大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・071『ニャンコの正体・2』

2019-09-27 11:38:16 | ノベル
せやさかい・071
『ニャンコの正体・2』 

 

 

 亡き人のおかげで アミダさまの前に座っている

 

 浄土真宗今月の標語の横に『迷子の子ネコ預かってます』のポスターを貼る。

 山門横のお寺の掲示板やから、そこらへんの電柱やら塀に貼ってるよりも人に見てもらえる。

「はよ飼い主見つかるとええなあ」

 押しピンを片付けながらテイ兄ちゃん。見守ってるあたしとコトハちゃんは、ちょっと複雑。

 きのう学校から連れて帰ってから、ますます可愛さがつのってきて、帰って来るなり子ネコと目線が合うてしもたコトハちゃんも一発でメロメロ。

 コトハちゃんとは、部屋が向かい同士なんで、日付が変わるまで二人の部屋を行き来する子ネコを追いかけたり撫でまわしたり、モフモフしたり。子ネコが寝付いてからも二人子ネコを挟んでニマニマしてた。

 これでは情が移り過ぎると判断した伯父さんが、ポスターを作って山門脇の掲示板に貼ったというわけ。

 もう、飼い主なんか現れへんほうがええ!

 そう、思てても口には出さない。あたしもコトハちゃんもギリギリ理性は保ってる。

 ちなみに、子ネコを呼ぶときは『ねこちゃん』にしてる。

 なんでか言うと、飼い猫やったら、すでに名前が付いてる。へたに名前つけて、飼い主が現れたら混乱するからね。

 賢い子ネコで、おトイレは一発で覚えたし、あたしが連れ出せへんかぎり、二階からは下りてけえへん。

 

 お祖父ちゃんの発案で、子ネコの首に鈴をつける。

  

 チリン

 

 うちは三百坪はあるお寺やさかい、居所が分からんようになったらマズイということで、直径二センチほどの鈴。嫌がるかと思たら、ニャーと一声、本人も気に入りましたいう感じ。

 二階でねこちゃんと遊んでると、玄関の方で覚えのある声。

 これは……落語家の桂米国さん。

 一学期にも、うちの本堂で落語会をやってた。たぶん、こんどやる落語界の打合せやろなあ。

 コトハちゃんは部活で出てるし、伯母さんも出かけてるし、今の女手は、あたし一人。お茶の一つも出さならあかんので「ちょっと大人ししててな」とネコちゃん言うて一階へ。

「あ、ちょうどええわ。いま、呼ぼうか思てたとこや」

 階段を途中まで下りると、伯父さんが顔を出してる。伯父さんの手ぇには、さっき貼ったばっかりのポスター。

 え、もう飼い主が見つかった!?

 衝撃が体を突き抜ける。

「あ、ちゃうちゃう」

 伯父さんの後ろの米国さんが手ぇ振ってる。

「ポスターに『メインクーンの子ネコ』て書いたあるでしょ」

「は、はい」

「メイクーンの子ネコは、けっこうな値段するからね……」

 思い出した、頼子さんが20万円以上する言うてた。

「そうや、その値段につられて、ニセの飼い主が来るかもしれへんでえ」

 そ、そうや。思い至らへんかった!

「せやから、そこは伏せたポスターにせなあかんいう、米国さんの忠告やねん」

「そ、そうですね。そないしましょ!」

 わたしに異論はない。

「よかったら、子ネコ見せてくれる? うちの実家ブリーダーやってるから、確認できるよ」

「そ、そうなんや」

 

 二階からねこちゃんを連れて、リビングに下りる。

 

「おお、なんちゅうカイラシイネコちゃんや。ささ、この米国さんとこおいでえ~」

 優しい顔して、ネコちゃんを受け取ると、胸に抱っこして、あれこれチェックする米国さん。

「……この子は、メイクーンの血ぃが入った雑種やなあ。たぶん、母親がメイクーン。全体の特徴はメイクーンやけど、あちこちの特徴がちゃうわ」

「そ、そうなんですか」

 自分でも狼狽えるくらい安心してしもた。

 

☆ 主な登場人物

 酒井 さくら      堺市立安泰中学二年生 文芸部

 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の僧侶 日ごろはてい兄ちゃんと呼ばれる

 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛女学院二年生 吹奏楽部

 酒井 諦念       さくらの伯父 如来寺の住職 さくらの母歌の兄 諦一、詩の父

 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の前住職

 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦念の妻 諦一、詩の母

 酒井 歌        さくらの母 離婚してさくらを連れて実家に戻った 現在行方不明

 夕陽丘・スミス・頼子  聖真理愛女学院一年生 散策部 ヤマセンブルグ公国王位第一継承者 

 榊原 留美       堺市立安泰中学二年生 文芸部

 夏目 銀之助      堺市立安泰中学一年生 文芸部

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真夏ダイアリー・22『真夏のデビュー』

2019-09-27 07:18:29 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・22
『真夏のデビュー』     


 
 二番になったところで、潤が入ってきて、いっしょに歌いだした。

 バーチャルアイドル拓美をセンターにして、左右に、わたしと潤。わたしは驚きながら、表面は平然と歌い、踊り続けた。
「え、いったいナニ、これ!?」
 タムリのオッサンが白々しいことを言う。
「あ、わたしが本物で、こっちが従姉の真夏です」
 潤もニコニコ答える。
「ちょっとドッキリだったでしょう?」
 涼しい顔で潤は続け、明日のゲストである同じAKRの矢頭萌に電話して、番組のエンドロールになった。

「ねえ、なんであんなことしたのよ!?」
 楽屋に戻ると、わたしは潤に詰め寄った。
「ごめん真夏……」
 潤は今までの業務用の笑顔を消して、うなだれた。
「オレが説明する……この放送局にやられたんだ」
 吉岡さんが苦々しく話し出した。
「潤がスタジオに入ってきたときに、ハンドカメラで潤のこと撮られてしまったんだ。生だから、そのままオンエアーされちまって、隠しようがなくなって」
「そのあとは、わたしの判断……真夏が姉妹だってことは、もうマスコミには流れてるし、真夏も、あんなに見事に歌って踊ってるし、もう逆手にとって、やるっきゃないと思ったの。でも、真夏、なんであんなに上手いの?」
「そうだよ、オレが見てもそっくりだった」
「わたしも、分かんないよ。なんだか自然に体が動いちゃって……自分が自分でないみたいだった」
 そのとき、吉岡さんのスマホが鳴った。
「はい……あ、黒羽さん……え、いいんですか、そんなこと……会長命令……分かりました」
「なにがあったの?」
「真夏っちゃん……明日、潤といっしょに記者会見に出てくれないか」

 記者会見の前に、事務所のスタジオで、もう一度歌って踊った。プロディユーサーの黒羽さんと光ミツル会長が見ていた。やっぱり体と声は、意思に反して潤になってしまう。

「やっぱり、そっくりだ……開き直って売り出すしかない」
「売り出すって……?」
「キミを、AKRの準メンバーとして発表する」
 黒羽さんが真面目な顔で言い、会長さんは、黙って頷いた。潤はうつむいている。
 そんな状態が、三十秒ほど続いた。スタジオの中では自分の呼吸音しか聞こえなかった。
「一応、お母さんに連絡させてもらうよ」
 沈黙を破って、黒羽さんが言った。
「いいです。自分の意思で決めます」

 わたしは自分の意思で決めた。

 お母さんもお父さんも自分のやったことの結果だけを知ればいいんだ、そう思った。
 思いの底には、十年間の寂しさが潜んでいる。その寂しさのさらに底には……口で言えないような感情が潜んでいた。
「芸名は自分で付けていいですか?」
「うん。でも、あんまり変なのは却下だよ」
「わたし……鈴木真夏でいきます!」
 自分でもびっくりするような大きな声になった。

 記者会見は大盛況だった。民放各社にNHKまで来ていた。
「芸名の由来はなんですか?」
 思った通りの質問がされた。
「イチローさんにあやかりました」
 予定通りの答えをした。
「そういや、よく放課後、グラウンドで野球やってますよね」
 K放送の芸能記者が写真を見せながら言った。うらら達と五人野球をやっている写真だ。わたし以外の顔はモザイクになっていたけど、いつの間に……早々に、この世界の怖ろしさを思い知った。

 その夜の歌謡番組にさっそく出ることになった。さすがにお母さんに連絡した。
――見てたわよ、テレビ。帰りは何時……あ、そう。帰ったらお母さんとささやかにお祝いしよう。で、明日と明後日は、スケジュール空けといてね。
 部活で遅くなるぐらいのお気楽さで、お母さん。なんか予感がしたが、深くは考えないことにした。

 鈴木真夏としての初仕事は年末の特番だった。
 
 昼にセンセーショナルなデビューを果たしたばかりだったので、番組の視聴率が稼げるとディレクターは大喜びだった。出演しているみんなが喜んでくれているように思えた。
「気を付けて、どこで足を引っ張られるか分からないから」
 潤が、CMの途中、ひそめた声で言った。
 出番が終わって、バックシートに戻る途中、誰かとぶつかった。交代にステージに上がるアイドルグループだった。
 番組が終わって、楽屋に戻ると、衣装の脇の所が裂けていた……。

 なんとか日付が変わるまえに帰宅できた。

「わたしも、いま帰ってきたとこ。二日間休暇とるの大変!」
 そう言いながら、小ぶりなケーキを用意してくれた。「おめでとう真夏」と書いたホワイトチョコのプレートが載っていた。
「ありがとう、お母さん」
「おめでとう、鈴木真夏!」
 ジンジャエールで乾杯。

 その傍らではエリカが精一杯背伸びしたように花をほころばせていた……。


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宇宙戦艦三笠・13[小惑星ヘラクレア]

2019-09-27 07:09:39 | 小説6
宇宙戦艦三笠・13
[小惑星ヘラクレア]    


 
 テキサスの修理は大変だった。

 なんせ艦体の1/4を失っている、なんにもない宇宙空間、資材そのものが不足しているのだ。
 困うじ果てていると、ヘラクレアという未確認の小惑星から連絡があった。

 よかったら、うちで直せよ。という内容だった。

 警戒してアナライジングをかけようとしたら、なんとヘラクレア自身がワープして三笠の前に現れた。
 まるで、溶鉱炉で溶けかけた屑鉄を、そのまま取り出したような星だった。長径30キロ短径10キロほどの溶けかけた鉛に、様々な宇宙船のパーツがめり込むように一体化した変な星だった。

「やあ、ようこそ。わたしが星のオーナーのヘラクレアだ。趣味が高じて気に入った宇宙船のスクラップの引取りやら、修理をやっとる。ああ、みなまで言わんでもいいよ。目的地はピレウスだろ。あれは宇宙でも数少ない希望の星だからね。ここにあるスクラップのほとんども、ピレウスを目指して目的を果たせなかった船たちだ。中にはグリンヘルドやシュトルハーヘンの船もある」
「おじさん、どっちの味方なの?」
 アメリカ人らしく白黒を付けたそうに、ジェーンが腕を組む。修一たちは、星のグロテスクさに圧倒され、みかさんはニコニコしている。
「自分の星を守ろうとするやつの味方……と言えば聞こえはいいが、その気持ちや修理できた時の喜びを糧にして宇宙を漂っている、ケッタイな星さ」
「あの、惑星とおっしゃる割には、恒星はないんですね?」
 美奈穂が、素朴な質問をした。
「君らが思うような恒星は無い。だが、ちゃんと恒星の周りを不規則だが周回している。みかさんは分かるようだね?」
「フフ、なんとなくですけど」
「それは全て知っているのと同じことだね」
「なんのことだか、分かんねえよ!」
 トシが子供のようなことを言うが、樟葉も美奈穂も、船霊であるジェーンも聞きたそうな顔をしていた。
「ここに、点があるとしよう。仮に座標軸はX=1 Y=1 Z=1としよう……」
 ヘラクレアのオッサンが耳に挟んだ鉛筆で、虚空をさすと、座標軸とともに、座標が示す点が現れた。
「これが、なにを……」
「この光る点は暗示にすぎない。そうだろ……点というのは面積も体積も無いものだ。目に見えるわけがない。君らは、この暗示を通して、頭の中で点の存在位置を想像しているのに過ぎない。だろう……世の中には、概念でしか分からないものがある。それが答えだ……ひどくやられたねテキサスは」
「直る、おじいちゃん?」
 ジェーンが、心配げに答えた。
「直すのは、この三笠の乗組員たちだ。材料は山ほどある。好きなものを使えばいいさ」
「遠慮なく」
「うん……トシと美奈穂くんは、自分のことを分かっているようだが、修一と樟葉は半分も分かっていないようだなあ」
 修一と美奈穂は驚いた。こないだ、みんなで自分のことを思い出したとき、二人は肝心なことを思い出していないような気がしていたからである。
「ヒントだけ見せてあげよう」

 ヘラクレアのオッサンが、鉛筆を一振りすると、0・5秒ほど激しく爆発する振動と閃光が見えた。ハッと閃くものがあったが、それは小さな夢の断片のように、直ぐに意識の底に沈んでしまった。

 気づくと上空を、定遠と遼寧が先を越して行くところだった……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・6『言葉というのは』

2019-09-27 06:52:22 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・6
『言葉というのは』
         高師浜駅


 

 言葉と言うのはむつかしい。

 たとえば、たこ焼き屋の岸部さんに「おっちゃん」と呼びかけると「まいど!」と、元気で機嫌のええ返事が返ってくる。
 あたしみたいなカイラシイ女の子やと、一個ぐらいオマケしてくれるかもしれへん。
 これを「おっさん」と呼びかけると、まずムッとされる。呼びかけたのが男やったら「なんやねん?」という尖がった返事になる。
 ほんで「なんやねん?」と返すと「なんやねん!?」になり、さらに「なんやねん!!?」の応酬になってどつきあいのケンカになる。

 マッタイラに「あんた」と呼ばれたヒメノは、岸部のおっちゃんが「おっさん」と呼ばれたくらいにムカついた。

「そら、マッタイラが可哀そうやで」

 そう答え、すみれも小さく頷いた。

 大阪では親しみの籠った二人称である「あんた」は関東人のヒメノには侮辱の二人称に聞こえたということやねんけど、侮辱の二人称ではないことから理解させならあかんかった。
「もっかい食堂にいこ!」
 あたしはヒメノの手を引っぱった。

「女子の話してんのんを、よー聞いてみい」

 そう言うて、三人で空いてる席に座った。
 食堂はピークを過ぎてたけども、男子とちごてデザートにも時間をかける女子がけっこう残ってる。
「この程度やったら、話の内容まで分かるねえ」
 すみれが促すと、ヒメノは耳をそばだてた。
「……ほんとだ」
 女と言うのは、食べてる間でもなにやらお喋りしてるもので、これがピーク時やとワンワンしてしもて、内容までは分からへん。そやけど、これくらいの人数やと意識して聞いてると断片が聞こえてくる。
 あちこちで「あんた」という二人称が飛び交ってる。食堂のおばちゃんも「あんた、なに?」と注文の確認をしたりしてる。
「ね、軽蔑とか、ケンカ売ってるニュアンスとちゃうでしょ?」
「ほんとだ……マッタイラ君に悪いことしたなあ」
 ヒメノは正直に困った顔になった。たとえマッタイラが相手だとしても困った顔になれるのは、ヒメノのええとこやと思た。
「わたしから言っとくわ」
 すみれが気楽そうに言う。あたしは『あそこの毛ぇ剃ったんか?』のわだかまりがあるので適任やない、かというて姫乃が自分でどうのこうのいうのは荷が重い。そういうとこを忖度して、サラリと言えるとこがすみれや。
「いや、やっぱ自分で謝る!」
 ヒメノはきっぱりと立ち上がって、サッサと食堂を出て行った。
「ちょ、ヒメノ!」
「こういうことは勢いでやらなきゃ、やりそびれちゃう!」
 ほとんど小走りになっているヒメノは自販機の前でたむろしている壁際男子を見つけ、真っ直ぐに突撃していった。

 ところが。

「ウ、ヤバイ!」
 リーダー格の木村の一言で、壁際男子らは逃げて行ってしもた。

「えーーーー、なんで!?」

「そら、あんな怖い顔して、あんな勢いで行ったらビビられるで」
「まあ、自然にタイミングが合うのんを待つことやねえ」
 掛け違ったボタンを直すのは、ちょっとむつかしいようです。
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高安女子高生物語・100〔The Summer Vacation・3〕

2019-09-27 06:44:45 | ノベル2
高安女子高生物語・100
〔The Summer Vacation・3〕
              


 
「勝手に河内音頭なんか流すんじゃないわよ!」

 夏木先生が、鬼の顔になって怒った。
「すみません!」
 ワケは分からんけど、研究生は怒られたら、とりあえず謝る。この世界のイロハです。
「あんたたちはオールディーズのイメージで売り出すんだからね。一人違うイメージ出されると困んのよ!」
「はい。すいませんでした」
 そこに横から市川ディレクターが口をはさんだ。
「夏木さん。でも明日香のアクセス、3000件超えて、まだ伸びてますよ。6期生のブログじゃ最高だよ」
「うそ……ほんとだ」
 夏木先生と、市川ディレクターは20秒ほど話して結論を出した。さすがは大阪の芸能プロ、頭の回転は早い。
「よし、今日一日で5000超えるようなら残してよし。超えなかったら、即刻削除。いいわね!」
「はい!」
 と、返事したあとは、カヨさんら研究生が笑うて、もう別の話題になってた。

「ええ、一昨日のバケーションの評判がいいので、急きょプロモーションビデオを撮ることになりました。ただし、製作費は安いから、大阪の無料で撮影できるところだけで撮ります。じゃ、衣装に着替えて。バスに乗り込むよ!」
「はーい!」
 で、20分後には衣装に……いうても、一昨日のありあわせのままやけど。

 まずは、近場の難波高島屋の前。バスからサッと降りたかと思うと……
「カメラ目線でもいいから、とにかくハッチャケて。フォーメーション? そんなのいいから、とにかく一本いくよ」
 マイクも何にも無し。カメラ2台。照明さん二人。音声さんは、たった一人で口パクを合わせるためだけに曲を流すだけ。夏木先生は選抜の人らの振り付け指導で残留。市川ディレクターとアシさんが二人っきり。

 10分で撮り終えると……どうやら撮影許可をとってないようで、お巡りさんから言われるまえに撤収。   

 次にあべのハルカスが見えることだけが取り柄の、親会社ユニオシ興行の屋上。ここは自前の場所なんで、リハも含めて、一時間。それからユニオシの前。日本橋、天王寺、心斎橋なんかで、ゲリラ的に数人ずつ撮影。さすが大阪の物見高いオーディエンスの人らも「なんかやっとるで!」言うて集まったころには撤収。通天閣の下でやったときは、見物のオバチャンがみんなにアメチャンくれた。

「次は大阪城や!」

 大阪城はバスの駐車場のすぐ近く。北側の極楽橋の前で、天守閣を背景二十分。毎日放送が『ちちんぷいぷい』のロケに来てたんで、無理矢理割り込んで一曲やらせてもらう。これは市川さんのアイデアと違うて、うちらと毎日放送の世紀のアドリブ。生放送に5分も割り込む。お互い低予算同士の助け合い。

 バスに戻ったら、アシさん二人がロケ弁を配ってくれた。さすがにMNBのアシさん、この移動の最中に贔屓の弁当屋さんに手配してくれたらしい。
 感心したんやけど、アシさん二人は、みんなが食べ終わるまで、打ち合わせやら、次の手配やらで走り周り。
「ロケの許可下りました」と、アシさん。
 急きょ市役所の前に行って30分。終わりの方では市長さんも出てきてノリノリ。これも互いのPR。大阪の人間のやることに無駄はありません。

 さすがに衣装が汗びちゃ。
「その衣装は、ここまで。次は海水浴!」
 で、一時間かけて二色の浜へ。その間にバスのカーテン閉めてみんなで水着に着替える。
「みんな、高画質で撮ってるから、ムダ毛の処理なんかは、忘れずに。シェーバーはここにあるから、よろしく!」
 22人の勢いはすごい。とても文章では表現できんようなありさまで、着替えたり、ムダ毛の処理したり。朝からのハイテンションで、スタッフのあらかたが男の人やいうことも気になれへん。

 二色の浜に着いたんは4時前。海水浴客が少なくなる時間帯を狙うてる。なんか思い付きで撮ってるようやけど、市川ディレクターの頭には、ちゃんとタイムテーブルがあるみたい。
 二色の浜では、フォーメーション組んで、二回撮った後は、みんなで時間いっぱい遊んだ。カメラさんは腰まで水に浸かりながら撮影……してたらしい。うちらは、そんなんも忘れてはしゃぎまくり!

 その日、家に帰ってパソコン見たら、アクセスは5000件を目出度く超えておりました……(^0^)!    
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小悪魔マユの魔法日記・46『フェアリーテール・20』

2019-09-27 06:36:01 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・46
『フェアリーテール・20』   


 
「このままじゃ、終わらないよ……」

 言葉の意味は、しばらくして分かった。
 あたりに、ウヨウヨとサメが集まって、カジキマグロを狙い始めたのだ。

 サンチャゴじいちゃんは、モリを持って立ち上がった。
 波に大きく揺れるボートの上で仁王立ちになり、獲物を狙うサメたちを寄せ付けまいと必死の形相。
 普通の人間なら、あの揺れるボートに立っていることもできないだろう。それをサンチャゴじいちゃんはベテランのサーファー顔負けのバランス感覚で立っている。
 立っているだけではなく、カジキマグロに寄ってくるサメたちを追い払っている。最初の三頭までは、急所の鼻面を一撃にして仕留めたが、多勢に無勢、一騒ぎ終わったころには、カジキマグロは半分近く食いちぎられていた。

「こういうことなのね……」

 マユは、小悪魔らしからぬ気弱さで呟いた。
「まだまだ、これからよ」
 ミファは怒りと闘志のみなぎった声で、そういうと、船縁をギュッとつかんだ。
「これが夢でなきゃ、魔法で助けてあげられるんだけど……」
「これは、サンチャゴじいちゃんが言っていた最後の漁よ」
「……じゃ、これはドキュメントなの」
「だと思う。なにもかもサンチャゴじいちゃんの話のとおりだもん……ほら」

 また、サメの一群がやってきた。カジキマグロは半分以上食べられてしまった。

「あと二回、サメが襲ってくる」

 ミファの予想どおり、サメは二回やってきて、とうとうカジキマグロを骨だけにしてしまった。
 しかし、サンチャゴじいちゃんは、最後までサメと戦った。
 カジキマグロが骨だけになり、サメも寄ってこなくなると、サンチャゴじいちゃんは、くたびれ果てて船縁に頬を乗せるようにしてくずおれた。
 しかし、目は光を失ってはいなかった。

「なんで、こんなサメだらけのところで漁をしたの……サンチャゴじいちゃんは」
「うちの島はね、むかし大きな戦争に巻き込まれたの……で、負けちゃったから、漁場をひどく制限されて、頭の回る大人たちは、よその島に行って雇われ漁師をやっている。うちの島の漁師は優秀だから、どこでも重宝がられてる。あとは、ちょこっとした観光やら、葉たばこ作ったり……だから、島は、年寄りと女、子どもだけになってしまった」
「それで、裏寂れているのね……」
「それでも、サンチャゴじいちゃんは漁に出た。こうやってリアルなじいちゃんの姿見ちゃうと、ほんと負けちゃうよね……」
「でも、なぜ、このことでサンチャゴじいちゃんを眠らせつづけておくんだろう」
「そうだよね……これなら、勇気づけられはするけど、ただの年寄りの手柄話だもんね……」

 そのとき、ストローハットのボートの先が、なにかに当たった。

「ん、なんだろう……?」

 なにかの先には、まだ海が続いていた。それが、ゲームのエリア限界にきたように前に進めなくなった。しかし、サンチャゴじいちゃんのボートは、その先に進んでいく。
 すると、目の前に大きなアラームが映し出された。

 この先Z指定! CEROレーティング(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)

「なに、これ……?」
 ミファが首をひねった。
「だれか知らないけど、この夢に介入してるみたいね」
「Z指定だったら、あたしたち入れないよ」
「フフ、こんなもの……」
 マユが、指を一振りすると、アラームは簡単に消えてしまった。
「え……どうやったの?」
 ミファは、マユに聞こうとしたが、マユの姿が見えない。
「マユ、どこに行ったの……海に落ちた?」
 ミファは船縁から海を見た。すると……。

 海面に映っていたのは、ミファでもマユでもない三十過ぎの女性であった。なかなかの美人である。ミファは驚いて、後ろを見て、もう一度海面を見た。その美人は紛れもなく、自分であるようだった。
「……これって、あたし?」
――でもあるし、わたしでもある。
 自分の頭の中で、マユの声がした。
「マユ!?」
――わたしと、ミファを足したの。すると、こういう三十過ぎのイケたおねえさんになる。三十過ぎだからZ指定は関係なしよ……ちょ、ちょっと、どこ触ってんのよ!?
「あたしって、こんなに胸大きくなるんだ!」
――ま、二人分足した姿だからね、どっちの要素で、こうなったか分からないけどね。ま、体はミファが動かして。考える方は、わたしがやるから。
「で、とりあえず、どうしたらいいの。もうサンチャゴじいちゃんのボート見えないわよ」
――足もとにコントローラーがあるでしょ。
「あ、これ……ワイヤレスじゃないの?」
――首からぶら下げんの。この夢に介入したやつは、ゲーム仕様にしたみたいだから。△ボタンを押してみて。
「あ……!」
 水平線にマークが現れた。
――その方角にサンチャゴじいちゃんがいる。R2ボタンがアクセル。L3のグリグリが舵だから、がんばってね。ボートが見えたらロックオンの※が出るから、R3で合わせて、押し込む。すると自動追尾になるから、よろしくね。
「よっしゃー!」

 気安く引き受けたミファであったが、ロックオンまで二時間もかかるとは思わなかった。R2ボタンを押している右手の人差し指がケイレンをおこしかていた……。


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