泉希 ラプソディー・イン・ブルー・4
〈泉希の初登校〉
〈泉希の初登校〉
当たり前の自己紹介ではつまらないと思った。
「今日から、いっしょに勉強することになりました、雫石泉希です。何事も初心が大切だと思います。よろしくお願いします」
この一言だけで、クラスがどよめいた。字面では分からないが、声と喋り方は渡辺麻友にそっくりだった。
「モットーは、『限られた人生、面白く生きよう!』です。ね、秋元先生!?」
今度はタカミナの声色で、廊下に学年主任の秋元先生が立っていることにひっかけたのだ。
「では、だれがウナギイヌだよ!?」
北原里英という、ちょっとマニアックなところで、袖口から万国旗をズラズラと引き出して喝采を浴びた。
「この水色に黄の丸と、緑に赤丸の国知ってるかなあ?」
今度は、百田 夏菜子の声。で、答えが返ってこないので百田 夏菜子の声のまま続けた。
「これは、水色がパラオで、緑がバングラディシュなんだよ。日の丸をリスペクトしてんの。豆知識でした……えと、これが自分の声です。体重は内緒だけど、身長:158cm バスト:84cm ウエスト:63cm ヒップ:86cm 完全に日本女性の平均です。よろしく!」
ほんの一分ほどだけど、そこらへんの芸人顔負けの自己紹介で一気にクラスの中に溶け込んだ……一部を除いて。
「雫石さん、あんたの自己紹介セクハラよ」
「え、どーして?」
見上げた机の横には、お揃いのポニーテールが三つ並んでいた。
「たとえ自分のでもスリーサイズまで言うのはだめよ。中には自分のプロポーション気にしてる子もいるんだから」
「そんなこと言ってたら、なんにも喋れなくなってしまいますう」
「新入りが目立つなってこと。虫みたいに大人しくしてな」
都立でも優秀な部類に入る谷町高校にも、こんなのがいるんだと、泉希はあっけにとられた。当然だけど、周りは見て見ぬふり。
次の休み時間、泉希は復讐に出た。
「虫が言うのもなんだけど、三人とも背中に虫着いてるよ」
そう言って、三人の背中にタッチしてブラのホックを外してやった。二人は慌てふためいたが、真ん中のがニヤリと振り返った。
「そんなガキの手品に引っかかる阿倍野清美じゃないのよ」
「なるほどね」
突っかかるほどのことでもないと、泉希は階段を上って行った……ところが、13段しかない階段が、何段上っても踊り場にたどり着かない。後ろで三人のバカにした笑い声。
「こいつはタダモノじゃないな……」
そう思った泉希は、階段を下りて阿倍野清美のそばに寄った。
「阿倍野さん。あなたって、陰陽師の家系なのね」
清美の瞳がきらりと光ったが、あいかわらずの薄笑い。
泉希はスマホを出して、画面にタッチした。画面には白い紙のヒトガタが出ていた。
「やっぱ、式神か……」
泉希は、式神を消去すると、当たり前のように階段を上って行った。
初日からひと波乱の学校ではあった。
「今日から、いっしょに勉強することになりました、雫石泉希です。何事も初心が大切だと思います。よろしくお願いします」
この一言だけで、クラスがどよめいた。字面では分からないが、声と喋り方は渡辺麻友にそっくりだった。
「モットーは、『限られた人生、面白く生きよう!』です。ね、秋元先生!?」
今度はタカミナの声色で、廊下に学年主任の秋元先生が立っていることにひっかけたのだ。
「では、だれがウナギイヌだよ!?」
北原里英という、ちょっとマニアックなところで、袖口から万国旗をズラズラと引き出して喝采を浴びた。
「この水色に黄の丸と、緑に赤丸の国知ってるかなあ?」
今度は、百田 夏菜子の声。で、答えが返ってこないので百田 夏菜子の声のまま続けた。
「これは、水色がパラオで、緑がバングラディシュなんだよ。日の丸をリスペクトしてんの。豆知識でした……えと、これが自分の声です。体重は内緒だけど、身長:158cm バスト:84cm ウエスト:63cm ヒップ:86cm 完全に日本女性の平均です。よろしく!」
ほんの一分ほどだけど、そこらへんの芸人顔負けの自己紹介で一気にクラスの中に溶け込んだ……一部を除いて。
「雫石さん、あんたの自己紹介セクハラよ」
「え、どーして?」
見上げた机の横には、お揃いのポニーテールが三つ並んでいた。
「たとえ自分のでもスリーサイズまで言うのはだめよ。中には自分のプロポーション気にしてる子もいるんだから」
「そんなこと言ってたら、なんにも喋れなくなってしまいますう」
「新入りが目立つなってこと。虫みたいに大人しくしてな」
都立でも優秀な部類に入る谷町高校にも、こんなのがいるんだと、泉希はあっけにとられた。当然だけど、周りは見て見ぬふり。
次の休み時間、泉希は復讐に出た。
「虫が言うのもなんだけど、三人とも背中に虫着いてるよ」
そう言って、三人の背中にタッチしてブラのホックを外してやった。二人は慌てふためいたが、真ん中のがニヤリと振り返った。
「そんなガキの手品に引っかかる阿倍野清美じゃないのよ」
「なるほどね」
突っかかるほどのことでもないと、泉希は階段を上って行った……ところが、13段しかない階段が、何段上っても踊り場にたどり着かない。後ろで三人のバカにした笑い声。
「こいつはタダモノじゃないな……」
そう思った泉希は、階段を下りて阿倍野清美のそばに寄った。
「阿倍野さん。あなたって、陰陽師の家系なのね」
清美の瞳がきらりと光ったが、あいかわらずの薄笑い。
泉希はスマホを出して、画面にタッチした。画面には白い紙のヒトガタが出ていた。
「やっぱ、式神か……」
泉希は、式神を消去すると、当たり前のように階段を上って行った。
初日からひと波乱の学校ではあった。