魔法少女マヂカ・071
とんでもないところに出るんだ。
赤黒の穴に飛び込むと、グニュっとすぼまる感覚。
でも、それは錯覚だ。穴にカメラのような絞りが付いているのではなく、穴自身が絞るように歪んでいるんだ。
並んで落ちているブリンダが絞った雑巾というか、ねじったキャンディーのように見える。
ブリンダのコスはアメリカ的に赤と青が基調になっている。それが絞ったようになっているのだから床屋の看板のように見える。
マヂカは紅白のロープのようだぞ。
絞られながらブリンダが笑う。わたしのコスは巫女を思わせる紅白が基調になっているので、捩じると紅白のロープに見えるのだろう。
むろん、二人の体が捻じれているわけではない。空間が捻じれているために見えてしまう錯覚だ。
プルルルルルルルル
捩じりが限界に達して、三半規管がねじ切れるような逆回転。
それが収まると、ブリンダと二人絡まるようにして着地した。
「あのシェルターだ」
そこは、防衛省の地下から行きついた核シェルターだ。むろん亜空間のシェルターで、現実に存在するものではない。
すぐ目の前に金塊の山があるのだが、なぜか空中に浮かんでいる。いや、リアルならあるべき床が半透明に透けて浮かんでいるように見えているのだ。
フッ
その金塊の山が掻き消え、辛うじて見えていた床も完全に消えてシェルターは大きく広がり、ブリンダと二人、宙に浮いたようになった。
金塊があったあたりの空間が蛍光色に凝り始め、数秒で人の姿……魔法少女になった。
「ズドラースト ビーチェ」
ロシア語で挨拶してきた。
「スパシーボ オーチンハラショー」
挨拶を返すと、ニッコリ笑ってサーベルを抜いた。
「何重にも張ったシールドを、よく破ったわね」
破るも何もない、富士のカルデラに飛び込んだら着いてしまったのだ。しかし、説明している場合ではない、闘志満々の敵には立ち向かうしかない。
「おまえ、ツェサレーヴィチだな」
ブリンダが闘志むき出しでレイピアを抜き放つ!
「バルチック魔法少女ツェサレーヴィチ、参る!」
「ヤンキー魔法少女ブリンダだ! 食らえ!」
「待て!」
声をかけるのが一瞬遅れた。ブリンダの腕を掴んだと思った手は空しく空気を握っただけだ。
ガシーン! ガシーン! ガガガガ ガシーン!
シェルターの空間に火花が散る!
一対二、一見有利に見えるが、これはフェイクだ。わたしの勘がアラームを発しているが、米ロ二人の魔法少女渾身の激突は激しさを増すばかり。
「フェイクだ! 離れろ!」
叫んだが、ブリンダには聞こえない。しかし、ツェサレーヴィチがニヤリと笑ってサーベルを上段に、奴の胴ががら空きになった。
トゥアーーーーーーーー!!
ブリンダのレイピアがツェサレーヴィチの胴を薙ぎ払う!
勢いで数十メートル突き進んだ二人の魔法少女。
ツェサレーヴィチの体が、胴の所で真っ二つになっていった……。