大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:006『ジジとジージ』

2020-01-15 15:42:23 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:006

『ジジとジージ』  

 

 

 うちは日仏友好を地でいったような一族だ。

 

 ジージとお祖母ちゃんは二人とも日仏のハーフ同士。

 お父さんとお母さんはイトコ同士でクォーター。

 で、あたしはクォーター同士の間に生まれた子だからクォーターの形質を持っているはずなんだけど、1/4×1/4=1/16にはならずに1/4+1/4=1/2という感じで、外見的にはジージやお祖母ちゃんに近い。

 それに、母方の曾祖母は、フランスと言ってもドイツ国境に近いところの出身で、事実、その地方は戦争のたんびにドイツになったりフランスになったりってとこなんだけど、見てくれは、ドイツや北欧系。

 えと、まあ、家系についての話は小出しにするね。

 ジージのパソコンが使えるようになって、発見があった。

 あたしの写真を壁紙にしてるってのが最初だったよね。

 入学式の時、校門脇で撮った一枚。『入学式』の看板が後ろにあって、桜の花びらがチラホラ舞ってる、新品の制服をダボッて着て、緊張しまくりの笑顔。

 恥ずかしいので、直ぐにWindowsのデフォルトに替える。

 すると、ショートカットのアイコンがクッキリ見えるようになった。

 

 ジージは学校の先生だったので、仕事関係のファイルがチラホラ。

 

 その中に『雑記帳』というファイルがあった。

 雑記てのは落書きみたいなことだろうから、気軽にクリックしてみた。

 ザっとスクロールすると、やっぱ、仕事のアレコレらしい表題が付いている。

 どうしよう……ちょっとためらう。

 ま、ヤバイのが出たらお祖母ちゃんに言えばいいや。

 

 〔初めに〕というタイトルをクリックした……。

 

〔初めに〕

 これを読んでくれるのがジジだったら嬉しい。

 仕事や日々の生活で感じたこと、面白いと思ったことをジジに話すつもりで書いてみるよ。

 ジジに聞かせると思ったら、そうそうエゲツナイことも書かないだろうし、表現も考えると思う。

 けして嘘は書かないけど、剥き出しな表現はいけないと思う。

 我ながらいいアイデアだと思うんだけど、どうだろう。

 まあ、お茶でも飲んで、ゆっくり、少しづつ読んでくれたら嬉しいな。

 ジジへ  ジージより

 

 ジジ、お茶が入ったわよ~

 ハ~~イ!

 

 タイミングを計ったかのようにお祖母ちゃんの声。

 ゆっくり、お茶を飲んでから読むよ、ジージ。

 

 

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せやさかい・114『三人で喋ると何かが変わる』

2020-01-15 12:29:45 | ノベル

せやさかい・114

『三人で喋ると何かが変わる』 

 

 

 

 ホリエモンがヘソヘルニアってのになって救急搬送されたんだって!

 

「ほんとですか!?」

 留美ちゃんは目を輝かして身を乗り出す。

 その勢いで、コタツの上のミカンがコロコロと転がり落ちてあたしの手に収まった。

 ミカンの皮を剥きながら聞く?

「ホリエモンて?」

「「え!?」」

 頼子さんも留美ちゃんもフリーズしてしもた。

 

 そんなことも知らないのか!? というオーラがしてる。

 

「ドラえもんの後輩ネコ型ロボットだよ。ドラえもんよりも食い意地が張ってて、お正月にいろいろ食べ過ぎてヘソヘルニアになったんだよ」

 真顔で教えてくれる頼子さん。

 ドラえもんなんて、ここ最近は読んだこともないよって、最近は、そういう展開になってんのか! と感心しかけた。

「ウ、プ、プハハハ!」

 留美ちゃんが噴き出したんで、頼子さんのフェイクと察しが付く。

「もーー、嘘やったんですかあ!」

「あ、ごめんごめん、さくらがあどけないんで、ついよ、つい」

「ホリエモンっていうのはね……」

「あ、待って、自分で調べる」

 留美ちゃんを制止して、自分でノーパソを開く。

 

 ライブドアとかの代表をやってた。 ニッポン放送の株をいっぱい買った。 粉飾決算とかで刑務所に入れられてた。 民間ロケットの打ち上げに精を出してる……などなどが出てきた。

 なるほどね、やる気満々のチョイ悪オヤジ的な、でも、精力的なオッサンのイメージが湧いてきた。

「写真は出てる?」

「待ってください……」

 画像に切り替える。

「おお……!」

 写真はイメージとは違た。

 ちょっと小太りで、優しさ半分頼りになりさそう半分。隠し味的に面白そう。で、ドラえもん的なニックネームがついてるのが頷ける。

 正直、クラスの担任が、こんな感じやったらええかなあ……春日先生ごめんなさい。

「この人がヘソアレルギー?」

「ちがうよ、ヘソヘルニア」

 ヘソヘルニアについては頼子さんも詳しくないようで、いっしょに検索してなるほどと頷いた。

「スノボやってて、急にお腹が痛くなって、自分で救急車呼んだのね」

 

 今日の部活は、ホリエモンとヘソヘルニアの話題で盛り上がる。

 その間に、キンツバと釣鐘饅頭を平らげ、三人交代でダミアをモフモフ。

 まあ、文芸部いうのは、こういうクラブです。

 緩い話をしながら、知識を仕入れ、互いの友情をはぐくむ……おお、これは、生徒会に出す活動報告の文句に使えそう。

 三人でおしゃべりすると、興味が湧いてくるし、ちょっとは勉強になる感じがする。

 で、ちょっと気になることを聞いてみた。

「真理愛女学院のことは調べたんですか?」

 頼子さんは受験を決意してたけど、あんまり話題には上がってないんで振ってみた。

「ああ、詩(ことは)さんに聞いてみよう…………かとも思ったんだけどね、やっぱ、自分で見なきゃ分からないと思うのよ」

「みよう」と「かとも」の間に間が空いた。

 この間の間に、頼子さんは考えてるなあという感じがする。

「自分の目で確かめてみようと思うの、うん。うん、そうだ!」

 

 頼子さんはスマホを出すと、なんと、真理愛女学院に電話を掛け始めた!

 

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不思議の国のアリス・2『TANAKAさんのオバアチャン』

2020-01-15 06:51:30 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・2
『TANAKAさんのオバアチャン』      
 
 

「やあ、かいらしいわあ。あんた外国の人?」
「はい、うちアメリカからの交換留学生ですねん」
 
 こういうことは、日本に来てから度々ある。おもに制服を着ている時だ。
 
「大阪弁じょうずやねえ」と言われることもある。
「おおきに、うち大阪出身のオバアチャンに習ろたさかいに」
 こう答えると、日本人のクオーターと間違われることもあるので、隣のオバアチャンと言い直す。
 時には、アメチャンキャンディーをもらえることもある。隣りのTANAKAさんのオバアチャンも、よくアメチャンキャンディーをくれる。そのことをオバアチャンにメールで伝えると、
 
――オオサカジンノ、ジョウシキヤ(^0^)!――
 
 嬉しそうな返事が返ってきた。TANAKAさんのオバアチャンには。事あるごとにメールを送っている。アリスはカタカナとヒラガナしか分からないので、いつもカタカナのメールでやりとりしている。
 ウォシュレット初体験の話は、オバアチャンにすごくうけた。お葬式の霊柩車の話は残念がっていた。でも喪主である奥さんのミステリアススマイルが、日本人のオクユカシさからではなく、多額の保険金が下りるためだという千代子パパの説明は書かなかった。
 
 アリスのブロンドの髪は、当然なにも言われなかった。どころか、羨ましそうにさえ見られる。
 
 ある日、隣のクラスの女の子が、ブロンドほどではなく、上品なブラウンに染めてきて叱られるのを見て、変に思った。そりゃあ日本人のブルネット(日本人はブラックと思っているらしいが、たいていはブルネット)はいい。なんといっても顔がくっきりと引き立つ。目だってそうだ、ブロンドの眉は、光の当たり具合では無いように見えてしまう。でも、髪の色は個人の自由だと思った。オバアチャンにメールすると、
――ヤマトナデシコ ノ カミノケハ カラスノヌレバイロガ イチバンヤ!――と、返ってきた。
 そのブラウン染めのことがあった週の学年集会。あ、アリスは学年集会とかで、軍隊みたいに並ばされるのが、まだスッキリしない。
 で、学年集会での話が、スッキリしなかった。
「バイトは、かめへんけど、風俗はあかんぞ!」
 生活指導部長の先生の、この話が分からない。
 まず、生活指導そのものが分からない。一度、英語の片岡先生に聞いたことがある。
「うーん、スクールポリスみたいなもんや」
 いつも忙しそうにしている片岡先生は、一言で教えてくれた。
 それで納得したんだけど、そのスクールポリスは制服も着ておらず、授業を教えに来たので二度びっくり。
「なんで、スクールポリスのオッチャンが授業しにくるのん?」
「そやかて、先生やもん」千代子は不思議そうに答えた。
 それで、TANAKAさんのオバアチャンにメールした。
 
――ソラ クンドウヤ――
 
 クンドウは、さすがに分からなかったので、ウィキペディアで調べた。「訓導」と漢字で書いてあり、戦前にあった、生徒の躾や風紀を教える専門の先生であることが分かった。それにしてもエラソーなところは、感情的には理解できなかった。
 
 で、風俗である。
 
 アリスの日本語の理解では、風俗とは「manners and customs」または「native customs」のことであり、その土地のマナーや習慣、文化のことであり、感じとしてはマナースクール、あるいはアンティークの店のイメージだった。
「なんでやろ?」アリスは不思議だった。で、千代子に聞いたら「ねえ」ととなりのミユちゃんに目配せして教えてくれない。で、また、忙しそうにしている片岡先生に聞いた。
「そら、sex industryのこっちゃ!」
 アリスの顔は真っ赤になった。片岡先生にたどりつくまで、フウゾク!? と叫びまくっていたから。
 でも、アリスの好奇心は収まらず、動画を見たり、千代子パパに聞いたりしたが、はぐらかされたり、きわどい答えしか返ってこないので、TANAKAさんのオバアチャンにメールした。
 オバアチャンは、わざわざ電話してくれ、本にしたら一冊分ほどの話をしてくれた。
 オバアチャン自身、アメリカに移住して今の生活になる理由の一つがそれらしかった。
 アリスは、日本での研究の一つにしようと思った……。 
 
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巷説志忠屋繁盛記・7『再会……そして』

2020-01-15 06:38:41 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・7
『再会……そして』    

 

 タキさんが大あくびをした。

 店は、地下鉄谷町線一号出口から徒歩三十秒。ロケーションとしては悪くないのだが、天神橋筋を一筋入るだけで、人の流れがまるで違う。景気の悪さも手伝って、ディナータイムは客の入りが悪い。
 タキさんが、あくびのためにトトロのような口を開いて大量の空気を吸ったので、Kチーフはあやうく窒息しかけた。

「ぼーずかな、今夜は」

「…………」
「なんとか言えよ」
 酸欠から立ち直ったKチーフが携帯酸素ボンベで生き返って、やっと返事した。
「あくびとか、クシャミするときは、あらかじめ言うてくださいね」
 タキさんは、次ぎに放屁した。
「……あの、そういうときも」
 Kチーフは、換気扇を強にした。
「屁ぇは言わへんかったやんけ」
「マスターは何やってもトトロ並やさかい」
「ワハハ……もっかい、あくびするぞ」
 Kチーフが携帯酸素ボンベを構える。タキさんが大口開けて、空気を吸い込む……それに釣られたように店のドアが開いた。

「こんばんわ……」

「お、はるか。いま帰りか」
「うん、夕方には帰れるはずだったんですけど。収録のびちゃって……Kさん。それ、なあに?」
「あ、こうやって遊んでるんです。あんまりヒマやよって」
「よかった……タキさんたちには悪いけど、落ち着いて話ができそう」
「だれかと、待ちきってんのんか?」
 ホカホカのおしぼりとお冷やのグラスを出しながら、タキさんが聞いた。
「帰りの新幹線で、由香に電話したんです。あの子とも三ヵ月会ってないから」
「ああ、黒門市場の魚屋の子やなあ。いま、なにしとんのん?」
「B大学。えーと文学部」
「あんまり文学いう感じの子やないけどなあ」
「ああ、気持ちいい……」
 はるかは、ホカホカのおしぼりを広げ、顔を押さえた。
「オッサンみたいなことすんなよ。一応女優さんやねんさかい」
「オッサンてのは、こんなですよ……」
 はるかは、おしぼりをたたんで、顔やら首を拭き始めた。
「おいおい、ほんまにオッサンになるなよ。坂東はるかは、一応清純派やねんから」
「タキさんは、なんでも一応が付くのね」
「ワハハ、ワシの目えから見たら、まだまだ駆け出しやからな……チーフなにしてんのん?」
 Kチーフは、はるかが使ったおしぼりを丁寧にたたんで、ビニール袋に入れている。
「はるかちゃんが使うたおしぼり、ビンテージもんやさかい」
「あ、やめてくださいよ(;゚Д゚)。そんなの」
「そやな、そういうフェチには高う売れるかもなあ」
「もう、タキさんまで!」
「ワハハ、こないやって遊んでなら、あかんくらいおヒマ」
「あ、ぼく本気で……」
「もうKさん!」
 アイドル女優も、この志忠屋に来れば、いいオモチャである。
 そうやって盛り上がっていると、いつの間に入ってきたのか、由香が入り口に立っていた。

「ほんま、うち三回も『こんばんわ』言うたんですよ」
 由香がむくれた……ふりをした。
「ハハ、あんまり楽しそうやから、いつ気ぃつくか思て」
「ハハ、ほんと、一瞬雪女じゃないかと思った」
「ほんまや、えらい雪降ってきよった……」
 タキさんが、ブラインドを少しずらして、ため息をついた。
「とりあえず、はるかコースで。ホットジンジャエールできます?」
「あいよ、風邪ひき予防にもなるさかいなあ」

 由香は、はるかが高校時代に東京から転校してきて以来の付き合いだ。

 はるかがスカウトされて東京で女優業を始めてからは、あまり会うことができなかったが、こうして会うと、女子高生時代に戻って互いに解し合うことができる。
「で、吉川先輩とは、うまくいってんの?」
 吉川とは、高校時代の先輩で、最初ははるかに気を寄せていたが、歯車がかみ合わず、結果的には由香といい仲になり、サックスの勉強のためにアメリカに渡っている。
「うん、今は大阪に帰ってきてくれて、毎日ラブラブ!」
「おお、ヌケヌケと言ってくれるじゃん」

 そうやって、二人は危うくボウズになりかけた志忠屋の唯一の客になり、楽しい一時を過ごした。

 やがて、由香のスマホが鳴りだした。
「あ、ちょっと電話……はい、由香です」
 そう言いながら、由香はブルゾンを器用に着ながら、外に出た。
「客は自分らだけやから、気ぃつかわんでもええのにな」
「きっと、彼氏からとちゃいますか。照れくさいよってに」
「そうね、由香ってそういうとこあるから。ああ、ウラヤマだなあ」
「なに言うてけつかる。はるかが振ったオトコやないか」
「あ、ひどいなあ。それは違いますよ」

 と、しばらく由香抜きで盛り上がり、二十分ほどが過ぎた……。

「ちょっと寒いやろ、はるか、見にいってやり」
「はい……ちょっと、由香……」
 瞬間、はるかの声が途絶えた。
「はるか、どないかしたんか?」
 タキさんが店の外に出てきた。そこには、呆然と佇むはるかが居るだけだった。
「由香がいない……足跡もない……」
 積もり始めた雪の道路には、足跡もなかった。
「わたし、上のほう見てきますわ」
 Kチーフがビルの階段を、由香の名前を呼ばわりながら上がっていった。
「由香あ!」
 はるかも、思わず叫んで、表通りまで出た。交番の秋元巡査まで出てきた。
「どうかされ……あ、あなた、女優の坂東はるかさん!」
「あ、友だちが!」
 はるかが、半ば咎めるように言った。
「失礼しました……あ、この二十分ほどでしたら、自分はこの前の道を見ておりましたが、そちらの方からは誰も出てきてはおりません」
「ひょっとしたら、店に……」
 秋元巡査も付いてきてくれて、四人で店に入って驚いた。由香が座っていた前のテーブルには、由香が取り分けた料理が、ジンジャエールも、おしぼりさえ袋に入ったまま手つかずで残っていた。

「ちょっと由香に電話……」

 はるかはスマホを出し、由香に電話をかけた……なかなか出ない。あきらめかけたころ……。
「もしもし……あ、はい、はるかです。由香は……そんな……だって。はい、今から行きます」
「どないした、はるか」
「あとで電話します!」
 はるかは、それだけ言うと、表通りでタクシーを掴まえ、そのまま行ってしまった。

 それから一時間ほどして、はるかから志忠屋に電話があった。
――はるかです……由香は一週間前から急性肺炎で入院していて……いま危篤状態……。
 はるかの声は、それから嗚咽になった。
「はるか、大丈夫か!?」
――今夜は……付いていてやります。あ……はいすぐに! タキさん、またあとで。
 そこで、はるかの電話は切れた。タキさんは、ゆっくりとテーブルに目をやった。
「あ……」
 そこに、由香の姿がうっすら現れて、すっと消えてしまった。

 そのあと、由香がどうなったか……それは、またいずれ……。
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オフステージ(こちら空堀高校演劇部)・10・「「あ、あんたは!?」」

2020-01-15 06:26:52 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)10
「「あ、あんたは!?」」                     



 副題を(こちら空堀高校演劇部)としながら演劇部のことがほとんど出てこない。

 けして作者がサボっているわけではなく、その理由は、第一に、空堀高校の演劇部は広い部室のわりに活動の実態がないからである。
 第二には、この名ばかり演劇部が、生徒会より「部室の明け渡し」を迫られ、部長であり、たった一人の演劇部員である小山内啓介の悪あがきに影響される生徒たちの青春群像であるからである。

 その群像の要である啓介は、近所のコンビニに入ったところである。

「いらっしゃいませ~」
 コンビニ店員のマニュアル挨拶はシカトして冷蔵食品のコーナーを目指す。
「お、あった、あった!」
 啓介は、連休限定冷やし中華を手に取って、まっすぐレジに向かった。連休限定といっても特別なものではない。平常価格よりも50円安いのである。安いのでレジの順番待ちをしている間に、カウンターのドーナツに目が行ってしまう。
 で、ドーナツの中に新製品があった。ドーナツのくせに穴が開いていない。値段はレギュラーのドーナツと変わりがない……ということは穴が詰まっている分「お得だ!」と思ってしまい、自分の順番が回ってきたときには冷やし中華といっしょに勘定してもらうことになる。
 まんまとコンビニの策略にしてやられたわけだけれども、啓介に自覚は無い。
「いい買い物をした」
 独り言ちて、第二目標の真田山公園を目指す。

 真田山公園はグラウンドが隣接していて、そのグラウンドも公園の一部に見えて都心の公園としては広く感じられる。
 啓介は、そのグラウンドを望むベンチに腰掛けて冷やし中華を取り出した。ベンチの端は植え込みになっていて道路側からの視線を隠してくれるので、絶好の休憩スポットなのだ。
 目の前のグラウンドでは、地元の野球チームが試合の真っ最中である。
――見てるぶんには、野球はおもしろいよなあ――
 中学で肩を痛めて以来、自分でやる野球はご無沙汰だけれど、野球観戦はする。それも身銭を切って野球場に行くようなことはしない。こうやって、ジャンクフードを持ってボンヤリと草野球の空気の中にいるだけでよかった。
 8回の裏、先攻のチームが三者凡退に終わったあと、後攻のチームがツーアウトで満塁になった。

 あの時といっしょや……。

 啓介は、中三の時の自分の試合を思い出した。
 あのとき無理をせずに……という想いが無くは無かったが、その後の萎んでしまった自分の情熱を思えば、これで良かったのだと思いなおす。
 バッターが、思い切りスゥィングした。カキーンと小気味いい音がして、ボールはホームラン!

 で、フェンスを越えてボールは啓介に向かって飛んできた。だが、元野球少年の勘は、わずかに逸れると判断。判断通り、ボールは真横の植え込み、それも木の幹に当った。当たり所もよかったのだろう、バキッっと音がして植え込みの中心になっていた木が折れてしまった。

「「あ……………」」

 声が重なった。
 折れた木の向こうは、同じようなベンチがあって、ベンチには鏡で映したように同じポーズで女の子が冷やし中華を食べていた。
「「あ、あんたは!?」」
 
 クラスメートのミリーであった……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・97『発覚!』

2020-01-15 06:14:55 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・97   



『発覚!』

 
「……じつはね、僕は幽霊なんだ」

 乃木坂さんが、もったいつけて言っても二人はキョトンとしている。
「いや……だからね」
 乃木坂さんが、壁をすり抜けても。
「オオ~!」
 乃木坂さんの、奥の手で、周りを一瞬で春にしちゃっても。
「ウワア~!」
 いちおう驚くんだけども、幽霊さんに対する礼を欠いているというか、完全にミーハー。なんだか、マジックショーのノリになってしまった。
「喜んでくれるのは嬉しいけども、なんかね……」
 乃木坂さんは、頭をかいた。
「カッワイ~!」
 と、夏鈴。
「これで稽古中の、まどかの不信な言動のわけが分かった」
 と、大納得の里沙。
「そうだ、トラックから材木降ろさなきゃ。乃木坂さん手伝って!」
 わたしまで、あたりまえのように言っちゃった。

 材木運びじゃ、乃木坂さんの取り合いになった。だって乃木坂さんが見えるのは、わたしたち三人だけ。材木屋のオニイチャンも手伝ってくれるかなあと期待したんだけど、次の配達があるんで荷下ろしだけ。
 三人で運ぶと何往復もしなくちゃならない。かといって、乃木坂さんが一人で運んじゃ、材木の空中浮遊になって大騒ぎになっちゃう。 で、乃木坂さんは介添え役。で、乃木坂さんに介添えしてもらうとチョーラクチン。で、取り合いになるわけ。

 運び終わると、制服のあちこちに木くず。
「やだあ、冬休みにクリ-ニングしたとこなのに」
「じゃ、これはサービス」
 乃木坂さんが指を鳴らすと、ハラハラと木くずが落ちていく。
「わあー、きれいになった。コーヒーの染みまで落ちてる!」
 わたしは素直に喜んだんだけど、夏鈴がセコイことを言う。
「ねえ、こんなことができるんだったら、平台とかもチョイチョイと……」
「ばか、それじゃ訓練にならないでしょうが、訓練に」
「自衛隊でも習ったでしょうが、敢闘精神よ、敢闘!」
 三バカのやりとりをにこやかに聞いていた乃木坂さんは、暖かく言った。
「普通には手伝うよ。木を切ったり、釘を打ったり」
 
 それから、タヨリナ三人組と幽霊さんとの共同作業が始まった。
 
 ジャージに着替えるときに、夏鈴が聞いた。
「ひょっとして、着替えるとこなんか見てなかったでしょうね?」
「ないない、最初のは事故だったけど」
「最初のって、なによ?」
 やっぱ、花柄は見られていたんだ……もういいけどね。

 男手が入ると、作業効率が違う。ためしに三六(さぶろく)の平台一枚だけ作るつもりだったけど、一時間で三枚もできた。
 その作業の間、わたし達はしゃべりっぱなし。女を三つくっつけたら姦しい(かしましい)だもんね。って、これは乃木坂さんの感想。さすが旧制中学。
 でも、こうやってしゃべっていると、里沙や夏鈴に乃木坂さんが見えるようになったのが、理屈抜きで分かってくる。わたし達も、乃木坂さんも同世代だし、同じ演劇部。それに自衛隊の体験入隊も新学期に入ってからの稽古もずっといっしょだった。同じ空気を吸い……これひゆ比喩だからね。乃木坂さんは空気は吸いません。解説がつまらない? スイマセン。で、同じ感動を感じて、互いに近しくなってきたからなのよね。
 
 でも、これが思いもかけない結果になるとは……だれも想像できませんでした。
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