大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:008『目に見える姿で』

2020-01-21 14:30:51 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:008

『目に見える姿で』  

 

 

 目に見える姿で時間を感じたかった。ちょっとキザかなあ?

 

 カレンダーがあるんだから問題ないんだけど、目に見えるってのは、そういうことじゃない。

 カレンダーの数字では姿にはならない。

 子どものころに、去年の服を出したらツンツルテンになってて、ああ、年月だ……とか思うでしょ?

 カレンダーで感じる数字としての年月よりも、グッとくると思うんだ。

 学校が嫌で嫌でたまらなかったとき、たまたま見つけた工事現場。

 足場を組んでいたんで外壁塗装かなあと思ったんだけど、下校途中で見たら屋根瓦とか外しにかかってたんで解体と分かった。解体したら家が建つ。解体工事が進んで、新築の家が建つのを小さな楽しみにした。

 三か月たって完成した時は嬉しかった。ここまで辛抱できたんだって達成感。

 何かが作り上げられるとか、成長すると言うのは観てて楽しいよ(⌒∇⌒)

 中学時代の一番つらかった三か月が乗り越えられたのは、この工事のお蔭かもしれないと思うんだ。

 でも、そのためにわざわざ工事中の家を探しに行くのはバカだ。たまたまだからこそ値打ちがあるんだ。

 でも、たまたまなんてそうそう転がってるもんじゃない。やっぱり、少しは自分で働きかけなきゃ。

 

 そうだ、花を植えよう。

 

 自分で植えて、世話をして花が咲けば、しっかり時間を感じられるしさ、達成感もある。

 この程度の働きかけは、むしろ好ましいよね?

 うん、決めた。

 

 でも、ちょっと待て……いまは冬だぞ。

 冬に植えられる花ってあるのか?

 早くも敗北の予感。今までの人生で……て、まだ十六年にしかならないんだけど(〃´∪`〃)、何かを思いついて上手く行ったことよりも失敗したり挫折したりの方が圧倒的に多い。

 そうだ、お祖母ちゃんに相談しよう!

 きっと可愛い思いつきだと思ってくれるし、ダメになったらいっしょに悲しんでくれるだろうし、どっちに転んでも可愛い孫のアドバンテージが大きくなるに違いない。

 ちょっと打算的。けど前向きだからね、いいんだ。

「お祖母ちゃん、お花を植えたいんだけど」

 さっそく、リビングのコタツでネコの伝助と一緒に丸くなってるお祖母ちゃんに声をかける。

 えっと、伝助はお祖母ちゃんが飼ってるネコなんだけど、ちっともわたしには懐かないんで、わたしはシカトしている。

「え、お花?」

 冬に植えられる花なんてないよ、そう言われて残念がって、お祖母ちゃんに慰められることを予感してたんだけど。

「じゃ、お花の苗を買いに行こう!」

 予想に反して、軽く請け負うお祖母ちゃん。

 伝助だけ、迷惑そうに「ニャー」と鳴いてどっかに行ってしまう。

 

 意外な近さに花屋さんはあった。家の近所は知っているつもりだったけど、わたしが知っていたのはバス停から家までの道沿いだけだということを実感した。

 花を買いに行ったから花屋さんだと思っていたら、造園とかの工事も引き受けている大きなお店というか、看板をみたら堂々と株式会社を謳っている。隣りがパン屋さんんでいい匂いがしているのも好ましい。

 こことパン屋さんについては、いずれ触れることになると思う。小説じゃないから、思うと言うのは予告ではなくて予感。

 ジャノメエリカの苗を買ってもらった。

 ほかにもパンジーとかビオラとかあったんだけど、名前の『ジャノメエリカ』が気に入って決めた。なんだか『スケバン』とか『緋牡丹なんとか』って感じで、ちょっと孤高のアウトローって感じ。しない?

 お店のオジサンが「咲いたのがあるから見ていく?」と言ってくれたけど、咲くまでワクワクしていたいから断った。

 わたしはジャノメエリカの形で時間を感じていく。

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不思議の国のアリス・8『アリスのミッション・奮闘編』

2020-01-21 06:37:29 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・8
『アリスのミッション・奮闘編』    
 
 
 日本でむつかしいこと(アリスの日記より抜粋)
 
 ☆ピストルを手に入れること(だから、この大阪でも、たいがい気楽に歩いていける)
 ☆日本人の気持ちを正確に知ること(「結構です」はほぼ否定の意味。「びみょう」の意味が微妙に分かりにくい)
 ☆日本人に正確に気持ちを伝えること(なんせ、わたしの日本語は半世紀前の大阪弁。他にも理由いろいろ)
 で、二番目と三番目の問題が、アリスのミッション遂行の壁になっている。
 まず、直球であたってみた。
 
――ちよこが すきなひとてだれ?――
 
 テストの最終日、ホームル-ムの時間にメモを回した。ちなみにアリスは、漢字が、ほとんど分からないため、誤解したり、されたりしないために、文章のやりとりはひらがなを使っている。
 
「そんなん、言われへん!」
 
 あとで、あっさり千代子本人に言われてしまった。
 そこで、クラス一番の情報通と言われるマユに聞いてみた。
「うちらのクラスのソシオメトリーについて聞きたいねんけど」
「なに、そのソシオ……とか言うもんは?」
「ああ、つまり……だれが、だれと仲がええとか、気いが合うとか……ええと、こんなん」
 アリスは、クラスの人間全員の名前をざら紙に、ばらばらに書いた。
「たとえば、クラスで一番好かれてる人間を、好いてる人間から線ひくねん」
 で、サンプルに、アリスは、自分の名前から、千代子とマユに矢印を引いた。
「あ、そういうことか」
 自分に線を引いてもらって気をよくしたマユは、なんとクラス全員の名前からアリスに矢印を引いた。
「あ、国際親善してくれるのは、うれしいけど……もっと、なんちゅうか……」
「あ、ラブラブ関係!?」
 
「声大きい!」
 
 言った自分の声が大きいので、みんなの注目を集めるが「アハハ」と笑ってごまかす。
 
「……まかしなさ~い! 人に見られても分からんように、出席番号でやろか……」
 マユは、またたくうちに、暗号表のようなソシオメトリーを完成させた。
「この色の違いは?」
「ああ、青の方の矢印は淡い片思い。両矢印は淡い両思い。赤は強烈な片思いと両思い」
「この外に向こてるのは?」
「それは、クラス外の子との関係」
「この大杉クンはおかしいやろ!?」
 大杉からは、極太の方矢印がアリスに向けられていた。
「大杉クンて、ウチに一番冷たいよ。なんか無視されてるしい」
「それて、愛情の裏返し。でも言うたら、ブロンドコンプレックス。大杉は、いまだに昭和を引きずっとる」
「マユ、あんたのは、あれへんね?」
「よう見てみい」
 よく見ると、マユの出席番号の真ん中に小さな点が打ってあった」
「この点……なにい?」
「ここから矢印が、はるか空の上、宇宙に伸びていってんねん」
「ええ……?」
 アリスは、マユといっしょに天井を見上げた。
「星の王子さま~な~んてね!」
 煙に巻かれたアリスだが、千代子と東クンが太い青線で結ばれていることが意外だった。
「この太い青線は?」
「ほんまは赤で書いてもええねんけど、この二人は、互いに気持ちがありながら、絶対気持ちを伝えよらへん。で……」
「え……?」
「アリスは、なんで、こんなもん知りたがるわけ? 冷静になったら、ちょっとギ・ワ・ク」
「ああ、シカゴ帰ったらレポート書かなあかんねん。それで、日本の若者の愛情表現をテーマにしよ思て……」
「ああ、留学生いうのんも大変やなあ」
 マユは、意外にあっさりと、この苦し紛れを信じてくれた。アリスは、自分の演技力に自信も持ったが、日本人は、アメリカを簡単に信じすぎるとも思った。
 
 おっと、問題は千代子と東クンだ。アリスの奮闘は続く……。
 
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巷説志忠屋繁盛記・13『写真集・3 玉手山遊園の観覧車』

2020-01-21 06:27:11 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・13
『写真・3 玉手山遊園の観覧車』    
 
 
 
 
 あ 玉手山遊園や……
 
 写真集の巻末近くで思い出の遊園地を発見したタキさんだ。
 なぜ巻末近くかといううと、大和川からこっち、どのページを見ても黒歴史そのもの、あるいは、それに繋がる写真ばかり。
 懐かしくはあるが、いかんせん黒歴史、アイドルタイムに見ていて思わず呟いた言葉がKチーフやランチタイムから居続けの常連さんなどに聞かれてはまずいので、巻末に飛んだというしだい。
 
 玉手山遊園は、平成十年に閉じられたが、日本で二番目に古い遊園地なのだ。  
 
 八尾から近いこともあって、タキさんにはディズニーランドやUSJよりも、ある意味思い入れが深い。
 写真集に載っているのはゴンドラがわずか9個しか付いていない観覧車だ。
――吊り橋をいっしょに渡ると、いっしょに渡った異性を好きになる――
 社会の時間にN先生が脱線して『吊り橋論』の話をした。
 要は、吊り橋などを一緒に渡ってドキドキすると、脳みそが勘違いして、その異性を好きだと思ってしまうという話。
 中学生にもなると色気づいてくるので、N先生は、うまく牽制球を投げたのだ。
 タキさんは、こういう話され方をすると――なるほどなあ――と思ってしまう。
 道徳的に、かくあるべし! などと言われると反発してしまうが、N先生のように科学的かつウィットに富んだ言い方をされると「なるほど」と思ってしまう。
 
 で、その週の日曜日は子供会の遠足の日だった。
 
 もとより子供会というのは小学生のものなのだが、生まれついてのガキ大将。
 それに家の宗旨がキリスト教ということもあり、何かにつけて境界や町内の用事は進んで参加する。
 ガキ大将でもあるので、自然とその場を仕切ってしまうことが多くなる。
「玉手山遊園は目えが届かへんねん、コウちゃんなんかが来てくれると助かるねんけどなあ」
 世話係のオッチャンに言われては行かざるを得ない。
 実際のところは、子どもたちに人気のあるタキさんなので、なまじ大人が仕切るよりも楽しくなることを、みんなが知っている。
 同様に声を掛けられた中一三人といっしょに楽しく玉手山遊園に出かけたのであった。
 三つのグループに分けた子どもたちを、タキさんたち中学生はうまく遊ばせた。
 お昼はいっしょにお弁当を食べながらのビンゴ大会。人間いっしょに飯を食ってビンゴをやれば身も心も温まってくるのだ。
「これで、こいつらの絆の『き』の字くらいはできたよ、オッチャン」
「ありがとう、ありがとう、午後は好きにしてくれてええよ」
 
 三人の中学生、タキさんの他は酒屋のせがれと、もう一人は、あの百合子だ。
 
「コウちゃん、いっしょに回ろか」
 酒屋のせがれをソデにして百合子が寄って来た。
「秀(酒屋のせがれ)は?」
「子どもらと盛り上がってるから……」
 大人びた言い方で馬跳びをしている秀を一瞥した。
 なにか吹っ切ろうとしている風を感じたので、タキさんは並んで歩いた。
「秀と付き合うてんのかと思てた」
「友だちとしては……あ、すみません、シャッター押してもらえます?」
 最後まで言わずに、持っていたカメラを通りがかりのアベックに声を掛ける百合子。
「撮りますよー引っ付いてー」
「はーーい」
 アベックの照り返しだろうか、百合子はちょっぴり大胆に腕を組んできた。不覚にも胸キュンのタキさんだ。
「ありがとうございます、よかったらお二人のも撮りますけど」
「そう、じゃ、お願いしよかな」
「観覧車背景に撮ってもらえます?」
「ちょうど乗ってきたとこやねん(o^―^o)ニコ」
「ハイ、いきまーす……」
 
「わたしらも乗ろっか!」
 
 アベックにカメラを返すと、素敵な笑顔でタキさんにねだる百合子。
 ついさっきまで秀の彼女だと思っていたので、気持ちがポワポワと浮き上がってしまう。
 浮き上がったまま二人は観覧車のゴンドラに乗った。
 ジェットコースターはあちこち制覇しているタキさんだが、観覧車は生まれて初めてだ。
 狭いゴンドラの中では互いの膝が触れ合ってしまう。ゆっくりと上昇するゴンドラ、互いの息遣いさえ聞こえてきそう。
 秀とのことで封印してきた気持ちがあることをゴンドラの上昇とともに感じてくる……ドキドキと自分の心臓がうるさい……しかし、これは……きっと吊り橋効果や……せやけども……ああ、なんちゅうカイラシイ目すんねん!
 外の景色を見るふりをして、時々目線を避けるが、かちあった時の百合子の目は凶器だった。
 
 9個のゴンドラしかない観覧車は三分足らずで地上に戻ってしまった。
 
「ほんなら、あたし子どもらの相手してくるわね」
 地上に降りると、百合子はそそくさと行ってしまった。
 なじられたような気がしたが、N先生の影響だろうか――とりあえずは、これでええねん――自分に言い聞かせるタキさんだった。
 で、結局はS高校の偵察に行く百合子を玉櫛川のほとりで見かけるまで、ろくに口もきかなかった二人であった。
 
「マスター、ディナータイムでっせ!」
 
 タキさんは日常に引き戻されてしまった。
 
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・16・「あ、あの、松井先輩ですか?」

2020-01-21 06:12:48 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)16
「あ、あの、松井先輩ですか?」                    

 
 在籍確認をすればいいと分かった。

 1年以上活動実績が無い部員は、生徒会規定で正規の部員とは認められない。
 活動実績とは、日々の部活への出席が基本なのだけれど、今時毎日の出席を確認しているような部活は、ごく一部に過ぎない。
 で、運動部なら選手登録や試合。文化部ならコンクールや発表会へ名前を連ねていることが有効なのだが、それも出来ない場合は所定の用紙に、本人の署名捺印されていれば暫定的に在籍していることを確認できることになっている。

「あのー……」

 と声を掛けただけで教室中の注目を浴びてしまった。
 
 下級生が3年生の教室にやって来たのだから目立つ。それも男子が女子の車いすを押しながらなのだから、何事かと思われる。
「えと……松井先輩はいらっしゃいますか?」
「松井君、下級生の面会やで~」
 千歳の声に、いかにも学級委員という感じの女子が声を張り上げてくれた。
「え、おれに?」
 運動部の部長らしい引き締まった体の男子が顔を向けた。
 最初に声を掛けたのが千歳ということもあって、教室の注目は引き締まった松井と車いすの可愛い下級生に暖かく集中した。3年生にもなると、人のことを暖かい目で見るという反応ができるようだ。
「あ、いえ松井須磨さんのほうなんです」
 
「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」
 
 砂を噛んだように教室の空気が気まずくなった。

「あ……その松井さんやったら、タコ……あの部屋、なんていうんやったっけ?」
 学級委員風は、病原菌が入った瓶をを放り出すように背後のクラスメートたちに聞いた。
「……生徒指導分室」
「1階の突き当り。『分室』とだけ書いてあるから。ま、行ってみい」
 別人の松井が車いすの傍まで来て、指差して教えてくれた。
「どうもありがとうござい……」

 ピシャ!……お礼を言う前に教室のドアは閉められてしまった。

「……なんや、イワクありすぎいう感じやなあ、松井さんて」
 車いすを押す啓介の声は緊張してきた。
「ドンマイドンマイ、やっぱ押してもらうと車いすも快調よねえ」
 千歳はワクワクしてきているようだ。

 生徒指導分室は1階と言っても、今まで踏み込んだことのない校舎の外れだった。

「……失礼しまーす」
 3回目のノックにも反応が無かった。
「入ってみようか……」
「う、うん……」

 分室のドアはロックされておらず、ノブを回すと簡単に開いた。

「失礼し……あれ?」
 教室の1/4ほどの分室はゼミテーブルが4つ引っ付けられて島のようになっていて、その向こうに背を向けたソフアーがあったが人の気配がなかった。
「留守かなあ……」
「ね、あれ……」
 千歳が指し示したソファーの背から、わずかに足の先が出ている。
 車いすを寄せて回り込むと、ソファーに俯せで寝ている女生徒がいた。
「あ、あの、松井先輩ですか?」
「う、う~ん」
 
 寝返りを打った顔は整ってはいたが、目と口が半開きになってヨダレが糸を引いていたのだった。
 
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乃木坂学院高校演劇部物語・103『素顔のキャストとスタッフ』

2020-01-21 05:57:57 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・103   



『素顔のキャストとスタッフ』

 
 
「忠クンさ、自衛隊の体験入隊で、なんか変わった?」
「変わったってか……分かったよな」
「なにが……?」
「それは……」
「自分は、まだまだダメだ。でも、自分が希望の持てる場所はここだ……とか?」
「先回りすんなよ、言う言葉が無くなっちまうじゃないか……」

 ゆりかもめの一群が川面をなでるように飛んでいった、忠クンはそれを目で追う。ゆりかもめは、少し上流までいくと、さっと集団で舞い上がり。それにつれて忠クンの顔は上を向き、遠く彼方を見つめる目……サマになってる。
 そんな彼を、まぶしそうに見るわたし。ますますサマになる。
 すかさずレフ板の位置が変わり、カメラが切り替わる。

 ちょっと説明。

 これは、ちゃんとしたテレビの撮影なんだ。『春の足音』のね……って、別にわたしが主役になったわけじゃない。
 プロディユーサーの白羽さんのアイデアで、毎回番組の最後に『素顔のキャストとスタッフ』というコーナーがあって、二分間、毎回一人ずつ紹介していくわけ。
 やり方は基本その人の自由。この荒川の下町が舞台だから、町の紹介をしてもいいし、他のキャストやスタッフさんとのト-クもOK。順番はジャンケンで決める。そのジャンケン風景も撮って流すんだから、この業界やることにムダはありません。
 
 で、わたしが大久保流ジャンケン術で勝利し、その栄えある第一回に選ばれた。
 
 むろん、ただのエキストラなんで、あらかじめ、はるかちゃんが紹介してくれて、わたしが映っている何秒間かが流れて、このシーンになるのね。
 わたしは、無理を言って忠クンを引っぱり出した。
 忠クンの体験入隊は、忠クンの中ではまだ未整理になっている。わたしへの気持ちもね。だから、こうやをって引っぱり出してやれば、いやでも考えるだろうって、わたしの高等戦術。いちおうわたしの彼だから、しっかりしてもらいたいわけ。
 え……「いちおう」……それはね、乙女心よ乙女心。最終章まできて、のらりくらりしてるカレを持った崖っぷちのオトメゴコロ!!

 分かんない人は、第一章から読み直して。序章には忠クン出てこないから。
 でも、わたし的には序章から読んでほしいかな。
 監督も、高校生の自衛隊の体験入隊がおもしろいらしく、A駐屯地まで行って取材もしてきた。教官ドノをはじめみなさん大張り切りだったみたいだけど、流れるのは、ほんの何十秒。それも大空さんがほとんど。テレビのクルーも絵になるものは心得ていらっしゃる。
 で、ゆりかもめを見つめて、なんとかサマになった忠クンは、こう締めくくった。
「大変なことを、自然にやってのける力……そういう心になれるまで……その、軽はずみな気持ちだけでフライングしちゃいけないんだなって、そう思った」
「ほんと?」
「うん。前さえ向いていたら……今はそれでいい」
「今度、火事になったら、また助けてくれる?」
「それは、もう勘弁してくれよ」
「それって、もう助けないってこと?」
「助けるよ。目の前で、それが起こったら……そういうことも含めて、まず目の前にあることを一つずつやっていこうって。あのゆりかもめだって、最初から、あんなに自由に飛べるわけじゃないだろう」
「……だよね」
「卵からかえって、餌をもらい、羽の筋肉が発育し、親を見ながら飛ぶことを覚えていくんだ」
「そうね……そうだよね。今の忠クン、かっこいいよ」
「ああ、キザったらしい。二度と言わないからな!」  
 しきりに頭をかく忠クン。そして、程よい距離で、まぶしく、そして小さく拍手するわたしをロングにし、荒川の全景に溶け込ませて、お、し、ま、い。
 ほんとのとこ、まだまだ食い足りない。でも、忠クンとしては進歩。番宣でもあるし、「はいオーケー」の声もかかっちゃうし。
「ほんと、かっこよかったっすか!?」と、ヤツは目尻下げちゃうし……。

 オトコって、ほんとまどろっこしい! 
 
 ゆりかもめに気持ち乗っけて、それで「キザったらっしい」なんて、安物の青春ドラマ。めちゃくちゃショ-モナイって思わない!?
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