大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・15・カオルさん

2019-03-14 07:08:35 | 小説3

メタモルフォーゼ・15・カオルさん        


「そこを右に曲がって……」

 ビックリした。いつのまに後ろにいたんだろう、ミキが声を掛けてきた。


 放課後、大事な話があると言うわりには、ミキは普通だった。放課後になっても相談持ちかける気配さえなかった。
 こりゃもう解決したんだな。そう思って一人で学校を出た。すると今みたく、あたしの後ろに忍び寄って声をかけてきたのだ。
 あたしたちは、少し距離を開けて角を曲がった。突き当たり近くにハイカラな一軒家があった。ミキは、あたしを抜いて、その家に入っていった。

「おじゃましまーす」「いらっしゃ~い」
「カオルさん、奥の部屋借ります」「はい、どーぞ」

 慣れたやり取りで奥に進む。家は遠目にはハイカラに見えたけど、廊下の腰板や窓枠に塗り重ねられたペンキから、相当な年代物であることがしのばれる。廊下を突き当たって奥の部屋に入ると驚いた。庭に面した所は三枚の大きなガラス張り。天井も三分の一が天窓になっていて、半分温室みたく、いろんな花が鉢植えになっている。
「すごいお花ね!」
「うん、カオルさんの趣味。あたしはゼラニウムぐらいしか分からないけど」

 そこにカオルさんが、ロングスカートにカラフルなケープを肩に掛けて紅茶のセットを持って現れた。

「あなたが美優さんね。美紀が言ってたよりずっと華があるわ」
「ほんと、たくさん花がありますね」
「ミユ、あんたのことよ。華のある子だって」
「華だなんて、そんな……」
「美紀の相談相手には、確かだわ。しっかりお話するのよ。じゃ、わたしは向こうに居るから」

 カオルさんは、そう言うと、きれいなメゾソプラノで鼻歌唄いながら行ってしまった。

「あの人は?」
「カオルさん。お母さんのお母さん……」
「え、お祖母ちゃん!?」
「シ、その言い方は、ここでは禁句だから」
 まだ鼻歌は続いている。
「歌、お上手ね……」
「元タカラジェンヌ……はい、どうぞ」
 ミキがハーブティーを入れてくれた。
「で、なによ、相談って?」
 ミキが顔を寄せてきた。
「実はね……」
「え……!」

 部屋中の花もいっしょに驚いたような気がした……。

 というわけで、あたしは神楽坂46のオーディション会場に居る……ただの付き添いだけど。
 ミキは、アイドルの夢絶ちがたく、このオーディションを受ける。でも前の失敗があるので、受けることそのものにためらいがあった。
 お祖母ちゃん……カオルさんは、ミキが小さい頃から宝塚に入れたがっていた。で、ダンスや声楽なんか中学までやっていた。で、AKBぐらい軽いもんよ、と受けたら、見事に落ちてしまった。
 宝塚とAKBではコンセプトが違う。カオルさんは、それが分かって居なかった。オーディションの評は「狙いすぎている」だった。
 カオルさんは孫を宝塚に入れることは諦めたが(なんせ兵庫県。経済的な問題と、肝心のミキが宝塚にあまり関心を示さなくなった)今のアイドルぐらいなら十分なれると、再度のアタックになったわけである。
 だが、最初の失敗がトラウマになり、なかなか次のオーディションが受けられなかった。
――あたしは(あたしの孫が)アイドルのオーディションごときに落ちるわけがない!――
 で、相談を持ち込まれたわけである。
「ねえマユ、あたし、いけるかなあ!?」
「いけるよ、もちろん!」

 それ以外に、答えようある!?

 でも、現場まで付いていくことになるとはね……。

「次ぎ、21番から25番の人……あれ、25番、25番は、渡辺美優さん!」
 係のオニイサンがどなっている。なんであたしが!?

 スタジオの入り口でミキが25番のプレートを持ってゴメンナサイをしていた……。

 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・37『女子高生怪盗ミナコ・3』

2019-03-14 06:57:28 | 時かける少女

時かける少女・37 
『女子高生怪盗ミナコ・3』 
     



 戯れに恋はすまじき……長火鉢に煙管(きせる)をコンとやって、お爺ちゃんが言った。

「なんのことよ?」
「トボケんじゃねえ、爺ちゃん、この二月から、ずっと見てたんだぜ……」
 新しいタバコを詰めて煙管に火を付けた。
「だから、なによ?」
「ミナコがコナ掛けてるつもりのあんちゃんよ。保科正隆とかいう、ちょい遊び人気取りの青二才」
 爺ちゃんは口からドーナツ形の煙を吐き出し、ミナコの首を絞めるような格好になった。
「なんで、爺ちゃんが保科クンのこと……」
「藤三アニイの代わりにAのムショ出たときから分かってるさ」
 爺ちゃんは、長火鉢の引き出しからクラクションに驚いて仲良くびっくりしているミナコと保科クンのアップの写真が出てきた。

 ザップーン!

 ウオータースライダーから飛び出したミナコは水面で二回転半して着水した。あたりにいたガキンチョが目を丸くしてたまげている。別に派手なパフォーマンスをやろうとして、やったわけではない。
 今日は、保科クンから、ヅブリ映画の『風邪ひきぬ』を誘われていたが、理由を付けて断った。主観的には恋の手練手管である。四度に一度くらいのペースで、デートの申し出を断る。一段優位に立ちながら、相手の気持ちを引きつけておくための初歩のテクニック……の、つもりであった。
 
 でも、爺ちゃんの指摘が影響していない……とは言えなかった。

 爺ちゃんは、保科クンの家の間取り、防犯カメラの位置、金庫の場所から番号、主要取引銀行のキャッシュカードの番号まで調べ上げていた。ミナコが半年の付き合いの中で、まだ調べ上げていない内容まで含まれている。

「あたしの目標は、もっと高いの!」

 行きがかり上タンカは切ってきた……言い訳であることは、半分自覚していた。学校一番のセレブである保科クンの家から、ほんの二三百万いただいて、家のセキュリティーを調べる稽古台にしようとしたのである。だから、目標は、ほとんど果たしたと言ってもいい。それをダラダラ続けているのは、手段だった保科クンとの恋人ごっこが、いつのまにか本気になってきた……図星かもしれない……そう思う自分が居た。

「目標は、保科グループの株券よ!」

 と、カマしてしまった。
 爺ちゃんは、方頬で笑いながら、やれるもんならやってみろという顔をした。
 別に爺ちゃんに対する意地からだけではない、保科クンへの思いは、あくまで本業のための手段に過ぎない。
 そう自分に言い聞かせ、それを証明するための目標値のインフレーションのつもりであった。

 目標のため……だから、まだクチビルまでしか許していなかった。

「そういうもんは、稼業離れた世界のためか、よっぽどの大仕事の手管のためにとっとくもんだ」

 爺ちゃんに説教されるまでもなく、この稼業のイロハとしてミナコは理解していた。でも、爺ちゃんの一言は鋭く、予定を変更して、一人で、このプールにやってきたのである。

 ミナコは、凄腕の泥棒であると共に十七歳の女子高生なのである。

 目の端に気配を感じた。

 映画を観にいってるはずの保科クンが、視野の端に入ってきたのである。それも、清楚なワンピ水着がよく似合うカワイイ子を連れているではないか!

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・67『どうなってるんだ?』

2019-03-14 06:49:43 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

67『どうなってるんだ?』

 背中の方から抱えたので、片桐さんの様子が分からなかった。

「「「「あーーーーー!!!」」」」というオーディエンスの声で、とんでもない事態になっていることを感じた。

「す、すみません!」
 立ち上がった片桐さんは、真っ赤な顔でブラウスの前を掻き合わせていた。
「あ……怪我とかしなかった?」
「う、うん、大丈夫……やだ、ボタン取れてる!」
 片桐さんは、休憩室に飛び込んだ。
 オレの左手には片桐さんを抱えた感触が残っていた。オレの脳みそは、その時に起こった事態を感触ごと忘れろと言っていた。

 ガス工事が終わると、いつもより忙しいディナータイムになり、アクシデントのことは飛んでしまった。

「今日はありがとうございました」
 帰り道、片桐さんの言葉で思い出してしまった。
「あ、とっさのことだったから」
「とっさにあれだけのことが出来るのはすごいわよ。百戸くんが救けてくれなかったら、きっと頭とか腰を打っていたわ、ひょっとしたら救急車……だったかも」
「でも、なんだか失敗した」
「どうして? わたし、お蔭で怪我一つないわよ」
「いや、その…………」
 オレは無意識に左手を開いて見た。
「あ、そっちの手だったんだ……」
「え、あ……」
「ちょっと再現……」
 片桐さんは歩きながら背中を預けにきた。ホワッと髪の匂いがする。
「左手ってことは、わたしも左を下に落ちたのよね。で、左手まわして……」
「う、うん」
 おずおずと左手を彼女の左側に回す。熱中した彼女はその左手を掴んで立ち止まってしまう。なんだか社交ダンスの練習のようになってしまう。
「この左手は腋の下を通って……なーるほど……」
「え、なんか納得いった?」
「うん、納得いったわ」
「どういう風に?」
 この一言が余計だった。
「ひょっとして、どさくさ紛れ……とかね」
「え?」
「だって、ブラウスの第三ボタンが取れて、ブラがずり上がって右の胸をムギュって。でも、この体勢なら自然にこうなるわよね。ハハハ、すっきりした」
 そう言うと、片桐さんは歩き出した。何事もキチンとしておきたい性分なんだろうけど、アッケラカンとやれてしまうのは、けっこうな破壊力だ。

 オレもキチンとしておこうと思った。

「どうして、そんな風になってしまおうと思ったんだ?」
 その夜、1/4サイズで現れた桃に聞きただした。
「えと……お兄ちゃんて、そんなこと気にするタイプだったっけ?」
「かもな」
「んん……じゃ、実寸に戻してみるね」
 横になった桃の上に25%というのが現れて、タクシーのメーターのように数字が変わり100%になった。
「よし、これで実寸だ」
 ベッドの上で、桃は元のサイズに戻った。パソコンの画面の拡大率を変えるのに似ている。
「やっぱ、桃は原寸大がいいんじゃないか?」
「ちょっと触ってみそ」
「え……またエッチてか?」
「フフ、盛り上がったらね……髪とか撫でてみて」
「あ、うん」
 
 桃の髪に伸ばした手は、そのまま頭を突き抜け、つんのめったオレは桃と重なってしまった。一瞬押しつぶしてしまったのかと思った。

「どうなってるんだ?」
「実寸大になるとね、3D映像みたくなってしまって、実体が無くなってしまうの」
「え、ええ!?」

 驚愕するオレに、桃は優しく、でも、とても儚げに微笑むのだった……。

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