大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・060『そっくりさんの正体』

2019-09-03 13:55:22 | ノベル
せやさかい・060
『そっくりさんの正体』 

 

 

 

 ハナちゃん、おかえりなさい(^▽^)/

 わたしがわたしに挨拶した……。

「あ……えと……」

 これが幽霊やったら「キャーーー!」とか「ギョエ!」とか叫び声が出る。

 まるっきり知らん顔やったら「ごめん、どちらさん?」とか、多少気まずくても声が掛けられる。

 それが、まるっきりの自分、酒井花ときてるから、反応のしようがない。

 ドキドキするわけでも、冷や汗が流れるわけでもなく、ただただ、真っ白。

 六年の時に、算数のテストやと思てたら、配られたのが国語やったみたいな? 答案返してもろたら100点で、ヤッター思たら人の答案やったみたいな? プールの授業が終わって着替えてたら、間違うてAさんがうちのパンツ穿いたのを見た時みたいな?  一瞬どないしてええか分からん状態。

 いや、その何十倍もごっついやつ。

 ラノベで読んだゲシュタルト崩壊いうやつやろか、ゲームでいうバグとかフリーズとかいう状態!

「ハナちゃん……?」

「だれ……?」

 かろうじて一言発すると、今度は、むこうのわたしが「え? え?」いう顔になった。

「だれやのん?」

「え、いや、うちやんか、うち、法子」

「……のりちゃん?」

「うん、さくらちゃんおらんよって、寂しいて寂しいて」

 その仕草で、ピンときた!

 この子は幽霊ののりちゃんや! ほら、佐伯のお婆ちゃん。この本堂でお葬式やったあと、なんでか中学校の時の姿で出てきて、わたしのお念仏が間に合わんで記憶喪失になってしもた幽霊さん。

 そうか……幽霊としてのアイデンティティーを失った状態やったんで、わたしがおらへん寂しさで……。

「ちょっと、そこの鏡見てごらん」

「え、鏡?」

 素直に鏡に向き合うのりちゃんやけど、幽霊の悲しさ鏡には映らへん。

「え、ほんまにさくらちゃんの姿になってんのんわたし?」

「うん、ほんまにソックリ。ほら、横に立っても、身長とか、肩幅とかいっしょでしょ」

「そやけど」

「ちょっと、手ぇ見せて!」

「う、うん……」

 出した手の平を目の高さに持ってくる。

「あれ、いっしょやと思たんやけど」

 そっくりやから、手相までいっしょやと思たんやけど、ちょと違う。

「右手と左手比べてもしゃあないんちゃう?」

「あ、そか(^_^;)」

 改めて、右手どうしを比べる。

「「同じやあ……いっしょやいっしょや!」」

 

 なんか嬉しなってきて、手を取り合ってピョンピョン跳んだ。

 

 今年の秋は、へんなぐあいに始まった。

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かぐや姫物語・5Преступление и наказание・罪と罰

2019-09-03 06:35:53 | ライトノベルベスト
かぐや姫物語・5 
Преступление и наказание・罪と罰


 
――立川姫子さん、AKR合格の感想を!――

 雑誌社の電話が最初だった。
「え、うそ……!」
 というのが、姫子の答の第一声だった。

 たしかにAKRから郵便は来た。ただA4の書類が一枚だった。
――この度は……――
 この四文字を見ただけで、姫子は不合格と思い、丸めて屑籠に放り込んだ。

 合格の知らせなら、その後の手続きや、スケジュールなどについて書かれた書類が一杯同封されていると思ったからだ。姫子は受話器を肩と首の間に挟んだまま、屑籠をひっくり返した。
「ありました……うそ、本当に合格してる!」
――ハハ、だから電話させていただきました――

 合格通知には、次に事務所に来る日時しか書いていない。学校や役所のような無駄なことはしないようだ。

 雑誌社にはどう答えたか覚えていなかったが、その後電話どころか、テレビや新聞の取材まで来た。
『かぐや姫、AKRに入る!』
 そんな見出しで、マスコミには騒がれた。
 明くる日には、まだ正式に研究生になったわけでもないのに、AKRの代表光ミツル会長とともに、テレビのバラエティーにまで引っぱり出された。

「あそこまで、めちゃくちゃに言って、受かるとは思いませんでした!」

 MCの兄ちゃんの質問には、ごく素直な答が出た。それだけでスタジオは笑いに包まれた。
「この子の表現力と、地元商店街への愛情が決めてでした」
 光会長も端的に、決定理由を言った。
「もう少し、具体的に言っていただければ、どういうことになるんでしょうか?」
「この子、見た目には可愛くないんです。こちらも、ありきたりの可愛さは求めてないんです。でも、自己主張しはじめると、光るんですね。筋も通ってるし、圧倒する力があります。で、圧倒しながらもチャーミングなんですわ。まあ、あの演説は再現できんでしょうから、審査の時の課題曲やらせてみましょう。姫子、審査の時のままやってみ」

 で、いきなり課題曲のイントロが流れ出した。姫子は、マイクを手渡されると、ごく自然にADの指示なんか無視し、スタジオの真ん中に向かいアドリブで踊って、歌い出した。

 スタジオが、どよめいた。

「姫子、今の、うちの曲じゃなくってAKBの曲だって忘れてるだろ?」
「え、そうだったんですか!?」
「ちょっと、仕掛けてみたんですよ。演説だけじゃメンバーにできませんからね。商売敵のAKBをかけたら、どうするかと思って。で、今みたいに見事にやってのけました。普通AKRの審査でAKBの曲が流れたら動揺しますでしょ。ところが、こいつは、そうじゃない。気づきもしないでヌケヌケとやってしまいました」
「え、あ、いや、どうしよう、あたし……!?」
 スタジオは爆笑に包まれた。
「そういう大きなとこで抜けてるのが、一番気に入ってる」
 会長が締めくくった。

 実は、AKRの親会社の意向とも一致していた。ショッピングモールを作って、地元の商店街に圧力になるという姿勢を取りたくなかったのである。そこに、当の商店街の家具屋の娘がAKRに入れば、話題性も、商店街との親和性もできる。ただ、光会長は親会社の意向などには頓着していなかった。

 ただ姫子は面白い。そういう理由で合格させた。

 姫子の頭に、またまた宇宙飛行士の姿が浮かんだ……。
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高安女子高生物語・76〔今は人生の何時間目?〕

2019-09-03 06:19:27 | ノベル2
高安女子高生物語・76
〔今は人生の何時間目?〕
        


 

 学校というものに十年通てる、あんまり感動したことはない。

 それが、今日はプチ感動してしもた。
「今日は、全国的に木曜日。それも今は5時間目の体育や。人生を月曜から金曜の5日間に分けたら、この5時間目は何歳ぐらいになる?」
 五時間目の体育の授業の最初に、わが担任で体育教師のガンダムが遠い目をして、そない聞いてきた。一瞬みんなが考えて新島君が答えた。
「おおよそ、60過ぎというところです」
「根拠は?」
「日本人の平均寿命は、約83歳です。それを5で割ると……16・6歳になります。それに4を掛けると……66・4歳になります。そこから残りの6時間目を引くと、だいたい60過ぎになります」
 新島君の暗算力に、ちょっとしたどよめきが起こった。
「よう計算した。しかし、新島の説明にケチつけるわけやないけど、朝のショート、授業の間と昼休みの休憩、放課後の時間入れると、ちょっと変わってくるやろなあ」
「それは、誤差の範囲です……ちゃいますか?」
 新島君が堂々の、いや、ちょっと遠慮気味の反論。
「数学的には、そやけどな、人間は、この誤差の中にいろんなドラマがある。こうやって変則的に男女合同の体育してんのんも、昼休みグラウンドの用意してはった宇賀先生が飛んできたカラーコーンが顔に当たって怪我しはったからや」

 噂はたってた。
 石灰の線引きでグラウンドのコースを引いてたら、今日の強い風で、カラーコーンが飛んできて当たって怪我しはったて。

 せやけど、まさか顔やとは思わへんかった。
 宇賀先生は学校では珍しい二十代のベッピンの先生。学生時代は陸上で槍投げの名選手で、オリンピックの候補にもなりかけたけど、肩を痛めてオリンピックには行き損ねた。歳が近いこともあって、うちらには、ちょっと眩しいけど憧れの存在やった。
「おまえらは、人生の……もう月曜日ではないな、新島?」
「はい、火曜の……ショートホームルーム……は8時30分やから、必死で教室目指して走ってるとこです」
 瞬間笑いが起こった。遅刻しすぎて早朝登校指導になってる子が何人かおったから。
「せやな、まだ授業も始まってない。まだサラッピンの火・水・木が残っとる。月曜の失敗ぐらいは、なんぼでも取り戻せる。セブンチーンいうのは、ええ歳や。そのセブンチーンを無駄にせんためにも、来週の懇談は、非常に大事なもんになる。まだ懇談の日程が決まってないやつは、麗しい人生の火曜日にするために、しっかりお家の人と相談して報告しにこい。なあ佐藤以下三人」

 あ……忘れてた。うちは両親とも現役リタイアした人やから「いつでもええで」言われて、それっきりになってた。空いてる日にちと時間見て早う返事しとこ。
「今日は風が強いよって、グラウンドは使用せえへん。最後にちょっと体動かすけど、それまで、もうちょっと話しよ。おまえら残りの火・水・木、どない過ごすつもりや?」
 みんなで、ひそひそ相談。で先生が聞いたら火曜の午前中は大学いうことで、ほとんど意見が一致した。
「うん、まあええやろ。せやけど、大学なんてすぐに来るのんは分かったな。そんで、火曜の6時間目くらいには結婚せなあかん。忙しいて、授業どころやあらへんなあ!」
 みんなが一斉に笑った。
 
 うちはチラッと美枝を見た。美枝は、もう6時間目を現実のものにしようとしてる。麻友の視線を感じた。これまで見たことのない怖い顔してる。アイドルみたいに明るうてかいらしいて、頭のええ子だけと思てたけど、当たり前に考えても、ブラジルから日本にこならあかんかったことには人に言えん事情があるんやろし、数年後には国籍いう、うちらには思いもつかん選択を迫られる。
 ちなみに、新島君とは新新コンビと言われ始めてるけど、成績と頭の回転と苗字の頭だけで、カップルとして認知されてるわけやないので、念のため。

「さあ、ほんならラスト。体育館のフロアーを5周走る。4班に分ける。急がんでもええ、人生感じながら走ってみい」

 ランニングに人生を感じたのは初めてやった。自分で走って、人の走りを見て、みんな、それぞれ感慨深げやった。

 放課後になって、聞いた。宇賀先生の顔の傷は一生残るかもしれへん。で、怪我は生徒を庇ったからやったことを……。
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須之内写真館・48『赤いスィートピー・2』

2019-09-03 06:08:51 | 小説・2
須之内写真館・48
いスィートピー・2』       


 
 やっぱりこの子だ。

 だって、目の前で、U高校の制服を着てつり上げた目は、卒業式の日に、杏奈に見とがめられて、卒業生総代になりすましてバレたときのそれだからである。
 おまけに、その伊達玲奈にそっくりの母親までがくっついている。
「ああ、U高校の卒業式で……あの時の伊達さんですか?」
「なんで、あなたが知っているんですか!?」
 本人は驚き、母親はいろめきだった。
「うち、U高校の公式写真を承っておりますので、式場におりましたので」
「じゃ、U高校と示し合わせての嫌がらせなんですか!?」

 母娘が、持ち込んで文句を言っているのは先日老婦人に頼まれて撮って送った写真と、スイートピーの絵だった。

「だって、そうでしょう。あんな子どもらしい悪戯に目くじら立てて卒業延期にして、それに抗議した直後ですよ!」
「あれ、抗議したんですか?」
 直美は、正直開いた口がしまらなかった。
「うちの母は、二年前に亡くなっているんです。こんなことができるわけがないじゃありませんか!?」
「ああ、そうだったんですか……」
「そうだったんですかとは、なんですか!」
「あ、言葉足らずですみません。写真屋をやっていますと、時々こういうことがあるんです」
「え……?」

 母娘は同様に驚いた。

「妙なものが写り混んだり、あり得ない状況で写真を撮らされたり」
 そこにお祖父ちゃんの玄蔵が入ってきた。
「この防犯カメラの映像を見てください。日付は、撮影日の2月28日になっていますでしょ」
「こ、こんなボケた映像じゃ……」
「これは失礼。解像度を上げてアングルを変えましょう」
 カメラが老婦人の正面を向き、解像度が750Pに上がった。

「お、お祖母ちゃんだ……!」
 玲奈が、初めて口を開いた。
「バカな事を言うんじゃないの!」
「だって、このコサージュ、お祖母ちゃんのお棺に入れたのといっしょだもん」

 ほう、このわがまま娘にもいいところがあるじゃん。と、直美は思った。

「確かだよ。入学の時にもらったんだけど、ダサイんで、お棺に入れたんだから」
「それは惜しいことをなさいましたね。19世紀のフランス製で、捨て値でも20万はいたしますよ」

「え、ほんと!?」

「ええ、仕事柄、こういうことには目がいってしまいますので……」
「ま、とにかく、赤いスイートピーは『門出』のお祝いです。何かの奇跡と思って大事にされてはいかがですか」
 玄蔵がまとめ掛けると、花屋がやってきた。

「須之内直美さんに、伊達公子さんからです」

 それは温室で育てた赤いスイートピーの花束だった。
「伊達公子は、うちの母です!」
「ああ、この人ですよ。服装もいっしょ。あ、コサージュを落としていかれて……これなんですが」
「あ、あのコサージュ!」
「母は、まだ近くに!?」
「駅の方に……お年寄りの足だから、まだ、そんなに遠くには行ってらっしゃらないと思いますよ」
「……お祖母ちゃん!」
「玲奈!」

 母娘は、店を飛び出して、駅に向かった。少しは伝わったのかも知れない。

 赤いスイートピーは、お祖父ちゃんの手入れが良かったのか、店の前の梅が満開になるまで持った。まるで、何事かを梅の花に伝えるように……。
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小悪魔マユの魔法日記・22『知井子の悩み・12』

2019-09-03 05:57:56 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・22
『知井子の悩み・12』


 
「ちょっと待った」

 審査員席の一番後ろの冴えないオジサンが手をあげた。
 マユには分かっていた、朝、会場前の掃除をやっていたオジサンだけど、この人が一番エライ人だってこと。
「会長……」
 名目上の審査委員長は、困ったような顔になった。
「ここにいる全員を合格にする。いいな、黒羽くんも」
 ガチ袋を下げて、隣りにいた黒羽さんをうながした。
「はい、けっこうです」
 すると、貧弱なオジサンは、ステージの前まで来ると、マイクも使わずにしゃべり出した。意外に響きのある、いい声だった。
「まず、名乗っておこう。わたしがHIKARIプロの総責任者の光ミツル。本名は田中米造っちゅう、見かけ通りの冴えないおっさんだがね」
――ああ!?
 会場の何人かの女の子が声をあげた。
 マユは、頭の中にある悪魔辞書を検索……するまでもなかった。声をあげた女の子の思念が飛び込んできた。
 光ミツル――1960年代の後半にデビューした、ポップス界異色の新人。フォークソングのシンガーソングライターとして名を馳せるが、フォークソングが政治的、思想的傾向を持つことに反感。新宿フォークゲリラの主席などと言われ、田中のヨネさんで通っていたが、ある日忽然と姿を消した。数か月後、鳴り物入りで歌謡界にデビュー。芸名も光ミツルと、あえて通俗的なものにして、ポップス界の寵児になった。80年代に入ると、人気の絶頂で現役を引退。以後HIKARIプロを立ち上げ、多くのアイドルを生んだ。そして、黒羽さんのような名プロディユーサーも育て、今世紀になって間もなく経営の第一線からも身を引き、今は、その姿を知るものは、芸能界でも少なくなってきた。

――影のフィクサーってわけね。

 その影のフィクサーが、思い切ったことを言った。
「ここにいる48人全員を合格とする」
――ええ……!?
 審査員席が、フロアーの女の子たちと同様に声をあげた。
「相対評価では、確かに発表された16人が優れている。しかし、残りの32人の子たちも絶対評価では水準を超えている。このまま、帰すのは惜しい」
「しかし、会長……」
 社長とおぼしきオジサンが発言しかけた。
「まあ、年寄りの道楽と思ってくれ。あと、黒羽君たのむよ」
 光のオジサンは、引っ込んでしまった。
「じゃ、あとは、わたしが」
 黒羽さんが、ガチ袋を外して、ステージの前に出てきた。
「我々は、新しいポップスユニットの形を模索してきました。ほぼ一年かけて構想を練ってきました。我々もプロです。その構想には自信があります」
「そ、そうだ!」
 社長が声を荒げた。
「しかし、そのプロ意識と自信に縛られてはいないだろうか……これが会長とわたしが引っかかった点です。ここにいる48人は、みんなステキな子たちです。全員をチームとしてしごきます。で、定期的に選抜メンバーを選考します。取りあえずは、先ほど発表した16人の人たちに選抜メンバーになってもらいます」
 16人分の歓声があがった。
「チームリーダーは浅野拓美さん。サブを大石クララさんとします」
 拓美は固まってしまった。一瞬の間があって、みんなの拍手。そして拓美の目から涙が雫になって落ちてきた。
 その涙をみんなは嬉し涙と思ったが、その真実を知っているのはマユ一人であった……。
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