大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・068『M資金・3 亜空間』

2019-09-04 17:01:18 | 小説

魔法少女マヂカ・068  

 
『M資金・4 亜空間』語り手:マヂカ 

 

 

 魔法少女の戦場は亜世界。

 異世界ではなくって亜世界、亜、世界。

 この世界とは完全に別に存在するのが異世界。

 亜世界というのは、この世界から枝分かれして存在する世界。

 例えば、大塚台公園の地下にある秘密基地があるのが亜世界なんだよ。

 公園の都電側の法面(のりめん)に入り口があるんだけど、特務師団の関係者でなければ出入りができないし、たとえ公園の土を掘り返しても、秘密基地にはたどり着けない。現実の大塚台公園とは微妙にズレた次元に存在しているのだ。

 高機動車北斗が出撃するのは、基地の格納庫から地下を空蝉橋の方へ進み、橋そのものをカタパルトとして発進する。

 出撃に使う空蝉橋は亜世界に存在しているので、発進するときに通行中の車にぶつかることも無ければ、通行人に目撃されることもない。

 バルチック魔法少女たちとの戦場、原宿上空や横須賀、舞鶴沖の海上、江ノ島で蝦蟇と戦った岩場も亜世界だ。

 

 いま、食材屋のおばさんに擬態したわたしとブリンダが進んでいるのも市ヶ谷地下の亜世界。

 

「東に進んだな……市ヶ谷駅のあたりか」

「ううん、靖国……九段坂……いや、武道館のあたり?」

 二人の判断が微妙に違う。次元の狭間に入りかけている。次元の狭間では空間がそよぐ。空に上げた凧がフラフラするようなものだ。

「この向こうに広がりを感じる。亜空間が固着しているぞ」

 ブリンダの足が止まる。

 固着と言うのは、次元のそよぎが収まって、空間として安定しているということだ。

「巨大な地下倉庫のようね」

「核シェルター……?」

 核シェルターだとしたら日本ではない。アメリカかロシア……いずれにしろ、下手に踏み込んだら防衛省を退出する時間に間に合わなくなってしまう。今日は、とりあえずの偵察なのだ。

「誰か来る!」

 気配を感じて、ブリンダの襟首を掴んで岩場に隠れる。

 背後、我々が来たのとは別のルートで来る者がいる。

「魔法少女か……」

「オリヨール!?」

「舞鶴沖で沈んだはず……」

 オリヨールに似た魔法少女だったが、佇まいや身のこなしが、より洗練されている。

「同型艦……そうか、フランス生まれのツェサレーヴィチ」

 オリヨールはボロジノ級戦艦で、原形はフランスで建造されたツェサレーヴィチだ。

「あれは?」 

 ツェサレーヴィチが通ったところの次元が鮮明になって、シェルターの中が鮮明になった。

 そこには、金塊を載せたパレットが数十個収まっていた。金塊には菊の紋章が刻印されている。

「M資金の金塊!?」

 思わず身を乗り出す。ツェサレーヴィチが振り返る。

「やばい!」

 

 慌てて後方に退避、次元の狭間がそよぎだして、たちまち閉じてしまう。

 今日は、あくまで偵察。防衛省の地下に戻っていった。

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かぐや姫物語・6Преступление и наказание・罪と罰

2019-09-04 06:54:35 | ライトノベルベスト
かぐや姫物語・6 
Преступление и наказание・罪と罰


 That's one small step for a man, one giant leap for mankind.

 ニール・アームストロング船長は、この有名な一言の後、とんでもないものを見てしまった。
 それが、ニューヨークの街角なら、なんでもないことなのだが、月であるがゆえに、ありえないことであった。

 Please tell me how to get the way to Central park.

 と、女の子が聞いてきたのである。宇宙服も着ないで、ギンガムチェックのシャツにジーパンで!

 で、この記録はNASAにも残っていない。アームストロング船長の記憶にも残っていない。
 以後5回の月面着陸で、クルーは、みんなこの子に出会っている。ただ、あまりに突拍子もないことなので、みんな無意識に、記憶を消している。または、宇宙人に出会った。宇宙船を見たなどと記憶を変形してしまった者もいる。

 姫子のデビューは早かった。

 普通、最短でも半年は研究生。それから、三つのチームに振り分けられ、やっと、その他大勢になる。選抜メンバーになれるのは、それから、さらに半年。まあ、順調でも一年はかかる。
 それを、姫子は三月でやってのけた。

「姫ちゃん、大売り出しのキャンペーンガールを……」
「姫ちゃん、クリスマスのイベントに……」
「歳末特別警戒の一日署長に……」
「新春大売り出しに……」
「成人の日のゲストに……」
 と、主に地元のイベントに引っ張りだこ。その都度、マスターしたAKRの曲を歌って踊った。
 タネが切れると、書きためた詩に即興で曲を付け歌ったりした。著作権の問題で、なかなか人の曲は歌えない。
「姫ちゃん、ナントカみたいなの歌って!」
「オッケー!」
 そう言われた時は、本歌の二小節だけ借りてきてアドリブで曲を作ったりした。著作権法で、二小節までの真似は認められているからである。
「へえ、こんな歌唄ったんだ。どれどれ……」
 と、あとで、楽譜に起こしていく。こうやって作った曲の半分が、その後も残り、さらに半分がヒット曲になり、十曲はミリオンセラーになり。AKRとしても研究生のままにしておくことができず、三月で、チームAの選抜にした。

 そして、ショッピングモールが出来る頃には、ピンでの仕事も来始め、見事にショッピングモールと月ノ街商店街の顔になった。
 むろん商店街とモールが共存したことは言うまでもない。
 人は、そんな姫子を、実家と結びつけ『かぐや姫』と呼ぶようになった。ガキンチョのころから言われたあだ名であるが、今は憧れと親しみをもって、そう呼ばれている。

 姫子は七十歳まで生きた。

 七十歳のとき、記念コンサートをやり、フィナーレの曲を歌い上げ、そのままステージに倒れ込んでしまった。

 時あたかも百年ぶりで、人類が月に再訪した、その日であった。

 宇宙飛行士達が、ギンガムチェックの少女に出会い、セントラルパークへの道を聞かれる事はなかった。

 
 かぐや姫物語  完
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高安女子高生物語・77〔宇賀先生のお見舞い〕

2019-09-04 06:36:10 | ノベル2
高安女子高生物語・77
〔宇賀先生のお見舞い〕
        


 

 やっぱりプロは違うと思った。

 それまでは、美枝とゆかりの三人で、あーでもない、こーでもないと言い合いしていたんやけど。
「けが人さんのお見舞いに相応しい花を……」
 と、今まで三人で話し合っていた候補を言おうとしたら、間髪を入れずに花屋さんに聞かれた。
「女性の方ですか? 目上の方? お友だち? お怪我の場所は? で、ご予算は?」と、矢継ぎ早。
 待ち合わせのコーヒーショップで、話し合ったことが、みんな吹っ飛んでしもた。
「じゃ、こんな組み合わせでどうでしょう?」
 それは、カスミソウの中に赤やピンク、黄色などの明るい色のバラのアレンジやった。
「いやあ、この時期にまだバラがあったんですね!?」
 バラは宇賀先生に相応しいので、最初に候補にあがったんやけど、時季外れで無いやろということで却下になってた。

 値段の割にゴージャスに見える花束を抱えて病室をノックした。
 ハーイという声がして、個室のドアが開く。

 声から、宇賀先生自身かと思た。出てきたのは宇賀先生のお母さんと思しきオバサン。
「まあ、生徒さんたちね。わざわざ、どうもありがとう。さ、中へどうぞ」
 そない言われて「お見舞いにきました!」ただでも声の大きな三人が、いっぺんに言ったので、病室にこだまし、慌てて口を押えた。
「ありがとう、三組の元気印」
 先生は明るい声で応えてくれたけど、うちらはびっくりして後悔した。
 あのベッピンの宇賀先生の顔が三倍ぐらいに腫れて見る影もなかった。
「あ、お見舞いなにがええかと思たんですけど、先生に相応しいのは、だんぜんバラやと思て、色は、まだまだお若い先生に合わせて子供っぽいぐらいの明るい色にしました。まわりのカスミソウがうちら生徒の、その他大勢です!」
「いや、ありがとう。あたし幼稚園のとき薔薇組で、漢字で薔薇て書けるのが自慢やったんよ」
 先生は、花束を抱きしめるようにして匂いを嗅いだ。
「いやあ、ええ香りやわ!」
「ほんなら、さっそく活けよね」
 お母さんが、そう言って花束を活けにいかはった。
「ガンダム先生が、ものごっつい心配してはりました。授業ほとんど一時間使うて、宇賀先生と人生について語ってくれはりました。なあ」
「はい、けっきょく体育の時間で体動かしたんは、体育館のフロアー五周しただけです」
「ハハ、なにそれ?」
「人生を一週間の授業日に例えて、人生感じながら走ってきました」
「ハハ、岩田先生らしい手の抜き方やね!」
 そんな調子で、アホな明るいだけがテーマのおしゃべりして二十分ほどして帰った。おしゃべりの終わりごろ、おかあさんがバラを見事に花瓶に活けて持ってきはった。バラの健康的な明るさが、先生の怪我の痛々しさをかえって強調してるみたいやった。

 廊下に出ると美枝が涙を流しだした。美枝は黙ったままやったけど、ロビーに出てから、やっと口を開いた。
「ありがとう明日香。あんた一人に喋らして。うち、喋ったら泣いてしまいそうで、よう喋らんかった」
「ううん、うちかて、なに喋ったんか、よう覚えてへん」
 うちは後悔してた。先生が怪我しはったんやからお見舞いは当然やと思てた。せやから親には「友達とお出かけ」としか言わんかった。言うてたら、お父さんもお母さんも止めてたやろ。

 駅まで行くと、偶然新垣麻衣に出会うた。

「大阪の地理に慣れておこうと思って、定期でいけるところ行ったり来たり。日本の電車って清潔で安全なんだね。もう麻衣電車楽しくって……あなたたちは?」
 宇賀先生のお見舞いうと、麻衣の顔が険しくなった。
「行った後になんだけど、行くべきじゃなかったわね。先生の顔……ひどかったでしょ?」
 言葉もなかった。麻衣の話によると、顔を怪我すると数日間は顔がパンパンになり、人相もよくわからないくらいになってしまう。そしてブラジルでは、よくそういうことがあるらしい。麻衣は言わなかったけど、言い方やら表情から、身内でそういう目に遭うた人がいてるらしいことが察せられた。ガンダムが授業で先生の怪我の話をしたとき怖い顔になったんも、そういうことがあったからやろ。
「麻衣は、てっきり人生のこと考えて怖い顔になった思てた」
「ハハ、ラテン系は、そういうことは考えないの。その時、その場所が、どうしたら楽しくなるか。それだけ」
 身内にえらい目に遭うた人が……とは聞けなかった。
「ええこと教えたろか」
「え、なに!?」
 麻衣は、うちが明るく話題を変えよとしてることが分かって、花が咲いたようなかいらしい顔になった。
「あのね、定期いうのは駅から外に出えへん限り、どこまでもいけるねんで!」
「ほんと!?」
「うん、ほんまほんま。うちの兄ちゃんなんか試験前いうと電車で遠くまで行って車内で勉強してたわ」
 美枝がフォロー。
「ただし、急行までね。特急は乗られへんさかい。それから新幹線も」
 ゆかりが付け足す。
「ありがとう。じゃあ、今日はお伊勢さんまで行ってみようかなあ!」
 と、どこまでも明るい麻衣やった。

 帰り道、一人になってから正成のオッサンに聞いてみた。
――オッチャンは、知ってたん、顔怪我したらあないになんの?――
――当たり前。年中イクサばっかりやってたよってにな――
――言うてくれたらよかったのに――
――自分で体験するのんが一番の勉強や――
――そらそうやけど、いけずな居候や――
――まだまだ、これからもあるぞ……そやけど、今日の共通体験は、どこかで生きてくる。ワハハハ――

 ムカッとしたら、通りすがりの猫にビビられた……。
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須之内写真館・49『窓ぎわのトッちゃん・1』

2019-09-04 06:25:50 | 小説・2
須之内写真館・49
『窓ぎわのトッちゃん・1』        


 
 直美は久しぶりに店番をしていた。

 玄蔵祖父ちゃんと両親は町内会の温泉旅行に行っている。卒業シーズンも終わり、正直お茶を引いている状態だ。

――今日は、お客さんは無いだろうなあ――

 ぼんやり、そう思いながら、朝日の差し込むカウンターで、パソコンで遊んでいた。
「須之内直美」で検索してみた。二十件ほど出てくる。
 先日の『護衛艦かがテロ事件』に関してのことが半分以上。あとは、学生時代に取った写真コンテストの入賞に関するカビの生えたような記録。受賞したときは天下をとったような気になり、何度も無機質な文章を読み返し、コピーして、友人達に一斉送信したことなどを懐かしく思い出した。もう今さら読み返す気にもならない。

 思いついて3月5日で検索してみた。

 パソコンとは偉いモノで、こんな気まぐれでも、ちゃんと答を出してくれる。
 歴史上3月5日に起こったことが、歴史の資料集のようにズラーっと出てくる。今年の残りが301日であることが最初に出てきた。まず月日のたつのは早いモノだと、年寄りのようなことを思う。
「あ、ここ、いつもお祖父ちゃんが座ってるんだ」
 なんだか年寄りが伝染りそうな気がしてスツールを替える。どこかでお祖父ちゃんがクシャミをしたような気がした。

 スツールを替えて目に飛び込んできたのは、今日が『窓ぎわのトットちゃん』が発売された日であることだ。

「へえ、今日だったんだ」

 直美は、いわさきちひろの挿絵と共にタマネギ頭の黒柳徹子を思い出した。一度だけ講演会を聞きに行ったことがある。『トットちゃん』にまつわる話が多かったが、講演後、黒柳徹子の舌を噛みそうな早口が伝染したのに閉口した。

 で『窓ぎわのトットちゃん』で検索してみた。

 間違えて『窓ぎわのトッっちゃん』と打ってしまった。
 面白そうなので、そのままクリックした。

――『窓ぎわのトットっちゃん』ではありませんか――

 とパソコンが生真面目に注意してくれる。
 でも『窓ぎわのトッっちゃん』で、一件ヒットした。これも面白いのでクリック。

――明治公園霞岳広場に居ます――

 とだけ、書いてあった。
 東からの日差しが直美の好奇心を刺激した。
 直美は、店を閉めると、愛車ナオに乗り、駅でナオを折りたたんで千駄ヶ谷の駅を目指した。
 千駄ヶ谷で、ナオを30秒で組み立てると、明治公園霞岳広場を目指す。

 電車の中では『トッちゃん』とは、オッサンのことだろうと思っていたが、ナオで走っているうちに、これは女の人であろうと思うようになった。根拠はない。ただの勘である。

 でも、大当たりだった。

 広場のベンチには何人かの人たちが座っていたが、一人の女性と目が会った。ナオをゆっくり寄せて訊ねることにした。

 その人は遠目には若く見えたが、近寄ると、自分の母とあまり変わらないだろうなあと思った。若作りしても分かってしまう。写真家のサガだろう。

「ひょっとして『窓ぎわのトッっちゃん』さんですか?」

 トッちゃんは感に打たれたように頷いた……。
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小悪魔マユの魔法日記・23『知井子の悩み・13』

2019-09-04 06:18:42 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・23
『知井子の悩み・13』



 

 あまりに急な変更であった。

 16人の合格者を、いきなり48人全員の合格にしてしまったのだから、HIKARIプロのスタッフは慌てた。
 とりあえず、合格者全員は控え室で待機ということになった。
「でも、さすが光ミツル。決め方もすごいけど、アイデアもすごいわね」
 矢頭絵萌って、まだ中学一年が言った。
「で……これから大変な競争が始まるわけよね」
 服部八重という二十歳の最年長のオネエサンが、闘志の混ざったため息をついた。
「そりゃあ、48人だもん、厳しいよね」
 知井子が、かわいく鼻を膨らませながら言った。こんなに自信を持って戦闘的になった知井子を見るのは初めてのことだ。学校で黒板をピョンピョン跳ねながら消していて、ルリ子たちに冷やかされ、顔を赤くしてムキになっていた知井子とは別人のようだ。
「知井子、鼻がふくらんでるよ」
 マユは冷やかしてみた。
「や、やだあ、それじゃルリ子といっしょじゃんよ!」
 知井子は、慌てて鼻を隠した。
「ちがうよ。ルリ子は人をせせら笑ったときに、そうなるけど、知井子はガンバローって思ったときにそうなるんだもん」
「そ、そう……」
 自分のことを言われる時は、いつも冷やかしだったので、多少誉めても素直にはうけとらない。
「うん、あなたのそういう顔、とてもチャーミング。それっていいよ。チャーミングファイターとかって、売りにしようよ」
 大石クララが、ごく自然にフォロー。マユは、クララをなかなかの人物だと思った。
 そういうぐあいに、クララは積極的に人と溶け込み、早くもサブリーダーとして力の片鱗を見せ始めていた。

 一方、リーダーの拓美は暗い。

 覚悟は決めていた。もうすでに死んだ身、小悪魔のマユに頼んで、たった一回だけ、生きている自分として、皆の前で唄わせて欲しい。マユの魔法で、それは叶った。
 でも、自分が選抜メンバーのリーダーになるとは考えもしなかった。それも48人全員の合格、その中のテッペンに自分はいる。
「マユさん、ちょっと」
 拓美は、マユの腕を掴むと、廊下に出て、非常口を開けた。
 二人は屋上に出た。
「お願い、もう耐えられない。今すぐに、わたしを消して、あの世に送って!」
「浅野さん……」
 マユには、拓美の気持ちが痛いほどに分かった。だから、とても可愛そうで、マユは拓美を消すことができなかった。拓美の目からも、マユの目からも涙が止めどなく流れていく……。
 屋上から見下ろせる公園の色づいた木々が、近づいた木枯らしを予感させるように震えた。
 一瞬、風が強く吹き、枯葉たちが風に流され、屋上の二人を促すように舞っていった。その一葉がマユの頬をかすめ、微かな痛みが頬に走った。溢れた涙といっしょになってマユの頬に一筋の赤い線が伝う。
 痛々しくて、マユは黙ってハンカチを差し出すしかなかった。
「いいの、このままで……」
 マユは唇を噛みしめ、ゆっくりと、右手を半円を描くように回し、人差し指で天を指した。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」
 マユは、渾身の力で呪文をとなえはじめた……。

 階段を降りて、控え室に戻ってきたのは、マユ一人だけだった。
「どこへ、いってたのよさ。今から、また全員集合だよ」
 知井子は、楽しげに言った。
 知井子の悩みは、どうやら完全に克服されたようだ。

 しかし、新しい問題が待ち受けていた。そう、皆の記憶から完全に消された浅野拓美の問題が……。
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