大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・080『M資金・14 こ、これは……?』

2019-09-30 14:04:43 | 小説

魔法少女マヂカ・080  

『M資金・14 こ、これは……?』語り手:マヂカ 

 

 

 ギュィーーーーン!!

 

 口を開けたかと思うと、チェシャネコは猛烈な勢いで空気を吸い始め、オレたちの非力な機動車は吸い込まれ始めた!

 ムギューーーー!

 T型フォードはキャビンが密閉されていないので、シートに座っていても吸引力の影響を受ける。オレは握ったハンドルで突っ張っているので、かろうじて持ちこたえているが、マヂカはベッチョリとフロントガラスに張り付いてしまっている。

 回り込んだ風圧は、マヂカの顔を押しつぶして、数倍の大きさに押し広げてしまっている。魔法少女というのは頑丈というか柔軟な体をしているので、不思議アリスのように、チョー高いところから落とされない限り潰れることは無いのだ。

「顔広がり過ぎだろ! フロントガラスの半分が貴様の顔で埋まって、うまく前が見えないぞ!」

「しょ、しょなころ……ゆっらっれええええええええ」

「あ、あああああ」

『あーーーーーー!』

「イッテーーーー!」

 今度はルームミラーがルーフから外れて、オレのオデコに突き刺さってしまう! ルームミラーの中でアリスが絶叫するので、頑丈なオレも、ほとんど気絶寸前になる!

 ギュィーーーーン!!

 非力なT型フォードの機動車は、木の葉のように旋回しながらチェシャネコの口に吸い込まれていく。眼前にチェシャネコのノドチンコが迫ってくる! 慌ててハンドルを切るが……。

 バチコーーーン!

 ノドチンコに斜め上方向にはじかれた!

 

 ウーーーーーーーーーーン

 

 お互いの唸り声がうるさくて、ほぼ同時に目が覚めた。

 こ、これは……?

 平べったく伸びきったマヂカを貼りつかせたままフロントガラスは外れてしまい、視界の上半分をアリスが映ったままのルームミラーがオデコに突き刺さったままのオレ。機動車は、フロントガラスとハンドルとルームミラーを失って、斜め後ろに転がっている。

 で……ハンドルが手から離れない!?

 風圧に負けまいと、必死でハンドルを握っていたもので、握ったままの手がハンドルに圧着してしまったのだ!

『呑み込まれてしまったわね……ここがカオスの世界よ』

「おーい、マヂカああ?」

「フグググ……」

『顔が下敷きみたく伸びきっちゃって、喋れないみたいよ』

「それにしても、そのかっこうなあ……」

 マヂカは、手足がツッパラかって、上から見ると漢字の『出』みたくなっている。なんだか自動車のフレームのようだ。

『あ、そういう想像はしない方が……』

 アリスの忠告は遅かった。

 マヂカの手足の先にはタイヤが出現し、肩甲骨のあたりにハンドルを突っ込むとちょうどいいくらいの穴が出現した。

「ノワッ!」

 カチャ。

 穴にハンドルが収まると、マヂカの体はアイドリングをかけたように振動し始めた。

「なんだか、スタート直前のF1レースみたい……」

『ダメダアアアアアアアアアアアアア!』

 アリスの叫びも空しく、周囲に同じような魔法少女F1カーが、エンジンをふかしながら数十台出現してしまった!

 

 

 

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真夏ダイアリー・25『代役の年末特番』

2019-09-30 06:49:01 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・25
『代役の年末特番』      



 その夜、夢の中にエリカが現れた。そっと手を開くと、鉢植え用の栄養剤が載っていた……。

「もう、これも効かないの」

 エリカが、こんなにまとまった言葉を話すのは初めてだ。
「わたし、真夏と、お母さんが仲良くなれるようにがんばった……」
「知ってる……何度も夢に出てきて励ましてくれたものね」
「最初は自信があったの。あなたたち母子の仲は必ずわたしが取り戻してあげられるって。夕べは、最後の大勝負をかけてみた。二人ともグッスリ眠れたでしょ」
「うん……あれ、エリカのおかげ?」
「大浴場で、お母さんのスキンシップ、すごかったでしょう……」
「うん、背中流してくれたり、オッパイつかまれたり、ちょっとヘンタイみたいだったけど」
「あれ、お母さんの愛情なんだよ」
「分かってる……でも、どう絡んだら、どう受け止めたらいいか分からなくて……」
「真夏には、なんだか他の力が働きかけているみたい。その力が強くて、わたしの力が及ばない」
「他の力……?」
「うん。わたしにも分からない力……その力が無くなったら、また、わたしが力になれるかもしれないわ」
「……エリカ」
「わたしは、もうダメ。でも、わたしと同じDNAを持った妹たちがいるわ。わたし達は株分けで増やされたクロ-ンだから。これから、真夏に何が待ち受けているか分からないけど、くじけずにね……」



 そこで、夢の意識が切れてしまった。

 その朝、エリカは花を全て落として枯れていた。

「やっぱ、長続きしないね……ようし、今日は、お母さんが買ってくるね」
「エリカは……しばらくやめてね」
「もち、お正月に相応しいの見つくろってくるわよ」
 語尾のところでは、もう、お母さんはキッチンに向かい、吸った息を鼻歌にして朝ご飯の用意にかかった。

 わたしは、さっさと朝ご飯を済ますと、出かけることにした。

「あら、早いのね」
「うん、ちょっと寄っていきたいとこもあるし」
 
 事務所に行く前に渋谷に寄ってみた。むろん例のハチ公前。
 予想はしていたけど、なにも起こらなかった。ポケットの中のラピスラズリのサイコロにお願いしても、変化はなかった。


――やっぱ、気まぐれなんだな。


 そう思いながら、道玄坂まで行ってみたけど、なにも変わらない年末の賑わいだった。Ⅳ号戦車なんか影も形もない、当たり前だけど。わたしは、そうやっているうちにウィンドウショッピングをしている自分に気が付いた。
 わたしってば、この三週間あまり起こった身の回りの変化に、なんだか超常現象めいたことを思いこんでいただけなんだ。潤とそっくりなのは、娘は父親に似るってことで説明が付くし、美容師の大谷さんが、それに気づいて、いたずら心で潤そっくりな髪型にしたことで、吉岡さんが見間違え、あとは、知らず知らずのうちに自分にかけた自己暗示。エリカと話ができたのも夢の中だけ。ラピスラズリのサイコロは路上販売のオジサンに乗せられただけ、あとのいくつかの不思議も、わたしの思いこみ。

「おはようございま~す!」

 おきまりの挨拶を何度かして、わたしはスタジオに入った。
「神楽坂24の子達が移動中に事故ってしまって、急遽うちにお鉢が回ってきたんだ。テレビ東都には義理があるんでね、三つ葉クロ-バーにお願いなんだ」
 吉岡さんが手を合わせた。AKR47は年末のスケジュールはいっぱいいっぱいだった。選抜メンバーでもある、三つ葉が抜けるのは痛いようだけど、神楽坂とは共存共栄。会長の一声で決まったようだ。
 他の選抜の子たちが出かけたあと、スタジオいっぱいに使って、知井子、萌、潤、わたしの四人で、その日の振りと、立ち位置を確認し、台本は移動の車の中で目を通した。
 さすがに、年末のやっつけ番組、簡単な打ち合わせの後、カメリハ。お弁当の休憩を挟んで、すぐに本番になった。お弁当を食べながら必死で進行台本に目を通したけど、本番はADさんたちがQをくれるし、カンペだらけだし、歌と振りだけミスらなければOKというものだった。神楽坂の持ちネタである『居残りグミ』の歌と振りでは、ちょっとキンチョーしたけど、自分たちの『ハッピークローバー』はリラックスしてやれた。

 ……それは歌のサビの部分でおこった。

 ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー♪

 そこで、バーチャルアイドルの拓美が現れる寸前、頭の上がムズムズすると思ったら……なんとライトが落ちてきた!

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宇宙戦艦三笠・16[ボイジャーが仲間に]

2019-09-30 06:35:45 | 小説6
宇宙戦艦三笠・16
[ボイジャーが仲間に] 


 

 

 ボイジャーを回収すると、すぐに医務室に運んだ。

 不思議だった。光子レーダーで確認した時は、明らかに古いタイプの人工衛星だった。
 それがモニターで女の子の姿になっていることは確認していたが、こうやって生で見ると、とても不思議だ。頬はほのかなバラ色で、胸は呼吸に合わせてゆっくり上下している。そして、まるで夢を見ているように瞼の下で目が動いているのが分かる。とても人工衛星の擬態とは思えない。
「可愛い子ね……」
「うん、初めて見るのに、なんだか懐かしい」
 顔かたちに敏感なのは、やはり女子だ。美奈穂と樟葉が最初に反応した。男子は、こういう時は驚きが直ぐには顔に出ない。ただ、目を丸くして見つめるだけだった。

「これ、ヘラクレアの娘さんの姿だよ……」
 みかさんが、しみじみと言った。
「どうして、あのオッサンの娘さんの姿に……ってか、あのオッサンの娘が、こんなに可愛いわけ?」
 引きこもりが長かった分、トシの反応は、すごく遠慮がない。
「ヘラクレアさんは、娘さんのことは、ほとんど口にしなかったけど、それだけ印象としては強くわたしの心に残ったの。だから、こんなに似ちゃったのよ。なんとなく懐かしく感じるのは、みんなも無意識にヘラクレアさんの影響を受けていたからよ」
 みかさんは、暖かい口調のまま続けた。
「人の心って、こんなに共鳴するものなのよ。ボイジャーも40年あまりの宇宙旅行で、いろんな宇宙人に空間や次元を超えて書き込みをされている。まだ未整理だけど」
「40年前のCPにそんなに記録容量はないんじゃない?」
「それは、君たちの概念よ。その気になれば、何もない空間にでも記録は残せるわ。わたしみたいな船霊も、いろんな人の思いの結晶だとも言える。さ、ボイジャーが目を覚ますのには少し時間がかかるわ。あなたたちのむき出しの好奇心に、いきなりご対面しちゃ、この子混乱するわ」
 4人のクルーは、ブリッジに追いやられた。

 分からないということは、想像力を刺激する。
 
 ブリッジで待っている間に、100通りぐらいのボイジャーのイメージが4人の頭に喚起された。美奈穂は中東で死んだ父への反発から、母親の少女時代のイメージを。トシは、亡くした妹や、自分をストーカー扱いした美紀のイメージに。樟葉と修一は、自分でも覚えのない少女たちのイメージが浮かんだ。みかさんの言葉が思い出された。
「二人の心には、もっと奥があるわ」
 改めてみかさんの言葉が思い出された。

 ボイジャーは三日目に目覚めた。

「みんな医務室に来て」
 みかさんの声で、4人は心弾ませて医務室に向かった。
「みなさんよろしく。あたしがボイジャーです」
 ボイジャーは、まるで売り出したばかりのアイドルのようにフレッシュではあるが硬い笑顔で挨拶した。ワンピースが黒の花柄から淡いグリーンの花柄に変わっていた。まるでボイジャーの心が変化したように。
「まだ、この子の心は整理がすんでいないの。だからちょっとぎこちないけど、少しずつ慣れていって。ボイジャー、あなたの呼び方、どうしようか?」
「……できたら、クレアって呼んでください。いろんな意味で、これが一番しっくりくるんです」
「じゃあ、ようこそクレア。君が三笠の最初のゲストだ」
「いえ、あたしはクルーです。役割はアナライザーです」

 みんな戸惑った顔になった。アナライズ機能は、すでに三笠には付いている。

「三笠については、補助的なアナライズをやります。本務は、あなたたちの心のアナライズです。修一さん、トシくん、美奈穂さん、樟葉さん、よろしく」
「これからは、クレアさんが、わたしの代わりだと思って。わたしは本来の船霊の役割に戻ります」

 みかさんは、そう言うと、姿が朧になり、一瞬光ったかと思うと光の玉になってホールの神棚の方に消えていった。修一は、なんとなく、これがみかさんの筋書通りのような気がした……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・9『声だけで分かる美人の怖さ』

2019-09-30 06:26:23 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・9
『声だけで分かる美人の怖さ』
     高師浜駅


 悪気はないから許してあげてね

 ミス高師浜は、コマッタ眉になって話してくれた。

 立花さんの話によると、こうだ。
 立花さんのクラスの男子たちが、中庭を歩いていてベンチのファイルに気づいた。ファイルの表紙を見ると『阿田波姫乃』『天生美保』とある。
「これ、高師浜駅の写真の女の子らとちゃうか!?」
 そう気づいて、返してあげようと話がまとまるが、だれが返しに行くのかということでもめてしまった。
 あわよくば、返しに行くことでお近づきになれればという気持ちがある。ファイルは二つなので、チャンスは二回あると言うことなのだ。
 それならば、二回のチャンスを平等にするために、男どもはジャンケンをした。
 で、姫乃の担当が決まったところでチャイムが鳴った。次の授業は遅刻にやかましい先生なので、男どもは慌てて教室に戻った。
 慌てていたので、ベンチの上にあったあたしのファイルをテイクアウトするのを忘れてしまった。ということらしい。

「あんたたちが相手にされるわけないでしょ、それに、なんで直ぐに返しに行かないのよ!」

 それで、立花さんが持ってきてくれたということらしい。
「でも、それだったら、ほんとに悪気ないんだし、お礼が言いたいです」
 姫乃は純な子だ。
「いいっていいって、お礼なんか言ったら、バカがつけあがるから。じゃね」
 立花さんは、ヒラヒラと手を振って行ってしまった。

 あたしは気が付いていた。

 立花さんの後ろ、廊下の曲がり角、さり気にあたしらを見てた三人組。
 中学の一個上の先輩たち、足立・鈴木・滝川の三人や。
 滝川のニイチャンは、小学校から一緒、ヤンチャなことでは定評があった。

 で、ほとんどオチョクル感じで、あたし一人お礼を言いに行った。

「ちょっとすみませ~ん」

 声を掛けたのは、放課後の下足室前。
 狙い通り、薄っぺらい通学カバンを肩に掛けたりぶら下げたりして、三人が出てきた。
「「「あ」」」
「先輩らが拾てくれはったんでしょ?」
「え」「あ」「まあ」
 とりあえず、気まずそうな返事。青春とは気まずいもんや。
「あたしのんは取り忘れみたいですけど、姫乃の分と合わせてお礼言うときます。ありがとうございました」
 中学の時に面接練習で習うた通りのお辞儀をかましとく。
「いや、どういたしまして、なんやかえって迷惑かけたみたいで、こっちこそ」
 滝川のニイチャンが汗をかいてる。
「じゃ、これで」
 あたしは、よそ行きの歩き方で校門を出て行った。

 で、気が付いた。アホなことにカバンを持って帰るのを忘れてた。

 回れ右して、出てきたばっかりの校門に向かう。
 
 アハハハ

 楽し気やけど、なんか含みのある笑い声に立ち止まる。
 笑い声は、あたしからは死角になってる塀の向こう側。
「あいつアホやなあ」
「ほんまほんま」
「俺らが相手してるのは姫乃ちゃんだけやのにな」
「だれが天生のことなんかなあ」
「あいつのファイルは、わざと置いといたのになあ」
 
 自分のアホさ加減もあるけど、めっちゃムカついてきた。こういうシュチエーションで俯いて泣くようなあたしやない。
 文句の一つも、と、足が出たところで停まった。立花さんの声が聞こえてきたから。

「あんたたち、ちょっと酷いじゃないの!」

 声だけで分かる美人の怖さや……。
  
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高安女子高生物語・103〔The Summer Vacation・6〕

2019-09-30 06:12:39 | ノベル2
高安女子高生物語・103
〔The Summer Vacation・6〕
                 


 
『MNB47 佐藤明日香の24時間』

 このありがたくも、あんたら、そこまでヒマなんかいな言うテレビ取材の話は、昨日ユニオシの事務所から。実質業務命令で依頼がきたもの。
 お母さんは嫌がったけども、お父さんは喜んでた。仕事柄、家に引きこもりみたいな毎日を送ってるお父さんにはええ刺激と宣伝の機会。
 いそいそと座卓の上に10冊ほどの自分の本を並べだす。低血圧のお母さんは、夕べは眠剤を飲んで早起きに努力の姿勢。
 うちは、夏休みは早起きの習慣がついてる(一時間でも早よ起きて、休みを満喫しよいう根性)ので、朝の6時にクルーが来た時には、すでに起きてた。
 クルーは寝起きのブチャムクレ明日香を撮りたかったらしいけど、残念でした。ハーパンにカットソーに、セミロングをポニーテールにして、お目目パッチリの迎撃態勢。さすがにお母さんも起きたけど、こっちは完全なブチャムクレ。三階で身づくろいと化粧にかかる。
「アスカちゃんは、いつも、こんなの?」
「はい。時間もったいないよって、夏休みとかは早いんです」
「あ、朝ごはん自分で作るんだ」
「はい。うちは家族三人やけど、起きる時間も朝ごはんの好みもバラバラ……え、お父さんも一緒に食べるて?」
 いつもは別々に食べてる朝ごはんをいっしょに食べる。ト-スト焼くとこまではいっしょやけど、お父さんはハム乗せてコーヒー。うちはトーストの上にスクランブルエッグにインスタントのコーンポタージュ。食後の麦茶は常温のにしといた。こないだみたいにお腹の夏祭り撮られたらかないません。
「もう30分早かったら、朝シャワー撮れましたよ」
 そう言うてから、メールのチェック。麻友だけが「お早うメール」で、美枝とゆかりは「おやすみなさい」のまんま。
「学校の友達とは、ずっとメールのやりとり?」
「はい、夏休みになってからは仕事ばっかりで、クラスの友達とは会われへんさかい、お早うとお休みだけはやってます」
 それからFBのチェック。「お早うございます♪」と、取材クルーの写真付けて送信。
「ラジオ体操行きます?」
「アスカちゃん、ラジオ体操やってるの?」
「まさか、小学校までですけどね。たまにはええんちゃいます?」

 9時にカヨさんとこに行く約束したあるので、それまでの時間稼ぎ。

 ラジオ体操は近所の公園。
 
 テレビのクルーといっしょに行ったら、みんながびっくりしてた。高学年の子らは、昔いっしょにやった顔見知り。自分で言うのもなんやけど、高安が出した初めてのアイドル。自然な形でどこに行ったら、いい絵が撮れるかは承知してます。
 五年ぶりに子供らとラジオ体操。終わったらスタッフが用意してたカードにサインしたげる。ここで40分も尺とったけど流れるのは、せいぜい一分やろなあ。
 家に戻ると、お母さんがいつもの倍くらい身ぎれいにして、掃除と洗濯。「あら、やだ、いつの間に!」しらこいこと言いながらスタッフにお愛想。時間つぶしに両親のインタビュー。これもあらかたカットされるんやろなあ……親の努力がけなげに思えたころに時間。高安駅までスタッフの半分が付いてくる。
 日本橋(ニホンバシとちゃいます、ニッポンバシ)で堺筋線に乗り換えて一駅の恵美須町へ、カヨさんの家は初めてなんで、迎えに来てくれてることになってる。

 で、恵美須町の地上に出たらえらいことになってた……!
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小悪魔マユの魔法日記・49『フェアリーテール・23』

2019-09-30 06:03:37 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・49
『フェアリーテール・23』
     




 声の主は、新聞配達の少年ジョルジュだった。
「どうしたの、ジョルジュ?」
「大変なものに出くわしてしまった……あ、こっちへ」
 そういうと、ジョルジュはミファとマユを道路脇の大きな岩陰に連れて行った。
「いったいなによ、なにがあったのよ!?」
「驚くなよ……」
「シッ……!」
 息を整えながら話を続けようとしたジョルジュを、マユは静止した。

 岩の向こうの道を町長が歩いていく。道は、岩のところで曲がっているので、後ろから来た町長は気がついていなかった。いつもなら、目の前を歩いていた二人の女の子の姿が見えなくなれば「おかしい」ぐらいは思うのだけれど、この時は気づきもしなかった。
 それほどサンチャゴのライオンのショックが大きかったのだ。

 町長の気配が完全に無くなっても息をひそめ、さらに三つ数えてからジョルジュは話し出した。
「さっき、ライオンに遭ってしまった……」

「「え!?」」

 ジョルジュは、二人を案内しながら説明した。
「新聞を配達し終えて、家に……帰ろうとしたんだ、そして北……の、町はずれのイガイガ林の……ところまで来た……ら……オレの上……上を、大きな影がよぎった……んだ……」
「あの(……)のとこは、人目を気にしてるんだろうけど、分かりにくいから」
「とりあえず、イガイガ林まで行って話してくれる。ただでもお喋りなあたしたちが、人前で黙り込んじゃ、かえって怪しまれるわよ」
「それもそうだ」

 ということで、イガイガ林に着くまで、三人はバカ話ばかりした。おかげで、マユのこともジョルジュは自然に理解した。年頃の少年や少女は改まった話は苦手だ、バカ話の中で話したほうが、お互いに通じやすい。
 ジョルジュは、マユが小悪魔であることもミファと友だちであることも自然に理解……信じた。むろんサンチャゴじいちゃんのライオンのことは言わなかった。

 そういうオトモダチ的な話をしているうちに、三人はイガイガ林の前までやってきた。
 あたりをうかがい、イガイガ林の中に入ると、ジョルジュは一気にまくしたてた。
「でよ、大きな影がよぎったかと思うと、そいつはオレの目の前に降りてきて、オレをめがけて駆けてきたんだ。オレは、足がすくんで、動くことも声を出すこともできなかった。だって、そいつは……ライオンなんだ!」
「で、ライオンはどうしたの? どこにいるの?」
「林の、あるところに閉じこめてある……」
「ジョルジュが、閉じこめたの!?」
「あ、ああ、町に出られちゃ大騒ぎだからさ。オレだってやるときゃやるよ!」
「えらいんだ、ジョルジュって!」
 マユは、一応カワユゲな女の子らしく驚いてやった。なにかありそうな気はしたが、まあ若者同士の礼儀として……。
「で、ライオンは?」

「……ここ」

 ジョルジュは、体をカチコチにして、目の前の薮を指差した。
 一見薮に見えたが、それは木の枝を切り積み重ねたカモフラージュであることが分かった。三人でカモフラージュの薮をどけると、そこは岩肌で、人がやっと通れる割れ目が開いていた。

 割れ目の奥から気配がした……たぶんライオンの気配……でも、サンチャゴじいちゃんのライオンの気配とは違っていた。薄暗いので、マユは魔法で明るくしてみた。
 割れ目の中は意外と広く、奥の方で「く」の字に曲がっているようで、気配は曲がった「く」の字の奥の方からしてくる。
 マユを先頭に、ゆっくりと奥に進んでいくと、後ろの方で、ガラガラガラと大きな音がした。
 崩れてきた岩で、入り口がほとんどふさがれてしまった。
 ミファとジョルジュは思わず抱き合ってしまった。
「あなたたち、友だち以上なのね……」
「あ……思わずよ、思わず。手近にいたから」
「そ、そうだよ」
「ま、どうでもいいけど……フレンチキスまですることないと思うよ」
 マユは、今のが(二人が抱き合ったことじゃなく、岩が崩れたこと)ライオンの仕業であることに気づいていた。

 気配はいきなり「く」の字の角を曲がって現れた。
 それは身の丈二メートルは超えるライオンであった……身の丈?

 そう、ライオンは二本の足で立っていたのだ!

「やあ、わざわざすまないね」

 ライオンが口をきいた……!!?



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