大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・117『新型コロナウイルスとお善哉』

2020-01-26 14:13:14 | ノベル

せやさかい・117

『新型コロナウイルスとお善哉』 

 

 

 全校集会で中国発の新型コロナウィルスの話があった。

 

 校長先生の話なんて、いっつも右から左やねんけど、今日ばっかりは、みんな真剣に聞いてる。

「うがい手洗いをちゃんとしましょう。特に手洗いは有効です。みんなは手のひらを重点的に洗っていると思いますが、手の甲、指の股のとこなどをしっかり洗います。こんな風ですね……」

 校長先生は右手と左手の指の股を交差させて洗い方の見本を実演。

 マイクが手を合わせるシュッシュッいう音を拾って、ちょっと可笑しいねんけど、笑うもんは居らへんかった。みんな、ネットやテレビで見て大変なことを知ってるから。

 十三年の人生でエライこっちゃと驚いたんは、まず地震。東日本大震災は、まだ二歳やったから記憶にない。

 いちばん怖かった地震は一昨年の北部大阪地震。

 ほら、登校途中の小学生の女の子が、倒れてきたブロック塀の下敷きになった。しばらくは、ブロック塀を見ると、ギョッとしたもんやし。

「あ、そうなの?」

 頼子さんは言う。

 怖いのは地震! というとこまでは一緒やったんやけど、うちと留美ちゃんが北部大阪地震!と声が揃ったのに、頼子さんは「東日本大震災!」と言うたから。

 頼子さんは、当時四歳……そら、憶えてるわなあ。当時は東京に住んでたらしいし。

「あ、そんな年寄りみるような目で見ないでくれる(;^_^A」

 

 ミヤーーー

 

 襖の向こうでダミアの声、ネコ語で「早よ開けて~」と言っているので、留美ちゃんが開けに行く。

 ダミアの首輪にメモが挟んである。

 本堂裏の部室で部活をやってると、ときどきダミアはメッセンジャーになる。庫裏の方から怒鳴っても聞こえるんやけど、伯母ちゃんとかはメモにする。ダミアも、このお使いが好きなようで「ありがとう」とお礼を言うてモフってやると喜んでる。

―― お善哉が出来たから、食べにおいで(^▽^)/ ――

「おお、これはこれは!」

 あたし、頼子さん、留美ちゃんの順番でお茶の間に向かう。ダミアは頼子さんにモフモフされて、これまた上機嫌。

 お寺のお正月はいっぱいおモチがある。

 仏さんにお供えするのがハンパな量やないさかいにね。

 ご本尊の阿弥陀さんが一番大きいし、聖徳太子に親鸞聖人、うちの開祖や歴代住職、それに酒井家の御仏壇のお供えでも、一般家庭の倍の大きさはあるしね。そういうのんを、焼いたり善哉にしたりして、二月の最初くらいまではあるらしい。

「おお、三つも入ってるし! すみません、いっつも」

「え、五つがよかった?」

「あ、いえ、そんなあ(*ノωノ)」

 むろん、伯母ちゃんは冗談で言うてんねんけど、頼子さんはまんざらでもない顔。頼子さんは時折こういう顔を見せる。ほとんど完璧なプリンセスぶりがこういうところを見せると、うちらの頼子さんいう感じで嬉しい。

 頼子さんは大食漢というわけやないんやけど、お餅は好物なようで三つのお餅をペロリンと食べる。

 留美ちゃんは一個、あたしは二個。

 

 善哉で幸せになってるとこに詩(ことは)ちゃんが帰ってきて輪に加わる。

 

 詩ちゃんはマスクをかけて学校に行ってる。

 電車通学やし、途中で難波とか阿倍野とか通るしね。

 マスクの詩ちゃんはとびきりのベッピンさん。

 むろんマスクなしでもベッピンさんやねんけど、マスクしてると目ぇが強調されるでしょ。

 詩ちゃんの魅力は切れ長の目ぇやということを発見。なんかメーテルみたい。

 頼子さんも留美ちゃんも思ってるけど、本人の前では言わへん。言うて恥ずかしがる詩ちゃんを見てみたい気ぃもするけど、詩ちゃんは褒められるのが苦手、特にルックスについて褒められると、信じられへんけど落ち込む。理由は……またいずれ。

「おーーこれこれ、これを楽しみに返ってきましたのよ、わたくし(o^―^o)」

 マスクを外した詩ちゃんは、思いのほか大きな口を開けてお餅にかぶりつく。

「あ~おいしい」

 やっぱりいつもの詩ちゃんでした。

 

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巷説志忠屋繁盛記・18『アイドルタイムはアイドルタイム・4』

2020-01-26 06:01:07 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・18
 『アイドルタイムはアイドルタイム・4』  
 
 
 ……にしては若すぎる。
 
 トモちゃんの確信は揺らいだ。
 
 ロケの最初は、上野百合演ずる夢子が学校から直で夢中屋に帰ってくるところだ。
 地下鉄の階段を駆け上がり、交番の角を曲がって店に突撃してくる。
「ごっめーん! ホームルーム長引いちゃって!」
 言いながら上着を脱いで通学カバンといっしょに壁のフックに掛かっているエプロンと交換して、チャッチャと着替えている。
「……え、あ、それもあったんだけどね。ま、この時期の高校生っていろいろとね。今日のランチは……(ボードのランチメニューを睨む)トルコライスのボローニャ風。お父さん得意の国籍不明ランチだね……ううん、文句はないけど、お皿が増えるのがね……いえいえ、よっろこんでいたします!」
 
 店の手伝いのため早く帰って来た夢子がプータレながら手伝いをするというシーンだ。
 狭い店なので、最低人数のキャストとスタッフしか入っていない。
 
「相手役の役者さんて、お父さん役の人だけですか?」
 ロケバス横がスタッフの控え場になっていて、そこのモニターを見ながらトモちゃんが指摘する。
「狭いから別撮りすんねんやろ」
「それもあるんですけどね……」
「すんまへんな、狭うて……」
「あ、いやいや、ちょっと仕掛けがあったりしましてね(^_^;)」
 中川女史が額の汗を拭く。
 
「カットー!」
 
 カメリハとランスルーを一発で済ませると、スタッフが照明やら音声のセッティングのやり変えに動き回り、監督は百合とお父さん役の役者に身振りを交えて説明を始める。
「了解しました、じゃ、着替えますね」
 百合は、さっき挨拶に来た時とは違う真剣さで受け答え。そのクールな姿にマスターの目尻が下がる。
「孫ほど年下の女性にときめいたらあきまへんで」
 チーフが突っ込む。
「じゃかましい、ええもんはええんじゃ」
「思うだけにしといてくださいね」
「手ぇワキワキさせたら、やらしいでっせ!」
「ほぐしてるだけじゃ」
「目つきがやらしいー」
「そっちが偏見の目でみるからじゃろがー」
 志忠屋のメンバーで盛り上がっているうちに、ロケバスからお母さん役の女優さんが下りてきた。
 
「……じゃ、本番いきまーす!」
 
 さっきよりも簡単にテストもリハーサルも終わって本番になった。
「え、掃除当番とか言ってなかったっけ?」
 なるほど、お母さんの台詞は先ほどの夢子の台詞と噛みあうように発せられる。
 別撮りにしてはめ込むようだ。
 だが、いくら狭い店とは言え、夢子といっしょに撮ればいいのにと志忠屋の三人は思う。
――お母ちゃんもええけど、やっぱり夢子役の百合がええなあ――と、マスターは思う。
 
「カットー!」
 
 監督の一言で本番の緊張が緩む。とたんに役者のオーラが役のそれから役者個人のものに変わる。
「お疲れさまでしたー」
 キャスト・スタッフに声を掛けながらお母さん役が出てきた。トモちゃんは再びハッとした。
「あ、あ、貴崎先生じゃありませんか!?」
「え、あ……」
 お母さん役がビックリして立ち止まる。
「わたし、坂東はるかの母でございます!」
 え、え、えーーーーーー!
 
 その場にいたみんなが、それぞれにビックリした。
 
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オフステージ(こちら空堀高校演劇部)・21「もちろんよ!」

2020-01-26 05:52:43 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)21
「もちろんよ!」                     

 
 
 たいていの学校がクラブの存立要件を部員5人以上としている。

 でも、この「5人以上」というのは全校生徒が1300人以上いた大昔の話で、半数ほどに減ってしまった今日では厳しすぎる。
 ここに思い至り、生徒会を凹ました須磨はたいしたものだと、啓介も千歳も思った。

「……でも、これが、あの須磨先輩なの?」

 そうこぼしてしまうほど、須磨の寝姿は無防備だ。
「あ、また……」
 持ったマイクをテーブルに置いて、啓介は寝返りで落ちてしまったブレザーを、須磨の下半身にかけてやった。

 あれから演劇部の3人は、近所のカラオケにくり出して凱歌を上げた。
 所属する目的は三者三様。共通しているのは演劇などには何の関心もないこと。
 その3人の意見が一致して、初めて行動をともにしたのが、このカラオケであったのだ。
「このへんにして、もう帰ろうか」
「そうね、もう充分発散したわよね」
 ほんとうはこれからという気持ちが強かったが、もう一度須磨を起こすのは気の毒……というよりは興ざめなので制限時間を20分ほど残してカラオケを出ることにした。

「ごめんね、寝てばっかりで」

 やっと目を覚ました須磨謝ったところで、千歳の迎えがやってきた。
 
「おお、これはスゴイ!」
「なんか、サンダーバードの世界やなあ!」
 迎えに来た千歳の姉への挨拶もそこそこに、啓介と須磨は、ウェルキャブに収納される車いすに見とれてしまう。
 ウェルキャブは、さらに改良されていて。千歳が助手席に収まると、車いすは自動で車のハッチバックまで移動し、せり出したスロープを上って車内に収まった。
「それじゃ、これからも千歳のことよろしくお願いします」
 姉の留美は、深々と頭を下げて運転席に戻った。

「いい先輩たちじゃないの」

 手を振る2人にバックミラー越しに頭を下げて留美が呟いた。
「え、あ、うん。今日だってね、部室明け渡しを迫る生徒会に乗り込んで、先輩たちがんばってくれたの!」
 千歳は、数時間前の顛末を熱っぽく語った。
「ふーん、松井先輩って美人なだけじゃなくて、頭も回るし度胸もあるのね」
「うん、ダテに(高校6年……と言いかけて)その……美人やってないわよ」
「そうね、人数が多いばかりが演劇部じゃないわよ。3人いればお芝居なんて、どうにでもなる。先輩に恵まれたんだから、千歳もがんばってね」
「う、うん、もちろんよ!」

 そう答えながら、千歳は自己矛盾におちいった。

 自分は、演劇部が潰れることを前提に入部した。部活にがんばったけど、潰れてしまったんじゃしかたがない……そういうことで、一学期の終わりには空堀高校を辞めるために。

 でも、まあ、ちょっとは頑張ったというアリバイにはなったよね。そう、アリバイなんだ。

 自己矛盾は簡単に消えてしまった。

 
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不思議の国のアリス・13『アリスのミッション・ゲリラ編』

2020-01-26 05:36:52 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・13
『アリスのミッション・ゲリラ編』
    


 
 
「え…………」
 
 千代子は開いた口がふさがらなかった……で、ポッと頬が赤くなっていくのが恥ずかしかった。
 
 今日は、アリスの伯父さんのカーネル・サンダースの口利きで、大阪にある陸上自衛隊S駐屯地に来ている。
 
 ここの司令はカーネル・小林で、アリスとは『二人のカーネル』以来の付き合いでもある。
 S駐屯地には「さざれ石」がある。そう、日本の国歌にも出てくる、あの「さざれ石」である。
 その見学に、千代子と東クンを別々に呼んだのである。衛門の前でばったり出会った二人は、二人のところだけ夏の日差しが当たったように熱くなっていた。もっとも間にアリスを挟んでいるが、挟まれたアリスはモドカシイばかりで、寒かった。
 
「アリスウウウウウ!」
 千代子が、怖い顔をしてアリスを見た。
「なんか文句ある?」
「東クン来るんやったら言うてえよ!」
「あ……ボクも渡辺さんが来るとは思えへんかった」
「いややったら、ここから帰るか?」
「「いや、それは……」」
 二人が同じ表情をして、同じ言葉を言ったのがおかしかった。
「もう、あんたら、アメリカの元国務長官の前で公認のカップルになったんやさかい、もっとイチャイチャしいな!」
「こういうものは、押しつけるもんじゃないよ」
 門衛室から、いきなりいかついオッサンが……よく見るとカーネル・サンダースの伯父さんが現れた。
「おっちゃん!?」
 いきなり言語感覚が切り替えられないアリスは大阪弁で呼んでしまった。

「やあ、よくいらっしゃいました」

 司令室に案内されると、小林一佐が立ち上がった。案内してくれた隊員がキビキビと礼をして、四人のために椅子を引いてくれたり、お茶を入れてくれたり。やっぱり収まるところに収まっているとカーネル(一佐)の自然な貫禄がうかがえた。
「ヒラリ元国務長官からの感謝状を預かってきました」
「おお、わたしがゴラン高原に行っていたのをご存じだったんですな。光栄です」
「これがあるので、公用でこられたんですよ」
「いやあ、お国も粋なことをされる。君、広報の大空一曹を呼んでくれたまえ」

「大空一曹入ります」
「入れ」

 意外だった、一曹と言えば米式では一等軍曹のことで、たいがいマッチョなニイチャンが多いが。大空一曹はAKBにいてもおかしくないような、かわいい女の子であった。
「わたしは、ヒラリさんに返礼の手紙を書きますので、その間、大空一曹に案内させます。大空一曹よろしく」
「ハ、大空一曹、サンダース大佐御一行のご案内をうけたまわります!」
 見てくれとは大違いな軍人らしい返答にカーネル・サンダースは自然に軽い敬礼を、三人はギャップにオタオタしながらも、背筋を伸ばした。

「これが、岐阜県より寄贈いただきましたさざれ石です。長い年月をかけて小石の欠片の隙間を炭酸カルシウムや水酸化鉄が埋めることによって、1つの大きな岩の塊に変化したもので、学術的には「石灰質角礫岩」と申しますが、私たちの家庭も地域も国家もみんなが心を合わせれば、千代に八千代に栄えてゆくことを象徴するものにほかないとお祀りいたしております」
 大空一曹が、キビキビした説明をしてくれた。
「「amazing!(アメージング=驚くほど素敵)」」
 伯父と姪が母国語でため息をついた。
「………はい」
 日本人のカップルは、社会見学のように、お行儀はいいが、気のない返事。

「あれが、軽装甲機動車、ライトアーマーです」
 千代子と東クンが目を停めたので、大空一曹が説明をした。
「かっこええなあ……」
「うん!」
 日本人カップルの反応。
「「ああ」」
 と、アメリカの伯父と姪の気のない反応。伯父も姪もM-1など、いかつい戦車を見慣れている。軽装甲機動車など、機関銃をつけたオフロード車ぐらいにしか見えない。伯父が姪に耳打ちした……で。
「あの前で、写真撮ったらあきませんか?」
「いいですよ、どうぞ」
「千代子と東クン、そのライトアーマーの前に立ちい」
「う、うん」
 少しはにかんではいたが、小学生のように喜んでライトアーマーの前に立った。
「そのライトアーマーの通称はな、ラブ(LAV)て言うねんで、ラブ!
「え!?」
 瞬間的に赤くなった二人を、アリスはシャメった。

「あの、大空さん。さっきのさざれ石、撮ってもよろしい?」
「ああ、いいですよ。じゃ、もう一度こちらへ」
 アリスもアメリカ人である。さざれ石には、神聖なものである注連縄(しめなわ)がしてあり、気後れがしたのだ。ここは逆に伯父と姪がシャッチョコバって写真を撮った。次ぎに千代子と東クン。
 ここで、アリスは、あることを思いついた。
「ちょっと、あんたら、このマフラーの端っこ持ってみい」
「え、なんで……?」
「ええから、ええから」
 千代子と東クンは、アリスの勢いに押されて、言われるままにマフラーの端っこを握った。
「よ、お伊勢さんの夫婦岩!!
 アリスは、そう叫んで連写した。これには、さすがの大空一曹も女の子らしく声を出して吹き出した。
「なにか楽しそうですな」
 小林一佐が現れて、その場は、いっそう楽しくなった。
「オッチャンと小林さん。並んでシャメらせてもらえませんか。動画にするさかい、官姓名を名乗ってくださいね」
 二人は、心得た顔で並んで叫んだ。
「カーネル・サンダース!」
「小林イッサ!」
 半径二十メートルにいる隊員の人たちが笑った。大空一曹は、こぼれる笑いを堪えて涙をながしていた。

 すっかりリラックスした帰り道。
「やっぱり明日は二人で、お泊まりしたら」
「こらあ、アリス!」

 さざれ石の前でみんなの笑い声が木霊した。
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