大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・066『分岐・2』

2019-09-16 12:18:31 | ノベル
せやさかい・066
『分岐・2』 

 

 

 本の返却はカウンターの図書委員に渡したらおしまい。本は図書委員が書架に戻す。

 

 ところが、当番の図書委員の後ろには松葉杖が立てかけたって、カウンターには十数冊の本が溜まってる。

 どうやら、足を怪我してて、マニュアル通りに書架には運ばれへん感じ。

「あ……えと、わたしやっとこか?」

「は?」

「足、怪我してるんでしょ?」

「ありがとう、相棒の子ぉ休みやし、助かるわ」

 図書委員は、日焼けした顔にニッコリと白い歯ぁを見せる。笑うと、程よく目ぇが垂れて、二枚目半くらいのナイスガイになる。

 あ、手伝うたろいう気ぃになったんは、あくまで、お互い様いう奉仕の精神やからねえ(*´ω`*)!

 

 よいしょっと。

 

 踏み台に乗って、一番上の棚。最後の一冊を戻そうとして人の気配。

 本の隙間から見ると、書架の向こうで男子が二人……クラスのXとY、なにやらスマホを操作しとおる……怪しい。

「せっかく撮ったんやからなあ」

「なんや、下火になってきたしなあ」

「炎上するくらいやらんと、おもしろ……」

「おもしろするためにやるのんか?」

「ちゃう、うやむやになったらあかんさかいにや。これは社会正義のためやねんぞ」

 Xの手元のスマホを見ると、なんと……エアコンが壊れた時のクラスの様子が映ってる! どうやら、その動画をSNSで流す算段をしてるとこらしい。

 画面が小さいから、よう分からへんけど、音声から、教頭先生がやってきて移動し始める時のんらしい。このあと、留美ちゃんがひっくり返って、大騒ぎになるんや。

 学校は非難されてええと思うねんけど、留美ちゃんのしんどいとこをSNSで晒すのはやめて欲しい。

「ちょっと、音おおきないか」

「しぼろか」

 あ……聞こえへん。

 もうちょっと確かめてからと思たわたしは、本の間に首を突っ込んで様子を見る。

 あ、あああああああああ!

 書架に重心をかけ過ぎて、グラリときた!

 

 うわああああああああ!!! 悲鳴だけは三人揃った!

 グワラグワラガッシャーーーン!!!

 

 XYの居る方へ書架は倒れていき、何百冊という本がぶち撒かれ、その上にわたしは落ちていく! むろん下敷きの犠牲者はXとY。

 怪我は、三人とも打撲で済んだ。

 しかし、Xのスマホはベキベキに壊れてしもた。

 事故とはいえ、人のスマホを壊したら弁償もんやけど、XもYも文句は言わへんかった。

 

 いろんな分岐の末やねんやろけど、まあ、トゥルーエンドに近い終わり方になった、と思う。

 

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真夏ダイアリー・11『潤のタクラミ』

2019-09-16 06:43:12 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・11 
『潤のタクラミ』    
 
 
 
 
 心のモヤモヤはまた大きくなってきた……。
 

 「お母さん……あのさ」 
「なに?」 
 パソコンに向かっていたお母さんは無防備なままの背中で返事をした。 
「あの…………………………………………」 
「なに…………………………………………」
 
 すごく非日常的な間が空いてしまった。
 
「明日、晴れるかなあ?」 
「え……晴れだったと思うよ、テレビで言ってた」 
「良かった」 
「どうして……?」 
「あ、明日省吾たちとでかけんの。だから、どうかな……って」 
 口からでまかせ。出かける予定なんか無い……この寒空、明日は一人で出かけなきゃならなくなった。
 
 エリカの蕾が、ポトリと音を立てて落ちた。母子ともに、気づかないふりをした。
 
 そこに、メールが立て続けに二つ入ってきた。
 
 で……わたしは省吾と並んで映画館のシートに収まっている。夕べの最初のメールが、これだったから。
――映画のチケあるけど、行かねえか?――
 映画は『のぼうの城』だった。省吾のお父さんが、株主優待チケ持ってて、それをもらったらしい。玉男は親類の用事でアウト。で、期せずしてのアベック。 
 野村萬斎さんの、のぼう様は最高だった。こんなにお気楽で不器用。でもイザとなったらとんでもない閃きがあるオトコ……いいなあと思った。甲斐姫が羨ましくなった。 
 
「いい映画だったな」 
 マックで、遅いお昼を食べながら、省吾が明るく言う。 
 
「アスカ・ラングレーのシール貼ってあげてよね」 
「ああ、のぼう様なら、そうするだろうな」 
 ささやかだけど、省吾に想いを寄せる、まだ見ぬYちゃんを応援する。 
「どうする、これから?」 
「ごめん、これから別口があるの」 
「え……あ、真夏もがんばれや」 
「相手は女の子」 
「ハハ、どっちにしてもがんばれや!」 
 省吾は、のぼう様のように真抜けた激励をして、トレーを片づけた。
 
 
 
 二つ目のメールが、これ。
――明日、Sホ-ルに来て。受付にチケ置いとく。「真夏」って言えば分かるようにしとく。変装よろしく。潤――
「真夏です」
 
 受付で、そう言うと、封筒とチケを渡された。帽子とマフラーで完全変装。サッと、封筒の手紙を読んで、会場へ。 
 AKRのショ-は90分あった。歌やコントやトークショー。やっぱ生で見るとスゴイ。おとつい事務所のスタジオで見たときも、スゴイと思ったけど、ライブで見るとやっぱり圧倒される。 
 潤は、最前列の左端に居た。むろんアイドルの可愛いスマイル顔で。 
 ショーの半ばで、潤、萌、知井子のユニットの曲になった。
 
 
《ハッピークローバー》
 
 もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり 
 白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘
 
 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 
 その足もとに一面のクロ-バー  これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明
 
 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印  
 茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ
 なんで そんなにくわしいの くわしいの
 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて空の彼方よ
 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー  
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー
 四枚目のハッピー葉っぱは傷つくことで生まれるの  
 踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの    
 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに
 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー
 
 
 
 一番が終わると、3Dのバーチャルアイドルが現れて四つ葉のハッピークローバーになるという仕掛けになっている。こういうところで、他のアイドルグループとの差別化を図っているのかと感心した。 
「それでは、みなさん、AKRの最新曲『冬の真夏』を聞いてください!」
 バーチャルアイドルが、そう呼びかけると、選抜メンバーが勢揃いして『冬の真夏』でフィナーレになった。
 
 わたしは、手紙に書いてあるように出待ちの子たちの中に混ざって、ホールの裏口に回った。
 
 やがてADの吉岡さんが見つけて、手招きした。 
「メンバーが出てきたら、ここで混ざって。このドアのすぐ横でね」 
「は、はい」   
 やがて、メンバーのみんなが現れた。
 リーダーのクララさんが目配せすると、あっと言う間に、わたしはメンバーの中に混ぜられて、バスに乗せられた……。
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宇宙戦艦三笠・2[黎明の時・2]

2019-09-16 06:29:11 | 小説6
宇宙戦艦・2 
[黎明の時・2]    


 
 なかなか寝付けなかった。

 潰した当事者が言うのもなんだけど、ブンケンは学校での唯一落ち着ける場所だった。
 と言っても、学校でシカトされたり、学校そのものが嫌になっていたわけではない。一年生のトシを除いて樟葉も美奈穂も横須賀国際高校の生徒としてはテキトーに順応して立ち回っていた、むろん俺もな。
 
 でも、なんちゅうか、本音で付き合えたのはブンケンの仲間だ。
 
 教室とかじゃ、俺も美奈穂も不登校になる前のトシも、樟葉でさえ適当にやっていた。不機嫌な顔なんてめったにせずに、クラスのみんなとは六分くらいの付き合い。掃除当番や日直はサボらない。球技大会の選手に立候補したりはしないけど、当たったら文句は言わない。早朝練習はカンベンだけど、昼休みの遊び半の練習くらいは付き合う。文化祭の取り組みは「部活があるから」と前置きはするけど、準備とか当番が当たったら、文句は言わない。
 クラスの日比野さんが入院した時は担任が言うままお見舞いの手紙は書くけど、お見舞いなんかにはいかない。
 
 とにかく、ブンケン以外ではパンピーとかNPCという属性に徹している。
 
 それが、ブンケンなら、みんな気ままに主役をやっていられる。
 主役だから無理な笑顔もしないしわがままも言う。
 
 学校も、文化祭とかで適当に展示物作って発表したりブログとかやってると、一応文化部としての存立用件を満たしてるって納得してくれる。それが、たとえ先輩たちの遺産の食いつぶしで、発表した内容が現状と食い違っても文句は言われない。
 正直に言えばブンケンのやることに興味なんかないんだ。
 興味ないから、五年前に潰れた店のこと書いても、改修したのに気付かずにヴェルニー公園のこと書いても苦情は来ない。美奈穂がどぶ板の野良猫特集をやろうって言ったのも、そんなには間違っていない。美奈穂が間違っていたとしたら、俺や樟葉の心が折れてしまっていることに気付かなかったことかな……いや、トシが不登校になり始めた時、おざなりにメール打っただけで何もしなかった三か月前に、もう、そうなっていたのかもしれない。
 
 いや、今日の帰り道、どこかで美奈穂が待ってるかもなんて思っていた俺が、いちばん分かってなかったのかもな……。
 
 高校生というのはめんどくさいもんだ。
 
 ブンケン(横須賀文化研究部)という地味なクラブは元来が横須賀を舞台にしたRPGの聖地巡礼のオタクが集まってできたクラブだけあって、仲間内の結びつきは強かった。オレたちが入部したころはNHKの『坂の上の雲』の余韻なんかがあって、三笠公園や海軍カレーなんかの特集でホームページはなんとか維持し、アクセスも一日に100件くらいはあった。
 一年の間に、横須賀の名所はたいがい回った。先輩たちもいい意味オタクで、身内意識は強かった。学校での仕来りや裏情報、試験の対策、時には恋愛相談にも乗ってくれたりした。
 しかし、先輩は三年生の広瀬さんと杉野先輩二人だけで、二年生がいなかった。それで、二人が卒業すると、オレと樟葉と美奈穂の三人だけになってしまった。トシがたった一人の新入部員で入ってきたが、一学期の終わりごろから不登校になり、二学期になったら……という願いも虚しく、本物の引きこもりになってしまった。何度かメールは送ったけど、家には行かなかった。家まで押しかけたらプレッシャーになり過ぎると思って……校門前で解散の一本締めをやったとき電柱三つ分先に来れたのはトシにしては上出来。やっぱ、めんどくさくなってたのは俺たちの方か?

 三人の結びつきは『潰れた部活の元部員』に後退してしまうかもしれない。これまで仲が良かった分だけ、その反動で、廊下で会っても挨拶もしない同じ制服を着ているNPCのような同学年生にな。
 
 ああ、なんか支離滅裂になってきた。

 寝られないままパソコンを点けた。立ち上がると習慣でブンケンのアイコンをクリックしてしまう。
 
 あ……そうか。
 
 削除したので何もでてこない。
 
「美奈穂と同じことやってどーすんだよ……」
 
 樟葉か美奈穂とチャットとも思ったけど、午前0時半という時間を考えれば気が引ける。それに、こういう傷の舐めあいみたいなことは、今の美奈穂には高い確率で逆効果。樟葉に送っても既読にすらならないだろう。

 もう切ろう……そう思った時、画面に『後ろを見て』という文字が浮かび上がった。
 
 え……なんだろう?

 振り返ると、セーラー服にお下げという古典的な女生徒が、オレのベッドにハニカミながら正座している。
 
「ども……」
「だれ……?」
「えー……一応、神さまだったり……します(*´∀`*)」
「か、神さま!?」
「あ、一応って枕詞がつくけど(^_^;)」
 
 ハニカミながら、でも、どこか真剣な眼差しは、ジブリの『コクリコ坂から』に出てくるメルに似ている。その子は正座のままオレの傍に寄ってきた。つまり座ったまま宙に浮いている。

「戦艦三笠に乗ってもらえないかしら?」
 
「は?」
 
「宇宙戦艦三笠……とりあえず、現場に行ってみましょうか……(^▽^)/」 
 
 とたんに周りのものの存在が希薄になり、すぐに真っ白になったかと思うと急に椅子の存在が無くなり、20センチほど自由落下した。
 
 バスン 
 
 腹にズンときて落ちたところは、革張りのソフアーの上だった。
 
 テーブルを挟んで右側に樟葉と美奈穂。左側にはトシが居た。
 で、二秒ほどして気づいた。美奈穂が素っ裸。で、次の瞬間美奈穂の悲鳴が、世界中の熟睡者を起こすぐらいに響き渡った……。
 
 キャーーーーーーーーー!!
 
 
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物語・ダウンロード・5《125歳のサラリーマン・1》

2019-09-16 06:13:12 | ライトノベルベスト
物語・ダウンロード・4
《125歳のサラリーマン・1》       


――ノラ、いいものをあげよう――

 秋園くずはの三つ子の仕事は、さすがのオーナーも良心がとがめたのか、めずらしくノラの機嫌をとり。モニターのオーナーが、そう言ったとたんデリバリーロボットが元払いの荷物を届けに来た。
「クロイヌトマトの宅配便です。ハンコお願いします」
「ごくろうさま♪」
 ノラは、機嫌よく目のレーザーで、伝票にハンコを焼き付けた。
「なかなか粋なハンコの押し方ですね」
「ハハ、なんだか嬉しいから、やっちゃった!」
 ノラは、自分の目がレーザーを発するのに、初めて気づいた。

「……新発売の美肌ドリンクじゃない!? これ高いんでしょ、出たばっかしで……ありがたくいただくわ……」
――喜んでもらって、なによりだ――
「ん?……試供品……ケチ」
――なんか言った?――
「……いえ、ひとりごと(ドリンク片手に窓辺へ)あ……裏のビル取り壊したのね……気がつかなかった……ぐらいこきつかわれたのね……」
――ボリューム落としてグチるのやめてくれる。なんだか気分悪いぞ――
「なんでもないわよ、乙女の呟き……大通りが見える……こんな時間に……ああ、卒業式の予行か……意外に近かったんだねフェリペって……あそこ、創立以来百九十年、制服かわってないんだよね。中身は現代の子なのにね……ハハハ、歩きながらJポッド。マンガだろうねケラケラ笑って……あの子は三つ編みほぐして……本当は好きほうだいしたいんだろうね、自由にさせてくれって……でも、今のまんまでもそうとう自由なんだぞ、君たちは! こんなマシンにダウンロードされることもないし。なんたって自分のキッチン持ってるんだからね」

――あの制服着てみる?――

「あの制服?……フフ、ヘタなふりかた。どうせ仕事でしょ……はいはい……」
 腰に手を当て、嫌みっぽく栄養ドリンクのように試供品を飲み干し、プハーと言いながらマシンから服とクエストを取り出す。
「……え、また年寄りの相手!? 松田電器の会長、松田孝之助……この人、ギネスブックにのってるんでしょ、世界最高齢のサラリーマン……百二十五歳!?」
――それが、近頃元気がないんだ――
「当然でしょ、このお歳なんだから。で……この人の娘さんに?  あのね、何度も言うけど、わたしは、二十五歳プラスマイナス十歳……」

――よく見ろ――

「……フェリペの制服と、キュートな猫顔のポートレート……ちょっとオードリー・ヘプバーンに似てるわね……でもこれって、大昔の写真でしょ。昭和生まれの九十八歳。だからね……!」
――ノラ、お前気短すぎ。九十八歳が女子高生の制服着るか!?――
「……ああ、生きてれば……八十年以上前に死んでるんだ。なーる……(着替えはじめる)お母さんといっしょに……社員の人たちのアイデアで、一日だけ妻と娘をプレゼント。お母さんは?」
――モリプロ――
「……ああ、大手のロボットプロに……で、娘役がうち。どうして?」
――ノラの魅力がピッタリ! モリプロにも、こんなのいない!――
「……ヘタね、のせるの……まあ、いいけど……」
――窓の外、南側見て――
「窓の外……大通りのカフェテリアのおじいちゃん……あ、あの人がそうね、わかったわ。じゃ、ダウンロードして……」

 着替えてマシンに接続。
 
 スパークと振動。
 
 おさまると、モーツアルト、カットアウトしてノラは清楚なフェリペ学園の女生徒になった……。
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高安女子高生物語・89〔あ、切れた……〕

2019-09-16 06:02:51 | ノベル2
高安女子高生物語・89
〔あ、切れた……〕      


 
 正直きつい、最初の山やと思う。

 なにがて? 学校とMNB47の両立。
 
 うちは、どうでもアイドルになりとうてMNBに入ったわけやない。なんちゅうか、その場その場の「負けられるか!」いう気持ちで、ここまで来てしもた。
 一週間たって、そのへんのうちのオメデタイとこがシンドサになって表れてきた。
 責任の半分は正成のオッサン。
 よう知らん人のために解説。
 正成とは楠正成のことで、この春からうちの心の中に居候してる鎌倉時代の河内の「悪党」いうカテゴリーに入るオッサン。そいつが近所の恩地を散歩してたら憑いてきよった。気まぐれなオッサンで、何日も存在を感じひんときと、ウザイほどにしゃしゃり出よるときがある。MNBのオーディションの自由課題の時に、正成のオッサンが出てきて、河内音頭を派手にやらせよった。どうやら女子高生と河内音頭のギャップの面白さが決め手になったらしい。

 他の子は、アイドルまっしぐら。レッスンはしんどいけど、みんな嬉々としてやってる。やっぱりちゃうねんなあ……そう思うてるうちは、まだメンバーの友達はいてなかった。

「佐藤明日香さんやね?」

 くたびれ果てて、難波の駅まで歩いてるとこを後ろから声をかけられた。
「はい、そやけど……」
「ハハ、やっぱり、あたしのことは覚えてへんか?」
 その子は、うちの後ろを自転車押しながら歩いてた。
「ごめん。物覚えの悪いたちで」
「白石佳代子。佐藤さんのあとやってんよオーディション。河内音頭のあとやったからやりにくかったわ」
 そう言いながら、顔は笑うてた。
「アスカて呼んでええかしら? あたしのことはカヨでええさかい」
「ほなら、カヨさんでええ?」
「え、うちだけさん付け?」
「単なるゴロ。カヨさんの方が言いやすい。アスカはさん付けたら、よそよそしいやろ」
「ほなら、アスカ」
「なにカヨさん?」
 大阪弁のええとこは、呼び方がしっくりいっただけで、メッチャ距離が縮まるとこ。
「アスカは、おもしろいアイドルになると思うよ」
「ありがとう。うち正直バテかけてるよって」
「アスカは、負けん気あるけど欲がないよってにな」
 うちは、カヨさんの的確な言葉にびっくりした。
「カヨさんて、どこの子?」
「恵美須町」
「ああ、日本橋の?」
「うん、ちっこい電子部品屋の娘。最近は、ネット通販とオタクに食われて客足ばったりや」
「ネット販売はやってへんのん?」
「やってるよ。売り上げの半分はネット。せやけど、先は見えてる。うちはオタクに食われてんやったら、オタクを食うたろ思うてMNB受けてん。スタジオまで自転車で通えるし、恵美須町からアイドル出たら絶対ウケル!」

 そこで、うちは思い出した。カヨさんは、うちの後でお腹に響くようなゴスペル歌うてた子や。

「せや、思い出した。あのごっついゴスペル……カヨさんやったんや!」
「あんたの河内音頭ほどやないけど」
「ううん、なんか憑物がついたみたいやった」
「ハハ……ほんまに憑いてるいうたらびっくりする?」
「……それは」
 うちは言葉に詰まった。なんせ、うちがそうやさかい。
「あたし、出雲阿国(いずものおくに)が付いてんのん。あんたは?」
「楠正成……」
「そら、ぴったりやわ!」
「うわあ、いっしょや!」
 この飛躍した共感は、互いに憑物が憑いてる者同士の嗅覚からやと思う。

 その時、うちの靴の紐が切れた。

「あ、切れてもた」
 うちは、その場にしゃがんで、切れた紐をつなぎ直し、カヨさんは自転車停めて付き合うてくれた。

 そのとき、後ろから来た軽自動車が、歩道に乗り上げて、うちらのすぐ前を通って、通行人を次々に跳ね飛ばしていった!
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小悪魔マユの魔法日記・35『フェアリーテール・9』

2019-09-16 05:49:42 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・35
『フェアリーテール・9』  


 
「なんだ、てっきり白雪姫が生き返ったと思ったぜ!」

 おこりんぼのグランピーが鼻息荒く言った。
「でも、そのバラ色のくちびると声は白雪姫だ。ま、いいじゃないか」
 照れ屋のパッシュフルが、頬を染めてため息をついた。
「でも、これって、どういうこと?」
 おとぼけのドービーは、まだ分かっていない。
「だから、今言ったろ……ハーックション!」
 マユや、レミの説明に、スニージーがクシャミ混じりの解説を加えるので、七人のドアーフたちは、もう一つよく分かっていない。
「つまりだな、ここにいる魔女のマユが、魔法でなんとかしてくれるってことだ……ってぐらいは、なんとなく分かった」
 リーダー格のドックが、とりあえずまとめた。

「だから、明日の朝、アニマ王子がやってきて、白雪さんのくちびるをした赤ずきんさんにキスして……ま、それで、どうにかなるだろうってことなの!」
 マユがじれったそうに締めくくる。

「ま、どうにかなるんだから、どうにかなるんだろ。ハッピーじゃないか!」
 ポジティブなハッピーが素直に喜んで、なんとなくドアーフたちは納得した。
「山から帰ったばかりで、お腹空いてるでしょう。今夜は、わたしが晩ご飯を作ってあげるから」
 レミが、とりなした。
「ああ、お腹空きすぎて、眠いのも忘れちまったよ」
 ねぼすけのスリーピーがうなづくと、七人のドアーフたちのお腹が、いっせいにグー……と鳴りだし、みんなで大笑いになった。
「でも、今日は、山で働きすぎて、燃料の薪を集め損なったな!」
 おこりんぼの、グランピーが腕を組んで、右足で地面をドンドンした。
 すると、さっきから、三人娘たちが盛大にまき散らした!や?や……が、ピョンピョン跳ねだした。
「これは、いい薪になるよ。純粋な!や?だ、グランピーのは不完全燃焼になるんで使えたもんじゃないけど、これなら、今夜のぶんの薪には十分だ」
「……も、よく乾いていて、いい種火になりそうだ」
 ドックとハッピーが!や?を集めはじめた。
「アチチ、この!!は、もう熱くなってるぜ!」
 グランピーが拾ったのは、白雪姫が最初に言ったやつ。「ああ、もう、やってらんないわよ!!」の!!であった。

 にぎやかな晩ご飯が終わって、マユは赤ずきんを庭に連れだした。
 庭は、お月さまも満腹になったのか、まん丸の満月で、ひっそり話すのにはぴったりだった。

「なにか、お話でもあるの?」
 赤ずきんが白雪姫の声で言った。
「最初に現れたとき、なんだか顔色が冴えないって感じて……でも、こちらのお願いは喜んで引き受けてくれて……なんか、あるんじゃないかって……」
 マユは、切り株のベンチに、赤ずきんをさそった。月の光に縁取られた赤ずきんの姿は、マユがびっくりするほど美しかった。
「わたし、思ったより大人だったでしょ……」
「うん。十歳くらいのガキンチョかと思ってた」
「わたし……時間の流れが、他の物語の登場人物と違うの」
「え……?」
「お婆ちゃんを、オオカミさんから助けて、わたしの物語は終わるはずなんだけど、終わりにならなくって……気がついたら、こんな……多分十七歳ぐらいの女の子になってしまって。なんだか、芝居が終わったのに、まだ幕が下りない役者さんみたいに戸惑ってるの」
 赤ずきんは、足もとの松ぼっくりを、そっとけ飛ばした……松ぼっくりは、コロコロ転がって白雪姫の棺の下まで転がっていった。自然に二人の目は、白雪姫に向けられた。

「同じファンタジーの、それも同じグリム童話の仲間。その役にたてたら、それで、わたしはいいの……」

 バランスが悪かったのだろう。松ぼっくりは、コトリと音を立ててこけた。
「アイデンティティーのない主人公って、なんだかね……」
「……アイデンティティーとか、レーゾンデートルの問題だけじゃないように思える……よ」
 マユも足もとの松ぼっくりをけ飛ばした。松ぼっくりは、見事に赤ずきんの松ぼっくりに当たった。
「ビンゴ……かな?」

「明日……白雪さんのことがうまくいったら……ああ、やっぱりダメだ」
 赤ずきんは、うつむいてため息をつく。
「ねえ、あの松ぼっくりたち、なんだかお話してるみたいだよ」
「ほんとだ……」
「明日、そんな気になったら話してよ。赤どぅきんちゃん」
「いま、赤ドキンちゃんって言った?」
「え、そう聞こえた?」
「わたし、アンパンマンのキャラじゃないんだからね」
「ウフフ、そうだよね。赤どぅきんちゃん」
「ほら、また!」
「あ、そう?」
「もう……」
 赤ずきんがふくれた。
 マユは、手を伸ばして、赤ずきんのホッペをつついた。

「プ」と音がした。

「アハハハ」
「やっと笑った。赤どぅきんちゃんの負け。この件が終わったら話してね」
「はいはい。さすが小悪魔ですね」
「おちこぼれだけどね」
「アハハ……」
 
 明るく笑う二人を照らすお月さまの光が柔らかくなったような気がした……。
 人の気配に気づいて振り向くと、七人のドアーフたちが、白雪姫の棺の周りにあつまり、口々に「お休み」とささやいていた。
 七人のドアーフは、白雪姫への「お休み」が終わると、小屋へと帰っていく。
 小窓から、レミがドアーフたちの優しい「お休み」のあいさつを見守っていた。

――明日は、たのむよ。

 リーダー格のドックが、メガネをずらして、マユの方を向いた。

――まかしといて。

 そう想いをこめてうなずくと、ドックは、ニッコリ笑って、小屋の中にもどった。
 あいかわらず、お月さまは星々を従えて、柔らかく微笑んでいた……。

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