大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:007『ジージ最初の赴任校』

2020-01-17 12:17:08 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:007

『ジージ最初の赴任校』  

 

 

 設定を25度にしても24度にしかならないエアコンを点けて、ファイルを開く。

 ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 エアコンの起動音なのに、回転座椅子で眠っていたジージが、ウーーーンと伸びをして、こっちを向いてくれたような気になる。

 回転座椅子のジージが身を乗り出した。

 

 

 最初の赴任校の話をしようか。

 通算で五回目の採用試験で初めてG判定(合格)をもらって、もう採用されたような気になっていた。

 ところがね、採用試験と言うのは『合格者名簿』に名前が載るだけのことなんだ。

 県内の校長先生が、合格者名簿を閲覧してね、これはという合格者を引っ張って来るというのが実際なんだ。

 むろん、単に閲覧するだけじゃなくて、教育委員会の意見や、校長同士の調整とかもあるんだけど、ずっと平教師だったジージは詳しくは分からない。

 

 それまで落ち続けていたジージは、ちょっとひがんでた。

 

 ハーフだからとか、出身大学のレベルが低いから、合格はしたけど、あんまりいい成績じゃなかったから、どこの校長も二の足を踏んだとかね。

 あれは、春の甲子園が始まって三日目くらいだった。

『S高校の校長で嵯峨と言いますが、どうでしょう屯倉先生、うちの学校で務めていただけませんか?』

 これを断ったら後がない。合格は一年間だけ有効。実際には年度途中の採用なんて、ほとんどありえないから、本当に最初で最後のチャンスなんだ。

「はい、お受けいたします!」

 そう返事して、二日後に指定された時間にS高校の校長先生に会いに行った。まあ、最後の面接だね。

 

 見た目はほとんど外人だから、最後の電車に乗り継いでからは乗客や、道行く人の視線がささる。

 自宅とか職場の周囲は、ただの通行人にしても顔見知りだから、特に視線は気にならないんだけど。やっぱり初めてのところじゃね。

 まあ、いま思うと、異様に緊張して怖い顔していたということもあるんだと思う。

 で、ジージはニ十分も遅刻してしまったんだ。

 ちゃんと地図で確かめて、二時間と見込んでいたんだけどね。家から三回も乗り換えがあって、最後のS線なんか一時間に四本しか電車が無い。駅からは上着を脱いで走ったよ。

「いやあ、初めて来られる人は、たいてい遅れられるんですよ」

 校長先生は、咎めることもなくニコニコと出迎えてくれた。

 

「実は、屯倉先生の前に女の新採の先生が決まっていたんですけどね、社会科に打診したところ『女の先生じゃもたないから、男、それも現場経験のある人に替えて欲しい』と言われましてね……」

 ちょっとビビった(^_^;)。

 S高校は、県内有数の困難校だったんだよ。

 困難校というのは、まあ、生徒が荒れていて、教師にとっては非常に厳しい学校だということだ。

「いやあ、うちで務まったら、県内どこの学校でも務まりますよ。アハハハ」

 校長は笑ったけど、ジージは笑えなかった。それを察してか、校長先生は言い足してくれた。

「まあ、三年辛抱してください。次は考えさせてもらいますから」

 

 あくる日、非常勤講師で務めていた職場にいくと、もうみんなジージの赴任校を知っていてね。みんな元気づけてくれた。

「S高校は、組合が強いところだから!」

「教師の平均年齢は三十歳くらいで、若い先生多いから!」

「いや、そんなに偏差値は悪くないよ!」

「生徒との距離は近いから!」

 いろいろ慰めてくれたさ。

 でもね、三年も非常勤講師やってたら分かるんだよ。

 組合が強いのも教師の平均年齢が若いのも生徒との距離が近いのも、みんな困難校の特徴だからね。

 あ、それと、困難校なのに偏差値が高いのは、悪さをするにも考えが行き届いる。指導の難しい生徒が多いと言うことなんだ。

 で、最後に挨拶に行った校長の一言がとどめだったね。

「いやあ、若いうちに苦労しておくのが一番だよ。いやあ、よかったよかった、よかったよ屯倉先生!」

 この校長、G判定が出るまでは「屯倉君は、うちの卒業生だから、G判定出たらうちで勤務してもらうよ(^▽^)/とか言ってた。

 ジージが通ることなんか無いと思ってのリップサービスだったんだね。

 まあ、こんな具合にジージの正式な教師生活が始まったわけさ。

 

 非常勤講師の時代もおもしろかったけど、それは、またどこかでね。

 

 

 あっけらかんだけど……なんか重い話だよ。

 ……ジージ、とりあえず朝ごはんにしよう。

 仏壇のジージにご飯とお水をあげて、リンを一発鳴らす。

 チーーーーーン

 そしてお祖母ちゃんと朝ごはん。

 わたしの一日が始まる。

 

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不思議の国のアリス・4『回覧板と犬の糞』

2020-01-17 06:29:42 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・4
『回覧板と犬の糞』  
 
 
 
 アリスは、日本のことは、わりあい知っている。となりのTANAKAさんのオバアチャンから聞いたし、ネットでも事前にかなり調べていた。伯父さんが東京のアメリカ大使館に勤めているので、そこからの情報もあった。
 
 でも、見ると聞くとじゃ大違いということがいろいろある。千代子のうちに来て三日目、回覧板というのを初めて見た。
 
「これが、あの伝説の回覧板か!」と感激した。
 トントントカラリンと隣組 まわしてちょうだい回覧板♪
 助けられたり 助けたり♪
 TANAKAさんのオバアチャンがよく歌っていた歌の中に出てくる回覧板! 仮名しか分からないアリスはまるで中味が分からなかったが、シャメに撮って保存した。
「千太、お隣に回しといて」
「ええ、またオレがあ……?」
 親子の会話を聞きつけて、立候補した。
「ほんなら、ウチがいきます!」
「そう、ごめんね。ほんなら、こっちがわのお隣の鈴木さんやさかいに」
 そう言って、千代子ママはハンコを押した。これがまた感動! アメリカにはハンコはない。よほどハイソで、トラディッシュな家なら、郵便の封緘(ふうかん)用のロウにペタンとその家のマークのスタンプを押すことがあるが、普通の人は持っていない。
 千代子ママは、象牙色のハンコを取りだし、ペタンと軽く押した。○の中に「渡辺」というファミリーネームが器用に彫り込まれていた。
「ちょっと見せてもらえます?」
「ああ、ハンコ。どうぞ、こんなもんが珍しいのん?」
「はい、ごっつい珍しいです……これが、渡辺家のシンボルなんですねえ……」
「こんな認め印でええんやったら、こんど作るったげるわ」
「ええですよ、こんな高価なもん……」
「たいしたことないよ、表通りの彰文堂行ったら、二千円ほどで作ってくれるさかい」
「ワオ、ほんまにええんですか!?」
「うん、留学記念にあげるわ。どんな字いにするか、千代子と相談して決めとき」
「ほんまに、おおきに、おおきに!」
 アリスは、思わず千代子ママにハグした。千代子ママはびっくりしたようだけど、不器用に、でも暖かくハグしてくれた。
 
 お隣の鈴木さんの家のドアホンを押した。
 
「あの、隣の渡辺さんのイソウローですけど、回覧板もってきました」
 いきなり外人が、英語訛りの大阪弁で「回覧板ですう」では、驚かれるだろうと思い、アリスは丁寧に言った。カメラ付きのドアホンなんだろう。「やあ、外人さんやわ……」と、いう声がした。
「……そう、交換留学生のホームステイやのん」
「はい、アリス・バレンタインて言います。どうぞよろしゅうに」
 それから、大阪弁が上手だと誉められ、また、TNAKAさんのオバアチャンの話になり、回覧板は緊急でない限り、郵便受けの上にでも置いておけばいいこと、でもアリスならいつでもOKなど話してくれた。
 
 日本で、驚いたこと。犬の糞がほとんど落ちていないこと。
 
 TANAKAさんのオバアチャンには「道歩くときは、犬のウンコに気いつけや」と言われていた。最初の日、関空から千代子の家に行くまで、そのウンコが気になって、下ばかり見ていると「なんか気になるのん?」と千代子に言われた。で、話をすると「ああ、昔は、よう落ちてたなあ」と千代子パパが言った。シカゴの公園などに行くと、役所が設置した「犬のウンコ袋」なんかがあるんだけど、日本には、そういうものがないのにウンコが始末されている。アリスは、やっぱり日本人はエライと思った。でも、やはり道路は気になる。「例外が、たまにある」と千太が言ったから。
 
 そしたら500円コインが落ちているのを見つけた。
 
「ワオ、500円コイン!」
「アリス、ウンがええなあ」
 千代子パパの言葉は、大阪人らしいギャグかと思ったら。
「もろといたらええねん、500円くらい」
 日本人の評価の針が、アリスの中で揺れた。
 こういうのを「ネコババ」というのだろうと、アリスは学習した……。
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巷説志忠屋繁盛記・9『タキさんゴジラ』

2020-01-17 06:17:46 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・9
『タキさんゴジラ』     




 ぜんぜん変わらへんなあ~!

 衝動買いした写真集を見て、Kチーフが感嘆の声を上げた。

 チーフが、こんな風に感嘆するのは数年前に三連単の馬券を当てて以来だ。
「ぜんぜんちゃうやろがーーー!」
 フライ返しをしながらタキさんは、チーフといっしょに買った馬券がハズレタ時のように不機嫌な声を揚げる。
「いまのワシは、もっと柔和なナイスガイじゃ、ど~~や(*^-^*)」

 振り返ったタキさんはカーネルサンダースがレンジにかけられ溶けかかったような顔だ。

「「「ア アハハハハ……💦」」」

 チーフとトモと、折悪しく客で着ていたトコが引きつりながらの愛想笑い。
「いや、しかし、この悪たれタキさんも可愛いですよ💦」
 トコが精一杯のフォロー。
「こういうガキは可愛いない、自分のことはよー分かってる。これかてカメラ目線で睨んどるしな、いまのワシやったら張り倒しとるわ」
「ね、タキさんをタイムリープとかさせて、この悪たれ時代のタキさんに対面させたら面白いだろーね」
 トモが面白がる。
「いまのワシが出て行ったら、この浩一は媚びよる」
「え、そうなん?」
「だれかれなしにこんな顔してたわけやない。とことん敵わん相手には媚びまくっとった」
「え、マスターてブレーキの効かんブルドーザーやと思てましたけど」
「ほんまの河内もんは、そのへんの機微はこころえとるもんじゃ」
「タキさんが媚びるて、どんな相手?」
「そら……んなもん言えるか。ほら、特製山賊スパじゃ」

 ドスンとカウンターに置いたのは、トコが無理矢理オーダーしたまかない料理。
 とても美味しそうに見えるので、全てのメニューを制覇している常連には提供している。食材は、その時その時の有り合わせなので、タキさんの気分次第で千差万別になっている。

「これは、なんの肉?」
 見かけない肉をフォークで刺し、グイッと突き出すトコ。
「ゴジラのモモ肉」
「モー、ええかげんなことを」
「ウソやない、パク!」
「あーー、わたしのお肉ゥゥゥーーーー!」
 トコの非難をよそに、肉を咀嚼するとシンゴジラのように口を開け、ガオーと火を噴いた!

「「「ウワーーー!」」」

「な、ゴジラじゃろーが」
 三人の頬がひきつる。
 とうぜんマジックのネタなんだけども、タキさんがやると、本当にゴジラの眷属のように思えてしまう。
「もっかいやってもらえます、動画に撮りますから」
「イヤ、失敗したらヒゲ焼いてしまう」
 なるほど、よく見るとタキさんのヒゲは先っぽのところが焦げて縮れてしまっている。
「トコも、それ食べたんやから不用意に大きい声出したら火ぃ噴くぞ~」
「えーーー、そんなんイヤや」
「ところで、この写真、なんで怖い顔してんの?」
「ああ、撮ったやつが気に入らんかったんや」
「だれが撮ったの?」
「学校のセンセ」
「なんでまた?」
「ゴジラの火ぃ噴き学校でやったらエライ怒られて、そのあくる日やったから」

 どこまで本当なのか、三人はあいまいに笑うしかなかった。

 志忠屋の帰り、トコは入れ違いに地下鉄の階段をあがってくる作者(大橋)に出会った。

「やあ、センセ!」

 思わず呼びかけたトコは三メートルほども火を噴いて大橋の顔を真っ黒にしてスプリンクラーを作動させてしまった。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・12・「え、あ、はい!」

2020-01-17 06:08:57 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)12
「え、あ、はい!」                     



 とにかく驚いた。

 生徒会副会長の瀬戸内美晴から「5人以上の部員がいなければ、同好会に格下げの上、部室を明け渡し!」と宣言されて2週間。
 部員募集のポスターを貼ったり、身近な生徒にしつこく声を掛けたり、せーやんに頼んで3Dホログラムで部員を多く見せて発声練習をしてみたり。そのことごとくが空振りで、今週の金曜日には演劇部のお取りつぶしは確定する運命なのだ。

 そこに、入部希望者がやってきたのだ!

 部室のドアがノックされた時は瀬戸内美晴の催促かと思い、ぞんざいに「開いてますよ」と顔も向けずに返事した。
 ガラガラとドアの開く音がしたが、開いたドアの所に人影はなかった。
 啓介の定位置である窓側の席からはドアの上半分しか見えない。机にうず高く積まれたガラクタが視界を狭めているからだ。でも見えないと言っても床から1メートルほどである。空堀は幼稚園でも保育所でもない、高校なんだから身長が1メートルに満たない人間など居るわけがない。

「なんや、気のせいか……」

 啓介が、そう思ったのも無理はないかもしれないが、きちんと確かめなかったのは、入部希望者など来るわけがないという思い込みであったのかもしれない。
「入部希望なんですけど!」
「イテ!」
 啓介はびっくりして立ち上がり、その拍子にパソコンに繋いでいたイヤホンがバシッっと外れて耳が痛んだ。

「あ、あの……入部希望者?」

「はい………………なにか?」
「あ、いや…………」
 
 入部希望者はルックスこそ可愛かったが車いすだった。車いすだから見えなかったんだと、啓介は納得した。
 次になんで車いすの子が、演劇部に入ろうとするんだ? という疑問が湧いた。
 そして車いすの子という戸惑いがきた。空堀高校はバリアフリーのモデル校ではあるけれど、友だちの中に身障者の生徒はいなかった。中学までは野球ばかりやっていたので、身近に関わったこともない。演劇部は看板だけだけれど一応は演劇部、車いすで演劇はあり得ないだろう……などなどが一ぺんに頭に浮かんだ。
「車いすじゃダメなんて、ポスターには書いてなかったけど」
 見透かしたように車いすの少女は言う。
「もっとも、仮に書いてあったとしたら、それって差別だし」
「え、ああ、そうだよ、そうだよね。障害があるとかないとか、そんなのは全然関係あれへんし」
「それじゃあ……」
「あ、ああ、ごめんなあ。もう入部希望者なんかけえへん思てたから、びっくりしたんや。まあ、こっちの方に、まずはお話し聞こか」
 少女は器用に車いすを操って、啓介が指し示したテーブルの向こう側ではなく、啓介の横に来た。
「1年2組の沢村千歳です。これが入部届」
 保護者印と担任印のそろった書類をパソコンの横に置いた。

 その間、啓介は計算していた――足の不自由な子が入部したら、学校もムゲに演劇部を潰すこともでけへんやろ。ひょっとしたら、この子一人入っただけで存続確定かもしれへんなあ!――

「あたし、演劇部潰れるの前提で入るんだから。そこんとこよろしくね」
「え……ええ!?」
「この部室グチャグチャじゃん。棚の本は色あせてホコリまみれだし、ゴミ屋敷寸前の散らかりよう。とてもまともに部活やってるようには見えないわ」
「いや、これはやなあ……」
「それに、なによ、これ?」
 千歳の視線はパソコンの画面に移った。
「あ、ああ!」
 
 パソコンの画面では、ボカシの入った男女が絡み合ってあえいでいた。千歳が入ってきたときに驚いてクリックしてしまったようだ。

「四の五の言わずに入れてちょうだい。さもないと部室でエロゲやっているって触れ回っちゃうわよ」
「え、あ、はい!」

 演劇部の新しいページがめくられた瞬間であった。
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乃木坂学院高校演劇部物語・99『よ! 乃木坂屋! 日本一!』

2020-01-17 05:56:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・99   



『よ! 乃木坂屋! 日本一!』


 
 稽古は順調に進んでいった。なんたって、乃木坂さんが堂々と手伝ってくれる。

 それまでは、里沙や夏鈴の目を気にしたり、古文みたいなメモを読解しなくちゃならなくって、とっても不便だったんだもん。
 平台は一日一個作ることに決めた。なぜかというと、ちょうど最後の一個を作った明くる日が、はるかちゃんのロケになる。

 そう、みんなで見に行くことに決めたんだ!

 乃木坂さんは、浅草の軽演劇や歌舞伎なんかにくわしくって、型をつけてくれる。幕開きの口上のところなんか、大向こうから、かけ声をかけてもらうことになった。
 最初は顧問の柚木先生に頼んだだけど、乃木坂さんがイマイチな顔をしている。
 そして、なんと、なんと、理事長先生の耳におよんで、理事長先生がやってくださることになった!
 
 よ、乃木坂屋! 日本一!
 
 二日に一度くらいのわりで来てくださって、声をかけていかれる。
 
「高山先生もあいかわらずだなあ」
 理事長先生が機嫌よく出て行ったドアに向かって、乃木坂さんがつぶやいた。
「乃木坂さん、理事長先生知ってんの?」
「うん、国史の先生。敗戦の前の年に出征されたんだ」
「あの、乃木坂さん。コクシとシュッセイってなんのこと?」
 夏鈴がソボクな質問をする。
「えと、国史は日本史、出征は兵隊に行くこと。高山先生は沖縄戦の生き残りなんだよ」
「へえ、戦争にいってたんだ、理事長先生……」
「沖縄じゃ、ほとんどの兵隊が戦死した。で、より安全な銃後にいた僕たちも死んだ。その中で生き延びてきたことを重荷に感じていらっしゃるんだ」
「ジュウゴって……?」
「銃の後ろって書くんだ。それくらい辞書ひきなよ。さ、一本通すぞ!」
「……なるほど」
 スマホで「銃後」を検索して、納得してから稽古にかかるわたし達に、苦笑いの乃木坂さんでした。

 この『I WANT YOU』というお芝居は、歌舞伎、狂言、新派、新劇、今時のコメディー、それに、はやりの女性ユニットのポップな歌と踊りまで入っている。
 
 最初は楽しそうだと思って、次には、読むのと演るのは大違いということに気づいたころに、自衛隊の体験入隊。がんばろうとリセットができて乃木坂さんの姿が見えるようになって、乃木坂さんの指導よろしく、平台が十枚できたころにはようやくカタチにはなってきた。
 がんばろうとすると、ただ台詞を張って声が大きくなるだけで、芝居そのものは硬くつまらないものになっていく。
 乃木坂さんは、型になるところは見本までやってくれて、らしく見えるようにはしてくれた。
 そこから、あとは台詞を忘れて自然に反応できるようにしろって言うんだ。
 はるかちゃんも、チャットで同じようなことを言う。芝居の中で、見るもの聞くものを探し、それに集中しなさいって。でも、それをやると芝居のテンションが下がってくる。
「どうすりゃいいのよ!?」
 と、ヤケにになりかけたころに平台は、十六枚全部できてしまった。
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