大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・070『ニャンコの正体・1』

2019-09-25 11:16:11 | ノベル
せやさかい・070
『ニャンコの正体・1』 

 

 

 

 この子メインクーンだ!

 

 頼子さんの言葉に、あたしは男爵と並ぶジャガイモの種類を思い浮かべた。

「メインクーン?」

 メークインと発音せんかっただけ偉いねんけど、留美ちゃんもメインクーンは分かれへんみたい。

「一見トラ猫なんだけどね、胸の毛とかが違うの。アメリカのメイン州のネコでね、クーンって言うアライグマに似てるから付いた名前なんだよ」

「アライグマって言ったら、ちょっと大きいんじゃないですか?」

「うん、まだ子ネコだけど、大人になると10キロ近くなるわよ」

「「10キロ!」」

「ほら……こんな感じ」

 頼子さんはパソコン検索して写真を出してくれた。 「メインクーン」の画像検索結果

 

 これは、もう猫の範疇に入る生き物やない!

 あたしらが助けた子ネコは、ゲンコツ二つ分くらいの大きさしかない子で、ジャージのお腹の中でも余裕で入るサイズ。

 お目めがクリクリしてて、三角の耳がピンとかっこよく立ってる。もし、トラ猫の子どもを連れてきてコンテストをやったら、一等賞間違いなしいう感じ。

 あたしの横で留美ちゃんがしょぼくれてる。

 察するに、留美ちゃんは子ネコに一目ぼれしたんや。できたら自分とこで飼うつもりにさえなってた。そやけど、この写真を見たら二の足を踏むやろなあ。

 頼子さんは、頬杖付いて子ネコを見てるけど、やっぱしょぼくれてる。ネコ、嫌いなんかなあ?

「家族にネコアレルギーがいるからねえ……」

 そういう理由か。

「それに、たぶん飼い猫だよ。いくらするんだろう……」

 検索する頼子さん。子ネコをモフモフしながらパソコンの画面を見つめる留美ちゃん。

「アヒョーー」

 頼子さんがケッタイな声を出す。画面にはスゴイ値段が出てた。

 10万~20万…………アヒョー、あたしも言うてしもた。

「メインクーンの血が入った雑種かもしれませんねえ」

「うん、子ネコのうちは分からないし、きちんとしたことはブリーダーとかでなきゃ分からないでしょうねえ……にしても、学校で預かるわけにもいかないだろうし」

 あたしの気持ちは、ほとんど決まりかけてた。

「ちょっと、家に電話してみます!」

 それだけで、意味が分かったみたいで、留美ちゃんも頼子さんも、スマホを構えるあたしに注目。心なしか子ネコも縋りつくような目ぇで見てるやんか(^_^;)

「うん……うん……うんうん、そうします!」

「「どうだった!?」」

 電話にはテイ兄ちゃんが出て、檀家周りから帰って来た伯父さんに聞いてくれて、とりあえずのOKをもろた。

「お寺の前に『迷子ネコ』の張り紙して、飼い主が見つかるまでは預かってもええいうことのなりました!」

「「よかったあああ!」」

 

 とりあえず、子ネコは、うちに来ることになった(o^―^o)!

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真夏ダイアリー・20『ちょっと不思議なクリスマスパーティー』

2019-09-25 06:24:14 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・20  
『ちょっと不思議なクリスマスパーティー』      
 
 

 省吾の家には、シャレじゃないけど正午に集まることになっていた。
 
 正午前にいくと、もう四人が集まっていた。ホストの省吾、ゲストの玉男、柏木由香、春野うらら。
 
 由香とうららは緊張していた。無理もない、つい三日前にオトモダチになったばかり。
 わたしも付き合いは長いけど、省吾の家に来たのは初めてだ。玉男は何度か来たことがあるのだろうか、自分の家のようにリラックスし、なんとエプロン掛けながら省吾のお父さんのお手伝い。
 
「すまんなあ、玉男君。大したことは出来んが量だけは多いものでなあ」
 作務衣姿のお父さんが、玉男といっしょに料理を運んでいる。
「いいえ、いい勉強になります」
「玉男、ずっと手伝ってたの?」
「うん、蕎麦打ちと天ぷらだって聞いて、朝からお手伝い」
「言ってくれたら、わたしたちも手伝ったのに。ねえ」
 由香と、うららは、ちょっと困ったような笑顔で応えた。
「なんか、とっても本格的で、わたしたちなんかじゃ役に立ちそうにないんで……中村クンは、なんだか、もうプロって感じ」
 そう言って、食器なんかを並べる役に徹している。
「いや、玉男君が是非にって言うもんだから手伝ってもらったんだけどね、蕎麦打ちも、天ぷら揚げるのも、なかなか大した腕だよ」
 こんなイキイキした玉男を見るのは初めてだった。
「オレも、タマゲタよ。オヤジはお袋にも手伝わせないんだぜ」
「一目見て筋がいいのは分かったからね。渡りに船だったよ。蕎麦の打ち方は信州蕎麦だとわかったけど、なんで、こんなに上手いのか聞いても内緒だった」
「おじさんだって、内緒なんですもん。お互い職人は手の内は明かしませ~ん」
「はは、わたしのは、ただの趣味だから。まあ、クリスマスには似つかわしくないメニューだけど、ゆっくりやってくれたまえ。といっても蕎麦は、すぐに食べなきゃ、味も腰も落ちてしまうからね」
「じゃ、天蕎麦ってことで」
 
「「「「「いただきまーす!」」」」」
 
 五人の声が揃った。
 
 ズルズル~とお蕎麦。パリパリと江戸前の天ぷら。天ぷらは冷めないように、ヒーターの上に乗せられていた。その間に、蕎麦掻きや蕎麦寿司、茶碗蒸しなんかが運ばれてくる。
 で、一時間ほどでいただいちゃった。
 
「すまんね、わたしの趣味を押しつけたみたいで」
「いいえ、とってもおいしかったです」
 Xボックスのダンスレボリューションでもりあがり、カラオケで高揚し、GT5ではわたしの一人勝ち。
「やったー!」
 と、ガッツポーズしていると、なんだか静か……。
「あれ?」
 四人とも、座卓や、畳の上で寝てしまっていた。窓の外はいつのまにか雪になっている。
 
「そろそろいいかなあ」
 
 省吾のお父さんが入ってきた。
「真夏さん、あなたを見込んで頼みがある……」
 おじさんが、かしこまって正座した……ところで意識が飛んだ。
 
 グワー、ガッシャンガッシャンというクラッシュの音で目が覚めた。
 
「バカだなあ、真夏、運転しながら寝てらあ」
「あはは……」
 みんなに笑われた。
「お父さんは?」
「オヤジなら出かけたじゃんか」
「え……」
「それにしても、よく降るなあ……」
 
 雪だけは、さっきと同じように降り続けていた。
 
「なんだか、こうやって見てると、雪が降ってるんじゃなくて、この部屋がエレベーターみたいに上に昇っているような感じがするわ」
 うららが、そう言うと、なんだか妙な浮揚感がした。
「ほんとだ、なんだかディズニーランドのアトラクションみたい……」
 由香が続けた。
「じゃあ、このファンタジーなムードの中でプレゼントの交換やろうか」
 みんなが300円のプレゼントを出して、省吾が番号のシールを貼った。
「どうやって決めるの?」
「くじびき」
 省吾があっさりと言った。
「でも、それだったら自分のが当たっちゃうかもしれないじゃん」
「それは、それでいいじゃん。それも運のうち。どうしても気に入らなかったら、交換ということで」
 
 で、クジを引いた。四人は、それぞれ他の人のが当たったけど、わたしは自分のを引いてしまった。
 そう、あのラピスラズリのサイコロ(PSYCHOLOという微妙な発音はできなかった)
 
「なんだ、自分のが当たったの、替えたげようか?」
 玉男が縫いぐるみを撫でながら言った。
「ううん、これも運。これね、思った通りの目が出るんだよ」
「ほんと!?」
「好きな数字言って」
「じゃ、七」
「ばか、サイコロに七はないだろ」
 玉男がバカを言い省吾にポコンとされ、由香とうららが笑った。
「じゃ、六でいくね……」
 出た目は一だった。
「あれ……じゃ、もっかい。三ね」
 出た目は四だった。
「なんだ、普通のサイコロじゃないか」
「でも、買ったときは出たんだよ」
「真夏、これ、どこで買った?」
「渋谷のハチ公前」
「なんだ、路上販売か。そりゃイカサマだな」
「でも……いいよ。わたしが引いて当たったんだから」
 
 昨日から今日にかけての不思議を感じながら、とりあえず楽しいクリスマスパーティーは終わった……。
 
 
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宇宙戦艦三笠・11[ステルスアンカー・1]

2019-09-25 06:13:04 | 小説6
宇宙戦艦三笠・11
[ステルスアンカー・1] 


 
「え、あなたたち人間なの!?」

 テキサスジェーンは、妙なところで驚いた。
「あなたは違うの?」
 樟葉が、まっとうな質問をした。
「あたしはGGB、guardian god of a boat……日本語でなんて言うんだろう?」
「船霊よ」
 みかさんが、まるで、ずっとそこに居たかのように椅子に座っていた。
「あ、あなたが三笠のGGB?」
「そう、だけど日本の船霊というのは、ちょっと違うの。ジェーンは、テキサスが出来た時に生まれた精霊のようなもんでしょ?」
「そうよ。だから、今年で100歳。ミカサもそのくらいじゃないの?」
「日本の船霊は、船が出来た時に、縁のある神社から分祀されるの」
「ブンシ?」
「アルターエゴ(alter ego)って言葉が直訳だけど、ちょっと違う。コンピューターで言うダウンロードって感じが一番近い……かな?」
 みかさんはお下げのまま小首を傾げた。
「なるほど、ダウンロードしたら、どれも本物だもんね……で、ミカサはどこからダウンロードされてきたの?」
「ウフフ……」
 みかさんが笑って答えないもんだから、修一が代わって答えた。
「天照大神……らしいよ」
「アマテラス……それって、日本で一番のボスゴッドじゃないの!!」

 それにしては、可愛らしいナリだという顔を、ジェーンはしている。

「まあ、その場その相手に合うような姿になっちゃう。うちはみんな高校生だから、自然にこういうふうになるの」
「ちょっと、ジブリのキャラ風ね。アメリカでも人気よ。でもさ、どうして人間といっしょにやるわけ?」
 修一たちは、ちょっと隙を突かれたような気になった。
「あたしたち日本の神さまは、人間といっしょになって初めて十分な力が発揮できるの。GGBだけでやるアメリカとは……まあ、有り方の違いだと思ってちょうだい」
「でも、人間といっしょにやるっていいかも。航海中寂しくないもんね」
「まあ、一長一短でしょ」
「そうね、最近のアメリカじゃアメリカ人が血を流すのは嫌がるようになったしね……」
「え、これって、命に関わるような仕事なの!?」
 美奈穂とトシが声をそろえた。
「大丈夫、あたしが付いてる。経験値を積んでいけばクリアーできるわよ」
 みかさんはRPGのような気楽さで言う。

「さあ、そろそろ戻るわ。リペアーも終わったようだから」

 ジェーンは、隣の家に戻るような気楽さで帰ってしまった。その数分後だった。
 
―― ステルスアンカーをかまされて、動けないよおおおおおおおお! ――
 
 ジェーンの悲壮な声が届いてきた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・4『ミナミに行かれへんかった理由』

2019-09-25 06:06:34 | ライトノベルベスト
 音に聞く高師浜のあだ波は・4
『ミナミに行かれへんかった理由』   高師浜駅

 
 
 今日は三人で出かけよいうことになってた。

 姫乃が学校の行き返りの風景しか知らへんので、大阪の街に慣れさせよいう口実で羽を伸ばそうというわけ。
 高石あたりの高校生が羽を伸ばすいうたら、まあミナミですわ。
 難波から心斎橋あたりをウロウロするのが定番。元気やったらアメリカ村までくらいは足を延ばす。
 とうぜん交通費以外にもお金がかかるので、三人の懐具合が良くないとお神輿はあげられません。
「どないやろか?」
 提案すると、すみれも姫乃も「いくいく!」ということで、一昨日の放課後に決まってしもた。

 しかし、昨日になって、あたしの具合が悪なった。

 でも、悪なったいうようなネガティブなことは避けたいので悩んでたら、お祖母ちゃんが声を掛けてくれた。
「こんなんもろたから、行ってみいひんか?」
「え、なに?」
 お祖母ちゃんがくれたのは一枚の葉書やった。
「きっと美味しいと思うよ」
 それはご近所の西田さんが高師浜で出すイタリアンの開店記念ご招待やった。
「なんや食べ放題みたいやで、お腹は悪ないんやから、友だち誘て行っといでよ」
 よく読むと三名様ご招待、うってつけや!

 連絡をとり合い、すみれとあたしは、お祖母ちゃんの車で、姫乃は羽衣で高師浜線に乗り換えて電車でやってきた。

「やあ、駅にピッタリのファッションやんか!」
 改札を出てきた姫乃はホワイトのワンピにローウエストにベルトをルーズに締めて、なんだか、お祖母ちゃんが言っていたモダンガールの雰囲気。
「白いの着てこいって言うから、これしかなくって、変じゃない?」
「変じゃないよ、いや、ほんまに急に予定変更してごめんね」
「ううん、イタリアンの開店記念に招待されるって、めったにあることじゃないもん、ラッキーだよ」
「ね、写真撮ろうよ!」
「「撮ろう撮ろう!」」
 ということで、三人身を寄せ合い、姫乃の自撮り棒を使って写真を撮る。ちょっと窮屈。

 よかったら撮りましょか?

 後ろから声がかかった。振り返ると校長先生くらいの年配のオジサンがニコニコ顔で立っていた。
「あ、すみません」
「お願いできますか」
 駅舎をバックに七枚ほど撮ってもらった。
「よかったら、わたしのカメラでも撮っていいですか、あまりにも駅の雰囲気に合うてはるから」
「ええ、喜んで」
 姫乃の東京弁の返事が、また雰囲気。
 二十枚ほど撮ったところで、オジサンは、もう一つ提案をしてきた。
「わたしは、この春まで、この駅に勤務してたんですわ。どうですやろ、お三人の写真を駅に飾らしてもろたらあきませんか?」
 意外な申し出に、あたしらは目をパチクリさせた。

 ぼくからもお願いします。

 いつの間にか駅員さんが出てきてお願いされた。
「ええ、かまいませんよ。ね」
「「う、うん」」
 すみれも姫乃も了承して話が決まった。
 生まれて初めて人目に晒す写真を撮るので緊張したけど、オジサンと駅員さんがほぐしてくださり、数分でリラックスできた。

 西田さんのお店は角を曲がって直ぐの所だった。

 五十坪ほどの民家を改築したお店は外壁を塗り替えてテラスを拡張した以外に手は加えられてなかったけど、とても雰囲気やった。
 古い民家で、造りが高師浜駅に通じる昭和のモダニズムいう感じ。ホーホーと店の前で感動する三人。
「ドアとか窓とか、建具がみんなウッドだよ」
 姫乃の観察は、あたしよりも優れているようです。

 まあ、美保ちゃん、ようこそ!

 あたしらに気づいた西田さんのオバチャンが、すっかりイタリアンのシェフの出で立ちで出てきた。
「わー、注文通りの服着てきてくれたんやね!」
 西田さんに喜ばれて、あたしらは店の前でまた写真を撮ることになった。
 あたしは赤の、すみれは緑のワンピ。そして白ワンピの姫乃を挟むと、イタリア国旗のトリコロールになる。
 お祖母ちゃんのアイデアはなかなかのもんやと、改めて尊敬する。
 西田さんもえらい。
 ほら、姫乃に言うてた「大阪まで落ちてきました」いうて嘆いてた近所のオバチャンいうのは、この西田さん。
 いろいろあったんやろけど、なんとか、この街に根を生やそうと思てくれはったみたい。

 めでたしめでたし。

 ほんで、お腹いっぱいイタリアンをご馳走になっての帰り道。
「ホッチ、なにをモゾモゾしてるのん?」
「え、あ、そんなこと……」
「なんか変だよ」

 ミナミに行かれへんかった理由……いかに親友でも言えません。
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高安女子高生物語・98〔The Summer Vacation・1 〕

2019-09-25 05:54:25 | ノベル2
高安女子高生物語・98
〔The Summer Vacation・1 〕
         


 
 
 夏休み(The Summer Vacation)が始まった!

 なんの予定も目標も無くても、夏休みの初日は楽しいもんやと決まってる……いつもは。

 今年は、ちょっとちゃう。

 美枝の連れ子同士の、それも女子高生と大学生のデキチャッタ結婚も丸く収まった。アメリカの高校まで行く必要も無くなった。
 一昨日の晩、美枝の家でお父さん・お母さん・お兄さん兼ダンナ・美枝本人と2時間ケンケンガクガクの大論争。

 せやけど、うちがMNB47の研究生やいうことが分かったとたんに、コロッと話が片付いた。

 MNBの看板が水戸黄門の印籠になるとは思わへんかった。あとでじっくり考えた……お父さんもお母さんも、美枝の顔見てたら無理やいうのが分かってきた。しかし、話の勢いで簡単に引き下がるわけにはいかへん。そこで、うちのMNBの話に感心したふりして、矛先を収めた。

――しかし、MNBいうのは、天皇はんのご威光みたいに力があるんやなあ――

 正成のオッサンがうちの中で、一人感心しとおる。MNBが、たとえ口実に使われたとはいえ、評価されてんのは嬉しい。そやけど、うち自身の話やら理屈、MNBのメンバーとしての実力での評価やないのは、ちょっと複雑な気持ち。

 それに、あのアニキ兼ダンナいうニイチャンは、はっきり言うて、うちは好きになられへん。なんや自分の都合で……やめとこ。仮にも親友の美枝が好きになった人や。

 で、昨日スタジオにいくとびっくりした。

「君らのデビュー曲が決まった」市川ディレクターが直々に言わはった。
「ええ!?」「ウワー!」いうのが22人のメンバーの反応。
「正直デビューさせんのはまだ早い。未完成や。ただ、他の期の研究生と違って、えらくハッチャけた感じが、とても新鮮で面白い。この新鮮さは、上手くなるに従って失われていくと、ボクや笠松さん、夏木さんも感じてる。MNBは元々ファンの人たちに押されながら成長するのがコンセプトだった。ところが競合するグループの完成度が年々高くなるので、いつのまにか完成度が高くなりすぎて、高止まりのマンネリの傾向にある。そこで、君たちは、あえて未完成過ぎるくらいのところで出すことになりました」
 後を夏木さんが続けた。
「この方針は決まったばかりで、曲も振り付けも一からでは間に合わないので、逆手にとって、リメイクでいきます!」
 夏木さんが指を鳴らすと曲がかかった。

 V・A・C・A・T・I・O・N楽しいな🎶    

「コニー・フランシスの名曲。オールディーズの代表曲。これをひと夏やります。さ、みんな立って、振り付けいくわよ!」

 うちらの「バケーション」という名前の目標というよりは、戦いが、ここから始まった!
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小悪魔マユの魔法日記・44『フェアリーテール・18』

2019-09-25 05:47:46 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・44
『フェアリーテール・18』     


 
 
 背後に人の気配を感じた……。

 いつのまにか、入り口のところに、ベアおばちゃんが立っている。
「やっぱり、その子は魔女だっのね」
「ちがうわ」
「その子、たばこを消して、窓を魔法で閉めたでしょ。あんたたちみたいな子どもでなきゃ、サンチャゴの世話はできないけど、いつか、こんなことになるんじゃないかと心配もしていた。サンチャゴの夢を知りたがるんじゃないかって」
「ベアおばちゃん、やっぱりなにかあったのね。サンチャゴじいちゃんを起こしちゃいけないなにかが」
「ミファ、その子から離れるんだ。いま封じ込めてやるから!」

 ベアおばちゃんは一枚のカードをかざした。

「魔女封じの宝珠ね、そんなものでわたしは封じられないわよ」
「こ、これレアもののカードなのに……」
 マユが指を鳴らすと、カードに火が点いた。
「うわ、アチチ……!」
 ベアおばちゃんは、慌ててカードを手放した。カードは意思あるもののようにワンカートンのたばこの包みの上に落ちた。
「わたしは、魔女じゃなくて、悪魔なの。マユはあくまで小悪魔です!?~なーんちゃってね」
 たばこの包みがくすぶり始めた。
「サンチャゴじいちゃんには、すでにオンディーヌの呪いがかかっていて、目覚めることはないわ。その上ハバナたばこの煙……この煙を嗅ぐと仮死状態になって目の光りまで失ってしまうのよ」
「うそだよ、そんなこと。だったら、いっしょにいるミファたちも仮死状態になっちまうじゃないか」
「このたばこは、大人しか効き目がないのよ。だから子どもにだけ世話をさせてるんだわ」
 マユは、そう言うと、くすぶるたばこに息を吹きかけた。煙はベアおばちゃんの顔を包み込むようにわだかまり、おばちゃんは、あっけなくくずおれた。

「そんなにサンチャゴじいちゃんの夢って、怖いものなんだろうか」
 ミファが、ベアおばちゃんに毛布を掛けながら言った。
「怖いものじゃなくて、危ないものなのかもしれないわよ」
「……でも、一度、この目で確かめてみたい。この絞り込んだ瞳が見ているものを……でも、無理な相談ね。そのオンディーヌの呪いとかがかかっているようじゃ」
 ボーーーーーーーーーーーーーーー
 開け放たれた窓から汽笛が聞こえてきた。めずらしく大きな船が入港してきたようだ。
 汽笛は、間をおいて二回鳴った。鳴るたびに、サンチャゴじいちゃんの目の光りは強くなっていく。
 そして、偶然か、魔法か、坂道で吹き飛ばされたマユのストローハットが、窓から、フワリと小屋のテーブルの上に舞い降りてきた。

「じいちゃんを起こすことはできないけど、夢の中に入っていくことはできるわよ」
 マユは、ストローハットを手に取りながら言った。
「行ってみたい!」
「どんな夢だか分からない。場合によっちゃ夢に取り込まれて出てこれなくなるかもしれないわよ」
「でも、見てみなくちゃ始まらないよ……お願い」
 ボーーーーーーーーーーーーーーー
 三度目の汽笛が、とどめのように鳴り響いた。

「わかったわ。じゃ、わたしの目を見つめて……」
 そう言うと、マユはストローハットを逆さにした。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 呪文と共に、マユとミファの体はどんどん小さくなって、逆さになったストローハットの中に収まった。
 呪文は、さらに続いた。

 今度は、ストローハットそのものが小さくなり、浮き上がったかと思うと、サンチャゴじいちゃんの青い瞳の中に吸い込まれていった。

 それは、大海原の青い渦に巻き込まれていくボートのようであった……。


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