大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・073『M資金・8 消しゴムが床に落ちるまで・5』

2019-09-15 14:05:32 | 小説

魔法少女マヂカ・073  

 
『M資金・8 消しゴムが床に落ちるまで・5』語り手:マヂカ 

 

 

 駆けつけると、ブリンダは十数体のツェサレーヴィチと戦っていた。

 

 やみくもに切ってしまったために数が増えてしまったのだ。

「だから、切るなと言っただろ!」

「一刀両断がオレの剣だ、体が、勝手に動いてしまう!」

「剣を真っ直ぐ構えて、体ごとぶつかっていけ! ぶつかったら、抱きしめて動かせるな! 動かれると両断になってしまって、そこから数が増えてしまうぞ!」

「くそ!」

 側面から振りかぶってきた敵を身かわして串刺しにするブリンダ。

「掴まえて! 離すな!」

 セイ! セイ! セイ! セイ!

 横抱きにされているツェサレーヴィチを、ひたすらに突きまくる。

「ちょ、オレが刺されそうになるう!」

「うまく躱しなさい!」

 グエーー!

 度重なる突きに断末魔の声をあげるツェサレーヴィチ。あと一突きというところで、別のツェサレーヴィチが挑みかかって来る。瀕死の敵はブリンダを振り切って斜め上に逃げる。放置しておけば、瞬くうちに回復してしまう。

「させるかあ!」

 背後から締め上げて、さらに突きを入れて、なんとか霧消させる。次! そう思ったら、ブリンダは斜め下で敵を両断してしまっていた。

「ブリンダあ!」

「すまん!」

 ブリンダの斬撃癖で、敵はなかなか減らなかったが、五体増やしたところで、ようやく連携がとれるようになって、十分後に敵は二体にまで減った。

「さあ、コツは掴んだ、覚悟しろ!」

 すると、あろうことか、二体の敵は互いの体を、抱き合うようにして刺し貫いた!

 壊れた消火栓のように、抱き合った二人の体から血が噴き出ていく。両断するのではと警戒したが、ハッシと抱き合った腕は緩む様子がない。

「お、おまえら、死ぬぞ!」

 ブリンダが顔色を変える。

 先の大戦のころも、そうだったが、敵が自殺的行為を行うと顔色を変えて非難する。神風特攻やバンザイ突撃は終戦まで憤っていた。

 わたしはわたしで、力及ばず自決する敵にとどめを刺すなどできない。してはならない、せめて見届けてやろう。風切丸を鞘に納めた。

「スパシーボ……」

「武士の情けね……」

「言い残すことはあるか?」

「ロシアは貧しい……」

「世界最大の国土を持ちながら、国の経済は火の車よ……」

「偉大なロシアを取り戻すためには、あのM資金が必要なのよ……」

「自信が必要なの……形だけでも日本の魔法少女に勝たなければ……」

「ウラル山脈ように高い誇り……」

「バイカル湖を覆う氷よりも固い決意……」

「ツェサレーヴィチは、ロシアに殉ずる……あ、もう……」

「力が……」

「お願い、トドメを……」

「お、おまえら……!」

 ブリンダはナイアガラの滝のように涙をあふれさせた。ミズーリ号に飛び込んだ特攻機に涙していたころのブリンダを思い出す。

「おまえら、よく戦った。介錯してやるぞ!」

「待て!」

 言ったときには、ブリンダは二人の首をはねていた。

「しまった!」「ブリンダあ!」

 大量の出血のためか、傷口から復活したのは一体だけだった。それも、はむかってくることはなく、後ろのゲートから弱々しく逃げて行った。

「くそ! 追うぞ!」

「よせ」

 わたしはブリンダを止めた。

「もう、あいつに戦う力は残っていない」

「そ、そうか……そうだな」

 

 しかし、わたしが甘かった。

 戦う力は残っていなかったが、金塊をテレポさせる力は残っていたようで、気づいてから取り戻せた金塊は、インゴット二つ分だけであった。

 

 

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宇宙戦艦三笠・1[黎明の時・1]

2019-09-15 06:52:51 | 小説6
宇宙戦艦・1 
[黎明の時・1]   



 
 

 ほんとだってば!

 

 例年になく早い木枯らしをも吹き飛ばす勢いで天音が叫んだ。窓ガラスのガタピシは天音の叫びで一瞬のフォルテシモになった。

「だれも天音がウソ言ってるなんて……」

 あとの言葉を続ける気力がなかった。天音は、オレがいい加減に聞いているとしか思わないだろう。

「だったら、ちゃんと聞けって!」

 予想通りの反応だ。

 オレとしては樟葉にふってほしかったんだけど、こういう時は樟葉は得だ。投げ出してボンヤリしていると、樟葉は一見クソまじめに見える。樟葉とは保育所の頃からいっしょだからよくわかる。きれいな足を揃えて腕組みした姿は、ひどく冷静に考えているように見える。だから天音は正直にボンヤリしているオレに突っかかってくる。

「だからさぁ、黒猫と白猫が路地から出てきたと思ったら茶色の猫が出てきて、トドメに三毛猫が出てきたって言うんだろ?」

「ちがう! 白猫が先で黒猫は後!」

「ああ、わりー、逆だったっけ。でもさ、そんなのブンケン(横須賀文化研究部)の研究成果として……発表できる?」

「ツカミだツカミ。あとは適当に、この秋に新装開店したお店の開店ご挨拶とかクーポンとかコピペして貼っときゃ分かんないだろ!」

「ああ、もう、そんな段階じゃないんだよ。明日、ここ軽音に明け渡さなきゃなんないんだからさ」

「最後に、ドバってかましてみようぜ。ネットなんて、一晩でヒットするかもしれないんだからさ!」

「宝くじ買うより確率低い……」

「もういい、あたし一人でやる!」

 天音は、一人パソコンに向かってエンターキーを押した。

 カチャカチャカチャカチャ……
 
 で、数十秒後。

「……な、なんで、ブンケンのホームページ出てこんのだ!?」

「閉鎖したんだ。パソコンも初期化しちゃったし。それより、そろそろ時間。ロッカーの資料運ぶ。手伝って」

 樟葉が立ち上がった。手にはスマホ。どうやら兄貴あたりに車を頼んでいたようだ。

 バーン!!

 ヒッ!

 必要以上の力でロッカーを閉める。樟葉も、それなりに頭にはきているようだ。

 ロッカーには、20年分のブンケンのアナログ資料がある。油壷マリンパーク、城ケ崎灯台、城ケ島、海軍カレー名店、ヴェルニー公園、三笠公園……そしてブンケンの発足時代の横須賀ドブ板通りの資料。

 もともとは、前世期の終わりに出た横須賀を舞台にしたRPGにハマった先輩たち、それが、今で言う聖地巡礼みたいにして始めのがブンケン。

 だから、初期の資料はハンパじゃない。ゲームが流行っていたころはテレビ局が取材に来たこともあったらしい。このアナログな資料は、きちんと整理すれば、オタクの間ではかなり貴重なお宝もあるとか。それで、これだけは一括して樟葉が保管して、みんなの気力が戻ったら処分して、パーッと一騒ぎしようということになっている。

 だが、ここまで落ち込んじゃ、そんな気力が卒業までに湧くかどうか。

 


「じゃ、家のガレージに置いとくから、いつでも見に来いよ」

 樟葉の兄貴が、運転席から手だけ振って車を出した。

 車が坂下の角を曲がるまで俺たちは口を開かなかった。

 


「……トシ最後まで来なかったな」

「トシなら三本向こうの電柱の陰」

 天音とそろって首を向けると、トシ(昭利)が白い息を盛大に吐きながら、自転車で駆け去った。トシはブンケンの部員だけど、ずっと引きこもりで学校そのものに来ていない。

「学校の傍まで来たんだから、トシくんにしちゃ進歩じゃないかな……ま、ここで解散しよう。わたし部室の鍵返してくるから、先に帰って。このさい連れションみたく列組むのはよそうね。はい、元気に一本締め……いくよ!」

 パン!

 締めだけはきまったけど、たった三人じゃ意気上がらないことおびただしい。ま、今さら意気挙げてどーするってこともある。

 天音は、サッサと駅に向かった。

 樟葉は――ここで解散――と背中で念を押してカギを返しにいく。

 俺は木枯らしの空を一瞥、首をすくめてチンタラ歩きだす。足早に校内に戻った樟葉の気配は消えて、天音の姿はすでに視界の中には無い。

 せめて胸張って歩きたかったけど、朝の暖かさに油断してマフラーを忘れた。背中が丸いのは、気の早い木枯らしのせいで、落ち込んでるわけじゃない……。

 そう思ってみても、背中を丸めていると、ひどく湿気って落ち込んだ気分になってくる。

 


 やがて、美奈穂が三匹の猫を見たというドブ板の横丁まで来た。

 


 すると、黒い猫が道を横切り、続いて白い猫、そして茶色の猫……でもって、次に三毛猫が横断している。

 ニャー

 猫語で挨拶してみる。

『元気出してニャ』

「お、おう」

 え、喋…………った? 猫が?

 ミャー

 今度は猫語で返して、尻尾を一回だけ振って行ってしまった。

 猫が喋るわけねえし……錯覚、錯覚。

 思いなおして前を向こうとしたら、路地に入ったばかりの猫たちが戻ってきて、両足で直立したかと思うと、ビシッと敬礼を決め、思わず答礼すると、ニコッと笑って行ってしまった。

 え…………?

 木枯らしの合間に気の早いジングルベルがさんざめいて年の瀬の予感。

 ひょっとしたら、このとき、それはもう始まっていたのかも知れない……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 修一      横須賀国際高校二年
  • 樟葉      横須賀国際高校二年
  • 天音      横須賀国際高校二年
  • トシ(昭利)  横須賀国際高校一年
     

 

 

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物語・ダウンロード・4《三つ子のタマシイ》

2019-09-15 06:30:43 | ライトノベルベスト
物語・ダウンロード・4
《三つ子のタマシイ》
        


 
 百年前のワンルームマンションを改造した倉庫に秋の西日が差している。

 部屋の外では、ネット販売商品の出し入れをするデリバリーロボットの無機質な音がしている。

 ふと、生き物の気配を感じた。

 ベランダを見ると、野良猫が子猫を三匹従えて手すりの上を歩いている。こんな上層階なのに……ノラは感心した。
 子猫は、母親を完全に信頼しきっているのだろう。怯えた様子もなく……と思ったら、一匹の子猫が下を見てしまい、その高さにすくんでしまい、ブルブル震えてオシッコをもらしてしまった。
 母猫は、仕方ないわね……というふうに三匹をベランダに降ろした。慰めるように、意見するように母猫はなにか言っているが、完全な防音になっているので、声は聞こえない。聞こえたとしても、人類の言葉なら方言を含め一万種はOKだが、猫の言葉は分からない。

「ねえ……ノラって名前、なんとかならない?」
――どうした?――
「わたしの名前。ノライヌ、ノラネコ、ノラロボット……なんかおちこんじゃうのよ……」
――いずれはイプセンのノラみたいにたくましく独立してもらいたいんだよ―― 
「よく言うよね」
――アハハハ……――
「ずいぶん健康的に笑ってくれるわね……白い歯してんだ、あなたって……」
――どういう意味だ?――
「ううん、なんでも……ね、どうして、この部屋のこと、ハンガーっていうの? なんだか洋服ダンスの中の洋服か、航空母艦の中の飛行機になったみたいで……せめて、ルームとか、ネストとか……聞いてる?」

――はい、次のお仕事で~す―― 
「次? もう次の仕事……はいはい」
 マシンが、はきだしたクエストを器用に足の指で摘み取る。
「……あのね、わたしの能力は、二十五歳プラスマイナス十歳だって言ったでしょ! なにこれ!? 五歳の女の子、それも三つ子!? わたし、体ひとつっきゃないのよ!」
――よく読め――
「……え……現場には行かず、モニターで……でもね……」
――文句と弱音は言わないのが、我が社のモットー――
「わかったわよ。秋園くずは……若手の女優さんね……三つ子の隠し子がいたの!?……火星ツアーに出る前に娘たちに会っておきたい」
――マネージャーの気配り――
「……でも、この三つ子、日本とドイツとアメリカに里子にだされてるんでしょ。わたしの言語サーキット、パンクしちゃいそう……」

 柱のボタンを押し、マシンがインストールするのを待つ。

「ね、どうして本物よばないの? モニターに出るんだったら、簡単じゃない……会いたくないって?……三人とも……ふーん……」

 インストールの終わった柱のマシンから衣装を出し、着替える。三人を演じ分けるため、ベースの服は同じ(サヤカの衣装から、リボンをとって、スモックを着ただけ)だが、帽子、めがね、マフラーなどがついている。

「よいしょっと。これって、三人分のギャラ出るの?」
――……内緒――
「……働くのはわたしよ。もうかったら、キッチンつくってよキッチン……さて、ダウンロード……」

 スパーク、振動。モニターが切り替わり、涙目の秋園くずはが現れる。

「お母さん、元気? ミミだよ。なつかしいね、ちょっとまってね……(くるりとまわって、帽子なし、めがねをかけている)ハーイ、マミー。アイム、モモ。アーユーファイン?……オー、アイム、ファイン、トゥー。アイム、ハッピィー、トゥー、スィー、ユー。ジャスト、モメント……(くるりとまわって、めがねなし、マフラーとクマのぬいぐるみつき)グーテンターク、ムーテイー。イッヒ、ビン、メメ。ダスイスト、マイネン、クマチャン。ヤー、ダスイスト、マイネン、オタカラ。クマチャンプッペ、イスト、マイネン、オタカラ。ヴァルテン、ズィー、ビッテ……(ミミになる)うん、こっちのお母さんも優しいよ。でも、ないしょだけど、ちょっと甘やかしすぎ。わたし、今も、お母さんの子だと……(モモになる)ジャスト、ナウ。アイム、ゴーイング、トウー、ヨウチエン、ウイズ、ソー、メニーフレンズ……トム……メアリー……シンデイー……キャンディー……クリントン……ブッシュ……オバマ……(ミミになる)ないしょだけど、お母さんの写真、ロケットにいれてんの。ロケットっていうと、お母さん、今日乗るんだよね、火星行きのロケット?……(モモになる)アー、ユーゴーイング、トウー、マース? フォー、イベントツアー? オー、エキサイティング!……(メメになる)ムーテイー、フェアガイスト、ホイテ?……(ミミになる)えー! とうぶん帰ってこないの!? ミミ淋しいよ……(モモになる)オー、アイム、ソーロンリー! マミー……ホワット?……(メメ)エス、イスト、ツアイト!?……ムーテイー、アウフビーダゼーエン……(モモ)アイ、ラブ、ユー、グッドバイ……(ミミ)さよなら、さよなら、さよなら……」

 モーツアルト、フェードインして素にもどる。モニターにオーナーの顔が戻ってくる。

「……と、こんなもんでよかった?」
――上出来、上出来、でも……今の、ひょっとして?――
「うん、今のは演技。ダウンロードしても、あの子たちの心の中には、お母さんも、マミーも、ムーテイーの記憶も愛情もなにもないのよ。赤ちゃんの時にほっぽりだされちゃったからね。だからテキトー」
――あ、やっぱ――
「あの秋園くずはも相当いいかげん……ひきうけてくるオーナーも……」

 気がつくと、無事に引っ越しが済んだのか、ベランダの猫の親子はいなくなっていた……。
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高安女子高生物語・88〔宇賀先生の復活〕

2019-09-15 06:22:17 | ノベル2
高安女子高生物語・88
〔宇賀先生の復活〕
        


 

 宇賀先生が復活した。

 喜ばしいことやねんやろけど、うちは複雑な気持ちや。
 宇賀先生は、今月の初めにグラウンドの線引きを体育委員の子とやってて、風で飛んできたカラーコーンが顔に当たって何針も縫う大怪我をした。生徒に当たりそうになったんを庇っての大怪我。

 麻友は「止めといた方がいい」と言うのを美枝とゆかりと三人で見舞いに行って後悔した。先生の顔はパンパンに腫れてた。
 昨日は腫れこそは引いてたけど、右のコメカミからほっぺたにかけての傷が痛々しかった。先生は、その傷を隠そうともせんと、いつものポニーテール。
「ごめん。見てる方が不愉快やと思うねんけど、あたしは傷を隠したないねん……まあ、ちょっとずつ治ってくるから、しばらく辛抱してね……いや、ほんま。今は整形とかも進んでるさかい、一年もかけたら元の顔にもどるよ。あたしかて、恋人作って結婚したいしなあ!」
 少しほぐれた。
 せやけど、いつもやったら「ほんまは、もうカレ居るんちゃうん!?」とかチャチャ入れるヤンチャらが黙ってる。先生が精一杯やいうのも分かってるし、あの傷は跡が残るいうこと、アホな高二でも分かる。女同士、やっぱりまともには見られへんいうのが正直なとこ。で、先生は、それ以上傷の話題には触れんと授業に入った。授業は気合いが入ってた。平泳ぎ25メートルを五本もやらされてヘゲヘゲ。先生は庇われた体育委員の子に気遣いしてんのがよう分かった。暗くしてたら、その子はいたたまらへんもんな。

 いつものようにスッポンポンになって着替えるさかい麻友が一番早いねんけど、今日は格別に早かった。

 何かあるなと思って、AMY三人組(明日香・美枝・ゆかり)で見に行った。ちょうど体育の教官室から麻友が出てきて、宇賀先生が嬉しそうな顔でお礼言うてた。
「麻友、何を宇賀先生にあげたん!?」
 三人で声をそろえて聞いた。
「なんでもないわよ」
 麻友らしいもない、ツンとすまして行こうとするから、うちらは呼び留めた。
「正直に言わんとコチョバシの刑やぞ」
「なに、コチョバシって?」
「やった方が早い」
 ゆかりの一言で三人がコチョバシた。
「アハ、アハハ、アハハハ、ウキャキャキャ、ハヘハヘ、笑い死ぬう!」
 麻友は廊下に転がって、おパンツ見えるのも気にせんと笑い転げた。麻友は笑い方までラテン系や。
「言う言うからカンニン、カンニン……」
「なんかブラジルのお土産か?」
「にしては、遅いなあ」
「怪我のお守り、石切神社で買ってきたの!」
「あんた、よう知ってたね!」
「石切さん言うたら、デンボと病気怪我一般の神さんやもんな」
「明日香が教えてくれたんだよ」
 ようやく乱れた制服を直しながら麻友が言うた。
「うちが、なに言うた?」
「電車は、降りなかったらどこまで行ってもダダだって。それで情報仕入れたの。分かった?」
「あんたは、エライ! その偉さを讃えて、コチョバシ……」
「キャハハ、もうカンニン!」
 コチョバシてもないのに麻友は、笑いながら行ってしもた。

 次のしょーもない数学の時間に考えた。

 麻友は知らん間に、うちらがコチョバシの刑ができるほどに親密になったいうこと。これは喜ばしい。ほんで見かけからは想像でけへんぐらいゲラやいうこと。あの子の見かけの清楚さとラテン系の明るいギャップは、なかなか面白い。

 で、もう一つは疑問。麻友はブラジルから来た子やのに、なんで石切のお守りや? ブラジルやったら、カトリックやのに……思うてたら、あてられてアタフタ。こっそり答え教えてくれたんも麻友。

 でも、今日は朝からMNB47のレッスン。終わったころには、みんな忘れてしもた……。
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真夏ダイアリー・10『小野寺潤の秘密』

2019-09-15 06:10:13 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・10
『小野寺潤の秘密』    
 
 
 
 
 
 わたしはパソコンで小野寺潤を検索した……。
 
 ひょっとしたら……という勘がしたから。
 
 小野寺潤:1998年11月11日/さそり座/東京出身/AB型/155.5cm
 HIKARIプロ所属、AKR2期生。2012年10月に研究生から抜擢され選抜メンバー入り。
 
 当たり前のことしか出てこなかった。
「小野寺潤、本名」で検索……本名も、小野寺潤だった。
 ホッとした自分がいたが、まだ胸に湧いたモヤモヤが晴れない。
 小野寺潤の画像を検索してみた。
 メイクをしていると、似てるかなあ……うん、似てるという程度だけど、直に本人に会ったときは、鏡を見ているようだった。並んで写メを撮ったとき、やや目元が違うと感じた。互いに負けん気強そーって感じだけど、自分で言うのもなんだけど、わたしは、なんだかむき出し。潤のそれはシャープってか、カッコイイ。まあアイドルなんだから、アタリマエっちゃアタリマエ。動画サイトで見たら、シャープな負けん気がコロっと、十六歳のあどけない少女の笑顔になったりする。なんだか、わたしより一枚上手って感じ。
 
 一晩考え、通学途中、思い切って、教えてもらった潤のメアドにメールを送った。
 
――昨日はありがとう。『冬の真夏』のヒット祈ってます。うちのお母さん(留美子)もAKRのファンです。お父さん(真一)は、離婚したんで分からないけど、チャンスがあったら聞いてみます。ファンでなかったら、絶対ファンにしちゃいます! 真夏(^&^)
 
 お父さんとは、お母さんと離婚して以来会ってない。だから「チャンス」なんて無い。これは、わたしの作戦。
 
 今日はテストの最終日、国語と数学のテストだ。
 
  ダイアリーに書けるのは、テスト終わっちゃったから、途中なら書けない。なんたって、化学と現代社会じゃ、事前に書いて大トチリしちゃったから。
 学校じゃ、早くも、わたしが小野寺潤に似てるってウワサがたち、試験が終わって廊下を歩いていたら、いろんな視線を感じた。目的地の食堂の前じゃ、写メも撮りまくられた。ヘアースタイルが潤といっしょになっただけで、この有り様。このヘアースタイルにしたことを少し後悔した。少しハナミズキの大谷チーフを恨まないでもなかったけど、ボブにしてくれって言ったのはわたしだったので、いたしかたない。
 
「こりゃ、おちおち食ってらんねえな」
 
 省吾の提案で、ランチをさっさと食べたあと、カラオケにいくことにした。昨日の顛末を説明するって、夕べのメールで約束してある。そりゃあそうだろう、本屋さんで「潤!」と女子高生たちに追いかけ回され、拉致されるようにして居なくなってしまい。省吾も玉男も、心配と責任と、それと同じ量の好奇心がある。
 
 で、下足室で、ちょっとした事件。わたしじゃないわよ。省吾に!
 
「なんだ、こりゃ?」
 
 省吾が、下足のロッカーを開けると、そこにピンクの可愛い封筒があった。
――わたし春夏秋冬(ひととせ)先輩が好きです。メールの交換とかでいいんです。それでOKなら同封のエヴァンゲリヲンのアスカ・ラングレーのシールを貼ってください。NGだったら綾波レイを貼ってください。決められなかったら、何も貼らなくてけっこうです。終業式の朝までに貼っていなかったら。問題外ということであきらめます。Y――
「チ、こんなもの、どうやって入れたんだ。ちゃんと鍵かけてんのに」
 省吾は苦い顔をした。
「……フタの下の隙間よ。ほら二ミリほど空いてんじゃん。薄い封筒一枚くらい入るわよ」
 玉男の目が輝いた。省吾は不機嫌そうに手紙を封筒にもどすと、クシャクシャにしかけた。
「だめよ。考えに考えて出した手紙だよ、ぞんざいにしちゃだめ」
 わたしが止めると、省吾は不承不承、手紙をカバンにしまい込んだ。
「ねえ、さっきの手紙、先輩って書いてあったわよね」
 カラオケボックスに入ると、まず聞いた。
「あ、そうだ。一年生の省吾に先輩って変だわよね?」
「玉男になら、いいや。真夏、説明してやれ」
「……省吾は、過年度生なの」
「カネンドセイ?」
「省吾は、去年別の学校に入っていて、今年うちを受け直したの。だから、じつは一つ年上」
「ええ、知らなかった!」
「それ知ってんのは、ごく一部の人間だけよ」
「まあ、二学期も終わりだから、誰が知っててもおかしくは無いけどな……」
 省吾は憮然としている。
「知っていたとしても悪意はないと思うわよ。うん、同性だから分かる。省吾のこと好きだから、つい書いちゃったのよ。字もきれいだし、コクりかたもよく考えてあるし。『先輩』ってのは、つい筆が滑ったんじゃないかな。こういう抜け方って、可愛いよ」
「そうか」
「そうよ。しっかり考えて返事してあげてね」
「そうよ、女心踏みにじったら、わたし許さないから」
 玉男も、マジな顔で忠告した。
「分かった分かった。それより昨日の真夏の件は?」
 
 わたしは、洗いざらい説明した。
 
「そんなに笑うことないでしょ!」
 そう、二人は大笑い。でもって、スマホで小野寺潤を検索した。
「似てる!」
「そっくり!」
 矛先がわたしに向いたところで、カラオケにした。今まであんまり聞いたことのないAKRの曲に挑戦してみた。進んだカラオケ屋で、新曲の『冬の真夏』もしっかり入っていた。
「真夏、こりゃ、しばらく冷やかされそうだな」
 省吾の予言は正しいように感じられた。結局AKRの曲を三曲ほど覚えてしまった。
 
 その夜、遅くに潤から、メールがきた。
 
――メールありがとう。ビックリだけどうちのお父さんも真一。よかったら真夏のバースデイとか、血液型とか教えて! 潤――
 
 わたしの心のモヤモヤはまた大きくなってきた……。
 
 
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小悪魔マユの魔法日記・34『フェアリーテール・8』

2019-09-15 05:44:52 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・34
 『フェアリーテール・8』
 
 
 
 
 赤ずきんちゃん……!
 
 レミと白雪姫が、頭のてっぺんから声を出した。

 その二人の声を聞かなければ、ただ赤い服がよく似合う、マユよりちょっと年上の女の子に見えただろう。
「わたし、どうしてここへ?」
「わたしが、魔法で呼び出したの」
「提案したのは、わたし」
 白雪姫が、申し訳なさそうに言った。赤ずきんの顔色が冴えない。でも、目覚めた白雪姫を見て、赤ずきんは素直に喜んだ。
「まあ、白雪さん。生き返ったのね……ということは!?」
「残念だけど、魔法で、わたしが一時的に蘇らせただけ。あと三分ほどで魔法がとけて、また仮死状態にもどっちゃう」
「この人は……?」
「あ、前に話したでしょう……」
 レミが説明しかけると、赤ずきんは分かったようだ。
「あなたが、このファンタジーの世界を救ってくれるのね……で、わたしは何をしたらいいの!?」
 赤ずきんは、とびきりの笑顔になって聞いた。
「実はね……」
 マユが説明すると、三人はエサを撒かれたハトのように顔を寄せ合った。

「「「くちびるの交換!?」」」

 三人の声が、それぞれの頭のてっぺんから出て、三つずつの!と?がみんなの頭の上で、知恵の輪のようにこんがらがってしまった。
「アニマ王子には、明日の朝、会った女性にキスしたくなるように魔法がかけてあるの。だから、明日、この森に来て赤ずきんちゃんにキスをするの。で、その時のくちびるが白雪さんのだったら、それで白雪さんは生き返ることができるのよ!」
「なーる……!」
 また三人がいっしょに感心した……と!が、また三人分飛び出して火花を散らした。
「でもさ、お城には若い侍女さんとか、かわいい女の子がいっぱいいるから、その子たちにキスしちゃうかも」
 レミが心配げに言い、白雪姫と赤ずきんがうなずいた。
「大丈夫。効き目が出るのにタイマーをかけておくから。何時頃にアニマ王子は来るの?」
「判を押したように、朝の九時。それから、少なくとも日に三度は来るわ」
「じゃ、九時に……セット」
 マユは、スマホを出して時間をセットした。
「へえ、小悪魔さんでもスマホ使うんだ」
 みんなが感心した。
「スマホ型の携帯魔法端末。人間界にいるもんで、こういう型にしてあるの。じゃ、時間ないからいくわよ」
「うん!」
 返事が揃って、また三人分の!が飛び出した。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……えい!」
 マユは、スマホ画面の白雪姫と赤ずきんのくちびるを指ですり替えた。
「ああ……」
 白雪姫は、赤ずきんの声を発したかと思うと、クルクルっと二回転して、棺に収まってしまった。
「時間ギリギリだったみたいね」
 マユは、冷や汗をかいた。
「わたし、なんだか歌を唄いたくなってきた……」
 赤ずきんが、白雪姫の声で言った。
「白雪さんて、歌が好きだったから!」
 また!が一つ転がり出てきた。

「いつか王子さまがやってきて~♪」
 赤ずきんは、白雪姫の声で唄いだした。すると、森の向こうからドアーフたちの「ハイホー」の歌声が聞こえてきて、うまい具合にハモった。
 「ハイホー」は、いつか、驚きの声に変わり、七人のドアーフの歓声になって近づいてきた……。
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