大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・069『M資金・4 消しゴムが床に落ちるまで・1』

2019-09-07 09:19:02 | 小説

魔法少女マヂカ・069  

 
『M資金・4 消しゴムが床に落ちるまで・1』語り手:マヂカ 

 

 

 教室の窓は南側に面している。

 

 自然光を取り入れるためと、冬場の寒さを緩和するためだ。

 しかし、夏場の窓際はかなわない。

 昨日の席替えで、窓際になった。

 四月の新学年早々は窓際だった。すぐ前の席が友里で、うかつにも魔法を使って昼ご飯を食べているところを目撃され、友里と、その友達のノンコと清美を仲間に曳き入れざるを得なくなった。口の悪いブリンダなどは「眷属だな」と言うが、わたしは仲間だと思っている。

 昨日の席替えで、立石和香(たていしのどか)さんが前にやってきた。

 名前のとおり、おっとりした子で、緩い笑顔がデフォルト。この子が銀行の窓口に座っていたら余計に預金をしてしまいそうだな……とか思う。

 窓側の席は、冷房が効いていても左半身が暑い。太陽熱をまともに浴びるからだ。

 むろん、カーテンを閉めているのだが、カーテンそのものが熱を帯びて暖房器具のようになってしまうのだから、どうしようもない。

 魔法少女のわたしは、この程度のことはなんでもないんだけど、学校では普通の女子でなければならない。さっきも言ったけど、うっかり魔法を使ってお弁当を食べて(箸を使わずに、おかずを空中浮遊させて口に運ぶ)正体がバレそうになった。それ以来気を使っている。

 左半身に汗を浮かべ、ちょっと物憂そうに頬杖をついたりして感じを出している。

 しかし、立石さんは泰然と授業を受けている。程よく背を丸めてノートをとる姿は、同性のから見ても可憐で、時々――あ、そか――なるほど――という感じで頷いているのも好ましい。

 よく見ると、立石さんの席は柱の陰になっていて、他の窓際席に比べて太陽光の被害を被らない。

 そういうことかと思ったが、柱はもう一本あって、そこの男子は突っ伏して寝てしまっている。なんか可笑しく指の先でシャーペンを回したりする。

 

 楽しいんだ。

 

 普通に授業を受けて、ボンヤリと前の席の人を観察したり、授業に気を抜いたりするのが。こういうのが普通の女子高生なんだ。汗だくで二回目の板書をしている先生には、申し訳ないんだけど、わたしは、魔法少女モードをオフにして緩い五時間目を楽しんでいる。

 ノートをとりながら、初秋の調理研のメニューを考えてみたりする。

 サンマとか松茸とかの秋の味覚……二つとも、ちょっとお高い。サンマや松茸を思い浮かべるのが女子高生らしくないかもしれない。仕方がない、中身は八百歳になろうかという魔法少女なのだ。M資金問題もバルチック魔法少女たちが絡んでいて、とても面倒になりそう。ほんのひと時緩んでもバチは当たるまい。

 立石さんが消しゴムを落としそうになっている。

 机の隅に置いた消しゴムに、彼女の肘が当たっているのだ。

 言ってあげようか……あ、落ちた。

 消しゴムは、スローモーションで机から落ち始める。

 空中で一回転した消しゴムで思い出した。

 立石さんが消しゴムを落とすのがサインなんだ。緊急出動の。

 

 たちまち強制魔法少女モードにもどって、わたしは亜空間に放り出された!

 

 

 

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泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3〈泉希着々と〉

2019-09-07 06:48:00 | 小説4
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3
〈泉希着々と〉        


「泉希ちゃん、このお金……」佐江が、やっと口を開いた。

「はい、お父さんの遺産です」
 この言葉に我に返った亮太が続けた。
「こ、こんなにあるのなら、もう一度遺産分けの話しなきゃならないだろ、母さん!」
「あ、ああ、そうだよ。遺産は妻と子で折半。子供は人数で頭割りのはずだわよ」

 5000万円の現金を目の前に、泉をあっさり亮の実子であることを認めてしまうハメになってしまった。

「残念ですけど、これは全てあたしのお金です」
「だって、法律じゃ……」
「お父さんは、宝くじでこれをくれたんです。これが当選証書です。当選の日付は8月30日。お父さんが亡くなって二週間後です。だから、あたしのです。嘘だと思ったらネットで調べても、弁護士さんに聞いてもらってもいいです。

 亮太がパソコンで調べてみたが、当選番号にも間違いはなく、法的にも、それは泉希のものであった。

 この子を大卒まで面倒をみても半分以上は手元に残る。今日子は瞬間で計算をして、あっさり呑み込んでしまった。
 泉希は、亮太が結婚するまで使っていた三階の6畳を使うことにした。机やベッドは亮太のが残っていたのでそのまま使うことにした。足りないものは三日ほどで、泉希が自分で揃えた。
「お母さん。あたし学校に行かなきゃ」
「今まで行っていた学校は?」
「遠いので辞めました。編入試験受けて別の学校にいかなきゃ!」

「申し分ありません。泉希さんは、これまでの編入試験で最高の点数でした。明後日で中間テストも終わるから、来週からでも来てください」

 都立谷町高校の教務主任はニコニコ顔で言ってくれ、担任の御手洗先生に引き渡した。
「御手洗先生って、ひょっとして、元子爵家の御手洗さんじゃありませんか?」
 御手洗素子先生は驚いた。初対面で「みたらい」と正確に読めるものもめったにいないのに、元子爵家であることなど、自分でも忘れかけていた。
「よく、そんなこと知ってたわね!?」
「先生の歳で「子」のつく名前は珍しいです。元皇族や華族の方は、今でも「子」を付けられることが多いですから。それに、曾祖母が御手洗子爵家で女中をしていました。」
「まあ、そうだったの、奇遇ね!」
 付き添いの今日子は、自分でも知らない義祖母のことを知っているだけでも驚いたが、物おじせずに、すぐに人間関係をつくってしまう泉希に驚いた。

 泉希は一週間ほどで町内の大人たちの大半と親しくなった。6人ほどいる子供たちとは、少し時間がかかった。今の子は、たとえ隣同士でも高校生になって越してきた者を容易には受け入れない。で、6人の子供たちも、それぞれに孤立していた。

 町内で一番年かさで問題児だったのは、4件となりの稲田瑞穂だった。泉希は、平仮名にしたら一字違いで、歳も同じ瑞穂に親近感を持ったが、越してきたあくる朝にぶつかっていた。
 早朝の4時半ぐらいに、原チャの爆音で目が覚め、玄関の前に出てみると、この瑞穂と目が合ったのだ。
「なんだ、てめえは?」
「あたし、雫石泉希。ここの娘よ」
「ん、そんなのいたっけ?」
「別居してた。昨日ここに越してきた」
「じゃ、あの玉無し亮太の妹か。あんたに玉がないのはあたりまえだけどね」
「もうちょっと期待したんだけどな、名前も似てるし。原チャにフルフェイスのメットてダサくね?」
「なんだと!?」
「大声ださないの、ご近所は、まだ寝てらっしゃるんだから」
「るせえんだよ!」
 出したパンチは虚しく空を打ち、瑞穂はたたらを踏んで跪くようにしゃがみこんでしまった。
「初対面でその挨拶はないでしょ。それに今の格好って、瑞穂があたしに土下座してるみたいに見えるわよ」
 瑞穂は、気づいて立ち上がった。完全に手玉に取られている。
「てめえ……」
「女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけよっか。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし」
「なんで十日も先なのさ!?」
「だって、学校あるでしょ。それに、今のパンチじゃ、あたしには届かない。少しは稽古しとくことね」

 そこに新聞配達のオジサンが来て「おはようございます」と言ってるうちに瑞穂の姿は消えてしまった。
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高安女子高生物語・80〔13日の金曜日〕

2019-09-07 06:28:26 | ノベル2
高安女子高生物語・80
〔13日の金曜日〕
         


 ウ、ウンコふんでしもた!!

 これがケチのつき初めやった。

 ウンがついてケチが付く、悪い洒落や。
 ティッシュであらかた落としたけど、そこはかと臭いが残る。
 そやけど、通学途中。家に帰って靴履き替える手ぇもあったんやけど、駅の真ん前。気持ちは迷いながら体が改札の方向いていく。これが忘れ物やったら前回書いたように、家に帰ってる。犬のウンコぐらい、あらかた拭き取ったし、歩いてるうちに無くなる……という考えはホームに降りる階段で甘いことを実感した。
 階段降りる人らがうちのこと見てる。
 やっぱりそこはかとなく臭ってくる。
 まるでうちがオモラシしたみたいや。
 とても電車に乗られへん。しゃあないから、ホームの水道で、靴の中濡らさんようにして洗う。ティッシュで拭く。嗅いでみる……やっぱり、そこはかとなく臭いが残ってる。で、もっかい洗う。無情にも準急も各停も出てしまう。
「犬のウン踏んでしもたん?」
 OL風の女の人が声をかけてくれた。
「はい、めったにないことなんですけど」
「ほんまに、マナーの悪い人ていてるもんやねんねえ」
 そう言うて、OLさんは携帯用の臭いけしを靴にスプレーしてくれた。
「ほんなら、あたし次の各停のるさかい。気ぃつけてね。今日は13日の金曜やさかい」

 ゲ、13日の金曜日……サラリーマンのオッチャンが読んでる新聞には、まごうことなき6月13日金曜の日付。お礼言わなら……OLのオネエサンを乗せた各停はホームを離れていくとこやった。
 次の準急に乗る。これで15分の遅れ。まあ、余裕もって家出てるさかい、学校はギリギリセーフ……のはずやった。

 桃谷の駅降りて、改札出よ思うたら、とちくるうた改札が通せんぼ。むかついて手許を見たらカラオケのポイントカード。慌てて定期に替えて出るのに、5秒のロス!
 で、このロスが、次の悲劇に。
――あ、信号変わる!――
 そない思うたら体が出てた。そこに気ぃの早い車が走り出して急ブレーキ! その車と、その後ろの車がクラクション。一応ごめんなさいと片手で謝る……ぐらいで許してもらえるほど、今日は甘ない。

「ちょっと、そこのOGHの生徒!」

 お腹の底から出てくるような声。道の向こうで怖い顔した女性警官のオネエチャン(なんで、こんな慌ててる時に二重表現やねん!)
「あんたねえ、高校生にもなったら信号ぐらいまもりなさいよ」
「はい」と、素直に言われへんのが、うちの欠点。枕詞が「そやけども」言うたしりから後悔。
「そやけど、なんやのん!」
 あかん、婦警(女性警官なんちゅうリズムのとれへん言葉は使われへん)さん怒らしてしまう。
「なんでもありません。急いでたよって、ほんまに不注意でした。すんませんでした」
「その素直さを、どうして、もう10秒早うもたれへんのんかなあ。今のんは、ほんま大事故寸前やってんよ。だいたいね……」
 と、5分ほど絞られて、やっと解放。あかん、チャイムが鳴ってる、遅刻指導にひっかかる。なんでかチャイムがチャラ~ンポラ~ン、チャランポラ~ンに聞こえる。猛烈なダッシュで校門をくぐる。運動会で、これだけのダッシュしてたら、ゴール前で無様にコケんですんだのに。
 あ、朝礼が始まる。ガンダムは遅刻にうるさい。教壇に立たされて絞られる!

 と、思たら、ガンダムが来てなかった。
「あ~あ、損したなあ!」
 汗みずくやったんで、タオルハンカチ出して顔拭きまくり、胸の第二ボタン外して脇の下まで拭く。
「どないしたん、明日香がこんな時間に来るなんて?」
「今日は、13日の金曜やねん!」
 言うた言葉が、そのままウンコから、婦警のネエチャンのことまで思い出させる。ゆかりの言葉に合わせて美枝が言う。
「ひどい顔してるよ」
「ほっといて、生まれつきですねん!」
 その時、腋の下からちょっと背中側に回った手ぇが、ブラに引っかかって、ホックが外れてしもた。
「どないしたん、急に静かになって?」
「ちょっと、緊急事態……」
 片手でゴソゴソやるけど、背中のホックには届かへん。また、汗が流れてくる。そのとき麻友が後ろに回ってマジックみたいに、ホックを嵌めてくれた。
「え……?」
「ブラジルで、よく、この逆やって遊んでたの」
 麻友の意外な一面を発見。やっぱり麻友は、いろいろ奥行きのある子やと思た。

 とにかく、今日はついてない。

 宿題はやったのに持ってくるのん忘れるし、家庭科の調理実習では塩と砂糖を間違えるし、トイレに行ったら、用事済んでからトイレットペーパーが無いのに気ぃつく。ポケットをまさぐったら、朝のウンコのせいで手持ちのティッシュも切れてた。
「クソー!」
 思わず唸ったら、ドアの上からトイレットペーパーの福音。
「これやろ、明日香」
 美枝の声。
「おおきに……」
 とは言うたもんの、個室の外で笑うてる気配。クソ~!

 放課後、宇賀先生を校長室の前で見かけた。ガンダムもいっしょやった。

 気配で分かった。宇賀先生は職場に戻りたいんや。それを校長とガンダムの二人で思いとどまらせてたんや。あの、怪我では、まだ無理なんは被ってる帽子見ても分かった。

 宇賀先生は、うちよりずっと前から13日の金曜やねんや……。
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真夏ダイアリー・2『花の命は短くて……』

2019-09-07 06:19:07 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・2
『花の命は短くて……』    


 
 あーヤダヤダ……!

 なにがヤダって、明日から期末テスト。
 テスト二日前ってのは、少し気が楽。なんと言っても明日はテストの前日で、授業は昼まで。それが楽しみ。
 ところが、そのテストの前日になると、わたしにも猿以上には想像力ってのがあって、明日の試験に備えて勉強……の真似事程度のことはしなくちゃならない。
 ドシガタイってほどバカじゃないけど、なんにもしないで試験受けて点数とれるほど賢くもない。中間じゃ二個欠点とってるし、一応の挽回ははからなくっちゃならない。

 どうも、高校に入ってから調子が悪い。

 中学じゃそこそこいけてた。フェリペは無理だとしても、専願なら乃木坂学院ぐらいは入れた。乃木坂学院の制服は、かつて『東京女子高制服図鑑』にも載ってたぐらいいけてる。で、行きたかったんだけど行けなかったのは我が家の事情が……いまは言いたくない。

「今日、どうする?」

 省吾が、窓の外で唸っている電線を見ながら聞いてきた。
「昨日は、あんなにポカポカだったのにね」
「じゃあさ……」
 玉男の提案で、いつもの三人野球を止めてカラオケにいくことにした。

 エグザイルとももクロでもりあがり、いきものがかりでシンミリ。次のAKBで落ち込んだ。
「どうした、真夏。なんかノリ悪いぞ」
「うーん……なんだか真冬に『真夏のSOUNDS GOOD!』てのもね……あら、カラ?」
 飲みかけのオレンジジュースがカラになっていることに気が付いた。
「なんか注文しようか?」
「いい」
「久々に、入学式でからかわれたこと思い出したか?」
「あれは、もう終わったって。大杉ともテキトーだし……」
「じゃ、整理……」
「あ、生理……」
「ばか、そっちじゃねえよ」
 省吾が玉男をゴツンとした。
「真夏は、整理のついてないことが、ゴチャゴチャなんだよな」
「ま、そんなとこで理解しといて。わたし、お母さんに用事も頼まれてたから」
「そんなつまんないこと言わないでよ」
「ま、おれ達も、お家帰ってお勉強すっか。玉男、明日の試験覚えてっか?」
「えーと……」
「玉男の好きな家庭科と化学と現文、じゃあね」

 ワリカン分のお金を置いて木枯らしの街に出た。

 省吾は、わたしの気持ちを分かってくれている。
 
 話せば、なにか結論めいたアドバイスをくれそうなことも分かってる。でも、今のモヤモヤを人に整理されたくない。それに、そんな相談を省吾にしてしまったら、気持ちが省吾に傾斜してしまいそう。わたしたち『お名前おへんこ組』は、あくまで、オトモダチのトライアングルなんだから。

 今日のお使いは、なじみの花屋さん。

 うちのお母さんは、花を絶やさない。
 前の家にいたころからずっとだ。鉢植えが多かったけど、今は名ばかりのマンションなので、生け花ばっか。以前は、お母さんが自分で買ってきた。でも仕事をやり始めたので、花屋さんに寄る暇がなくって、夏頃からはわたしの仕事。

「あら、なっちゃん。もうお花?」

 花屋のオバサンに聞かれて、気が付いた。ほんの二週間前に山茶花を買ったばかりだ。
「山茶花って、長く咲いてるんですよね?」
「うん。ときどき水切りとかしてやると、一カ月はもつわよ」
「五日ほど前に、元気ないんで水切りしたとこなんです」
「……まあ、部屋の湿度とか、日当たりとかの条件もあるから。で、今度は、どんなのがいい?」
 そう言われて見回すと、まわりはポインセチアで一杯だった。クリスマスが近いんだ。うす桃色の蕾を付けた鉢植えが目に付いた。
「これ、なんていうんですか?」
「ああ、ジャノメエリカ。これは切り花にしないで、鉢植えがいいわ」
 小振りだったので、窓辺でも育つと聞いて、それにした。
「高く伸びちゃうから、枝先切っとくわね……」
 オバサンは、ていねいに枝を選んで、枝先を切ってくれた。
「花屋の言い訳じゃないけどね、花って、一方的に愛情をくれるの……だから、受け取る側が、吸い取り紙みたいになっていたら、花は愛情注ぎすぎて早く萎びてしまうのよ……」
「そうなんですか?」
「うん。それに、今のなっちゃんて、花でなくっても分かるわよ……」
「そ、そうですか」
 わたしは急ごしらえの笑顔になった。
「まあ、お花に話してごらんなさい。そんな歯痛こらえたみたいな笑顔しないで、いろんな答をくれるから」
 オバサンは、ぶら下げて持てるようにしてくれた。代金を払って出ようとして振り返った。
「こないだの山茶花の花言葉ってなんですか?」
「赤い山茶花だたわよね」
「はい」
「ひたむきな愛」
「……ひたむきな愛」
 ジャノメエリカも聞こうって思ったけど、気が引けた。オバサンの顔が「自分で調べなさい」って感じがしたから。

 で、家に帰って調べてみた。

 ジャノメエリカの花言葉は、孤独だった……。
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小悪魔マユの魔法日記・26『AKR47・3』

2019-09-07 06:07:35 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・26
『AKR47・3』 


 
 その週末、AKR47の最初のレッスンの日がやってきた。

 歩き方だけで二時間が費やされ、そのあと、発声とボイストレ-ニング。昼食を挟んで、ストレッチをしたあとダンスレッスン。まるで屈伸運動かと思われるようなダンスの基本、アップダウンの練習がまるまる2時間。
 その間にも30分スマイルの練習が挟まれた。要はニコニコ微笑む練習で、これが案外むつかしい。オーディションのときは、緊張しながらも、みなハイテンションだったので自然な笑顔になった。
「はい、笑って!」
 いきなり言われても、なかなか出来るものではない。中には虫歯が痛いのをこらえているような顔になる子もいた。
「きみたちは、アイドルなんだからね。どんなに疲れていても、落ち込んでいても、一瞬で笑顔になれなきゃダメ!」
 前世紀末にアイドルの頂点にいたインストラクターの指導は厳しかった。
「ダメよ、3分やそこらで、引きつってしまうようじゃ。いい、笑顔ってのは、ホッペのところに笑筋というのがあって、ここを鍛えるの。日本人が一番弱い表情筋。今から、またダンスのアップダウンやるけど、その間、笑顔を絶やさないように。前の鏡を見ながら、チェックして、ハイ一時間!」

 で、一時間すると、知井子を始め、大半の子の笑筋は笑顔のまま引きつるか、ケイレンしてしまった。

 知井子もケイレン組であったが、充足感はあった。リーダーの大石クララは、さすがに、アップダウンも、笑顔もこなしていた。最年長の服部八重もできていた。知井子は「負けた」と感じたが、爽快感があった。知井子の人生は、負けっ放しでヘコンでばかりいた。でも、今はちがう。近いうちに必ず自分もできるんだ、という気持ちが同時に湧いてきたからだ。それに、だれもできないことを笑ったり、バカにしたりはしない。みんな同じ目標を持っているからだ。沙耶や里衣沙も数少ない友だちだったけど、このAKR47は、知井子が今まで経験したことがないような仲間であった。

「じゃ、取りあえずプロモ用の写真撮るからね。一か月限定で流すAKR初のプロモ」
 全員の集合写真と、個別の写真。ディレクターから多少の注文はつくが、基本は本人たちの生(き)のまま。
 ほとんどの者が、ぎこちなかったけど、黒羽チーフは、あえてそのままにした。成長するアイドルの第一歩だからである。
 その中で、大石クララと並んで、自然なハツラツさで撮れた者がいた。マユである。正確にはマユの体を借りた幽霊の拓美である。拓美のマユは、午前のレッスンから際だっていた。休憩中には、できない子についてやり、リーダーシップさえ発揮していた。

 拓美がマユの魔法で、みんなの記憶から消えてしまった(ただ、大石クララだけは知っている)ので、サブリーダーが居なかったので、サブリーダーは不在のままであった。
「マユくん。きみサブリーダーやってくれないかなあ」
 レッスンの最後に黒羽ディレクターから頼まれた。


 その明くる日、マユは目覚めてびっくりした。自分の中から拓美が出ていかないのである。

――ちょっと、約束が違うじゃないのよ。平日は、この体はわたしのものよ。
――ごめん、レッスンが終わったら、出て行けなくなっちゃって……。
――困るよ、わたし二重人格になってしまうじゃないの!
――ほんとうに申し訳ない。平日は大人しくしているから……。
――もう……!!
 マユは、初めて、やっかいな幽霊を引き受けてしまったことを後悔した。とたんに戒めのカチューシャが頭を締め付ける。
「「イテ……!」」
 
 マユの悲鳴は、ステレオになってしまっていた……。
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