大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・110『除夜の鐘』

2020-01-01 15:17:52 | ノベル

せやさかい・110

『除夜の鐘』 

 

 

 ズゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~ン

 

 内臓がプルプルと揺さぶられるような振動~~~~~~~~

 みんなで交代しながら鐘を撞く。

 うちのお寺は鐘を撞くことは無かったから、ほんまに鳴ってる鐘を体験するのは初めて。

 

 小学校五年生のころ、クラスに山本君いう太っちょがおった。

 普段は大人しいて、先生に当てられても蚊の鳴くような声しか出さへん子ぉで、それも地声が高いので女の子が喋ってるみたい。じっさい、アニメキャラの物まねが得意で、女子にせがまれては『俺妹』の黒猫やら『働く細胞』の赤血球の物まねをしてた。ソックリやねんけど、声が小さいのんで、みんなから惜しいなあと残念がられてた。

 その山本君が、音楽の歌のテストで木曽節を唄った。

 木曽のなあ~~~~なかのりさ~ん🎶 木曽の御嶽山がぁなんじゃらほい~🎶

 ビックリした!

 めっちゃ大きな声で、ビブラートいうねんやろか、声の響きがすごくって、「最後まで唄ってみ」と先生に言われ、普通一番だけで終わるのを三番まできっちり唄った、あの時の感動が蘇ってきた!

「スッゴイ、体がジンジンするよ!」

 念願叶った頼子さんも、最初の一発を撞いたところで大感動!

「深淵ですう……!」

 これは留美ちゃんの感想。

「ブ、ブラバンの演奏に使いたい~! 吹奏楽には本物の大砲使うのもあるんだよ!」

 というのは詩(コトハ)ちゃん。

「大砲を楽器に?」

「うん、序曲『1812年』というのが、大砲使うんだよ~!」

 初めての鐘撞体験で、みんないろんなイメージを喚起されてる。

 わたしは、うちのお寺の鐘も撞いてみたいなあと思うと同時に、あのブルブル感が便秘解消にええかと感じたんやけど、ちょっと変?

 

「楽しいのは、最初のうちいやでえ」

 

 テイ兄ちゃんが憎たらしいことを言う。

 せやけど当たってた。

 大晦日の深夜なんで厚着してたんやけど、各自十発撞いたころからホコホコしてきて、十五発くらいからは暑なってきて、マフラー取りいの、ジャンパー脱ぎいのになってきて、ニ十発を超えるころには手がしびれてきた。

 

 鐘撞体験をさせてくれはったんは、東近江市にある真宗のお寺。

 昔は、このお寺は十人も家族がいてたし、村の若い者もいっぱいおって、一人当たり二三発撞いたら楽にこなせたらしい。

 それが、お寺は六十五歳のごえんさん一人だけになってしもて、うちらが手伝うて、ほんまに助かったと言うてはりました。

 撞き終って庫裏に戻ると、甘酒と豚汁が用意されてて、身も心もホコホコになって。

 その後は、お寺の大きいお風呂にみんなで入る。

「毎日湧かしてたら、ガス代も水道代も大変だろうね」

 頼子さんが心配するけど、燃料は裏山からとってきた薪やし、水は裏の川から汲んできたもんやと分かって感動。

「なんか天然温泉みたい!」

 留美ちゃんが喜ぶ。

 

 そして、元旦の帰りの車中、初詣をどうしようかと相談する堺の美少女たちであったのです……。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

となりの宇宙人・16『愛華は冷え性なんだな』

2020-01-01 06:54:24 | 小説4
となりの宇宙人・16
『愛華は冷え性なんだな』          

 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 外でお弁当を食べるには、さすがに涼しすぎる。

 で、教室で食べてから、例の校舎とグランド境目のひな壇に行った。
「…………」
「…………」
 先週と違って、ヨッコもあたしも言葉が出てこなかった。
「夏のころはさ……早く秋になればって思ってたけど」
「……うん」
「……先週は、一杯だったのにね……秋の一週間は夏の一か月だね」
「あたし……」
 あとの言葉が続かなくって、ヨッコはため息を二つついた。
「なに、二つもため息ついて」
「先週は、愛華に聖也を取られたくなくって……で、聖也が『付き合おう』って言ってくれて……だのに『聖也は友だちよ』って言って……今朝は聖也と愛華がいっしょに居るのに耐えられなくって……もうハチャメチャ」
「でも……そのどれもがヨッコなんだよね、どのヨッコも好きだよ」
 ヨッコは酸っぱそうな顔になった。ヨッコは聖也が設定したバーチャルな記憶の中で聖也を好きになったり戸惑ったり……つまりは混乱している。でも、この混乱はバーチャルじゃない。ヨッコの人柄からくるリアルな混乱だ。
「愛華……」
「ヨッコ……ヨッコは愛華の大事な友だちだよ」
「愛華!」
 抱き付いてきたヨッコは温かかった、とても温かかった。

 でも、ヨッコが温かい分、あたしは冷たい女の子なんだろうか……胸がチクンと痛くなった。

「愛華は冷え性なんだな」
 聖也が実も蓋もないことを言う。
「聖也はそういうことを言っちゃいけません」
 電車がカーブで大きく曲がる、いつになくつんのめって倒れそうになる。
「わ!」
「オッと」
 聖也が半身で抱き留めてくれる。聖也の身体も温かかった。

 駅に着くとスマホが鳴った。

「う、紗耶香だ!」
 条件反射でおぞ気が走る。
「残像だ、怖いことはないさ」
「もしもし……」
――いま中学校、あした南先生来るんだって、よかったら愛華も来ればってオサソイなんだけど――
「南先生って、エジプトじゃないの?」
――日本に帰ってるの、出発が延びるんで明日までいるって。愛華たちも来るんなら先生んちでパーティーしようかって――
 とてもフレンドリーだけど、やっぱ腰が引ける。
「あ、オレ聖也」
――いっしょなんだ、お熱いわねえ――
「そんなんじゃないって。ヨッコも呼んでいいかな?――
――もう連絡した。来るって言ってたよ――
「じゃ、オレも愛華も行くから」
――そうこなくっちゃ、時間と場所はメールで送るから、じゃね――
 
 事態は、あたしの脳みその処理能力を超えて変化しつつあるようだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Regenerate(再生)・28≪詩織の帰還≫

2020-01-01 06:45:48 | 小説・2
Regenerate(再生)・28
≪詩織の帰還≫  



「おかえり、大変だったな」

 教授のねぎらいは、これだけだった。
 詩織は、ラボのデータとリンクしただけで、教授やドロシーが、どんなに心配し苦労して自分を捜してくれたかも分かったし、自分の過去を隠していた理由も分かった。この十日あまりの暴走が、それを物語っている。

「ご迷惑おかけしました」

 詩織の返事もそれだけだった。自分がサイボーグだという自覚ができて、ドロシーやラボの機器に親しみを感じ、詩織の頭脳は活発に働きだした。
「もう一万を超えていますね」
「んだす。詩織を探すことから、社会への浸透に力を入れだしたす」
 ベラスコたちは、一人暮らしの人間を抹殺しては、アンドロイドと入れ替えていた。そんなに能力の高いアンドロイドではなくスリ-パーとして潜らせているだけだが、これが一斉ほう起したら、ただでは済まない。
「分かっているとは思うが、もう一体ずつ始末できるレベルではない」
「彼らの狙いは?」
「わたしは解散総選挙だと思っている」
「選挙? アンドロイドが選挙に行くんだすか?」
「総理は、9月には内閣改造をやる。一時的に支持率は下がるだろう。秋には北朝鮮の拉致問題になんらかの進展がある。その社会的な反応の加減によっては抜き打ちの総選挙も視野に入れている。その時に、こいつらは動く。たった一万人だが、彼らが扇動すればかなりの浮動票が動く」
「その先は……?」
「政府を急進的にして、東アジアで事を起こす。極東大動乱にもっていくだろう」
「戦争ですか?」
「ああ、それによる犠牲の方が、自然な緊張感による動乱や変化によるそれよりも少ないと踏んでいる。広島や長崎に原爆を落としたことで、たくさんの人命が救われたと思う理屈といっしょだ」
「どう対応するんですか?」
「アンドロイドたちを制御しているサーバーがどこかにある。これを破壊すれば、彼らは統一的な行動がとれなくなる」
「それは、どこに?」
「分かったら苦労しねず」
 ドロシーが頬を上気させながら言った。そして、モニターのドットを真剣に見つめ、何かを導き出そうとしている。
「このランダムに見える入れ替わりに、短期的な戦術的な目的が隠れているにちげえね……」

 そのころ日東テレビでは、ものまね日本グランプリの収録が行われていた。

 収録は半ばだったが、ものまねタレントのモモタローの優勝が確定的になってきた。そんな予選の最終組に、AKR47の大石クララの物まねに激似の太知希和が現れた。ヒット曲『おもいろクローバー』を歌う希和は、ほとんど本人と区別がつかなかった。
 コンピューターによる得点も95点のソックリ度を出していた。
「いやあ、そっくり。もう気持ち悪いぐらい!」
 本物のクララが審査員席で、ため息をついた。
「クララ、一回並んでみてよ」
 審査員のクンツがクララに勧めた。

 ウワー……!

 オーディエンスからため息が漏れた。それほど似ているのである。

「うん、ほぼ完ぺき。眉と顎が微妙に違うかな。あと高音域のビブラートがちょっと、まあ、コンピューターとオレの耳しか区別はできないけどね」

 さすがはクンツ。観察力はすごかった。

――狙い通り――

 希和は、そう思ったが、おくびにも出さなかった……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乃木坂学院高校演劇部物語・83『潤香先輩回復!』

2020-01-01 06:36:15 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
 まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・83   
『潤香先輩回復!』  

 

 それまでは心に刺さったトゲのように見えていた。
 それが今日は、晴れがましい記念碑のように青空を背に立っている。

 それってのはスカイツリーのこと。潤香先輩の病室から、いつも見えてんの。
 そのスカイツリーを背景にして……ウフフ。
 ジャーン! 潤香先輩の笑顔がありました!!

 お見舞いに行く途中、駅横の宝くじ売り場の前で着メロが鳴った。
 電話は紀香さんから。
 ――たった今、潤香の意識がもどったのよ!
 普段は、明るくても、大人の落ち着きを崩すことなく話す紀香お姉さんが、まるで入試に受かった中学生みたいにはしゃいだ声で言った。
「やったー!」
「やった、やったあ!」
 三人は、はしゃぎまくり。宝くじを買おうとしていたオジサンが誤解した。
「そうか、当たったんか。ネエチャン、もう五十枚追加!」
 で、宝くじ売り場の売り上げを五十二枚伸ばして、わたしたちは病院に向かったわけ。
 え……二枚多いって? それはね、里沙の発案とオジサンの刺激でもって、わたし達で二枚買ったのだ♪

「まどか……里沙……夏鈴……ありがとね……」
 小さな声だったけど、潤香先輩はハッキリ言った。涙が出そうだった。
「ジャーン! 潤香先輩、回復祝いです。宝くじ、どっちにします!?」
「いいお祝いだ。君たちは気が利くね」
 お父さんが喜んでくださった。訳を話すと、その場にいたお母さんもマリ先生もいっしょになって大笑いになった。潤香先輩も顔だけで笑って、あっさりと右側のを取った。
「そんなに、あっさり取っていいんですか?」
 夏鈴がつまらなさそうに言った。
「このことだったんだ。あの人が最期に――右だよ、右――って言ってた。
「あの人って……」
「潤香ったら、変なのよ。意識が戻るやいなや――悪いのは、わたし。マリ先生もまどかも悪くない。無理に笑いを堪えたわたしが悪いの――って」
 紀香さんがおかしそうに言った。
「それって、靴を履こうとしたときの……」
 わたしは、乃木坂さんの言葉を思い出した。
「どうして……」
 潤香先輩が目で、そう言った。みんなも不思議な顔で、わたしを見ている。
「いや、稽古中に先輩のマネして、カッコヨク靴を履こうとしてひっくり返って、ハデに道具を倒しちゃったことがあるんで……そのときのことかなって……」
「フフ、半分当たって、半分外れてる……」
「そうなのよ――倒れる寸前に靴を履こうとして、まどかのことを思い出してね。それで笑いそうになったのを堪えようとして――こうなっちゃったって」
 紀香さんは、笑うと、少し鼻が膨らむ。そんな些細なことに気づけたのは、やっぱ、潤香先輩が良くなった余裕からなのだ。
「それがね、不思議なの。潤香ったら、クラブがあんなふうになっちゃったことや、マリ先生が学校を辞めたこともみんな知っていたのよ」
「そうそう、わたしの顔を最初に見たときも『先生、女優家業はいかがですか』って」
「潤香は、ひょっとして、意識不明の間に超能力がついたんじゃないかな……どうする母さん、テレビとか取材に来たら!?」
 お父さんが無邪気に言い。お母さんが突っこんだ。
「ちょっと不思議だけど、わたしたちが喋っていたことが、無意識のうちに潤香の頭に入ったのかもしれませんよ。そんなことが、たまにあるってお医者さんも言ってらしたもの」
「そうか、奇跡の少女の父にはなれんか」
「潤香はね、夢の中で何度も男の人が出てきて教えてくれたって……そうなのよね潤香」
 紀香さんが妹の顔を、イタズラっぽく見た。
「ほんとだってば……顔は分からないけど。乃木高の昔の制服を着ていた……」
「学校の玄関に飾ってある、旧制中学のころのやつですか?」
「……まどかも鋭いね。あそこ、昔から今までのが四種類もあるのに」
「あ……わたし、あれが一番好きだから」
 多分……それは、乃木坂さんだろうと思った。
「さあ、テレビ局も来ないなら、そろそろ行くよ。出張間に合わなくなるからな」
「いけない。まだなんの準備もしてないわよ。潤香の意識が戻ったって聞いてそのまま来ちゃったから」
「じゃ、母さん急ごう。飛行機に間に合わなくなる」
「あ、わたし、そこまで見送りに行くわ。みなさん、しばらく潤香のことよろしく」
 程よい挨拶を交わして、紀香さんとご両親は病室を出ていかれました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする