魔法少女マヂカ・122
あの頃は怖いものなしだった。
窮屈だったミッションスクール系の女子高生時代が終わって、来春に成人式を控えた二十歳になったばかりの女子大生。類まれな(当時は思った)スタイルとルックスと才覚で、将来は在京大手の女子アナまっしぐらだと自他ともに認めていた。局アナを五年も務めたあとはフリーアナを経由して美貌のジャーナリスト兼ニュース番組のキャスターとかね!
そのためには、経験と冒険よ!
いろんなバイトをやったけど、全部将来への訓練! 勉強! 投資!
それで、いちばん萌えたのが、ちが! 燃えたのが妻籠電気のメイド喫茶だ!
アキバにキャンギャルの仕事で何度か行くうち、まだ中学一年だった妻籠電気店主の娘と知り合った。そのころのことが走馬灯のように頭を巡って心を貫く。その子とのあれこれは、それだけで一ぺんのドラマになりそう。
「ソフマップとかヨドバシとかに押されて、個人営業の電気店なんて先が見えてるしさ、一人娘だからってあと継ぎたくなんかないし……」
中一ながら伸び悩んでる父と家業を呪いながらも心配していたのだ。じつに面白い女子中学生だった。
で、キミは何をやりたいのさ?
メイド喫茶がやりたい!
そう答えた時の彼女は目をキラキラ輝かせてさ、老舗だけど先細りの電気店がメイド喫茶に変身するのに手を貸すのも面白いって思ったわけさ。
それで、彼女の親父を説き伏せて、店の後ろ半分をメイド喫茶に改築。
たった一年でアキバのメイド喫茶のヒエラルキーを書き換えてやったさ。
その一年間、アキバのメイドたちから『セントメイド』の二つ名で呼ばれ、わたしのコスは『聖メイド服』として、アキバでは聖遺物として聖杯と同列に扱われたものさ。
その聖メイド服をミケニャンが、市井に隠遁した姫騎士に聖騎士の衣を捧げるようにして復活を懇請しているのだ。
「それだけでは無いのニャ、バジーナ・ミカエル・フォン・グルゼンシュタイン一世である貴女には封印された記憶があるニャ、それを呼び覚まし、いま再びアキバの為に力を貸してほしいというのがバジーナ・ミカエル・フォン・グルゼンシュタイン三世陛下の思し召しニャ。可及的速やかに着替えて王国に行くニャ!」
「ちょ、ちょっと待て、今帰って来たばかりなのだ。風呂に入って晩御飯くらい食べさせてほしいぞ」
「なにをまどろっこしいことを! では、ミケニャンが失礼するニャ!」
ニャニャニャニャニャ~~~~~~~ン!
ミケニャンがネコ語で詠唱すると、わたしは、瞬間で聖メイド服姿になってしまった!