大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・068『ニャンコ救助隊』

2019-09-21 12:41:06 | ノベル
せやさかい・068
『ニャンコ救助隊』 

 

 

 子ネコは逃げもせえへんし、かと言って近寄ってくるわけでもなかった。

 

 学校の内と外を隔つフェンスにくっつくようにお座りしてる。

 ニャーー

 ネコ語は分かれへんけども、いまの鳴き方は――助けてえなあ――という意味やのが分かった。

「なんか困ってるみたい」

 留美ちゃんも、分かったみたいで「オーヨシヨシ……」と目を細めて近寄っていく。

「あ、この子?」

 近寄って分かった。子ネコは、フェンスの隙間から入ろうとしたものの、お尻が引っかかって入ることも引き返すこともでけへん状態なんや。

 ニャーー

 分かってくれたか、いう感じで鳴きよる。

「とりあえず、出してやろか」

 提案すると、留美ちゃんはコックリして、子ネコの脇に手を入れて引っ張ろうとする。出遅れたわたしは――がんばれ!――と心の中で応援。いつもは、人から一歩遅れがちな留美ちゃんやけど、子ネコに対しては救急隊みたいに迅速や。

 フニャーー!

「だめだ、お尻がつかえて出せないよ」

 心なしか、子ネコも涙ぐんでるように見える。

「逆に押し出してみたら?」

「そうね……」

 やさしく押し出す留美ちゃん。しかし、今度は首が引っかかってしまう。

 グニャーー!!

 ネコも辛そうに声は上げるけど、暴れる様子はない。かしこいネコや。

「あたし、外に出て押してみるわ。両方からやったら、いけるかもしれへん」

 さっきの授業が体育祭の練習やったから動きやすい体操服。フェンスに足をかけて乗り越える。

 よっこらしょ!

 乗り越えたんはええねんけど、道路側に下りるのには、三メートルほどあって、ちょっと高い。不細工にお尻突き出してへっぴり腰で降りていく。

「下まで、どのくらい?」

「えーと、1.8メートルくらい」

「……よし!」

 へっぴり腰のままフェンスを突き放す。ドスンとお尻から着地。同時に両手を着いたんで、尾てい骨骨折とかはせえへんかったけど、お尻と手ぇが同じくらい痛い。

 しかし、そんなことはおくびにも出せへんで、子ネコのお尻をやさしく抑えてやる。

「じゃ、いっせーの……!」

 アニメやったら――スポン――という効果音とエフェクトが付くんちゃうやろか言う感じで、子ネコは抜ける。

 キャ!

 勢いで留美ちゃんは猫を持ったままひっくり返る。勢いで子ネコはフェンスの上まで放り上げられ、なんと、わたしの上に降ってきた。

 野球とかバレーボールとかで、球をとれたことないねんけど、運よく子ネコはわたしの腕の中に収まった。

 

 あ、えーーーと。

 

 道路側に下りてしもたんで、フエンスの高さは三メートルを超える。とても、ネコを抱えたまま超えられそうにない。

 数十秒ゲシュタルト崩壊して、留美ちゃんが思いついた。

「そのまんま部室に行って、桜の荷物持って追いかけるから!」

 そう言うと、留美ちゃんは校舎の反対側を周って教室を目指して走って行った。

 わたしは、子ネコを抱えて正門を目指した。

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真夏ダイアリー・16『エヴァンゲリオン・1』

2019-09-21 06:43:32 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・16
『エヴァンゲリオン・1』      




 二時間目の休み時間に昇降口へ行った。

 二時間目の授業が数学だってことをコロっと忘れて、ロッカーの中の数学一式を取りに来たのだ。
 期末テスト明けの授業というのは、どうにもしまらない。テストを返してもらって、キャーキャーと成績に一喜一憂。で、午前中の授業なんで、たいがい、それだけでおしまい。だけど、数学は三単位もある(つまり週に三回も授業がある)ので、このテスト後に二回授業がある。で、明日は終業式なんで、頭は冬休みモード。うっかり忘れていた。

――あら……?

 うちのクラスのロッカーの前に、C組の柏木由香が立っていた。
 その視線は、省吾のロッカーを見つめている。
――あ、エヴァンゲリオンのラブレター!
 気配が伝わったのか、由香は、わたしに気づくなり、怖い顔をして行ってしまった。
――由香だったのか……イニシャルもぴったりYだもんね。
 由香は同じ中学出身の女子。生真面目な美人。思い詰めたらまっしぐらって子。
 今の顔は、一週間ずっとロッカーにアスカ・ラングレーのシールが貼り出されるのを「待っていたんです」という色が出ていた(分かんない人は十回目の『小野寺潤の秘密』を読んでください) 
 
 これはヤバイ!

「ちょっと、省吾。いつになったら答え貼ってあげんのよ!?」

「え……?」
「エヴァンゲリオン。明日、もう終業式だよ!」
「もち綾波レイでしょ!」
 玉男が割ってはいってきた。
「なんでよ!?」
「だって、省吾には真夏がいるじゃん」
「「そんなんじゃない!」」
 同じ言葉が、わたしと省吾の口から出た。危うく、みんなの注目が集まりかけた時、数学の沢野先生が入ってきた。
 結局、数学の時間は自習になった。先生も生徒も、あんまり気乗りがしなかったから。自習ってのは、騒がなければ、なにしても怒られないんだけど、さすがにこの話題を継続するのははばかられた。

「ねえ、どっちかにしなさいよ!」
「オレ、こういうやり方、好きじゃねえ」
 わたしたちは、放課後、下足室で続きを始めた。
「コクるんなら、ちゃんと自分で言うべきだ。こういう人の気持ちを試すようなやり方は趣味じゃねえ」
「だけどねえ……」

「こういうカタチでしか、気持ちを伝えられない子もいるのよ」
 わたしの後ろ半分の言葉が三人の後ろでした……。

 アスカ・ラングレーのように、マニッシュなオーラを放ちながら、柏木由香が立っていた。
「柏木さん……!」
 意外な展開だ。本人が目の前にいる!
「誤解しないで、その手紙はわたしが出したんじゃないから。今朝、冬野さんに見られて誤解されるんじゃないかと思ってきたの」
 そう言うと、ゆっくり柏木由香は、省吾に近づいていった。
「わたしも、このやり方、好きじゃない。でも無視していいほど悪いやり方でもないと思うの。手紙を見ても分かるでしょ。ワープロなんかじゃなくてきちんと心をこめて書いてあるのが」
「……ほんとだ、カラっとした文章だけど、字は、とても乙女チック。貴女じゃないことはたしかね」
 玉男が余計なことを言う。
「文章考えたのは、わたし。文句ある?」
「でも、イニシャルYだからてっきり、由香だと思った……」
「え、Yになってんの……?」
「ほら……」
 省吾が、手紙を差し出した。
「……ほんと。あのバカ」
「バカって?」
「うらら、ちょっと出といで!」

 柱の陰から、真っ赤な顔をして、同じC組の春野うららが現れた……!
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宇宙戦艦三笠・7[思い出エナジー・1]

2019-09-21 06:34:21 | 小説6
宇宙戦艦三笠・7  
[思い出エナジー・1] 

 
 
 保育所の頃、美奈穂からおチンチンを取られそうになった……。

 オレと美奈穂は、保育所から高校までいっしょという腐れ縁だ。かといって特別な感情があるというわけではない。
 例えれば、毎朝乗る通学電車がいっしょで、気が付けば同じ車両で隣同士で突っ立てっているような関係。       
 
 互いに名前も知らなければ、通っている先も分からない。サラリーマンやOLだったりすると、まるで接点がなく、春の人事異動なんかで乗る電車が違ってしまうと、それっきり。高校生だと、制服で互いの学校が知れる。ごくたまに、こういうことから関係が深まっていくやつもいるけど、大概そのまま口も利かずに三年間が過ぎていく。付き合いは長いが美奈穂とはそうだ。
 
 ただ保育所のころというのは、ネコや犬の子が傍に居ればじゃれ合うようななところがあって、その程度には関係があった。

 年少のころだったけど、オレには鮮明な記憶がある。トイレの練習で、一日に二回オマルに跨って、自分でいたす練習をやらされた。

 まだ二歳になるかならないかで、他のみんなは記憶には残っていないだろう。
 でもオレには鮮明な記憶が残っている。
 オマルに跨って用を足していると、視線を感じた。その視線をたどった先に居たのが美奈穂だった。
「あたちも、おチンチンがほちい……!」
 と、言うやいなや、美奈穂はオレに襲い掛かり、オレのおチンチンをひっぱりまわした。美奈穂は道具一式を両手でムンズと握って引っ張るものだから、女には分からない激痛が走って、オレは泣きだすどころか悶絶してしまった。すぐに先生が飛んできて美奈穂を引き離してくれて事なきを得たが、幼心にも美奈穂の顔が悪魔のように見えた。
「らって、テレビのコンチェント抜けるよ」
 涼しい顔で、先生に言っていたのを、オレは覚えている。

「そんなこと知らないもん(;'∀')!」

 美奈穂は、両手を振って否定した。
「そう、その手でオレのナニをムンズと握って、ひぱったんだ!」
 樟葉が方頬で、トシが大口を開けてケラケラ笑う。引きこもりのトシが笑うのは目出度いことだ。でも、そのあと美奈穂が洗面で思いっきり洗剤使って手を洗ったのには、可笑しくも情けなかった。

「修一だってね、年中さんの時に、みんなでお散歩に行ったとき、他の保育所のかわいい子のあとを付いていっちゃって行方不明になっちゃったじゃない!」
「あ、あれは、傍で『お手々つないで』って、声がしたからさ」
「あ、覚えてるんだ、確信犯だ!」
「そうじゃなくって……」
「あのあと、その保育所の先生に手を引かれて泣きながら帰ってきたんだよ。保育所も大騒ぎだったんだから」
「ハハハ、二人とも、そんな昔の話を」
「アハハハ……」
 いつになく樟葉が声をあげて笑うと、みんなもつられて笑った
 
 ブーーーーーーーーーン
 
 うわ!?
 
 はっきり体で分かるくらいに三笠のスピードが上がった。
 
「なんだ、これは!?」
 
 降り飛ばされそうになったトシが、テーブルの端で体を支えながら叫んだ。

「三笠は、みんなの思い出とか情熱みたいなエネルギーで、力を増幅してるのよ」

 いつのまにかみかさんが現れて、みんなを見まわして言った。
 
「舷窓から、外を見て」
 
 三つある舷窓に群がると、中国の定遠をみるみる追い越していくのが分かった……。
 
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高校ライトノベル・物語・ダウンロード・10《ノラの旅立ち》

2019-09-21 06:17:31 | ライトノベルベスト

物語・ダウンロード・10
《ノラの旅立ち》




「起こしちゃったわね」

 ノラは不敵な笑みを浮かべてモニターのオーナーと向き合った。

「ごめんなさい、ブロックを解除しちゃったわ。不可抗力だけどね……松田のおじいちゃんから、ソミーのハチロクXのルーターもらってたの。どんなブロックかけたサーバーでもコネクトできるやつ。どう、これがわたしの本来の姿」
――おまえは……!――
「正体……それは、ひ・み・つ……いろいろ実用試験をやって、ボコボコになったあと、ジャンク屋に引き取られ、あなたのところへきたの……そこの換気扇の防護シャッター忘れてるわよ(シャッターの閉まる音)こんなシャッター何の役にも立たないけどね。ソミーのベースにオンダのムーブメント。人工骨格はオマツ。ターミネーターの三倍は強力よ」
――このリンクは!?――
「そう、シャッター閉鎖と同時に、警察にダイレクトに警報が……ロボットが暴走したときのセキュリテイーよね……百も承知よ。非常回路が働いて、このマシンが警察のコンピューターとリンクしたのよね。そして、わたしの情報が全て警察に伝わってる。性能やら弱点やら、あらゆるスペックが。ただしブラックボックスを除いてね……フフフ」
――何がおかしい!?――

「あのね、あなたに関する情報もね、伝わってるのよ」

――おまえは……オレは、やましいことは、なにもないぞ!――
「そう……ブロックを解除したら、いろんなことがわかったわ。わたしって、プロトタイプだから、かなり余裕を持たせた能力になってるの。特にここ(頭を指す)あなたの奥さんね、亡くなる前に、このマシンに自分に関する情報を入力していたわ」
――そんな――
「そう、あなたの知らないファイルに圧縮して。そして、奥さんの死後、最初にリンクしたコンピューターにダウンロードされるように設定されていたの。だから、わたしのここ(頭を指す)には、奥さんの全てが入っているの。むろん、今の今までブロックされていたけど。解除したてのホヤホヤ……なんなら、今ここで、奥さんに変身してあげようか?(ソケットに指を近づける)遠慮しなくてもいいのよ。奥さん身の危険を感じて、ピアスにカメラを仕掛けていたの。右と左で3Dの立体録画」
――なんだって!?――
「警察のコンピューターとリンクしたときにロードされてるわ。第一級殺人の証拠としてね……ほら、誰かがドアをノックしてるわよ……だめ、窓の下にも三人張り付いているわ。後一分足らずで、そのドアは蹴破られるでしょう。抵抗しちゃだめよ、撃ち殺されるわよ……じゃ、ロボットの情け、逮捕の瞬間だけは見ないであげる。スイッチ切るわね……永遠に……」

 マシンの回路をつなぎ変え、数回キーをうつ。シャッターは、ゴロゴロ音を立てて開く。

「開いた。これでセキユリテイーのつもりだったのね……ってか、わたしのスキルってすごいんだ……さよならマシン。これからは、あなたのお世話にならない生活をおくるわ……キッチンを買うわ、自分でね。じゃあ……」

 ドアに行きかけて、あることに気づく。

「わたしの名前……本当はなんて言うんだろう……きっと、コードネームとか、タッグネームとか……(マシンのボタンをいくつか押す)仕様書は……001S。シリアスナンバーA-0001。こんなの名前じゃない……整備日誌……技術屋さんの落書きみたいな……こういうところに……あった……え? やっぱり「ノラ」どういうつもり、わたしは生まれながらのノラロボットか……ハンガーコード「人形の家」……これはフェイクだ……ちょいちょいと解除……ハンガーネーム「エデン」……タッグネーム「イヴ」……わたしって?」

 パトカーの音、多数接近。

「……わたしもつかまえようっての?……わたしが無害なのはデータで分かっているはずなのに……飼い主を売ったロボットは許せないってか」

 窓ガラスを破り、一発の銃弾が、ノラの頬をかすめる。

「神さまは、その身に似せて人を創りたもうた。人は自分のなにに似せてわたしを作ったのか……それを知るのが怖いのね……マシン、ちょっと目をつぶっててね」

 目の高さにモニターを浮かび上がらせ操作する。

「ハンガーの候補地を十万カ所にしちゃった。第一候補は首相官邸。ごめんなさいね総理大臣、ちょっとばかしゴタゴタするでしょうけど……ほら、みんなコンピューターの指示には従順ね」

 大量のパトカーが去る気配。ノラ、ルーターの入った耳に触れる。

「アダムとイヴの再出発……マシン、最後のお願い。BGM、なにか旅立ちの歌にしてくれない。モーツアルトもビートルズも聞きあきた(マシン、旅立ちの歌を奏でる)……うん、さすが古いつきあい、わたしの好みをよく知ってるわね……え、フェリペの卒業式。それにシンクロさせただけ……でも、イージーだけど、ぴったりよ……じゃあ、いくわ。わたしたちだけのエデンを探しにね……それは、どこかって? それは……あなた(観客)の家の隣かもね。三月だもの、だれが越してきても、不思議じゃないわ。引っ越しのご挨拶は、とびきりの笑顔で、そいでちょっと気の利いたキッチンにしていたら、それがわたしです。もちろん顔も名前も、声もこれじゃなくってね。ま、この季節、そんな子は何万人もいるでしょうけど……そうかなって、思ったら。妙な詮索はしないで、どうかいいお隣さんになってくださいね……さ、とりあえず、あの雲の流れる方へ……」

 静かにドアを開けて、ノラ……イヴは、街に消えていった。


 ダウンロード  完

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高安女子高生物語・94〔うかつやった……で、すむか?〕

2019-09-21 06:12:53 | ノベル2

高安女子高生物語・94
〔うかつやった……で、すむか?〕
        


 再婚同士の連れ子は法的には結婚できる。

 法律的にはそやけども、美枝自身もはっきり言うてたことやけども……ほんまにするとは思てなかった。
――そら、うそや――
 心の中から声が聞こえる。うちの内心の声か正成のオッサンかはようわからへん。そやけど、最初に思たのはそれやった。
 二か月ほども前から、うちは美枝の気持ちは知ってた。

「連れ子同士やけど、結婚はできる」

 美枝の言葉を、うちは、どこかでスルーしてきた。なんちゅうても、美枝は、まだ十七歳。うちもそやけど。
 結婚とか、妊娠とかは、まだ子供のあこがれ程度にしか受け止めてなかった……いや、ウソや。
 高校生の妊娠騒ぎは、けっこうあるのんは知ってた。お父さんも現役の教師やったころ、ときどき、この問題で走り回ってた。連れ子同市の結婚も、多くはないけど、普通にあることも知ってた。
 偶然やったけど、美枝の家に行く前に寄ったコンビニで、美枝のお兄さんがコンドーさん買うてたのも見てる。せやから、美枝が妊娠することは無いと、どこかでタカをくくってた。

 いや、ウソや。ゆかりは、しっかり知ってた。友達としての寄り添い方が違う。

 うちはMNB47に入ってしもて、正直きつい毎日。別のうちの心が「しゃあないで」と言うてる……それも、そうかなと思う。うちは美枝から最初にお兄さんへの気持ちを聞いたとき反対はしてる。

 それは、言い訳のアリバイや。また、心のどこかが呟きよる。

 MNBのレッスンは、この二日さんざんやった。
「どうしたの、明日香全然だよ!」「いいかげんにしなさい!」一昨日も昨日も夏木先生に怒られた。
「たとえ親が死んでも、平気でやれなきゃ、この世界は通用しないのよ!」
 夏木先生の理屈は、その通りやけど、気持ちが素直には着いていけへん。
――うちは、メッチャ忙しい。友達としてうかつやった。そやけど……それで済むか?――
 うちの頭は、この三日間同じとこをグルグル回ってる。
 今日も、そんな気持ちを引きずりながらMNBのスタジオにまで来てしもた。スタジオが入ってるビルの手前でカヨさんが待ってた。

「ちょっとええ?」

 カヨさんに、ビルの南側の道に連れていかれた。ビルと車道に止まったバンの間で、カヨさんは振り返った。
「今からしばく」
 真剣な目で見られた直後、左のほっぺたに痛みを感じた。小学校の時、お母さんにしばかれて以来やった。
「カヨさん……」
「うちらはプロや。外のことは引きずってきたらあかん! なにがあったか知らんけど、ちゃんとレッスンに来られてるいうのは、大したことやないか他人事や。そんなんでうちらの足引っ張らんといて。友達やから、一回だけは言うとく」
 そない言うとカヨさんは、さっさとスタジオの方に行った。

 いろんなもんがせきあげてきて、涙がぽろぽろこぼれてきた……。



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小悪魔マユの魔法日記・40『フェアリーテール・14』

2019-09-21 06:02:51 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・40
『フェアリーテール・14』      


 
「おかしくないのよ」
 
 分かれ道のところに、レミが立っていた……。

「ファンタジーの世界の愛情表現はさまざま。打ち出の小槌でカレを大きくしちゃうお姫さま、ガラスの靴穿いて、王子さまのハートをゲットした女の子もいるわ。ガラスの靴って、どう考えても穿いて歩けるシロモノじゃないでしょ。見つめ合っただけで赤ちゃんができることもあるし、木で人形の子どもを作ったら、本当の子どもになっちゃたりとか、人間が豚さんになって空中戦をやって、女の子のキスでもとの人間にもどったりとかね。ま、いろいろ。マユちゃんの知り合いにもいるでしょ。アレ荒れ地の魔女さんとか」
「ああ、女の子を九十歳のお婆ちゃんにして、イケメンの魔法使いが、元の女の子にもどす……あ、あの二人、行っちゃった」

 気がつくと、赤ずきんと流狼似謙信になった狼男の姿がなかった。

「多少問題はあるけど、いいんじゃない。ハッピーエンドにしたんだから。これで、とりあえず白雪姫と赤ずきんちゃんの問題が解決したわ。つぎ、お願いしていいかしら」
「もう、つぎ?」
「問題多くてぇ、この世界。急場のことで申し訳ないんだけど……」
 
 そう言うと、レミは、ストローハットを思い切り空高く放り上げた。
 
 フワワ~  

 マユは、AKB48の『ギンガムチェック』で大島優子が、最初にカンカン帽を放り上げるのを連想した。
 ストローハットは、思いのほか高く舞い上がり、マユの視界は一瞬、青空とストローハットだけになってしまった。

 ストローハットが落ちたのは、石畳の上だった。

 さっきまでは、森の分かれ道。草の生えた地面と薮しかなかったのに……。
 海の香りがして、マユは周りを見た。右手の方は、桟橋がいくつもあって、たくさんの漁船が繋がれていた。左手は、漁師さんたちの家や、魚の水揚場、飲み屋さんなどが並んでいる。どこからか、賑やかな歌や音楽が聞こえてきて、なんとなくカリブの港町が連想された。

「そう、ここは、カリブの港町よ。マユ」
 目の前に、バミューダパンツにギンガムチェックのシャツの女の子が、ストローハットを持って立っていた。

「あ、あなた……」
「あたし、ミファ。レミに頼んでおいたの。小悪魔のマユの手が空いたら、こっちに来てもらえるように」
 そう言いながら、ミファはストローハットを渡した。
「被ってみて……うん、けっこういけてんじゃん。セーラー服にストローハット。港町にピッタリだよ。あたしに着いて来て……」
「あの、ミファ」
「なあに?」
「ここ、どこの港町?」
「あ……キューバ。街の名前はかんべんしてくれる」

 マユは、レミが言った「急場の問題」がキューバのナゾであることに気がついた……。
 
 
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