真夏ダイアリー・15
江ノ島クンの『ガールズ&パンツァー』についての講義はすごかった。
「戦車を使った武道である戦車道が華道や茶道などとと並び女子高生の嗜(たしなみ)みとされている世界を描いた物語で、兵器である戦車を美少女達が部活のように打ち込むという、ミリタリーと萌え要素を併せ持つ作品なんだ」
この説明までは、単なるオタクかと、すこしガッカリしたけど、このあとがスゴかった。
「むかし、小松左京が『日本アパッチ族』を、筒井康隆が『時をかける少女』を書いていたころは、子ども相手のSFとバカにされた。当時は士農工商・犬・SFと言われた時期で、だれも、今のSFの隆盛を予想さえできなかったんだ」
「お茶にしますけど、ミルクになさいます? それともレモン?」
そこで、副部長の福田麻里さんが、お茶を入れてくれた。 「one for you.one for me.one for the pot……」 と、にこやかに呟きながら。
「なにか、オマジナイですか?」 玉男がバカ丸出しで聞いた。
「イギリスで紅茶を入れるときの作法だよ」 省吾がフォロー。
「たいそうなものじゃないです。玉男さんが、おっしゃるようにオマジナイ。まあ、人数より一杯分多めにお茶葉入れたほうが、おいしくなるってコツでもあるんですけど」
「昔は、こんなものサブカルチャーで切り捨てられたんだけど、オレたちは、そういうとこにも目を向け、広い意味で、日本文学の有りようを考えてみようと思うんだ」
で、十分ほどのDVDのダイジェストを見せてもらった。わたしでも十分のめり込めそうな内容で、「ホー」と感心していると、麻里さんが、コミックを机に並べてくれ、わたしと穂波は、しばし読みふけった。その間、本職の文芸部さんたちは、サブカルチャーとか限界芸術だとか、ムツカシイ言葉を並べて論じ合っていた。
帰り際に記念写真を撮った。 そして交流記念ということで、わたしたち四人で真新しいサイン帖にサインした。
「やっぱ、あいつら、真夏が目当てだったな」 駅への坂を下りながら、省吾が呟いた。
「え、そうなの!?」
「サイン帖新しかっただろ。写メもみんなで撮りっこしたけど、本命は真夏だ」
「それって、なんだかヤナ感じ」 穂波が文句を言った。
「いいじゃん。あの子たち、とっても紳士的だったし」
「あ……そう」
サラっと言った言葉への反応には戸惑いがあった。この三日あまりで、わたし変わった……それとも、わたしの周囲が。多分その両方……。
夜、夢の中にエリカが出てきた。あいかわらず薄桃色の衣装で、ニコニコ明るく笑っている。
――そうか、いま満開だもんね――
できることならエリカと喋ってみたかったけど、やっぱりエリカはお花。黙って愛情をくれるだけなんだ。
寝る前に、お母さんがついでのように言った。 「年末、二人で一泊旅行しようか……?」 「……保留」 わたしは、お母さんの心遣いは嬉しかったけど、その心遣いが痛たましくって、ついツッケンドンな物言いになってしまった。心も体も発展途上。われながらモドカシイ……そう寝ながら身もだえしたら、エリカが優しく頷いてくれた。
「え、大洗のことだったの!?」
リビングのテーブルから落ちかけていたパンフが目について、思わず声が出た。 「そうよ、まあ、アンコウ鍋ぐらいしかないとこだけどね……」 「いくいく、ここだったら行くよ!」 「真夏、アンコウなんて食べたことないでしょ?」 「おいしいに決まってるよ。お母さん、ここ行こう!」 「いいけど……なんで?」 「帰ったら説明する。まずは朝ご飯だよ-ん!」
わたしは『ガールズ&パンツァー』にひっかけて、気持ちを引き立てた。『ガールズ&パンツァー』は、きのう学院でサラっとレクチャー受けただけだけど、大洗が舞台になっていることは、頭に入っていた。それをテコにして元気に返事した。
――がんばるね――
満開のエリカに気持ちだけ伝えると、ベ-コンエッグをトーストに載っけて、パクついた。
「へー、なるほど……」
放課後、図書室のパソコンで『ガールズ&パンツァー』を省吾たちと検索。昨日以上に盛り上がって、図書の先生に叱られる。ネット通販は、図書館のパソコンでは検索できない。ままよと、日課の三人野球をキャンセルして、ゲーム屋に直行。『ガールズ&パンツァー』のはなかったけど、プレステ2対応の戦車ゲームの中古を買った。もともと車のゲームは大好き『GT5』ではA級国内ライセンスをとるところまできている。
わたしは、まず自分をハメてみるところから始めてみた……。