魔法少女マヂカ・078
それは魔法少女アリスの最後だった。
敵を追っていると、自分が主人公のアニメそっくりな異世界に飛び込んでしまい。ウサギを追いかけるというトラップに引っかかって、遭えない最期を遂げたのだ。
「では、君たち専用の高機動車を見せよう」
スクリーンから目を移すと、声の主はディズニーではなかった。
ヘンリー・フォード……
ライン生産による自動車の大量生産を成し遂げ、世界のモータリゼーションに先鞭をつけたヘンリー・フォードだ。
エジソンの友だちでもあったなあ……とか思い出しているうちに、ドッグへと通じる廊下を歩いている。
「アメリカも世界戦略を練り直しているところで、思い切ったことはできないんだが、特別に二人の為に用意したエンタープライズ号だ」
世界初の原子力空母とスマートな宇宙船を思い浮かべたが、ゲートを潜った先に見えたものは骨とう品だった。
T型フォード……?
「見かけは骨とう品だが、人類のモータリゼーションの夢を背負っている。空も飛べれば時空も超えられる。主要な武器はヘッドライトにしこんだパルス砲だが、他にもいろいろある。実戦の中で学んでくれればいい。そう、実戦こそが最高の学習だ。アリスは残念な結果だったが、なあに、魔法少女は不屈の魂だ。さ、時間がない。タイム イズ マネーだぞ。一言ありそうな顔だが、機先を制して、こう言おう『あらさがしをするよりも改善策を見つけよ。不平不満など誰でも言える』 さ、出発したまえ! 世界は結果を待っている!」
フォードの最後の言葉に被せるようにブルンと身震いして、エンタープライズは霊雁島の上空に飛び立った。
「なんか、勢いに誤魔化された気がする」
「考えない方がいい。もっとも考えが足りないとアリスのようになってしまうがな」
「うん、肝に銘じておく。しかし……司令官の正体はなんだったんだ? いっぱいいるから安心しろ……という意味か……末期的分裂症の現れか? なんだか、代わり映えのしない来栖司令の方が頼もしく思えてきたぞ。第七艦隊と言いながら、一隻も船はなくて、こんなポンコツ自動車があるっきりだし」
「第七艦隊の『七』は七変化(しちへんげ)の七かもな」
「どうせ変化して見せるなら、映画俳優とかの方がよかったな」
「レーガン大統領は、元々は映画俳優だぞ……て、慰めにもならないか」
「それで、当面の敵はなんなんだ? アリスをハメた白兎?」
「予断とか予測は持たない方が……ほら、マヂカが思うから、現れてしまったぞ」
前方の空中に、時計を見ながら急いでいる白兎が現れているのに気が付いた。
「ああ、無視無視、うまくいっても、いかれた帽子屋に出会うか狂ったハートの女王に出会うだけだからな。あ、ちょっとミラーの向き変えてくれないか」
「うん……え?」
手を伸ばしてビックリした。ミラーの中にはアリスが映っていた!?