大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・124『アキバ裏次元の戦い・2』

2020-01-24 13:29:56 | 小説

魔法少女マヂカ・124  

 
『アキバ裏次元の戦い・2』語り手:安倍晴美 

 

 

 秋葉原東口広場のロータリーの中央には白線で区画された十五のマス目がある。

 

 一見駐車スペースに見えるが、それはアキバの緊急避難用の方形魔法陣なのだ。

 ダークメイドに乾坤一擲のスプラッシュアローを食らわせ、これが十四年ぶりの大技だったので、反動がきつく、ほとんど気絶した状態で墜落したのが、その方形魔法陣の中央だったのだ。

 ミケニャンが長ったらしい我が真名を詠んで地面への激突に間に合わなかった……のではなかった。

 ミケニャンは、我が真名を唱えることで、聖メイドクィーンであるわたしを無事に収容したのだった。

 ごめん、勘違いしていたわ。

 痛さとショックで、心の中でしか礼が癒えなかったが、通じてはいたのだろう。涙目でコクコク頷くと、今の主であるバジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世と入れ替わった。

「お気づきですか、大御所様」

「おお、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三……イタ、舌噛んだ」

「重子でけっこうです。大御所様の前では、いつまでもメイド志望の女子中学生です」

「そうか、懐かしいなあシゲちゃん……わたしは、どうしてメイドクィーンであったころの記憶が無かったのだろう……?」

「自分で魔法をかけたからですよ。十四年前のクリスマス、ダークメイドを封印に成功して、おっしゃいました『これからは重子たちの時代だ』と。そして、アキバを去って、普通の女子大生に戻って行かれました。あの峻烈な身の処し方に感動したからこそ、今の重子とアキバがあるんです」

「そうか、そんなことが……シゲちゃんも昔の言葉遣いでいいよ」

「はい……うん」

「アキバは無事なのか?」

「うん、裏次元はかなり破壊されたけど、表に影響が出るまでには至ってないよ」

「次に攻撃されたらもたないニャ」

 ミケニャンの言う方が真理なのだろう、重子は俯くばかりだ。

 ようやく半身を起こして周囲に目を配る。

 アキバの内でも『神』や『聖』の称号を持つメイドたちが傷つき疲れ果てた姿で、わたしを取り囲んでいる。

「とにかく、晴美さんが無事でよかった……」

「でも、わたし覚醒させてまで呼んだというのは、もう、手に余るのだろう?」

「う、うん……」

「仕方がない、ダークメイドに打撃は与えたが、黄泉の国に逃がしただけだ……わたしが追撃しよう」

「ありがとう、晴美さん! 重子もいっしょに行くから!」

「わたしも!」「わたくしも!」「わたしたちも!」

 重子が身を乗り出すと、神メイドや聖メイドたちも次々に名乗りを上げる。

 十四年の隔たりはあるが、アキバのメイドスピリッツは確実に育っている。

「いいや、おまえたちは、ここで現世のアキバを守っていなさい。わたしには仲間もいる。仲間たちといっしょにダークメイドを封印してくる。吉報を待っていて欲しい」

「しかし、それでは……わたしだけでも、このバジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世を同行させてよ!」

「ちょっと気になっていたんだが」

「なに?」

「わたしが、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世。シゲちゃんが、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世だろ? 二世は誰なのだ?」

「そ、それはアキバ最大の秘密なのニャ!」

「二世なんかいないよ。三世としておけば、二世もあったみたいで、その……かっこいいから、そういうことにした」

「あ、あ、言ったニャ! ひ、秘密だからニャ!」

「ハハハ、分かった分かった」

 

 ミケニャンの慌てぶりを笑いながら、もう、頭の中ではダークメイド攻略法を組み立て始めている。どうも、わたしはメイドクィーンの自覚と共にかなりの能力を封じていたようだ。

 さて、うちの魔法少女たちの力は借りずばなるまいて……。 

 

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不思議の国のアリス・11『ミッション・恋の実弾編』

2020-01-24 06:52:45 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・11
『ミッション・恋の実弾編』
    


 目が覚めたら千代子のベッドは空だった。

――会場までの道が分からない子がいるので、お先に――

 そのときは、このメモの意味を深くは考えなかった。
 今日のヒラリ・クリキントンの講演には、急な誘いにもかかわらず、七人が参加の返事をよこしてくれた。日本の高校三年生は、この時期はヒマである。学年末テストが終わると、卒業式まで、二日ほど登校日があるだけだ。お手軽な大阪市内で、気のあったクラスメート同士、気楽に出会えて、民主党のヒラリにも会えて、ランチまで付いている。このへんの損得勘定はTANAKAさんのオバアチャンが言っていたとおりだった。
 高校生の行動範囲は狭い。大阪市内でも分からない者もいるだろう。アリスだってシカゴ市内のことを全部知っているわけではない。

 会場のPホ-ルに着くと、すでに五人が集まっていた。大杉がアリスをみつけるなりニタリと笑ったのには困ったが、まあ、ブラフの一人ではあるので、友好的に片手をあげてニッコリしておいた。
 千代子と東クンの距離が気になった。間に三人も人を置いて間を空けている。
――ああ、しんきくさい!――
 そう思ったが、これは互いに意識している証拠。まあ一歩前進と理解しておくことにした。

 事件は、会場に入るセキュリティーチェックで起こった。

 金属探知器はもちろんのこと、持ち物は全てエックス線検査である。ペットボトルやマニキュアなどのリキッドも持ち込めない。最初の大学生二人が、ペットボトルでひっかかり、後続の学生たちは、飲みきったり、捨てたりしていた。そしていよいよアリスたちのグループに順番が回ってきた。
「これは!?」
「Shit!」
 日本語と英語が一度にして、あっと言う間に東クンが拘束されてしまった。会場入り口は騒然となり、床にねじ伏せられた東クンは苦しげにうめき、千代子は空気の足りない金魚のように口をパクパクさせ、すぐに涙を溢れさせた。
 東クンのバッグは、すぐに開けられ、ラッピングした箱の中味が出された。

 その中味は、黒光りする50口径のピストルだった!

「ちょっと待て……」
 拳銃を出しかけたSPたちを静止して、ボスらしきサングラスのダークスーツが、50口径のピストルを箱から取りだした。
「これは……チョコレートに黒いアルミホイルを貼り付けたものだな」
「しかし、良くできている」
「日本人は器用だなあ……」
 そんなことを、アメリカ人のSPたちがつぶやき、東クンを確保していた日本人警官の手も緩みだした。
 その時、箱についていた手紙を読んだベテラン警官の日本人が叫んだ。
「プラスチック爆弾かもしれん!」
「グエーーーー!」
 再び、東クンはロビーの床にねじ伏せられた。
「なんて書いてあるんだ!?」
 アメリカ人のSPが、鋭く叫んだ。
「これで、目標のハートを仕留めて……だ」
「Shit!」
「shit-ass!」
 東クンは、手を後ろにねじあげられ、髪の毛を掴まれ連行されそうになった。

「待って、その手紙は、わたしが書いたんです。それはチョコレートで、わたしがあげたんです!!」

 千代子が叫ぶ、警官が千代子に詰め寄り、手を掛けようとした、その時……!
「マチナサイ!」
 伯父さんのカーネル・サンダースがやってきた。
「カーネル・サンダース」
「これは……ただのチョコレートですよ」
「しかし、チョコレート味のプラスチック爆弾かも?」
「彼女は、わたしのフレンド・チヨコ。神さまにかけて、テロなんかじゃないから!」
 アリスも真剣に伯父さんに訴えた。
「分かってるよアリス。ただ、SPの諸君に納得してもらうために、銃身を少しだけ削らせてもらうよ。科学検査してると、ヒラリの講演に間に合わないからね」

 ヒラリ・クリキントンの講演はおもしろかった。世界情勢から、先月来日していた旦那の話まで、ジョークを交えながら語ってくれた。
「では、質問のある人……」
 ヒラリはにこやかに聞いたが、誰も手を上げない。これ、日本人の不思議ってか、悪いところだとアリスは思った。充実した講演なら、それにふさわしい質問をするのが礼儀だ。気が付いたら手をあげていた。
「はい、そこの彼女……ひょっとしてアメリカ人かしら?」
「はい、アリス・バレンタインです。交換留学生で日本に。で、残念ながら共和党の支持者ですけど、かまいません?」
「もちろん、発言の条件は、ここのオーディエンスだということだけよ」
「あの、ヒラリさんが思われる高校生の……その、男女関係のあり方って、アドバイスしていただけたら。すいません。日本の友人にも分かってもらいたいんで、日本語で失礼しました」
 アリスは、大阪弁のあと、英語に訳してヒラリに伝えた。
「立派な同時通訳ね。そうね、心と体に正直であること。むろん、よく考えた上で。で、心というのは、けして欲望のことじゃないわよ。むかしダレかさんにも言ったけど」
「ありがとうございます」
「そうそう、今日ロビーで、ピストル型のバレンタインチョコで、一騒ぎあったとか。アメリカ式のセキュリティーは優秀だけど、ロマンチックやウィットが分からなくって。50口径が45口径になっちゃったそうで、ごめんなさい」
 千代子と東クンが赤くなった。
「お詫びに銃弾をあげましょう……」
 ヒラリは、ポケットから、二発の銃弾を取りだした。場内が一瞬ざわついた。
「これはね……」
 ヒラリは、薬莢を抜くと短冊にサラサラと書きだした。そう、銃弾型のボールペンである。
「さ、お二人さん。ここに来て」
 おずおずと二人が壇上に上がった。
「注意しとくわね。これ持って飛行機には乗らないこと。それから、銃弾としてはイミテーションだけど、これで書かれる言葉は実弾よ。たまには、デジタルなメールじゃなくて、アナログな実弾攻撃を」
 
 民主党も粋なことをやるもんだと、アリスは思った……。
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巷説志忠屋繁盛記・16『アイドルタイムはアイドルタイム・2』

2020-01-24 06:38:35 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・16
 
『アイドルタイムはアイドルタイム・2』    
 
 
 予定していたロケ地が使えなくなってしまったそうだ。
 
 阿倍野にあるイタ飯屋を予定していたのだが、未明の火事で焼けてしまって使えなくなってしまった。
 スタッフはともかくキャストのスケジュール変更が難しい。
 同じキャストが使えるのは三月も先で、とても間に合わない。
 いっそ台本を書き替え、部分的な撮り直しも検討されたが、二回分は撮り直さなければならず、これも却下された。
 
「あ、志忠屋に似てる!?」
 
 ADの女の子が膝を打ち、ディレクターの中川女史も気が付いた。
「レイアウトがいっしょだ! これならいけるやんか!」
 もうマスターに交渉している暇もなく、女史の一存で強行撮影とあいなったわけである。
「そやけど、完全に同じいうわけにもいかんやろ」
 機嫌悪そうにマスターは腕組みする。
「そこは台本を変えた!」
「使用料はなんぼくれんねん?」
「今日一日の予想売上分」
「しかし、今日の食材無駄にまるしなあ~」
「ランチで、たいがい使い切ったんじゃないの?」
 常連客である女史は志忠屋の冷蔵庫の中身まで知っている。
「それも見込んでランチの大盛況仕込んだんやな~」
「いや、あれはあくまでも必要な撮影やったから」
「タキさん、店の名前変わってるーー!!」
「なんじゃとお!?」
 トモちゃんの声に店のスタッフは表に出てみた。店の看板はそのままに屋号だけが『夢中屋』に替わっていた。
「ダメじゃないの、フライングしちゃあ」
「す、すみません」
 文句を言う女史だが、ディレクターも美術さんも真剣みに欠ける。
「ディレクターのくせして、下手な芝居やのう……売り上げ三日分や!」
「よし、二日分プラスアルファ!」
 
 午後の志忠屋は臨時休業することになった。
 
 あっさり折れたタキさんだったが、ワケがある。
 ロケバスの窓から覗いた女優さんが似ていたのである、あの中谷芳子に……。
 
 ※ 中谷芳子  大和川で溺れているのをタキさんが助けた年上の女の子

「ラッキー! じゃ、二日分ということで!」

 決まってしまった。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・19「どーよ!?」

2020-01-24 06:32:05 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)19
「どーよ!?」                     


 
 ガシャン!!

 部室明け渡しを宣告しに来た瀬戸内美晴を追いかけて、美晴が開けたドアに、千歳の車いすは、そのまま突っ込んだ。
 生徒会室のメンバーは、とんでもないことが起こったという顔になった。

 車いすの女の子が追ってくるのをシカトするだけではなく、閉めたドアで挟んでしまったのだ。ヘタをすれば車いすどころか、車いすに乗った千歳をクラッシュしかねない。はるか昭和の昔には校門の鉄の門扉に挟まれて死亡させた事件もあったのだ。

 生徒会顧問の松平は、最悪のことが浮かんで青い顔になった。

「あ、あんた大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりして……大丈夫ですよね小山内先輩?」
「あ……ああ、車いすは大丈夫みたいやなあ、瀬戸内先輩、あんまりちゃいます!」
「なに言ってんの、車いす押してたのは小山内君でしょ。注意義務はあなたにあるのよ」
「せ、瀬戸内……」
「先生も委縮しないでください。さ、ここまで来たんだから話だけは聞いてあげるわ。あたしたちも忙しんだから要領よく言ってちょうだい」
「言います!」
 
 グゥワラッ!!
 
 挑みかかるように千歳は車いすのタイヤハンドルを回し、勢いづいて美晴の真ん前まで来てしまった。

「……わたし、やっと居場所ができたんです。4月に入学して……ずっと居場所が無くて孤独だったの、空堀高校はバリアフリーの学校だけど、ドアもエレベーターも手すりもトイレもバリアフリーだけど、心はバリアフリーじゃないわ。どこもかもよそよそしくて、わたしが入っていけるところなんか無かった。勧誘してくれるクラブはあったけど、なんだか、どこも身障者の女の子としてしか見てくれない。どこへ行ってもお客さん扱いで、仲間にはなれないの。でも演劇部は違った、こんなあたしでも普通の子、当たり前の子として接してくれるの、くれるんです……そりゃ、少しのんびりしすぎたところはあるかもしれないけど、一年中緊張した部活っていうのもどうなんでしょ……そんな演劇部が一か月足らずで部員を3倍にしたんです。で、体の不自由なあたしでも息がつける場所なんです。お願いだから部室を取り上げないでください。潰さないでください。この通り、お願いします!」

 千歳は、車いすのまま頭を下げた。肩が震えて、膝にはポタポタと涙が落ちた。

「……か、考えてあげてもええんとちゃうかなあ……な、瀬戸内?」
「この局面だけとらえての発言はやめてください。演劇部には活動実態がありません、毎日部室でウダウダしてるだけです。部員の増員と活動の活性化は去年から言ってきています。沢村さんが入部したことや、その反響で、さらに1週間様子を見ました。そうよね小山内君?」
「もうちょっと様子を見てもらえませんか、1週間延ばされただけでは、実績はあげられへん」
「間違えないでね、わたしは実態って言ったの、実態。基礎練習をするでもなく、脚本を読むでもなく、ただウダウダしてるだけじゃないの」
「そんなことはありません。どないしたらええか考えてるし、台本かて読んでる、さっきも千歳はチェ-ホフの短編読んでたし」
「フフ、中に挟んでたのはワンピースの第9巻だったけど、小山内君のスマホは演劇とは関係ないサイトだったし。知ってるのよ、小山内君1人の時は、パソコンで……」
「ウ……………」
「特殊なゲームばっかりやってるのよね」
「特殊なゲーム?」
 顧問の松平がひっかかり、他の役員たちも(?)な顔をし、啓介は「ウ」と唸ってしまった。
「それに、もう次に入るクラブも決まってるの、ボランティア部が十分な実績を挙げながら部室が無いんで、来月には入ってもらうの。もう手続きも進んでいるわ。書類を」
 美晴は、啓介がたじろいだところでトドメを刺しに来た。
「これです、瀬戸内さん」
 書記の女の子がプリントを見せた。
「そう、公平、公正に規則を運用した結果がこれなの。理解してね」

 千歳も啓介も言葉が無かった。

「その規則が不備だったら、どーよ!?」

 そう言ってドアを開けたのは、4回目の3年生をやっている松井須磨であった。
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乃木坂学院高校演劇部物語・106『エピロ-グ』

2020-01-24 06:02:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・106   



『エピロ-グ』

「おつかれさま」

 の声が六つした。
 
 そう、たった今ハルサイの新生乃木坂学院高校演劇部の『I WANT YOU』の幕が下りたのだ。
 わたしは初めて孤独を感じることができた。現実では味わったことが無いほどの孤独を。地上げ屋の三太が最後に言う。
「なになんだよ、なぜなんだよ、ここまでの粘りは……もう、もう、知らねえからな!」
 都ばあちゃんが最後まで、土地を売らなかったのは、人とのキズナを信じたから、信じたかったから。キズナがお金で取引されることを善しとしなかったから。そこには人が人であることの尊厳をなし崩しに失わせる抗(あらが)いがたいものへの孤独な戦いがあった。

 これを教えてくれたのは水島さん。
 消えていくことで、その孤独さと崇高さを教えてくれた。
 
 そこへの道を示してくれたのは上野百合へと変身をとげたマリ先生。
 マリ先生は、乃木坂学院高校演劇部が崇高な神殿であることを知っていた。だから責任をとった。一見投げ出したようにして、タヨリナ三人組に任せたんだ。
 そして、その血脈は……たとえて言うなら、あの談話室に人知れず掲げられていた校旗のようなもの。
 だから、わたしは自分を校旗のようなものに置き換え……あの孤高な孤独が表現できたんだ。

 さあ、バラシ! 

 バラす道具はなにもない。照明も地明かりのツケッパ。
 長年のクセで、舞台に集まったけど、何もすることがない。
「乃木坂さん、幕間交流お願いします」
 フェリペの司会の子がせっついている。
 そのとき、初めて気づいた。まるでカーテンコールのような拍手が湧き上がっていることに!

 緞帳の前に六人の部員が並んだ、言わずと知れた潤香先輩(学年はいっしょだけど)里沙、夏鈴、わたし、そして、新入の一年生が二人。

 この男女二人の新入部員が来たときはビックリした。
 男の子は水島クン、女の子は池島さんというのだ。
 むろん下の名前はちがう。ってか、水島さんは下の名前は分からずじまい。
 でも、たった二人の新入部員だけど気だてのいい子たちです。

 観客席の前はオナジミさんでいっぱい。
 はるかちゃんや上野百合さん。陸上自衛隊の人たちまで居たって言えば見当がつくと思います。あ、それから忠クンもコンクールのときとおなじような感動した顔で……後で手間かかりそう。
 そうそう、部室は追い出されておりません。三月三十一日に峰岸先輩が一日だけ部員になってくれましたから。

「それでは、乃木坂学院高校演劇部の上演について幕間交流を始めたいと……」
 思います。を言う前に、競り市のように手が上がった。
 最初は自衛隊の大空さん、続いて十人ほどが手を挙げている。
 もう、みんな誉め言葉ばっか。
――誉めて、誉めて、誉めちぎって、ちぎり倒してちょうだい!
「じゃ、最後お一人様にさせていただきます」
 司会の子に、指されて立ち上がったオジサン……どこかで見たことあるなあ?
 このオジサンだけが、けなしたのよね!
「……というところに、感情のフライングがありました。台詞はちゃんと中味を聞いてリアクション。芝居は演ずるのではなく、いかに受け止めるかです。仲まどかクン」
 このオジサンは、はるかちゃんのクラブの元コーチ。
 そんでもって、あつかましくも、無遠慮にも、無頓着にも、無神経にも、無分別にも、無鉄砲にも、不作法にも、不躾にも、不細工にも、この物語の作者でありました。

 この、クソオヤジ!!

 言い忘れるとこだった。例の宝くじ、潤香先輩が三等賞の百万円!
 で、わたし達は……四等賞の十万円!
 ウフフ、作者のクソオヤジは、わたし達のはハズレにするつもりだったらしい。
 でも物語も、このあたりにくると、作者の意図しないことも起こってしまう。
 わたしたちは、これで火事でオシャカになった照明器具を買った。
 めでたし、めでたし……え、忠クンとはどうなったかって?

 それは……二人だけの、ヒ、ミ、ツ。



  『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 完
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