大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・069『危機一髪!』

2019-09-23 12:41:40 | ノベル
せやさかい・069
『危機一髪!』 

 

 

 動物を持ち込んだら怒られる!

 

 正門までを走りながら考えた。瀬田と田中が子犬を拾てきて先生に怒られとった。

 野良は病気やらばい菌を持ってたりするし、学校に居つかれても困るんやぞ。てなことを言われてた。

 けど、ほっとくわけにもいかへん!

 とりあえず、ジャージの中に押し込む。

 フニャー!

 ちょっとの間、辛抱してえ!

 グヮッシャーーーーーン!!

 ジャージの上からネコを押えたんがスイッチやったみたいに、後ろでごっつい音がした!

 振り返ると、たった今まで居ったフェンスにトラックが突っ込んでた!

 え? え? えええええ!?

 ほんの数秒遅れてたら、ネコもあたしもトラックとフェンスの間に挟まれて……!?

 膝が笑てしもて、腰が抜けそうになった。

 校舎の窓からは、生徒や先生やらが身を乗り出し始めてる。

 ご近所の人らも集まり始めて……い、いまのうちや!

 

 事故の混乱で、出会うた先生らにも咎められることもなく、部室にたどり着くことができた。

 

「さくら、服とカバン!」

 待機してた留美ちゃんが、子ネコと引き換えに渡してくれた制服に大急ぎで着替える。

「この子、震えてるわ」

「ごめんなあ」

 子ネコに謝る。フェンスから引っ張り出されたかと思たら、不可抗力とはいえ、放り上げられ、着地したらジャージの中に押し込まれるし、後ろでゴッツイ衝撃音はするし、もみくちゃにされるし。

「救急車来たよ!」

「救急車呼ぶほどじゃ……」

「ちがう、交通事故の方よ!」

 窓から見下ろすと、フエンスの内と外に人だかりがしてる。あらためて見ると、運転席がグチャグチャになったトラックが傾いてる。すぐに救急隊員とお巡りさんが閉じ込められてる運ちゃんを運び出すとこや。

「さくら、危ないとこだったねえ……」

「う、うん……」

 今度は、あたしが震えて、子ネコが不思議そうに見上げてくる。

「あ、頼子さん!?」

 留美ちゃんが、事故現場でキョロキョロしてる頼子さんを発見して指さした。

「なにをキョロキョロ……」

 アホな二人と一匹が窓ガラスに額をくっ付けてると、地上の頼子さんは目ざとく見つけてくれた。

「なにか言ってる」

 手をメガホンにして言うてはるねんけど、事故現場の喧騒で、ちょっとも聞こえへん。

 

「あーー、もう、てっきり桜が死んだかと思った!」

 部室に入るなり、頼子さんはわめいた。

「最初は、ネコと戯れてる二人が見えて、たぶん猫を連れてここに来るだろうって、お茶の用意しようとしてたら、グヮッシャーーーーーン!! でしょ! もう真っ青になって飛び出したんだからあああああ!!」

「す、すみません(^_^;)」

「でも、無事でよかったあああ!」

 頼子さんに、子ネコ共々抱きしめられてしまった。こんなグジャグジャな頼子さんは初めてや。

 フニャーーアアアアア!

「ああ、ネコが潰れます」

「あ、ご、ごめん。ん……この猫は!?」

 

 頼子さんの目が光った!

 

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真夏ダイアリー・18『潤からのTEL』

2019-09-23 06:38:18 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・18
『潤からのTEL』      


 
 
 いろいろありそうな……それでも、メデタイ冬休みが始まった!

 いつものように六時半には目が覚めてしまった。でも、今日から冬休みであることを思い出し、幸せな二度寝を決め込む。なんか枕許でお母さんが言うのが聞こえたけど。夢うつつの中で返事。ドアが閉まる気配がして、エリカが現れた。むろん夢の中。
 エリカは、十日ほど前に買ってきたジャノメエリカって花の精……だと思っている。なんせエリカは喋らない。花屋のオバサンが言っていた。
――花というのは、一方的に愛をくれるの。だから、受け取る側がカラカラの吸い取り紙みたいに愛がなければ、それだけ早く大量に愛をくれて、枯れるのが早い。

 エリカは、相変わらず満開の笑顔で、わたしを見つめてくれる。

「ありがとう……」

 そう言って目が覚めた。七時半……もう少し寝ていてもいいんだけども、エリカの笑顔に申し訳なくって起きてしまった。マンションとは名ばかりのアパートの朝の起動音がする。お隣の新婚さんのご主人が出かける気配。ガサゴソとかすかな音がして、ドアがしまるまで、少し長すぎるような間が空く。――新婚だから、ご主人の出勤前にキスでもしてんのかなあ……マセた想像をしてしまう。
――じゃあ。
――いってらっしゃい!
 廊下で聞こえる新婚さんの何気な挨拶に、その余韻を感じてしまう。想像力が豊かなのか、妄想なのか、自分でも判断がつきかねる。ただ、この名ばかりマンションが安普請であることはたしか。反対側のお隣さんの洗濯機が回る気配。一瞬ベランダのサッシがひらいたんだろう。ワイドショーの元気な声がこぼれた。表通りの通行人の気配もいつもとは違う。夏休みにも似たようなことだったと思うんだけど、年の瀬だと思うとやっぱり新鮮。夏休みは、まだ、お隣は空室で新婚さんはいなかったし……。

「オーシ!」

 朝のいろいろやったあと、少しはお母さんの役にたってあげようと、洗濯機のスイッチを入れてからベランダに出て、サッシのガラスを拭く。水を掛けて雑巾をかけるだけなんだけど、真っ黒になった。夏休みは、高校に入って初めてだったってこともあるけど、お母さんともギスギスしていて(今でも良くなった……とは言い難いけど)なんにもしなかった。気づくとベランダの手すりの間に蜘蛛の巣が張ってる。隅っこのほうには枯れ葉が詰まっていた。
 お母さんは、けして不精者じゃない。正式に離婚するまでは、忙しい仕事もこなしながら、家のこともちゃんとやっていた。やっぱ……お母さんもいっぱいいっぱいなんだ。
 すぐってわけにはいかないけれど、少しずつお母さんに寄り添っていこうと思う。

 スマホの着メロに降りむくと、省吾からだ。

――クリスマス、オレんちOK 十二時開始。会費は不要。ただし三百円のプレゼント持ってくること――

 わたしたち三人組に新メンバーの柏木由香と春野うららの二人を加えてクリスマスパーティーをやることになったのだ。
 ただ、五人の高校生が騒げる家はそんなにはない。うちなんか、床面積はもちろんのこと壁の薄さを考えれば、絶対不可。
 で、五人の中では一番セレブってことで、省吾の家が候補にあがった。で、その答えが今来たってこと。
「三百円か……」
 百均じゃしょぼいし、三百円ぐらいが適当と思ったんだろうけど、ちょっと選択に迷う金額……まあ、それも、オタノシミのうちと、パソコンを点けてみる。百均はよくあるけど、三百円は……あった。三百均ショップというのが、けっこうある。なるほど、こんなものまであるのか……と思っているうちに洗濯機が任務終了のサイン。
 ベランダで、洗濯物を干す。
 
 最後に靴下なんかの小物を干そうとしたところで、またもやスマホの着メロ。
 今度は、メ-ルではなくお電話の着メロ。
「はい、真夏」
――ごめん、朝から。
「あ、潤!?」
――ちょっと、お願いがあるの。
「え、なに?」
――二十五日、テレビに出てもらえないかなあ……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音に聞く高師浜のあだ波は・2『スミレヒメノホッチ』

2019-09-23 06:22:55 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・2
『スミレヒメノホッチ』
       


 

 この学校ってイジメとか多いの?

 臨時朝礼が終わって教室にもどる途中、阿田波(あだなみ)さんが声を潜めて訊ねた。
 朝礼の話がイジメやったせいや。
「う~ん、めったにないかなあ」
 思たとおりに答える。
「そうなんだ」
 教室に戻る生徒でごった返してるいうこともあるねんけど、阿田波さんは息がかかりそうな近さを歩いてる。
「けど、大阪の高校やから乱暴に感じるかもしれへんけどね」
 並んでるすみれが付け加える。
「って言うか、阿田波さんは東京のほう?」
 彼女の言葉から感じたままを聞く。
「うん、ま、東の方。急な転校だったんで、ま、仲良くしてやってください」
「ハハ、阿田波さんは、もう溶け込んでるんとちゃう?」
 いつの間にか阿田波さんを挟む位置に回ったすみれ。なんだか三人で仲良しな感じになってきた。
「よかったら苗字じゃなくって名前で呼んで、姫乃って」
「せやね、ほんなら、あたしはホッチ」
「ホッチ?」
「天生美保で、ミホがミホッチになって、も一つつづまってしもてホッチ」
「呼びやすいでしょ?」
 つづめた張本人が嬉しそうに言う。すみれはギャグの才能はないけど、ホッチという愛称はいけてると思う。
「そんじゃ、三人で『すひほ』いうことにしよう!」
「なに、それ?」
「『すみれ姫乃ホッチ』じゃ長すぎるでしょ?」
「ハハ、三回続けたら早口言葉みたい」
「「「スミレヒメノホッチ、スミレヒメノホッチ、スミレヒメノホッチ」」」
 三人同時に早口言葉になって、階段を上り切る間ずっと笑ってしまった。上がり切って教室の前に着いたときには仲良し三人娘ができあがっていた。

 教室に入ると、壁際の席から数人分の含み笑いが起こった。

 気分わる~、含み笑いは明らかにあたしに向けられてる。
 なんやねん!
 ジト目でガンを飛ばしとく。壁際の男子らが目を伏せよる。
「月曜に席替えしたから、ホッチの席こっちね」
 すみれが教えてくれる。
「わー、これて偶然!?」
「あたしらの運命よ」
 なんと、窓側の前からスミレヒメノホッチの順になってた。
 機嫌よく窓側に並んで座ると、壁際の男子の中からマッタイラ(正しくは松平)がノソノソやってきよった。

「手術のとき、あそこの毛ぇ剃ったんか!?」

 瞬間的に沸騰したあたしはパシーン!とマッタイラを張り倒したのだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠・9[思い出エナジー・3]

2019-09-23 06:12:30 | 小説6
宇宙戦艦三笠・9
[思い出エナジー・3] 



 
 
「お兄ちゃーん、待ってええええええええええええ!」

 妹の声は、思ったより遠くから聞こえた。
 いっしょに横断歩道を渡り終えていたつもりが、妹の来未(くるみ)は車道の真ん中。信号が点滅しかけて足がすくんで動けなくなっていた。
 
「来未、動くんじゃない!」
 
 トシの言葉は正確には妹には届かなかった。妹は、変わりかけている信号を見ることもなく買ってもらったばかりの自転車を一生懸命に漕ぎながら横断歩道を渡ってきた。それまでの幼児用に比べると買ってもらったばかりの自転車は大きくて重い。
 たいがいのドライバーは、この可憐な少女が漕ぐ自転車が歩道を渡り切るのを待ってくれたが、トラックの死角に入っていたバイクがフライングした。

 バイクは、自転車ごと妹を跳ね上げてしまった。

 妹は、空中で一回転すると、人形のように車道に叩きつけられた。寝返りを打ったような姿勢で横たわった妹の頭からは、それ自体が生き物のような血が歩道に、じわじわと溢れだした。

 トシは、自分のせいだと思った。

 ついさっきまで乗っていた幼児用の慣れた自転車なら、妹はチョコマカとトシの自転車に見えない紐で繋がったように付いてきただろう。
 だが、ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車は、そうはいかなかった。なんとかホームセンターから横断歩道までは付いてきたが、横断歩道でいったん足をつくと、ペダルを漕いで発進するのに時間がかかった。

 むろんトシに罪は無い。

 一義的には前方不注意でフライングしたバイクが悪い。二義的には、そんな幼い兄妹を後にして、さっさと先に行ってしまった両親にある。
 だが、妹の死を目の前で見たトシには、全責任が自分にあるように思えた。しばらくカウンセラーにかかり、半年余りで、なんとか妹を死なせた罪悪感からは解放され、普通の小学生、中学生として過ごすことができた。
 高校に入ってからも、ブンケンというマイナーなクラブに入ったことで、少しオタクのように思われたが、まずは普通の生徒のカテゴリーの中に収まっていた。

 一学期の中間テスト空けに転校生が入ってきた。それが妹の来未を思わせる小柄で活発な高橋美紀という女生徒だった。

 トシはショックだった。心の中になだめて眠らせていた妹への思いが蘇り、それは美紀への関心という形で現れた。

 周囲が誤解し始めた。
 
 本当の理由のわからないクラスの何人かは、転校生に露骨な片思いをしているバカに見え、冷やかしの対象、そして、美紀本人が嫌がり始めてからは、ストーカーのように思われだした。
 美紀は親に言いつけ、親は担任に相談した。こうして、クラスみんなが敵になった。
 もし、トシが本当のことを言えば、あるいは分かってもらえたかもしれない。実際トシは、妹が亡くなる前の日に撮った写真をスマホの中に保存していた。美紀をそのまま幼くしたような姿を見れば、少なくとも美紀や担任には理解してもらえただろう。

 しかし、そうすることは、妹を言い訳の種にするようで、トシにはできなかった。トシは、そのまま不登校になった。

「どうして、こんな話しちまったんだろう!」
 トシは目を真っ赤にして突っ伏した。
「いいんだよ、トシ。この三笠の中じゃ、自分をさらけ出すのが自然みたいだからな」
「それにしちゃ、あたしたちの話はマンガみたいよね。ただの腐れ縁てだけなんだもんね」
 樟葉がぼやいた。
「樟葉さんと東郷君は、まだまだ深みがあると思う。でなきゃ、この三笠が、こんなにスピードが出るわけないもん」
 みかさんが言った。

 三笠は、冥王星をすっとばしていた。
 太陽が、もう金星ほどの大きさにしか見えなくなっていた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高安女子高生物語・96〔うちが説得したる!〕

2019-09-23 06:01:05 | ノベル2
高安女子高生物語・96
〔うちが説得したる!〕
        


 
 高校生の妊娠は珍しない。連れ子同士の結婚も、ままあること。

 せやけど、この両方をいっぺんにやってしまうことは大変珍しい。
 その珍しいことを、美枝はヌケヌケとやってしまいよった。
 信じられへんことに、美枝の親も異議はないらしい。
 学校も生徒の妊娠ということは過去にいくつかあったみたいで対応は早いというか、マニュアル通り。

 職員会議にかけて、全教職員が共通理解をもっておく。一般の生徒には妊娠の事実は知られないようにする。体育は基本的には見学にする。修学旅行は不参加。妊娠の状態が顕著になる7か月以降は、医師の診断書により休学とする。
 で、美枝の例外規定としては、うちとゆかり、それに麻友が知ってるので、三人は秘密を守るとともに、出来うる限り美枝を見守ってやること。

「見守るて、どうすることですか?」

 相談室で、ガンダムに質問した。AMY三人娘と麻友がいっしょやった。
「見守りは見守りや。第一には他の生徒には分からんようにすること。積極的には言わへんけど、美枝は心臓疾患ということにしておく。くれぐれも頼んだで」
 要は、うちらへの口止め。普通、生徒の妊娠は友達にも言わへん。それが、美枝は、うちらに言うてしもたんで、学校としては言わざるをえん。
 ガンダムには悪いけど、これは学校のアリバイや。学校としては事情を知ってる生徒には注意した。せやから、万一他の生徒にバレても、学校の責任やない。元学校の先生を親に持つと、このへんの機微は分かりすぎるくらいに分かる。

「まあ、こんなもんは想定内のことやさかいに、よろしゅう頼むわ」

 と、昨日の美枝はお気楽やった。ゆかりと麻友は秘密を共有したパルチザンの同志みたいに興奮してた。うちもできてしもたもんはしゃあないんで、調子を合わしとく。
 
 せやけど、このままうまいこと行くようには思えへんかった……。

 予感は、あくる日。つまり今日には現実になってしもた。

「親が秋からアメリカの高校に行け言うねん」
 昨日とは打って変わって、泣きそうな顔で言うてきよった。
「どういうことよ!?」
 ゆかりが、目を吊り上げて聞く。
「それが……」
「それが、どないしたん!?」
「あんたら、三人に言うてしもた言うたら、それは漏れる可能性が高い。漏れてからでは逃げるみたいでグツ悪い。幸いアメリカは9月から新学年や。向こうは学校に託児所まである。卒業までは、そないしなさい」
 と、言われたまんまに言いよった。言われたうちらは頭から信用されてないみたいで気分が悪い。ゆかりなんかはユデダコみたいになって怒りよった。
「あたしらのつきあいは、そんなんとちゃうでしょ! そない言うご両親も情けないけど、それを、そのまま聞いてきて一言も、よう言わんで、うちらに言う美枝も美枝や!」
「これは、新しい命を授かるための神様からの試練よ。美枝自身が決めなきゃ仕方がないわよ」
 うりざね顔の麻友は、カトリックらしいことを言う。美枝は怒るし、麻友は神父さんみたいに浮世離れしてしまうし、MNBのレッスンの時間は迫ってくるし。

「分かった、うちがお父さんとお母さんを説得したる!」

 口先女の悪いクセが出てしもた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小悪魔マユの魔法日記・42『フェアリーテール・16』

2019-09-23 05:53:30 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・42
『フェアリーテール・16』  


 
 白雪姫の国は王妃側と白雪姫側に別れて内戦状態。そこにアニマのゲッチンゲン公国が絡み、眠れる森の美女の国が仲介に失敗。争いに巻き込まれてしまった。そして、マユが、この港町に一瞬で来たような気がしていたが、実際には一週間かかっていたことを知ってしまって……ファンタジーの世界のゆがみは広がっていくばかりだ……。


「ミファ、サンチャゴにこれ」
 ベアおばちゃんがミファに包みを渡した。

「その包み、何が入ってんの?」
 港町の狭い坂道を上がりながらマユはミファの顔を覗いた。
「タバコよ」
「サンチャゴのおじいちゃんに?」
「うん。もう自分じゃ吸えないんだけどね、これを焚いとくと、サンチャゴじいちゃんはうなされないの」
「サンチャゴじいちゃん、悪そうなのね……」
「もう何年も寝たり起きたり。近頃じゃ、起きてるのは日に二時間ほど。それも起きてるだけで、なんにも喋らないし、面と向かっても、視線も合わない……でも、分かるんだ。瞳の奥には、何か訴えかけてくるような光があるから」
「光……」

 坂道の上に出てきた。
 
 カリブの海が一望に開け、吹き上げる潮風が、心地よく髪をなぶっていく。ストローハットが飛ばされないように、マユは反射的に頭をおさえた。
「うわー、すごいね、ここの眺め。100%の海だ!」
「晴れているときは絶景だけどね、海が荒れたときは、すごい風で、小さい子なんかは、とても通れたもんじゃないんだよ。この道をちょっと行った岬の先にサンチャゴじいちゃんの家があるの……ほら、あそこ」
 ミファが、道の先を指した。三百メートルほど先の岬に小さな小屋が見える。

「お、ミファじゃないか」

 潮風に鍛えられた声が間近にしたので、二人は驚いて振り返った。驚いた拍子に、マユはストローハットを飛ばしてしまった。
「いや、すまん驚かせてしまったな」
「町長さん……」
「たまには、サンチャゴの様子を見ておこうと思ったんだけど、ミファ、行ってくれるところだったんだね?」
「うん、ベアおばちゃんとこで時間くっちゃったけど」
「そっちのかわいい子は?」
「あ、従姉妹のマユ。休暇で訪ねに来てくれたの」
「そうかい。じゃ、わしが行くこともないな。よろしく頼むよ。マユちゃん、帽子すまなかったね」
「いいえ、たいしたもんじゃありませんから」
「じゃ、わしは、これで。ちょっと日が高くなっちまったけど、漁にに出てみるよ」
「大きなカジキマグロでも釣れるといいね」
「ああ、サンチャゴにあやかってなあ」

 町長は、ベアおばちゃんと同じように、一瞬、マユの顔を見て坂道をもどっていった。

「ねえ、さっきも、そうだったけど、どうして従姉妹になっちゃうわけ?」
「サンチャゴじいちゃんの家に着いたら話す……マユ!」
「え……ああ!」

 
 マユは、自分の体が透け始めていることに気づいた。ミファの姿や景色もぼやけ始め、学校のトイレの個室が浮かんできた。だれかに魔法をかけられたとピンときたので、大急ぎで記憶を巻き戻した。
 ベアおばちゃんのカフェで飲んだソーダにアラームが点いていた。

――まだ時間がたっていない。間に合う。

 マユは、ソーダを飲むところまで戻ってみた。

「大人は世話をしないんですか?」
 マユがソーダを一口飲んで聞いた。一瞬目が光って、ベアが続けた。

 42章の、そこまで戻ると、こう変えた。

「大人は世話をしないんですか!?」
 マユはソーダを飲もうとした手を止めて聞いた。ベアは一瞬残念な目になって続けた。

 景色は学校のトイレの個室に戻っていた。
 
 手遅れかと思ったら、青いモヤを吐き出している便器の中から手が伸びてきた。とっさに手を掴むと、もとの坂道に戻された……握った手の主はミファだった。
「危ないところだったね」
「従姉妹じゃないってことバレてるみたいね」
「ううん、半信半疑ってとこ。マユが、この世界の人間だったら、ソーダの魔法は効かないから」
「そうか、じゃ、まだしばらくは大丈夫ね」
「でも、ベアおばちゃんまで、あいつらの仲間だとは思わなかった」
「急ごう」
「うん」

 二人は岬のサンチャゴじいちゃんの小屋をめざして足を速めた……。 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする