大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・067『子ネコとの遭遇』

2019-09-18 13:29:32 | ノベル
せやさかい・067
『子ネコとの遭遇』 

 

 

 ほんのちょっとしたことで歴史は変わる。

 

 大げさやけど、そういう感じ。

 図書委員の子が足を怪我してなかったら、自分で書架に本を仕舞いに行くことは無かった。

 あそこでXとYの話を聞いてなかったら、本を仕舞っておしまい。

 スマホの映像と音声が、もっとクリアーやったら、本の間に首突っ込んで、しっかり確認しようとはせーへんかった。

 あれでバランスを崩して書架ごと倒れてXのスマホはオシャカになった。オシャカになったから、エアコン騒動はSNSに流れることもなく。みんなの記憶から消えて行こうとしている。

 SNSに流れてたら、新潟の中学校みたいに新聞やらテレビに流れて大騒ぎになってた。

 もし、書架が倒れんと、XとYの悪だくみに気づいたら……わたしは、どないしたやろ?

 止めに入ったやろか? 先生に言いに行ったやろか? それとも知らんふり?

 

「悶々と悩んでただろうね」

 

 体育祭の学年別の練習の真っ最中。男子の組体操の練習が長引いて、女子は体育座りして待たされてる。先生らも組体操の警戒(なんせ怪我されたら、それこそマスコミの餌食)で、待機してる女子はほったらかし。せやから、あちこちでお喋りしてる。あたしは留美ちゃんと並んで、こないだの図書室事件を話してるわけ。

「悶々と悩むなんて、桜らしくないから、あれでよかったんだよ」

「そっかなあ」

「そだよ。わたしも、表ざたとかになって注目されたりなんてやだったから。運命とかには感謝だよ……」

 喋りながら留美ちゃんは地面に『の』の字を書いてる。なんや、そこはかとなく可愛らしい。

「もし、頼子さんがヤマセンブルグの正式な王位継承者になったら、わたしも桜も王女殿下のご学友だよ」

「ご学友って、うちら学年二個下やけど」

「後輩のご学友って、言葉が長いじゃない。きっと、ご学友ってことになる」

「そ、そうなんかなあ(^_^;)」

「インタビューとか受けたり、戴冠式には呼ばれたりしてさ、うん、そういう引き立て役てか、脇役ならなってもいいなあ」

「戴冠式とかやったら、ドレスコード(夏季合宿で覚えた言葉)とかあるでしょ、うわー、どないしょ。あたし、ぜったいフォーマルな服なんか似合わへんわ!」

「その時はさ、二人で、お揃いのにしようよ」

「あ、その方が安なるか!?」

「アハハ、まあね」

 取り留めない話をしてると――女子は着替えて解散――と先生が宣言した。

 男子がドンクサイのと、安全を期すために、男子全員居残り練習ということになる。

「え、教室いかへんのん?」

 着替えは教室やのに、留美ちゃんは校舎裏の方に行こうとしてる。

「うん、ちょっと日常を踏み外して、運命を変えてみよう!」

 留美ちゃんにしては大胆なことを言う。さっき、あんなことを話したからやろなあ。

 ま、踏み外すと言うても、校舎の裏側を通ると言うだけの話。

「そやね、大回りしてる間に飛行機が落ちてきて、クラスで助かるのは、あたしと留美ちゃんだけになるとか」

「そうね、こっそり校舎裏に現れた宇宙人に出会うとか」

 アホなこと言いながら校舎の裏に。

 飛行機が落ちてくることも、宇宙人に出くわすことも無かった。

 

 けども、どこから入って来よったんか、子猫がおった!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真夏ダイアリー・13『欺瞞』

2019-09-18 06:57:56 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・13
『欺瞞』     
 
 
 
 
 今日は覚悟して学校に行った。
 
 衆議院選挙で自民党が大勝利!……でも、高校生には関係ない。学校に行ったら、きっと質問されたり、写メ撮りまくられたり、キャーキャー言われてイジラレまくりだろう。
 
 なんたって、売り出し中のアイドル小野寺潤とそっくりで、おまけに父親がいっしょだって分かったんだから。 
 乃木坂の緩いカーブを下って、校門が見えたころでカメラを持った三人組のオニイサンとオネエサンに通せんぼをされた。 
 
「真夏さんよね。どうですか、AKRの潤ちゃんと姉妹だって……」  
 オネエサンがそう聞きかけたころ、道の向こう側の車からAKRの吉岡さんが飛び出してきた。 
「困るなあ、昨日言ったでしょう。今度のことは、全てHIKARIプロで対応させていただきますって!」 
「それは、そちらのお願いで、報道の自由はあくまでわたしたちにあるの!」  
 オネエサンは譲らない。 
「しかしなあ!」 
「吉岡さん、ありがとう。でも、わたしから手短に答えておきます」  
 そう言うと立て続けに写真が撮られ、マイクが向けられた。 
「急なことで、自分でも整理がついてません。だから話のしようがありません。ただ、このことで潤ちゃんと仲良くなれたってことは、とても嬉しいことです」 
「それは、姉妹として? アイドルだから?」 
 わたしは、右手を上げてオネエサンを張り倒した……ように見えた。事実オネエサンは悲鳴をあげた。 
 わたしは寸前で左手を出して、オネエサンの顔の真横で右手とパーンと打ち合わせた。 
「!?」と、オネエサンたち。 
「今の、左手が鳴った? 右手が鳴った?……分からないでしょ。これが答え。通学のジャマ、これくらいにして」 
 周りの生徒や、校門で立ち番をしていた先生達があっけにとられていた。
「おまえ、リポーターのネエチャン張り倒したんだって!?」
 
 案の定、学校の中では話が大きくなっていた。 
「張り倒していたら、いまごろ警察がきてるわよ。それより大杉クン、『ワンピ-ス・Z』見にいった?」 
 大杉が大の『ワンピース』ファンであることを見越して質問してやった。 
「ああ、観たさ。大感激しちゃったぜ!」 
「ふーん、省吾は、どうなのさ?」 省吾に振った。
 昨日のメールで、省吾も観にいったことが分かっていたから。 
「オレの感想は、この人といっしょ」
 
 省吾は、スマホの画面を見せた。
 
 
 タキさんの押しつけ映画評
 
 ハッキリ言わして貰って不満です。「ストロング・ワールド」を基準にすると、満足度60%って所ですかねぇ。脚本の鈴木おさむが原作との連動にこだわり過ぎたのが主因か?  とはいえ、これは趣味の違いとも考えられるのだが、今回の敵役が ガープ・センゴク・おつるさんなんかと同期の元海軍大将で、青雉・黄猿・赤犬の師匠に当たるので、マリンフォード頂上戦争後の三大将の勢力争いに関わらすにはいられない。これは、どちらかといえば原作・テレビで扱うべき題材ではないかと思う。映画の結末(なんぼなんでもこれはバラせない)からすると、後々の原作ストーリーに影響がでる。  もっとフリーな設定にしておいたほうが良かったと思うのだが、ワンピフリークの皆さんはどう思われただろうか。作画・動画に破綻はない、サイド設定も面白いのだが、メイン設定のかつてゼファーと呼ばれた英雄と海軍との関わりがあまりにもハイスピードで語られる。かつての「海賊王白ひげ」と比肩されうるキャラクターなだけに、う~~ん、もったいないんじゃないですかねぇ。 だから、ルフィー以下麦わらの一味の存在感もいまいち薄く感じられる。  だからだから(?)感動が薄い……俺が贅沢言ってるのかなぁ、とにかく「嗚呼!勿体ない」ってのが正直な感想でありまんにゃわ。  周り殆ど中坊で 若干ざわついていたのにイラついていたし、予定していた時間に見られなかったり……今日はイライラしっぱなし、しかも雨は降ってる 車は来ない……時間を置いたら別な感慨が生まれる…?
 
 
 わたしは知らなかったけど、このタキさんという人は、映画好きの人には、ちょっとアナーキーだけど、切れ味のある映画評で有名な大阪の映画評論家らしい。 
 大杉と省吾の論戦に移ったところで、自分の席に着いた。 
「あのさ……」 
 穂波だったので油断していた。 
「真夏のことモデルにしてマンガ描いちゃだめ……?」 
「え……?」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠・4 [旅立ちの時・2]

2019-09-18 06:47:38 | 小説6
宇宙戦艦三笠・4 
[旅立ちの時・2] 


 
 
「みんなCIC(戦闘指揮所)に集まって!」

 お下げの神さまが言うと、オレたちはまるであらかじめ知っていたかのように三笠の中央部にあるCICに入り、それぞれの席に着いた。
「シールドA展開! 砲術長、航海長、状況報告!」
 オレは、当たり前のように美奈穂と樟葉に命じた。なんで、オレ、こんなに偉そうなんだ!?
「右舷3時方向0・04パーセクに敵艦多数。フェザー砲の飽和攻撃を受けつつあり!」
「機関長、ミニワープで、敵の真ん中に出る。同時に艦載砲すべてでフェザー攻撃。かかれ!」
「ミニワープ!」
 機関長のトシが、今まで聞いたことのない冷静かつしっかりした声で応えた。
「全砲フェザー射撃オート!」
 砲術長の美奈穂が答える。
「最大戦速で敵旗艦に捻りこんで並走、一斉射後9時方向0・01パーセクにミニワープ」
 三笠は、敵旗艦の直衛艦をひねりこみでスルーすると、0・2秒間敵旗艦と並走。こちらのシールドで、敵艦のシールドを中和、主砲と左舷の全砲門で0距離射撃。敵が爆沈する寸前にミニワープ。9時方向でステルスシールドに切り替えた。
「敵艦123隻中40隻を撃沈23隻撃破」
「残存艦にフェザー攻撃。初元位置にミニワープ」
「敵残存艦32隻、ワープしつつ逃走……」
 
 勝った。

「チュートリアルクリア。全員合格よ」

 神さまが静かに言った。
 
「どうして、オレたちに、こんなことができるわけ……?」
「これからの航海に必要なアビリティーはダウンロードしてある。インストールが完璧なことも、今のチュートリアルで確認できたわ」

 飛躍した現実に付いていけず長い沈黙になった。

「どうして、あたしたちなんだ……?」
 数十秒の沈黙を破って樟葉が口を開いた。
「東郷君の霊波動が、わたしに合うの」
「え、オレが!?」
「それと、あなたたちの喪失感。潜在的な一体感……そういうものが総合的に適合した……で、納得してくれる?」
「……で、できないわよ! あたしたち、学校やら自分の生活があるもん!」
「ワープ移動がほとんどになるから、遅くとも明日の朝には戻れるわ。上手く行きすぎたら、それよりも前に戻るかも」
「あの……それって、ボクが引きこもる前に戻れる可能性もあるってことですか?」
「そこまでは……でも、この旅で秋山くん(トシの苗字)の引きこもりは完治すると思うわ」
「そ、そうなんだ」
「で、あなたのことは、なんて呼んだらいいんだ?」
「アマテラスオオミカミさんじゃ言いにくいわ」
「アマちゃん……じゃ失礼だし」
「ん~、みかさんでいいわ」
「みかさん……?」
「三笠の船霊で、三笠さん。それをつづめてみかさん。うん、これでいこう。じゃ、今夜は休んでいいわ。明日から本格的なミッションに入るから。じゃ、よろしく!」

 ホログラムのスイッチが切れたようにみかさんは消えてしまった。
 
 オレたちは目的も目的地も敵のなんたるかも知らずじまいで、始まってしまった……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

物語・ダウンロード・7《125歳のサラリーマン・3》

2019-09-18 06:37:46 | ライトノベルベスト
物語・ダウンロード・7
《125歳のサラリーマン・3》
      


 
 父は、間をおいて、ゆっくり語り始めた。

「実は、幸子もお母さんも、シュミレーションした架空の家族なんだ。わたしは一度も結婚したことはない」
「……うそ!?……一度も結婚なんかしたこと……ない?」
「ああ」
「うそ! うそよ!! わたし、ちゃんと憶えているもの。小さいときのことも、お母さんのことも……この坂道も、この柔らかい木漏れ日も、角のケーキ屋さんも、ちゃんと記憶にあるよ。わたし、この道を、死ぬ二日前まで歩いていたんだから」
「わたしが、コンピューターで立ち上げたバーチャルファミリー……フィクションなんだよ……それを社員たちが本物と思って……わたしへのプレゼントにしたんだ」
「じゃ……それをダウンロードされたわたしが本当と思ったの……お父さん……こっちむいて……それ、ほんと? ほんとのほんと?……こっちむいて!」

 父の正面に行く幸子。父、顔をそむける。チャンネルが変わったように幸子のままノラの表情にもどる

「……おもちゃじゃないのよ、ロボットは……特に、わたしみたいな人材派遣用ロボットは、その時その時、いろんなパーソナリテイーや、スキルをダウンロードされて……でも、その一回一回のパーソナリテイーは、わたしにとっては本物なんです。生身の本物として生きているんです……だから、だから、そうでないと言われたら……意識の居場所がありません。パーソナリテイーのダウンロードは、CPUにも、ボデイーにも、大きな負担になるんです……ふつうロボットは、生まれたときに、その役割にあったパーソナリテイーを一度だけダウンロードされます。わたしたち人材派遣ロボットは、それを毎日くりかえすので、劣化が激しく、ひどく寿命が短いんです。わたし、もともと中古で、下取りの時に、元のメモリーとパーソナリテイーをブロックされているんです。いっそメモリーごと消去されていれば……むろん消去されていたら、こんな人間的な動きや、感情表現はできません……」
「すまない」
「お願いこっちを向いて……わたし、あの地震で死んだときのような気持ちよ……激しい揺れに足をとられ、民宿のドアに手をかけた、そのとたんに、壁が崩れて……お母さんと二人下敷きになり、早回しのビデオのように短い一生が思い出され……思い出しながら遠のいていく意識……最後に憶えているのは、握ったお母さんの手のぬくもり……その……手のぬくもりさえ、本物じゃなかったのね……みんな、お父さんがこさえた戯れのバーチャル……」

 そこで、幸子の姿をしたノラの意識は途絶えた。モーツアルト、静かに流れている。気づくと、もとのノラのハンガー。

「……ありがとう、つれて帰ってくれたのね……何も憶えてない……」
――暴走しかけて、フリ-ズしてしまったんだよ――
「お母さんは? ああ、バグと認識して最初から動いてない……さすが大手のモリプロね……」
――ごめんな、ノラ――
「……もういいわよ。早く消してくれる、幸子のパーソナリテイー」

 ノロノロと柱のマシンへ行き消去しようとする。

――ごめん。メモリーに焼き付いて、消去できない――
「もうそろそろ寿命かな……ねえ、オーナー。オーナーはどうしてこんな仕事してんの?」
――男一人食うのにちょうどいい――
「自分で働いたら?」
「このマネージメントやメンテナンスで、けっこう働いている?……ほんとかな……ね、このマシンの中にもブロックされたメモリーがあるんだけど……」
――このハンガーのシステムメモリーだよ――
「でも、解析できないよ……」
――ノラが勝手にいじって、キッチンなんかつくってしまわないようにブロックしてある――
「もう……」
――実は、オレにも、よくわからない。カミサンが使ってた中古なんでな――
「これ……?」

 慣れ親しんだ友だちの、意外な面を見つけた気になるノラであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高安女子高生物語・91〔5/4拍子の恐怖〕

2019-09-18 06:30:54 | ノベル2
高安女子高生物語・91
〔5/4拍子の恐怖〕
        


 4分の5拍子のリズムはむつかしい。

 ♪♩♪♩♩♩


 分かります、このリズム。タ・タン・タ・タン・タン・タンてな具合で、メッチャ難しい。うちらは、これを『テイクファイブ』いう有名な曲でやらされた。あたりまえやけど、学校とちゃいます。MNB47のレッスン。こんなリズムは、MNBなんかのアイドルグループの曲の中では絶対出てけえへん。それをなんでノッケからやらせるか?

 自信を崩すため……一昨日のレッスンで夏木先生が、全員アウトになったあとに言うた。

「あんたたちはね、2800人の中から選ばれたから、どこかで自分は特別だと思ってんのよ。確かに、既成のアイドルグループのコピーは上手いわよ。でも、それって、やっぱ、ただのコピー。英語の曲が歌るから英語が喋れると誤解してるようなもの。どんなリズムでも刻めるようにならなきゃ、オリジナリティーのあるプロにはなれないのよ」と手厳しい。
「これで、自分は素人だという自信が湧いてくるでしょ」
 研究生の中から笑いが起こる。さすがにプロのインストラクター。自信を崩すのもノセルのも上手かった。
 これで、わだかまりなく素人の意識から謙虚にレッスンを受けられるようになった。

 でも、あたしとカヨさんは、ここから恐怖が蘇ってきた。そう、あの難波の事故。

 事故直後は、わりに平気やった。目の前に軽自動車が突っ込んできて、10人の死傷者が出た。一番近くに転がってたオッチャンなんか、壊れた人形みたいに不自然な格好で倒れてた。だいたい道路で人が転がってること自体が、ものごっついこわいことや。
 それが、五拍子のリズムができるようになった途端に「怖いこと」として、頭の中でフラッシュバックするようになってしもた。

 もともと勉強が嫌いなとこにもってきて、このフラッシュバック。試験が全然手につかへん。

 そんなうちの様子に気ぃついてくれたんは麻友やった。
「あんな事故目の前にして、気持ちが入らないんでしょ?」
 見透かした上で寄り添うてくれた。美枝とゆかりも気ぃついたみたいやったけど、こういう時は大人数でゴチャゴチャ言うよりは、訳の分かったもんが一人で相手にするほうがええと、二人きりにしてくれた。

 ありがたかった。

 試験中やから、レッスンまでには4時間ほどある。一人で勉強なんかできる状態やなかったんで、うちは助かった。
 麻友いうのは、ブラジルからの帰国子女。見た目はうりざね顔のベッピンさん。それが中身はコテコテのラテン系。この子のお蔭で、文化祭ではリオのカーニバルをやることになってる。プールで着替える時も、クルリとスッポンポンになって、鏡で自分の体を点検してから、チャッチャっと着替える。最初のプールで、真っ先にプールに飛び込んでガンダムに怒られもした。せやけど、事故で顔に怪我した宇賀先生には、真っ先に労りの声をかけてた。
 もう、転校してきてから一か月になるけど、うまいこと馴染んでる。

「だから、ここは、この公式をそのまま使って。そのあとは、ただの応用。試しに、この三番目の問題やってごらんよ」
 麻友は、数学オンチのあたしに噛んで含めるように教えてくれる。
「なるほどね、こういうアプローチの仕方があったんやな……」
「うん、よしよし。ま、これで70点は固いよ。あとは……」
「あ、あかんレッスンの時間や!」
 何気にみた教室の時計がタイムリミットを指していた。うちは良くも悪くも反応が早い。脳みそが働く前に体が反射する。
「どうも長い時間おおきに!」
 机の上のあれこれを鞄に突っ込んで、立ち上がった拍子に麻友の鞄を蹴飛ばしてしもた。勢いで鞄の中身が床に散らばった。
「あ、カンニン!」
 急いで、飛び散った中身を拾い集める。二つ折りの定期入れが開いてた。

 その開かれたとこに、麻友によく似た、日焼けした男の子が白い歯で笑ってる写真が入ってるのが見えた。

「あ、い、いいよ。自分でやるから。アスカ時間でしょ。急いで!」
 麻友が珍しく動揺して言った。で、うちの興味津々なスケベエ根性を急いでなだめるように言った。
「これ、一つ年上の兄き……ただ、それだけ」

 ただ、それだけやないのは、逆に、よう分かったけど。触れられたないのも、それ以上に分かった。

 で、それ以上にレッスンに遅刻しそうなんで「ほんまごめんね!」を背中で言いながら、うちは駅に急いだ……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小悪魔マユの魔法日記・37『フェアリーテール・11』

2019-09-18 06:21:44 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・37
『フェアリーテール・11』 


 
「約束だったでしょ。白雪姫の件が片づいたら話してくれるって」
「……覚えていてくれたの?」

「悪魔の記憶力は、神さまよりもいいの」
 分かれ道の奥まったところに、ころあいの日だまりを見つけ、魔法で小さなベンチを出して二人で掛けた。

「うれしいわ、覚えていてくれて……みんな、白雪さんのことに有頂天になって、わたしのことなんか忘れてしまったみたいだったから」
「だからさ、赤ずきんちゃん……」
「あの……」
「なあに?」
「本題に入る前に、はっきりさせておきたいんだけど……」
「なによ?」
「わたしたちって、著作権が切れてるから、いいって言えばいいんだけどね……でも、やっぱ」
「やっぱ、なんなのよ!?」
「夕べも言ったと思うんだけど、わたし、アンパンマンのキャラじゃないの」
「は……?」
「だから……」
「はっきりしなさいよ。天下の赤ずきんちゃんでしょうが!」
「ほら、また……」
 
 赤ずきんは、ため息をついて、うつむいてしまった。

「わたし、赤ドキンじゃないの……赤ずきん」
「え……まだ、そんなふうに聞こえるの?」
「う、うん」
「わたし、ちゃんと赤ずきんちゃんて言ってるわよ。ほら、今だってそうだし、三行前も、その前のト書きだって、六行前だって、この37章になってから、五回出てくるけど、ちゃんと赤ずきんになってるよ」

 マユは、携帯魔法端末を出して、37章の今までの分を見せた。

「ほんとだ……でも、わたしには赤ドキンて聞こえる」
「……これも、この世界のゆがみのせいかなあ」
「じゃないかな。白雪さんは、マユちゃんが、なんとかしてくれたけど、まだ他のゆがみは残ったまま」
「そうね、さっきも眠っているはずの眠れる森の美女も、起きてきていたし」
「わたしも先週までは、十歳の女の子だったのよ」
「いまは……どう見ても十七歳……どこ見てんの?」
「あ、ごめんなさい……かたちのいい胸をしてるなって思って」
 マユは、頬を染めて胸を隠した。
「どうせ、わたしはBカップよ。あなたのCカップには見劣りしますよ!」
「わたしDカップ……あ、そんなつもりじゃないのよ」
「ま、ま、いいけどね。本題よ、本題。赤ずきんちゃんが、そんなになったのは先週?」
「うん。正確には六日前……猟師さんに助けられた明くる日」
「ああ、狼におばあさんといっしょに食べられて、猟師さんが狼のお腹を切って助けてくれたんだよね」
「うん……その明くる朝、目が覚めたら、こうなってたの。最初はうれしかった、急にオネエサンになれたみたいで。次ぎに心配になったわ。ひょっとしたら、一日ごとに歳をとって、一週間もしたら、お婆ちゃんより年寄りになってしまうんじゃないかって」
「でも、そうはならなかった……」
「うん、明くる日も、その次の日も、起きてみたら変化はなかったわ」
「だったらさ、なんで、そんなにたそがれてるわけ?」
「四日目にね……」

 赤ずきんが、後を続けようとしたとき、後ろの分かれ道で人の気配がした。

――やあ、ここにいたのか!?――

 気配が口をきいた……。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする