大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・85『体験入隊の日がやってきた』

2020-01-03 05:59:36 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・85   



『体験入隊の日がやってきた』

 そうこうしているうちに体験入隊の日がやってきた。

 埼玉と東京にまたがるA駐屯地だったので、どこかの駅前に集合かと思ったら、三日前に峰岸先輩からメールが来た。
――当日は、午前八時半、学校裏門前集合。服装は学校指定のジャージ。携帯品は自由だけど、駐屯地に入ったら使えないから少なめがいいよ。

 で、当日。
 こういうことにはダンドリのいいわたしは六時に起きて茶の間に降りた。
 で、びっくりした。おじいちゃんとおばあちゃんがテレビの天気予報を見ながら待っていた。
「なに、そのカッコウ?」
「国民服だい!」
 胸を張ったおじいちゃんの横に、セーラー服にモンペ姿。二人とも頭にキリリと日の丸の鉢巻き。
「あ、それ、わたしの中学のときの制服!」
「やっぱ、出征のお見送りは、これでなくっちゃ!」
 想像してみて、八十ん歳のオバアチャンのセーラー服……!
 わたしは、十五分ほどで朝のいろいろやって(女の子の朝なんて、いろいろとしか言えません)かっ飛びで、家を出……ようとした。
 おばあちゃんが、どこにそんな力があんのよって感じでジャージの裾をつかんだ。
「ちゃんと、お作法ってのがあるんだよ」
「あ、わたし未成年だから」
 おじいちゃんが出した盃をイラナイしたら怒られた。
「ばか、こりゃ水杯(みずさかずき)だ。作法だよ作法……ばか、そんな、事のついでみたいにやるんじゃねえ。気をつけだ、気をつけ!」
 気をつけして、行こうとしたら、また裾をつかまえられた。
「挨拶だよ、挨拶」
「行ってき……」
 まで言うと。おじいちゃんが叫んだ。
「仲まどか君の出征……もとい。体験入隊と!」
「武運長久を祈って!」
 と、おばあちゃんが受けた……そのころには、家族や近所の人たちが目をこすりながら出てきちゃった!
「ばんざーい!」
 おじいちゃんの雄たけびを合図に、わたしは横丁まで世界新ぐらいのスピードで走った。
 もちろんハズイからよ。恥ずかしいの!!

 で、早く着きすぎた。

 裏門には、まだだれもいない……と、思ったら、門柱の陰に気配。
「あ、乃木坂さん……どうしたの、その格好?」
「体験入隊、僕も付いていこうと思って」
 乃木坂さんは。ズボンのスネのとこをタイトなレッグウォーマーみたいなのでキリリと締め上げ、制服の上からは左右二個の物入れみたいなのが付いたベルト。背中には四角いリュックみたいなのをしていた。
「これはね、軍事教練の時の格好さ。あのころは嫌で仕方がなかったけど、君たちが体験入隊をするって言うんで、付いていってみようと思ってさ……捧げ筒!」
 プっと吹き出しかけた、で、あのことを聞いてみた。稽古場じゃ、里沙と夏鈴がいるので聞きそびれていたのだ。
「潤香先輩の夢の中に出てきたのって、乃木坂さんよね?」
「……うん。意識が戻って、いきなりこの三ヶ月の変化を知ったら、また頭の線切れそうだから。予備知識をね」
「潤香先輩、関根さんみたいだって言ってたけど」
「お姉さんの紀香さんの大切な人……それ以上は言えない。言えば、君は顔に出てしまうからね」
「マリ先生も同じこと言ってた……」
「世の中には、そういうこともあるんだ。大人になるためのピリオドだと理解してくれたら嬉しい」
 寂しそうに、でも温もりのある顔で、乃木坂さんが言った。
 そこへ忠クンが白い息を吐きながらやってきた。こちらは規定通りのジャージ姿。
「なんだ、まどかも早く来ちゃったのか」
「違うわよ。これは不可抗力なのよ……」
 朝のイキサツを話した。二人とも大笑い(むろん乃木坂さんのは、わたしにしか聞こえない)そうこうしているうちに、里沙と夏鈴がやってきた。里沙のリュックはコンパクトだけど、夏鈴のは冬山登山に行くくらいの大きさだった。
「なに、夏鈴、その冬山登山みたいなのは?」
「だって、お母さんがあれも持ってけ、これも持ってけって……」
「こりゃ、過保護か嫌がらせかのどっちかだわね」
 夏鈴が異議を唱えようとすると乃木坂を一台のトラックが登ってきた。今時めずらしいボンネットトラック。その濃緑色の車体は、素人のわたしが見ても自衛隊のトラックだった。
「ハチマルフタゴオ。到着」
 そう言って、「自衛隊」のおじさんが、「女性自衛官」を従えて降りてきた……で、幌着きの荷台から、峰岸先輩と……マリ先生が降りてきた!?
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Regenerate(再生)・30≪第一次総力戦・1≫

2020-01-03 05:52:30 | 小説・2
Regenerate(再生)・30
≪第一次総力戦・1≫ 


 
「これは、壮大なダミーかもしれない……」

 教授の読みは当たっていた。その年の10月に行われた総選挙で改進党が初選挙でありながら、野党第二党に躍り出た。
 党三役を除くすべての当選者が新人であった。そして年末には、野党第一党の民新党と政策協定を結び与党の民自党と拮抗した。
「やっぱり、携帯の基地局はダミーだったんですね」
 詩織が無表情に言った。
 基地局から発せられる微細なノイズがベラスコたちのアンドロイドを動かしているとみて、その八割から、ノイズを発生しているとみられるウィルスを除去した。そのたびにベラスコの妨害が入ったが、人間たちに気づかれるようなこともなく、その障害を排除してきた。
 モニターに現れる赤いドットは確実に減った。ベラスコのアンドロイド達は、ベラスコの指示を受けられなくなり、プログラムされた日常生活を「人間」として営んでいるだけのはずだった。
「なにか、わたしたちの分からへんとこから指令が飛んでるんやと思います」
 京都から、ドロシーのバックアップでやってきた沙織が、キーボードを叩きながら断定的に言った。
「で、いったい、何を解析しとるんだね」
「この三か月で起こった事件や変化を全部洗いなおしてます……」
 沙織の横では、ドロシーが、演算のやり直しを無表情にやり続けている。

 ドタッ!

 教授がコーヒーを入れていると、唐突にドロシーが棒のように倒れた。
「ドロシー!」
 詩織が駆け寄ると、後ろで教授が淡々と言った。
「オーバーヒートだろ。しばらく、そのままにしておいてやってくれ、スリープモードにしてな」
「はい……沙織さんは大丈夫?」
「取り柄はないけど、CPだけは、頑丈だから」

 沙織のがんばりも、大晦日までだった。「ちょっと休みます」そう言ってカウチに横になったかと思うと、自分からスリープモードになった。
「手も足も出んな……」
 アナライザーのドロシーと沙織が倒れてしまっては、詩織と教授では、どうにも仕様がなかった。
「しかし、ドロシーのスリープ長いですね」
「酷使してきたからな。目覚めるまで、そっとしてやってくれ」
「はい……でも、ベラスコも動きがありませんね」
「やつらは、改進党を握っとる。年明けにも民新党と合併して動き出すだろう。春には、ちょっとした戦争がおこるかもしれん」

 ぼんやり点けっぱなしにしていたモニターの一つが、レコード大賞の実況を映し出していた。

「おお、今年も大賞はAKRか……」
「三年連続ですね」
 AKRの曲は、この秋からヒットしていた「幸せプラカード」だった。ラボでも外に出てもよく聞く曲で、いささかヘビーローテーション気味になっているが、不思議に人気が落ちない。まあ、去年も一昨年も似たようなものだったっけど。

 大賞受賞の感激の中、センターの大石クララを真ん中に興奮と感激に声を震わせながら「幸せプラカード」はサビに入った。

 すると、スリープモードになっていた沙織とドロシーの目がゆっくりと開いた……。
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となりの宇宙人・18『ピラミッドはむつかしい!』

2020-01-03 05:45:33 | 小説4
となりの宇宙人・18
『ピラミッドはむつかしい!』          

 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 マイクロバスを下りると「ヘーラーホップ!」の掛け声が聞こえてきた。

 早慶大学の第二グラウンドでは、なんとピラミッドが造られようとしていた!
 ピラミッドと言ってもエジプトにあるような山のように大きいものじゃない。高さ10メートルほどの小さなもので、しかも造りかけで、四段3メートルほどの高さしかない。パッと見には、ただ四角い石が台形に積まれているだけで、説明されなきゃピラミッドとは分からない。あたしたちがすぐに分かったのは、あらかじめバスの中で南先生から説明をうけていたから。

「ピラミッド建造の山場なんだ、見れば、いい刺激になる」

 バスの中で先生は造りかけの写真を見せてくれた。
 ピラミッドは奴隷なんかが造ったんじゃなくて、農民たちが喜んで造ったんだそうだ。ファラオのピラミッドを造ることで、国は平和で豊かになると信じていた。言葉や黒板に書かれた知識だけなら「あ、そう」と記憶してテストが終わったらおしまいなんだけど、「ヘーラーホップ!」を知って、それで一致団結して綱引きで勝ってしまうと実感として分かる。ピラミッドづくりは綱引きの何倍も爽快で達成感があったんだ。
 それを実証するかのように学生さんたちの「ヘーラーホップ!」には気合いと勢いがあった。

「そーれ、最後のヘーラーホップ!!」

 畳一枚ほどの石室の屋根が砂の坂道を登っていく。
「石室の屋根は二枚の石板だ、あれをどうやって屋根の形に組むか分かるかい?」
 先生がニコニコ笑顔で聞いてくる。イタズラの種明かしをするガキ大将みたい。先生の授業はオモシロイだけじゃない、このニコニコ笑顔も魅力なんだ。
「引っ張り上げて組み合わせるんじゃないんですか?」
 紗耶香が答える。他のメンバーも「そうだろう」という顔をしている。事実石室の屋根は無事に引き上げられ固定されそうになっている。
「じゃ、そこのミニチュアで石室の屋根を完成させてごらん」
 先生が指差した先に50センチほどの造りかけピラミッドがあった。紗耶香がうながして四人ほどで石室の屋根に取りかかった。
「これ、チョー重いよ……」
 男子が持ち上げただけで音をあげる。ミニチュアとは言っても材質は同じ石材、10キロ以上はありそう。
「よし、みんなでやろう。タイミングよく組み合わせなきゃ崩れるからな」
 聖也が腕まくりして反対側の屋根に取りかかり、みんなもそれに倣う。小さな「ヘーラーホップ!」がおこる、ヨッコが支えていた角がずり落ちそうになり、聖也が手を差し伸べる。その手がヨッコの手に重なると、ヨッコの顔が赤くなる。やっぱ意識してんだ。でも自然な流れの中なんで逃げ出すようなことはしない。ピラミッドは偉大だ。
「「「「ああ……」」」」と落胆の声があがる。組み合わせた屋根がガタンゴトンと落ちてしまった。

 ピラミッドはむつかしい!
 
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