ハナちゃん、おかえりなさい(^▽^)/
わたしがわたしに挨拶した……。
「あ……えと……」
これが幽霊やったら「キャーーー!」とか「ギョエ!」とか叫び声が出る。
まるっきり知らん顔やったら「ごめん、どちらさん?」とか、多少気まずくても声が掛けられる。
それが、まるっきりの自分、酒井花ときてるから、反応のしようがない。
ドキドキするわけでも、冷や汗が流れるわけでもなく、ただただ、真っ白。
六年の時に、算数のテストやと思てたら、配られたのが国語やったみたいな? 答案返してもろたら100点で、ヤッター思たら人の答案やったみたいな? プールの授業が終わって着替えてたら、間違うてAさんがうちのパンツ穿いたのを見た時みたいな? 一瞬どないしてええか分からん状態。
いや、その何十倍もごっついやつ。
ラノベで読んだゲシュタルト崩壊いうやつやろか、ゲームでいうバグとかフリーズとかいう状態!
「ハナちゃん……?」
「だれ……?」
かろうじて一言発すると、今度は、むこうのわたしが「え? え?」いう顔になった。
「だれやのん?」
「え、いや、うちやんか、うち、法子」
「……のりちゃん?」
「うん、さくらちゃんおらんよって、寂しいて寂しいて」
その仕草で、ピンときた!
この子は幽霊ののりちゃんや! ほら、佐伯のお婆ちゃん。この本堂でお葬式やったあと、なんでか中学校の時の姿で出てきて、わたしのお念仏が間に合わんで記憶喪失になってしもた幽霊さん。
そうか……幽霊としてのアイデンティティーを失った状態やったんで、わたしがおらへん寂しさで……。
「ちょっと、そこの鏡見てごらん」
「え、鏡?」
素直に鏡に向き合うのりちゃんやけど、幽霊の悲しさ鏡には映らへん。
「え、ほんまにさくらちゃんの姿になってんのんわたし?」
「うん、ほんまにソックリ。ほら、横に立っても、身長とか、肩幅とかいっしょでしょ」
「そやけど」
「ちょっと、手ぇ見せて!」
「う、うん……」
出した手の平を目の高さに持ってくる。
「あれ、いっしょやと思たんやけど」
そっくりやから、手相までいっしょやと思たんやけど、ちょと違う。
「右手と左手比べてもしゃあないんちゃう?」
「あ、そか(^_^;)」
改めて、右手どうしを比べる。
「「同じやあ……いっしょやいっしょや!」」
なんか嬉しなってきて、手を取り合ってピョンピョン跳んだ。
今年の秋は、へんなぐあいに始まった。