大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・074『M資金・9 消しゴムが床に落ちるまで・6』

2019-09-17 15:28:18 | 小説

魔法少女マヂカ・074  

 
『M資金・9 消しゴムが床に落ちるまで・6』語り手:マヂカ 

 

 

 ポトン コロ コロ コロ ……

 

 消しゴムが教室の床に落ちて転がった。

 富士山頂のカルデラに飛び込んで、ロシアの核シェルターにワープ、ツェサレーヴィチと死闘を繰り広げていた。

 バルチック魔法少女隊ツェサレーヴィチとの戦いは凄惨だった。亜世界のシェルターは、あたかも巨大な蟻の巣。縦横無尽、神出鬼没に現れるツェサレーヴィチは難敵だった。切っても死なないどころか、切ったところから再生して数が増えてしまう。

 苦闘の末に、ひたすら刺突攻撃すれば分裂させないで撃破できることが分かったが、接近戦では、必ず一刀両断に斬撃してしまうブリンダは苦労していた。

 辛くもの勝利だった。

 あと一歩でM資金を回収できるところまで追いつめたが、金のインゴット二本を取り返しただけで終わってしまった。

 

 あれだけの戦いが、消しゴムが机から床に落ちるまでの間に起こった。

 

「疲れてるね」

 消しゴムを拾った立石さんと目が合って慰められる。

「アハハ、暑いの弱くって(;^_^)」と誤魔化しておく。

 やっと授業が終わって、ノロノロと立ち上がると、「ちょっと待って」と立石さん。

「気休めだけど……」

 冷えピタもらった。「ありがとう!」と感激して、すぐさまオデコに貼り付ける。こういうのは、ウィットとかギャグの問題だから、すぐに反応して笑いに転嫁。

「あー、おっしゃれえ!」目ざとく見つけたノンコが冷やかす。「風邪ひいたの?」友里が心配顔、すると「保健室行ったほうが……」と清美が迫って来る。

 気が付けば四時間目の終わりで「だいじょぶだいじょぶ」とごまかし、四人揃って食堂に向かう。

 三人は特務師団の隊員で高機動車北斗の乗員だけど、任務の時にしか隊員としての意識がない。北斗も予算不足で動かせない状況では、ただのクラスメートだ。

 バルチック魔法少女隊の話とかしたいけど、自覚のない状態では無理だ。

 切り替えろマヂカ、今はポリ高2年B組の生徒で調理研の渡辺真智香だ。新しいメニューとか食材を考えよう……と思っても、M資金やバルチック魔法少女隊のことが頭をグルグルする。マヂで切り替えなきゃ……階段を下りて廊下を抜ければ食堂というところで声をかけられた。

「真智香、飯食ったら職員室来て。いろいろ相談あるから」

 タンクトップの襟元をパカパカさせながら、安倍先生。あたしたちは? という三人。

「暑いからさ、一人づつ。とりあえず、今日は真智香。じゃね……」

 この人だけが、素の時と特務師団の時とに意識のずれが無い。

 開き直ると、学食のランチも美味しく、A定食とラーメンをがっつり頂いた魔法少女マヂカであった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小悪魔マユの魔法日記・36『フェアリーテール・10』

2019-09-17 06:49:11 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・36
『フェアリーテール・10』  



 ドアーフたちは、朝の八時には小屋を出て行ってしまった。
 
 
 いつもなら、白雪姫の棺の番をするために一人が残るのだけれども、今朝はエルフの王女レミと、小悪魔のマユ、それに、赤ずきんがいるので、みんなで「ハイホー」を唄いながら、揃って行ってしまったのだ。

 今朝は勝負の朝だ。
 
 くちびるを白雪姫と取り替えた赤ずきんが、白雪姫の服を着て、白雪姫の声で唄いながら、庭のお花に水をやっている。念のため白雪姫の棺には白いベールが被せてある。万が一、アニマ王子が白雪姫に目を奪われないための用心。

 しかし、その用心は必要ではなかった。九時前に森の小道にさしかかったアニマ王子は、歌声にひかれて、ゆっくりとドアーフたちの庭に入ってきた。ちょうど九時。
「きみは……」
「はい……」
 王子と、赤ずきんの目が合った。
 王子の目は、一瞬戸惑った。かわいいという共通点はあるものの、白雪姫とは別人である。しかし、くちびるを中心に感じるオーラは、白雪姫そのものである。

 赤ずきんも、その一途な想いをたたえた目には惹かれるものがあった……赤ずきんの元カレと同じ切ない想いを感じた。
 赤ずきんは、そっと目を閉じた。王子の気配が、だんだん近づいてくる……。

 そして、二人のくちびるが重なった……!

 赤ずきんは、くちびるになんの感触も感じなかった。だって、くちびるは白雪姫のそれだから。
 でも、王子の熱は感じた。
 元カレのそれとは違うけれど、思いの丈は同じ。赤ずきんの閉じた目から、涙が一筋流れ落ちた。

 小やぶに隠れていたマユは、急いでスマホ型携帯魔法端末を操作して、くちびるを入れ替えた。
 すると、白いベールがフンワリ飛んでいき、棺のガラスの蓋が開き、自分のくちびるにもどった白雪姫が、ゆっくりと起きあがった。

「アニマ王子さま……」

 そうして、めでたく、アニマ王子と白雪姫はむすばれた。

 その様子は、レミがビデオに撮って、ファンタジーの世界にライブで流され、山で仕事にとりかかろうとしていたドアーフたちも、ファンタジーの世界のキャラたちも集まった。もう、グリムもアンデルセンもディズニーも宮崎アニメもへったくれもなしに集まり、二人の幸せを祝いまくった。中には、刺激を受けて目を覚ました眠れる森の美女の王女さままでやってきて、「わたしの王子さまは!?」と叫び、その間の良さにみんなは暖かい拍手で応えた。
 後日談ではあるが、「わたしの王子さまは!?」というのは、その年、ファンタジーの世界の流行語大賞にもなり、あくる年の春には、眠れる森の美女の王女さまにも、めでたく王子さまの婚約者ができた。

 しかし、マユ一人、他のキャラに気を取られていた。
 
 そう、赤ずきんである。

 赤ずきんは、くちびるを入れ替えたとたんに、使い捨てられた赤ぞうきんほどにも意識されなくなった。
 赤ずきんは、小屋にもどるとそっと、服を着替えた。
 そして赤ずきんの衣装にもどって、お祝いの輪を避けるようにして、その場を去ろうとした。
 あんまりの人だかりで、当たり前なら十秒ほどで出て行ける庭を出るのに五分もかかってしまった。
「ちょっと、すみません……ごめんなさい」
 まるで東京ドームのAKBのライブの人混みをかき分けるような状態。
 目立つ赤いコスの赤ずきんだけれども、だれも、街角の郵便ポストが動いたほどにも関心を示さなかった。

 マユが、追いつけたのは、森の外れの分かれ道のところだった。

「よかった、ここで追いけて。ここ分かれ道だから、ここを過ぎたら、会えなかったかも……」

「なにかご用?」

 ふりかえった赤ずきんは、とても寂しげな笑顔だった……。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠・3 [旅立ちの時・1]

2019-09-17 06:40:45 | 小説6
宇宙戦艦三笠・3
 [旅立ちの時・1] 

 
 
 
「あ、ごめん。そのままの姿で連れてきちゃった!」

 お下げの神さまが、そう言って指を鳴らすと、オレたち四人は紺色の軍服姿に変わった。
 
「わ!」
「え!」
「お!」
「う!」

 
 四人四様の歓声をあげる。
 
 オレの網膜には美奈穂の白い裸が強烈に焼き付いたので、数秒ダブって見えた。で、記憶に間違いがなければ、四人の軍服は戦艦三笠を観に行った時にお目にかかった旧帝国海軍のそれだ。襟元の階級章は美奈穂と樟葉が中佐で、トシが少佐。自分のは……指で触ると桜が三つ。大尉? 大佐?
 周りを見渡すと立派な応接室のようだけど、部屋全体が三角形で窓が丸い……記憶に間違いがなければ、これは三笠公園の戦艦三笠の司令長官室にそっくりだ。

「そう、戦艦三笠の司令長官室ですのよ……(#´ω`#)」

 お下げの神さまが、頬を染めながら言う。
 
「なんで、こんなところに?」
 
 質問しようとしたら、樟葉に先を越されてしまった。
 
「言ったでしょ。戦艦三笠に乗ってくださいって」
「いや、だから、どうして、どうやって戦艦三笠に……」
「地球を救ってもらうためです」
「地球を救う!?」
「地球は、氷河期を迎えようとしています。温暖化しているというのは国際的な利権がらみの大嘘です。これを見て……」
 神さまが指差すと、スクリーンが現れ、そこに南極大陸の白い姿が現れた。
「これは去年の冬の姿だけど、観測史上最大の氷面積になっています。で、これが北極。氷は完全に回復しています。そして、世界各国の近年の冬の様子……エジプトで雪が降っています」
「でも……これって、温暖化の前の特異現象……」
「そんなこと、まともに信じているのは、日本ぐらいのもの。二酸化炭素の排出権が利権化していることや、水資源の取り合いのための目くらましにすぎないわ」
「でも、二酸化炭素が気温を上げてるってのは世界の共通理解じゃないのか? そのための電気自動車とか再生エネルギーとか、レジ袋の有料化とかなんじゃ……」
「大気中に占める二酸化炭素濃度ってしってるかしら?」
「400PPMよ」
 樟葉が答える。やっぱブンケン一の優等生ではある。でも、400PPMってどのくらいなんだ?
「0.04%」
 今のは女神さんだ。さすがに樟葉もうる憶えだったようで――そ、そうか――という顔をしている。美奈穂は、俺同様0.04%の量が実感できていないし、トシに至っては二酸化炭素の意味も分かってるかどうか。
「1/2500よ。1リットルのペットボトルに1滴ぐらいの量よ」
「そんなに少ないの!?」
「ええ、その1滴の5%が人類による排出量で、日本の排出量は、さらに、その5%の7%に過ぎない。ハーって息を吐いて、その息に含まれてる水蒸気一粒くらいの量よ。こんなもの削減に努力したって誤差の範囲にも入らない。ガリレオのころの天動説のようにナンセンス。世界の心ある人々は寒冷化に気づきはじめている、やっと……でも、その寒冷化は人々の予測を超えて進み始めていて、その恐ろしさのために、あえて温暖化を信じて気を紛らわせてるっていうところです。あと100年もたたずに地球は氷河期に突入して、人類は滅亡する。恐竜が絶滅したように、ごく短時間で」
「で、なんで戦艦三笠なの?」
「地球を救うのは、日本の戦艦に決まっています」
「それって、ヤマトの専売特許じゃないの?」

「……現物で残っている日本の戦艦は、この三笠だけだから」

 そう言うと、神さまは四人に分身した。おそらくこの分身が、ブンケンのメンバーをそれぞれ連れてきたんだろう。
「船には、それぞれ船霊(ふなだま)がいるの」
「戦艦大和には大和神社(おおやまとじんじゃ)の大国魂神(おおくにたまのかみ)」
「戦艦長門には厳島神社」
「戦艦山城には賀茂神社」
「などの神社の神さまが分祀されていたわ」
「でも、船が沈む前に、船霊は、その船を離れてしまうの」
「で、唯一、わたしだけが三笠に留まっているわけ」

「では、あなたは……」

 樟葉の言葉で、分身していた神さまが一つになった。
 一つになっても、相変わらずセーラー服のお下げである。
「一応、天照大神(あまてらすおおみかみ)……でも、大そうに思ってくれなくていいのよ」
「それにしても、アマテラスさんがセーラー服の女子高生じゃなあ」
 と、オレが言うと、トシが初めて口をきいた。
「分かるよ。日本人の大方が、その程度にしか思ってないから、そんな姿なんだ……」
「あ、それはね、それはみんなに親しみ持ってもらいたいから……アハ、アハハハ」

 なんだか無理して笑っているような気がした。案外トシの一言は図星なのかもしれない。

「で、なんであたしたちなんですか?」
「それは、まあ、チュートリアルやりながら……」
 
 ドッガーーーーン!!

 その時、三笠のどこかに弾が当たったような衝撃がした!
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

物語・ダウンロード・6《125歳のサラリーマン・2》

2019-09-17 06:32:04 | ライトノベルベスト
物語・ダウンロード・6
《125歳のサラリーマン・2》
   


 
 着替えおわってマシンに接続するノラ。スパークと振動。

 おさまると、モーツアルト、カットアウト。ノラは清楚なフェリペ学園の女生徒になった……。

 表通りのカフェテリアへ。そっと、会長の背後に近寄り、後ろから目かくしをするノラ。

「 だーれだ!?」
「そんな作り声じゃ分からんよ、顔を見せてくれよ」
「だめだめ、当てなきゃ許してあげません」
「うーん。アケミ?……レイラ?……カルーセル?……ユキエ?」
「……それって、みんな銀座のオネエサンたちでしょ!」
「ハハハ、とっさに出てくるのは、そんなもんだ」
「……わ・た・し……最初からわかってた!?」
「社長や重役たちが無理矢理休めって……ハハハ、会社の玄関にも入れてもらえなかった。で、このカフェテリアで座って待ってろって……で、察しがついたよ」
「さすがお父さん!」

 幸子は子どものように勢いよく父の横に腰を下ろし、幸子の髪の香りが甘く沸き立った。

「しかし、幸子が来るとは思わなかったな。それも突然後ろから目かくしされるとは……小学校の入学式以来だな」
「うん……小学校の入学式でも、わたし、そうしたんだよ……お父さん仕事で、入学式も何もかも全部終わってから来たんだよね。お母さんに肩車してもらって、後ろから目かくし……その時のこと思い出したんだ……今日、何の日だか憶えてるよね?」
「そんな目で見るなよ……記念日か?」
「そうだよ」
「何だったけ?……春分の日?……サラダ記念日?」
「もう、結婚記念日だよ。九十九回目!」
「……だったかな」
「お母さんも昔のお家で待ってるよ。お料理いっぱいこしらえて。きっと、お父さんの好物のたこ酢とか」

 会長は立ち上がり、成田へ向かう飛行機を見上げた。飛行機は着陸のためギアを降ろし始めていた。

「少し歩こうか、弥生坂のあたりまで」
「うん。でも、大丈夫? お父さん百二十五歳だったのよね……フフフ、とてもそうは見えないけど……きっと、わたしとお母さんの分まで長生きしたんだよね……そう思うと嬉しい」
「……そうか」
「……フェリペの入学式は、お父さん、ついてきてくれたよね……この坂道の土手……ずうっと桜並木で……見とれてるうちに、お母さん、迷子になっちゃって……その日はお母さんのほうが遅刻……あのころは携帯電話もない時代だったから……」
「……いい時代だった」
「わたし、ちょっと背伸びしてフェリペにはいっちゃったでしょ。最初の中間テストで欠点三つ。二学期の期末テストで、ようやくとりもどして……」
「もういいよ……すまん。ちょっとツンとくるなあ」
「……そうだね」
「ほんとうに、すまん」
「お父さん、誤ることないよ。神戸に行きたいって言ったのは幸子の方なんだもん。北野の異人館が見たいって……まさか、あんな地震が……」

 会長は立ち止まってしまった。

「ああん、ごめん! こんな話しするつもりじゃなかったのに。幸子って、いつまでたってもおバカね……はい(ハンカチを差し出す)そんなに水分だしたら、ミイラになっちゃうよ。ちょと待ってて……」

 道ばたの自販機で缶コーヒーを買う幸子。

「アチチ、ハンカチ貸しちゃったから……ハハハ、ほんと、わたしってアトサキ考えないのよね」
「ハハハ……」
「もー、お父さんが笑うことないでしょ。はい、糖分控えめ」
「アトサキなんか考えない方がいいさ」
「そう? ああん、わたしにも、一口……お父さん……ハハハ、わたしもうつちゃった」

 父が差し出したハンカチで涙をぬぐう幸子。

「お母さんは、桜とか花水木(はなみずき)が好きだったけど。わたしは、こういう春の木漏れ日がいい……柔らかい光のシャワーみたいでしょ。ね……この坂を下りて曲がったところにドイツ人のおじさんがやってるケーキ屋さんがあるわ。そこでケーキでも買って……」
「何十年も前の話しだろう」
「 失礼ね。ちゃんと、今もあるのをチェックしてあります。マスターは四代目で、どこから見ても日本人なんだけど、名前はちゃんとヤコブさん。奥さん、フェリペの卒業生なんだよ。すごい美人。うん、わたしの次くらいに……」
「ハハハ」
「アハハハ、そいで、そのケーキ屋さんからはタクシー拾ってお家へ行こう。お父さん、元気そうに見えても、百二十五歳なんだもんね。お母さんの待ってる銀座九丁目に……どうしたの、疲れた?」

「……銀座は八丁目までしかない……八丁目のむこうは海だ」

「え…………だってわたしたちの家は九丁目のギンザシーサイド……でしょ。ベイエリアのマンションめっけて、お父さん、惚れ込んで買ったんだよ。バブルの最中だったから、それこそ億ションでさ、お母さん目を三角にして……でも、お父さん、飛ぶ鳥を落とす勢いだったから、即金で……朝起きると、目の高さにヨットのマストとかユリカモメとか……窓辺のリビングでお父さんと、ほら、ミンゴル2で勝負したのよ、憶えてる? お父さん十八番ホールでボギーたたいて、わたしが勝っちゃったの!」
「……あの時代にプレイステーションはまだなかったよ」
「え……?」

 弥生坂を吹く風が冷たく幸子のセミロングの髪をなぶっていった……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高安女子高生物語・90〔そういう訳やないねん……〕

2019-09-17 06:24:16 | ノベル2
高安女子高生物語・90
〔そういう訳やないねん……〕
        


 

 死者2重軽傷者8の大事故やった!

 あの時、うちの靴紐が切れへんかったら、確実に巻き込まれてた。亡くなった人は、うちらのすぐ前を歩いてたサラリーマンの人らやった。
 うちとカヨさんは、しばらく動かれへんかった。
 ほんのちょっとした運命のイタズラでうちらは助かった。ほんで目の前で血ぃ流して倒れてる人ら。
 警察を呼ぶ声! 救急車を呼ぶ声! 倒れてる人らを励ます声! あたりは騒然とした。

 ほんで、警察と救急車とマスコミが同時に来た……。

 あくる朝、お母さんに言われて気が付いた。10人も死傷者が出たんで、ニュースは全国ネットで流れた。なんとスンデのとこで巻き込まれそうになった代表みたいに、うちとカヨさんがニュースに出てたらしい。それもモザイクなしで。
 うちは覚えてへんかった。とにかく、足が震えて、その場を動かれへんとこに、なんや人が群がってきたぐらいの記憶しか無かった。
 けっこう喋ってた。事故や、事故前の様子。ほんで、自分らがMNB47の研究生やいうことを……。

「あんた、覚えてた!?」

 朝やけど、カヨさんに電話した。
「アスカ覚えてへんのん? 難波テレビのインタビュー受ける前に、事務所に電話して許可もろたん、あんたやで」
「おい、明日香、新聞の三面のトップやで『またしても脱法ハーブ危険運転の惨禍! MNBメンバー危うく難を逃れる!』

 そのあと、うちがやったことと思うたことは二つやった。

――あれ、助けてくれたん、正成のおっちゃん?――
――感謝せえよ……といいたいけど。わいにも分からん。出雲阿国ちゃんとちゃうかな?――
 で、カヨさんにメールで聞いたら「阿国さんも正成はんとちゃうかて」と返ってきた。偶然か、うちらの運の良さか……?

 ほんで、学校に着いてからが大変やった。

「そういう進路にかかわることは、早よ、担任に言え!」と、ガンダム。
「佐藤さんには幸運の女神さまが付いてるんやわ」宇賀先生は喜んでくれはったけど、先生の傷を思うたら複雑な気持ち。
「なんで、アスカは言わんのかなあ!」これは、美枝とゆかり。
「アスカ、アイドルだね。事故とスキャンダルはスターの条件だからね!」この変な励ましは麻友。

 みんなの質問に共通してたんは、なんでMNB47のこと黙ってたか。

「やっぱり、言うたらあかんことになってるんやろ?」
「明日香の奥ゆかしいとこやねんな!」
「もう、選抜になるねんやろ?」
 と、いろいろ言うてくる。

 そういうわけやない。

 ガンダムに進路選択迫られて、いろいろ体験入学やら申し込んでる中に、MNBがあっただけ。うちは、どうも人からズレてる。
 関根先輩からも「がんばってんねんな。今度のことは無事でなにより!」いうメールが来た。
 お礼のメールは打っといたけど、それだけ。
 今日は、うちの苦手なリズムのレッスンがある。

 タ タン タ タン タン タン………タ タン タ タン タン タン………ムズ!

 五拍子のリズムなんか、だれが作ったんや! そない思いながらも、歩きながらリズムをとる明日香やった……!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・真夏ダイアリー・12『スキャンダル!?』

2019-09-17 06:12:33 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・12 
『スキャンダル!?』    
 
 
 
 
 やがて、メンバーのみんなが現れ、リーダーのクララさんが目配せすると、あっと言う間に、わたしはメンバーの中に混ぜられて、バスに乗せられた……。
 
 黒羽さんというチーフディレクターの人が、バスガールみたいに立ち上がって、みんなに言った。 
「手短に言うよ。みんなも知ってるとおり、そこに居る冬野真夏さんと潤はそっくりだ。これについて、まず、潤、話して」 「びっくりするだろうけど聞いててね」 
 わたしに小さな声で言うと、潤はマイクを持って立ち上がった。みんなが潤を見るために体をひねった。 
「わたしと、真夏は、お母さんは違うけど姉妹なんです」 
 バスの中がざわめいた。わたしは心臓が口から飛び出しそうになった。 
「お父さんの名前がいっしょだったんで、お父さんに問いつめたら、そう答えてくれました」 
「それ……ほんと?」 
 潤は、黙ってうなずき、黒羽さんが後をつづけた。 
「マスコミは、こんなことすぐに嗅ぎつける。で、会長とも相談して、君たちにはあらかじめ知っておいてもらうことにした。そして知った上で、秘密にしてもらいたい。真夏さんは、あくまで潤のそっくりさん。そういうことで、了解してください」 「でも、いずれマスコミが嗅ぎつけるんじゃないですか?」 リーダーの大石クララが質問した。 
「ああ、でも真夏さんは、まだ何も知らないんだ。彼女の意思を尊重し、真夏さんが理解できて、気持ちが落ち着くまでは、伏せておきたい、いいね。AKRは仲間の心も、人の心も大切にする。いいね」 
「はい」 みんながいっせいに返事をした。 
「ほんと、おどかしてごめんね」潤は、事務所に着くまで、わたしの手を握っていてくれた……。
 
 事務所に着くと、わたしと潤の二人は応接室に入った。応接室は暖房が効いていて、良い香りのお香が焚かれている。 
 
「よかったら、今から会ってもらいたいの……お父さんと」 
 潤は、わたしと自分のブルゾンをハンガーに掛けながら聞いた。 
「これから……!?」 
「うん、これから」 
「お父さんには、会えない」 
「真夏……」 
「会いたくない。たとえ、会いたかったとしても、こんな気持ちの整理もなにもついてない状況じゃ会えない」 
「分かるわ、真夏の気持ちは。でも、これってほっとくとスキャンダルになっちゃう」 
「潤……そのために、お父さんに会わせようとしてるの。自分のスキャンダルを食い止めるために……わたし、もう帰る!」 
「真夏のためなのよ!」 
「わたしの?」 
「スキャンダルになったら、真夏のとこにもマスコミが押し寄せて、有ること無いこと書き立てられ、週刊誌やテレビで、さらし者になっちゃうんだよ。わたしは、こんな仕事してるから、覚悟はしてる。でも、真夏には、そうなって欲しくない。マスコミは、そんなに甘いものじゃないのよ」 
 潤の真剣な眼差し……わたしは圧倒されて、コックリうなずいた。
 
 小さなノックがして、ドアが開いた。
 
 わたしは、お母さんと言い争ったときほどじゃないけど、少しえづきそうになった。 
 十年ぶりに会ったお父さんは、とりとめのない顔で一瞬とまどった。 
「真夏……」 「ばか、わたしは潤よ!」  
 それくらい、わたしたちは似ていた。
 でも、ちょっと説明がいる。潤は、このタクラミに責任を感じて、少し硬い表情になっていた。わたしはえづきを押さえるため、口元に力をいれていたので、それが、ちょっとめには余裕の頬笑みに見える。まあ、根本的にお父さんが狼狽えていたということだけど。 
 それから、お父さんは、なにか言い訳めいたことを言ったけどよく覚えていない。ただはっきり分かったのは、お父さんは複雑な事情で小野寺になっていたこと。わたしの鈴木というカンムリはきれいさっぱり無くなって、わたしが、誰かのお嫁さんにでもならない限り「冬野真夏」という名前からは逃れられないということ。
 
 それから、事務所のスタッフが是非にということで、写真を撮った。 
 
「マスコミ対策用。あとから押しかけて変な写真撮られる前に、こっちで用意しておいたほうがいい」 
 黒羽ディレクターの深慮遠謀。 
 写真はスタジオで、他のメンバーがいる中で撮られた。クララさん始め、メンバーが空気を和ませてくれた。その隙をねらって、百枚ほどの写真が撮られた。わたしは、ほとんどえづきそうだったんだけど、それでもAKRのメンバーのエネルギーは強烈で、直後に見せられた映像の何枚かは、クッタクのないソックリ娘二人と父親が楽しげに仲良く写っていた。やっぱ、この業界のやることはスゴイ。
 
「でも、これでお父さんのこと許したわけじゃないから」 
「それは、分かってる……」 
 
 最後は、やっぱり気まずく別れた。
 
 お母さんには、ありのまま話した。
 
 小野寺潤が娘とソックリだということは分かっていたようだけど、それが別れた亭主が、浮気相手との間に作った子だとは思わなかったようだ。浮気していたころの相手は相馬という苗字だった。お父さんは、離婚した後、浮気相手と結婚し、同時に浮気相手の伯父の夫婦養子になって小野寺になった。その夜、お母さんとは必要以上の会話をしなかった。
 
 エリカが満開近くになっていた。
 潤の話は本当だった。今日は朝から電話は鳴りっぱなし。わたしは、AKRの黒羽さんに教えられた通りのことを言った。 
「その件につきましては、AKRの黒羽さんにお聞き下さい」 
 午前中、家の玄関のベルが数回鳴った、回覧板を持ってきたお隣さん以外は電話と同じ答えをした。
 昼からは、それがピタリと止んだ。どうやら黒羽さんの対応が功を奏したようだ。 
 テレビのバラエティーで、『AKR小野寺潤のそっくりさんとお父さん』とコラム的な扱いで、スキャンダルにはならずにすんだ。しかし、ネットには、あきらかに学校で撮られたと思われる写メが何枚か流れていた。その多くは爆発セミロングのころのもので、潤には似ていない。 
――クリスマスごろには落ち着く。それまで辛抱してね。ごめん潤―― 
 潤からメールが来た。省吾たちからも心配のメールが来ていた。友だちは、ありがたい。心をこめた返事を送信。あとは、布団被って寝ていようと思った。不思議なことに午後からはテレビで取り上げられることもなくなった。
 
 そうだ、今日は衆議院議員の選挙の日だ。アイドルのうわさ話なんか半日の寿命だった。むろんAKRの黒羽さんたちの処理の上手さがあってのことだけど。   
 ただ、わたしの中のモヤモヤは、いっそうつのるばかりだった。
 
 エリカが満開になった……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする