大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・118『みんなでアルバイト・5』

2020-01-04 14:16:33 | 小説

魔法少女マヂカ・118  

『みんなでアルバイト・5』語り手:清美 

 

 

 正直ビビった。

 メイド喫茶どころか、めったにアキバに来ることもないわたしには務まらないと思った。

 

 いくらヘッチャラパンツとかスパッツとかかぼちゃパンツとかいう物を穿いていても、パニエでフワフワになっていても、スカートの中が見えるようなメイド服を着るなんて考えられないことだ。

 お客さんの視線を感じるだけで裸を見られているような気になって慄いてしまう。お帰りなさいませご主人様なんて、ぜったい言えない。

 そんなわたしがサムといっしょに派遣されたのはメイド喫茶ライブラリ。

 名前の通り図書館をコンセプトに作られたお店で、ビルの所有者が半ば趣味で、自社ビル一階のフロアー半分をお店にしている。お店はレンガの外装で、アプローチにはイギリスから取り寄せた鉄の門扉が収まっていて、脇に立っているのは本物のガス灯だ。これで、朝もやとか立ちこめたら、このまんまロンドンの街角になりそう。

「これが、本当のメイド衣装なのよ」

 ロッテンマイヤーさんみたいなチーフさんが見せてくれたのは、真っ黒で、スカート丈がくるぶしまであるロングワンピ。足さばきに不自由しない程度の脹らみはあるんだけど、パニエは付いていない。

「いちおうドロワーズは穿いてちょうだい」

 なんだろうと思ったら、膝まであるフワフワの半ズボンみたいなの。これなら視線を気にすることも無いだろう。

 よかった。

 エプロンもフリフリのドレスエプロンとかではなくて、ただ胸当てが付いているだけの白いエプロン。頭はドアノブカバーの親分みたいな白いメイドキャップ。

 お客さんへの声かけも「お帰りなさいませ」「いってらっしゃいませ」だけで、ご主人様とかお嬢様とかは付けない。これも嬉しい。

 お客さんは静かな雰囲気の中で、ゆっくり過ごしたいという人がほとんど。オーダーを取りに行くのも給仕をするのも「失礼します」「どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」という感じ、それも密やかな声で。ほんとにわたし向き。

 お店のBGは静かなクラシック。クラシックには疎いけど『威風堂々』や『展覧会の絵』とかは聞き憶えがって落ち着く。

 そうなんだ。お店のコンセプトは「ゆっくりと読書でもなさってください」になっていて、年配の方や地味目のオタクさんからの根強い人気があるらしい。

 サムは、どうしているかというと。むかし流行った『ローゼンメイデン』みたいな衣装を着て、フロアーセンターのテーブルで本を読んでいる。もともと外人さんの顔つきなので、ほんのりとライトが当たると、とっても雰囲気。サムの姿は外からもうかがえて、彼女の姿がお店の空気を支配するという仕掛けになっている。サムの前任者はロシアの女の子だったんだけど、国に帰ってしまったのでピンチヒッターなんだ。

 年末年始の四日間を務めたところで「清美さんもやってみて」とオーナーに言われてコスが変わった。

「わ、わたしなんか、とんでも!」

 両手をワイパーのように振る。わたしのローゼンメイデンなんてハローウィンのコスプレよりも醜悪だ!
 
 ところが、チーフさんが勧めてくれたのは、ローゼンメイデンでも水銀灯でもなかった。

 矢絣の着物に海老茶の袴、頭は、ストレートの髪に茜のリボン。それでもって、サムといっしょのテーブルで本を読む。

「清美のひいひいお婆さんは、こういうコスだったかもしれないわよ」
 
「そっかなあ……」

 サムにのせられて着てみると、そんな気がしてきた。

 でも、やってみて分かった。

 何時間も同じ姿勢で本を読んでいるって、結構きつい。

 姿勢を崩すわけにもいかなかったんだけど、二日目の今日、とうとう居眠りしてしまった。

「居ねむってる清美って、とてもキュートだったわよ」

『ねこのて』が早くひけたノンコが窓越しに写真を撮ってくれていた。

 写真はスマホのマチウケにした。だって、本人が見ても藤本清美には見えなかったから。

 自分の写真が素敵だと思えたのは生まれて初めてだったよ。

 

 

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となりの宇宙人・19『バカ話に興味を失って』

2020-01-04 07:42:36 | 小説4
となりの宇宙人・19
『バカ話に興味を失って』           

 



 その瞬間までバカな話をしていた。

 杉之森駅を出た電車は45秒後に急カーブを曲がる。杉之森駅って、あたしたちの学校の最寄り駅。今までは単に「駅」としか言ってなかったけど、ここまであたしに付き合ってくれたあなたには、もうきちんと言っておいてもいいと思うの。

 カーブを曲がりきったところで、ちょっと衝撃がある。

 多分曲線のレールから直線のレールに替わるときの衝撃。
 ガクンときて、車内の人間が一瞬ぶれる。わが杉之森の生徒は慣れているので無意識に、この衝撃をいなす。
 ま、こないだのヨッコみたくボンヤリしているときは、よろめいて窓ガラスに壁ドンということにもなる。
 つまり、壁ドン=ボンヤリなので「どうしたのよ?」なんて聞かれ、場合によっては噂のタネになる。
 ヨッコが聖也のことが好きで、好きなくせに一対一で付き合うことには踏み切れず、イジイジしたあげくに壁ドンをやったのは憶えてんじゃないかな?

 こんどは聖也。

 風が吹いたら桶屋が儲かるって話をしてたら、どんな繋がりで桶屋が儲かるのか……あたしもヨッコも聖也も正確には知らない。
 で、あーでもないこーでもないと学校出てから三人で盛り上がってたわけ。
 そんなのスマホで調べりゃ一発で分かるんだけど、そこがバカ話。盛り上がることが大事なの。
 電車の中で、乗り合わせた紗耶香も加わって「風が吹いたら、砂が舞って目に入り、中には目が見えなくなる人もでてくる」というとこまで一致。
 紗耶香が「それで三味線が売れまくるのよ」と言ったところでヨッコがひっかかった。
「え、なんで三味線?」
「え……それは……」
 紗耶香の困った顔がおもしろく、電車の騒音に紛れて爆笑した。聖也もいっしょに笑っていたんだ。

 で、カーブで衝撃。

 聖也が、コマが飛んだ映像のようになった。
 衝撃のせいなんかじゃない。1秒で24コマの映像から1コマ抜けたよう違和感。
 なんで、そんな些細なことが分かるのか?
 それは……聖也がすぐ横にいたから。え……特別な関係だから?
 それは無いわよ。
 聖也は、ただ隣に住んでる宇宙人で、あたしがヤツに必要な宇宙エネルギーを受信して変換注入してやってるだけ。
 十分特別な関係? ちがうの、だからあ……ほら、話が逸れちゃうじゃん!

 衝撃のあと、聖也はバカ話に興味を失って、なんだか思い詰めた顔になった。

 気になった。

 でも、なんだか触れちゃいけない気がして、女三人で盛り上がって街中駅(あたしたちの街の駅)に着いた。
「だからあ、三味線が売れると猫が減っちゃうのよさ!」
 バカ話は「三味線が売れると猫が減る」よいうところまで進んでいた。このときには、聖也も元のテンションにもどって、話に加わっていた。

 信号に差しかかってきたところでスマホが鳴った。

――愛華、今夜おでんなんだけど、チクワブ買ってきて。お母さん買い忘れちゃった――
「もー、しかたないなあ。ごめん、お母さんから頼まれもの。スーパー寄って帰るから、ここで」
 
 あたしは、反対の信号が青なので、いそいで渡って、大通り裏のスーパーを目指した……。

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Regenerate(再生)・31≪第一次総力戦・2≫

2020-01-04 07:05:03 | 小説・2
Regenerate(再生)・31
≪第一次総力戦・2≫  



 
「これやわ!」「この歌だす!」

 沙織とドロシーの声が揃った。
 何事かと思った教授と詩織は、CPUの前に座り、解析を続けた。

 その結果、詩織は年の瀬で賑わうNHKホールの廊下をメイク係に擬態してAKRの楽屋に向かっている。
「やっぱ、若いから、クララさんの髪、いつも元気ですね」
「ハハ、良く食べて良く寝てるから」
「良く仕事をして、AKRの大所帯をよくまとめて……」
「自転車操業ってやつです」
「だから、フットワークもいいと」

 手馴れた手つきでクララのメイクをしながら、クララの情報をラボに送った。

――100%大石クララだす――
――じゃあ……本物?――
――本物すぎるんだす――

 リハーサルになって、その意味が分かった。

 人間と言うものは、絶えず新陳代謝を繰り返し、三か月もすれば全身の細胞が入れ替わると言われている。新しい細胞は、微妙に前のものとは違う。それが成長であり老化であるわけだ。
 それが、大石クララは三か月前のそれとまるで変わっていないのだ。そのくせ、歌い方が微妙に違う。ドロシーと沙織は暗号の可能性を感じた。具体的な内容までは分からない。でも、総選挙前には……AKRのそれではなく、衆参同時選挙の前には歌うたびに異なり、それがベラスコのスリーパーへの指令と思われた。

 巧妙であると言わざるを得なかった。
 
 携帯の基地局からダミーのノイズを流し、詩織たちに無駄な働きをさせ、その間にAKRを乗っ取り、歌の中に暗号を仕掛けた。AKRなどのアイドルグループは、ヒットするに従って、歌い方も変化していく。それが当たり前だから見抜けなかった。しかし、ドロシーと沙織はオーバーヒートすることによって、ベラスコのアンドロイド並の受信能力に落ちて初めて気づいた。

「今夜の紅白では、とんでもない指令が飛ばされる」
 
 教授は、そう睨んだ。そして、最終確認と攻撃準備のために詩織を送り込んだ。

「本番中でもかまわない。クララに擬態したアンドロイドを消滅させろ!」
「やれやれ」と思ったが、人知れずクララを消すためには、一人の方がやりやすい。分かってはいるのだがため息が出る。
 そして、紅白歌合戦は、いよいよAKR47の出番になった。

 スモークが焚かれ、レーザーが交差するうちに舞台のセンターとカミシモから、47人のメンバーが湧き出した。イントロに入った時、その数は48人になっていた。

 なんと大石クララが二人いる……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・86『時間厳守!』

2020-01-04 06:56:02 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・86   
『時間厳守!』  


 
「じゃ、発車します」

 と「自衛隊」のおじさんが言うまでの五分間の間にマリ先生は秘密のほとんどを話してくれた。
 マリ先生は木崎産業の社長のお嬢さん。で、会長のお孫さん。でもって、先生自体は会社を継ぐ気などサラサラなくって、好きなように生きてるってこと。
 残りは、動き出したトラックの荷台の向かい合わせになった席で聞かされた。
 正直驚いた。でも、これも先生なりのピリオドの打ち方だと理解した。これも乃木坂さんの影響かなあ……と、心の中でくり返してみた。

「え、これ自衛隊のトラックじゃないんですか!?」
「オレも驚いたよ」
 と、峰岸先輩も言った。これがスットボケであると分かるのは、この長い物語が終わってからのこと。この時は、地下鉄の駅を降りたら、このトラックに出くわし乗せてもらったという説明になっていた。
 運転してんのは、先生のお祖父さまの運転手さんで、西田さんといい、元は本物の自衛官。で、トラックはその西田さんが趣味で持ってる自家用車。「女性自衛官」の人は、西田さんのお孫さんで、わたしたちの先輩にあたること。むろん本物の自衛官ではなく、西田さんの趣味につき合って、わたしたちをA駐屯地まで送ったあと、空になったトラックを運転して帰る……ってことは?

「……で、先生達もいっしょなんですか!?」

「元陸曹長、西田敏夫。体験入隊者、自分を含め七名を引率してまいりました。なお六五式作業服を着用しております者は、自分の孫で、五六式輸送車の後送要員であります」
 書類を見せられた門衛の隊員さんは、二昔前の自衛隊のトラックに目を白黒させていたけど、駐車場を教えてくれて、あっさり通してくれた。むろんこの人数以外にもう一人便乗者がいることは、わたし以外知らないことだった。

 トラックを降りると、ちょっとしたグラウンドに集められた。
 わたし達の他に、どこかの企業の十人ばかりの若いグループが来ていた。新入社員の研修にしては少し早い。
 六人の迷彩服を着た隊員さん達が待っていてくれていた。きっと入隊式かなんかあるんだろうと思ったけど、なかなか始まらない。企業グル-プの二人が遅れて走ってきた。トイレにでも行っていたのだろうか。
 六人の迷彩服が気を付けをして、偉そうな人が朝礼台の上に上がった。
「時間厳守!」
 という言葉から始まり、励ましてんのか怒っているのか分からない訓辞のあと、それぞれ担当の教官と助教さんが自己紹介になった。助教さんが女の人だったのでビックリした。それまでは小柄な男の隊員さんだと思っていた。
 名前は大空真央さん。なんだか宝塚の女優みたいな人。

 それから、六人の迷彩服に連れられて、体験入隊専用の宿舎に連れていかれた。ちょっと田舎の小学校の校舎みたい。
「靴は、あの連中とは離して脱いで置くように。置き方は、わたしの真似をして」
 西田さんが小声で言った。
 部屋は四人部屋だ。
 女子四人と男子三人……乃木坂さんは、男部屋を指差して行ってしまった。
 大空さんが来て、荷物の置き場所を教えてくれ、すぐに奥の突き当たりの部屋に行くように言われた。
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