魔法少女マヂカ・067
一時間を目途に防衛省に潜入。
名目は、食堂への食材の納品だ。
十七歳の女子高生では目立つのでブリンダともども五十歳のおばさんに擬態している。
「あ……ここに入力するのかなあ……えと……あ、間違った(;'∀')」
もの慣れないおばさんを装って、タブレットの上で手を彷徨わせる。
「ここです、納品をチェックして、行先は……スクロールすると出てきます。あ、これです、省内第二食堂。退出予定時間、初めてだから三十分多めに、ええ、それで結構です。署名はこちらに、身分証を拝見します」
門衛の三曹さんに会社の身分証を提示して、身分証通りの氏名を記入。
「では、通行証をお渡ししますので、帰りは、この認証機のスリットを通した上で返却してください」
「初めてなもんで、もたもたしてすみませんねえ」
「いえ、最初は戸惑われる方が多いです。慣れればどうってことないですから、よろしく願います」
旧軍に比べると、手続きはややこしいが、いたってソフト。門衛の隊員も制服を着ていなければ一流ホテルのフロントが務まりそうなくらいの物腰。
次回以降に備えてQRコードを発行してもらう。一度で用事が済んでも、不自然にならないように何度か来ることになっている。いちおう出入りの業者ということなんだからね。
「我々は、一応陸自の少尉なんだぞ。なんで、こんなややこしい入り方しなくちゃならんのだ」
ブリンダがボヤく。陸自は少尉ではなく三尉だと訂正してやって、軽トラを駐車場に廻す。
台車に食材を積んで地下の食堂を目指す。新顔のおばさんらしく二度道に迷って人に聞く。あくまで業者のおばさんとして通すのだ。
みな、親切に教えてくれるが、我が国の防衛最重要施設なのに……と、ちょっと心配になったりする。
「あ、乗りまーす!」
閉じかけのエレベーターに突進、計算では楽勝だったのが、扉にお尻を挟まれてしまう。擬態なので、ヒップのサイズが十センチ大きいのを忘れていた(^_^;)
「ガハハハ」
ブリンダがおばさん笑いをすると、同乗の事務官にも笑われてしまう。まあ、デコボコ食材屋として通すつもりだから、いいんだけど、なんか面白くない。
「どうも、すみませんねえ」
エレベータのボタンを『開』のまま押さえてくれている事務官にお礼を言って、食堂を目指す。
「ほんとに食材持ってきてくれたのねえ!」
食堂のおばさんには魔法少女であると伝わっているのだが、擬態には驚かずに食材の方に驚いている。
「では、冷蔵庫に入れますね」
二人で、さっさと冷蔵庫に仕舞って、いよいよ任務の地下に赴く。
「いやあ、お婆ちゃんが言ってた通りだ!」
擬態を解いた姿に、おばちゃんが感動。
「ひょっとして、陸軍省で酒保をやってた間宮さん?」
「間宮茂子の孫ですよ! 間宮信子って言うの!」
「いやあ、そう言えば八重歯の出方がそっくりだわ!」
「八重歯だけね、お祖母ちゃんほどの器量はないわよ」
たしかに間宮茂子は市ヶ谷小町と言われるほどに可愛い子だった。可愛いだけじゃなく、終戦の日、自暴自棄になって自決しようとした少尉や中尉を泣きながら説得して思いとどまらせていたっけ。
「ううん、目力がしげちゃんそのもの。いや~懐かしい!」
「あたしも、伝説の魔法少女に出会えて、嬉しい!」
ハッシと抱き合ってしまった。
「同窓会はいいから、さっさと済ませるぞ!」
「ごめんごめん」
信子さんの案内で、いよいよ、防衛省秘密の地下室を目指すのだった!