大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・078『M資金・12 アリス』

2019-09-26 14:10:46 | 小説

魔法少女マヂカ・078  

 
『M資金・12 アリス』語り手:マヂカ 

 

 

 それは魔法少女アリスの最後だった。

 敵を追っていると、自分が主人公のアニメそっくりな異世界に飛び込んでしまい。ウサギを追いかけるというトラップに引っかかって、遭えない最期を遂げたのだ。

「では、君たち専用の高機動車を見せよう」

 スクリーンから目を移すと、声の主はディズニーではなかった。

 ヘンリー・フォード……

 ライン生産による自動車の大量生産を成し遂げ、世界のモータリゼーションに先鞭をつけたヘンリー・フォードだ。

 エジソンの友だちでもあったなあ……とか思い出しているうちに、ドッグへと通じる廊下を歩いている。

「アメリカも世界戦略を練り直しているところで、思い切ったことはできないんだが、特別に二人の為に用意したエンタープライズ号だ」

 世界初の原子力空母とスマートな宇宙船を思い浮かべたが、ゲートを潜った先に見えたものは骨とう品だった。

 

 T型フォード……?

 

「見かけは骨とう品だが、人類のモータリゼーションの夢を背負っている。空も飛べれば時空も超えられる。主要な武器はヘッドライトにしこんだパルス砲だが、他にもいろいろある。実戦の中で学んでくれればいい。そう、実戦こそが最高の学習だ。アリスは残念な結果だったが、なあに、魔法少女は不屈の魂だ。さ、時間がない。タイム イズ マネーだぞ。一言ありそうな顔だが、機先を制して、こう言おう『あらさがしをするよりも改善策を見つけよ。不平不満など誰でも言える』 さ、出発したまえ! 世界は結果を待っている!」

 フォードの最後の言葉に被せるようにブルンと身震いして、エンタープライズは霊雁島の上空に飛び立った。

「なんか、勢いに誤魔化された気がする」

「考えない方がいい。もっとも考えが足りないとアリスのようになってしまうがな」

「うん、肝に銘じておく。しかし……司令官の正体はなんだったんだ? いっぱいいるから安心しろ……という意味か……末期的分裂症の現れか? なんだか、代わり映えのしない来栖司令の方が頼もしく思えてきたぞ。第七艦隊と言いながら、一隻も船はなくて、こんなポンコツ自動車があるっきりだし」

「第七艦隊の『七』は七変化(しちへんげ)の七かもな」

「どうせ変化して見せるなら、映画俳優とかの方がよかったな」

「レーガン大統領は、元々は映画俳優だぞ……て、慰めにもならないか」

「それで、当面の敵はなんなんだ? アリスをハメた白兎?」

「予断とか予測は持たない方が……ほら、マヂカが思うから、現れてしまったぞ」

 前方の空中に、時計を見ながら急いでいる白兎が現れているのに気が付いた。

「ああ、無視無視、うまくいっても、いかれた帽子屋に出会うか狂ったハートの女王に出会うだけだからな。あ、ちょっとミラーの向き変えてくれないか」

「うん……え?」

 手を伸ばしてビックリした。ミラーの中にはアリスが映っていた!?

 

 

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真夏ダイアリー・21『ハッピークローバー』

2019-09-26 06:58:12 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・21
『ハッピークローバー』       





――事務所のミスで、仕事がダブルブッキングになっちゃって。タムリの『つないでイイトモ』と『AKRING』の収録が重なって……。

「まさか、そのどっちかに出ろっての……!?」

――申し訳ない、『イイトモ』の方に……。

 異母姉妹の潤の電話のおかげで、わたしは『つないでイイトモ』の収録のため、HIKARIプロの吉岡さんが運転する車に乗せられて、テレビ局に向かっている。
「まあ、MCのタムリさんは気の付く人だから、潤が来るまで、テキトーに合わせてりゃいいから。ま、これでも飲んでて」
 温かい缶コーヒーをくれながら、吉岡さんは、わたしを慰める。でも、そもそもこの吉岡さんが、渋谷のジュンプ堂でわたしを潤と間違えたことが問題の発端になっているわけで、その温もりは缶コーヒーほどにも長続きしなかった。

 わたしは、家を出るときに、すでにAKRの制服に着替えさせられている。あくまで、わたしは小野寺潤として、テレビカメラの前に出る。むろんスタッフの人もタムリさんも知っている、わたしがニセモノだってこと。
 潤は真夏のままでいいって言ってたけど、事務所としてはギリギリまで、わたしと潤とのことは伏せたいらしい。わたしは、どこかで、お母さんとお父さんのことを許していない。だから、潤と異母姉妹であることがバレても構わないという開き直りがある。でも、潤に迷惑はかけたくなかった。
「もう着くよ」
 わたしでも知っているTテレビが見えてきた。わたしは、無意識にポッケの中のラピスラズリのサイコロを触っていた……。

「おはようございます」

 自分でも驚くほど、自然にふるまえた。
「え、ほんとに潤ちゃんじゃないの!?」
 タムリさんが、サングラスをとって、マジマジと見た。
――案外、普通のオジサンだ。わたしは、そう感じた。
「ギリギリまで、潤本人ということで、お願いします」
 吉岡さんが頭を下げる。
「うん、いいよ。事務所の都合ってのもあるんだろうし。でも、きっとバレちゃうよ、いつかは」
「そのときは、そのとき、明るいスキャンダルってことで着地させようと思ってます」
「まあ、なんとかなりますよ。アハハ」
 思ってもいない言葉が潤そっくりの言い回しで、自分の口から出てくる。自分でも驚いた。

「潤ちゃんは、ハッピークローバーで大抜擢だったんだよね」

「ええ、それまではAKRの研究生で、抜擢されたときなんか足震えましたもん」
「だよね、で、デビューでいきなり萌ちゃんとか知井子とかユニットだもんね」
 最初は、当たり障りのない、趣味とか、好きなタレントさんの話だった。でもタムリさんがのっちゃって、潤にしか分からないデビュー当時の話を振ってきた。内心あせったけど、自分でも考えてもいないようなことが口をついて出てくる。
「あれ、たいへんでしょ。一番のサビが終わったところでバーチャルの拓美が出てきて合わせんの」
「ええ、だいたいの立ち位置は分かってるんですけど、手とか足とかの振りが被っちゃうんですよね。人間同士だったら、ぶつかっちゃうんで分かるんですけど、バーチャルだから見えなくってね」
「あれ、潤ちゃんたちには見えてないの?」
「ええ、ホログラムで、周りの人には見えてんですけどね。拓美が動くエリアの中じゃ見えないんです」
「そうだったんだ、オレ、てっきり見えて合わせてんのかと思ってた」
「来年には新曲が出るんで、その時には見えるようにしてもらえるらしいんですけどね」
 わたしってば、知らないことまで喋ってる!?
「じゃ、今日は、そのホログラム借りてきたんで、ちょっとやってもらえるかなあ」
「え、え~、今ここでですか!?」
「いいじゃん、制服も着てることだし」
 吉岡さんが、スタジオの隅で慌てている。どうしよう……。
「仕方ないなあ。タムリさんが、そういう目つきしたときは断れないんですよね」
「ウシシ、よく知ってんじゃん」
「だから、AKRじゃ多無理さんなんて書くんですよ!」
 わたしは、ADさんのカンペをふんだくって多無理!って書いてやった。
「ハハ、まいったなあ」
 そう言いながら、タムリさんが頭を掻いていると『ハッピークローバー』のイントロがかかりだした。




《ハッピークローバー》

 もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
 白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘

 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
 これはシロツメクサって チイコがしたり顔してご説明

 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印 
 茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ

 なんで、そんなにくわしいの くわしいの

 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ

 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー

 四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの 
 踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの
  
 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー! 




 サビのところでホログラムの拓美が現れる……そんなことより、自分の体が勝手に動いて歌って踊っていることが不思議だった。
 で、二番になったところで、本物の潤が入ってきた……!


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宇宙戦艦三笠・12[ステルスアンカー・2]

2019-09-26 06:48:34 | 小説6
宇宙戦艦三笠・12
[ステルスアンカー・2] 



 

 

 ステルスアンカーとは、巨大な銛(もり)のようなものだ。

 大きさは10メートルほどであろうか、テキサスの艦尾に食い込み、その端には丈夫な鎖が付いていて、鎖の端は虚空に溶けて見えないし、コスモレーダーにも映らない。テキサスは出力一杯にして振り切ろうとしたが、まるで弱った鯨が捕鯨船の銛にかかったように、艦尾を振り回すだけだった。
「修一くん、直ぐに助けてあげて。時間がたつほどあのアンカーは抜けなくなるから!」
 みかさんの声にこたえ、修一は樟葉とトシに命じた。
「テキサスの前方に出る。艦尾のワイヤーを全部使ってテキサスの艦首のキャプスタン(巻き上げ機)やボラート(固定金具)に結束!」
「了解、全ワイヤーをテキサスの艦首に固定!」
 三笠の艦尾から、ありったけのワイヤーが発射され、自動的にテキサスのキャプスタンや、ボラートに絡みついた。
「微速前進いっぱーい!」
「了解、微速前進いっぱーい!」
 トシが復唱し、エンジンテレグラムの針は、いっぱいに振れた。
「三笠は、見かけによらず出力は20万馬力です。必ず引っ張り出します!」

 引きこもりのトシが、こんなに真剣にやる気を見せるのは初めてだった。やがて、テキサスの艦体は軋みだし、軋みは、やがて苦悶の悲鳴に変わっていった。
「ジェーン、大丈夫か!?」
――大丈夫。テキサスは100年も生きてきた丈夫な子だから……!――
 テキサスの軋みは、やがて言葉になってきた。
――公民権運動……ヴェトナム戦争……奴隷制……マンハッタン計画……大統領暗殺……イラク戦争……民族差別……TPP……排出権取引……キューバ危機……南北戦争……イラン……中国……北朝鮮――

 アメリカにとって、過去の過ちや、暗礁に乗り上げている問題などが、次々と悲鳴になって出てくる。ステルスアンカーというのは、その船の所属する国が苦悶している過去と現在の問題を引きずるようにして、船の自由を奪うもののようだ。

――あ、ああー!!――

 ジェーンの声が悲鳴になったかと思うと、テキサスは艦尾1/4をアンカーに食いちぎられて、スクリューや舵を失って、やっとアンカーから離れた……海に浮かぶ船なら、もう沈没状態だ。
「ジェーン、大丈夫!? 大丈夫、ジェーン!?」

 しばらく、テキサスもジェーンも沈黙していた。もう船としては死んだかもしれない。

――こちらジェーン……なんとか生きてる。しばらく曳航してくれる? そいで、ちょっと……むちゃくちゃになったから、しばらく居候させてくれないかしら……――
「いいよ。なんたって、こっちは4人しかいないんだから大歓迎だよ!」
 やってきたジェーンはボロボロだった。髪はあちこち引きむしられたようになり、シャツもジーパンもかぎ裂きや、破れ目だらけになっていた。
「ジェーンを、中央ホールの神棚の下へ。わたしが看病するわ」
 へたりこんだジェーンをみかさんが助けようとすると、ジェーンは、キッパリとその手を払いのけた。
「あのステルスアンカーは、アメリカの矛盾を引き出し、拡大させて自縄自縛にし動けなくする。無理に引っ張ろうとすると艦体が引きちぎられる。このままじゃアメリカ艦隊は全滅する……電信室を貸して、今からワクチンを作る」
「わかった。その間に、テキサスの修復工事をやっておくわ」
「ありがとう、日本の技術なら安心だわ」

 ジェーンは、樟葉と美奈穂に助けられて電信室に向かった。その間にもジェーンの服は、さらにズタボロになっていき、ほとんど裸と変わらないかっこうになっていた。なんとも痛ましくはあるが、見上げた根性だと修一は思った。

「こら、なに見てんのよ。CICに行ってテキサスの復元工事の段取りよ!」
「あ、そんなヤラシイ意味で見てたわけじゃないから……」
「うそ、二人からはイヤラシオーラが出てるわよ!」
 神さまとは言え、女子高生のナリをされていると、つい口ごたえしてしまう。第一オレに関しては誤解だし。
「トシ、離れて歩け。オレが誤解される」
「そんな、オレのせいにしないでくださいよ!」
「どっちもどっちよ。さあ、CICに急ぐわよ!」

 とりあえずグリンヘルドの脅威からは離れた……ように感じられた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・5『あたしがミナミに行かれへんかった理由・2』

2019-09-26 06:40:21 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・5
『ミナミに行かれへんかった理由・2』
         高師浜駅


 

 美保、なんでミナミには行かへんかったん?

 自分が西田さんとこの新装開店に行ってこいと言うといて、お祖母ちゃんは聞いてきた。
「ちょっと調子悪かってん」
「え、調子悪い人が、あんなぎょうさん食べてこられるもんか?」
 家に帰ってから、お祖母ちゃんにスマホを見せて、西田さんのお店で食べたメニューを見せたのが間違い。
 歳の割には好奇心が強いお祖母ちゃんは、追及の手を緩めない。
「その……占いで北の方角は運勢悪うて。ミナミ行くのに北に向かういうのんが、そもそも矛盾やし」
「家からミナミ行こ思たら、いつでも北になるやんか」
 とうとう、あたしの向かいに座ってきよった。
「もう、なんやのん、お祖母ちゃん!?」
「かわいい孫のことは、なんでも知っておきたいやんか」
「あーー、それは口実で、またエッセーかなんかのネタにするんでしょ!」
 
 今日は、ちょっとだけ早起きしたんで、朝食にベーコンエッグを作ってる。半熟がいやなんで、焼けるのに時間がかかってる。それをええことにクソババアは孫をいたぶりだした。

「盲腸の手術と関係あるんとちゃうか?」
「ないない、経過は良好。もう笑うても痛まへんし」
 こういう答え方はあかんねん。嘘でも原因を言わんと、クソババアは納得せえへん。でも、急に嘘も思い浮かばへん。
「盲腸の手術いうのんは、毛ぇ剃るやろ」
「グ……」
 ええ歳をして、マッタイラ並のことを言いよる。
「それが、ちょっと伸びてきたとこでパンツに擦れるのが気色悪い? そやろ?」
「もー! ウソでも、そんなこと書かんといてよね!」
「ハハハ、大丈夫やて。分からんようにするさかい!」
 クソババアは、嬉しそうな顔をして回覧板をまわしに行きよった。

 お祖母ちゃんの本名は天生乙女(あもうおとめ)やねんけど、若いころから応円美里(おうえんみりー)いうペンネームで小説なんかを書いてる。本名は公開してないし、著者近影は眼鏡かけて髪形も変えてるんで、正体知ってる人はめったに居てない。で、それをええことに、ときどき身内のネタで書いたりするよってに始末が悪い。

 念入りの朝ごはんが裏目に出て、ムカついたまま家を出た。

 教室の前まで行くと、壁際の男子がヒソヒソと話をしてる。
 お祖母ちゃんと違て、人のヒソヒソ話に耳をダンボにするようなことはせーへんのやけど、お調子もんのマッタイラが凹んでるんで、つい聞き耳になってしまう。

 姫乃・あんた・キレとった・なんでや……なんてな単語が耳に入ってきた。

――なんかあったんか?
 席に着くと、すぐ後ろの姫乃にメールを打つ。こんな時に、コソコソ話すのはええことない。
――あとで話す 昼休みとかに
 その返事だけで、あたしは昼になるのを待った。

「ね、どー思う!?」

 姫乃が切り出したんは、昼食の後、デザートのブタまんをハフハフ食べながらの中庭のベンチ。
「腹立てても、ヒメノは美人やねえ」
 すみれが天然を思わせるのどかさで空気を和らげる。企んでいるわけとはちゃうねんけど、すみれには、こういうピュアな素直さがある。
「壁際男子に、なんか言われたん?」
 女同士やったら、あたしの問いかけはストレートになる。
「マッタイラがね、わたしのことを『あんた』呼ばわりするのよ!」
「「え、え?」」
 たしかに柳眉を逆立ててるヒメノはベッピンさんやと思た。
「だあからーー『あんた』って二人称、メッチャむかつくんですけど!」
 
 一瞬わからんようになってしもた。
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高安女子高生物語・99〔The Summer Vacation・2〕

2019-09-26 06:30:15 | ノベル2
高安女子高生物語・99
〔The Summer Vacation・2〕
        


 
 規格外とれたてレモンの詰め合わせ!!         

 昨日の初舞台の新聞の評。
 家で一番早起きのお父さんに、朝の6時に起こされて知らされた。
 いっぺんに目が覚めてしもた。


 うちらのデビューは、昨日の夏休み初日の劇場公演の二番目やった。選抜メンバーのヒット曲とトークの最後に紹介された。
「ちょっと異例の早熟デビュー。でもどこか面白くて新鮮! 名無しの6期生初のお披露目! バケーション。どうぞ!」
 選抜センターの石黒麗奈さんの紹介で、うちらは舞台のカミシモから11人づつ出て、バケーションをかました!
 舞台のリハは一回しかでけへんかったさかい、ぶつかったり、イントロの間にフォーメーション整えたり、はっきり言うてドンクサイ。
 せやけど、歌と踊りは二日で仕上げたとは思われへんぐらいにイカシテタ!
 衣装は急にお揃いは間に合えへんので、親会社のユニオシ興行の衣装部から借りてきたオールディーズの衣装。衣装さんの工夫で、ブラウスとスカートが半々の割合で揃てる。それをいろいろ組み合わせてバリエーションを工夫。スカーフは首に、それぞれの工夫で巻いて、バラバラの中にも統一感。
 曲はオールディーズの代表曲なんで、たいていのお客さんもノリノリ。

 あっという間に一曲終わって、石黒さんのMCで全員が10秒ずつの自己アピール。

「河内音頭でオーディション通りました。八尾は高安の河内のネーチャン。佐藤明日香! 明日の香り! では明るく元気に河内音頭の一節を!」
「やられてたまるか! 一人10秒。日本橋は恵美須町。お電気娘のカヨさんこと白石佳代子で~す!」
 てな具合に続いて、ボロが出る直前の10分あまりで退場。

 一応観客席は湧いてた。せやけど、これは選抜の人らが作ってくれた空気に乗ってなんとか恥かかんで済ませられた程度やと思てた。

 ところが、新聞の評は好意的やった。ネットで、スポーツ新聞とか見てみると、三面のトップとはいかへんけど、各紙とも三段ぐらいのコラムで書いてくれてて、さっきの「もぎたてレモン」やら「異色の6期生デビュー!」とか書いてくれてた。
「そや、ブログや!」
 うちらは、研究生になった時から、ブログのソフトを渡されて毎日更新してる。MNBやったら仰山アクセスがある思てたけど、まだ顔も見たことない研究生へのアクセスは少のうて、日に300ほどやったけど、昨日は1000件を超えた。

 コメントが20件ほど着てて「明日香の河内音頭が聞いてみたい」いう書き込みが多かった。

 動画サイトで河内音頭を撮って、さっそく流そ思て、美枝、ゆかり、麻友の三人にメール。いきつけのカラオケ屋で動画を撮ってYoutubeでアップロード。ほんまは、そのままカラオケ屋で遊んでたかったけど、夏休みは午後からみっちりレッスン。
「かんにん、また今度!」

 で、スタジオに行ったら、夏木先生に怒られた……。
 
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小悪魔マユの魔法日記・45『フェアリーテール・19』

2019-09-26 06:23:19 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・45
『フェアリーテール・19』  

 
 
 巨大な渦に巻き込まれていくボートのようだった……。

 実際、ストローハットはボートになって、クルクル回っていた。たったいま渦巻きから出てきたように。
 マユは小悪魔で、ミファは港町の子なので、二人ともボートに酔うことはなかった。
 しかし、様子が分かるのには、少し時間がかかった。

 海は、荒れている。まるで海そのものが興奮しているようだ。

 背丈ほどの波が絶えずわき起こり、マユには海の妖精たちが、なにかおもしろいことを見つけて騒いでいるように思えた。
「低気圧が過ぎたところみたい。ほら、波は、まだ騒いでいるけど、空は青いよ」
 ミファが、港町の子らしく解説した。
「こういうときは、いい獲物がかかりやすいんだ……」
 ミファが、そう続けたとき、波間に、チラッと他のボートが見えた。
「あ、あれは……」
「サンチャゴじいちゃんのボートだわ」
「よく分かったわね」
 ミファが感心した。
「だって、ここは、サンチャゴじいちゃんの夢の中だもの」
「え……そうなの!?」
「見たいと言ったのは、ミファの方だよ」
「夢って、こんなにリアルなものなの……潮の香りも、海の感覚も本物だよ」
「……それだけ、サンチャゴじいちゃんの想いが真剣だってことよ」

 波間に見えるサンチャゴじいちゃんは格闘していた。

 リールを巻いては緩め、呼吸を整え、獲物のそれに合わせた。時にサンチャゴじいちゃんは体ごと海に引きずり込まれそうになるが、必死でふんばった。負けそうになるとリール空回りさせ、釣り糸を伸ばす。
 伸ばして、獲物が一瞬力を抜いた時に思いっきりふんばって、リールを巻き、伸ばした二割り増しぐらいに引き戻す。時には、獲物の力が勝って、逆に二割ほど持って行かれることもあった。
 そんなことを何十編もくりかえし、瞬間、サンチャゴじいちゃんが渾身の力でふんばったとき、そいつは海の上に躍り上がるように姿を現した。
 ドッパーーーン!!
 マユの背丈の五倍もありそうなカジキマグロだ。

「じいちゃん、がんばれ!」
 ミファが思わず声をかけた。
「ここは夢の中なんだ。言っても聞こえないわよ」
「でも、でも、サンチャゴじいちゃん、あんなにがんばってんのに……!」
「だから、夢だって。あんまり入り込みすぎると、夢の中から出られなくなっちゃうよ」
「う、うん……」

 それから何時間たっただろうか、ようやく、サンチャゴじいちゃんは獲物を船縁までたぐり寄せ、モリでトドメを刺した。マユとミファも、ボートの船底に尻餅をついてしまった。

「く、くそ……こんな時に、あいつが居てくれたら」
 獲物のカジキマグロは大きすぎて、ボートに引き上げることができない。サンチャゴじいちゃんは、仕方なく船縁に獲物をくくりつけた。

「あいつって、だれ?」
「……少年」
「少年?」
「あたしたちの仲間。いつもサンチャゴじいちゃんのボートに乗っていた」
「今日はいないの?」
「……親が反対していたから。サンチャゴじいちゃんは大物狙いで、坊主で帰ってくることが多くて、稼ぎにならないって、親が反対してたんだ……これは、じいちゃんの最後の漁なんだ」
「最後の漁って……」
「このままじゃ、終わらないよ……」

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