大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・2・歩いて帰る!

2019-03-01 06:28:05 | 小説3

メタモルフォーゼ・2・歩いて帰る!     

    


 幸い秋の日はつるべ落とし。駅までは、そう気にせずに歩けた。  

 でも、駅の明るい照明が見えてくると足がすくんだ。女装の男子高校生なんて、へたすれば変態扱いで通報されるかもしれない。
 それよりも、このラッシュ時、満員のエスカレーター、ホーム、車両。ただでも人間関係を超えた距離で人が接する。絶対バレル!

 家の最寄り駅まで三駅。歩けば一時間近くかかる……。

 でも、ぼくは歩くことにした。

 近くに、このあたりの地名の元になった受売(うずめ)神社がある。その境内を通れば百メートルほど近道になる。鳥居を潜って拝殿の脇を通れば人目にもつかない。

「あ……!」

 石畳の僅かな段差に躓いて転倒してしまった。
「気いつけや……」
「すみません」
 とっさの事に返事したが、まわりに人の気配は無く、常夜灯だけが細々と点いていた。幻聴だったのか……こういうことには気の弱いぼくは真っ直ぐ神社を駆け抜けた。

 神社を抜けると、このあたりの旧集落。そして団地を抜けると人通りの多い隣り駅に続く。カーブミラーや店のショ-ウィンドウに映る自分をチラ見して、なるべく女子高生に見えるようにして歩いた。
 演劇部なので、基礎練習で歩き方の練習がある。その中に女の歩き方というのがある。
 全ての女性が、そうであるわけではないけど、一般に一本の線を踏むように歩く。足先は少し開くぐらいで、歩幅が広いほどハツラツとして明るい女性に見える。思わず春の講習会のワークショップを思い出し、それをやってみる。スピードは速いけど人目に付く。
 かといって、縮こまって歩くと逆の意味で目立ってしまう。

 役の典型化という言葉が頭に浮かぶ。その役に最も相応しい身のこなしや、歩き方、しゃべり方等を言う。今は一人で歩いているので、歩き方だけに気を付ける。過不足のない歩幅、つま先の角度。胸は少しだけ張って、五十メートルほど先を見て歩く。一駅過ぎたあたりで、なんとなく感じが掴めた。二駅目では、そう意識しないでも女らしく歩いている自分がおかしく感じる。
 この内股が擦れ合う感覚というのは発見だった。

 女というのは、こんなふうに、いつも自分を感じながらってか、意識しながら生きてるんだ。

 クラブの女子や、三人の姉の基本的に自己中な生き方が少し理解出来たような気がした。
「ヒヤー!」
 思わず裏声で悲鳴が出た。
 通りすがりの自転車のオッサンが、お尻を撫でていった。無性に腹が立って追いかけた。
 オッサンは、まさか中身が男子で、追いかけてくるとは思わなかったんだろう。急にスピードを上げ始めた。
「待て~!」
 裏返った声のまま叫んだ。オッサンはハンドルがふらついて転倒した。
「ざまー見ろ!」
「怖え女子高生だな……イテテ」
 オッサンは少し怪我をしたようだけど、自業自得。気味が良かった。ヨッコや姉ちゃんたちの嗜虐性が分かったような気がした。

 やっと三つ目の最寄りの駅が見えてきた。尻撫でのオッサンを凹ましたことと、ウォーキングハイで、なんだか気持ちが高揚してきた。
 最寄りの駅は、準急が止まるのでそれなりの駅前の規模がある。人や車の行き来も頻繁。ここはサッサと行ってしまわなくっちゃ。そう思って駅に近づくと、中央分離帯で大きな荷物を持ってへばっているオバアチャンがいた。信号が変わって、荷物を持とうとするんだけど、気力体力もつきたのか動くのを諦めてしまった。こんな町でも小都会、この程度のお年寄りの不幸には見向きもしない……って、普段の自分もそうかもしれないが、駅前全体が見えている自分には、オバアチャンの不幸が際だって見えてしまう。

「オバアチャン、向こうに渡るのよね?」
「え、ああ、そうなんだけど……」
 
 しまった、オバアチャンが至近距離で自分のことを見てる……ええい、乗りかかった船。オバアチャンの荷物を持って手を引いた。
「どうもありがとう。タクシーが反対方向なもんでね」
「あ、そうなんだ」
 タクシーはすぐに来た。で、タクシーに乗りながらオバアチャンが言った。
「ありがとねえ、あんたならAKBのセンターが勤まるわよ!」

 AKBのセンター……松井珠理奈か!?

 まあ、オバアチャン一人バレても仕方ない。感謝もしてくれたんだし。
 そして、早くも身に付いた女子高生歩きで我が家に向かった。

 で、我が家の玄関。

 せめてウィッグぐらいは取らなきゃな。カチューシャ外してウィッグを掴むと……痛い。まるで地毛だ。

「あなた……進二の学校の子?」

 上の留美アネキが会社帰りの姿で近寄ってきた……。

 つづく 

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高校ライトノベル・時かける少女・24『プリンセス ミナコ・6』

2019-03-01 06:11:54 | 時かける少女

時かける少女・24 
『プリンセス ミナコ・6』 
       



 勢いだけで決めたことはあとで何倍も問題を残す(母の格言)

「お父さんと、お母さんが恋に落ちたのは後悔していないわ。人間は、やった後悔よりも、やらなかった後悔の方が深刻だっていうもの」
「だから簡単に子ども作っちゃうし、って、あたしのことやけど。お父さんもできもせえへん皇位継承権の放棄なんか言い出したわけやね」
「そやけど、そのおかげで、どう見ても異民族にしか見えへん姉妹ができるし。まあ、これは『美人姉妹』という共通項でくくれるからええけど。家庭環境的にはガチややこしい」
「お母さんはミナコの決意は尊重するわ。ただ、これから起こる何倍もの問題にビビリまくり」
「なあ、お母さん、どんな問題が起こると予想する?」
「それが、おもしろいところよ。なんたって……予想もつかないんだからあ!」
「「ア……アハハハハ!」」
 爆笑するしかない親子であった。

 で、問題は、すぐにやってきた。

 ダニエルが工作したMNB48の松下リノ説が、あっというまにひっくり返ってしまったのだ。

「王室としては、なんとも申し上げられません」

 お祖母様の女王は凛と胸を張ってとぼけていたが、オタクがアリバイを見破ってしまった。
 松下リノが写っていた写真の車体番号の一部から、乗っていた電車が準急ではなく快速に使われた車体であることを見破ったのだ。信太山の駅に快速は止まらない。ツイッターで投稿されると、あとは早かった。イコカの乗車記録から、乗った電車が特定できると分かり、リノの否定が営業用のハッタリでないことも明らかになった。

 そして、さらにミナコ自身のシャメが流出してしまった。

 信太山の帰り、ターミナル駅でミナコをカワイイと思ってたまたまシャメった大学生が、ミナコの素顔をユーチュ-ブで流してしまった。それも30秒の動画で。

 明くる日には、朝早くからテレビや雑誌の記者が東成区の下町に殺到した。

「お母さん、えらいこっちゃ。家の周りマスコミだらけ!」
 真奈美が、歯ブラシをくわえたままリビングに飛び込んできた。
「真奈美、お尻掻くんやない!」
「え……?」
「今、テレビに映ってる!」
 母と姉が、床にへばりつきながら注意した。
「あ、あのカメラ……コラー!」
 テレビの画面は、真奈美が吐き散らした歯磨きとツバキでまだら模様になったかと思うと、ノイズと共に天地がひっくり返った。
 洗面所の窓から絵を撮っていたカメラマンは脚立ごと後方二回転した。

 スタジオではMCが、カンペをチラ見してミナコの本名といきさつを説明しはじめた。

「どないなってるんや、日本の放送コードは!? うちは、まだ未成年やで!」
『ただ今ミナコ王室から正式に発表されましたので、ここからは実名で報道させていただきます。現場のセルビア君!』
 同時に家の前が騒がしくなった。
「ダニエル、約束がちがうわよ!」
 お母さんは、スマホでダニエルに抗議した。
「それについてはだね……」
 あとは、近づくパトカーのサイレンが、テレビと家の前とスマホから一度にして聞き取れなかった。もう上空ではヘリコプターの爆音さえしている。そのときドアが叩かれ、ダニエルの声がした。

「開けて下さい、奈美子さん。ミナコ王室がお迎えにきました!」

 親子三人は、怒るヒマもなく迎えのリムジンに乗り込んだ。

「済まない。日本のオタクとマスコミに対する認識が甘かった。これから、事態は急展開する」

 カーン! 急展開のゴングが鳴った。

 お母さんが持ち出した洗面器で、ダニエルの頭にかましたのだ……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・54『それは……』

2019-03-01 06:02:50 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

54『それは……』


 カロリーが足りればいいというもんじゃない。

 プチっと4個目のおにぎりのセロファンを剥がしながら思った。
 撮影3日目の朝食はコンビニケースに数十個のおにぎりとペットボトルのお茶だった。同室のデブ仲間は黙々と食べてはいるが、不満なのは顔に出ている。

 昨日までのことと言い、この撮影隊は大丈夫なのかと心配になる。

「ちょっと第一講義室に集まってもらえませんか。あ、第一講義室は前の廊下を突き当たって階段を3階まで上がったところにあります」
 小出助監督が疲れた顔で伝えに来た。ほかの部屋にも回っているようで、姿を消した直後に隣の部屋で同じ口上が聞こえた。

 第一講義室は、据え付けの黒板があることを除けば小劇場と言っていいところだった。

 合わせて100人ほどの関係者がいる。桜子も女の子ばっかりのグル-プに混ざっていて、八瀬は後ろの方で遠慮気味に座っている。
「まことに申し訳ありませんが、この撮影は中止になりました……」
 小出助監督が切り出すと、講義室はざわめきはじめた。ざわめきの波に乗るように小出助監督は続ける。
「ギャラは今日を半日と数えて本日までの分をお支払いします。このあと講義室の前で支払いますので、サインをしてからお受け取り下さい」
「あのう、どうして中止になったんですか?」
 ざわめきの中心にいたエキストラが手を上げた。
「製作上の問題です。いまは、そうとしかお答えできません」
「あの……なんで小出さんが説明するんですか?」
「……こういうことは監督とか製作責任者が説明するべきだと思うんですが」
「それはですね……」
 小出助監督は丁寧に受け答えをしてくれたが、核心の部分はぼやけている。汗を流しながら説明する小出助監督が気の毒なので、それ以上追及する者はいなかった。

 講義室の出入り口のところで茶封筒に入ったギャラをもらって書類にサインをした。

「こんなにもらっていいのかなあ」
 オレより先に受け取っていた桜子が封筒の中身を確かめながら呟いている。
「いくら入ってたんだ?」
「13500円よ。お風呂入って夕飯と朝食食べただけなのに」
「安くはないんじゃないか、あの風呂はたいがいのドッキリだったし」
「そうだね。桃斗は?」
「27000円」
「すごい」
「デブ割り増し」
「プ」
 デブ割り増しがウケたところで八瀬が声をかけてきた。
「すまなかったな桃斗」
「いいさ、これだけもらえれば」
「八瀬くん、フルチンだったんだって?」
「いやー、それはもうなし。フルチンじゃなかったし」
「小出助監督まいってるみたいだけど、真相はどうなんだよ?」
 八瀬になら聞いてもいいと思った。八瀬は一階まで下りてから小さな声で話してくれた。
「監督が不満らしい」
「あ、初日に見たサングラス?」
「どこが不満なの?」
「それは……」
 八瀬は言いよどんでしまった。

「単なるデブじゃダメらしいぜ」

 同室のデブ仲間が怒りをあらわに話してくれる。
「ちゃんと相撲をしてるもんじゃないと絵にならないってことらしい」
 それだけ言うと、同室デブは茶封筒をヒラヒラさせながら行ってしまった。

 聞かなきゃよかったと思った。オレにもプライドというものがあるようだ……。

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