大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:011『DAN!』

2020-01-30 13:55:57 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:011

『DAN!』  

 

 

 DAN!

 

 何かが倒れた音じゃない、ピストル撃ったときの音でもないしDNAの書き間違いでもない。

 DARENIMO AITAKU NAI!  の頭文字。

 誰にも会いたくない……分かるよね。

 意味じゃないよ、気持ちだよ、気持ち。

 

 月にいっぺんくらいやってくる。

 

 DANになると、ひどいときは部屋から出られないどころか布団からさえ出られない。

 根性なしだから、トイレに行きたくなって、けっきょく起きだすんだけどね。

 DANになると、生活音てのか、窓を通しても聞こえてくるアレコレの声や音がたまらない。

 車の音、人が歩いたり走ったり、挨拶したり、咳とかクシャミとか、犬がシャカシャカとアスファルトに音をさせて歩いてるのもやだ。ご近所の台どこで鍋なんか落とす音がしたら――死ね!――と呪ってしまう。

 お祖母ちゃんちに来て正解。

 ここは田舎だから、東京に比べ、そうゆう生活音が圧倒的に少ない。

 むろん、お祖母ちゃんの生活音はある。お祖母ちゃん、腰が悪いから足音とかに癖があるしね。

 お祖母ちゃんの歩き音がすると、さすがに申し訳ない気持ちになる。

 なるけど、やっぱ起きない。

 

 AMAZONで尿瓶を品定めしたこともある。

 

 尿瓶があれば、ほんとにお布団出なくて済むもん。

 でもね、失敗した時のこと想像しちゃうんだ。

 パンツ脱いで、尿瓶をあてがってさ……ちょっとでも隙間が空いてたらこぼれちゃう。

 首尾よく済ませても、拭かなきゃだめでしょ。尿瓶の蓋もしなきゃならないし……きっと失敗するよ。

 自分のオシッコでビチャビチャになったベッド……想像しただけで死にたくなる。

 引き籠るんだったら男だよね、わかるでしょ。

 

 腐ったバカになりそうなんで、お祖母ちゃんが出かけてる隙に何とか起きる。

 

 トースト焼いて、目玉焼き……つくる気力も無くて、オレンジマーマレードだけ塗って食べる。

 コーヒー牛乳温めようかと思ったけど、そのまま飲む。

 飲んだところでお祖母ちゃんが帰って来る。

「よかったら、お祖母ちゃんの部屋の本とかDVDとか観てもいいのよ」

「ありがとう」

 せっかくだからという気持ち半分、お祖母ちゃんの気持ちは受け止めなきゃという気持ち半分で、お祖母ちゃんの部屋へ。

 お祖母ちゃんの部屋のこと、書きたいんだけど、気持ちが続かない。

 また、今度ね。

 

 

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ライトノベルセレクト・195『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・4』

2020-01-30 06:54:12 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・195
『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・4』


 その夜は感動して寝られなかった。

 ちょっと大げさ。でも、三時頃までは頭の中の電気が点いたままだった。
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を二時間ほどで読んだ。むろん由香里が寝てから。

 坂東はるかという子が、親の離婚で東京から大阪に転校。ひょんなことから演劇部に入り、いろいろ頭を打ちながら成長していく話だけど、これはノンフィクションだった。はるかという子の7か月が、彼女の幻想とともに描かれている。
 
 すごいと思ったのは親が離婚して転校までさせられたのに、ちっとも歪んでないこと。
 
 それどころか、はるかという子は、別れた両親の仲を元に戻そうとして夏休みに一人で南千住の実家まで戻ってみる。ところが父には、もう事実上の別の妻がいた。いったんは崩れそうになるけども、自分の望みに反した現実を受け入れ、バラバラだった両親を始め、いろんな人の心を前に向かせていく。
 それも、はるかがそうしようと思ってではなく、前向きに生きようとすることが、周囲の人間を変えていく。その中心に高校演劇があり、その中で芝居をやることが彼女の支えになる。
 そして、その支えが、いつの間にか本物になり、はるかはプロの女優になる。

 そして、坂東はるかは、その自分自身のノンフィクションの主役。

 これだけでもすごいのに、寝ようと思って布団に潜り込むと、由香里の枕許の台本に気が付いた。
 由香里は、AKRのメンバーだけど、映画どころかドラマにも出たことがない。台本の出番もけして多くはない。でも、台本は何度も読み返した形跡があり、自分の出番以外も書き込みで一杯だった。
 リビングに持っていって改めて見ると、懐かしい由香里の涙のシミが、あちこちに着いていた。由香里は、小さな頃からよく泣く子で、俺……あたしは、面白半分で怪談なんかしてやった。あたしが飽きると、自分で本を読んでは泣いていた。
 台本のシミは、そういうのではない涙のシミも混じっていた。

 可愛い寝顔の由香里が、とても偉く見えた……。

 あたしは、もう「俺」を止めようと思った。由香里が撮影に出かけたあと、あたしは着崩した制服をキチンとしてみた。本の中にあった「役者はナリからやのう」。コワモテのカオルから普通の薫に戻ろうと思った。

 いつもより二本早い電車に乗った。

 で、学校の校門に入る頃には、いつものカオルにもどってしまった。
 
 クラスに安西美優という気の弱い子がいる。美優は、朝早くやってくる。柄の悪い生徒達といっしょにならないために。
 廊下を歩く気配で分かるんだろう、あたしが教室に入るとギクっとして身を縮めた。
 お早う……喉まで出かけた挨拶が引っ込んでしまった……。

「一ノ瀬由香里って、カオルの従妹なんだってな!?」

 あたしが、一番シカトしてる翔太がデリカシーのない声で話しかけてきた。
「ただの従妹ってだけだ」
「夜なんか、いっしょに風呂入って、オネンネしてんだろ。カオルがなにもしねえってことねえよな?」

 ……!!!

 気が付くと、翔太が鼻血を出して吹っ飛んでいた。
「もう俺に口聞くな、ぶっ殺すぞ!」

 金輪際、それで縁を切ったつもりでいたけど、放課後とんでもない巻き添えをくってしまった。
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・25「お帰りなさいませ、ご主人様!」

2020-01-30 06:43:54 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)25
「お帰りなさいませ、ご主人様!」                   


 
――お帰りなさいませ、ご主人様!――

 画面の下に台詞が出て、甘ロリのメイドさんが、画面いっぱいの笑顔で出迎えてくれている。
 
「か、かわいい……」
 須磨の声がうわずった。
「……なんだか、いけない可愛さのように思えます……」
 そう言いながら、千歳も画面に釘付けになってしまっている。
「イヤホン外してみようか……」
 須磨は、ノーパソに繋がれていたイヤホンのケーブルを外した。

――メディアが外されました オーラルモードになります――

 画面の上にテロップが現れ、メイドさんが嬉しそうに手を叩いて喜んでいる。
『嬉しい、ご主人様! オーラルモードでやってくださるんですね!』
「「かっわいいいいいいいいいいいいいいい!!」」
 須磨と千歳の声が重なった。
『ご主人様ぁ、お食事になさいますか? お風呂になさいますか? そ・れ・と・もぉ……』
 メイドさんは、ポッと頬を染め、顎の下で指を絡ませた。
「そ・れ・と・もぉ……って、なんなのでしょう?」
「そ、そりゃ、このシュチエーションなら……」
『シュチエーションならぁ…………?』
 メイドさんの顔がアップになり(つまり近づいてきた)潤んだ声で迫って来た。
 須磨は、思わず「H」のキーを押した。
『あ~ん、オーラルモードですよ、ご主人様。声に出しておっしゃってくださいませぇ♪』
「え、え、え、声で……だそーですよ! 先輩」
「まかしといて……Hがしたいなあ!」

 すると、サロン風だった画面は冷凍庫の中のように凍てつき、メイドさんの顔から笑顔が消えた。

「そ、その声、ご主人様じゃない! で、出て行ってえええええええええええええ!!!」

 顔中を口にしてメイドさんが叫ぶと、ショックのエフェクトになり、ビューンとサロンが遠ざかり、
 ガチャピーン!!
 鉄の扉が閉まって、ゲームオーバーになってしまった。

 ガチャガチャガチャ!

 立て付けの悪い最後のドアが開いた。
「ここが一番ひどいんや!」
 漫研部長が開いたドアの中は、肉眼でも分かるほどに害虫が蠢いていた。
 ダニやシラミは普通見えないが、まるでコショウかなにかをぶちまけたようなものがゴニョゴニョしている。小さな雲みたく、部屋の隅では蚊柱が立ち、ゴキブリさえも羽を伸ばして飛び回っていた。
「演劇部がバルサンたいたから、演劇部はきれいになったやろけど、他の部室に害虫が集まりまっきてしもてんねんぞ!」
「ど、どないしてくれんねん!!!」

 部室棟の部長・マネージャーたちが、いっせいに啓介につめよった。

「か、かんにん!!」

 啓介は無条件降伏するように両手を上げた。そして、廊下の片隅でほくそ笑んでいる人影があった……。 
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不思議の国のアリス・17『天六界隈探索記』

2020-01-30 06:35:42 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・16
『天六界隈探索記』
      


 アリスは下見をすることにした。

 千代子のオバアチャンから、天満天神繁盛亭のチケをもらったんだけど、今月いっぱい有効。
 演目を見ると、明後日に「七度狐」と「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」という大ネタをやることを知り、とりあえず下見をしようと思い立った。
 正確には、繁盛亭の近辺を検索してみると、いろいろおもしろいモノがあり、二度に分けないと、繁盛亭の落語観賞とは両立しないと分かったからだ。

 地下鉄の天六(天神橋筋六丁目)で降りた。
 
「ウワー、千代子、見てみい。めっちゃくちゃ長い商店街!」
 ちなみにアリスは「めちゃ」という副詞は使わない。大阪に来て「めちゃ」を知るが、どうも気合いが入らないのでTANAKAさんのオバアチャンに習ったとおり「めちゃくちゃ」。感動のはなはだしい場合は「めちゃ」を促音化させ「めっちゃくちゃ」という。
「この天神橋筋商店街は、日本でイッチャン長い商店街やねんで!」
「どのくらいあるのん?」
「2・6キロ。1・8マイルっちゅうとこやな。世界でも、こんな長いバザールはそんなに無いで。千代子パパの黒門市場よりも長い……」
 千代子は、悪い予感がした。
「で……」
「歩く!」

 予感は的中した。

「ちょっと、商店街こっちやし!」
 交差点の方に行ったアリスに叫んだ。気づくと、アリスはお巡りさんに何か聞いていた。
「ポリさんに、何聞いてたん?」
「うん『天六ゴーストップ事件』と『天六ガス爆発事件』のこと聞いてたんやけど、あのポリさん、何にも知らんかった」
「なに、その二つの事件?」
「昭和8年(1933年)にな、ここの横断歩道で、ポリさんと兵隊さんが、信号守れ、守らへんでケンカになってな。それが陸軍と内務省のケンカになって、天皇陛下が『いつまで、しょうもないことやってんねん』言わはって、やっと決着した事件」
「アリス、よう知ってんねんなあ。感心するわ」
「TANAKAさんのオバアチャン、ここで見てたんやて」
「え、あのシカゴの!?」
「はいな。歴史の生き証人。そやけど、大阪でポリさんやってんねんやったら、それぐらい知っとかなあかんわ」
「声大きい、聞こえるで。で、ガス爆発は?」
「昭和45年(1970年)に、この下で地下鉄工事やってて、ガス漏れしてなあ、直しに来たガス会社の車のセルモーターの火花に引火してしもて、七十人以上人が死んだ、日本最大級のガス爆発事故や。ほんでからに……」
「ま、とりあえず歩こか」
 アリスのウンチクが長くなりそうなので、千代子は、アリスをうながした。
「しかし、食べ物屋さん多いなあ……」
「どこかで、お昼にしよか」
「店は、もう検索して決めたある」
 さすがはアリスである。
 あれこれ見ているうちに繁盛亭の場所も分かり、その前を横切って、天神さんにお参りした。
「アリス、なんのお願いしたん?」
「アホやな。天神さん言うたら学問の神さんやで、勉強のことに決まってるやろ」
「えらいなあ。こんなとこまで来て、勉強のことか!?」
「勉強がんばったら、また日本に来られるやんか」
「……あ、そやな。アリス、もうちょっとで、シカゴ帰らなあかんねんもんなあ」
「今度来たら、天神祭のギャル御輿かつぎたいなあ……」
「あんた、どこまで詳しいんや!」
 
 お守りを買って、商店街に戻った二人は、南森町に着いた。
 
「粉モンは飽きたよって、今日はちょっとイタリアンで……」
 そういうと、アリスはMS銀行の横を曲がり、「志忠屋」という小さな店に入った。
「二人、テーブルよろしい?」
 ブロンドのアリスが、流ちょうな大阪弁で聞くので、バイトのオネエチャン(?)が少し驚いたような顔になった。
「ここ、シチューがメインみたいやけど、パスタがイケてんねんで」
「ほな……」
 それぞれ違うパスタをオーダーし、食べっこをすることにした。オーダーするとマスターの姿に気が付いた。
「マスター、ロバート・ミッチャムに似てますねえ」
「中年以降のポッチャリしたころのね……お若いのに、古い映画スター知ってはりますね」
「この子、変なアメリカ人ですねん」
 千代子が前置きをする。
「わたい、変な日本人ですねん」
 マスターが絶妙な呼吸で返してきた。
「ところで……」
 アリスは、ダメモトで、さっきの話題などを投げかけてみた。驚いたことに、マスターは全ての質問に的確な答えをしてくれた。あげくに民主党(念のためアメリカの)の悪口になると、このミッチャムのオッサンはひどく詳しかった。ニューディールの失敗、リメンバーパールハーバーから原爆投下、ベトナム戦争、オバマのTPPにいたるまでの民主党には手厳しく、これは共和党ファンかと思うと、そちらも手厳しく、小林イッサとは違う意味で、したたかな日本人に出会った気がした。
「あ、この壁のサインすごい!」
 二人の話について行けない千代子は、店の壁に書かれたアーティストたちのサインに驚いた。
「ウチ、知ってる人もいてるなあ」
 アリスの芸能関係の知識は狭いが、そのアリスでも知っているものもあった。元ちさと、BOOM、プリプリにリンドバーグ、ミスチル……千代子は、侮れないなあと、いつの間にかカウンターに移動して口角泡を飛ばしている日米のケッタイな二人を見つめた。
「あ……」
 テーブルにドリンクを取りに行ったアリスが、出窓に並べられた本の一冊を見つけて声をあげた。
「これ、アマゾンで、えらいプレミアム付いてる本ですやんか!?」
「ああ、大橋の本か……」

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の初版本である。

「これ、競り落としはったんですか!?」
「いや、大橋は、古い連れやさかいに」
 アリスの頭には、アマゾンで最高53000円のプレミア価格が点滅した。
「ヘヘ、持って帰ったらあかんで」
 マスターのフライングした言葉に、苦笑いのアリス。
「あさって、もっかい来るさかい、借りたらあきません?」
 という線で手を打った。

 千代子の家に帰ると、ちょうど隣りのオバチャンが回覧板を持ってくるところだった。

――24日、不発弾処理のため、緊急避難予告――

 びっくりするような文字が飛び込んできた……。
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