魔法少女マヂカ・076
リアルの第七艦隊は横須賀にある。
空母レーガンを中心にアメリカ海軍の精鋭艦艇が舷々相摩す極東最大の米海軍基地である。アメリカが本国以外に本社機能と言っていい艦隊基地を置き、空母を常駐させているのも横須賀だけであり、日本が空母の整備をできる高度な技術を持っていることを証明していると同時に、日米の緊密な同盟の象徴でもある。
魔法少女の第七艦隊は霊雁島にある。
司令部は、霊雁島のとあるビルの地下だ。むろん直接行けるわけではなく、ビルの横に緑地帯があって、その真ん中の遊歩道を魔法少女が歩くと、地下の司令部に転送されることになっている。
ホワ~~~ン
アニメのようなエフェクトがあって、地下の司令部に転送された。
目の前に先着しているブリンダが立っている。
「ようこそ、極東最大の魔法少女基地へ」
「ブリンダ……」
あれ?っと思った。 原隊というか本来の所属と言っていい米軍基地にいるというのに、機嫌が悪そうなのだ。
「分けわかんなくってさ……とりあえず、艦隊司令に会って。ここで待ってるから、挨拶終わったら、かならず、ここに来て」
「あ、うん……」
なんのための出迎えなんだ……と思ったが、とりあえず、廊下を真直ぐに進む。
突き当りのドアに『司令官室』とあるのでノックする。
――入れ――
「失礼します」
正面のデスクに気配がする。敬礼すると提督の軍服が顔を上げた。短い答礼を返した人物にビックリした。
「艦隊司令のレーガンだ。マヂカ少佐だね」
「は、いえ、マヂカではありますが、階級は少尉待遇です」
「来栖司令から、本日付けを持って三佐、国際標準では少佐に進級したと連絡がきている。これが、書類だ」
「は、確認します」
間違いなく防衛省の書式で、署名は、先日外務大臣から転任した防衛大臣と来栖司令の署名があった。
「わたしが、第七艦隊司令のロナルド・レーガンだ」
そうなのだ。
基地司令は、どう見ても存命中に現役空母の名前になり2004年に亡くなった第四十代合衆国大統領のロナルド・レーガンなのだ。
ここは霊雁島、レーガン……なにかの洒落か冗談か?
「大塚台公園の基地と同じく、ここも亜世界だ。死者が司令をやっていてもおかしくないだろう」
「は、はあ……」
「わたしは認知症のまま死んでしまったので、生前のこだわりや癖や知識、経験に振り回されることが無い。常に、状況に最適な判断と指揮がとれる。よろしく頼むよ」
「承知いたしました」
改めて敬礼すると、司令の顔が変わった。
「基地司令のニミッツだ。君は自衛隊からの出向だが、わが軍の将校として役割をはたしてもらう、いいね」
この顔は忘れない、ミッドウェーでボコボコにしてくれたクソオヤジだ。
「わたしのモットーは、最速の艦体運動だ」
クソオヤジの顔は、31ノットバーグで名をはせたアーレイ・バーク提督に変わった。
「我が全力を持って、敵の分力を叩く!」
拳を上げた時はアイゼンハワーに変わっている。
「指揮官は英雄でなければならない!」
胸をそらすとスキンヘッド……えと?
「ジョージ・パットン。君も英雄だろ、憶えておきたまえ。ところで……」
机の書類を手に取ると、ニミッツに変化している。
そのあとも、一言あるたびに、アメリカの大統領や提督や将軍に次々に変わっていって、さすがのわたしも混乱してしまう。
「ということで、少佐、明日から、この第七艦隊で励んでくれたまえ」
最後を締めくくったのは、もとのレーガン司令だった。
ウォルト・ディズニーは入っていなかったか?
司令官室を出て、ブリンダに確認された。はて、どうだったか?