大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・075『M資金・10 第七艦隊・1』

2019-09-19 13:59:40 | 小説

魔法少女マヂカ・075  

 
『M資金・10 第七艦隊・1』語り手:マヂカ 

 

 

 敵も堪えてる。

 

 かつては応接室にでもあったのか、塗りの禿げたテーブルに湯呑を置きながら安倍先生は言った。

 自分も湯呑を持って、すぐ前のソファーに腰を下ろす。下ろした勢いで脚を組むんだけど、スカートの中が見えてしまう。

 女同士の気楽さ? 相談室という閉鎖性に気を抜いた? 緩んだ姿を見せて油断させてる? 単に鈍感? いや、なにか意味があるんだろうけど、取りあえず気づかないフリをする。

「バルチック魔法少女隊の稼働率は三割を切ってる。ツェザレウィッチを撃破されて、あんたらに対抗できる魔法少女は、今のところ居ないみたいよ。とりあえずは安心して」

 安倍先生は、ポリ高の常勤講師で、この五月からは、わたしたちの二年B組の担任を兼ね、調理研の顧問でもあって。それでいて、特務師団の教官であり高機動車北斗の指揮官であったりする。

 凄い人物に思えるのだが、ポリ高での仕事を含め、学校や特務師団に便利使いされているとも言えるのかなあ……。

「あ、いま、憐れみの目で見ただろ」

「え、いえ、とんでもない。それより『敵も堪えている』という枕詞は、だから休養していいというフレーズに続くのではなく、この隙に、一層の奮励努力をしろという貧乏特務師団の命令に続くような気がするんですけど、これは、所期の目的を果たせなかった前線魔法少女のヒガミでしょうか?」

「単刀直入に言おう、ここしばらくは第七艦隊と連携してやってもらいたいんだ」

「第七艦隊?」

 リアルの第七艦隊は横須賀にあって、先日オリヨールの奇襲を受けて、まだ回復していないはずだ。

「一度行ったことがあるでしょ、霊雁島に司令部がある。ブリンダには、この後に連絡するから、放課後司令部に顔を出してくれ」

「しばらく、学校を休むことに?」

「いや、戦闘は亜空間が主になるから、今まで通りよ。防衛省の地下食堂にも通ってもらわないと、間宮さんも危機にさらすことになるからな。文化祭もあることだし、学校も忙しくなる。覚悟してほしい。回収したインゴットは特務師団で使えるように司令が交渉している。許可が下りれば、少しはマシなことができるでしょ。質問は?」

「食堂のA定食が売り切れてないことを祈ります」

「あ、これを使ってくれ」

 テーブルの上にA定食のチケットが置かれた。

「ありがとうございます」

「それから……」

 先生は、何度目かの足の組み換えをやった。さすがに注意してやろうかと思ったら、瞬間、先生の股間にメッセージが浮かんだ。

――気を付けろ、第七艦隊司令部にはスパイがいる――

 

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真夏ダイアリー・14『乃木坂学院高校文芸部』

2019-09-19 07:21:17 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・14 
『乃木坂学院高校文芸部』    
 
 
 
 
 今朝は平和だった。
 
 昨日みたいにリポーターのオネエサンたちが待ち受けていることもなかったし、学校で写メをねだられることも少なかった。  
 昨日は「平和という名の欺瞞」なんて思いこんだけど、世間は、たった一日で興味を失った。 
 
 まあ、AKRの黒羽さんたちが、先手を打って、明るく世間に公表したおかげだと感じた。これを下手に隠しだてなんかすると「隠したものなら見てみたい!」というのが世の常。「どうぞ、全部見せます」と大っぴらにされると、世間は興味を失う。  だいたい中身を冷静に見てみれば、別れた夫婦の娘が似ていて、片っぽがアイドルだったってだけの話。その全てが大っぴらになってて、自分たちで一通り取材しても新しいことが何もでてこない。
 
 ただ、我が家的には影響は残っている。
 
 お母さんは平気そうな顔してるけど、別れた亭主のことが大っぴらになって嬉しいわけがない。そういう点では同情するけど、それを、わたしにさえ感じさせない母親ってのも娘としては寂しい。まあ、言われりゃ言われたでウザいと思ってしまうんだろうけど……わたしもムツカシイ性格だ。ただ、鉢植えのエリカだけが母子の苦悩を知ってか、薄桃色の花を満開にしている。
 
 ちょっと整理しとく。   
 
 お母さんとお父さんが別居し始めたのは十年前。原因は、わたしがお母さんのお腹の中にいたころにお父さんが浮気したこと。その浮気は、わたしが六歳のころに発覚した。浮気相手はそれまでシングルマザーでアメリカに行っていた。で、アメリカでの仕事がうまくいかなくなり帰国。それを知ったお父さんは、放っておくことができずに、そっちと同居しはじめ、それ以来、別居状態。で、八か月前に正式に離婚。わたしは鈴木真夏から冬野真夏になった。
 潤は六歳までアメリカで生活していたので、表情なんかが、わたしとまったく違って、お父さんは「少し似ている」程度の認識しかなかった。そして十年の歳月のうちに、潤とわたしの腹違いの姉妹はそっくりになり、潤がアイドルになって、ジュンプ堂のサイン会でわたしが潤に間違われたことで、全てがさらけ出され、ことここに至っている。
 
「学院に行ってみないか」 省吾が言った。 
「なにしに?」 
「江ノ島のご招待。うちの文芸部って、ほとんど名前だけのクラブだろ。あっちは本格的だから」
「遠慮しとくわ。わたし、あんまり興味ないし」 
「そうか……学食で、特製ランチごちそうしてくれるらしいぜ」 
 その言葉に、わたしの好奇心よりもお腹の虫が反応してしまった。
 
 乃木坂は、学院が付くと付かないじゃ大違い。付けばセレブな私学だし、付かなきゃ、しがない都立高校。 利用する駅こそ、千代田線の乃木坂駅だけど、坂を上ったところがセレブな乃木坂学院。下ればエコノミーな都立乃木坂高校。世間じゃ、乃木坂上りと下りで、両校の名前としてるぐらい。 
「ああ、坂上、セレブなほうね」ってな具合。 
 その格差の中でも、学食の違いは際立っている。 
 うちの学校では、単に「食堂」あるいは「学食」というが、学院では「キャフェテリア」という。
 学食定番のカレーライスだって、うちは明らかに業務用(カウンターから見えるところに「業務用」と印刷されたカレーの段ボール箱が積んであり。その中のカンカンは、まんまテーブルごとのごみ箱になってる。学院はルーから自前で作っている。当然他のメニューは推して知るべしで、その中でも特製ランチは伝説の味と言われている。
 
「やあ、ようこそ」
 
 江ノ島雄太さん(改まっちゃった)は、校門の脇で待ち受けていてくれた。わが乃木坂は、ワンピース・Zを観に行った者が多く省吾と玉男だけ、それにわたしと穂波がくっついている。 
「時間時だし、キャフェテリア先に行こうか」 
「いいえ、そんな……」 と言いながら、お腹の虫は正直に反応する。
 
 一応学食らしくトレーに乗ったセルフサービスだけど、乗ってるものが違う!
 
 ポタージュスープ、なんちゃらムニエルにロースカツ、彩り豊かなサラダに、パンが焼き立て二個。思わずニコニコ。 
「いっただきまーす!」  
 まずは、スープから。さすがにカップスープだけど、美味しいぞ~!  そう思ったら、メガネが湯気で曇ってしまった。わたしは昨日のことがあるので、メガネで軽く変装していた。それをうっかり外してしまった。とたんに……。 
「キャー、小野寺潤よ!」 「いや、そっくりさんだぜ!」 「いや、びっくり! どっちでも!」 
 とたんに、数十人の学院のみなさんに取り巻かれてしまった……。
 
 握手会、サイン会が終わって、やっとランチ……ポタージュには薄く幕が張り、他のも食品サンプルのように冷めてしまっていた。でも、腐っても鯛、冷めても乃木坂学院。美味しく頂きメガネをかけ直し、クラブハウスへ。 
「ウワー、すごいわ!」 玉男が胸で手を組んで感激した。
 壁の四方が作りつけのラックになっていて、古今東西の名作……は、ちょっとだったけど、DVDやらRDの映像資料や、マンガやラノベのタグイが所せましと並んでいる。 
「一般図書は図書館で間に合わせてる……というのは、建前で、うちの文芸部はサブカルチャーに力点を置いている」 
「「「「はい!」」」」 
 江ノ島クンのご託宣に、女子部員のセーラー服四人が頷いた。
 
 そして、彼女たちのテーブルの上には『ガールズ&パンツァー』のDVDとコミックが並んでいた……。
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宇宙戦艦三笠・5 [旅立ちの時・3]

2019-09-19 07:09:21 | 小説6
宇宙戦艦三笠・5 
 [旅立ちの時・3] 


 
 みかさんが消えると、オレたちは普段の服装に戻っていた。

 オレはジーパンに生成りのシャツ。樟葉は赤いチュニックの下に厚手のタイツ。美奈穂はチノパンにギンガムチェックのシャツ。トシは引きこもり定番のジャージ。
「ま、とりあえず寝ようか」
 いつもの生活時間では、もう寝る時間なので他の3人も異議は無かった。
 艦内の様子は頭に入っていた。さっきあれだけのチュートリアルをやったので、艦内のことが分かっているのはなんの不思議も感じなかった。

 どうやら、オレが艦長らしいのはチュートリアルで分かっていたのでためらいながらも艦長室に。他の三人も船の幹部なので、それぞれの部屋に向かっていった。艦長室のクローゼットには、日ごろオレが着る服がかかっていた。迷うことなくパジャマに着替えるとベッドに潜り込む。が、なかなか寝付けない。ようやくウトウトしかけたころに、みかさんの声がした。
「レム睡眠を利用して説明の続きをさせてもらうわね」
「え、睡眠中に?」
「うん、ただ眠っていてもロクな夢みないから。それに、睡眠中の方が冷静に理解ができる……見て、これが今の地球」
「……きれいだ」
「そして、これが100年後の地球」

 それは、表面がほとんど真っ白になった氷の玉のようだった。これじゃ、どんな生物も生きてはいけないだろう。

「あれはUFO……?」
「そうよ。UFOに合わせて画面を切り替えるわね……」
 スライドショーになった。100以上のUFOが入れ替わり立ち代りして見えた。
「タイプは様々だけど、グリンヘルドとシュトルハーヘンの探査船」
「マゼラン星雲の?」
「そう、地球が氷河で覆われたら、移民するつもりで監視してるの」
「氷河の地球に?」
「彼らには部分的に氷河を溶かす技術がある。氷河の1/4も溶かせば、十分に20億人ぐらいは住めるわ」
「で、オレたちが目指すのは……?」
「ピレウス。マゼラン星雲の良心……ここで氷河防止装置を受け取るの……あなたたち4人の力で」
「おれたちの……」
「そうよ、あなたちは……」

 そこで、オレはノンレム睡眠に落ちていった……。

 習慣と言うのは恐ろしいもので、目が覚めると制服に着替えてしまう。で、朝食の7時になるとトシを除く3人が士官食堂に集まった。インストールされた情報によるものか、美味そうな朝飯の匂いに釣られたのかは判然としない。
「ハハ、やだ、みんな制服着てる!」
 美奈穂がケタケタ笑い、オレと樟葉はなんだか照れた。
「トシは?」
「あいつは、まだ寝てんだろ」
「ああ、引きこもりだものね」
 そして、朝飯を食べながら夕べ見た夢の話をした。三人とも同じ夢を見たようだ。話がたけなわになった時に、ソロリとドアが開いた。

 なんと、トシが制服を着てドアから半身を見せていた。

「あ……入っていっすか?」
「入れよ。トシにしちゃ、上出来の早起きじゃんか。ま、座れ」
「トシ君も、夢見たんでしょ?」
「はい、おそらく同じ夢……って、みかさんが言ってました」
「やっぱり、ピレウスに氷河防止装置をとりにいくとこまで?」
「ボク眠りが浅いんで、続きがあるんです……ちょっと怖い続きが」

「怖い続き……」
 
 三人の視線がトシに集中した……。
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物語・ダウンロード・8《ローマの休日》

2019-09-19 07:01:48 | ライトノベルベスト
物語・ダウンロード・8
《ローマの休日》
        



「え、次の仕事!?」

――落ち込んでいてもしかたないだろ――

「だめよ、わたしまだ幸子のパーソナリテイーのままなんだから。今日はもうやすませて、お願い……」

 マシンから衣装が転がり出てくる。

「もう……わたしはね……「ローマの休日」のオードリーのコスチューム……」

 マシンがクエストを吐き出す。幸子のままのノラ、モニターを睨みながら取りに行く。

「新作ゲームのCMの依頼……『ローマの休日をもう一度』……チープなギャルゲーね……わたしのこと、すりきれるまで使うつもりね……」
――こういうときは、仕事したほうが気が紛れるよ――
「いいわ! このブルーな気持ちを紛らすことができるなら……もともとオードリー似だものね、幸子は(間、着替えの動きとまる)……え、あ、ごめんなさい。ちょっと考え事……しかたないでしょ。わたしのメモリーは幸子のままなの。その幸子がオードリーを演じるの! よいしょっと……ハハハ、お婆さんみたいね……え、いつも言ってる? 中古だものね……さ、行くわよ」

 マシンから仕事の資料をとり、ドアを開けて飛び出し。撮影現場に着く。

「 お早うございます。オードリーをやらせていただきます、松田幸子と申します」
「きみ、アンドロイドだろ?」
 監督が、戸惑ったように聞いた。
「ええ、アンドロイドです。オードリーのパーソナリテイーはダウンロードしてませんので、そっくりというわけにはいきませんが……」
「ま、こういうのも新鮮で、ありかな」
「はい、ありがとうございます……」
「はい、これ台本」
 ぱらぱらとめくるだけで理解する。
「早いね」
「ハハハ、アンドロイドですもの理解は早いです。相手役の方は……ああ、CGのハメコミ……いっそ、わたしのもモーションキャプチャーにしたら……」
「アナログの新鮮さで勝負。それに君のイメージにビビっときた!」
 
 監督の言葉で、スタッフが動き始めた。
「苦悩を内にひめた無邪気さがいいよ」
「ハハハ、ありがとうございます。おほめいただいて」
 どうも、この業界は、プラス思考で進んでいるらしく、ノラも、少し元気になった。
「じゃ、本番いきまーす!」
「いきなり本番!? リハーサルなし?」
「その方が新鮮!」
「はい、分かりました。でも、だめなら撮り直してくださいね」
 いきなり、後ろからなにやらを差し出されて驚く。
「わ……アイスクリーム! ありがとうございます。差し入れですか?」
「ハハ、小道具」
「ほんとシリコンだ……スペイン広場のシーンですね……」
「じゃ、本番いきます。よーい……はい!」

 BGM入る。ノラは、階段の手すりを示す柱に腰掛けて、アイスクリームを舐める。後ろから階段を下りてきたグレゴリー・ペックが声をかける気配。

「あら!……また、お会いしましたわね……え、ええ、今日は、もう学校お休みしようと……抜けだしてきちゃったから。だって、こんなに空は青いし、雲は白いし……とってもすてきな朝でしょ。あなたには分からないでしょうけど、自分の思うように、いろんなことがしたいの。だれにも束縛されないで。アイスクリーム舐めたり、カフェに座ったり、ウィンドショッピングしたり、雨の中を歩いてみたり……親が心配?……一日だけのことだから。それに、父も母も忙しくしているから……気が付きませんわ。親の仕事?……んー……一種の広報係です。父も母も……その……人を接待したり、あいさつしたり……愛情は……ええ、もっていてくれていると思います……でも、とても古風で、厳格な家庭だから……あなたは……もう、お仕事の時間……え、あなたも時間が空いていらっしゃるの!? ほんとうに!? ええ、ぜひ!……ああ、ちょっと待って……」

 アイスクリームのコーンのヘタを、ゴミ箱の投げ入れる。

「やったー! ストライク!」

「はい、OK!」
「ちょっとメーク直しますね。
「次は祈りの壁、続いて真実の口いきまーす。よーい、はい!」

 長い壁を見あげつつ歩くノラのオードリー。

「……これが……祈りの壁。お花がいっぱい……そう……空襲で火に追われて、ここまで逃げた母子が、神様に祈り続けて命がたすかった……それが、この壁の下。ここね……それで聖地のようになって、お祈りする人が絶えない……いいお話しね……(なにごとか祈る)……内緒です……ここは……古いお堂のよう(鉄の柵を開ける音)……かびのにおい……『真実の口』?……嘘つきが、この口に手を入れると食いちぎられる?……え、わたし?……大丈夫、わたし嘘つきじゃないから……(一二度ためらって手を差し入れるが、すぐにもどす)エへ、エヘヘ……次は、あなたの番よ……そう、嘘つきじゃないんでしょ、あなも……」
 
 グレゴリー・ペックのジョーの動きをドキドキしながら見守る。突然手を噛まれるジョーの悲鳴! オードリーは悲鳴をあげ、渾身の力で彼の腕を引き抜く。

「キャー! 手、手が……え!?(上着の袖からニョッキリ手が 出てくる)袖の中に手を隠していたのね。バカバカバカ……本気で心配したじゃないの!」
「はい、OK! 次はスクーターの暴走……こりゃ一人じゃ無理かなあ」
「……でしょうね。ここはやっぱり相手役がいないと。モーションキャプチャーでも……そう、明日撮り直します? はい、わたしはかまいません。同じ時間にここで……はい、おつかれさまでした」

 くるりと振り返ると、意外な人物が立っていた……。
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高安女子高生物語・92〔久々の志忠屋〕

2019-09-19 06:50:10 | ノベル2
高安女子高生物語・92
〔久々の志忠屋〕
         


 

 今日のテスト勉強も麻友の世話になる。

 学校では落ち着かへんのと、麻友へのお礼を兼ねて南森町の「志忠屋」へいく。1月の27日に行ったきりやから忘れてる人も多いかも知れへん。うちのお父さんの40年前からのお友だちで、映画評論の傍らイタ飯屋さんをやってる。おもろいオッサンで、うちも子供のころから何かにつけて世話になってる。春からのリニューアルで、夜の営業だけになってしもたけど、この7月から、やっとランチ再開。
 でもって、麻友を誘って志忠屋に来たわけ。2時でランチタイムは終わるけど、あとのアイドルタイム(準備中)は、テーブル席を使わせてくれる。麻友へのお礼と勉強と人生相談を兼ねた要領のええ企画。

      

「おいしいね、ここのパスタ!」
 海の幸パスタに、麻友は大感激。見かけによらん明るさと大きな声にタキさんが興味持った。
「明日香もおもろそうな友達持ったなあ」
「うちのテスト勉強の師匠。で、うちの新しい親友。麻友はね……」
 麻友のあれこれを話すとタキさんもKチーフも、俄然麻友に興味を持ってくれたみたい。気が付くと店のBGMが、いつのまにかサンバに変わってた。麻友の体が小刻みにリズムを取り始めた。
「ちょっとハジケテもいいですか?」
「ああ、アイドルタイムやさかいかめへんよ」
「イヤッホーーーーーーーーーーーー!」
 頭のテッペンから声出して、麻友はハジケた。オッサン二人とうちが、鍋の蓋やらグラスでリズムをとると、麻友は一人で店の中をリオのカーニバルにしてしもた。
「さすが、ブラジルの子やなあ!」
「ワールドカップで夜も寝られへんやろ!?」
「ネイマールの怪我、わしらでも、アって思うたもんな!」
「え、あ……ネイマールは、4週間たったら治りますし」

 麻友の冷めた言い回しに、盛り上がった店の空気がいっぺんに冷めてしもた。

「麻友ちゃんは、なんか胸にありそうやな……」
 優しく言いながら、タキさんはサービスでオレンジジュースを出してくれた。麻友は例の定期入れの写真を出した。
「お兄さん……やねんな」
「十八になります……生きていたら」

 麻友の目から涙が溢れた……。

 涙ながらの麻友の話をまとめると、こんな感じやった。
 麻友の兄の友一(ゆういち)は、ハイスクールでサッカーのエースやった。それが去年の試合で凡ミスをやり、決勝戦を落としてしもた。
 ほんで、試合の帰り道、みんなからハミゴにされて帰る途中、道路を渡ろうとして車に跳ねられた。直接の原因はいっしょに道路を渡ろうとした子供だった。車は子供を避けようとして、ハンドルを切った。
 この時、ハンドルの切り方には二つの選択肢があったんやそうや。右に切れば、通行人の誰にも接触しないが、スピンして、向かいの店に突っ込みそうだった。左に切れば友一を引っかけそうだったが、友一の運動神経なら、避けてくれると運転手は判断し、とっさにハンドルを左に切った。
 そして、兄の友一は車に跳ねられて亡くなってしまった。そして、運転手は、同じサッカーチームのメンバーだった。

 麻友と両親は、運転していたチームメイトに殺意があると思た、少なくとも未必の故意があると思た。しかし、警察も世論も、チームメイトの味方ををした。父親は裁判まで持ち込んだけど負けた……だけと違うて、町中から非難のまなざしで見られた。で、勤めていた日系企業の日本本社への転勤を希望して、親子三人で大阪に越してきたんや。

 うちは、初めて麻友の秘密を知ってしもた。もう明日のテストは欠点でもええと思た。

 せやけど、麻友は切り替えが早い。
 おしぼりで顔を拭くと、きっちり一時間かけて、明日のテストの山を教えてくれた。天満の駅まで歩いてるときは、もう普通の麻友やった。

 その日のMNB47のレッスンは快調で、夏木先生もべた誉めやった。
「歌もダンスも、元気でハリがあってグッド! それでいて少女の憂いってか、存在の悲しさが出てて、とても良かった。選抜の子でも、こういう風にやれる子は、めったにいないわよ!」
 うちは、それが麻友の影響やいうのが分かった。ほんで、その誉め言葉に喜んでる自分も発見。

 自分がメッチャ嫌な子に思えてきた。
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小悪魔マユの魔法日記・38『フェアリーテール・12』

2019-09-19 06:41:10 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・38
『フェアリーテール・12』   



――やあ、ここにいたのか!?

 振り向くと、楓(かえで)の葉っぱが一枚宙に浮いていた。
「そんなに気を遣わなくてもいいのよ、裸だと風邪をひくわよ」
 赤ずきんが、葉っぱの方を見ないようにして言った。
――でも、姿を現したら、キミが辛いだろうと……。
「もう、気持ちの整理はついたから。それに透明になって身を隠すんだったら、その楓の葉っぱはよしたほうがいいわよ」
――透明でも……ここだけは、きまりが悪くって……。
「その楓の葉っぱがユラユラしてるの、かえっていやらしいわよ」
――そ、そっかなあ……。
「エヘン……あのう、わたしにはちゃんと姿見えてるんだけど」
 マユが、楓の1メートルほど上のところを見ながら言った。楓がびっくりしたように落ちてしまい、マユの顔が真っ赤になった。
――ほ、ほんと!?
「ほんと」
 楓は大あわてで、元の位置にもどると、道の向こうの薮の中に隠れてしまった。
「ごめんね、情けないとこ見せちゃって」
「あれが、赤ずきんちゃんのタソガレの原因なんだね」
「うん……あいつが戻ったら、説明するわね」

 二三分すると、気配が服を着て現れた。むろん姿を現して……。
 マユは、自分たちの斜め向かいに、別のベンチを出してやった。

「ひょっとして、キミがウワサの魔法使い……おっと、危ない。このベンチ、崖のすぐ間際だよ!」
「そう、事と次第によっては、ベンチごと崖下に落としてあげるわ」
 マユが、ふーっと息を吹きかけると、ベンチが後ろに傾いた。
「ワ、アワワワ……」
 ジャニーズ系のイケメンが吉本のお笑いさんのように、慌てた。

「……と言うわけ」
「……なんだよ」
「エ――!!」

 二人から説明をうけたマユは、レミから話をされたときのように驚き、慌てて口を押さえたが、漏れた鼻息で、イケメンを崖に落としてしまった。
「ごめん!」
 そう叫ぶと、マユはラプンツェルのように髪を伸ばしてイケメンを助けた。
 髪を伝って上がってきたイケメンは、バラエティーで罰ゲームをうけたお笑いさんのようになっていた。

「じゃ、なに、赤ずきんちゃんは、この狼男。それをそうだとは知らずに好きになっちゃった。で、この狼男は、狼になったときに、知らずにお婆ちゃんと赤ずきんちゃんを食べちゃったってわけ!?」
「うん……」
 二人がそろってうなづいた。
「で、でもさ……どうして、そのことが分かったのよさ!?」
「……それは……ね……この人の裸を見たら、お腹に大きな傷があって」
「ボクは、腎臓結石をとったときの傷だと思っていたんだ。だってお母さんがそう言ってたから」
「わたしも、それで納得したんだけどね。デートが終わって、名残惜しいものだから、ずっと彼が帰っていく姿を見ていたの。そうしたら峠を越えた向こうで狼の遠吠えがして……てっきり彼が狼に襲われたと思って、怖さも忘れて駆けつけたの……」
「そうなんだ、赤ずきんちゃんは、自分がほとんど裸だったのにもかかわらず、ボクのことを心配して見に来てくれたんだ」
「すると、そのとき、雲がお月さまにかかって……この人が、ちょうど人間にもどりかけているところを見てしまって、思わず叫び声をあげてしまったの。マユちゃんほどじゃないけど、わたしの叫び声もすごくて、あのとき、わたしを助けてくれた猟師さんが駆けつけて……そいつは、こないだお婆ちゃんと赤ずきんちゃんを食べた狼だ。その傷はわたしが縫ったんだからなって」
「ボクは、なにも知らなかったんだ。そのとき、初めて自分が狼男だったってことが分かったんだ……」
 マユは眉をつり上げて聞いた。
「でもさ、そうだったとしてもさ、自分のお腹にいきなり大きな傷ができて、なんとも思わなかったの?」
「ボクは、子どものころから記憶がまだらなんだ。血だらけで帰ったり、服がボロボロになっていたり……そのつど、お母さんが説明してくれて……」
「で……一つ聞きたいんだけども、そんな夕暮れ前に、なんで二人裸でいたのよさ……?」
「それは……」
「ねえ……」

 見交わす二人の目から、☆が出て、ぶつかって、大きなハートマークになっていった……!

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