大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・079『M資金・13 カオス』

2019-09-28 13:48:20 | 小説

 魔法少女マヂカ・079  

 
『M資金・13 カオス』語り手:マヂカ 

 

 

 

 振り向くと、後部座席には誰も居ない。

 

「どうかした?」

「ブリンダ、ちょっとバックミラーを見て」

「バックミラー?」

 ブリンダは、運転席側のバックミラーを覗くが、見えるのは遠ざかる東京の街並みだけだ。

「こっちのバックミラーを見て」

 首を伸ばして助手席側のバックミラーを見るが、やはり遠ざかる東京の街並みだ。

「あ、そっちに行った!」

「え、こっち?」

 移動しているのが見えるわけでは無いのだけど、アリスの目線が動くので、反対側のミラーに行ったと感じた。

『そうよ、ブリンダに見えるように移動してるのに、アマノジャクに動き回るから』

「これ、アリスの声?」

『そうだ、ルームミラーに移動すれば、どちらからでも見えるかも!』

 アリスの言葉で、ルームミラーを見る。

「「見えた!」」

『えと、アリスだよ。よろしくね』

「穴に墜落して死んだんじゃないのか?」

『死んだわよ。間抜けな方のアリス』

「じゃ、あんたは?」

『賢い方のアリスだよ』

 わたしのイメージの中のアリスと違って、なんだか人を喰った感じに見える。

「ルームミラー見ながらじゃ運転しずらくってさ、ちゃんと出てきてくれよ」

 たしかに、ブリンダと身を寄せ合わないと、ミラーの真ん中にアリスを捉えることができなくて煩わしい。

『わりいね、あたし『鏡の国のアリス』だから、鏡の外には出れなくってさ』

 ああ、そう言えば『不思議の国のアリス』には続編があって、たしかに『鏡の国のアリス』だ。

『うん、マヂカが思った通り、リアルの肉体では、そっちには行けないのよ。ま、話聞いてよ』

「手短にね」

『敵の名前は『カオス』って言うの。てか、あたしが付けた名前なんだけどね』

「カオス……」

「混沌って意味ね」

『そう、何が出てくるか分からないからね。今は、向こうの世界で大人しくしてるけど、主だった魔法少女をやっつけたら、こっちの世界にも姿を現すわ。あんたたちの任務は『カオス』が向こうに居る間にやっつけること』

「そうか……だったら、オレたち魔法少女が健在な限り、こっちには影響がない」

「だったら、そっとしておくのも手じゃないの?」

 艦隊司令がむちゃくちゃなので、つい嫌味な言い方をしてしまう。分かるわよね、姿がコロコロ変わって、こんなポンコツ機動車しかあてがってくれないんじゃ、モチベーションの上がりようがない。

『放っておいたら、いずれカオスの方からやってくる。その時は、世界中の魔法少女が束になっても勝てなくなるわよ』

「そうなのか?」

『うん、間抜けのアリスも、そこんとこは分かってたわよ』

「……それで、どうしたらいいって言うの? とりあえず出撃はしたけど、どこへ行くんだか見当もついてないんだから」

「そうだ。目標が見つからなきゃ、腕の振るいようもないだろ」

『カオスが現れないのは、あんたらが、戦う気になってないから。その気になったら、カオスは目の前に現れる』

「「ウーーーーーーーーン!!」」

『便秘じゃないんだから、力んだって出てこないわよ』

「じゃ、どうすれば?」

『じゃ、この情報でどう……』

 アリスが指を動かすと、ミラーの前に文字が浮かんだ。

 

――カオスを倒さなければM資金は回収できない――

 

 ウ…………仕方がない。

 

 そう思ったとたん、前方に巨大なニヤケた口が現れた。

 ゆっくりと目とヒゲと縞模様も現れて、巨大なチェシャネコの姿になっていった。

 

 

 

 

 

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真夏ダイアリー・23『大洗母子旅行・1』

2019-09-28 06:31:41 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・23
『大洗母子旅行・1』      
 
 
 
 
 大洗の駅前は『ガールズ&パンツァー』一色だった。
 
『ガルパン』は乃木坂学院の文芸部でも聞かされ、ネットでも検索していたので、かなり詳しく知っているつもりだったけど、こんなに賑わっているとは思わなかった。
 
「これが休暇を取れた理由よ」
「ああ、取材にかこつけて……」
 電車から降りると、たちまち変装用のメガネが曇ってしまい、外してハンカチで拭いた。
「早くしなさいよ。あんた、ほんとのアイドルになっちゃったんだから、目に付くわよ」
「大丈夫、ニット帽も被ってるし、眉を描いてきたから、ちょっと目には分からないわよ」
「プ……なに、その眉。ちょっと描きすぎじゃない?」
「でも、自然でしょ。『プリティープリンセス』のアン・ハサウェー参考にしてきたの」
 わたしは、メガネをかけ直して、エッヘンポーズをとった。
「それって嫌み?」
「どうして?」
「主人公のミアのお母さんて、ちょっと変わったアーティストで離婚歴あり。で、その離婚が原因でストーリーが始まるのよね」
「でも、お父さんは国王じゃないわ。さ、まずはお仕事」
 そう言うと、お母さんは、そこいらにいるガルパンファンにインタビューに行った。カバンが大きいと思ったら、小型のプロ用カメラが入っていた。
 
「真夏、カメラ頼むわ。わたしインタビューするから」
 
 臨時のカメラマンにされてしまった。でも、カメラを構えてると、顔のほとんどが隠れてしまい、わたしにとっても都合が良い。
 まずは、実物大のⅣ号戦車のパネルの前にいる大学生風の男の子たちから始めた。
 
「ガルパンのどういうとこがすきなんですか?」
「わ、放送局っすか!?」
「まあ、いちおう」
 お母さんは、適当に答える。
「で、どういうとこが?」
「一口で言うと……なんでもありってとこですよね」
「そうそう、戦車と萌えなんか普通考えないっすよ」
「そのわりに、戦車の細かいトコなんかすごくリアルだし、ロケーションを大洗に持ってきたトコなんか突いてるって感じです」
 わたしより年上なんだろうけど、言葉は高校生並み。でも、ガルパンの核心はついている。わたしも含めて、今の若者って、鋭いのか、大ざっぱなのかよく分からない。ただ心理的にちょっと複雑という点では自信がある。
 
 それから、会場であるマリンタワーが見える広場では、主に展示物や、それに群がるガルパンファンを撮影。
 
 そして、お昼を食べてからは、ファンたちには聖地と呼ばれる町の風景を撮りにいった。
 
 キャラたちが五両の戦車に乗ってカタキの学校の戦車を撃破したところだ。案の定ファンたちで一杯。取材のネタには事欠かなかった。
「わたし、渋谷で、Ⅳ号戦車見たんだよ」
「え?」
 キャラたちが、敵のイギリスのクロムウェルを撃破し、からくも勝利した「聖地」の取材中にお母さんに言った。
「うん、ハチ公前の路上販売のおじさんから、クリスマスパーティー用のグッズ買ったら、頭がクラっとして。そうしたら道玄坂の方から走ってきた……」
「渋谷怪談って映画ができたぐらいのとこだからね。そういう話の一つや二つはあるかもね。だいたいハチ公にしたって、なんか都市伝説の走りって感じじゃん」
「……お母さん」
「うん?」
 一見無防備でノリノリのお母さん。これはお母さんのバリアーだ。このまま話しても、のった振りしてかわされる。
「ううん、なんでもない」
「変なの……ちょっとそこのディープなファンの人!」
 お母さんは、ファンの一群に突撃していった。

 旅館の夕食のアンコウ鍋が、半分がとこお腹に収まったところで、聞いてみた。

「お母さん……」
「なあに?」
「お母さん、どうしてお父さんと結婚したの? で、どうして別れちゃったの?」
「ゲホゲホ……」
 予想通り、お母さんは虚を突かれたようにむせかえった。そしてむせかえりながらも用意していた母親の仮面を被り始めているのが分かった。
「シナリオ通りの答えなんかしないでね。そんな答え、お互いの距離を広げるだけだから」
 
 わたしの真顔に、お母さんは明らかに動揺していた。
 旅館の窓の外は、粉雪が降り始めていた。雪が全てを覆い尽くす前に聞き出さなくっちゃ……。
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宇宙戦艦三笠・14[ヘラクレアの信号旗]

2019-09-28 06:22:03 | 小説6
宇宙戦艦三笠・14
[ヘラクレアの信号旗] 



 

 

 テキサスも三笠も修理を終えて小惑星ヘラクレアを離れて行く。

 ヘラクレアは、テキサスの廃材と、代わりにテキサスに使った材料を整理するために、星全体がガチャガチャと音を立てて形を変えていた。小惑星とは言え、長径30キロ、短径10キロもある星である。テキサスの修理ぐらいで形が変わるはずはないのだけど、ヘラクレアのオッサンにはこだわりがあるようで、全てのスクラップをあるべき場所に収めなければ気が済まないようだ。テキサスという異質物を取り込んでそのままにせず、全体の調和の中に収めているんだとみかさんは言った。

「あんな面倒なこと、わたしにはできないわ」

 みかさんは天照大神の分身でありながら、言うことが、片付けが苦手な女子高生のようである。
 パッと見は全然変わらないんだけど、モニターにテキサスと三笠が来る前と、今のヘラクレアを重ねてみると微妙に細部が違う。星全体を覆っている外板と鋲の位置が違うし、デコボコした張り出しもセンチ単位で位置や形が異なっていた。
「まるで『ハウルの動く城』ね」
 美奈穂が言った。
「それならソフィーがいなくっちゃ。ヘラクレアのオッサン一人じゃね」
 と、樟葉がチャチャを入れる。
「いっそ、美奈穂さんが居てあげれば」
 みかさんも尻馬に乗る。
「あたしがいなきゃ、三笠の射撃ができません」
「及ばずながら、わたしが帰りに通りかかるまで代わってあげてもいいことよ」
「いいえ、三笠の砲術長はあたしですから!」
 美奈穂はムキになった。
「それなら、それでいいのよ。ただね、ヘラクレアのおじさん……」
「なんですか?」
「娘さんを亡くしてるの……」
「ほんと……!?」
「あなたと逆ね。娘さんは戦争で、仲間を庇って亡くなってるわ」
 トシも樟葉も修一もみかさんの言葉に驚いた。
「あんな風に、スクラップを集めているのは、あの星の中心に娘さんが載っていた船の残骸があるから……それが捨てられずにね、ああやってスクラップで囲んで思い出を守っているのよ」
「あ、信号旗が上がった」
「航海の無事を祈る……か」

 美奈穂は、ずっと信号旗を見ていた。

「どう、お父さんを見直す気になった?」
「あたし、お父さんんことなんか……」
 美奈穂の父は、美奈穂一人を残して中東で死んでいる。
「ヘラクレアのおじさん、美奈穂ちゃんのお父さんに似てる……直観でそう思ったでしょ?」
「……いいんです。おかげで横須賀に来られて、みんなに出会えたから。物事には裏と表があります。だから……」
 美奈穂が言い終わる前に7発の礼砲が鳴った。
「あ、それ、あたしの仕事!」

 慌ててCICに飛び込む美奈穂であった。
 
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音に聞く高師浜のあだ波は・7『高師浜のあだ波』

2019-09-28 06:13:01 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・7
『高師浜のあだ波』
         高師浜駅


 

 あんたらの写真が出てるらしいよ。

 町会の寄合から帰ってきたお祖母ちゃんが言うた。
「え? うおっ!」
 晩ご飯のあとの食器を洗てるとこやったんで、思わず手が滑って、シンクにお皿を落としてしもた。
 可哀そうなお皿は、きれいに真っ二つに割れてしもた。
「あちゃー」
 お祖母ちゃんが痛々しそうに、割れたお皿を持ち上げる。
 中坊のころやったら「もー、脅かさんとってよ!」とむくれてるとこや。
 でも、高校生のあたしは違う。晩ご飯の直ぐ後に洗い物せーへんかったあたしが悪いと思う。それに、お祖母ちゃんは、あたしを脅かしてドジをさせたろいうようなイケズで言うたわけやない。

 一週間前のことで、今の今まで忘れてた。

 先週、すみれと姫乃を誘て、高師浜に開店した西田さんのイタ飯屋さんに行ったときのこと。
 待ち合わせの高師浜駅で、元駅員のオッチャンに写真を撮ってもろた。
 写真と言われて、それが直ぐに浮かんで、持ってたお皿を落としてしまうくらい、深層心理では気になってたということや。

 姫乃らに教えたろとも思たけど、とりあえず一人で見に行くことにした。

 一晩寝て朝一番で!……と思たけど、起きたら九時半。
 朝ごはんかっこんで、愛車のミカン色の自転車に跨って、高師浜駅を目指す。    

 え、うっそー!?

 人だかり言うほどやないけど、駅前には十人近い人が特設の掲示板を見てる。
「いい写真やねえ」「NMBの子?」「いや、こんな子らはおらへんで」「素人さん?」「まさか」「そやけど、垢ぬけたベッピンさんらやなあ」「三人ともええなあ……」
 そんな呟きやら会話が聞こえてくる。

 花壇の傍に自転車を停めて、恐る恐る掲示板に……ちょ、ちょっとすみません。

 前の方に出ると、それが見えた!
 それは、写真と言うよりはポスターやった!
『音に聞く高師浜』
 タイトルが右の縦書きになってて、左に南海電車のキャプション。その間に挟まれ、トリコロールのワンピを着たあたしらが立ってる。

 イ、イケてる……!

 撮ってもろた後で、モニターに映った写真は見せてもろたけど、そのときもイカシテルとは思たけど、ポスター風に大きなるとインパクトが全然ちゃう!! あたしらて、こんなにベッピンやったん?

 で、期待と心配が沸き上がってきた。

 そやかて、みなさんが感心してるモデルの本人が、ここに居てる、このあたし天生美保!
 いやー気ぃつかれたらどないしょ! ねえ、ちょっと早よ気ぃついてよ! という矛盾した気持ち。

 五分はおったやろか、意識的に顔を晒すようなことはせえへんかったけど、それでも写真見てる人の顔をチラ見とかはしてた。
「ここに自転車置かれると、困るんですけど」
 駅員さんが、あたしの自転車の横で声を上げた。
「あ、すみません。直ぐどけます!」
 みなさんの注目を浴びる……けど、気づかれることは無かった。やっぱ、日ごろのあたしは、ごくごく普通のパンピーというかモブキャラというかNPCというか。

 で、安心したような寂しいような気持ちで、写メ付でメールを二人に送る。

 家に帰ると、リビングのテーブルの上に、きのう割ってしもたお皿が元に戻って置かれてた。
 え、ドラえもんのタイム風呂敷か!?
「思い出のお皿やから、瞬間接着剤で直しといたよ」
 二階から下りてきたお祖母ちゃんが種明かし。とにかく、つなぎ目が見えへんくらいキッチリと直してある。
「ありがとう、お祖母ちゃん」
 お祖母ちゃんが言うほど大事にしてたわけやないけど、言われると、このお皿にまつわるアレコレが思い出される。
「もう普段使いにはでけへんから、壁掛けにしよか」
 お祖母ちゃんは、大事そうにお皿を持って行った。

 お昼を食べよ思たら着メロの音、お、姫乃からや。

――すごいよ、見に行ったら速攻で正体バレちゃった!――

 文面の後に写真が続く。駅前のみなさんに、アイドルよろしく取り囲まれてニヤついてる姫乃。

 なんで姫乃だけ!? 
 
 面白ない休日やった……。
 
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高安女子高生物語・101〔The Summer Vacation・4〕

2019-09-28 06:03:29 | ノベル2
高安女子高生物語・101
〔The Summer Vacation・4〕
      


 
 
「河内音頭しか取り柄がないんだからね!」

 夏木先生の言うことは三日で変わってしもた。
 三日前からのうちのブログアクセスは30000を超えて、事務所にも6期生の河内音頭が聞きたいという電話やメールが殺到。
 で、市川ディレクターと夏木先生らエライさんが相談して、うちら6期生をシアターのレギュラーにすることにした。

 普通、研究生は一か月目ぐらいで一人15秒ほどの自己紹介と先輩らのヨイショがある。
 それから新曲がついて、グループデビューには3か月。それまでは選抜のバックや営業と決まってる。

 それが、ステージ紹介から、わずか6日でステージデビュー。

 日本で数ある女性グループで民謡、それも日本一泥臭い河内音頭。それとオールディーズのVACATIONとの組み合わせが、レトロでありながら、とても新鮮に映ったらしい。とにかく目先の人気第一主義のユニオシ興行が見逃すわけがない。

「ええ、では6期生の選抜と、チームリーダーを発表します」

 取り柄の変更の次に、これがきた。
「緒方由香、羽室美優、山田まりや、車さくら、長橋里奈、白石佳世子、佐藤明日香。あとは決まり通りバックね。ただ人気の具合では選抜入れ替えもありだから、がんばって!」
 落胆やらガッツやら、戸惑いやらが一遍に起こった。で、それを噛みしめる間もなく、夏木先生の檄。
「VACATIONの振り付けをきちんとやります。全員バージョン、選抜バージョン、1分バージョン、4分フルバージョンやるから、3時までには覚えること。3時からは河内音頭の特訓。はい、かかります!」

 さすがは夏木先生、完全に新しい振り付け。オールディーズの匂いを残しながらも、今風の目まぐるしいまでのフォーメーションチェンジ。これはいけると思た。
 午前中で、全員バージョンと選抜バージョンをこなす。上り調子のときは覚えも早い。レッスン風景をカメラ二台で撮ってたとこを見ると、プロモも撮り直しの感触。ユニオシから予算が付いたんやろなあ。

「昼からは、短縮とフルバージョンだけだからコス着けてやります。新調した衣装が来てるから、それ着てやるよ。シャワ-浴びて下着からとっかえてね」
「あの、下着の着替えは持ってきてません」
 という子が半分以上おった。充実はしてるけど、こんなハードなレッスンになるとは思っていなかった。
「あ、そっちの連絡はいってないか。仕方ない。全員分のインナー買ってきて!」

 これは、さすがに男のアシさんと違うて、事務の女の人が買いに行った。全員のスリーサイズは登録済みなんで、サイズ表持っていったら、一発でおしまい。
 シャワーはいっぺんに十二人が限界なんで、大騒ぎ。衣装は着替えならあかんし、頭もセットのしなおし。こないだのロケバスでも、そうやったけど、裏ではうちらは女を捨ててかかってる。学校でこれだけ早よやったらガンダム喜ぶやろな。と、一瞬だけ頭にうかぶ。
 みんなスッポンポンで着替えて交代。MNBに来る子はルックスもバディーも人並み以上やけど、その人並み以上でも胸やらお尻の形が千差万別やのは新発見。

 夏木先生の言うた通り、短縮とフルバージョンの違いは二回ほどでマスター。先生の指導がええのんはもちろんやけど、うちらのモチベーションが高いいうのが大きいことやったと思う。コスは赤と白を基調とした水玉。全体のデザインはいっしょやけど、襟やポケット、タックの取り方が微妙に違うんで、自分のコスはすぐに分かる。

 三時からは、河内野菊水さんが来て、河内音頭の特訓。菊水さんは河内音頭の第一人者。ちょっと緊張したけど、うちと同じ八尾のオッチャン。フリはスタンダードを教えてくれはったけど、ステップさえ間違えへんかったら、アレンジは自由。
「明日香ちゃん、あんた上手いなあ。それだけやれたら、盆踊り、いつでもヤグラに立てるで」
 誉められてうれしいけど、河内音頭は、ほとんど、うちの中に住み着いてる楠正成のオッサンが楽しんでやっとる。700年の筋金入りの河内のオッサン。上手うて当たり前。

 本番前に、先輩の選抜さんらに挨拶。メイクとヘアーの最終チェック。全員で円陣組んで気合いを入れる。
「今日から、6期を入れて新編成。気合い入れていこな!」
「おお!!」
 座長嬉野クララさんの檄で気合いが入る。

 うちらの受け持ちは15分ほどやったけど、舞台も観客席もノリノリやった!

 そのあと、初めての握手会。うちのとこには長い行列。嬉しかった。

 そやけど、その中に関根先輩が混じってたのには気ぃつけへんかった。
 
 佐藤明日香、一世一代の不覚やった……。
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小悪魔マユの魔法日記・47『フェアリーテール・21・夢の底』

2019-09-28 05:53:47 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・47
『フェアリーテール・21・夢の底』
   


 

 ロックオンして程なく、サンチャゴじいちゃんのボートは、大きな島の浅瀬で停まった。
 小さな碇を投げ入れると、身軽にボートから飛び降りて、膝まで水に漬かりながら砂浜に上がっていった。
 ミファも、すこし遅れて浅瀬に着くと、サンチャゴじいちゃんを追いかけた。

 サンチャゴじいちゃんは砂浜からブッシュの中に進み、見えなくなった。
――マークが、まだ点いているでしょ。ロックオンを続けて。
 マユが、ミファの心の中で言った。
「サンチャゴじいちゃん、なんだか身軽になってたよ……」
――てか、若返ってる。背筋は伸びてるし、あの身のこなしは……どうやら、ここからはドキュメンタリーじゃないみたいね。

 二十分ほど行くとブッシュをぬけて、草原に出た。

 マークの下にいるのは……海兵隊のフル装備に身を固めた若者だった。
――あれ……サンチャゴじいちゃんは?
「あれだよ……じいちゃん、若い頃は軍隊にいたんだ。あれ、そのころのサンチャゴじいちゃんなんだよ」
――うそ……!?
「だって、ここはもうドキュメンタリーじゃないんだろ」

 小悪魔のマユよりも、人間のミファのほうが、目の前のことを正確に受け止めているようだ。

 サンチャゴじいちゃん……いや、サンチャゴ軍曹は、ゆっくりと草原を見渡した。むろんミファとマユが合体した女性の姿は見えない。ここは、あくまでサンチャゴの夢の中なのだ。
 やがて、サンチャゴ軍曹は、それを見つけて小走りで寄っていった。まるで宝物を見つけたハックルベリーのように。

 それは、大きなライオンだった。

 ライオンは、金色に近いうす茶色のたてがみを、草原を吹きわたる風になびかせ、うずくまっていた。目は薄く閉じられていたが、今にも開きそう。ゆったりとした呼吸は草原全体の時間を支配しているように威厳があった。
 サンチャゴ軍曹は、かがんで、ライオンの顔を居眠っている友だちのように見ている。
 そして、目覚めるのを待つように、ライオンの横に並んで座った。
 海兵隊の軍曹とライオン……変な取り合わせだったが、ほんとうの友だちのようだった。
「サンチャゴじいちゃん、ライオンが目を覚ますのを待っているんだね」
――これだったんだね、サンチャゴじいちゃんが見ていた、夢の底は……。
「あたしたちも、待っていようよ、ライオンが目覚めるのを」
――うん。ライオンが目覚めたら、全ての秘密が分かると思う。
「なんだか、胸がドキドキしてきた」

「そこまでだ……!」

 合体した二人の後ろで声がした……。


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