「うん、そういう格好も、ウズメさん、いけますね」

 ハチが、その横でワンワンと吠える。

 「ハチは、古事記通りのトップレスの姿がいいそうです」

 真顔で清明は、真顔で犬語を翻訳した。

「うそ、ハチも似合ってるって言ってます。あたしだって犬語分かりますぅ」

「ハハ、話は面白い方がいいと思って」
 

 気づくと、庭園を回遊し、四阿(あずまや)に向かっている。

「真由さん、ご苦労様でした。思いのほか大変な敵が出てきたので、アマテラス様が、急いで話を付けて来いとおっしゃって、わたしをおつかわしになりました。ご存じだとは思うんですけど、わたし天宇受売命(アメノウズメノミコト)っていいます」

「えと……雨の?」

「ああ、やっぱ、学校で記紀神話習ってないと分かんないわよね」

 ウズメは、軽くため息をついた。

「アマテラスさんが、弟のスサノオの乱暴に腹立てて岩戸に隠れちゃうじゃない。で、世の中真っ暗闇になって、困った神さまが一計を案じ、岩戸の前でヤラセの宴会やるだろ。そのときMCやりながらエキサイトして、日本初のストリップやった女神さん」

「ああ、むかし宮崎駿のドキュメントで、そんなアニメが出てた!」

「芸能の神さまでね。タレントになる子は、みんなお参りにいく庶民的な神さま。でも、そのウズメさんが、なんでまた?」     

 清明が聞いたところで、庭を見晴るかす四阿についた。
 

「国際通りに出ていた式神と孫悟嬢は、琉球独立運動のオルグなの。思った以上に数が多かったのでアマテラスさまも、ご心配でわたしをおつかわしになったのよ」

 「あの、オルグって?」

 「えと……工作員のこと」

「え、中国の?」    

 鹿威しの音がコーンと響いた。
 

「中国の何千万人かの人たちの想いが凝り固まって出てきた変異だと思う」

「割合は低いけど、中国は人口の分母が多いから。思ったよりも強力になってきたみたい」
 

 庭では、ハチがスズメを追い掛け回している。ハチも犬なんだなと、真由は気楽に思った。

 「スズメはね、トキとタンチョウと並んで中国の国鳥候補のベストスリーなの。得点稼ぎのスパイかもね」

「ここの結界は完全だよ」

 「牛乳箱の下に鍵……昭和の感覚ね」

「この四阿にも結界が張ってあるよ」

 「あの、ウズメさんは、あたしに御用が?」

「そう。お願いと覚悟を決めてもらうためにやってきました」

 ウズメは姿勢を正して、真由に向かい合った。
 

「これからは、日本を守るためにリフレインな生活を送ってもらいます」
 

 真由はリフレインの意味を思い出していた……たしか、繰り返しの意味だった。

「もう一つ意味があるわ。refrain from~で、何々を我慢するって意味もね」
 

 そういうウズメは、とびきり可愛かったが、目はびきりの真剣だった。

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高校ライトノベル・時かける少女・51『正念寺の光奈子・1』

2019-03-28 06:39:16 | 時かける少女

時かける少女・51 

『正念寺の光奈子・1』         
 

 

 そぼ降る雨の中、ぼんやり暮れなずんだ通りに面して葬儀会館の灯りが控えめに浮かんできた。
 

 ひなのが死んだ実感は通夜に至っても湧いてこなかった。
 

 その死が、あまりに唐突であったこと。その死に顔が、あまりに安らかだったせいかもしれない。

 ひなのは、中学からの友だちで、二人揃って演劇部だった。
 

「あ、見積書足りない。一っ走り行ってきます」
 

 それが、ひなのの最後の言葉だった。

 道具に使う布地の下見に行って、その種類が多いので、もらったサンプルと見積書を見比べていて、ケコミ用の布地の見積もりが抜けていることに気づいた。 うちの生徒会は、こういうとこに厳しく。ベニヤ一枚、釘一本買うにしても、見積もりを取らないと、予算執行……つまり、買いに行くことができない。
 

 最後の瞬間は笑顔だったそうだ。
 

「おばちゃん、見積もりが……」
 

 そう言いながら、ひなのは道を渡ろうとした。ゆるい三叉路の向こうから、セダンがやってきて、一旦停止もしないでYになった道の右上からやってきて、「く」の字に折れ曲がった角のところで、ひなのを跳ねた。ひなのは、ボンネットに跳ね上げられたあと、お店の柱に体をぶつけ、店内の布地の山につっこんで意識を失った。 救急車が来たときには心肺停止状態で、搬送された病院で死亡が確認された。頸椎が骨折し、中の神経が切れて、ほとんど即死ということだった。
 

 知らせを受けて病院に行ったとき、ひなのは霊安室に寝かされていた。ひなののお母さんは、妹のまなかちゃんを抱きしめて、泣きじゃくっていた。お父さんは青い顔をして、口を一文字に結んでいた。
 

「すみません、わたしが見積もりを取りに行かせたばっかりに」

  顧問の篠田祐理先生が、目を真っ赤にして、頭を下げた。

「先生が悪いんじゃない。悪いのは跳ねた車です!」

 お父さんが、吐き捨てるように言った。そして堰を切ったようにお父さんの頬を涙が濡らしていった。
 

 ひなのを跳ねたのは、白っぽいセダンのレンタカーで、まだ逃走中だということだった。祐理先生は、そのまま、病院に残っていたお巡りさんから事情聴取を受けていた。こういう場合、被害者の行動の原因になった人間は全て事情を聴取される。

「光奈子ちゃん。葬儀会館まで来てもらえないか」

「え、あたしがですか?」

「光奈子ちゃんちお寺さんだろ……それに、オレ失業中で……葬式なんか始めてだから。その……」

「わかりました、じゃ、ひなのをうちのお寺に」

「いや、バイト先の社長が、葬儀会館をとってくれたんで、そっちに……で、こまかい打ち合わせに付き合ってもらえないかな」
 

 そして、光奈子は葬儀会館の営業のオバサンを前に、ひなののお父さんと並ぶことになった。
 予算は、精一杯150万円。正直きつい。

「ひなのは菊の好きな子だったから、祭壇は菊にしてください。受付は、お父さんのお友だち……いけますか。学校関係は、うちの先生がやります。屍衣は制服を着せてやってください。お通夜のお料理は助六、まだ暑い季節ですから……」

 光奈子は、持っている知識を駆使して値切り倒した。

 最後の問題は宗旨である。

「たしか……浄土宗です。お寺さんにはいくらぐらいかかるでしょう……?」  

 営業のオバサンは、黙って指三本を出した。

「三万ですか」 「いえ、その……」 「三十万……」
 

 で、光奈子は宗旨替えを提案した。光奈子の家は浄土真宗である。それぞれの開祖は法然と親鸞で、いわば師匠と弟子の関係、それほどの違和感は無い。
 

 その夜、光奈子は夢を見た。
 

 宇宙戦艦ヤマトの中で、敵と戦っている夢である。艦長はお父さん……でも、今のお父さんではない。謙三という大泥棒、乗り組みは、泥棒仲間のミナミと、あとはよく覚えていないが、自分自身によく似た女の子たちであった。激しい戦いの中、目の前が真っ白になった。
 

「ミナミ、ちょっと思い出すのが早すぎる。別のミナミになってもらうわ」
 

 あたしにそっくりな……でも、あたしとは、まるで違うあたしが命じた。

 夢は三十分ほどで忘れてしまったが、しっかりしなければと思った。
 

 幼なじみといってもいい、ひなののお通夜だ。
 

 受付について、お父さんである正念寺の住職が仏説阿弥陀経を唱え、親族の焼香が始まった。 祭壇のひなのは、きりっと口を結んで正面を向いた顔をしている。この写真は光奈子が選んだ。お母さんは写真を見るだけで泣き崩れてしまうので、お父さんに頼まれて選んだ。
 いつも明るく笑顔を絶やさないひなのだったけど、それが仮面だったことは、親友であるあたしが一番分かってる。そういう思いで選んだ、演劇部に入部したときの写真である。期待と不安。そして、なによりも、ひなのらしい決意がそこには現れていた。イキイキとした決意、これがひなのにはよく似合う。
 

「これは、わしからの香典だ」
 

 通夜が終わった後、お父さんは光奈子を呼び、お布施の中から三万円を抜いて渡した。光奈子はお布施の厚みから、最初の金額は分かっていた。多分十万円。失礼にならず、そして気持ちの伝わる金額を、父は渡したのである。
 光奈子は、明日の葬式も手抜かりなく済ませるために、葬儀会館のコーディネーターとの打ち合わせに臨んだ……。

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