大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・063『頼子さんの発案』

2019-09-10 14:28:59 | ノベル
せやさかい・063
『頼子さんの発案』 

 

 

 失礼しますぅ……あたしの挨拶に返事は返ってけえへんかった。

 

 部室の一番乗りは、いっつも頼子さん。

 あたしが来るときには頼子さんはお茶を淹れてる。最近は、あたしも香りで種類が分かるくらいになってきた。

 二番目に来るのんが、あたしか留美ちゃんか。

 それが、紅茶の香りもせえへん。頼子さんの姿も見えへん。

 文芸部の部室は図書分室なんで、本棚がいっぱい。その本棚の間をジグザグに進むと窓際にテーブル。そのテーブルにも頼子さんの姿は無い。

 ま、こんなこともあるわなあ。

 カバンを椅子に置いて、お茶の用意。

 イギリス製のケトルを持って、水道へ向かう。

 ジャーー 

 頼子さんが、やってるようにケトルの七分目まで水を満たす。

 

 ヤッタアアアアアアアアアアア!!

 

 グァラグァラ グァッシャン!!

 

 突然の歓声に心臓が飛び出そうになって、ケトルをひっくり返してしまう。

「あ、桜、来てたんだ!」

 本棚の陰から歓声の主が現れる。

「な、なんや、来てはったんですか!?」

「あ、うん。これを直してた。ジャーーーン!!」

 頼子さんはケッタイなスマホみたいなんを三つ掲げた。なんや、これから仮面ライダーにでも変身しそうな勢いのあるポーズ。

「な、なんですか!?」

 変身の風圧に巻き込まれそう(変身が風を巻き起こすのかどうかは知らんけども、頼子さんの勢いはハンパやない!)なんで、思わず後ずさる。

「プレイステーションポータブル!」

「え?」

「ジャンク屋で買ったの、一個200円だよ!」

「200円……?」

 略称PSP、プレイステーションポータブル。とっくの昔に生産中止になったソニーの携帯ゲーム機。

 あたしらは、スマホゲームの世代なんで、PSPどころか、後継機のプレステVitaも知らん。そのプレステVitaも生産中止のはずで、それをなんでPSP?

「これってさ、ノベルゲームとかできるのよ。知ってる? CGの絵とか音声とかが入ってさ、途中に選択肢とかミニゲームとかがあって、話を進めていくの。PSPのソフトって安くなってるし、こういうのでノベルを読んでみるのもありだと思うんだ!」

「使えるんですか?」

「いま、直したとこだから。ネットで直し方調べて、三つとも直った。スイッチとかの接点不良だったから、意外に簡単だった」

「殺虫剤ですか?」

 頼子さんがテーブルに置いたのは、ゴキブリを瞬殺する殺虫剤のスプレー缶そっくり。

「接点回復スプレーさ。古い携帯ゲーム機の故障の半分は接触不良なんだぞ。だから、チョチョイってやると、意外に簡単に蘇る。YouTubeで見て感激してさ、日本橋に直行して仕入れてきたってわけさ」

 第二次大戦で、ドイツのエニグマ暗号機の解読に成功した人みたいに胸を張る頼子さん。ヤマセンブルグの皇位継承者とは思えない無邪気さ…。

「ノベルゲームって、傑作アニメの原作だったり、ラノベの原作だったりするのよ。だから、これからの文芸部は、携帯ゲーム機で文学鑑賞してみるわけ。分かった!?」

 頼子さんは、ここが文芸部であるにもかかわらず、読書を強要せえへん。部室では、お茶を飲んで気ままにおしゃべりしてることが多い。たまに読んだ本の事を聞くと、すっごい博識な答えが返ってくる。せやけど、あれを読め、これの感想を聞かせろとかは言わへん。

 その頼子さんが――君も仮面ライダーに変身しよう!――という勢いで勧めてくる。最初はビックリやったけど、ちょっと面白なってきた。

「わたしはブラック使うから、留美ちゃん来たら、ジャンケンでもして自分のを決めて」

「あ、留美ちゃん休みです」

「ええ、休みなの?」

 せっかく考え出した遊びにメンバーが欠けたガキ大将のように肩を落とす。

「はい、熱中症で」

「熱中症!?」

 一昨日の熱中症騒ぎは救急車を呼ぶこともなく、留美ちゃん一人が早退することで終わってしもてた。エアコンもあくる日には直って、新聞に載ることもなかったんで、三年生の頼子さんは知らんかったんや。

「じゃ、桜が好きなのとって」

「あ、でも……」

「大丈夫よ、まだまだあるから。ほら!」

 頼子さんが示した段ボール箱にはジャンクのPSPが数十台入ってた。   「PSP」の画像検索結果

 

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泉希 ラプソディー・イン・ブルー・6〈瑞穂との決着〉

2019-09-10 07:09:04 | 小説4
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・6
〈瑞穂との決着〉     
  


 意外にも瑞穂は、ちゃんと公園にきていた。

 泉希の近所は6人ほどの子供というか、未成年がいるが、互いの近所づきあいはなかった。
 泉希は、出会った子には必ず声を掛けるようにしたので、雫石の家に来てからは、一応町内の子とはあいさつ程度のことはできるようになった。
 稲田瑞穂は例外だった。二学期になってほとんど通っていない高校は、出席不足でもうじき落第が決定する。親は、すぐに瑞穂がキレるのでロクに注意もせずにホッタラカシである。瑞穂は昼間は寝ていて、夕方になると原チャに乗って走り回っている。暴走族かというと、そうでもない。
 何度か族は見かけたし、一度は声もかけられたが、瑞穂はあいまいな笑顔で走り去った。そこまで墜ちる気にはなれなかった。だが自分を含め人間に敏感な瑞穂は、いつか自分が、そこまで墜ちてしまことを予感してはいた。

「お、約束通り来てるじゃん」

 泉希の言葉で、ドキッとした。瑞穂は10日前、ここで泉希に軽くいなされたことは忘れていた。その日に起こったことはその日のうちに忘れてしまう。むろん完全に記憶から消えてしまうわけではないが、夢のように思うことで意識の底に眠らせておくことはできる。その程度だから、泉希を見ると、とたんに思い出してしまった。

――女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけよう。準備期間あげるわ、十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし――

 泉希の言葉を思い出し、瑞穂は思わず及び腰になった。我ながら情けない。

「腕で勝負だから、まず腕の先の手からいこう。五本勝負。三本とったら勝ちね」
「手で三本?」
「ジャンケンに決まってるじゃん。指相撲もあるけど、瑞穂、肌が触れるのは嫌でしょ。じゃ、いくよ」

 最初はグー、ジャンケンポンで始めた。最初の4回は2対2、いよいよ最後の一本勝負。瑞穂は緊張した。

「気楽に。こんなの運と確率の問題だから」
 瑞穂は、この笑顔に騙された。気楽に出したパーであっけなく負けてしまった。
「落ち込むなって、単なるコツだから。最初はグーでしょ。だったら次に出すのはチョキかパーしかない。パーはあいこ。チョキは勝ち。この理屈知ってたら、まあ70%の確率で勝てる」
 なるほど……これなら3本より5本の方が確率的には勝てることになる。瑞穂は算数は好きだったので、この理屈はすぐに分かった。ただ算数は好きだったが、数学は嫌いだ。

「じゃ、じゃ、今度は腕でいこう。腕で決めるってことにしたんだから」
「でも、どつきあいは止めておこうよ。怪我したらつまんないから」
「アームレスリング。腕相撲よ!」

 泉希は一歩前進だと思った、アームレスリングならスキンシップだ。

 犬の散歩に来たオジサンにレフリーになってもらった。オジサンは珍しがり、犬はワンワン喜んだ。
 で、これも五本勝負で、最後の一本で泉希の勝ちになった。
「ハハ、瑞穂もやるじゃん。なんとかあたしが勝ったけど」
「……負けは、負けだよ。何すりゃいい?」
「瑞穂の原チャで近所案内してよ。あたし、まだ引っ越して間が無いから。コンビニとポストの場所ぐらいしか分からないから」

 で、原チャに乗って、町内を一周した。瑞穂は猫の通り道まで知っていた。泉希はもの喜びするたちで、「ホー! へー!」を連発した。

 二人乗りが終わって瑞穂の家の前に来るころには、二人は友達になっていた……。
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高安女子高生物語・83〔麻友の機嫌が悪い……〕

2019-09-10 06:46:53 | ノベル2
高安女子高生物語・83
〔麻友の機嫌が悪い……〕
        


 

 おはようと声をかけるとスマホが飛んできた!

 とっさに――なにをもったいない!――と、真剣スマホどり。

「どないしたん?」
 反射的に声をかける。教室の空気が割れかけのガラスみたいやいうことが、すぐに察せられたんで、間をおかずに聞く……というよりは、とにかく、落ち着かせる。
 新垣麻友が泣き崩れてて、副委員長の南ラファがなだめ、他のもんは凍り付いてる。
――なかなかの呼吸や――と、うちの中の正成のオッサンが合いの手。
「スマホにあたってもラチあかんで。南さんのん?」
「ううん、麻友の。スマホの画面見て」
 友だちの麻友とは言え、人のスマホ。かめへんか、という気持ちで麻友に目線を送る。泣いてるけど否定せえへんいうことは承諾のサイン。画面にはウィキペディアの「御堂筋パレード」の項目が出てた。5秒読んで意味が分かった。

――毎年10月の第2日曜日に、大阪のメインストリート・御堂筋で開かれていたイベント――

 御堂筋パレードが過去完了形で書かれてた。
「ああ、そういえば……」
 思い出した、御堂筋パレードは、橋下が知事やったころに廃止になってた。今は御堂筋カッポレ……いや、カッポいうショボクレたイベントに成り果ててたんや。うちも小さいころに保育所の仲間と観に行ったことがある。もっともマナブくん(関根先輩)のことが気になって、パレードそのものは、よう見てへん。高安あたりの河内人間には、あんまりピンとけえへんイベントやった。カッポになってからいっそうやけど。
 うちら河内の人間には、もう一つノリきれへんイベント。せやから、廃止になったことも、よう覚えてなかった。
 ほんで、もう一つ思い出した。一昨日のプールの授業前に更衣室で「今年の御堂筋パレードには出るから、観に来てよ!」言うてたことを。

 麻友は、パッと見では清楚な女子高生やけど、中身はバリバリのラテン系。一昨日のプールでは、いかんなく、そのラテンぶりを発揮してた。
「たしかKAPPOも21世紀協会がやってるから、問い合わせてみたったら?」
 登校してきた美枝が気ぃ利かして提案した。
「ありがとう、みんな。あたしの発作的なカーニバル熱に付き合ってくれて」
 朝礼が始まるころには、さすがに麻友は落ち着いた。せやけど納得したわけやない。クラスのみんなのフレンドシップが麻友を落ち着かせたんや。

 麻友応援活動は、一時間目後の休憩時間に21世紀協会に電話するとこから始まった。結論はすぐに出た。

「カッポも今年は中止やて……」美枝が冷静な声で言うた。こういう手配と、行動力は美枝が一番や。ラブホのときもそやった。
 麻友は、表面張力ギリギリのとこで、自分を保ってた。なんとかしたらならあかん!

「せや、人がしてくれへんねやったら、うちらでやったらええねん!」
 美枝が飛躍した……。

 うまい具合に二時間目の先生が来るのが5分遅れたんで、南ラファと中尾美枝の二人が教壇に立って決めてしもた。
「うちらで、文化祭でリオのカーニバルやろ!」
 勢いというのは恐ろしいもので、その場の熱気で決まってしもた。うちらの2年3組は全校で一番早う文化祭の取り組みが決まってしもた。まだ、文化祭の公示も始まってないのに!

 家に帰ってから、小さな疑問が湧いた。

 麻友のサンバ好きはよう分かる。なんちゅうてもブラジルの子や。そのわりにはサッカーに興味が無い。こないだから始まってるワールドカップも、あの子の口からサッカーの話題が出たことがない……。
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真夏ダイアリー・5『筑波第二コーナーのクラッシュ』

2019-09-10 06:37:31 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・5
『筑波第二コーナーのクラッシュ』    


 
「しまった!」

 思ったときは遅かった。車は第二コーナーを曲がり損ねて、大きくコースの外側に出てしまった。慌ててハンドルを左いっぱいにきってセーフティーゾーンの砂地から抜け出ようとした。
 筑波の第二コーナーは、第一コーナーを曲がって直ぐに緩いシケイン(ギザギザ道) 慣れていればフルスロットルで路肩を踏みながら抜けきれる。
 問題は、その直後の第三コーナー、直ぐにスピードを六十キロぐらいに抑えなければ外に飛び出してしまう。わたしは昔の勘で二周目のホームストレッチで、先頭のミニク-パを抜いて、余裕で三周目をトップで走っていた。調子に乗っていたわけじゃないけど、タイヤはノーマルのままなので、グリップが弱い。そんなこと分かっていたから、二周目までは五十キロぐらいまで落として無難にクリアしていた……でも、やっぱ油断。コースアウト。なんとかコースに戻ると、後続のミニクーパーがやってきて、わたしの日産マーチのドテッパラにぶち当たり、クラッシュ……!

「クソ!」

 わたしはハンドルを叩いて悔しがった。
「よかったじゃん、怪我しなくって」
「するわけないじゃん。ゲームなんだから!」
「あんまりのめり込むんじゃないわよ。まだまだテストはあるんだから。一昨日の化学みたいに失敗しないでね」
「なんで知ってんの!?」
「ハハ、昨日自分で言ってたじゃない。じゃ、あたしお仕事行ってきまーす」
 そう言うとお母さんは、コートをひっかけて出かけていった。

 わたしは、ゲームのセーブだけやって(なんたって、一時間で国内B級ライセンス取っちゃった)自分の部屋に戻った。

「勉強だって、ちゃんとやるんだからね」
 窓辺のエリカに宣言。むろん、エリカは返事はしない。ジャノメエリカってお花だもん。
 でも、このエリカは、一昨日の夜に夢の中に現れた。少し寂しげだけど、暖かい眼差しの女の子だった。夢の中でも、自分の名前しか言わない。
「花って、一方的に愛情をくれるの」
 花屋のオバサンの言葉が蘇る。昨日大爆発した、わたしの心も癒してくれたような気がする。癒しすぎて、くたびれているんじゃないかと思ったけど、元気に薄桃色の蕾はほころび始めている。
「さあ、とっかかるか!」
 明日は現代社会がある。「国際関係の中の日本」なんてムツカシイ単元だけど、エスノセントリズムという言葉には興味があった。日本語では「自民族優越主義」という。人に例えれば「自己中」とか「中二病」、周りにいっぱいそういう奴はいる。我が親も含めて……おっと、昨日ねじ伏せ、蓋をしたマグマが吹き出しそう。

 やっと集中し、頭に八割がた入ってきたところで、スマホの着メロ。省吾からだ。

「なによ省吾?」
「ひょっとして、お勉強とかしてた?」
「うん、十六番ホールのティーショットってとこ」
「アハ、真夏、『みんゴル』とかやってただろう!?」
「やってない(やってたのは『グランツーリスモ』『みんゴル』はお母さん。十六番ホールのダブルボギーで投げだしていた)で、そのお勉強中になによ?」
「昨日観た『デルスウザーラ』よかったら、感想文とか書いてよ。枚数制限無し、締め切りは冬休み一杯ぐらいでいいから」
「なんで、わたし? 文芸部でもないのにさ」
「お母さん、編集の仕事やってんだろ。だから娘の真夏にもそのDNAがあるんじゃないかと思って。ま、よろしく!」
「あ、省吾……ち、切っちまいやんの」

――やるわけないじゃん!

 即メールを返したけど、頭のスイッチが入ってしまった。

『デルスウザーラ』

 良い映画だった……ロシアの探検家アルセーニエフは、当時ロシアにとって地図上の空白地帯だったシホテ・アリン地方の地図製作の命を政府から受け、探検隊を率いることとなった。先住民ゴリド族の猟師デルス・ウザーラが、ガイドとして彼らに同行することになる。シベリアの広大な風景を背景に、二人の交流を描く。
 帰ってから、検索した映画のアラスジ。わたしは、デルスがご先祖のような気がした。天然痘で村も家族も失い、森の掟というか、自然の摂理というか、そういうものに従って生きている。単純だけど、嘘が無く、ピュアで、野太い姿に圧倒された。
 目が悪くなって、デルスはハバロフスクのアルセーニエフの家に引き取られるけど、都会の生活に馴染めない。水売りのオッサンが悪党に見える「水売って、金取る、悪いこと!」 薪をとろうと公園の木を切り警察に捕まる。「木はみんなのモノ、なんで悪い!?」 そして四角い箱のような家には住むことができず、アルセーエフの許を去る。アルセーエフは目の悪くなったデルスを、そのまま出すことが忍びなく。最新式の銃を渡す。
 しかし、これが仇となって、デルスは銃目当ての強盗に殺されてしまう。
 映画の中盤、デルスとアレセーニエフが再会する。
「デルスー!」
「カピターン(隊長さん)!」
 二人の言葉が耳について離れなかった……。

 気が付いたら、スマホに、デルスへの想いを書き連ねていた。
「ただいまあ……まあ、真夏、熱心に勉強を……あ?」
 お母さんの言葉で気が付いた。わたしの試験勉強は、三週目の第二コーナーでクラッシュしてしまっていた……。

 お母さんのあきれ顔。ブスっとするわたし(ブスって意味じゃないからね)。
 
 エリカが、困ったように笑った……。
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小悪魔マユの魔法日記・29『フェアリーテール・3』

2019-09-10 06:25:01 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・29
『フェアリーテール・3』 


 
「あ、その服なんとかしてあげなくっちゃ」

 エルフの王女レミは、さっきマユが驚いて叫んだときに着替えたばかりのワンピを吹き飛ばした。
 で、取りあえずは、そこら辺の落ち葉をかき集めて身にまとっているが蓑虫のようになっている。

「いいわよ、あの驚きっぷりで、あなたの魔力のスサマジサも分かったから」
「でも、その格好じゃ、あんまり気の毒だわ。わたしが魔法で服を出して上げるから」
「そうして……くれたら嬉しいんだけどね」
「わたし、あんまりファッションのセンスには自信ないんだけどね……とりあえずポップティーンでも見て考えようよ」
 マユは、とりあえずポップティーンの最新号を出した。
「このタンク付きトロピカルTシャツに花柄フレアースカート、ストローハット付きなんて」
「……あの」
「じゃ、このゴスロリ、モテカワ系なんか……やっぱ、わたしのセンスじゃだめかな……」
 レミは、じっとうつむいている。
「……やっぱり、あなたを騙すことなんてできないわ」
「騙す……どういうこと?」
「マユが、魔法で服を出してくれたら……もう契約成立ってことになるの」
「え……わたしをハメようとしたの!?」
「……うん」 
 
 
 アホーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 鳴き声がしたかと思うと、二人の上を飛んでいたカラスが糞をを落として、見事にレミのホッペに命中させた。レミは、一瞬ドキリとしたが、さほどには驚かない。なんともおかしく、マユはクスっと笑ってしまった。
「ごめん笑ったりして、拭いたげるわね……」
 マユは、ポケティッシュを出して拭いてやろうとした。レミは、のけ反った。
「レミ……」
「それもダメ……わたしのために何かしようとしたら、それも契約したことになる」

 アホーーーーーーーーーーーーーー
 
 カラスが、また鳴いた。シャクに障ったマユは、カラスを石にしてやった。カラスは「アホー」の「ホー」の口をしたまま落ちてきた。ひどく間の抜けた顔になっている。

「あ……それ、お父さんの監視カメラ用のカラス……ヤバイよ」
「もういいよ」
「え……」
「レミの味方になってあげる」
「ほ、ほんと!?」
「ほ、ほんと!?」
 バサバサバサ
 
 思わず立ち上がるレミ。その勢いで、身にまとった落ち葉が、いっせいに落ちてしまった。当然レミはスッポンポン。でも、それにも気づかないほどレミの驚きと喜びは大きかった。

「あの……とりあえず、その格好、なんとかしよう」
「……あ」
 レミは、思わず両手で隠せるだけのところだけ、隠した。
「えい……あれ?」
 レミにとりあえず、ポップティーンの最新号に載っていた服を着せたつもりでいたが、服はタグが付いたままレミの前に置かれた状態。
「これ、着ちゃったら、もう後戻りできないわよ……」
「いいから、早く着て……着ろって言ったら、さっさと着るの!」
「あ……ありがとう!」
 レミは、大急ぎで下着から身につけ始めた。
 そのとき、マユが木の葉を吹き飛ばして出来た半径50メートルほどの森の広場。その向こうで人の気配がした。
「だれよ、そこに居るのは!?」
 
 マユは、レミを庇うように立ちふさがった。

 薮から、棒のような若者が現れた……。
 
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