ほんのちょっとしたことで歴史は変わる。
大げさやけど、そういう感じ。
図書委員の子が足を怪我してなかったら、自分で書架に本を仕舞いに行くことは無かった。
あそこでXとYの話を聞いてなかったら、本を仕舞っておしまい。
スマホの映像と音声が、もっとクリアーやったら、本の間に首突っ込んで、しっかり確認しようとはせーへんかった。
あれでバランスを崩して書架ごと倒れてXのスマホはオシャカになった。オシャカになったから、エアコン騒動はSNSに流れることもなく。みんなの記憶から消えて行こうとしている。
SNSに流れてたら、新潟の中学校みたいに新聞やらテレビに流れて大騒ぎになってた。
もし、書架が倒れんと、XとYの悪だくみに気づいたら……わたしは、どないしたやろ?
止めに入ったやろか? 先生に言いに行ったやろか? それとも知らんふり?
「悶々と悩んでただろうね」
体育祭の学年別の練習の真っ最中。男子の組体操の練習が長引いて、女子は体育座りして待たされてる。先生らも組体操の警戒(なんせ怪我されたら、それこそマスコミの餌食)で、待機してる女子はほったらかし。せやから、あちこちでお喋りしてる。あたしは留美ちゃんと並んで、こないだの図書室事件を話してるわけ。
「悶々と悩むなんて、桜らしくないから、あれでよかったんだよ」
「そっかなあ」
「そだよ。わたしも、表ざたとかになって注目されたりなんてやだったから。運命とかには感謝だよ……」
喋りながら留美ちゃんは地面に『の』の字を書いてる。なんや、そこはかとなく可愛らしい。
「もし、頼子さんがヤマセンブルグの正式な王位継承者になったら、わたしも桜も王女殿下のご学友だよ」
「ご学友って、うちら学年二個下やけど」
「後輩のご学友って、言葉が長いじゃない。きっと、ご学友ってことになる」
「そ、そうなんかなあ(^_^;)」
「インタビューとか受けたり、戴冠式には呼ばれたりしてさ、うん、そういう引き立て役てか、脇役ならなってもいいなあ」
「戴冠式とかやったら、ドレスコード(夏季合宿で覚えた言葉)とかあるでしょ、うわー、どないしょ。あたし、ぜったいフォーマルな服なんか似合わへんわ!」
「その時はさ、二人で、お揃いのにしようよ」
「あ、その方が安なるか!?」
「アハハ、まあね」
取り留めない話をしてると――女子は着替えて解散――と先生が宣言した。
男子がドンクサイのと、安全を期すために、男子全員居残り練習ということになる。
「え、教室いかへんのん?」
着替えは教室やのに、留美ちゃんは校舎裏の方に行こうとしてる。
「うん、ちょっと日常を踏み外して、運命を変えてみよう!」
留美ちゃんにしては大胆なことを言う。さっき、あんなことを話したからやろなあ。
ま、踏み外すと言うても、校舎の裏側を通ると言うだけの話。
「そやね、大回りしてる間に飛行機が落ちてきて、クラスで助かるのは、あたしと留美ちゃんだけになるとか」
「そうね、こっそり校舎裏に現れた宇宙人に出会うとか」
アホなこと言いながら校舎の裏に。
飛行機が落ちてくることも、宇宙人に出くわすことも無かった。
けども、どこから入って来よったんか、子猫がおった!