魔法少女マヂカ・124
秋葉原東口広場のロータリーの中央には白線で区画された十五のマス目がある。
一見駐車スペースに見えるが、それはアキバの緊急避難用の方形魔法陣なのだ。
ダークメイドに乾坤一擲のスプラッシュアローを食らわせ、これが十四年ぶりの大技だったので、反動がきつく、ほとんど気絶した状態で墜落したのが、その方形魔法陣の中央だったのだ。
ミケニャンが長ったらしい我が真名を詠んで地面への激突に間に合わなかった……のではなかった。
ミケニャンは、我が真名を唱えることで、聖メイドクィーンであるわたしを無事に収容したのだった。
ごめん、勘違いしていたわ。
痛さとショックで、心の中でしか礼が癒えなかったが、通じてはいたのだろう。涙目でコクコク頷くと、今の主であるバジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世と入れ替わった。
「お気づきですか、大御所様」
「おお、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三……イタ、舌噛んだ」
「重子でけっこうです。大御所様の前では、いつまでもメイド志望の女子中学生です」
「そうか、懐かしいなあシゲちゃん……わたしは、どうしてメイドクィーンであったころの記憶が無かったのだろう……?」
「自分で魔法をかけたからですよ。十四年前のクリスマス、ダークメイドを封印に成功して、おっしゃいました『これからは重子たちの時代だ』と。そして、アキバを去って、普通の女子大生に戻って行かれました。あの峻烈な身の処し方に感動したからこそ、今の重子とアキバがあるんです」
「そうか、そんなことが……シゲちゃんも昔の言葉遣いでいいよ」
「はい……うん」
「アキバは無事なのか?」
「うん、裏次元はかなり破壊されたけど、表に影響が出るまでには至ってないよ」
「次に攻撃されたらもたないニャ」
ミケニャンの言う方が真理なのだろう、重子は俯くばかりだ。
ようやく半身を起こして周囲に目を配る。
アキバの内でも『神』や『聖』の称号を持つメイドたちが傷つき疲れ果てた姿で、わたしを取り囲んでいる。
「とにかく、晴美さんが無事でよかった……」
「でも、わたし覚醒させてまで呼んだというのは、もう、手に余るのだろう?」
「う、うん……」
「仕方がない、ダークメイドに打撃は与えたが、黄泉の国に逃がしただけだ……わたしが追撃しよう」
「ありがとう、晴美さん! 重子もいっしょに行くから!」
「わたしも!」「わたくしも!」「わたしたちも!」
重子が身を乗り出すと、神メイドや聖メイドたちも次々に名乗りを上げる。
十四年の隔たりはあるが、アキバのメイドスピリッツは確実に育っている。
「いいや、おまえたちは、ここで現世のアキバを守っていなさい。わたしには仲間もいる。仲間たちといっしょにダークメイドを封印してくる。吉報を待っていて欲しい」
「しかし、それでは……わたしだけでも、このバジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世を同行させてよ!」
「ちょっと気になっていたんだが」
「なに?」
「わたしが、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世。シゲちゃんが、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世だろ? 二世は誰なのだ?」
「そ、それはアキバ最大の秘密なのニャ!」
「二世なんかいないよ。三世としておけば、二世もあったみたいで、その……かっこいいから、そういうことにした」
「あ、あ、言ったニャ! ひ、秘密だからニャ!」
「ハハハ、分かった分かった」
ミケニャンの慌てぶりを笑いながら、もう、頭の中ではダークメイド攻略法を組み立て始めている。どうも、わたしはメイドクィーンの自覚と共にかなりの能力を封じていたようだ。
さて、うちの魔法少女たちの力は借りずばなるまいて……。