大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・4〈泉希の初登校〉

2019-09-08 07:00:39 | 小説4
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・4
〈泉希の初登校〉        


 当たり前の自己紹介ではつまらないと思った。

「今日から、いっしょに勉強することになりました、雫石泉希です。何事も初心が大切だと思います。よろしくお願いします」
 この一言だけで、クラスがどよめいた。字面では分からないが、声と喋り方は渡辺麻友にそっくりだった。
「モットーは、『限られた人生、面白く生きよう!』です。ね、秋元先生!?」
 今度はタカミナの声色で、廊下に学年主任の秋元先生が立っていることにひっかけたのだ。
「では、だれがウナギイヌだよ!?」
 北原里英という、ちょっとマニアックなところで、袖口から万国旗をズラズラと引き出して喝采を浴びた。
「この水色に黄の丸と、緑に赤丸の国知ってるかなあ?」
 今度は、百田 夏菜子の声。で、答えが返ってこないので百田 夏菜子の声のまま続けた。
「これは、水色がパラオで、緑がバングラディシュなんだよ。日の丸をリスペクトしてんの。豆知識でした……えと、これが自分の声です。体重は内緒だけど、身長:158cm バスト:84cm ウエスト:63cm ヒップ:86cm 完全に日本女性の平均です。よろしく!」

 ほんの一分ほどだけど、そこらへんの芸人顔負けの自己紹介で一気にクラスの中に溶け込んだ……一部を除いて。

「雫石さん、あんたの自己紹介セクハラよ」
「え、どーして?」
 見上げた机の横には、お揃いのポニーテールが三つ並んでいた。
「たとえ自分のでもスリーサイズまで言うのはだめよ。中には自分のプロポーション気にしてる子もいるんだから」
「そんなこと言ってたら、なんにも喋れなくなってしまいますう」
「新入りが目立つなってこと。虫みたいに大人しくしてな」

 都立でも優秀な部類に入る谷町高校にも、こんなのがいるんだと、泉希はあっけにとられた。当然だけど、周りは見て見ぬふり。

 次の休み時間、泉希は復讐に出た。

「虫が言うのもなんだけど、三人とも背中に虫着いてるよ」
 そう言って、三人の背中にタッチしてブラのホックを外してやった。二人は慌てふためいたが、真ん中のがニヤリと振り返った。
「そんなガキの手品に引っかかる阿倍野清美じゃないのよ」
「なるほどね」
 突っかかるほどのことでもないと、泉希は階段を上って行った……ところが、13段しかない階段が、何段上っても踊り場にたどり着かない。後ろで三人のバカにした笑い声。
「こいつはタダモノじゃないな……」
 そう思った泉希は、階段を下りて阿倍野清美のそばに寄った。
「阿倍野さん。あなたって、陰陽師の家系なのね」
 清美の瞳がきらりと光ったが、あいかわらずの薄笑い。
 泉希はスマホを出して、画面にタッチした。画面には白い紙のヒトガタが出ていた。
「やっぱ、式神か……」
 泉希は、式神を消去すると、当たり前のように階段を上って行った。

 初日からひと波乱の学校ではあった。
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高安女子高生物語・81〔そない言われても……〕

2019-09-08 06:46:37 | ノベル2
高安女子高生物語・81
〔そない言われても……〕
   


 

 これで四冊目……。

 大学の入学案内。

「明日香が、行きたい言うからよ」
 ブスっとしてたら、お母さんに苦い顔された。元はと言えば、うちが悪い。
 先週の懇談で「演劇やりたいです」なんて、苦し紛れに言うたもんやさかい、お父さんとお母さんで相談して、あちこちの演劇科のある大学から入学案内を取り寄せた。それもネットで申し込むよって、うちには、ほんま寝耳にミミズ……タッチミス。寝耳に水です。
「OG大学……KI大学……KZ大学……OS大学」
「こんなんも来てるぞ」
「ゲ……!」
 大阪の劇団の研究生募集のプリントアウトしたやつが三枚。
「まあ、なんも、この中から決めなさいいうことやないよ。懇談のあと、あんたがなんにもせんと、紫陽花がドータラ、ウンコ踏んでコータラて、全然その気になってないみたいやよって、刺激を与えるつもりで取り寄せたもんやさかい、気楽に見たらええよ」
 と、母上はおっしゃる。

 仕方ないんで、三階の自分の部屋に戻って、パラパラとめくってみる。

――豪華講師陣!――
――舞台で、もう一人の自分を見つけよう!――
――ここに、君の新世界!――
――人生の第一幕が、今始まる!――

 四冊目で嫌になった。考えてみんでも分かる。この四大学の定員合わせただけで1000人は超える。それに大学は四年制。つまり、入学しても、先輩らが同じ数だけおって、他の短大やら専門学校、劇団の養成所あわせたら、もう自宅通学可能な範囲の中だけでも10000人近い演劇科の学生やら研究生がおる。

 こんだけの需要が、この業界にはあれへん。絶対!

 プロでやっていけるのは、まあアルバイトみたいなん含めて一割。専業でやれるんは……考えただけで恐ろしなる。
「ビビっとるだけでは、いつまでたっても決心でけへんで」
 寝るとき以外は上がってけえへんお父さんが、いつの間にか後ろに立ってる。
「人生言うのは、石橋叩いていくもんやない。その時その時の出来心で分岐していくんや。ま、明日香には、めったに人生訓めいたことは言わへんけど、人生はやって失敗した後悔よりも、せえへんかった後悔の方が大きい……と言うな」
「そない言われても……」
「人生は短いぞ。こないだ女子高生や思てたんが、いつのまにか還暦前のオバハンや」
 二階のリビングで、お母さんがクシャミをした。
「まあ、ゆっくり考え……言うても秋の進路選択には決めならあかんけどな……」
 それだけ言うて、お父さんは下に降りて行った。

――楽しい選択やんけ、命がかかってるわけやなし、ちょっとでもやりたかったら飛び込んでみい――

 正成のオッサンも勝手なことを言う。
 確かに、おとうさんの言うことにも一理ある。生まれて、まだ17年と2か月の人生やったけど、思い返すと小学校、保育所の時代なんか、ついこないだやった。
 関根先輩のことも頭に浮かぶ。関根先輩の気持ちが揺れてるのは、うちの錯覚だけやないと思う。せやないと呼びもせんのに運動会観にきたりせえへん。麻友に鼻の下伸ばしたんも照れ隠し。踏み切れへんのは、うちの方かもしれへん。

 ちゃうちゃう! うちの進路のことや!

 確かに、コンクール出た時も、他の学校の子は大根やった。舞台で、その場所に立ってるいうことは、みんな役として理由か目的があるからや。台詞は思考や行動の結果で、演技で一番大切なんは対象を、ちゃんと見て聞くこと。その結果自然に台詞が出てくるまで読み込んで演りこまならあかん。
 あかん、今は自分のこっちゃ。

「明日香、こんなんきたぞ!」

 また、お父さん。今度はプリントアウトした紙一枚。読んでびっくりした!

 それは、MNB47の書類選考合格の書類やった……。
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真夏ダイアリー・3『ジャノメエリカ』

2019-09-08 06:33:54 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・3
『ジャノメエリカ』    


 
 慣れてはきたけど、やっぱ自分の名前を書くのには抵抗がある。
 
 冬野夏子

 入学式の日に大杉にからかわれ、カッとなったけど、客観的にみたら、やっぱ矛盾した姓名だ、苗字と名前がガチンコしている。
 省吾の春夏秋冬と書いて「ひととせ」と読むのは至難の業だけど、慣れてくるとミヤビヤカで、ハイソな雰囲気さえある。中村玉男は、本人が、あんなにナヨってしてなかったら、なんでもない。ナヨって感じで言うから「中村玉緒」って女優さんを連想してしまうんだ。

 で、少し抵抗感じながら名前を書く。最初の問題は元素記号を書くだけ。これはチョロイ。次は元素名を書いて、元素記号にしろって、前の逆。
 もうけちゃった。わたしは、テスト用紙が配られるまで、必死でノートに、ヤマ張りした元素記号や、化学式を繰り返し書きまくり、テスト用紙が配られると、用紙の端っこに、覚えたそれが記憶にある間に全部書きだした。いわば合法的カンニング。この方法だと80点とかは無理でも、50点は確実にとれる。だから、答は、それを見て写すだけ。わたしは中間テストでは28点の欠点だった。まあ、前の晩にお母さんとケンカしてろくにヤマ張りもできなかったってことが原因なんだけど、普段いかに勉強していないかのアカシでもある。で、どうしても、化学は62点以上取らなければ、二学期は欠点になってしまう。
 ところが、次の問題でこけた。

 次の銅と希硝酸の化学反応式の(?)を埋めなさい。

 ?Cu + ?HNO3 →?Cu(NO3)2 + ?H2O + ?NO2

 わたしは、プロパン(C3H8)の燃焼にヤマを張っていた。

  C3H8+O2→CO2+H2O

 答え
 C3H8+5O2→3CO2+4H2O

 ムムム……絶対プロパンは出ると思っていた。元素記号の問題だけで40点はある。これにプロパンの問題で20点。他にまぐれ当たりで2点を稼いで、ぎりぎりセーフ……のはずだった。

 五分ほど、問題とにらめっこして集中力が切れてしまった。

 夕べの夢が思い出された。

 夢の中で女の子が現れた。
 
 薄桃色のAKBの制服みたいなのを着ていた。風もないのに、その子のうす桃色の衣装も、セミロングの髪も、軽くそよいでいる。ゲームの立ち絵のようだ。
 気が付くと(むろん夢の中)その子と目があった。寂しげだけど、わたしのことを見てニコニコしてくれている。
「だれ、あなた……?」
「……エリカ」
 それだけ言うと、エリカは口をきかなくなった。ただニコニコ微笑んで、わたしを見ている。なんだか癒される笑顔。
「エリカ……ちょっと寂しげだね」
 そう聞くと、エリカは軽く頷いて、視線を上げた。その視線をたどっていくと、壁が透けて、隣りのお母さんの部屋が見えた。お母さんは、歯ぎしりしながら眠っていたけど、急に目覚めると、頭とお尻を掻いてカーディガンを羽織ると、パソコンに向かって文章を打ち出し、オフィスアウトルックを開き、添付書類にして送信ボタンを押した。なにか仕事のことで思いついて、どこかへメールを送ったようだ。

――寝ても覚めても仕事だ……。

 半分同情、半分怒りが湧いた。五分ほどで、それを終えるとお母さんは、片方のお尻を上げてpass gasした。で、なにやら、スケジュ-ルを確認するとパソコンを閉じ、再びベッドへ。そして、ほんの十秒ほどで、また眠り始めた。で、顔を戻すと、またエリカと目が合った。エリカは優しく頷いた。
 エリカが消えたのか、わたしが眠りに落ちたのか、そこでおしまい。
 朝になって――おはよう――を言おうとした。
「あたし、早出だから、テキトーに食べて行ってね」
「あのさ、お母さん」
 いつもなら、こんな母親はシカトするんだけど。なぜか声をかけてしまった。
「なに?」
「たまには、二人で、どっか行こうよ。引っ越しの買い出し以来、どこにも行ってないよ、二人では」
「だっけ……」
「……ま、言ってみただけ」
「そうね……出るときプラゴミ出しといてね。先週出し忘れて一杯だから」
「はいはい……」

「はいは一回だけ」昔は、お母さん注意してくれた。でも、ろくに返事もしないでお母さんはドアの向こうに行ってしまった。瞬間吹き込んできた冷たい外気にブルっと震えた……。

 そんなことを思っているうちに、鐘が鳴った。
 ああ、これで二学期、化学の欠点は確定だ。

「ねえ、帰りに駅前のラーメン屋行かない? 新装開店で、今日半額だよ」
「ワリー、今日部活」
「エー、なんでテスト中に部活!?」
「そういうクラブなんだ、文芸部って」
「ごめんね」
 そういうと、省吾と玉男は、わたし一人残して、教室を出ていった。

 信じらんねー文芸部だなんてー!!

 教室の窓から、思い切り叫んでやった。
「また、遊んでやっから!」
 省吾が叫んで、玉男が笑った。

 遊んでなんかいらねーよ。ただ、話がしたかっただけなのに。聞いてもらいたいだけだったのにイ!
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小悪魔マユの魔法日記・27『フェアリーテール・1』

2019-09-08 06:14:28 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・27
『フェアリーテール・1』


「よく食べるわね……」

 里衣紗の声が降ってきた。
 マユが目を上げると、里衣紗と沙耶が並んで立っている。
「あんたたちだって」
 里衣紗と沙耶は、食堂特製のフライドポテトを持って、ホチクリ食べている。
「あたしたち、Bランチと、これだけだよ」
 沙耶に言われて、マユは自分のテーブルに目を落とした。

 A定食(B定食に、ぶっといトンカツが付いている)の大盛りに、かき揚げ丼、きつねそば、脇には、沙耶たちより一回り大きなフライドポテトが、ドデンと控えている……たしかに多い、多すぎる。
「あ、昨日AKRのレッスンとかあったし……」
「でも、知井子は、あれだよ……」
 里衣紗の目線の先には、テーブル二つ分向こうに知井子が、玉丼の空になったのを置いて、アイスを舐めながら、練習曲のスコアを見て、テーブルの下、足だけでステップの練習をしていた。
「同じAKRなんだよね……」
「あ……わたしの体って、燃費悪いのよね。アハ、アハハハ」
 
 その場はごまかした。

 マユの体は、二人が同居しているのだ。マユと、幽霊の浅野拓美……。
 マユは小悪魔ではあるが、体は、まったくの人間である。使っただけのエネルギーは補給しなければならない。それも、今は二人分。当然、食事もするしトイレにも行く。

 で、今、マユは女子トイレの個室の中にいる。と言って、用を足しているわけではない。いくらラノベとはいえ、トイレの個室の状況を描写することまではしない。
 しかし、トイレ本来の使い方をしていなければ別である。

――ねえ、拓美。わたしの体に同居してるのは……まあ、同意する。暫定的にだけどね。
――ごめんね、レッスンで体力使うもんだから……わたしって、サブリーダーでもあるわけでしょ。スタジオには一番に入って、最後に出るの。
――リーダーの大石さんもいるでしょう。
――クララはクララよ。トップとサブは自転車の前と後ろ。どっちが力を抜いても自転車は進まないわ。
――でも、拓美って幽霊じゃん。空気も吸わないのに、食事はするわけ?
――マユの体に入っているから、お腹が空くの!
――拓美って、生きてたころ、かなりの大メシ食いだったんじゃないの?
――そういうマユの体こそ、燃費悪いんじゃないの。自分でも言ってたじゃないの。
――ああでも言わなきゃ、ごまかせないじゃん!

 そのとき、個室がノックされた。

「あ、ごめんなさい、今空けるから……」
 マユは、急いで水を流し、個室を出た。
 目の前に、知井子ぐらいの背丈のカワイイ子が立っていた。

 手を洗いながら、鏡越しに他の個室が全て空いていることに気づいた。
 そして、今の子が、個室に入らず、じっとマユを見ている。
 鏡の中で、視線が合った。マユは、少しドキリとした。

「あなた、小悪魔のマユさんね」

 その子は、ニコリともせずに言った。
 マユは、大いにドキリとした……。
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