大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・065『分岐・1』

2019-09-14 15:21:08 | ノベル
せやさかい・065
『分岐・1』 

 

 

 お見舞いに行った三日後、留美ちゃんは退院した。

 

 あくる日からは、いつものように登校して来て、クラスも部活も日常に戻り始めた。

 エアコンは土日を挟んでたので、月曜日にはしっかり直されてた。

 涼しくなると、文句いうもんもおらんようになった。勉強するもんは勉強に身が入り、勉強きらいなもんはスヤスヤと寝れるようになり、その中間のあたしは、板書だけはチャッチャとノートに書き写して、PSPでやるノベルゲームを考えてる。

 ノベルゲームは、RPGとかのゲームと違て、ややこしいバトルとかダンジョンとかがない。スキルを高めてテクニックに磨きをかけて、アビリティーとか装備に課金する必要もない。

 アクションRPGに馴染んでしもてたんで、最初は頼りなかった。

 ひたすら〇ボタン押して話を進めていくだけ。RPGのストーリーの部分だけを進めてるんと同じこと。

 そやけど、時々ある選択肢というか分岐。その選び方で、先の展開がコロッと変わる。親友になるはずやったのが敵同士になったり、恋人とうまくいったり、別れたり。

 ドラマの登場人物の運命を決めるのは、全てプレーヤーの手の中にある。なんや、神さまになったみたい。

 間違えたと思たら、前の分岐までもどってやり直す。なんや快感。テレビゲームでは寝落ちしてる間に死亡とか全滅とかになってしもて、ドッヒャーということになったけど、ノベルゲームやと、話が停まってるだけ。テレビゲームほど疲れることもない。ボタンの連打で指が引きつることもあれへん。

 ただ、一本読み切るのに時間がかかる。かかりすぎる。

 百時間は当たり前で、全ての選択肢をやって、ストーリーやらCGを回収するのにはラノベの数倍の時間がかかる。アニメのワンクール十三回に比べると、百倍くらいやったりする。

 それに、やってみて分かったんやけど、やり始めると、最低ワンルートは制覇せんと、他のノベルゲームに手が出されへん。

 わたしは、どうも一本気な性格のよう。

 そやから、どれをやろうかと、PCで検索した資料をやら図書館の本を見て悩んでるわけ。

 

 昼休み、図書室に本を返しに行った。

 

 ノベルゲーの分からへん単語や言葉を、ググったら一発やねんけど、ちょっと本で調べようという気になったから。

 以前に観たジブリ作品の『耳をすませば』の雫のことが蘇って、あやかってみようという気持ちになったりしたんやしい。

 せやけど、雫みたいな馬力がないんで、五冊借りたうち、読んだのは一冊。それも半分ちょっとで挫折して、今日が返却日。

「わたしも一緒に行く」

 考えることは同じで、留美ちゃんも図書室で借りてた本があった。

 わたしとちゃうのんは、本は三冊。

 勝った! 

 いえいえ、留美ちゃんは三冊とも読み切っておられます。

「ううん、入院でヒマしてたから、一気に読み切ったの」

 と、わたしに気配りしてくれる。ええ子やなあ(´;ω;`)ウゥゥ

――一年一組の榊原留美、一年一組の榊原留美、至急職員室まで来なさい――

 菅ちゃんの放送で呼び出されてしもた。

「あ、急いがなきゃ(;'∀')」

 図書室は四階、職員室は一階、留美ちゃんは正直にオタオタ。

「いっといでえや、本は、預かって返しといたげるさかいに」

「え、そう……ごめん、終わったら直ぐに行くから」

 階段を上と下に分かれて、あたしは図書室を目指した。

 思えば、これが運命の分岐やった。

 いっしょに職員室行ってからというルートもあったし、二人急いで図書室に行くいう分岐もあった。暇そうに通りかかった田中に押し付けることもできた。いっそ、放課後にしよというルートもあった。

 しかし、あたしは、このルートを選んだ……。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

物語・ダウンロード・3《百才のコギャル》

2019-09-14 06:42:46 | ライトノベルベスト
物語・ダウンロード・3
《百才のコギャル》
        


 八十年前の沙也加バアチャンのデータをダウンロードしたノラ。

 ノラはは博物館モノの携帯を出して、どこへやら電話を掛けた。
「……ドモ、うん、あたし……ってゆーか、サヤカ。うん、そう。八十年前のあんたのオカン。タクマでしょあんた? あたしの息子。うん……今からいくからね。オッケー、待っててね!」

 ウォークマンをシャカシャカいわせながら、ハンガーを出たノラは、一階の駐車場に用意された八十年前のゲンチャに乗って病院を目指した。

「オッハー、サヤカでっーす。よっろっしっく!」
「声大きいよ」
 待合いにいる依頼人の家族に声をかけると叱れた。
「だって地声だもんあたし、しかたないでじゃん」
「ここ、病院だぞ……ま、昔のバアチャン、こんなもんだったんだろうね」

 親族たちが、ジロリと八十年前の沙也加を、ばい菌のように見る。

「病院? ここ? おじいちゃんタクマだよね。あたしの息子」
「ああ、こっちが嫁の……」
「嫁さん? ウッス……ヘヘずいぶん若い嫁さんじゃん(^o^)」
「ばか、孫の嫁だよ」
「孫の? で、こっちのオバチャン、娘さんのミナミだよね、むかしBKB47にいた……見る影もないね……よけいなお世話……だよねえ」

 一同の目が険しくなった。

「ま、ヨロシク、エブリバディー! こっちね、サヤカ?……ん、アイシーユー……ってなに?」
「気にしなくて良いから、よろしくね」 

「よっしゃあああ!」

 勢いよくICUのドアを開ける。孫の嫁が、こっそり閉めて、親族一同、なぜか安堵の表情。
「ウッス! 元気してる?……んなわけない。ヘヘ、病院だもんね」
 沙也加バアチャンは驚愕するが、もう表情に出す力もない。
「個室でいいけどさ、なんか機械ばっかね……どォ……なつかしい? 昔のサヤカだよ、かわいいだろ」
「……ひどい肌」
 苦しい息の下から、ようやく嫌悪の声。
「しかたないよ、昔のサヤカはこうだったんだから。ね、このケータイ見てよ。ほら、ここ押すと……ヘヘ……サヤカが援交してたオッサンどもの一覧表。なつかしいだろ!?」
 血圧計が異常を示した。
「こいつこいつ、文部省のエライやつだったんだけど、へんなクセあってさ、割り増しもらってんの……こいつ、見かけマジメなサラリーマン風なんだけどさ、ナントカって病気うつしたんだよ、あたしに」
 心拍計がアラーム音を発する。
「ん……なんかアラーム? 大丈夫だよね、サヤカ? ね、右のまぶたのキズおぼえてる? ほら、あたしもここに……あったりまえだよね、同一人物だもんねー。ここ、ヨシミとタイマンはったときのキズ。あいつのケリがまともに入っちゃて、目のとこにドカッとさ。ハハハ、マジきれちゃったよね! どうやったかおぼえてないけど……うん、たぶん頭突き……かな? ヨシミ、川の中おっこちゃったんだよね。ほっときゃ自分であがってくるとか思って家帰ったら、三日ほどして水死体であがっちゃったんだよね。つかまっちゃうかなってえ、ビビっちゃたけどお、けっきょく事故死ってことでえ……アハハ、ボケてるよね、あのころのケーサツって。ね、聞いてる、サヤカ? でもさ、あのおかげで彼氏とりもどしたんだよ」

 廊下では、医者に「最後の親孝行」と言ったタクマを先頭に、中の様子を聞き入っている。娘のミナミは、保険金の計算をしている。

「ね、コギャルの意地ってか? タクマその時できた子だもんね。死んだダンナは自分の子だと思っていたかもしれないけどさ。ヘヘ、まさにツナワタリってか!(外でなにやらもめている様子)……アラームうるさいね。切っとこうか。どう、サヤカ、思い出した?……そう、嬉しいのか……涙流しちゃって。横アリでコンサート最前列で見てて気絶しちゃった時みたい! コーフンしちゃったよね! あたし、嬉しさのあまり、ケーレンして、おしっこちびっちゃって!……サヤカ、聞いてる?」

 モニターが、ツーーーーーーというメリハリのない音をだす。

「……そう、眠っちゃった? ウフフ……サヤカからサヤカへ、おめでとう、百回目のお誕生日!
バンザーイ!!」

 マシンの音、スパークの光して、明るくなる。ソケットに指をいれて振動しているノラ。やがて解除。終わってグッタリへたりこむノラ。

「あのね……病人さんの相手する時は、最低の医療知識ぐらいロードしといてよね。サヤカ婆ちゃん、死んでしまったわよ。わたし、アイシーユーも、心臓のモニターもわからなかったんだから!」
――いや、あれで良かったんだ。クライアントも喜んでいる――
「え、よろこんでた!?」

 どうもキワドイ仕事のようだったが、ミッションクリアーと記録するノラであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高安女子高生物語・87〔あんたたち、歯が痛いの!?〕

2019-09-14 06:21:35 | ノベル2
高安女子高生物語・87
〔あんたたち、歯が痛いの!?〕
         


「あんたたち、歯が痛いの!?」

 別に歯医者さんに言われたわけやない。MNBレッスンの初日は、MNBのホームページに載せる写真を撮ることから始まった。
「いい、みんな笑顔よ。笑顔!」
 そう言われて、みんな笑顔を意識してカメラの前に座った。一応ナリはお仕着せのMNBの制服。
 で、最初の集合写真で、インストラクターの夏木静香先生にカマされた。

 なるほど、みんな笑顔が固いというか、虫歯が痛いのを堪えているような顔になってる。

「笑顔ってのは、ホッペの笑筋を使ってほほ笑むの。それと顔の緊張は目じりに出てくるから、目じり中心に顔の緊張をほぐすようにして! だめよ、ちょっとダメ出されたからって緊張してるようじゃ」

 それから、三十分かけて笑顔の練習。さすがに互いの顔を見て吹き出すような子はいないし、飲み込みも早いと思た。

「ま、いいでしょう。研究生らしい微笑みにはなってきた。とりあえず、これで撮ろうか……あのね、学校のクラス写真撮るんじゃないんだから、真っ直ぐ向いてどうする。それぞれ軽く個性が出るようにして、それでいて全体でバランスがとれなきゃ。姿勢は基本的には斜め。それで顔は正面。いくよ。景気づけに『あたしたちMNB47だ!』って、カマしていくよ! 」

 あたしたち、MNB47だ!!

 その瞬間シャッターの連写音。
「ま、30枚ばかり撮りましたから、使えるのあると思いますよ」
 プロの仕事は、さすがに早い。
「じゃ、個人写真。順番にいくよ」
「MNB最初の写真。わたしの第一歩はこれでしたって、選抜になった時笑えるような写真いくよ。そう、その時笑えるためには、いま笑えなくちゃね。さ、元気よく3+4は?」
「ナナア!」
「東京弁でアホのことは?」
「バカア!」
 てな具合に、たえず会話し「あ」母音で終わるような言葉を言わせて連写。その場の空気を大事にしてることが分かる。みんながハイになっている5分ほどで、22人全員の写真を撮り終えた。

 それから、練習着に着替えて、いきなりMNBの代表曲『おもいろクローバー』をみんなでやらされた。いちおうオーディションを通ってきた子ぉらやので、フリも、曲も頭と体に染みついてる。うちはうる覚えやったけど、三クール目には完全にいけた。
――あれ……?――と思うたんは、五回目やった。
「うん、よかったから、もう一回」
 言葉を変えながら、十五回ほどもやらされてヘゲヘゲになってしもてた。

「いい、選抜の子たちは、こんなの立て続けに三時間こなすんだよ。たった十五回、45分でバテてちゃ話にならないわよ。それに見てごらん、各自バラバラでフォーメーションもヘッタクレもなし。分かったわね、今日は自分たちの今を知ってもらいました。次から本格的にやります。まず体力づくり!」
「はい!」

 テンションを上げながら、できてへんことをズバズバと指摘。さすがはプロの世界やと思い知らされた。

 ほんで、学校やら友達のことは急速に頭から抜けて行ってしもた……いや、抜けていくことにも気ぃつかへんかった。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真夏ダイアリー・9『真夏の災難』

2019-09-14 06:11:23 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・9
『真夏の災難』     


 
「小野寺潤さんじゃ、ないですか……?」

 昨日の事件は、この一言が始まりだった。

「え……いや、わたしは……」

 あとの言葉が出てこない。女子高生の一団は、なんか、ものすごく熱い眼差しになっちゃうし、芸能雑誌コーナーの近くに居た人たちの多くがわたしのことを見始めた。
「サインしてください。あたし、さっきの間に合わなかったから!」
「ねえ、潤ちゃん!」
 小野寺潤さんから、潤ちゃんに、彼女たちは一気に距離をつめてきた。うしろからも何人かが寄ってくる。
『バイオハザード』だったら絶体絶命。とにかく、わたしは、そのゾンビの集団から逃げ出した。
「だからあ、わたしは、そのジュンちゃんとかじゃなくて、冬野真夏なんです!」
 キャー!
 名前を言っても効果は無かった。なんだか火に油を注いだようになって、ティーンの子たちに、いや、二十代のオニイサンとおぼしき人たちまで追いかけてくる。
「だから、冬野真夏だって!!」
「キャー、ほんもの、ほんもの!」
 わたしは、パニクって、レジ横のスタッフオンリーのドアに直進した。チラッと、玉男と省吾がポカンと口を開けて見ているのが見えた。しかし、わたしは直後、そのドアからの声に引っぱられた。
「こっち、こっち!」
「わたし、冬野真夏……」
「分かってるから、こっち!」
 そのオニイサンは、グレーのタートルネックに、黒のブルゾンという出で立ちだったけど。ゾンビに追いかけられたヒロインが、あやうくイケメンのレスキューに会ったみたいに、そのドアの中に向かった。
「バックヤードの向こうに車回してあるから、直ぐに乗って!」
「わたし、冬野真夏……」
「ああ、まだまだ続くぞ。さあ、出してくれ!」
 ワゴンに押し込まれると、そのレスキューさんも助手席に乗ってきて、ワゴンは急発進した。
「あの、冬野真夏……」
「たいへんだぞ、これから『ふゆのまなつ』は」
「もう、十分大変なんですけど」
「そのために、オレがいるんだ。頼む十分だけ寝かせてくれよ」
 それだけ言うとレスキューさんは、スイッチを切ったみたいに寝はじめた。

「着きました」

 運ちゃんの声でレスキューさんは、パチッと目を覚まし、まだ完全に止まりきっていないワゴンの助手席のドアを開け、止まると同時に後部座席のドアを開けて、わたしを引きずり出して、ビルに。ビルの入り口には、レスキューさんと同じ姿のオネエサンがドアを開けて待っている。
「さ、早く!」
 引きずり込まれる瞬間に、ビルの看板が目に入った。

――HIKARI PRODUCTION――

 芸能面にはウトイわたしでも知っているプロダクションの名前が、メタリックな光沢で光っている。
「すぐにプロモ用のスチール撮影だから、五分で着替えて。保多ちゃーん。潤のメイクお願い」
「あの、わたし」
「自分でメイクしてちゃ間に合わないの。我慢して」
「だから、冬野真夏……」
「そうよ、みんなそれに向かって突撃してんだから!」
 なんか殺気だっていて、わたしは飲み込まれてしまった。リハーサル室と書かれた部屋にぶちこまれると、タマゲタ。
 わたしでも知っているAKR47のメンバーが、振りやら立ち位置の確認の真っ最中。
「潤、ごくろうさま。でも押してるから、早くしてね」
 リーダーの大石クララが、振りの確認をしながら早口で言った。AKBに迫る勢いを見せているAKR47のリーダーぐらいは、わたしでも知っている。
 あっと言う間に、リハーサル室の端っこのカーテンで囲われたコーナーで、着せ替え人形になりかけたとき、入り口で声がした。
「え……潤!?」
 その声に反応して、メイク兼コーディネーターの保多というオネエサンが、カーテンを開けて、自分の口もアングリと開けた。
「ひどいよ吉岡さん。わたし置いて行っちゃうなんて」
 わたしと、同じようなパーカーブルゾンを着た子が立っていた。

「……潤が二人も居る」

 誤解はすぐに解けたけど、わたしはタマゲっぱなし。
 HIKARIプロの会長が、自伝的エッセーを出した。それが『冬の真夏』ってタイトルで、それに合わせて、AKRが同じタイトルの新曲をリリース。で、会長は表に出ずに新曲でセンターになった新人の小野寺潤て子が、ジュンプ堂のサイン会に回された。新人といっても、ファンの中では有名で、オシヘンする人も多いとか。この秋にリリースされた、『コスモストルネード』から選抜メンバーに入っている。わたしも曲は知っていたけど、十四人もいる選抜メンバーの新人の子までは覚えていない。
 で、問題は、この小野寺潤が、フェミニンボブにしたわたしとソックリだってこと。
 それまでの、爆発セミロングじゃ、誰にも分からないけど……そこまで思い浮かべて気が付いた。ハナミズキの大谷チーフが感動して写メったのを。大谷チーフは、最初から小野寺潤を意識して、わたしのヘアースタイルを決めたんだ。

 AKR47のメンバーは、忙しい中なんだけど、面白がって、わたしと潤を真ん中にして写真を撮って、サインまでしてくれた。
 わたしが女子高生で、試験中だと分かると、「がんばってね」と言って直ぐに解放してくれた。潤のパーカーブルゾンは、色がビミョーに違うだけの同じものだった。潤は間違われちゃいけないって、愛用のダテメガネと帽子をくれた。帰り際には会長の光ミツルさんが、吉岡ADを連れてきて謝ってくださった。AKRの会長さんが直々に頭を下げんので恐れ入っちゃった。そして、わたしは光会長の不思議な目の輝きを見た。でも、すぐに業務用の笑顔になっちゃったんで、忘れた……。

 玉男と省吾が心配してメールをくれていた。
――一言じゃ説明できないから、明日のオタノシミ♪――と返した。

 で、今日のテスト最終日は無事に終わり、三人野球をしながら、省吾と玉男に説明。二人ともびっくりしたり、驚いたり。学校でも、なんだか評判になり、何人も写メっていったり握手をしたり。

 お母さんには、まだ話はできていなかった。夕べは仕事で遅くなり、話したのは、作り置きのオデンを食べながらの夕食の席。
「へえ、そんなことがあったんだ!?」
 お母さんは、面白がってくれたけど、一瞬目が鋭く光った。それは光ミツル会長の目の輝きに通じるものであると、その時気が付いた。

 その夜って、今だけど、わたしパソコンで小野寺潤を検索した……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小悪魔マユの魔法日記・33『フェアリーテール・7』

2019-09-14 05:58:37 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・33
『フェアリーテール・7』  


 
「見て、白雪さんの顔」

「え……どうかした?」

 マユの指摘に、レミは戸惑った。エルフの王女でも分からない微妙な変化を、さすが小悪魔のマユは見抜いたのだ。
「鬼になりかけている……」
「鬼に……?」
「体は動かないけど、分かってるんだわ」
「白雪さ~ん!」
「やっぱり……」
「なにか、変化があったの?」
「わたしの目は、高速度カメラ並なの。百万秒の一秒の変化でも分かる。今、白雪さんは百万秒の二秒、目を開いた。とても悲しそうにね……ね、もう日は落ちたかしら」
「うん。お日さまは、まだ名残惜しげに西の空を染めているけど、東の空は、もうお月さまが、宵の明星を従えて、現れている」
 レミが、東の空を指差した。
 マユは、念のため、二十メートルほどジャンプして、西の山にお日さまが居ないことを確認した。
「すごい。マユ、それだけジャンプできたら、オリンピックで金メダルだわよ!」
「人間だったらね。あいにくの小悪魔。オリンピックには出られないけど、今から白雪さんに魔法をかけるわ」
「え、どんな魔法!?」
「黙って……神経を集中させなきゃできないんだから」
「あ、ごめん」
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……我は求めん……」
 マユは、白雪姫の胸のあたりに手をかざし、呪文を唱え始めた。
 
 そして数十秒……。

「ああ、もう、やってらんないわよ!!」

 カワユゲな寝顔を、まるで九回の裏で、ゲッツーをとられ敗北した阪神タイガースの試合を観ていたタイガースファンのオバハンのような顔に変えて、白雪は目覚めた。

「し、白雪さん!」

「ほんとに、あのクソアニマ王子、いいかげんにしろってのよね!」
 白雪とは思えない物言いに、ただビックリのレミである。
「ね、だから言ったでしょ。鬼になりかけてるって」
「あ、あんたね。わたしを自由にしてくれたの。とりあえずありがとう……」
 マユに、簡単にお礼を言うと、白雪は棺から飛び出て、森を出ていこうとした。
「待って、気持ちは分かるけど、その魔法は五分間しか効き目がないの」
「え……」
 レミと白雪が、同時に声をあげた。
「わたしって小悪魔だから、効き目が薄いの。でも、白雪さんは、アニマ王子にじらされて、このままじゃ鬼になってしまう。だから、五分間だけでも……」
「あ……そう……でも、嬉しいわ。たとえ五分間でも起きることができて。レミ、ありがとね。毎日心配して見にきてくれてたんだよね。わたし、身動き一つできなかったけど。まわりのことは全て分かっていたのよ」
「毒リンゴを食べてから、ずっと?」
「ええ、継母のお后が、リンゴ売りのお婆さんから、元のすがたに戻ったときは、このクソババアと思ったけど。その直後の、悲しそうな目は忘れられない」
「え、あのお后が、悲しそうな顔!?」
「うん、わたしも意外だったけど、継母は、わたしのことを憎んでなんかいなかった」
「だって、いつも鏡を見ては『世界で一番きれいな女はだーれ?』って、やってたんじゃないの?」
「違うの。本当は『世界で一番、この国を治めるのに相応しいのはだーれ?』ってやってらっしゃった」
「話がちがうよ……」
「自分の考えも、鏡の答えもいっしょだった。でも、国民の多くは、わたしが女王になるべきだと思っていた。でも、わたしは見かけ倒し。かわいいだけで、とても国の政治なんかできないわ」
「でも、毒リンゴで仮死状態にしておくなんて、あんまりだわ」
「継母さまは、それも、お考えになっていた。だから、いつか白馬の王子が現れて、わたしにキスをすれば、目覚めるように……それが、あのくそ王子!」
「アニマ王子のこと嫌いなの?」
「……いいえ、愛しているわ。最初に会ったときから……あの人の苦しみも分かっている。でも、毎日来ては、わたしのくちびる一センチのところまで、顔を寄せては、ため息ついて帰っていくばかり。それが、もう九十九回もつづいて。もう一回、こんな目にあったら、マユさんの言うとおり、わたしは鬼になっていたわ……」
 そこまで言うと、白雪姫はさめざめと泣き始め、レミは、白雪をハグして慰めた。

「申し訳ないんだけど!」

 マユが、二人の間に割り込んだ。
「この魔法、五分しか効き目がないの。効き目が切れるまでに、対策を講じておきたいの」
「対策って?」
 かわいいだけの白雪と、心配だけがイッチョマエのレミが、同時に声をあげた。
「白雪さん。あなたのお友だちで、あなたぐらいにかわいくて、勇気のある女の子いない」
「かわいくて、勇気……ああ、グリムチームに一人いる!」
「だれ……!?」
 名前を聞いて、ちょっと心配になった。かわいくて勇気はあるけども、ちょっと若すぎる。しかし、時間がないので、マユは呪文を唱えて、そのかわいくて勇気のある女の子を呼び出した。

 魔法の煙とともに現れた、その子は、思ったほどには若すぎなかった……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする