魔法少女マヂカ・068
魔法少女の戦場は亜世界。
異世界ではなくって亜世界、亜、世界。
この世界とは完全に別に存在するのが異世界。
亜世界というのは、この世界から枝分かれして存在する世界。
例えば、大塚台公園の地下にある秘密基地があるのが亜世界なんだよ。
公園の都電側の法面(のりめん)に入り口があるんだけど、特務師団の関係者でなければ出入りができないし、たとえ公園の土を掘り返しても、秘密基地にはたどり着けない。現実の大塚台公園とは微妙にズレた次元に存在しているのだ。
高機動車北斗が出撃するのは、基地の格納庫から地下を空蝉橋の方へ進み、橋そのものをカタパルトとして発進する。
出撃に使う空蝉橋は亜世界に存在しているので、発進するときに通行中の車にぶつかることも無ければ、通行人に目撃されることもない。
バルチック魔法少女たちとの戦場、原宿上空や横須賀、舞鶴沖の海上、江ノ島で蝦蟇と戦った岩場も亜世界だ。
いま、食材屋のおばさんに擬態したわたしとブリンダが進んでいるのも市ヶ谷地下の亜世界。
「東に進んだな……市ヶ谷駅のあたりか」
「ううん、靖国……九段坂……いや、武道館のあたり?」
二人の判断が微妙に違う。次元の狭間に入りかけている。次元の狭間では空間がそよぐ。空に上げた凧がフラフラするようなものだ。
「この向こうに広がりを感じる。亜空間が固着しているぞ」
ブリンダの足が止まる。
固着と言うのは、次元のそよぎが収まって、空間として安定しているということだ。
「巨大な地下倉庫のようね」
「核シェルター……?」
核シェルターだとしたら日本ではない。アメリカかロシア……いずれにしろ、下手に踏み込んだら防衛省を退出する時間に間に合わなくなってしまう。今日は、とりあえずの偵察なのだ。
「誰か来る!」
気配を感じて、ブリンダの襟首を掴んで岩場に隠れる。
背後、我々が来たのとは別のルートで来る者がいる。
「魔法少女か……」
「オリヨール!?」
「舞鶴沖で沈んだはず……」
オリヨールに似た魔法少女だったが、佇まいや身のこなしが、より洗練されている。
「同型艦……そうか、フランス生まれのツェサレーヴィチ」
オリヨールはボロジノ級戦艦で、原形はフランスで建造されたツェサレーヴィチだ。
「あれは?」
ツェサレーヴィチが通ったところの次元が鮮明になって、シェルターの中が鮮明になった。
そこには、金塊を載せたパレットが数十個収まっていた。金塊には菊の紋章が刻印されている。
「M資金の金塊!?」
思わず身を乗り出す。ツェサレーヴィチが振り返る。
「やばい!」
慌てて後方に退避、次元の狭間がそよぎだして、たちまち閉じてしまう。
今日は、あくまで偵察。防衛省の地下に戻っていった。